説明

新規な芳香族スルホン酸エステル、スルホン酸基を有するポリアリーレンおよびその製造方法

【課題】安全で、ポリマーへのスルホン酸基の導入量、位置の制御が容易なスルホン酸基を有するポリアリーレンの製造方法、該製造方法に用いられるポリアリーレンおよび新規な芳香族スルホン酸エステル誘導体を提供すること。
【解決手段】芳香族スルホン酸エステル誘導体は、下記一般式(A’)で表されることを特徴とする。


(式(A')中、Xは電子吸引基等、Rは炭化水素基、R'およびR''はフッ素原子を除くハロゲン原子等で表される基、mは0〜10の整数、kは0〜5の整数、lは0〜4の整数、k+l≧1である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールを水素に改質せずに直接セルに供給して発電を行わせる直接メタノール型燃料電池に用いられるプロトン伝導膜用途に好適な、スルホン酸基を有するポリアリーレンおよびその製造方法、ならびに該スルホン酸基を有するポリアリーレンからなる直接メタノール型燃料電池用プロトン伝導膜に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノールを水素に改質せずに直接セルに供給して発電を行わせる直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、発電性能、取扱いの容易さ、システムの簡略性等の特徴が認められ、携帯電話、パーソナルコンピューター等のポータブル用電源として従来のリチウムイオン電池に代わる電源として注目を集めている。
【0003】
ところで従来燃料電池に用いられる電解質膜用の材料としては、無機物、有機物の両方が知られている。無機物の例としては、例えば水和化合物であるリン酸ウラニルが挙げられるが、これら無機化合物は界面での接触が充分でなく、伝導層を基板または電極上に形成するには問題が多い。
【0004】
一方、有機化合物の例としては、いわゆる陽イオン交換樹脂に属するポリマー、例えばポリスチレンスルホン酸などのビニル系ポリマーのスルホン化物、ナフィオン(商品名、デュポン社製)を代表とするパーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー、パーフルオロアルキルカルボン酸ポリマーが挙げられ、このDMFC用の電解質膜としては、パーフルオロアルキルスルホン酸系のプロトン伝導膜が使用されてきた。
【0005】
しかしながら、上記パーフルオロアルキルスルホン酸系のプロトン伝導膜は、メタノール透過性が高いため水分子の移動に合わせてメタノールがアノードからカソード側にリークする、いわゆるクロスオーバーが発生し、電池性能を著しく低下させる問題点がある。そのため、低濃度のメタノール水溶液として使用せざるを得ず、発電効率の大幅な低下を余儀なくされているのが現状である。
【0006】
また、その他の有機系プロトン伝導性材料としては、スルホン化されたポリアリーレンが知られており、このスルホン化ポリアリーレンは、通常芳香族化合物を重合してポリマーを製造し、次いでこのポリマーとスルホン化剤とを反応させてポリマーにスルホン酸基を導入することにより得られる。
【0007】
しかしながら、従来の方法では、スルホン酸を導入する際に濃硫酸、発煙硫酸、クロル硫酸などのスルホン化剤が大量に用いるため製造上の危険性が大きいこと、プラントの材質に制限があること、ポリマーを回収する際の廃液処理の負担が大きいことなどの問題がある。また、ポリマーへのスルホン酸基の導入量、および導入位置を制御することが容易ではないという問題もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術を背景としてなされたものであって、高いプロトン伝導度を有し、メタノール透過性が改良された、スルホン酸基を有するポリアリーレンを提供することを目的としている。
【0009】
本発明は、ポリマーへのスルホン酸基の導入量、および導入位置を制御するとともに、適度に疎水化されたセグメントをポリマー中に確保することにより、高いプロトン伝導度を有し、かつメタノール透過性が改良された、スルホン酸基を有するポリアリーレンの製造方法提供することを目的としている。また本発明は、多量のスルホン化剤を使用することなくスルホン酸基を有するポリアリーレンが製造でき、ポリマーへのスルホン酸基の導入量、および導入位置を制御することが容易であるスルホン酸基を有するポリアリーレンの製造方法およびそれにより得られるスルホン酸基を有するポリアリーレンを提供することを目的としている。
【0010】
本発明は、スルホン酸基を有するポリアリーレンを使用した、高いプロトン伝導度を有し、メタノール透過性が改良された、直接メタノール型燃料電池用プロトン伝導膜を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、下記のスルホン酸基を有するポリアリーレンおよびその製造方法、ならび直接メタノール型燃料電池用プロトン伝導膜が提供されて、本発明の上記目的が達成される。
【0012】
(1) 下記一般式(A)で表される繰り返し構成単位を0.05〜99.95モル%および下記一般式(B)で表される繰り返し構成単位を0.05〜99.95モル%含むことを特徴とするスルホン酸基を有するポリアリーレン;
【0013】
【化1】

【0014】
(式(A)中、Xは−または電子吸引基または電子供与基を示し、mは0〜10の整数を示し、mが1〜10のときはXは互いに同一でも異なっていてもよく、kは0〜5の整数を示し、lは0〜4の整数を示し、k+l≧1である。)
【0015】
【化2】

【0016】
(式(B)中、R1〜R8は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基およびアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示し、Wは2価の電子吸引性基を示し、Tは下記一般式
(C−1)または(C−2)で表される2価の基より選ばれた少なくとも1種の基を示す。)
【0017】
【化3】

【0018】
(式(C−1)および(C−2)中、R9〜R20は互いに同一でも異なっていてもよく、
水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基およびアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示し、Qは2価の電子供与性基を示し、Jはアルキレン基、フッ素置換アルキレン基、アリール置換アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−、−CO−、−CONH−、−COO−、−SO−および−SO2−からなる群より選ばれた
1種の原子または基を示す。)。
【0019】
(2) 下記一般式(A')で表される芳香族スルホン酸エステルと下記一般式(B')で表される芳香族化合物とをカップリング重合し、得られた共重合体を加水分解することを特徴とするスルホン酸基を有するポリアリーレンの製造方法;
【0020】
【化4】

【0021】
(式(A')中、Xは−または電子吸引基または電子供与基を示し、Rは炭化水素基を示
し、R'およびR''はフッ素原子を除くハロゲン原子または−OSO2Z(ここで、Zはアルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を示す。)で表される基を示し、mは0〜10の整数を示し、mが1〜10のときはXは互いに同一でも異なっていてもよく、kは0〜5の整数を示し、lは0〜4の整数を示し、k+l≧1である。)
【0022】
【化5】

【0023】
(式(B')中、R1〜R8は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子
、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基およびアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示し、Wは2価の電子吸引性基を示し、Tは上記一般式(C−1)または(C−2)で表される2価の基より選ばれた少なくとも1種の基を示し、RおよびR'はフッ素原子を除くハロゲン原子または−OSO2Z(ここで、Zはアルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を示す。)で表される基を示す。)。
【0024】
(3) 上記(1)に記載のスルホン酸基を有するポリアリーレンからなることを特徴とする直接メタノール型燃料電池用プロトン伝導膜。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るスルホン酸基を有するポリアリーレンは、メタノール透過性が低く、かつ高いプロトン伝導度を有しており直接メタノール型燃料電池用プロトン伝導膜用途に好適である。
【0026】
本発明に係るスルホン酸基を有するポリアリーレンの製造方法は、ポリマーへのスルホン酸基の導入量、および導入位置を制御することができ、またポリマーのメタノール透過性が改良された、直接メタノール型燃料電池用プロトン伝導膜用途に好適なスルホン酸基を有するポリアリーレンを製造することができる。また本発明によると、多量のスルホン化剤を使用することなくスルホン酸基を有するポリアリーレンが製造できる。
【0027】
本発明に係るプロトン伝導膜は、高いプロトン伝導度を有し、かつ優れた低メタノール透過性を有しているので直接メタノール型燃料電池用として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係るスルホン酸基を有するポリアリーレンおよびそれを使用した直接メタノール型燃料電池用プロトン伝導膜について具体的に説明する。
(スルホン酸基を有するポリアリーレン)
本発明に係るスルホン酸基を有するポリアリーレンは、下記一般式(A)で表される繰り返し構成単位と、下記一般式(B)で表される繰り返し構成単位とを含んでいる。
【0029】
【化6】

【0030】
一般式(A)において、Xは単結合(−)または電子吸引基または電子供与基を示し、具体的には−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2p
−(ここで、pは1〜10の整数である)、−C(CF32−などの電子吸引基、−(CH2)−、−C(CH32−、−O−、−S−などの電子供与基が挙げられる。
【0031】
なお、電子吸引性基とは、ハメット(Hammett)置換基常数がフェニル基のm位の場合
、0.06以上、p位の場合、0.01以上の値となる基をいう。
一般式(A)において、mは0〜10、好ましくは0〜8、より好ましくは0〜5の整数を示す。なお、mが1〜10のときはXは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0032】
一般式(A)において、kは0〜5の整数、lは0〜4の整数を示し、k+l≧1である。好ましくは、kは1〜4の整数、lは0〜3の整数であり、かつmは0〜5の整数である。
【0033】
【化7】

【0034】
一般式(B)において、R1〜R8は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基およびアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。
【0035】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基などが挙げられ、メチル基、エチル基などが好ましい。
フッ素置換アルキル基としては、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基などが挙げられ、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基などが好ましい。
【0036】
アリル基としては、プロペニル基などが挙げられ、
アリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
一般式(B)において、Wは2価の電子吸引性基を示し、電子吸引性基としては上述したものと同様の基が挙げられる。
【0037】
一般式(B)において、Tは下記一般式(C−1)または(C−2)で表される2価の基より選ばれた少なくとも1種の基を示す。
【0038】
【化8】

【0039】
一般式(C−1)および(C−2)において、R9〜R20は互いに同一でも異なってい
てもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基およびアリール基からなる群より選ばれた原子または基を示し、具体的には上記一般式(B)におけるR1〜R8と同様の原子または基が挙げられる。
【0040】
一般式(C−1)および(C−2)において、Qは2価の電子供与性基を示し、例えば−O−、−S−、−CH=CH−、−C≡C−などが挙げられる。
一般式(C−1)および(C−2)において、Jはアルキレン基、フッ素置換アルキレン基、アリール置換アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−、−CO−、−CONH−、−COO−、−SO−および−SO2−からなる群より選ばれた1種の原子または基を示す。
【0041】
アルキレン基、フッ素置換アルキレン基、アリール置換アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、フルオレニリデン基として具体的には、例えば、−C(CH32−、−CH=CH−、−CH=CH−CH2−、−C≡C−、−(CF2p
(ここで、pは1〜10の整数である)、−C(CF32−、下記式
【0042】
【化9】

【0043】
で表される基などが挙げられる。
一般式(B)において、nは正の整数であり、上限は通常100、好ましくは1〜80、さらに好ましくは10〜80である。
【0044】
本発明に係るスルホン酸基を有するポリアリーレンは、上記一般式(A)で表される繰り返し構成単位を0.05〜99.95モル%、好ましくは10〜99.5モル%の割合
で、上記一般式(B)で表される繰り返し構成単位を0.05〜99.95モル%、好ましくは0.5〜90モル%の割合で含有している。
【0045】
上記一般式(A)で表される繰り返し構成単位と上記一般式(B)で表される繰り返し構成単位を上記割合で含有すると、スルホン酸基を有するポリアリーレンは、伝導度を保持したままメタノール透過性が低く抑える効果を同時に付与できる。
【0046】
本発明に係るスルホン酸基を有するポリアリーレンは、スルホン酸基を有する上記一般式(A)で表される繰り返し構成単位と、適度に疎水化されたセグメントを有する上記一般式(B)で表される繰り返し構成単位とを特定の割合で含んでいるので、メタノール透過性が低く、かつ高いプロトン伝導度を有しており直接メタノール型燃料電池用プロトン伝導膜用途に好適である。
【0047】
(スルホン酸基を有するポリアリーレンの製造方法)
本発明に係るスルホン酸基を有するポリアリーレンは、例えば下記一般式(A')で表
される芳香族スルホン酸エステルと、下記一般式(B')で表される芳香族化合物とをカ
ップリング重合し、得られた共重合体を加水分解することにより製造することができる。
【0048】
(芳香族スルホン酸エステル)
本発明で用いられる芳香族スルホン酸エステルは、下記一般式(A')で表される。
【0049】
【化10】

【0050】
一般式(A')において、Xは上記一般式(A)中のXと同義であり、kおよびlは上
記一般式(A)中のkおよびlと同義である。
一般式(A')において、Rは炭化水素基、好ましくは炭素原子数4〜20の炭化水素
基を示し、具体的にはtert−ブチル基、iso−ブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基、アダマンチルメチル基、2−エチルヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基などの直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、脂環式炭化水素基などが挙げられる。
【0051】
一般式(A')において、R'およびR''は互いに同一でも異なっていてもよく、フッ素原子を除くハロゲン原子または−OSO2Z(ここで、Zはアルキル基、フッ素置換アル
キル基またはアリール基を示す。)で表される基を示す。
【0052】
Zが示すアルキル基としてはメチル基、エチル基などが挙げられ、フッ素置換アルキル基としてはトリフルオロメチル基などが挙げられ、アリール基としてはフェニル基、p−
トリル基などが挙げられる。
【0053】
上記一般式(A')で表される芳香族スルホン酸エステルとしては、例えば以下のよう
な化合物が挙げられる。
【0054】
【化11】

【0055】
【化12】

【0056】
また、上記一般式(A')で表される芳香族スルホン酸エステルとして、上記化合物に
おいて塩素原子が臭素原子に置き換わった化合物、上記化合物において−CO−が−SO2−に置き換わった化合物、上記化合物において塩素原子が臭素原子に置き換わり、かつ
−CO−が−SO2−に置き換わった化合物なども挙げられる。
【0057】
これらのエステル基は1級のアルコール由来で、分岐状、脂環族構造などの嵩高い置換基が、重合工程中での安定性の観点から好ましい。
本発明で用いられる芳香族スルホン酸エステル、例えば上記一般式(A')においてm
が0であり、kが1である化合物は、例えば以下のような、(1)スルホン化/ナトリウム塩化、(2)クロロスルホニル化、(3)スルホン酸エステル化、を経由する方法で合成することができる。上記一般式(A')で表される他の化合物も同様にして合成するこ
とができる。
【0058】
【化13】

【0059】
(芳香族化合物)
本発明で用いられる芳香族化合物は、下記一般式(B')で表される。
【0060】
【化14】

【0061】
一般式(B')において、R1〜R8、WおよびTは、上記一般式(B)中のR1〜R8
WおよびTと同義であり、nは上記一般式(B)中のnと同義である。一般式(B')に
おいて、R'およびR''は、上記一般式(A')中のR'およびR''と同義である。
【0062】
上記一般式(B')で表される芳香族化合物として具体的には、n=1の場合、例えば
4,4'−ビス(4−クロロフェニル)ジフェニルエーテルジカルボキシレート、4,4'−ビス〔(4−クロロフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル〕ジフェ
ニルエーテル、4,4'−ビス〔(4−クロロフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフ
ルオロプロピル〕ジフェニルエーテル、4,4'−ビス〔(4−クロロフェニル)テトラフルオロエチル〕ジフェニルエーテル、これらの化合物において塩素原子が臭素原子またはヨウ素原子に置き換わった化合物、さらにこれらの化合物において4位に置換したハロゲン原子が3位に置換した化合物、さらにこれらの化合物においてジフェニルエーテルの4位に置換した基の少なくとも1つが3位に置換した化合物などが挙げられる。
【0063】
さらに上記一般式(B')で表される芳香族化合物としては、2,2−ビス[4−{4−(4−クロロベンゾイル)フェノキシ}フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオ
ロプロパン、ビス[4−{4−(4−クロロベンゾイル)フェノキシ}フェニル]スルホン、および下記式で表される化合物が挙げられる。
【0064】
【化15】

【0065】
上記一般式(B')で表される芳香族化合物は、例えば以下に示す方法で合成すること
ができる。
まずビスフェノールをビスフェノールのアルカリ金属塩とするために、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジフェニルスルホン、ジメ
チルスルホキサイドなどの誘電率の高い極性溶媒中で、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、または水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩などのアルカリ金属化合物を加える。通常、アルカリ金属等はビスフェノールの水酸基に対し、過剰気味で反応させ、通常、1.1〜2倍当量を使用する。好ましくは、1.2〜1.5倍当量の使用である。
【0066】
この際、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、クロ
ロベンゼン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどの水と共沸する溶媒を共存させて、電子吸引性基で活性化された芳香族ジハライド化合物、例えば、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン、4,4'−ジクロロベンゾフェノン、4,4'−クロロフルオロベンゾフェノン、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、4−フルオロフェニル−4'−クロロフェニルスルホン、ビス(3
−ニトロ−4−クロロフェニル)スルホン、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、ヘキサフルオロベンゼン、デカフルオロビフェニル、2,5−
ジフルオロベンゾフェノン、1,3−ビス(4−クロロベンゾイル)ベンゼンなどを反応
させる。芳香族ジハライド化合物は反応性から言えば、フッ素化合物が好ましいが、次の芳香族カップリング反応を考慮した場合、末端が塩素原子となるように芳香族求核置換反応を組み立てる必要がある。活性芳香族ジハライドはビスフェノールに対し、2〜4倍モル、好ましくは2.2〜2.8倍モルの使用である。芳香族求核置換反応の前に予め、ビスフェノールのアルカリ金属塩としていてもよい。反応温度は60℃〜300℃で、好ましくは80℃〜250℃の範囲である。反応時間は15分〜100時間、好ましくは1時間〜24時間の範囲である。最も好ましい方法としては、活性芳香族ジハライドとして反応性の異なるハロゲン原子を一個づつ有するクロロフルオロ体を用いることであり、フッ素原子が優先してフェノキシドと求核置換反応が起きるので、目的の活性化された末端クロロ体を得るのに好都合である。
【0067】
上記一般式(B')で表される芳香族化合物を合成する他の方法としては、特開平2−
159号公報に記載のように求核置換反応と親電子置換反応を組み合わせ、目的の電子吸引性基、電子供与性基からなる屈曲性化合物の合成方法がある。
【0068】
具体的には電子吸引性基で活性化された芳香族ジハライド、例えば、ビス(4−クロロフェニル)スルホンをフェノールとで求核置換反応させてビスフェノキシ置換体とする。次いで、この置換体を例えば、4−クロロ安息香酸クロリドとのフリーデルクラフト反応から目的の化合物を得る。
【0069】
ここで用いる電子吸引性基で活性化された芳香族ジハライドとしては上記で例示した化合物が適用できる。またフェノール化合物は置換されていてもよいが、耐熱性や屈曲性の観点から、無置換化合物が好ましい。なお、フェノール化合物が置換されている場合はアルカリ金属塩であることが好ましく、フェノール化合物を置換する際に使用可能なアルカリ金属化合物としては上記に例示した化合物を使用できる。アルカリ金属化合物の使用量はフェノール1モルに対し、1.2〜2倍モルである。反応に際し、上述した極性溶媒や水との共沸溶媒を用いることができる。
【0070】
目的の化合物を得るには、ビスフェノキシ化合物を塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛などのルイス酸のフリーデルクラフト反応の活性化剤存在下に、アシル化剤として、クロロ安息香酸クロライドを反応させる。クロロ安息香酸クロライドはビスフェノキシ化合物に対し、2〜4倍モル、好ましくは2.2〜3倍モルの使用である。フリーデルクラフト活性化剤は、アシル化剤のクロロ安息香酸などの活性ハライド化合物1モルに対し、1.1〜2倍当量使用する。反応時間は15分〜10時間の範囲で、反応温度は−20℃から80℃の範囲である。使用溶媒は、フリーデルクラフト反応に不活性な、クロロベンゼンやニトロベンゼンなどを用いることができる。
【0071】
また、一般式(B')において、nが2以上である芳香族化合物は、例えば、一般式(
B')において電子供与性基Qであるエーテル性酸素の供給源となるビスフェノール、具
体的には2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビ
ス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキ
シ−3,5−ジフェニルフェニル)フルオレン、2−フェニルフェノール、4,4'−ビス
(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、4,4'−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)ジフェニルメタン、4,4'−ビス(4−ヒドロキシ3,5−ジフェニルフェニル)ジフェニルメタン、2−フェニルヒドロキノンなどのビスフェノールのアルカリ金属塩と過剰の4,4'−ジクロロベンゾフェノン、ビス(4−クロロフェニル)スルホンなどの活性芳香族ハロゲン化合物もしくは4,4'−ジフルオロベンゾフェノンと4,4'−クロロフルオロベンゾフェノン併用系での置換反応をN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホランなどの極性溶媒存在下で前記単量体の合成手法に順次重合して得られる。
【0072】
このような芳香族化合物の例示としては、下記式で表される化合物などを挙げることができる。
【0073】
【化16】

【0074】
【化17】

【0075】
【化18】

【0076】
【化19】

【0077】
【化20】

【0078】
【化21】

【0079】
【化22】

【0080】
上記において、nは正の整数であり、上限は通常100、好ましくは1〜80、さらに好ましくは10〜80である。これらの化合物の分子量はメタノール透過性に大きな影響を及ぼし、分子量が高い程、メタノール透過性が低い値を示す。また、分子量が高すぎる場合には、重合活性低下もしくはスルホン化重合体の溶液粘度が高くなりすぎ好ましくない。
【0081】
上記において、繰り返し単位内の芳香環の数は3以上、好ましくは3〜10である。これらの化合物の芳香環数はメタノール透過性に大きな影響を及ぼし、芳香環数が多い程、メタノール透過性が低い値を示す。また、芳香環数が多すぎる場合には、プロトン伝導度
低下が著しく好ましくない。
【0082】
(ポリアリーレンの合成)
本発明に係るスルホン酸基を有するポリアリーレンの製造に用いられるポリアリーレンは、上記一般式(A')で表される芳香族スルホン酸エステル誘導体から選ばれる少なく
とも1種のモノマー0.05〜99.95モル%、より好ましくは10〜99.5モル%と、上記一般式(B')で表される芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種のモノマー
0.05〜99.95モル%、好ましくは0.5〜90モル%とを触媒の存在下に反応させることにより得られる。
【0083】
このとき使用される触媒は、遷移金属化合物を含む触媒系であり、この触媒系としては、(1)遷移金属塩および配位子となる化合物(以下、「配位子成分」という。)、または
配位子が配位された遷移金属錯体(銅塩を含む)、ならびに(2)還元剤を必須成分とし、
さらに、重合速度を上げるために、「塩」を添加してもよい。
【0084】
ここで、遷移金属塩としては、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、ニッケルアセチルアセトナートなどのニッケル化合物;塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウムなどのパラジウム化合物;塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄などの鉄化合物;塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルトなどのコバルト化合物などが挙げられる。これらのうち特に、塩化ニッケル、臭化ニッケルなどが好ましい。
【0085】
また、配位子成分としては、トリフェニルホスフィン、2,2'−ビピリジン、1,5−
シクロオクタジエン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンなどが挙げられる
。これらのうち、トリフェニルホスフィン、2,2'−ビピリジンが好ましい。上記配位子成分は、1種単独で、あるいは2種以上を併用することができる。
【0086】
さらに、配位子が配位された遷移金属錯体としては、例えば、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、臭化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、ヨウ化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、硝酸ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2'−ビピリジン)、臭化ニッケル(2,2'−ビピリジン)、ヨウ化ニッケル(2,2'−ビピリジン)、硝酸ニッケル(2,2'−ビピリジン)、ビス(1,5−シク
ロオクタジエン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどが挙げられる。これらのうち、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2'−ビピリジン)が好ましい。
【0087】
上記触媒系に使用することができる還元剤としては、例えば、鉄、亜鉛、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウムなどが挙げられる。これらのうち、亜鉛、マグネシウム、マンガンが好ましい。これらの還元剤は、有機酸などの酸に接触させることにより、より活性化して用いることができる。
【0088】
また、上記触媒系において使用することのできる「塩」としては、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどのナトリウム化合物、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硫酸カリウムなどのカリウム化合物;フッ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、硫酸テトラエチルアンモニウムなどのアンモニウム化合物などが挙げられる。これらのうち、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウムが好ましい。
【0089】
各成分の使用割合は、遷移金属塩または遷移金属錯体が、上記モノマーの総計1モルに対し、通常、0.0001〜10モル、好ましくは0.01〜0.5モルである。0.0001モル未満では、重合反応が十分に進行しないことがあり、一方、10モルを超えると、分子量が低下することがある。
【0090】
触媒系において、遷移金属塩および配位子成分を用いる場合、この配位子成分の使用割合は、遷移金属塩1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。0.1モル未満では、触媒活性が不十分となることがあり、一方、100モルを超えると、得られるポリアリーレンの分子量が低下することがある。
【0091】
また、還元剤の使用割合は、上記モノマーの総計1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。0.1モル未満では、重合が十分進行しないことがあり、100モルを超えると、得られるポリアリーレンの精製が困難になることがある。
【0092】
さらに、「塩」を使用する場合、その使用割合は、上記モノマーの総計1モルに対し、通常、0.001〜100モル、好ましくは0.01〜1モルである。0.001モル未満では、重合速度を上げる効果が不十分であることがあり、100モルを超えると、得られるポリアリーレンの精製が困難となることがある。
【0093】
使用することのできる重合溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、γ−ブチロラクタム、ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素などが挙げられる。これらのうち、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。これらの重合溶媒は、十分に乾燥してから用いることが好ましい。
【0094】
重合溶媒中における上記モノマーの総計の濃度は、通常、1〜90重量%、好ましくは5〜40重量%である。
また、重合する際の重合温度は、通常、0〜200℃、好ましくは50〜120℃である。また、重合時間は、通常、0.5〜100時間、好ましくは1〜40時間である。
【0095】
このようにして上記一般式(A')で表される芳香族スルホン酸エステルから選ばれる
少なくとも1種のモノマーと、上記一般式(B')で表される芳香族化合物から選ばれる
少なくとも1種のモノマーとを共重合させることにより、ポリアリーレンを含む重合溶液が得られる。
【0096】
このようにして得られるポリアリーレンの分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、1万〜100万、好ましくは2万〜80万である。
【0097】
(スルホン酸基を有するポリアリーレン)
本発明に係るスルホン酸基を有するポリアリーレンは、上記スルホン酸基を有しないポリアリーレンを加水分解して、上記一般式(A')で表される化合物中のスルホン酸エス
テル基(−SO3R)をスルホン酸基(−SO3H)に転換することにより得ることができる。
【0098】
加水分解は、
(1)少量の塩酸を含む過剰量の水またはアルコールに、上記ポリアリーレンを投入し、
5分間以上撹拌する方法
(2)トリフルオロ酢酸中で上記ポリアリーレンを80〜120℃程度の温度で5〜10時間程度反応させる方法
(3)ポリアリーレン中のスルホン酸エステル基(−SO3R)1モルに対して1〜3倍
モルのリチウムブロマイドを含む溶液、例えばN−メチルピロリドンなどの溶液中で上記ポリアリーレンを80〜150℃程度の温度で3〜10時間程度反応させた後、塩酸を添加する方法
などを挙げることができる。
【0099】
このようにして得られる、スルホン酸基を有するポリアリーレン中の、スルホン酸基量は、0.5〜3meq/g、好ましくは0.8〜2.8meq/gである。0.5meq/g未満では、プロトン伝導性が上がらず、一方3meq/gを超えると、親水性が向上し、水溶性ポリマー、もしくは、水溶性でなくとも熱水に可溶となってしまうか、また水溶性に至らずとも耐久性が低下することがある。
【0100】
上記のスルホン酸基量は、芳香族スルホン酸エステル(A')と芳香族化合物(B')の使用割合、さらにモノマーの種類、組合せを変えることにより、容易に調整することができる。
【0101】
また、スルホン酸基を有するポリアリーレンの構造は、例えば、赤外線吸収スペクトルによって、1,230〜1,250cm-1のC−O−C吸収、1,640〜1,660cm-1のC=O吸収などにより確認でき、また、核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)により、6.8〜8.5ppmの芳香族プロトンのピークから、その構造を確認することができる。
【0102】
本発明においては、ポリアリーレン中のスルホン酸エステル基(−SO3R)の90%
以上が、スルホン酸基(−SO3H)に転換していることが好ましい。
本発明に係るスルホン酸基を有するポリアリーレンの製造方法は、上記芳香族スルホン酸エステルと、適度に疎水化されたセグメントを有する上記芳香族化合物とをモノマーとして用いているので、ポリマーへのスルホン酸基の導入量、および導入位置を制御することができ、またポリマーのメタノール透過性が改良された、直接メタノール型燃料電池用プロトン伝導膜用途に好適なスルホン酸基を有するポリアリーレンを製造することができる。また本発明によると、多量のスルホン化剤を使用することなくスルホン酸基を有するポリアリーレンが製造できる。
【0103】
(プロトン伝導膜)
本発明に係るプロトン伝導膜は、上記スルホン酸基を有するポリアリーレンからなり、例えば上記スルホン酸基を有するポリアリーレンを、溶剤に溶解して溶液とした後、キャスティングにより、基体上に流延し、フィルム状に成形するキャスティング法などにより、フィルム状に成形することにより製造することができる。ここで、上記基体としては、通常の溶液キャスティング法に用いられる基体であれば特に限定されず、例えばプラスチック製、金属製などの基体が用いられ、好ましくは、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。
【0104】
スルホン酸基を有するポリアリーレンからプロトン伝導膜を調製する際には、上記スルホン酸基を有するポリアリーレン以外に、硫酸、リン酸などの無機酸、カルボン酸を含む有機酸、適量の水などを併用してもよい。
【0105】
スルホン酸基を有するポリアリーレンを溶解する溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルア
セトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)などの非プロトン系極性溶剤が挙げられ、特に溶解性、溶液粘度の面から、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。非プロトン系極性溶剤は、1種単独であるいは2種以上を併用することができる。
【0106】
またスルホン酸基を有するポリアリーレンを溶解させる溶媒として上記非プロトン系極性溶剤とアルコールとの混合物も用いることができる。アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどが挙げられ、特にメタノールが幅広い組成範囲で溶液粘度を下げる効果があり好ましい。アルコールは、1種単独であるいは2種以上を併用することができる。
【0107】
溶媒として非プロトン系極性溶剤とアルコールとの混合物を用いる場合には、非プロトン系極性溶剤が95〜25重量%、好ましくは90〜25重量%、アルコールが5〜75重量%、好ましくは10〜75重量%(但し、合計は100重量%)の組成の混合物が用いられる。アルコールの量が上記範囲内にあると、溶液粘度を下げる効果に優れる。
【0108】
スルホン酸基を有するポリアリーレンを溶解させた溶液のポリマー濃度は、スルホン酸基を有するポリアリーレンの分子量にもよるが、通常、5〜40重量%、好ましくは7〜25重量%である。5重量%未満では、厚膜化し難く、また、ピンホールが生成しやすい。一方、40重量%を超えると、溶液粘度が高すぎてフィルム化し難く、また、表面平滑性に欠けることがある。
【0109】
なお、溶液粘度は、スルホン酸基を有するポリアリーレンの分子量や、ポリマー濃度にもよるが、通常、2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。2,000mPa・s未満では、成膜中の溶液の滞留性が悪く、
基体から流れてしまうことがある。一方、100,000mPa・sを超えると、粘度が
高過ぎて、ダイからの押し出しができず、流延法によるフィルム化が困難となることがある。
【0110】
上記のようにして成膜した後、得られた未乾燥フィルムを水に浸漬することにより、未乾燥フィルム中の有機溶剤を水と置換することができ、得られるプロトン伝導膜の残留溶媒量を低減することができる。
【0111】
なお、成膜後、未乾燥フィルムを水に浸漬する前に、未乾燥フィルムを予備乾燥してもよい。予備乾燥は、未乾燥フィルムを通常50〜150℃の温度で、0.1〜10時間保持することにより行われる。
【0112】
未乾燥フィルムを水に浸漬する際は、枚葉を水に浸漬するバッチ方式であっても良いし、通常得られる基板フィルム(例えば、PET)上に成膜された状態の積層フィルムのまま、または基板から分離した膜を水に浸漬させて、巻き取っていく連続方法でも適用できる。
【0113】
バッチ方式の場合は、処理フィルムを枠にはめるなどの方式が処理されたフィルムの表面の皺形成が抑制されるので好都合である。
未乾燥フィルムを水に浸漬する際には、未乾燥フィルム1重量部に対し、水が10重量部以上、好ましくは30重量部以上の接触比となるようにすることがよい。得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量をできるだけ少なくするためには、できるだけ大きな接触比を維持するのがよい。また、浸漬に使用する水を交換したり、オーバーフローさせたりして、常に水中の有機溶媒濃度を一定濃度以下に維持しておくことも、得られるプロトン伝導膜
の残存溶媒量の低減に有効である。プロトン伝導膜中に残存する有機溶媒量の面内分布を小さく抑えるためには、水中の有機溶媒濃度を撹拌等によって均質化させることは効果がある。
【0114】
未乾燥フィルムを水に浸漬する際の水の温度は、好ましくは5〜80℃の範囲である。高温ほど、有機溶媒と水との置換速度は速くなるが、フィルムの吸水量も大きくなるので、乾燥後に得られるプロトン伝導膜の表面状態が荒れる懸念がある。通常、置換速度と取り扱いやすさから10〜60℃の温度範囲が好都合である。
【0115】
浸漬時間は、初期の残存溶媒量や接触比、処理温度にもよるが、通常10分〜240時間の範囲である。好ましくは30分〜100時間の範囲である。
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後乾燥すると、残存溶媒量が低減されたプロトン伝導膜が得られるが、このようにして得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量は通常5重量%以下である。
【0116】
また、浸漬条件によっては、得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量を1重量%以下とすることができる。このような条件としては、例えば未乾燥フィルムと水との接触比を、未乾燥フィルム1重量部に対し、水が50重量部以上、浸漬する際の水の温度を10〜60℃、浸漬時間を10分〜10時間とする方法がある。
【0117】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後、フィルムを30〜100℃、好ましくは50〜80℃で、10〜180分、好ましくは15〜60分乾燥し、次いで、50〜150℃で、好ましくは500mmHg〜0.1mmHgの減圧下、0.5〜24時間、真空乾燥することにより、プロトン伝導膜を得ることができる。
【0118】
本発明の方法により得られるプロトン伝導膜は、その乾燥膜厚が、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmである。
また本発明においては、上記ポリアリーレンを加水分解することなく、上述したような方法でフィルム状に成形した後、上記と同様の方法で加水分解することによりスルホン酸基を有するポリアリーレンからなるプロトン伝導膜を製造することもできる。
【0119】
本発明のプロトン伝導膜中は老化防止剤、好ましくは分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物を含有してもよく、老化防止剤を含有することでプロトン伝導膜としての耐久性をより向上させることができる。
【0120】
本発明で使用することのできる分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロオネート](商品名:IRGANOX 245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品
名:IRGANOX 259)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,
5−ジ−t−ブチルアニリノ)−3,5−トリアジン(商品名:IRGANOX 565)、ペンタエリスリチルーテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロ
ピオネート](商品名:IRGANOX 1010)、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 1035)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(商品名:IRGANOX 1076)、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチルー4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(IRGAONOX 1098)、1,3,5−トリメチル−2,4,6
−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4―ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシア
ヌレイト(商品名:IRGANOX 3114)、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒ
ドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(商品名:Sumilizer GA-80)などを挙げることができる。
【0121】
本発明において、スルホン酸基を有するポリアリーレン100重量部に対して分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物は0.01〜10重量部の量で使用することが好ましい。
【0122】
ここで、本発明にかかる直接メタノール型燃料電池の構成について説明する。図1は、当該直接メタノール型燃料電池の構成図である。
図1に示されるように、直接メタノール型燃料電池は、燃料極1と、この燃料極1と接する電解質膜2と、燃料極1と対向して設けられ、電解質膜2と接する空気極3と、燃料極1及び空気極3と接続された外部回路4を備えている。この電解質膜2は、上述の通り、スルホン化ポリアリーレンを包含している。
【0123】
また、空気極や燃料極は白金などの金属触媒を担持したカーボン、電解質、分散剤などから形成される。
本発明の電解質膜は、優れた低メタノール透過性を示すが、プロトン伝導膜中にバリア膜を組み合わせる、プロトン伝導膜の表面に触媒層をさらに形成するなどの公知の方法を組み合わせることもできる。
【0124】
また、直接メタノール燃料電池は、第1の流路11、第2の流路12、第3の流路13及び第4の流路14を備えている。この第1の流路11には、燃料であるメタノール水溶液が供給される。第2の流路12からは、メタノール分の少なくなった水溶液(二酸化炭素を含む)が排出される。第3の流路13には、酸素を含む空気が供給される。第4の流路14からは、酸素の少なくなったガス(水を含む)が排出される。
【0125】
ここで、直接メタノール型燃料電池において生じる反応について説明する。燃料極1では、メタノールと水とが反応して、二酸化炭素、水素イオンと電子とが生成される。水素イオンは、電解質膜2を通って空気極3に向かい、電子は外部回路4を流れる。即ち、燃料極1では、次の反応が生じる。
CH3OH+H2O→CO2+6H++6e-
空気極3では、酸素と燃料極1からきた水素イオンと外部回路4からきた電子とが反応して水になる。即ち、空気極では、次の反応が生じる。
(3/2)O2+6H++6e-→3H2
全体としての反応を次のように表すことができる。
CH3OH+(3/2)O2→CO2+2H2
本発明のプロトン伝導膜は、例えば一次電池用電解質、二次電池用電解質、燃料電池用高分子固体電解質、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などに利用可能なプロトン伝導性の伝導膜に利用可能である。
【0126】
本発明に係るプロトン伝導膜は、高いプロトン伝導度を保持しつつ、優れた低メタノール透過性を示すので、メタノールを原料として用いる直接メタノール型燃料電池用電解質膜として優れた特性を有しており、家庭用電源向け燃料電池、燃料電池自動車、携帯電話用燃料電池、パソコン用燃料電池、携帯端末用燃料電池、デジタルカメラ用燃料電池、ポータブルCD、MD用燃料電池、ヘッドホンステレオ用燃料電池、ペットロボット用燃料電池、電動アシスト自転車用燃料電池、電動スクーター用燃料電池等の用途に好適に使用することができる。
【0127】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0128】
下記実施例において、スルホン酸等量、分子量、プロトン伝導度およびメタノール透過度は以下のようにして求めた。
1.スルホン酸当量
得られたスルホン酸基を有するポリアリーレンの水洗水が中性になるまで洗浄し、フリーの残存している酸を除いて充分に水洗し、乾燥後、所定量を秤量し、THF/水の混合溶剤に溶解し、フェノールフタレインを指示薬とし、NaOHの標準液を用いて滴定を行い、中和点から、スルホン酸当量を求めた。
【0129】
2.分子量の測定
加水分解前のポリアリーレン重量平均分子量は、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、GPCによって、ポリスチレン換算の分子量を求めた。加水分解後のスルホン酸基を有するポリアリーレンの分子量は、溶剤として臭化リチウムと燐酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶離液として用い、GPCによって、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
【0130】
3.プロトン伝導度の測定
交流抵抗は、5mm幅の短冊状のプロトン伝導膜試料の表面に、白金線(φ=0.5mm)を押し当て、恒温恒湿装置中に試料を保持し、白金線間の交流インピーダンス測定から求めた。すなわち、相対湿度80%、温度25℃、60℃の環境下で交流10kHzにおけるインピーダンスを測定した。抵抗測定装置として、(株)NF回路設計ブロック製のケミカルインピーダンス測定システムを用い、恒温恒湿装置には、(株)ヤマト科学製のJW241を使用した。白金線は、5mm間隔に5本押し当てて、線間距離を5〜20mmに変化させ、交流抵抗を測定した。線間距離と抵抗の勾配から、膜の比抵抗を算出し、比抵抗の逆数から交流インピーダンスを算出し、このインピーダンスから、プロトン伝導率を算出した。
【0131】
比抵抗R(Ω・cm)=0.5(cm)×膜厚(cm)×抵抗線間勾配(Ω/cm)
4.メタノール透過度の評価
メタノール透過抑制能の評価は、直径50mmのプロトン伝導膜試料を所定のセルにセットし、表面側から規定濃度のメタノール水溶液を供給、裏面側から減圧しながら透過液を回収する浸透気化測定装置(パーベーパレーション)により行った。すなわち、メタノール水溶液濃度10wt%、温度25℃の減圧条件下でのメタノールFluxおよび分離係数から特性評価を実施した。
【0132】
メタノールFlux(g/h/m2)=回収透過液量(g)/回収時間(h)/試料面
積(m2)×透過液濃度(%)
分離係数=(透過液濃度/(100−透過液濃度))/(供給液濃度/(100−供給液濃度)
[スルホン酸誘導体エステル誘導体の合成]
[合成例1]
(1) 4−[4−(2,5−ジクロロベンゾイル)フェノキシ]ベンゼンスルホン酸の
ナトリウム塩(A−SO3Na、下記式(I))の調製
【0133】
【化23】

【0134】
攪拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、2,5−ジクロロ−4'−フェノキシベンゾフェノン(A)137.3g(400ミリモル)を加え、続いて1,2−ジクロロエタン(1,2−DCE)500mLを加え、溶解させた。さらに濃硫酸 56mL、無水酢酸 152mLと1,2−DCE 400mLから新しく調製した2Mのアセチル硫酸溶液
を攪拌下に加え、60℃のオイルバスで3時間反応させた。所定時間後、1−プロパノール 300mLの添加で反応を停止した。次いで、反応系を400mLの容積まで濃縮し
、さらにNaOH水溶液(120g(3モル)/水400mL)を加えた。系中の残存1,2−DCEを共沸で溜去して得られた透明な淡黄色溶液を冷却し、析出した沈殿物を濾過した。70℃での真空乾燥で目的の4−[4−(2,5−ジクロロベンゾイル)フェノキシ]ベンゼンスルホン酸のナトリウム塩(A−SO3Na)を微粉状の白色粉末で得た。粗結晶は精製することなく、そのまま次工程に用いた。得られた白色粉末のIRスペクトルを図2に、NMRスペクトルを図3に示す。
(2) 4−[4−(2,5−ジクロロベンゾイル)フェノキシ]ベンゼンスルホン酸ク
ロライド(A−SO2Cl、下記式(II))の調製
【0135】
【化24】

【0136】
A−SO3Naの粗結晶215g(約400ミリモル)にアセトニトリル 300mL、スルホラン 200mLの溶媒を加え、さらに三塩化ホスホリル 245.3g(1.6モル)を加え、70℃で反応させた。さらにN,N−ジメチルアセトアミド5mLを加えて、黄色の懸濁物を71〜73℃で40分撹拌し、3℃まで冷却した。1Lの冷水を反応系の温度が10℃を越えない速度で加えた。沈殿物を濾集し、冷水で洗浄、トルエン350mLで再結晶し、目的のA−SO2Clを収量153g(収率87%(Aを基準にして))の白色結晶(融点130.5〜131.5℃)として得た。この白色結晶のIRスペクトルを図4に、NMRスペクトルを図5に示す。
(3) 4−[4−(2,5−ジクロロベンゾイル)フェノキシ]ベンゼンスルホン酸i
so−ブチル(A−SO3 i−Bu、下記式(III))の調製
【0137】
【化25】

【0138】
A−SO2Cl 22.09g(50ミリモル)を2−メチル−1−プロパノール4.0g(55ミリモル)とピリジン(30mL)溶媒中に、冷却しながら、機械的撹拌下に40分かけて滴下した。濃厚な懸濁液が得られ、12〜15℃でさらに1時間撹拌を継続した。濃塩酸30mLと氷100gを一度に反応系に加えた。懸濁液が徐々に均一になるまで撹拌した。次いで、素早く冷却したブフナーロートで濾過した。白色の粘着性のある沈殿物を回収した。沈殿物は酢酸エチル300mLに再溶解し、分液ロートで水洗し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で溶媒を溜去した。濃縮後の淡黄色油状の液体を熱ヘキサン30mLに溶解し、数日間フリーザー中で放置し、目的とするA−SO3 i−Buの白色結晶(融点:73〜74℃)16.67gを収率70%で得た。この白色結晶のIRスペクトルを図6に、NMRスペクトルを図7に示す。
【0139】
[合成例2]
4−[4−(2,5−ジクロロベンゾイル)フェノキシ]ベンゼンスルホン酸neo−ペンチル(A−SO3 neo-Pe、下記式(IV))の調製
【0140】
【化26】

【0141】
合成例1(2)で得られたものと同様のA−SO2Cl 22.09g(50ミリモル)を2,2−ジメチル−1−プロパノール 4.85g(55ミリモル)とピリジン 30m
Lとを含む溶液中に冷却しながら機械的攪拌下に40分かけて滴下した。濃厚な懸濁液が得られ、12〜15℃でさらに1時間攪拌を継続した。
【0142】
濃塩酸30mLと氷100gを反応させて、沈殿物が生成した。沈殿物を濾集後、冷水で洗浄、乾燥し、次いで沸騰トルエン150mLと接触させた。不溶分(大部分はA−SO3Hのピリジニウム塩)を濾過で除去し、濾液を40mLまで濃縮した。濃縮物をフリ
ーザーで放置し、A−SO3 neo-Peの白色結晶(融点:112.0〜112.5℃)を析出させた。収量16.92g、収率69%であった。この白色結晶のIRスペクトルを図8に、NMRスペクトルを図9に示す。
【0143】
[BCPHQオリゴマーの調製]
[合成例3]
撹拌機、温度計、冷却管、Dean-Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1Lの三つ口のフラスコに、2−フェニルヒドロキノン(2−PhHQ)45.4g(0.244モル)、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン(4,4'−DFBP)52.3g(0.24
0モル)、炭酸カリウム 35.3g(0.257モル)、NMP 600mL、トルエン
300mLをとり、オイルバス中、窒素雰囲気下で加熱し撹拌下130℃で反応させた
。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean-Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を130℃から徐々に150℃まで上げた。その後、反応温度を徐々に150℃まで上げながら大部分のトルエンを除去し、150℃で10時間反応を続けた後、4,4'−クロロフルオロベンゾフェノン(4,4'−CFBP)7.0g(0.032モル)を加え、さらに5時間反応した。得られた反応液を放冷後、副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を4Lの
メタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥後、テトラヒドロフラン
300mLに溶解した。これをメタノール4Lに再沈殿し、目的の化合物78g(収率
88%)を得た。
【0144】
得られた重合体のGPC(THF溶媒)で求めたポリスチレン換算の重量平均分子量は14,800であった。また、得られた重合体はTHF、NMP、DMIなどに可溶で、
Tgは149℃、熱分解温度Td5は480℃であった。この重合体のIRスペクトルを図10に示す。
【0145】
得られた重合体は式(V)で表されるオリゴマー(以下、「BCPhHQオリゴマー」ともいう。)であった。
【0146】
【化27】

【0147】
[合成例4]
上記合成例3で用いた、2−フェニルヒドロキノン(2−PhHQ)45.4g(0.244モル)の代わりに、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フル
オレン(FLPBP)124.7g(0.248モル)、溶媒をNMPの代わりにDMAcを用いた。その他は、合成例3同様に反応、後処理を行った。目的の化合物150g(収率83%)を得た。
【0148】
得られた重合体のGPC(THF溶媒)で求めたポリスチレン換算の重量平均分子量は19,600であった。また、得られた重合体はTHF、NMP、DMIなどに可溶で、
Tgは223℃、熱分解温度Td5は558℃であった。この重合体のIRスペクトルを図11に示す。
【0149】
得られた重合体は式(VI)で表されるオリゴマー(以下、「BCFLPオリゴマー」ともいう。)であった。
【0150】
【化28】

【0151】
[ポリアリーレンの重合]
[実施例1]
《ネオペンチル基を保護基としたポリアリーレン共重合体(PolyA・BCPhHQ−SO3 neo-Pe)の調製》
乾燥したNMP 129mLを、合成例1で得られたA−SO3 neo-Pe 39.69g(98.9ミリモル)と合成例3で得られたBCPhHQオリゴマー(Mn=14,80
0)17.12g(1.1ミリモル)、Ni(PPh32Cl2 1.96g(0.30ミリモル)、PPh3 10.49g(4.00ミリモル)、NaI 0.45g(0.30
ミリモル)、亜鉛末 15.69g(24.0ミリモル)の混合物中に窒素下で加え、反
応系を撹拌下に加熱(最終的には74℃まで加温)した。重合反応開始後60分で系中の粘度の上昇が観察された。撹拌しながら重合反応を3時間継続後、THF 250mLで
希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い濾過し、濾液を大過剰のメタノール1500mLに注ぎ凝固した。凝固物を濾集、風乾し、さらにTHF/NMP(それぞれ200/30mL)に再溶解し、大過剰のメタノール1500mLで凝固析出させた。風乾後、加熱乾燥で目的の黄色繊維状のネオペンチル基で保護されたスルホン酸誘導体からなる共重合体(PolyA・BCPhHQ−SO3 neo-Pe)44.5g(収率89%)を得た。この共重合体のGPCによる分子量は、Mn=50,900、Mw=149,700であった。この共重合体のIRスペクトルを図12に示す。
【0152】
《加水分解によるPolyA・BCPhHQ−SO3 neo-Peから、スルホン酸基を有するポリアリーレン(PolyA・BCPhHQ−SO3H)への転換》
上記PolyA・BCPhHQ−SO3 neo-Pe 35.0gを、リチウムブロマイド 10.03g(SO3 neo-Peに対し、1.5ミリモル)を含むNMP 260mLに徐々に加えた。粘ちょうな溶液を120℃まで加温した。反応は、サンプリングでエステル基の脱保護率をIRで確認しながら行い、合計8時間反応させた。反応後、室温まで放冷した。沈殿物を濾集し、濾集物をアセトン 400mLに懸濁撹拌し洗浄した。さらに濾集し、10%塩酸水溶液でイオン交換を行った後、風乾し、粗生成物を得た。粗生成物を水で2回洗浄し、最終的に淡褐色の粉状ポリマー(ポリマー(1))を得た。
【0153】
得られたポリマーの12重量%NMP溶液をガラス板上にキャストして製膜した。風乾、真空乾燥し、乾燥膜厚40μmのフィルムを得た。IRスペクトルおよびイオン交換容量の定量分析から、スルホン酸エステル基(−SO3R)は定量的にスルホン酸基(−SO3H)に転換していることがわかった。
【0154】
IRスペクトルを図13に示す。ポリマー中のスルホン酸基量は2.1ミリグラム当量/g(重合時のモノマー仕込みモルからは2.2ミリグラム当量/g)であった。
[実施例2]
《ネオペンチル基を保護基としたポリアリーレン共重合体(PolyA・BCFLP−SO3 neo-Pe)の調製》
BCPhHQオリゴマー(Mn=14,800)17.12g(1.1ミリモル)の代
わりに合成例4で得られたBCFLPオリゴマー(Mn=19,600)15.43g(
0.9ミリモル)を用い、その他の試薬は実施例1と同量使用した。操作については、実施例1同様に重合、後処理を行った。
【0155】
目的の黄色繊維状のネオペンチル基で保護されたスルホン酸誘導体からなる共重合体(PolyA・BCFLP−SO3 neo-Pe)35.89g(収率72%)を得た。GPCによる分子量は、Mn=77,500、Mw=165,300であった。IRスペクトルを図14に示す。
【0156】
《加水分解によるPolyA・BCFLP−SO3 neo-Peから、スルホン酸基を有するポリア
リーレン(PolyA・BCFLP−SO3H)への転換》
PolyA・BCPhHQ−SO3 neo-Peの代わりに上記PolyA・BCFLP−SO3 neo-P
e 30g、NMP 40mL、リチウムブロマイド 8.6gを用いたこと以外は実施例
1と同様の方法で操作を行い、最終的に淡褐色の粉状ポリマー(ポリマー(2))を得た。
【0157】
得られたポリマーの12重量%NMP溶液をガラス板上にキャストして製膜した。風乾、真空乾燥し、乾燥膜厚40μmのフィルムを得た。IRスペクトルおよびイオン交換容量の定量分析から、スルホン酸エステル基(−SO3R)はスルホン酸基(−SO3H)に転換していることがわかった。
【0158】
IRスペクトルを図15に示す。ポリマー中のスルホン酸基量は2.2ミリグラム当量/g(重合時のモノマー仕込みモルからは2.2ミリグラム当量/g)であった。
上記実施例で得られたスルホン酸基を有するポリアリーレンのフィルムの特性を下記表に示す。
【0159】
【表1】

【0160】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】本発明に係る直接メタノール型燃料電池の一例を示す構成図である。
【図2】合成例1(1)で得られた白色粉末のIRスペクトルである。
【図3】合成例1(1)で得られた白色粉末のNMRスペクトルである。
【図4】合成例1(2)で得られた白色結晶のIRスペクトルである。
【図5】合成例1(2)で得られた白色結晶のNMRスペクトルである。
【図6】合成例1(3)で得られた白色結晶のIRスペクトルである。
【図7】合成例1(3)で得られた白色結晶のNMRスペクトルである。
【図8】合成例2で得られた白色結晶のIRスペクトルである。
【図9】合成例2で得られた白色結晶のNMRスペクトルである。
【図10】合成例3で得られたポリアリーレンのIRスペクトルである。
【図11】合成例4で得られたポリアリーレンのIRスペクトルである。
【図12】実施例1で得られたポリアリーレンのIRスペクトルである。
【図13】実施例1で得られたスルホン酸基を有するポリアリーレンのIRスペクトルである。
【図14】実施例2で得られたポリアリーレンのIRスペクトルである。
【図15】実施例2で得られたスルホン酸基を有するポリアリーレンのIRスペクトルである。
【符号の説明】
【0162】
1 燃料極(負極)
2 電界質膜
3 空気極(正極)
4 外部回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A’)で表されることを特徴とする芳香族スルホン酸エステル;
【化1】

(式(A')中、Xは−または電子吸引基または電子供与基を示し、Rは炭化水素基を示
し、R'およびR''はフッ素原子を除くハロゲン原子または−OSO2Z(ここで、Zはアルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を示す。)で表される基を示し、mは0〜10の整数を示し、mが1〜10のときはXは互いに同一でも異なっていてもよく、kは0〜5の整数を示し、lは0〜4の整数を示し、k+l≧1である。)
【請求項2】
芳香族化合物から導かれる構成単位からなり、少なくとも下記一般式(A)で表される構成単位を含むことを特徴とするポリアリーレン;
【化2】

(式(A)中、Xは−または電子吸引基または電子供与基を示し、mは0〜10の整数を示し、mが1〜10のときはXは互いに同一でも異なっていてもよく、kは0〜5の整数を示し、lは0〜4の整数を示し、k+l≧1である。)
【請求項3】
請求項1に記載の芳香族スルホン酸エステルを少なくとも含む芳香族化合物をカップリング重合し、得られたポリアリーレンを加水分解することを特徴とするスルホン酸基を有するポリアリーレンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−254486(P2007−254486A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127863(P2007−127863)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【分割の表示】特願2003−143914(P2003−143914)の分割
【原出願日】平成15年5月21日(2003.5.21)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】