説明

新規アルケニルビフェニル誘導体

【課題】 TN-Iが高く、かつ粘性が3環化合物としては小さい液晶性化合物として新規アルケニルビフェニル誘導体を提供し、さらにこれを用いてより低粘性で液晶温度範囲が広い液晶組成物を提供する。
【解決手段】 一般式(I)
【化1】


において、環Aがフッ素置換されていてもよい1,4−フェニレン基を表し、環Bがフッ素置換された1,4−フェニレン基を表す化合物を提供する。当該化合物を用いた液晶組成物は液晶相温度範囲が広く粘性が高い特徴を有することから、液晶表示素子の構成部材として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規液晶性化合物である、アルケニルビフェニル誘導体とそれを含有する液晶組成物に関する。これらは電気光学的液晶表示、特にネマチック液晶表示用材料として有用である。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、時計、電卓をはじめとして、各種測定機器、自動車用パネル、ワードプロセッサー、電子手帳、プリンター、コンピューター、テレビ等に用いられるようになっている。液晶表示方式としては、その代表的なものにTN(捩れネマチック)型、STN(超捩れネマチック)型、DS(動的光散乱)型、GH(ゲスト・ホスト)型あるいはFLC(強誘電性液晶)等があり、また駆動方式としても従来のスタティック駆動からマルチプレックス駆動が一般的になり、さらに単純マトリックス方式、最近ではアクティブマトリックス方式が実用化されている。
【0003】
これらの表示方式や駆動方式に応じて、液晶材料としても種々の特性が要求されているが、中でも高速応答性と広い温度範囲とはほとんどの場合に共通して非常に重要である。
【0004】
応答を高速化するために液晶材料に求められる物性は直接的には(i)粘性を小さくするか、あるいは(ii)弾性定数を大きくすることである。しかしながら、弾性定数を大きくした場合には閾値電圧が上昇することが多い。従って、低電圧駆動が要求される場合には、弾性定数はあまり大きくせずにその粘性を小さくすることが必要である。
【0005】
広い温度範囲を示す液晶材料を得るためにはネマチック相上限温度(TN-I)が高い化合物を添加する必要がある。ところが、一般に粘性が小さい化合物は液晶性が低く、逆に液晶性に優れた化合物は粘性が大きいことが多いため、液晶相温度範囲が高温域まで広い液晶組成物を得ようとするとその粘性も大きくなる傾向にあった。
【0006】
以上のことから、温度範囲が広くかつ高速応答が可能な液晶組成物を調製するためには、ネマチック相上限温度(TN-I)が高く、かつその粘性があまり大きくない液晶化合物が必要であることがわかる。
【0007】
現在、こうした条件を比較的よく満足させている液晶性化合物としては例えば、一般式(IIa)及び(IIb)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Raは及びRbは直鎖状アルキル基を表し、Rcは直鎖状アルケニル基を表す。)で表されるシクロヘキシルビフェニル誘導体をあげることができる。しかし、これらを用いても表示品質の向上に伴う液晶材料の特性向上の要求には応え難くなってきているのが実情であり、さらに優れた特性を有する液晶化合物が望まれている。
【0010】
液晶化合物において、その側鎖アルキル基に換えて、二重結合を導入したアルケニル基を用いることにより、上記の効果(粘性の低下、TN-Iの上昇)が得られる場合があることが知られている。しかしながら、こうした場合のアルケニル基はそのほとんどが一般式(IIb)の化合物のようにシクロヘキサン環に直接結合しており、アルケニル基(特に3−アルケニル基)がビフェニル基のベンゼン環に直接結合したような化合物は、その骨格へのアルケニル基の導入が決して容易ではないこともあって、具体的化合物はこれまでほとんど知られていないのが実状である。
【0011】
ところで、本発明の一般式(I)のアルケニルビフェニル誘導体は前述の通り新規な化合物であるが、論理上、一般式(I)を包含しうる一般式自体は例がないわけではない。
【0012】
特許文献1にはその側鎖としてアルケニル基あるいはアルケニルオキシ基を含有する非常に多くの化合物を包含するような一般式(V)
【0013】
【化2】

【0014】
が示されている。この一般式(V)の示す範囲は非常に広大であり、そのR1、B、m、A及びR2の選択によっては本発明の一般式(I)で表される化合物が含まれてしまう。
【0015】
しかしながら、本公報に示されている具体的化合物はすべて、アルケニル基がシクロヘキサン環(またはジオキサン環)に直結しており、本発明における一般式(I)の化合物のようにアルケニル基がベンゼン環に直結した化合物、即ち一般式(V)において、環Bが1,4−フェニレン基を表す場合の化合物は全く記載されていない。
【0016】
さらに、本公報には環Bが1,4−フェニレン基を表す場合の化合物についてはその一般的な合成方法すら記載されていない。また本公報に従えば、メトキシメチルトリフェニルホスホニウム塩から調製したウィッティヒ反応剤をアルデヒドに反応させて炭素鎖を伸張したアルデヒドを合成し、これにアルキルウィッティヒ反応剤を反応させることにより、1−アルケニル基以外のアルケニル基を導入している。しかしながら、この方法を本発明の一般式(I)の化合物のように3−ブテニル基がベンゼン環に直結する化合物に適用しようとしても、中間体の加水分解が進行しにくいので、その合成は困難である。
【0017】
以上のように、本発明の一般式(I)の化合物が、本公報により開示されていたとは到底言い難いものである。
【0018】
一方、シクロヘキシルアルケニルビフェニル誘導体の開示(特許文献2参照)又は、アルケニル基を有するテルフェニル誘導体の開示(特許文献3参照)等もある。しかしながら、これらの文献による開示は本願発明に化合物を示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭61−83136号公報
【特許文献2】特開昭61−27929号公報(実施例)
【特許文献3】英国特許出願公開第2281566号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明が解決しようとする課題は、以上の目的に応じるため、TN-Iが高く、かつ粘性が3環化合物としては小さい液晶性化合物として新規アルケニルビフェニル誘導体を提供し、さらにこれを用いてより低粘性で液晶温度範囲が広い液晶組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記課題を解決するために、
1.一般式(I)
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、環Aはフッ素置換されていてもよい1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基を表し、環Bはフッ素置換されていてもよい1,4−フェニレン基を表し、R’は水素あるいは炭素原子数1〜5のアルキル基を表す。また、R’がアルキル基である場合、二重結合はシス(Z)あるいはトランス(E)である。)で表されるアルケニルビフェニル誘導体。
2.一般式(I)において、R’が水素原子を表すところの上記1記載のアルケニルビフェニル誘導体。
3.一般式(I)において、環Aはトランス−1,4−シクロヘキシレン基を表し、環Bは1,4−フェニレン基を表すところの上記1または2記載のアルケニルビフェニル誘導体。
4.上記1、2または3記載のアルケニルビフェニル誘導体を含有する液晶組成物。
5.上記4記載の液晶組成物を用いた表示素子。
を前記課題の解決手段として見出した。
【発明の効果】
【0024】
本発明により提供される、アルケニルビフェニル誘導体は、実施例にも示したように工業的にも容易に製造することができる。得られたアルケニルビフェニル誘導体は、従来用いられている同様あるいは類似骨格を有する3環性のビフェニル誘導体化合物と比較すると、ネマチック相上限温度が高く、その応答性の改善効果に優れるため、それ含有する液晶組成物は実用的液晶として特に温度範囲が広く高速応答を必要とする液晶表示用として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の一例について説明する。一般式(I)において、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基を表すが、炭素原子数1〜7の直鎖状アルキル基が好ましい。環Aはフッ素置換されていてもよい1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基を表すが、2−フルオロ−1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基が好ましく、トランス−1,4−シクロヘキシレン基が特に好ましい。環Bはフッ素置換されていてもよい1,4−フェニレン基を表すが、1,4−フェニレン基、3−フルオロ−1,4−フェニレン基または2−フルオロ−1,4−フェニレン基が好ましく1,4−フェニレン基が特に好ましい。R’は水素あるいは炭素原子数1〜5のアルキル基を表すが、側鎖があまり長くなると粘性が上昇するので水素あるいはメチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。また、R’がアルキル基である場合、二重結合の立体配置はシス(Z)あるいはトランス(E)であるが、トランス(E)が好ましい。
【0026】
従って、一般式(I)で表される化合物の中で以下の一般式(Ia)〜(Id)が好ましい。
【0027】
【化4】

【0028】
(式中、R1は炭素原子数1〜12のアルキル基を表す。)これら一般式(Ia)〜(Id)のなかでは、一般式(Ia)で表される化合物が特に好ましい。
本発明の一般式(I)の化合物は以下のようにして製造することができる。
【0029】
即ち、一般式(IIIa)
【0030】
【化5】

【0031】
で表される有機金属反応剤と一般式(IVb)
【0032】
【化6】

【0033】
で表される化合物とを触媒存在下に反応させることにより製造することができる。上式において、XはLi、MgBr、MgIまたはMgClを表すが、MgBrまたはMgIが好ましい。Yは臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子、p−トルエンスルホニル基、メタンスルホニル基あるいはトリフルオロメタンスルホニル基等の脱離基を表すが、臭素原子あるいはヨウ素原子が好ましい。また、R、環A、環B及びR’は一般式(I)におけると同じ意味を表す。
【0034】
触媒としてはパラジウム(0)錯体、パラジウム(II)錯体またはニッケル(II)錯体が好ましく、特にパラジウム(0)錯体が好ましい。
あるいは一般式(I)の化合物は、一般式(IIIb)
【0035】
【化7】

【0036】
の化合物と一般式(IVa)
【0037】
【化8】

【0038】
で表される有機金属反応剤とを同様に反応させることによっても製造することができる。ここで、上式において、X、Y、R、環A、環B及びR’は前述と同じ意味を表す。
【0039】
斯くして製造された本発明の化合物の一般式(I)で表される化合物のうち代表的なものの相転移温度を第1表に掲げる。
【0040】
【表1】

【0041】
(表中、Crは結晶相を、SBはスメクチックB相を、Nはネマチック相を、Iは等方性液体相をそれぞれ表し、相転移温度は「℃」である。)本発明の化合物を液晶組成物中に添加することにより得られる優れた効果は以下の通りである。
一般式(I)で表される化合物の中で第1表中に示され、環Aがトランス−1,4−シクロヘキシレン基、環Bが1,4−フェニレン基をあらわし、R’=Hである代表的な式(I−1)
【0042】
【化9】

【0043】
の化合物20重量%及びホスト液晶組成物(M)
【0044】
【化10】

【0045】
80重量%からなる液晶組成物(M−1)を調製した。ここで(M)の物性値は以下の通りである。
TN-I: 116.7℃
応答時間(τr=τd):25.3m秒
屈折率異方性(Δn): 0.090
ここで、応答時間は20℃において立ち上がり時間(τr)と立ち下がり時間(τd)が等しくなる電圧印加時の測定値である。
【0046】
これに対して(M−1)の物性値は以下のようであった。
TN-I: 128.6℃
応答時間(τr=τd):21.0m秒
屈折率異方性(Δn): 0.108
このようにそのTN-Iは約12°も上昇したにもかかわらず、応答時間は約20%も短縮されていることがわかる。
【0047】
これに対して、一般式(I)と同様にシクロヘキシルビフェニル骨格を有するが、両側鎖がともに直鎖状アルキル基である一般式(IIa)で表される式(IIa−1)
【0048】
【化11】

【0049】
の化合物20重量%及びホスト液晶80重量%からなる組成物(Ma−1)の物性値は以下のようであった。
TN-I: 125.5℃
応答時間(τr=τd):22.5m秒
屈折率異方性(Δn): 0.105
従って、ホスト液晶(M)に対しては応答時間及びネマチック相上限温度(TN-I)ともに、改善されているけれども、これを(M−1)の物性値と比較すると(TN-I)が約3°低くなっているにもかかわらず、応答は約7%遅くなってしまっていることがわかる。
【0050】
次に、同様の骨格を有し、アルケニル基がシクロヘキサン環に直結した構造を有する一般式(IIb)で表される式(IIb−1)及び式(IIb−2)
【0051】
【化12】

【0052】
を用いて組成物を調製した。式(IIb−1)の化合物20重量%及びホスト液晶(M)80重量%からなる組成物(Mb−1)、式(IIb−2)の化合物20重量%及びホスト液晶(M)80重量%からなる組成物(Mb−2)の物性値は以下のようであった。
(Mb−1)
TN-I: 122.5℃
応答時間(τr=τd):22.1m秒
屈折率異方性(Δn): 0.109
(Mb−2)
TN-I: 128.5℃
応答時間(τr=τd):21.8m秒
屈折率異方性(Δn):0.110
従って、ホスト液晶(M)や前述の(Ma−1)に対しては応答時間は改善されているけれども、これを本発明の(M−1)の物性値と比較すると応答は遅くなってしまっていることがわかる。
【0053】
従って、本発明の(I−1)の化合物は、低粘性で応答性に優れかつネマチック相温度範囲の広い液晶組成物を得る上において、(IIa−1)や(IIb−1)あるいは(IIb−2)の化合物より優れた効果を示すことが明らかである。
【0054】
従って、本発明の一般式(I)の化合物は、他のネマチック液晶化合物との混合物の状態で、TN型あるいはSTN型等の電界効果型表示セル用として、特に低粘性高速応答性の材料として好適に使用することができる。また、一般式(I)の化合物は分子内に強い極性基を持たないので、大きい比抵抗と高い電圧保持率を得ることが容易であり、アクティブマトリックス駆動用液晶材料の構成成分として使用することも可能である。本発明はこのように一般式(I)で表される化合物の少なくとも1種類をその構成成分として含有する液晶組成物をも提供するものである。
【0055】
この組成物中において、一般式(I)の化合物と混合して使用することのできるネマチック液晶化合物の好ましい代表例としては、例えば、4−置換安息香酸4−置換フェニル、4−置換シクロヘキサンカルボン酸4−置換フェニル、4−置換シクロヘキサンカルボン酸4’−置換ビフェニリル、4−(4−置換シクロヘキサンカルボニルオキシ)安息香酸4−置換フェニル、4−(4−置換シクロヘキシル)安息香酸4−置換フェニル、4−(4−置換シクロヘキシル)安息香酸4−置換シクロヘキシル、4,4’−置換ビフェニル、1−(4−置換シクロヘキシル)−4−置換ベンゼン、4,4’−置換ビシクロヘキサン、1−[2−(4−置換シクロヘキシル)エチル]−4−置換ベンゼン、1−(4−置換シクロヘキシル)−2−(4−置換シクロヘキシル)エタン、4,4”−置換ターフェニル、4−(4−置換シクロヘキシル)−4’−置換ビフェニル、4−[2−(4−置換シクロヘキシル)エチル]−4’−置換ビフェニル、4−(4−置換フェニル)−4’−置換ビシクロヘキサン、4−[2−(4−置換シクロヘキシル)エチル]−4’−置換ビフェニル、4−[2−(4−置換シクロヘキシル)エチル]シクロヘキシル−4’−置換ベンゼン、4−[2−(4−置換フェニル)エチル]−4’−置換ビシクロヘキサン、1−(4−置換フェニルエチニル)−4−置換ベンゼン、1−(4−置換フェニルエチニル)−4−(4−置換シクロヘキシル)ベンゼン、2−(4−置換フェニル)−5−置換ピリミジン、2−(4’−置換ビフェニリル)−5−置換ピリミジン及び上記各化合物においてベンゼン環が側方置換基を有する化合物等を挙げることができる。
【0056】
このうちアクティブマトリックス駆動用としては4,4’−置換ビフェニル、1−(4−置換シクロヘキシル)−4−置換ベンゼン、4,4’−置換ビシクロヘキサン、1−[2−(4−置換シクロヘキシル)エチル]−4−置換ベンゼン、1−(4−置換シクロヘキシル)−2−(4−置換シクロヘキシル)エタン、4,4”−置換ターフェニル、4−(4−置換シクロヘキシル)−4’−置換ビフェニル、4−[2−(4−置換シクロヘキシル)エチル]−4’−置換ビフェニル、4−(4−置換フェニル)−4’−置換ビシクロヘキサン、4−[2−(4−置換シクロヘキシル)エチル]−4’−置換ビフェニル、4−[2−(4−置換シクロヘキシル)エチル]シクロヘキシル−4’−置換ベンゼン、4−[2−(4−置換フェニル)エチル]−4’−置換ビシクロヘキサン、1−(4−置換フェニルエチニル)−4−置換ベンゼン、1−(4−置換フェニルエチニル)−4−(4−置換シクロヘキシル)ベンゼン及び上記においてベンゼン環がフッ素置換されている化合物が適している。
【実施例】
【0057】
以下に本発明の実施例を示し、本発明を更に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、質量スペクトル(MS)及び赤外吸収スペクトル(IR)により確認した。また、組成物の「%」は『重量%』を表す。
(参考例1)4−(トランス−4−プロピルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニル(第1表中のNo.(I−1)の化合物)の合成
【0058】
【化13】

【0059】
4−ブロモ−1−(3−ブテニル)ベンゼン7.2gのテトラヒドロフラン(THF)30mL溶液をマグネシウム0.83g中に溶媒の還流が穏やかに持続する速度で滴下した。滴下終了後、さらに1時間加熱還流させ、室温まで冷却した。得られたグリニヤール反応剤を40℃以下で1−(トランス−4−プロピルシクロヘキシル)−4−ヨードベンゼン9.3g及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)330mgのTHF40mL溶液に1時間で滴下し、さらに室温で1時間攪拌した。水及び10%塩酸を加え、水層を分離後、トルエンで抽出し、有機層をあわせ、10%塩酸、水次いで飽和食塩水で洗滌した。無水硫酸ナトリウムで脱水乾燥させた後、溶媒を溜去して4−(トランス−4−プロピルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニルの粗結晶12.6gを得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)を用いて精製し、さらにエタノールから再結晶させて精製物8.0gを得た。この化合物は室温では結晶相を示し、その融点は147℃であり、149.5℃までスメクチックB(SB)相を、214℃までネマチック(N)相を示した。
【0060】
同様にして以下の化合物を得た。
4−(トランス−4−メチルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニル
4−(トランス−4−エチルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニル
4−(トランス−4−ブチルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニル
4−(トランス−4−ペンチルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニル
4−(トランス−4−ヘプチルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニル
3−フルオロ−4−(トランス−4−メチルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニル
3−フルオロ−4−(トランス−4−エチルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニル
3−フルオロ−4−(トランス−4−プロピルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニル
3−フルオロ−4−(トランス−4−ブチルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニル
3−フルオロ−4−(トランス−4−ペンチルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニル
3−フルオロ−4−(トランス−4−ヘプチルシクロヘキシル)−4’−(3−ブテニル)ビフェニル
(実施例1)2−フルオロ−4−プロピル−4"−(3−ブテニル)テルフェニルの合成
参考例1において、1−(トランス−4−プロピルシクロヘキシル)−4−ヨードベンゼンに換えて、2−フルオロ−4−プロピル−4’−ヨードビフェニルを用いた他は同様にして、表記化合物を得た。
同様にして以下の化合物を得た。
2−フルオロ−4−メチル−4"−(3−ブテニル)テルフェニル
2−フルオロ−4−エチル−4"−(3−ブテニル)テルフェニル
2−フルオロ−4−ブチル−4"−(3−ブテニル)テルフェニル
2−フルオロ−4−ペンチル−4"−(3−ブテニル)テルフェニル
2−フルオロ−4−ヘプチル−4’’−(3−ブテニル)テルフェニル
2’−フルオロ−4−メチル−4’’−(3−ブテニル)テルフェニル
2’−フルオロ−4−エチル−4’’−(3−ブテニル)テルフェニル
2’−フルオロ−4−プロピル−4’’−(3−ブテニル)テルフェニル
2’−フルオロ−4−ブチル−4’’−(3−ブテニル)テルフェニル
2’−フルオロ−4−ペンチル−4’’−(3−ブテニル)テルフェニル
2’−フルオロ−4−ヘプチル−4’’−(3−ブテニル)テルフェニル
(参考例2)液晶組成物の調製(1)
汎用のホスト液晶(M)
【0061】
【化14】

【0062】
を調製した。このホスト液晶(M)は116.7℃以下でネマチック相を示す。この組成物の応答時間及び屈折率異方性(Δn)は以下の通りであった。
応答時間(τr=τd): 25.3m秒
屈折率異方性(Δn): 0.090
ここで、応答時間は20℃において立ち上がり時間(τr)と立ち下がり時間(τd)が等しくなる電圧印加時の測定値である。
【0063】
これに、一般式(I)で表される化合物の中で実施例1で得られた代表的な式(I−1)
【0064】
【化15】

【0065】
の化合物20重量%及びホスト液晶(M)80重量%からなる液晶組成物(M−1)を調製した。この(M−1)の物性値は以下のようであった。
TN-I: 128.6℃
応答時間(τr=τd):21.0m秒
屈折率異方性(Δn): 0.108
このようにそのTN-Iは約12°も上昇したにもかかわらず、応答時間は約20%も短縮されていることがわかる。
(比較例1)一般式(I)と同様にシクロヘキシルビフェニル骨格を有するが、両側鎖がともに直鎖状アルキル基である一般式(IIa)で表される式(IIa−1)
【0066】
【化16】

【0067】
の化合物20重量%及びホスト液晶(M)80重量%からなる組成物(Ma−1)の物性値は以下のようであった。
(Ma−1)
TN-I: 125.5℃
応答時間(τr=τd):22.5m秒
屈折率異方性(Δn): 0.105
従って、ホスト液晶(M)に対しては応答時間及びネマチック相上限温度(TN-I)ともに、改善されているけれども、これを(M−1)の物性値と比較すると(TN-I)が約3°低くなっているにもかかわらず、応答は約7%遅くなってしまっていることがわかる。
(比較例2)一般式(I)と同様にシクロヘキシルビフェニル骨格を有するが、アルケニル基がシクロヘキサン環に直結した構造を有する一般式(IIb)で表される式(IIb−1)及び式(IIb−2)
【0068】
【化17】

【0069】
を用いて組成物を調製した。式(IIb−1)の化合物20重量%及びホスト液晶(M)80重量%からなる組成物(Mb−1)、式(IIb−2)の化合物20重量%及びホスト液晶(M)80重量%からなる組成物(Mb−2)の物性値は以下のようであった。
(Mb−1)
TN-I: 122.5℃
応答時間(τr=τd):22.1m秒
屈折率異方性(Δn): 0.109
(Mb−2)
TN-I: 128.5℃
応答時間(τr=τd):21.8m秒
屈折率異方性(Δn): 0.110
従って、ホスト液晶(M)や前述の(Ma−1)に対しては応答時間は改善されているけれども、これを(M−1)の物性値と比較すると応答は遅くなってしまっていることがわかる。
【0070】
従って、本発明の(I−1)の化合物は、低粘性で応答性に優れかつネマチック相温度範囲の広い液晶組成物を得る上において、(IIa−1)や(IIb−1)あるいは(IIb−2)の化合物より優れた効果を示すことが明らかである。
(参考例3)液晶組成物の調製(2)
STN表示用として汎用のホスト液晶(H)
【0071】
【化18】

【0072】
を調製した。このホスト液晶(H)は54.5℃以下でネマチック相を示す。この組成物の応答時間及び屈折率異方性(Δn)は以下の通りであった。
応答時間(τr=τd):39.2m秒
屈折率異方性(Δn): 0.092
このホスト液晶(H)80%及び前述の式(I−1)の化合物20%からなるネマチック液晶組成物(H−1)を調製した。この(H−1)の特性値は以下のようであった。
TN-I: 78.9℃
応答時間(τr=τd):41.9m秒
屈折率異方性(Δn): 0.115
このようにそのTN-Iは約25°も上昇しているにもかかわらず、応答時間は約7%増加したにすぎない。従って、(I−1)の化合物は温度範囲が高温域まで広く、かつ粘性の小さいネマチック液晶組成物を得るために極めて有効であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、環Aはフッ素置換されていてもよい1,4−フェニレン基を表し、環Bはフッ素置換された1,4−フェニレン基を表し、R’は炭素原子数1〜5のアルキル基を表す。また、二重結合はシス(Z)あるいはトランス(E)である。)で表されるアルケニルビフェニル誘導体。
【請求項2】
一般式(I)において、環Bが2−フルオロ−1,4−フェニレン基又は3−フルオロ−1,4−フェニレン基を表すところの請求項2記載のアルケニルビフェニル誘導体。

【公開番号】特開2012−92118(P2012−92118A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263569(P2011−263569)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【分割の表示】特願2008−142560(P2008−142560)の分割
【原出願日】平成9年7月29日(1997.7.29)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】