説明

新規な多核体ポリフェノール化合物

【課題】半導体用フォトレジスト等の感光性材料の基材、集積回路の封止材料等に用いられるエポキシ樹脂の原料、硬化剤、感熱記録材料等の顕色剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤として有用な新規多核体ポリフェノール化合物を提供すること。
【解決手段】トリスフェニルメタン型のトリスフェノール骨格がメチレン基を介して相互に結合されてなる4,4’−メチレンビスフェノール構造を中心に有する多核体ポリフェノール化合物において、中心骨格の4,4’−メチレンビスフェノールに結合した2つの水酸基の反応性と2つのジフェニルメチル置換基の4つのフェニル基に各々結合した水酸基の反応性が大きく異なる多核体ポリフェノール化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多核体ポリフェノール化合物に関し、詳しくは、トリスフェニルメタン型のトリスフェノール骨格がメチレン基で相互に結合されてなる4,4’−メチレンビス(o−アルキル置換フェノール)構造を有する多核体ポリフェノール化合物に関する。
このような多核体ポリフェノール化合物は、半導体用フォトレジスト等の感光性材料の基材、集積回路の封止材料等に用いられるエポキシ樹脂の原料や硬化剤、感熱記録材料に用いられる顕色剤や退色防止剤、このほか、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤としても有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリフェノール化合物としては、多くの構造の化合物が知られている。
このようなポリフェノール化合物のなかで、トリスフェニルメタン型のトリスフェノール化合物としては、例えば、特開平6−115255号公報等に4,4',4" −メチリデントリスフェノールが、特開平6−199717号公報等に4,4'−〔(4−ヒドロキシフェニル)メチレン〕ビス〔2−メチルフェノール〕が、ヨーロッパ特許出願公報第510,672号には4,4'−〔(2−ヒドロキシフェニル)メチレン〕ビス〔2,3,5−トリメチルフェノール〕が、また、特開平6−1741号公報には4,4'−〔(4−ヒドロキシフェニル)メチレン〕ビス〔2−シクロヘキシル−5−メチルフェノール〕と4,4'−〔(2−ヒドロキシフェニル)メチレン〕ビス〔2−シクロヘキシル−5−メチルフェノール〕がそれぞれ開示されている。
さらに、特開平11-199533号公報にはトリスフェニルメタン型のトリスフェノール骨格がメチレン基を介して相互に結合されてなる4,4’−メチレンビスフェノール構造を中心に有する多核体ポリフェノール化合物が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−115255号公報
【特許文献2】特開平6−199717号公報
【特許文献3】ヨーロッパ特許出願公報第 510,672号
【特許文献4】特開平6−1741号公報
【特許文献5】特開平11-199533号公報
【0004】
このような多核体ポリフェノール化合物は、それ自体、多くの芳香核を有するので、親油性にすぐれ、また、それらの芳香核がさらにアルキル基やシクロアルキル基を置換基として有するときは、その親油性が増大すると共に、分子中に多くのフェノール性水酸基を有するので、その用途も一層拡大されて、幅広い用途への展開が可能である。例えば、このような多核体ポリフェノール化合物を原料として用いることによって、耐水性、耐熱性や電気特性等の諸性能が一層改善された種々の樹脂を与えることが期待できる。
また、フォトレジスト等の感光性材料の分野でも、解像度、現像性等の要求性能は、感光基を有する化合物との反応性や、現像液との親和性によって決まるので、ポリフェノール化合物分子中の多くの水酸基の反応性が種々の水準で異なる水酸基を分子内に有するそのような多核体ポリフェノール化合物が求められている。
【0005】
特に、トリスフェニルメタン型のトリスフェノール骨格がメチレン基を介して相互に結合されてなる多核体ポリフェノール化合物、例えば、上記特開平11-199533号公報に記載の多核体ポリフェノール化合物においては、本発明者らが確認したところ、当該多核体ポリフェノール化合物の6つのフェノール性水酸基の内、2つのジフェニルメチル置換基の4つのフェニル基に各々結合した水酸基に選択的に、例えば、保護基や酸分解性基等を置換させようとする場合、意図する選択的置換が十分に起こらない。これは中心骨格の4,4’−メチレンビスフェノール構造の2つのフェニル基に結合した水酸基との反応性の差が小さいためと思われ、このように多核体ポリフェノール化合物の更なる改良が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、トリスフェニルメタン型のトリスフェノール骨格がメチレン基を介して相互に結合されてなる4,4’−メチレンビスフェノール構造を中心に有する多核体ポリフェノール化合物において、中心骨格の4,4’−メチレンビスフェノールに結合した2つの水酸基の反応性と2つのジフェニルメチル置換基の4つのフェニル基に各々結合した水酸基の反応性が大きく異なる多核体ポリフェノール化合物を提供することを目的とする。
このような多核体ポリフェノール化合物は、反応性が大きく異なる2種の水酸基を持つので、例えば、フォトレジスト等の感光性材料用途において、多核体ポリフェノール化合物の水酸基にt−ブトキシカルボニル基等の保護基や酸分解性基等を導入する場合、このような保護基や酸分解性基が2つのジフェニルメチル置換基の4つのフェニル基に各々結合した水酸基に優先的に導入され、その結果、フォトレジストの分解能向上に寄与する可能性が期待される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決する為鋭意検討した結果、トリスフェニルメタン型のトリスフェノール骨格がメチレン基を介して相互に結合されてなる4,4’−メチレンビスフェノール構造を中心に有する多核体ポリフェノール化合物において、中心骨格の4,4’−メチレンビスフェノールに結合したフェノール性水酸基に対し、o-位に置換したジフェニルメチル置換基に加えて、もう一方のo-位にも低級アルキル基を導入すると、そのo-位に置換基がない場合と同程度に定量的に上記o-位にジフェニルメチル置換基が導入できると共に、4,4’−メチレンビスフェノール骨格に結合したフェノール性水酸基の反応性が抑制された前記目的の多核体ポリフェノール化合物が得られること、並びにそのような化合物の合成方法及び物性を見出し本発明を完成した。また、そのような化合物は従来、知られていない。
従って、本発明による新規な多核体ポリフェノール化合物は、
【0008】
【化3】

一般式(I)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基、R及びRは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、Xは下記一般式(II)のヒドロキシフェニル基を示す。)
【0009】
【化4】

一般式(II)
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基又はシクロヘキシル基を示し、R及びRは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、但し、R及びRは同時に炭素原子数1〜4のアルキル基であることはない。)
で表される。
【0010】
上記一般式(I)において、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、炭素原子数1〜4のアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基であり、プロピル基、ブチル基は直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、好ましくは、炭素原子数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基である。R及びRは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、炭素原子数1〜4のアルキル基としては、具体的には、Rの炭素原子と同様であり、R及びRとしては、中心のメチレン基が酸等により切断されにくく安定である理由で、好ましくは水素原子、又はメチル基であり、より好ましくは水素原子である。
また、Xで表される上記一般式(II)のヒドロキシフェニル基において、Rは水素原子又はメチル基を示し、好ましくは水素原子である。Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基又はシクロヘキシル基を示し、炭素原子数1〜4のアルキル基としては、具体的には、Rの炭素原子と同様であり、Rとしては好ましくは炭素原子数1〜3のアルキル基である。
【0011】
及びRは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、但し、同時に炭素原子数1〜4のアルキル基であることはなく、炭素原子数1〜4のアルキル基としては、具体的には、Rの炭素原子と同様であり、R及びRとしては、好ましくは水素原子又はメチル基である。従って、R〜Rの好ましい態様としては、Rは水素原子でありRは炭素原子数1〜3のアルキル基でありRは水素原子でありRはメチル基である。
従って、本発明のこのような多核体ポリフェノール化合物としては、具体的には、例えば、
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−メチルフェノール}(化合物1)
【0012】
【化5】

化学式1
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−メチルフェノール}(化合物2)
【0013】
【化6】

化学式2
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−メチルフェノール}(化合物3)
【0014】
【化7】

化学式3
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(2−メチル−5−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−メチルフェノール}(化合物4)
【0015】
【化8】

化学式4
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(2,3,5−トリメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−メチルフェノール}(化合物5)
【0016】
【化9】

化学式5
【0017】
さらには、
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(2−メチル−5−エチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−メチルフェノール}
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(2−メチル−5−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−メチルフェノール}
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(2,3−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−メチルフェノール}
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−イソプロピルフェノール}
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(2−メチル−5−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−イソプロピルフェノール}
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−3,6−ジメチルフェノール}
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−メチルフェノール}
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−イソプロピルフェノール}
4,4’−メチレンビス{2−[ビス(4−ヒドロキシフェニル)メチル]−6−イソプロピルフェノール}
等を挙げることができる。
【0018】
このような、本発明による新規な多核体ポリフェノール化合物は、その製造方法について、特に制限されるものではないが、工業的に製造可能な方法として、アルキルヒドロキシベンズアルデヒド類とホルムアルデヒド等の入手容易な原料から比較的効率よく得られるメチレンビス(ホルミルフェノール)類を直接の原料とし、これにフェノール類を反応させて得ることができる。
即ち、本発明による一般式(I)で表される新規な多核体ポリフェノール化合物は、下記一般式(III)で表されるメチレンビス(ホルミルフェノール)と下記一般式(IV)で表されるフェノール類を酸触媒の存在下で反応させることにより得ることができる。
【0019】
【化10】

一般式(III)
(式中、R〜Rは一般式(I)のそれと同じである。)
【0020】
【化11】

一般式(IV)
(式中、R〜Rは一般式(II)のそれと同じである。)
【0021】
例えば、一般式(III)で表されるメチレンビス(ホルミルフェノール)類が4,4’-メチレンビス(2-ホルミル-6-メチルフェノール)であり、一般式(IV)で表されるフェノール類が2,5−ジメチルフェノールの場合の反応式を示す。
【0022】
【化12】

反応式1
【0023】
上記一般式(III)で表されるメチレンビス(ホルミルフェノール)類において、R、R及びRとしては、一般式(I)のそれと同じであり、また、一般式(IV)で表されるフェノール類において、R4、5、及びRとしては、一般式(II)のそれと同じである。
従って、上記一般式(III)で表されるメチレンビス(ホルミルフェノール)類としては、具体的には、例えば
4,4’−メチレンビス(2-ホルミル-6-メチルフェノール)、
4,4’−メチレンビス(2−ホルミル−6−エチルフェノール)、
4,4’−メチレンビス(2−ホルミル−6−イソプロピルフェノール)、
4,4’−メチレンビス(2−ホルミル−3,6−ジメチルフェノール)、
4,4’−メチレンビス(2−ホルミル−5,6−ジメチルフェノール)
等が挙げられる。
【0024】
このようなメチレンビス(ホルミルフェノール)類は、アルキルベンズアルデヒド類とホルムアルデヒドから、「忠南大学校 工業技術開発研究所 論文集 第4巻第2号 124〜130(1977)、米国特許2775613或いはJ. Am. Chem. Soc. 1957年 VOL.79 6000〜6002」記載のような方法を用いて製造することができる。
具体的には、例えば、下記反応式のように一般式(V)で表されるアルキルベンズアルデヒド類とホルムアルデヒド或いはトリオキサンのようなホルムアルデヒドの重合物を、アルキルベンズアルデヒド類のホルミル基があまり反応しない程度の反応条件下で、酸触媒又はアルカリ触媒を使用すると、目的物を得ることができる。その際、ホルムアルデヒド以外のカルボニル化合物は、例えばアセトンの場合、ホルムアルデヒドよりも反応性が低いため容易に反応せず、さらに、アセトンが反応する条件(温度や酸触媒)ではベンズアルデヒド類自体も反応する等の理由で、ホルムアルデヒド以外のアルデヒド類、ケトン類は好ましくない。
【0025】
【化13】

一般式(V)
(式中、R〜Rは一般式(I)のそれと同じである。)
反応式2
【0026】
また、一般式(IV)で表されるフェノール類としては、具体的には、例えば、
フェノール、2,5−キシレノール、o−クレゾール、m−クレゾール、2,3,6−トリメチルフェノール、o−t−ブチルフェノール、2−イソプロピルフェノール、2−t−ブチル−5−メチルフェノール、2−t−ブチル−6−メチルフェノール、2−シクロヘキシルフェノール、2−シクロヘキシル−5−メチルフェノール、2−sec−ブチルフェノール
等が挙げられる。
上記メチレンビス(ホルミルフェノール)類とフェノール類との反応において、フェノール類は、メチレンビス(ホルミルフェノール)類1モル部に対して、4モル部以上、通常、4〜15モル部の範囲、好ましくは4.2〜6モル部の範囲で用いられる。モル比が小さすぎると、メチレンビス(ホルミルフェノール)1モルにフェノール類4モルが反応せず副生物が増加して、収率が低下し、高純度の反応生成目的物が得られなくなるので好ましくない。
【0027】
上記メチレンビス(ホルミルフェノール)類とフェノール類との反応において、反応溶媒は用いてもよく、また、用いなくてもよい。反応溶媒を用いる場合、用いる反応原料、得られる生成物の溶解度、反応条件、反応の経済性等を考慮して、例えば、脂肪族アルコール、脂肪族ケトン、芳香族炭化水素又はこれらの混合溶媒が用いられる。具体的には、脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール等の低級脂肪族アルコールを挙げることができる。
脂肪族ケトンとしては、例えば、イソプロピルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン等を挙げることができる。また、芳香族炭化水素としては、例えば、トルエン、キシレン、クメン等を挙げることができる。
【0028】
これらのうち、好ましくはメタノール、イソプロパノール、メチルイソブチルケトンである。
このような溶媒は、通常、用いるフェノール類100重量部に対して、10〜500重量部、好ましくは、50〜200重量部の範囲で用いられるが、これに限定されるものではない。
本発明の多核体ポリフェノール化合物の製造方法において、メチレンビス(ホルミルフェノール)とフェノール類の反応に用いられる酸触媒としては、反応原料乃至反応溶媒に溶解する酸が好ましく、従って、例えば、塩化水素、塩酸、硫酸、無水硫酸、リン酸等の無機酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機スルホン酸、シュウ酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸、カチオン型イオン交換樹脂等を好ましい具体例として挙げることができる。好ましくは塩化水素、塩酸が用いられる。このような酸触媒は、用いられる酸の濃度、種類により異なるが、通常、仕込みフェノール類に対し、5〜50重量%、の範囲、好ましくは、10〜30重量%の範囲で用いられる。
【0029】
反応は、通常、反応温度0℃〜100℃の範囲、好ましくは、30〜50℃の範囲にて、空気中、より好ましくは、窒素等の不活性ガス雰囲気中、攪拌しながら、2〜48時間程度、通常、3〜24時間程度行なえばよい。本発明においては、通常、反応によって生成する多核体ポリフェノール化合物は、目的物以外に種々の異性体等副生物を含んでいる。また、得られる多核体ポリフェノール化合物が反応溶媒に溶解し難い場合には、通常、上記反応温度条件下で、反応液中に結晶として多核体ポリフェノール化合物が析出する。
そこで、反応終了後、得られた反応混合物にアンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を加えて、酸触媒を中和した後、必要に応じて、反応混合物を冷却して、析出した粗結晶を濾取し、次いで、この粗結晶を芳香族炭化水素、脂肪族ケトン又はこれらの混合溶剤に溶解させ、得られた溶液をイオン交換水で洗浄した後、冷却し、結晶を析出させ、これを濾過し、乾燥することによって、目的とする多核体ポリフェノール化合物の高純度品を容易に得ることができる。
【0030】
他方、反応終了後に、反応混合物中に結晶の析出がないときは、同様に、反応終了後、得られた反応混合物にアルカリを加えて、酸触媒を中和した後、必要に応じて水と分離する溶媒を加え、水層を分離除去し、得られた有機層を常圧又は減圧下に蒸留し、得られた蒸留残渣に芳香族炭化水素、脂肪族ケトン又はこれらの混合溶剤を加えて、蒸留残渣を溶解させ、得られた溶液をイオン交換水で洗浄、脱塩した後、必要に応じて、溶媒を濃縮して溶媒量を調整後、冷却し、粗結晶を析出させ、次いで、この粗結晶を濾取し、これを芳香族炭化水素、脂肪族ケトン又はこれらの混合溶剤から晶析させることによって、目的とする多核体ポリフェノール化合物の高純度品を容易に得ることができる。
上記後者の方法において蒸留残渣を溶解するための溶剤と上記晶析溶剤は、晶析条件、精製効果、経済性等を考慮して、適宜に選択される。芳香族炭化水素としては、例えば、トルエン、キシレン、クメン等を挙げることができ、また、ケトンとしては、例えば、イソプロピルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン等を挙げることができる。このような晶析溶剤は、通常、粗結晶100重量部に対して、100〜1000重量部、好ましくは、200〜500重量部の範囲で加えることによって、目的とする多核体ポリフェノール化合物を高純度に晶析させることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明による新規な多核体ポリフェノール化合物は、トリスフェニルメタン型のトリスフェノール骨格がメチレン基を介して相互に結合されてなる4,4’−メチレンビスフェノール構造を中心に有する多核体ポリフェノール化合物において、一分子中に、中心骨格の4,4’−メチレンビスフェノールに結合した2つの水酸基と、2つのジフェニルメチル置換基の4つのフェニル基に各々結合した4つの水酸基の2種の反応性が大きく異なる水酸基を有する多核体ポリフェノール化合物であり、このような2種の水酸基の反応性の違いは、例えば、t−ブトキシカルボニル置換反応により得られた置換体の組成分布を調べることにより確認することができる。本発明のこのような多核体ポリフェノール化合物は、反応性が大きく異なる2種の水酸基を持つので、これを原料として用いて、例えば、フェノール水酸基に対する反応、フェノール性芳香環に対する置換反応や水添反応等種々の反応を行なうことによって、従来にない種々の誘導体を得ることができる。
【0032】
例えば、t−ブチル−カーボネート等の保護基又は分解性基等の種々の置換基を、本発明の多核体ポリフェノール化合物の2つのジフェニルメチル置換基の4つのフェニル基に各々結合した分子末端の水酸基に選択的につけることができるため、これらの置換化合物を感光性レジストの原料や添加剤に使用した場合には解像度の向上が期待できる。またRに例えばメチル基が導入されるだけで、融点が大幅に向上するため合成樹脂にした場合には耐熱性の向上が期待でき、その他可撓性、耐水性等の向上も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
〔実施例〕
実施例1(化合物3の合成);
温度計、冷却器及び攪拌機を備えた1L容量の4つ口フラスコに、2,5−キシレノール50.8g(0.42mol)及びメタノール50.8gを仕込み、そこに温度30℃で塩酸ガス39.5gを吹き込んだ後、攪拌下に2,5−キシレノール101.7g(0.83mol)をメタノール254.3gに溶解させた溶液を滴下した。 滴下終了後、30℃において、その溶液に4,4’−メチレンビス(2−ホルミル−6−メチルフェノール)71.0g(0.25mol)を2時間かけて添加し、添加終了後さらに40℃で3時間、後攪拌反応を行った。
反応終了後、16%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して中和し(途中で結晶が析出)、さらにメタノールを加えて70℃まで昇温した後、この溶液を冷却、ろ過して粗結晶を得た。次いで、この粗結晶とメチルイソブチルケトン及び水を2L容量4つ口フラスコに仕込み、70℃まで昇温して溶解した後、静置し、水層を抜き取り、得られた油層にさらに水を加え、同様の操作で水洗、分液を行った。その後、得られた油層を常圧で濃縮を行い溶媒を留去した後(途中で結晶が析出)、これにトルエンを添加した。この溶液を25℃まで冷却し、析出した固体をろ過、乾燥して淡黄白色粉末で純度97.7%(高速液体クロマトグラフィー分析による)、融点307.0℃(示差走査熱量分析法、略称DSCによる peaktop値)の目的とする多核ポリフェノール化合物139.7gを得た。
4,4’-メチレンビス(2-ホルミル-6-メチルフェノール)に対する収率は75.8%であった。
【0034】
【化14】

化学式
分子量(質量分析法) 736(M-H)-
プロトンNMR分析(400MHz、溶媒:DMSO−d6)
【0035】
【表1】

【0036】
応用例(化合物3のt−ブトキシカルボニル基置換化合物の合成);
500ml四つ口フラスコに実施例1で得られた化合物3を7.4g(0.1mol)及びメチルイソブチルケトン22.2gを仕込み、そこにトリエチルアミン4.0g(0.4mol)を加えた。次いで60℃まで昇温を行い、ジ-tert-ブチル−ジカーボネート8.7g(0.4mol)を2時間かけて添加した。その後、80℃まで昇温した後、4時間、後攪拌反応を行った。
反応終了後、反応終了混合液に水を加えて温度60℃で水洗し水層を抜き取り、残った油層に再度水を加えて同様の操作を行い、得られた油層をエバポレーターで濃縮乾固させて、黄色の粉末11.8gを得た。また、NMR分析により得られた粉末が目的化合物であることを確認した。下記に応用例を化学反応式で示す。
【0037】
【化15】

(化学反応式3)
【0038】
応用比較例(4,4’−メチレンビス{2−[ビス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−フェノール}のt−ブトキシカルボニル基置換化合物の合成);
500ml四つ口フラスコに2,5−キシレノールとメチレンビスサリチルアルデヒドから、特開平11−199533号公報記載と同様の方法で得られた4,4’−メチレンビス{2−[ビス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−フェノール}の7.1g(0.01mol)とメチルイソブチルケトン21.3gを仕込み、そこにトリエチルアミン4.0g(0.04mol)を加えた。次いで60℃まで昇温した後、これにジ−tert−ブチル−ジカーボネート8.7g(0.04mol)を2時間かけて添加し、添加終了後80℃まで昇温して、さらに4時間、後攪拌反応を行った。
反応終了後、得られた反応終了混合液に水を加えて温度60℃で水洗した後、水層を抜き取り、残った油層に再度水を加えて同様の操作を行い、得られた油層をエバポレーターで濃縮乾固させ、黄色の粉末11.3gを得た。またNMR分析により得られた粉末が目的化合物であることを確認した。下記に応用比較例を化学反応式で示す。
【0039】
【化16】

(化学反応式4)
【0040】
上記応用例で得られた化合物と比較例で得られた化合物は、化学反応式3及び4に示すように、多核体ポリフェノール化合物のフェノール性水酸基がt−ブチルカーボネート基となった置換体の置換基数が0置換体(未反応体)から全てのフェノール性水酸基が置換した6置換体の混合物として得られるので、この組成を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により、応用例化合物と比較例化合物中の未置換体から6置換体の各々の置換体の組成値(AREA%:HPLCクロマトグラムの面積百分率)を求めた。これより応用例化合物は1、5及び6置換体の割合が極めて小さいことがわかる。また、同じ置換基数であっても組成値1%以上のクロマトグラムのピーク数は、応用例化合物の方が少なく、選択的に反応していることもわかった。
図1にHPLC分析チャートを示す。
分析条件(カラム;shimpackCLC-ODS(島津製作所製)、カラム温度;50℃、検出器;UV280nm、展開溶媒および展開方法;メタノール/水の容量比80/20のメタノール水溶液で展開を開始し、30分後にメタノール100容量%となるように濃度勾配をつけて30分間展開し、30分後から15分間はメタノール100容量%の展開溶媒で展開することによって分析した(分析所要時間45分)。測定試料作成方法:反応液170mgをメタノールで希釈して50ml溶液に調整する(目的物が約50mg含まれるように調整する。)。注入試料量;20μL、溶媒流速;1.0ml/min.)
表2に図1より求めた組成値(面積百分率)を示す。
【0041】
【表2】

【0042】
さらに、応用例化合物をプロトン核磁気共鳴分析法で、2つのジフェニルメチル置換基の4つのフェニル基に各々結合した未反応の水酸基と中心骨格の4,4’−メチレンビスフェノールに結合した未反応の水酸基の濃度を測定することにより、ジフェニルメチル基の4つのフェニル基に結合した水酸基の87.8%がカーボネート化されていることが解ったが、中心骨格の4,4’−メチレンビスフェノールに結合した2つの水酸基は、12.7%しかカーボネート化されていないことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】応用例化合物と比較例化合物のHPLC分析チャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される多核体ポリフェノール化合物。
【化1】

一般式(I)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基、R及びRは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、Xは下記一般式(II)のヒドロキシフェニル基を示す。)
【化2】

一般式(II)
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基又はシクロヘキシル基を示し、R及びRは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、但し、R及びRは同時に炭素原子数1〜4のアルキル基であることはない。)

【図1】
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【公開番号】特開2007−326847(P2007−326847A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67771(P2007−67771)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000243272)本州化学工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】