説明

新規なフルオロスピロケタール構造を有する重合体

【課題】フルオロスピロケタール構造を有する新規な重合体を提供する。
【解決手段】下記単位(A)を含む重合体、下記単位(B)を含む重合体、および下記単位(A)を含む重合体を硬化させて得た硬化物(ただし、Qは単結合またはペルフルオロ2価飽和有機基であり、X、XおよびXはそれぞれ独立に水素原子、フッ素原子または1価有機基である。)。
【化26】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフルオロスピロケタール構造を有する重合体、該重合体の製造方法、該重合体を硬化させて得た硬化物、およびその光学材料としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体の側鎖にポリフルオロアルキル基を有するスピロケタール構造を有する重合体として、式CH=CH(CH2y+1で表される化合物と一酸化炭素を重合させて得た下式(Z)で表される繰り返し単位を含む重合体が知られている(特許文献1参照。)。ただし、xは1〜5の整数であり、yは1〜10の整数である。
【0003】
【化5】

【0004】
【特許文献1】特開2002−265595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、スピロケタール環中の炭素原子に結合する水素原子がフッ素原子に置換されたフルオロスピロケタール環を有する重合体は知られていなかった。またフルオロスピロケタール環を有する重合体であって、硬化性の重合体は知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、新規なフルオロスピロケタール環を有する重合体を見いだした。さらに該重合体に硬化部位を導入して硬化させると、低屈折率で透明性に優れた高硬度な硬化物が得られることを見いだした。
すなわち、本発明は下記の発明を提供する。
【0007】
[1]:下式(A)で表される繰り返し単位を含む重合体(ただし、Qは単結合またはペルフルオロ2価飽和有機基であり、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子または1価有機基である。)。
【0008】
【化6】

【0009】
[2]:分子量が、10〜10である[1]に記載の重合体。
[3]:下式(B)で表される繰り返し単位を含む重合体(ただし、Qは単結合またはペルフルオロ2価飽和有機基である。)。
【0010】
【化7】

【0011】
[4]:分子量が、10〜10である[3]に記載の重合体。
[5]:式CH=CHRで表される化合物と一酸化炭素とを有機金属錯体の存在下で重合させて下式(E)で表される繰り返し単位を含む重合体を得て、つぎに該重合体をフッ素化することを特徴とする下式(D)で表される繰り返し単位を含む重合体の製造方法(ただし、Rはペルフルオロ1価飽和有機基であり、RはRと同一の基またはフッ素化されてRとなるポリフルオロ1価有機基である。)。
【0012】
【化8】

【0013】
[6]:下式(A)で表される繰り返し単位を含む重合体を硬化させて得た硬化物(ただし、Qは単結合またはペルフルオロ2価飽和有機基であり、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子または1価有機基である。)。
【0014】
【化9】

【0015】
[7]:[6]に記載の硬化物を有効成分とする光学材料。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光学的物性(高透明性、低屈折率性等。)と機械的物性(硬度等。)に優れた硬化物が得られる。該硬化物は光学材料の有効成分として特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書において、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記し、式(A)で表される繰り返し単位を単位(A)と記す。他の式で表される化合物および他の式で表される繰り返し単位も同様に記す。
【0018】
本発明は、下記単位(A)を含む重合体を提供する(ただし、Q、X、XおよびXは、前記と同じ意味を示す。以下同様。)。
【0019】
【化10】

【0020】
が単結合であるとは、CHOH基がCFと直接結合していることを意味する。Qがペルフルオロ2価飽和有機基である場合、該基の構造としては、直鎖構造、分岐構造、環構造、部分的に環構造を有する構造等が挙げられる。Qの炭素数は、1〜20が好ましく、1〜10が特に好ましい。
は、ペルフルオロ(エーテル性酸素原子含有アルキレン)基またはペルフルオロアルキレン基が好ましい。
、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のペルフルオロアルキル基が好ましい。Xは、水素原子またはメチル基が特に好ましい。XおよびXは、水素原子が特に好ましい。
単位(A)の具体例としては、下記単位が挙げられる。
【0021】
【化11】

【0022】
単位(A)を含む重合体の重量平均分子量は、10〜10が好ましい。
本発明の単位(A)を含む重合体は、単位(A)の1種または2種以上からなる重合体、あるいは単位(A)の1種または2種以上と後述の単位(D)の1種または2種以上からなる重合体であるのが好ましく、特に単位(A)の1種からなる重合体であるのが好ましい。
【0023】
単位(A)を含む重合体が、単位(A)のみからなる重合体である場合、該重合体中の単位(A)の並び方は、特に限定されず、たとえば下記の並び方が挙げられる。
【0024】
【化12】

【0025】
単位(A)を含む重合体は、下記単位(B)を含む重合体と式CX=CXCOYで表される化合物を縮合反応させて製造するのが好ましい(ただし、Yはハロゲン原子または水酸基であり、塩素原子または臭素原子が好ましい。以下同様。)。
【0026】
【化13】

【0027】
式CX=CXCOYで表される化合物の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
CH=CHCOCl、
CH=CHCOBr、
CH=C(CH)COCl、
CH=C(CH)COBr、
CH=CFCOCl、
CH=C(CF)COCl、
CF=CFCOCl、
CF=CHCOCl、
CHF=CFCOCl。
【0028】
縮合反応は、単位(B)を含む重合体中の該単位(B)の1単位に対して式CX=CXCOYで表される化合物の1分子以上を反応させる方法によるのが好ましい。
単位(B)を含む重合体は新規な重合体である。該重合体は、主鎖にフルオロスピロケタール構造を有し、かつ側鎖に水酸基含有基を有する特徴ある構造を有する。該重合体は、単位(A)を含む重合体の原料として有用である。単位(B)の具体例としては、下記単位が挙げられる。
【0029】
【化14】

【0030】
単位(B)を含む重合体の重量平均分子量は、10〜10が好ましい。
単位(B)を含む重合体の製造方法としては、下記単位(D−1)を含む重合体を出発物質とする方法が好ましく、下記方法1または下記方法2が例示できる(ただし、REFはペルフルオロ1価飽和有機基である。以下同様。)。単位(D−1)を含む重合体の製造方法は後述する。
【0031】
【化15】

【0032】
EFは、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基または炭素数2〜20のペルフルオロ(エーテル性酸素原子含有アルキル)基が好ましい。REFとしては、−CF(CF)O(CFF、−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFF等が挙げられる。
【0033】
方法1:単位(D−1)を含む重合体を熱分解反応させて下記単位(K−1)を含む重合体を得て、つぎに該重合体を還元反応させて単位(B)を含む重合体を製造する方法。
【0034】
【化16】

【0035】
熱分解反応は、アルカリ金属フッ化物の存在下に行うのが好ましい。アルカリ金属フッ化物は、NaF、CsFまたはKFが好ましい。
熱分解反応における反応条件は、国際公開02/79274号パンフレットに記載の反応条件が好ましい。
たとえば、反応条件において液状の単位(D−1)を含む重合体を熱分解反応させる場合には、アルカリ金属フッ化物の存在下、無溶媒下に該重合体を加熱することにより熱分解させるのが好ましい。また反応条件において固体状の単位(D−1)を含む重合体を熱分解反応させる場合には、該重合体を溶媒に溶解させて得た溶液組成物をアルカリ金属フッ化物の存在下に加熱することにより該重合体を熱分解させるのが好ましい。
【0036】
還元反応は、還元剤の存在下に行うのが好ましい。還元剤は、NaBH、LiAlHまたはLi((CHCHCHAlHが好ましい。還元剤は、単位(K−1)を含む重合体中の−QCOF基の1モルに対して、0.25〜5倍モルを用いるのが好ましい。還元反応における反応温度、反応圧力、反応時間等は、公知の方法にしたがうのが好ましい。
【0037】
方法2:単位(D−1)を含む重合体と式R−OHで表される化合物を反応させて下記単位(K−2)を含む重合体を得て、つぎに該重合体を還元反応させて単位(B)を含む重合体を製造する方法(ただし、Rは炭素数1〜3のアルキル基であり、メチル基が好ましい。以下同様。)。
【0038】
【化17】

【0039】
単位(K−2)を含む重合体と式R−OHで表される化合物の反応における反応条件は、国際公開02/79274号パンフレットに記載の反応条件が好ましい。
単位(K−2)を含む重合体の還元反応は、単位(K−1)を含む重合体の還元反応と同様に実施できる。
【0040】
単位(D−1)を含む重合体は、つぎに説明する単位(D)を含む重合体の製造方法において、Rを−QCHOC(O)REFで表される基とし、Rを式−QCFOCOREFで表わされる基として反応を行うことにより入手できる。ただし、Q、Q、REFは前記と同じ意味を示し、これらの基における飽和有機基とは、炭素−炭素結合が単結合のみからなる基であることを意味する。
単位(D)を含む重合体の製造方法とは、式CH=CH−Rfで表される化合物と一酸化炭素を有機金属錯体の存在下で重合させて下記単位(E)を含む重合体を得て、つぎに該重合体をフッ素化する下記単位(D)を含む重合体の製造方法である(ただし、RおよびRは前記と同じ意味を示す。以下同様。)。
【0041】
【化18】

【0042】
の炭素数は、1〜42が好ましく、1〜22が特に好ましい。Rは、ペルフルオロアルキル基またはペルフルオロ(ヘテロ原子含有アルキル)基が好ましく、ペルフルオロアルキル基およびエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキル基、これらの基の炭素−炭素結合間にエステル結合(−C(O)O−または−OC(O)−)が挿入された基、またはこれらの基のフッ素原子が−SOFに置換された基が挙げられる。
は、フッ素化されてRとなるポリフルオロ1価飽和有機基が好ましく、前記R基のフッ素原子の1個以上が水素原子となった基が好ましい。Rfの炭素数は、1〜42が好ましく、1〜22が特に好ましい。Rは、水素原子を有するポリフルオロアルキル基または水素原子を有するポリフルオロ(ヘテロ原子含有アルキル)基が好ましい。ヘテロ原子としては、酸素原子または硫黄原子が好ましい。
【0043】
単位(E)を含む重合体のフッ素含有量は、35質量%以上が好ましく、50質量%以上が特に好ましい。単位(E)を含む重合体のフッ素含有量の上限は65質量%以下が好ましい。この範囲において効率的に重合体をフッ素化できる。また単位(E)を含む重合体の分子量は、1000以上が好ましく、10〜10が特に好ましい。この範囲において、重合体の気化を抑制して効率的に重合体のフッ素化を実施できる。
【0044】
単位(D−1)を含む重合体を製造する場合には、式CH=CH−Rで表される化合物として下記化合物(F−1)(ただし、QはQと同一の基またはフッ素化されてQとなる2価有機基である。以下同様。)を用いるのが好ましい。式CH=CH−Rで表される化合物としては下記化合物(F−2)(ただし、Rf1はポリフルオロ1価有機基である。以下同様。)も好ましい。
【0045】
CH=CH−QCHOC(O)REF (F−1)、
CH=CH−Rf1 (F−2)。
Qは、フッ素化されてQとなる2価有機基が好ましく、エーテル性酸素原子含有アルキレン基またはアルキレン基が特に好ましい。Qの炭素数は、1〜20が好ましく、1〜10が特に好ましい。
【0046】
化合物(F−1)の具体例としては、下記化合物が挙げられる(ただし、aおよびbは、それぞれ独立に、1〜10の整数である。)。
CH=CH(CHOC(O)REF
CH=CH(CHOC(O)REF
f1は、ポリフルオロアルキル基、ポリフルオロ(アルコキシアルキル)基、フルオロスルホニル基を含むポリフルオロアルキル基またはフルオロスルホニル基を含むポリフルオロ(アルコキシアルキル)基が好ましい。Rf1の炭素数は、1〜20が好ましく、1〜10が特に好ましい。
【0047】
化合物(F−2)の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
CH=CH(CFCF
CH=CH(CFCF
CH=CHCHOCFCFSOF、
CH=CHCHOCHCFCFH、
CH=CHCHOCHCFCF
CH=CHCHOCHCH(CFCF
【0048】
本発明の製造方法において、重合を有機金属錯体の存在下に行う。有機金属錯体は、二座配位ホスフィンおよび/またはホスファイトを配位子とするカチオンパラジウム(II)錯体とカウンター陰イオンとからなる有機金属錯体が好ましく、下式(c1)で表される有機金属錯体または下式(c2)で表される有機金属錯体が特に好ましい。
【0049】
【化19】

【0050】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Gは、二座配位子のPd(II)への配位部分を結合する2価のリンカー部分であり、立体特異性を規制する置換基を有するアルキレンまたは2価の芳香族が好ましい。
は、カウンター陰イオンであり、p−トリルSO、CFCOO、CFSO、BF、PFまたはBAr(Arは置換基を有していてもよいアリール基である。)が好ましい。
(Solvent)部分は、Pdに配位する溶媒分子を示し、アセトニトリル、メタノールまたはハロゲン化炭化水素が好ましい。
Tは、ハロゲン原子、エステル結合構造もしくはエーテル性酸素原子を有していてもよい、アルキル基またはアリール基、あるいは水素原子である。
【0051】
有機金属錯体は、式CH=CH−Rfで表される化合物の1モルに対して、1ミリモル〜1モルを用いるのが好ましい。また重合の温度は20〜80℃が好ましい。また重合の圧力は1.0MPa〜5.0MPa(ゲージ圧)が好ましい。
【0052】
本発明の製造方法におけるフッ素化とは、単位(E)を含む重合体中の炭素原子に結合した水素原子の実質的に全てをフッ素原子に置換する反応を言う。ただし本明細書においてフッ素化とは、フッ素化率(フッ素化率とは、フッ素化されてフッ素原子に置換された単位(E)を含む重合体中の水素原子の割合をいう。)が95%以上の反応も含む。
フッ素化は、コバルトフッ素化法、電気化学的フッ素化法または液相フッ素化法を用いて行うのが好ましく、均一状態で反応を行うことができ反応収率が高い観点から、液相フッ素化法を用いて行うのが特に好ましい。
【0053】
液相フッ素化法とは、単位(E)を含む重合体を液状の反応溶媒に溶解させた状態でフッ素ガスに接触させる方法であり、反応溶媒に溶解させた状態とは単位(E)を含む重合体を反応溶媒に対して0.1質量%以上溶解させた状態をいう。好ましくは0.5質量%以上溶解させた状態をいう。液相フッ素化法は国際公開02/79274号パンフレットに記載される方法にしたがって実施できる。
【0054】
反応溶媒としては、単位(E)を含む重合体とフッ素ガスを溶解しうる、C−H結合を含まない溶媒が好ましい。該溶媒としては、ペルフルオロアルカン類、ペルフルオロエーテル類、ペルフルオロポリエーテル類、クロロフルオロカーボン類、クロロフルオロポリエーテル類、ペルフルオロアルキルアミン、不活性流体等が挙げられる。
反応溶媒は、単位(E)を含む重合体に対して、5倍質量以上を用いるのが好ましく、10〜100倍質量を用いるのが特に好ましい。単位(E)を含む重合体を反応溶媒に溶解させた溶液の粘度は、5×10−4〜0.1Pa・sが好ましく、5×10−4〜5×10−3Pa・sが特に好ましい。
【0055】
液相フッ素化法におけるフッ素ガスは、そのままを用いても、不活性ガスで希釈して用いてもよい。フッ素ガスを希釈して用いる場合の、フッ素ガス量は特に限定されず、10体積%以上が好ましく、20体積%以上が特に好ましい。フッ素量は、単位(E)を含む重合体中の水素原子に対して、フッ素の量が常に過剰当量にするのが好ましく、1.5倍当量以上(すなわち、1.5倍モル以上)にするのが選択率の点から特に好ましい。また、フッ素ガスは過剰量が保たれるように反応系中に導入しつづけるのが好ましい。
【0056】
液相フッ素化法における反応温度は、重合体の炭素原子−炭素原子結合の切断反応を抑制する観点から、−50℃〜0℃が特に好ましく、フッ素化率をより高くするために、液相フッ素法を−50℃〜0℃で開始して段階的に加温して+10〜+50℃にて行うのが特に好ましい。さらに加温時に反応系を加圧するのが好ましく、反応系を+0.1〜+0.3MPa(ゲージ圧)に加圧するのが特に好ましい。
【0057】
液相フッ素化法においては、HFが副生するため、反応系中にHFの捕捉剤(NaFが好ましい。)を共存させる、または反応器ガス出口でHF捕捉剤と出口ガスを接触させるのが好ましい。
また液相フッ素化法における単位(E)を含む重合体のフッ素化率を上げるために、反応系中に芳香族炭化水素化合物(たとえば、ベンゼン、トルエン等)を添加する、または紫外線照射を行うのが好ましい。芳香族炭化水素化合物の添加量は、単位(E)を含む重合体中の水素原子の総数に対して0.1〜10モル%が好ましく、0.1〜5モル%が特に好ましい。液相フッ素化反応における反応形式は、バッチ方式、連続方式のいずれであっても実施できる。
【0058】
前記製造方法によれば、化合物(F−1)と一酸化炭素を有機金属錯体の存在下で重合させて下記単位(E−1)を含む重合体を得て、つぎに該重合体をフッ素化することにより単位(D−1)を含む重合体が製造できる。ただし、下式中の記号は前記と同じ意味を示す。さらに該単位(D−1)を含む重合体からは、前記方法1または方法2に記す方法により単位(B)を含む重合体が製造できる。
【0059】
【化20】

【0060】
本発明の単位(A)を含む重合体(以下、重合体(A)と記す)は、重合体の主鎖にフルオロスピロケタール環を有し、かつ側鎖に重合性の不飽和基を有することから、さらに該化合物の重合性の不飽和基を硬化させることによって、有用な硬化物を得ることができる。
本発明の硬化物としては、単位(A)を含む重合体を硬化させて得た硬化物、または単位(A)を含む重合体と他の硬化性化合物を硬化させて得た硬化物が挙げられる。これらの硬化物は、光学的物性(高透明性、低屈折率性等。)と機械的物性(硬度等。)に優れるため、光学材料の有効成分として特に有用である。
【0061】
重合体(A)の硬化は、硬化開始剤の存在下に行うのが好ましい。硬化開始剤としては、熱感応型硬化開始剤、光感応型硬化開始剤等が挙げられる。硬化開始剤は重合体(A)に対して、0.01〜5質量%を用いるのが好ましく、0.5〜2.5質量%を用いるのが特に好ましい。
【0062】
さらに本発明の重合体(A)は、そのまま硬化させてもよく、別途、硬化性組成物を溶媒に溶解・分散させて重合体(A)を含む溶液組成物としてから硬化させてもよい。硬化における操作性の観点から後者が好ましい。溶液組成物における溶媒は、重合体(A)に対して、1〜1000質量%を用いるのが好ましく、10〜500質量%を用いるのが特に好ましい。
【0063】
溶媒としては、ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン等のペルフルオロアルキルアミン類、フロリナート(3M社製商品名)、バートレル(デュポン社製商品名)等のフッ素系有機溶媒、フッ素原子を含まない有機溶媒(炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類および塩素化化炭化水素類等。)等が挙げられる。
【0064】
重合体(A)を含む溶液組成物は、本発明の硬化物が有する物性を基材表面に付与する表面処理剤として有用である。たとえば、重合体(A)を含む溶液組成物を基材表面に塗布し、つぎに溶媒を揮発させて重合体(A)を含む薄膜を基材表面に形成させて、つぎに重合体(A)を硬化させて得た硬化物からなる薄膜を基材表面に形成させることにより、本発明の硬化物が有する物性を基材表面に付与できる。
【0065】
塗布の方法としては、ロールコート法、キャスト法、ディップコート法、スピンコート法、水上キャスト法、ダイコート法、ラングミュア−ブロジェット法および真空蒸着法が挙げられる。硬化の方法としては、加熱による方法、光照射による方法等が挙げられる。
【実施例】
【0066】
本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらに限定されない。
以下においては、テトラメチルシランをTMS、ジクロロペンタフルオロプロパンをR−225、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタンをR−113、(+)−(R)−2−Diphenylphosphino−1,1’−binaphthalene−2’−yl(S)−1,1’−binaphtalene−2,2’−diyl phosphiteを(R,S)−BINAPHOS、数平均分子量をM、重量平均分子量をM、という。B[3,5−(CFとはテトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレートを示す。
(R,S)−BINAPHOSは、J.Orgmet.Chem.,576,248(1999)、J.Am.Chem.Soc.,119,12779(1997)、J.Am.Chem.Soc.,115,7033(1993)等の文献に記載の方法を用いて合成した。
【0067】
およびMは、特開2001−208736号公報に記載のGPC法を用いて測定した。すなわち、移動相には、R−225/ヘキサフルオロイソプロピルアルコールの混合溶媒を用い、カラムにはPLgel MIXED−Eカラム(ポリマーラボラトリーズ社製)を2本直列に連結してカラムを用い、検出器としては蒸発光散乱検出器を用いた。反応の収率は、19F−NMR(内部標準:1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)またはH−NMRより求めた。硬化膜の屈折率は、分光エリプソメトリー(J.A.Woollam Co.,Inc製 WVASE32)を用いて測定した。
【0068】
[例1]重合体(E−11)の製造例
Pd(CH)(Cl)[(R,S)−BINAPHOS](10mg)を含む脱水塩化メチレン(1mL)溶液に、Na[B[3,5-(CF)]](10mg)を含む脱水アセトニトリル(0.5mL)溶液を加え、25℃にて1時間撹拌した。溶媒を減圧下で除去し、[Pd(CH)(CHCN)[(R,S)-BINAPHOS]]・[B[3,5-(CF)]](以下、単に錯体という。)を得た。
【0069】
つぎに錯体を単離せずに、錯体に脱水塩化メチレン(2mL)とCH=CH(CHOC(O)CF(CF)OCFCF(CF)O(CFF(3.0g)を順に加えて混合し、凍結脱気処理してからオートクレーブ(内容積50mL)に投入した。
【0070】
オートクレーブに内圧が2.0MPa(ゲージ圧)になるまで一酸化炭素を圧入した。オートクレーブを50℃のオイルバスに浸し、オートクレーブ内を撹拌しながら138時間、重合を行った。づづいて、内圧を大気圧にしてから脱水メタノール(0.5mL)を加えた。
さらにオートクレーブに内圧が2.0MPa(ゲージ圧)になるまで一酸化炭素を圧入し、25℃にて1時間、オートクレーブ内を撹拌した。オートクレーブ内容物をろ過して回収した濾液を減圧留去して固形物を得た。固形物を、展開溶媒としてR−225とメタノールの混合液を用いた再沈殿法により精製して重合体(1.7g、収率54%)(以下、重合体(E−11)という。)を得た。重合体(E−11)をNMRとIRにより分析した結果、重合体(E−11)は下記単位(E−11)を含む重合体であった。重合体(E−11)のMは19700、Mは25500であった。
【0071】
H−NMR(300.4MHz,溶媒:R−113,基準:TMS)δ(ppm):1.00〜3.50(brm,9H),4.43(brs,2H)。
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:R−113,基準:CFCl)δ(ppm):−80.8(3F),−81.5(3F),−82.6(3F),−78.6〜−85.2(4F),−129.6(2F),−127.5〜−131.3(1F),−144.9(1F)。
IR(neat):1148,1238,1716,1785,2946cm−1
【0072】
【化21】

【0073】
[例2]重合体(D−11)の製造例
オートクレーブ(内容積500mL、ニッケル製)に、R−113(312g)を加えて撹拌し25℃に保った。オートクレーブガス出口には、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−20℃に保持した冷却器を直列に設置した。なお、−20℃に保持した冷却器からは、凝集液をオートクレーブに戻すための液体返送ラインを設置した。窒素ガスを1.0時間吹き込んだ後、窒素ガスで20体積%に希釈したフッ素ガス(以下、20%フッ素ガスという。)を、流速12.97L/hで1時間吹き込んだ。
【0074】
つぎに、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例1と同様の方法で得た重合体(E−11)(14.9g)をR−113(147g)に溶解した溶液を7時間かけて注入した。つづけて、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、反応器内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで上昇させ、ベンゼン(0.5g)をR−113(50mL)に溶解させた溶液(9mL)を注入し、10分間反応を続けた。さらに該溶液(6mL)を注入し、反応を続ける操作を4回繰り返してから、窒素ガスを1.0時間吹き込んだ。
【0075】
反応終了後、オートクレーブ内容物を濃縮し、さらに真空乾燥(60℃、6.0h、1kPa)して、25℃にて粘調な重合体(19.0g)(以下、重合体(D−11)という。)を得た。重合体(D−11)をNMRにより分析した結果、重合体(D−11)は重合体(E−11)中の水素原子の99.9モル%がフッ素原子に置換された、下記単位(D−11)を含む重合体であった。重合体(D−11)のMは5850、Mは9400であった。
【0076】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:R−113,基準:CFCl)δ(ppm):−77.5〜−86.0(7F),−89.5(5F),−90.0〜−95.0(3F),−105.0〜−129.5(8F),−120.0〜−139.0(3F),−142.0〜−146.0(1F),−178.0〜−200.0(1F)。
【0077】
【化22】

【0078】
[例3]重合体(K−20)の製造例
丸底フラスコ(フッ素樹脂製)に、重合体(D−11)(10g)、NaF(2.2g)およびR−225(50mL)を入れ25℃にて撹拌しながら、さらにメタノール(2.7g)をゆっくりと添加して、25℃にて10〜12時間撹拌した。つぎにフラスコ内容物を加圧ろ過して回収した濾液を濃縮して白色の重合体(3.0g、収率58%)(以下、重合体(K−20)という。)を得た。重合体(K−20)をNMRとIRにより分析した結果、重合体(K−20)は下記単位(K−20)を含む重合体であった。
【0079】
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:アセトン−d、基準:CFCl)δ(ppm):−105.0〜−129.5(8F),−178.0〜−200.0(1F)。
H−NMR(300.4MHz,溶媒:アセトン−d,基準:TMS)δ(ppm):4.1(3H)。
IR(neat):1150,1200,1440,1785cm−1
【0080】
【化23】

【0081】
[例4]重合体(B−11)の製造例
氷浴下の窒素ガス雰囲気の滴下ロートを備えたフラスコに、NaBH(1.08g)、テトラヒドロフラン(50mL)およびメタノール(20mL)を加えて撹拌した。つぎに例3で得た重合体(K−20)(2.4g)をテトラヒドロフラン(30mL)に溶解させた溶液を、フラスコ内温を10℃以下に保持してゆっくり滴下してからフラスコ内温を25℃に保持して、しばらく撹拌した。さらに、フラスコ内温を70℃に保持して2時間、撹拌した。
【0082】
フラスコ内溶液を冷却してから、2mol/LのHCl水溶液(250mL)を、フラスコ内温を30℃以下に保持してゆっくり滴下した。つぎにフラスコ内溶液にR−225をさらに加え、得られた有機層を回収して硫酸マグネシウムで乾燥した。さらに有機層をろ過して、得られた濾液を減圧乾燥して重合体(B−11)を得た。
【0083】
重合体(B−11)は、テトラヒドロフランとメタノールに若干溶解した。また重合体(B−11)をIRにより分析した結果、重合体(B−11)は重合体(K−20)中の−COOCH構造が−CHOH構造に変換された下記単位(B−11)を含む重合体であった。
IR(neat):1180,3250cm−1
【0084】
【化24】

【0085】
[例5]重合体(A−11)の製造例
氷浴下の窒素ガス雰囲気の滴下ロートを備えたフラスコに、例4で得た重合体(B−11)(1.0g)、ハイドロキノン(0.01g)、トリエチルアミン(0.5g)およびジエチルエーテル(20mL)を加え、撹拌した。つぎに、CH=CHCOCl(0.5g)をテトラヒドロフラン(8mL)に溶解させた溶液を、フラスコ内温を5℃以下に保持してゆっくり滴下してからフラスコ内温を25℃に保持して、しばらく撹拌した。
【0086】
フラスコ内溶液にR−225と水を添加して、得られた淡黄色の固体を回収し、減圧乾燥して重合体(A−11)(1.05g)を得た。重合体(A−11)は、メタノール、イソプロパノールおよびジメチルホルムアミドにそれぞれ溶解した。また重合体(A−11)をNMRとIRにより分析した結果、重合体(A−11)は重合体(B−11)中の−CHOH構造が−CHOC(O)CH=CH構造に変換された下記単位(A−11)を含む重合体(A−11)であった。
【0087】
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDOD、基準:CFCl)δ(ppm):−110.0〜−130.0(8F),−180.0〜−200.0(1F)。
H−NMR(300.4MHz,溶媒:CDOD,基準:TMS)δ(ppm):3.0〜4.0(2H),6.0〜6.5(3H)。
IR(neat):1179,1634,1747,2960,3300cm−1
【0088】
【化25】

【0089】
[例6]硬化物1の製造例
重合体(A−11)(0.11g)、ジメチルホルムアミド(0.7g)、光硬化開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名:イルガキュア907)(10mg)および4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン(3.5mg)を混合して硬化性組成物1を得た。
【0090】
ガラス基板上に、スピンコート法を用いて硬化性組成物1を塗工してから、100℃にて5分間乾燥して硬化性組成物1からなる薄膜(膜厚50〜200nm)を形成させた。つぎに25℃にて2.1J/cmの紫外線(高圧水銀灯)をガラス基板上に照射して、硬化性組成物1の硬化により形成された硬化膜(膜厚119nm)が形成されたガラス基板を得た。硬化膜の屈折率を分光エリプソメトリーにより測定した結果、可視域にて1.45〜1.48であった。
【0091】
[例7]硬化物2の製造例
重合体(A−11)(2部)、(CHCHOH(97.82部)、光硬化開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名:イルガキュア907)(0.12部)および4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン(0.06部)を混合して硬化性組成物2を得た。
【0092】
ポリエチレンテレフタレート製フィルム(以下、PETフィルムという。)上に、バーコーターを用いて硬化性組成物2を塗工してから、100℃にて5分間乾燥して硬化性組成物2からなる薄膜(膜厚50〜500nm)を形成させた。つぎに25℃にて1.2J/cmの紫外線(高圧水銀灯)をPETフィルム上に照射して、硬化性組成物2の硬化により形成された硬化膜が形成されたPETフィルムを得た。表面反射率から推算した硬化膜の屈折率は、1.46であった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の重合体(A)を硬化させて得た硬化物は、光学特性に優れることから光学材料、たとえば光ファイバー材料(光ファイバーのコア材料およびクラッド材料。)、光導波路材料(光導路材料のコア材料およびクラッド材料。)、ペリクル材料、レンズ材料(眼鏡レンズ、光学レンズ、光学セルなど。)、素子(発光素子、太陽電池素子など。)封止材料、層間絶縁膜(半導体素子用、液晶表示体用、多層配線板用など。)、高周波素子(RF回路素子、GaAs素子、InP素子など。)保護膜、ディスプレイ(PDP、LCD、CRT、LCDなど)用反射防止フィルターとして有用である。また重合体(A)はフッ素含有量が高く離型性に優れることから、通気性布帛の表面改質剤、モーター流体軸受装置における軸受部分等のオイルシール剤等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(A)で表される繰り返し単位を含む重合体(ただし、Qは単結合またはペルフルオロ2価飽和有機基であり、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子または1価有機基である。)。
【化1】

【請求項2】
分子量が、10〜10である請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
下式(B)で表される繰り返し単位を含む重合体(ただし、Qは単結合またはペルフルオロ2価飽和有機基である。)。
【化2】

【請求項4】
分子量が、10〜10である請求項3に記載の重合体。
【請求項5】
式CH=CHRで表される化合物と一酸化炭素とを有機金属錯体の存在下で重合させて下式(E)で表される繰り返し単位を含む重合体を得て、つぎに該重合体をフッ素化することを特徴とする下式(D)で表される繰り返し単位を含む重合体の製造方法(ただし、Rはペルフルオロ1価飽和有機基であり、RはRと同一の基またはフッ素化されてRとなるポリフルオロ1価有機基である。)。
【化3】

【請求項6】
下式(A)で表される繰り返し単位を含む重合体を硬化させて得た硬化物(ただし、Qは単結合またはペルフルオロ2価飽和有機基であり、X、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子または1価有機基である。)。
【化4】

【請求項7】
請求項6に記載の硬化物を有効成分とする光学材料。

【公開番号】特開2008−133306(P2008−133306A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67955(P2005−67955)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】