説明

新規アレルゲンとしての前立腺カリクレイン

I型アレルギー、特にイヌに対するアレルギーの診断/治療のための、診断用組成物または医薬組成物の製造のための前立腺カリクレイン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアレルギーの分野に関する。より特定すれば本発明は哺乳類由来の新規アレルゲンの同定、ならびに哺乳類に対するアレルギーの診断および治療に関する。
【背景技術】
【0002】
イヌの皮屑(フケ、dander)は、鼻炎、結膜炎、呼吸器の炎症、および喘息を含む症状を伴うインドアアレルギーの一般的な原因である。イヌのアレルゲンはイヌがペットとして飼育されている家だけでなく、他の場所、例えば普段はイヌのいない学校やデイケアセンターでもまた検出され得る(1)。
【0003】
イヌに対するアレルギーは、イヌの体毛および皮屑から放出されるタンパク質に対する感作に伴い、それらに依存する。イヌへのアレルギーが疑われる場合、臨床試験としては、イヌの被毛および/または皮屑の抽出物を使用しての、皮刺試験または特異的IgE抗体の測定による感作の評価を含む。特異的IgEに関する検査室のイムノアッセイ、例えばPhadia ImmunoCAPは、好ましいアッセイ条件、およびアレルゲンの付着に利用できる大きな固相により、天然のイヌ皮屑抽出物を使用して、イヌに対する感作のほとんどのケースを検出することができる。
【0004】
イヌの体毛および皮屑の抽出物は、アレルギー性および非アレルギー性のタンパク質群という複雑さを含有する(2,3)。3つのイヌのアレルゲン:Can f1、Can f2およびCan f3がこれまでに同定され、詳細に研究されてきた。Can f1は、リポカインタンパク質ファミリーのメンバーであり、21−25kDと報告された分子量を有し、de Groot ら(4)により最初に精製され、後にクローン化され、リコンビナントタンパク質として発現された(5)。Can f2は、同じタンパク質ファミリーに属するが、Can f1とは別個のタンパク質である(4,5)。イヌの血清アルブミンであるCan f3は、他の哺乳類のアルブミンとの広範な交差反応性を示す比較的保存されたタンパク質である(6)。
【0005】
公知のイヌアレルゲンのうちでCan f1はもっとも重要であり、およそ半数のイヌアレルギー被験者由来のIgE抗体に結合する(7)。イヌアレルギー被験者の約20%は、Can f2へのIgEの結合を示すが、これらの大半はCan f1にも感作されている。成人のイヌアレルギーの個体の30−40%はCan f3に結合するIgEを示すと思われる(2,8)が、哺乳類の血清アルブミンの特定の臨床的関連性は明らかにされていない。
【0006】
げっ歯類、例えばマウスおよびラットへのアレルギーに関連する主要アレルゲンは、動物の尿中に存在することが長い間知られており、これらが単離され広く特徴づけられてきた(9−13)。IgE抗体結合活性もまた、ネコおよびイヌを含む他の動物の尿中に存在することが報告された(14)が、これらの動物の尿からアレルゲンは精製されておらず、分子レベルで特徴づけられてもいない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】1. Custovic A, Green R, Taggart SCO, Smith A, Pickering CAC, Chapman MD et al. Domestic allergens in public places II: dog (Can f 1) and cockroach (Bla g 2) allergens in dust and mite, cat, dog and cockroach allergens in the air in public buildings(公共の場所における家庭内アレルゲンII:粉塵中のイヌ(Can f1).およびゴキブリ(Bla g2)のアレルゲン、および公共建造物の空気中のダニ、ネコ、イヌおよびゴキブリのアレルゲン) Clinical & Experimental Allergy 1996;26:1246-1252.
【非特許文献2】2. Spitzauer S, Schweiger C, Anrather J, Ebner C, Scheiner O, Kraft D et al. Characterisation of dog allergens by means of immunoblotting(免疫ブロット法の手段によるイヌアレルゲンの特徴付け). International Archives of Allergy and Immunology 1993;100:60-67.
【非特許文献3】3. Spitzauer S. Allergy to mammalian proteins: At the borderline between foreign and self(哺乳類タンパク質に対するアレルギー:外来と自己との間の境界線にて)? [Review]. International Archives of Allergy and Immunology 1999;120:259-269.
【非特許文献4】4. de Groot H, Goei KGH, van Swieten P, Aalberse RC. Affinity purification of a major and a minor allergen from dog extract: serologic activity of affinity-purified Can f I and of Can f I-depleted extract(イヌ由来抽出物の主要なおよびマイナーのアレルゲンのアフィニティーによる精製:アフィニティーにより精製されたCan f1およびCan f1を枯渇させた抽出物の血清学的活性). Journal of Allergy and Clinical Immunology 1991;87:1056-1065.
【非特許文献5】5. Konieczny A, Morgenstern JP, Bizinkauskas CB, Lilley CH, Brauer AW, Bond JF et al. The major dog allergens, Can f 1 and Can f 2, are salivary lipocalin proteins: cloning and immunological characterization of the recombinant forms(主要イヌアレルゲン、Can f1およびCan f2は唾液リポカリンタンパク質である:リコンビナントの形のクローン化および免疫学的特徴付け). Immunology 1997;92:577-586.
【非特許文献6】6. Boutin Y, Hebert H, Vrancken ER, Mourad W. Allergenicity and cross-reactivity of cat and dog allergenic extracts(ネコおよびイヌのアレルゲン抽出物のアレルゲン性および交差反応性). Clinical Allergy 1988;18:287-293.
【非特許文献7】7. Saarelainen S, Taivainen A, Rytkonen-Nissinen M, Auriola S, Immonen A, Mantyjarvi R et al. Assessment of recombinant dog allergens Can f 1 and Can f 2 for the diagnosis of dog allergy(イヌアレルギーの診断のためのリコンビナントイヌアレルゲンCan f1およびCan f2の評価). Clinical & Experimental Allergy 2004;34:1576-1582.
【非特許文献8】8. Cabanas R, Lopez-Serrano MC, Carreira J, Ventas P, Polo F, Caballero MT et al. Importance of albumin in cross-reactivity among cat, dog and horse allergens(ネコ、イヌおよびウマのアレルゲン間の交差反応性におけるアルブミンの重要性). Journal of Investigational Allergology & Clinical Immunology 2000;10:71-77.
【非特許文献9】9. Bayard C, Holmquist L, Vesterberg O. Purification and identification of allergenic alpha (2u)-globulin species of rat urine(ラット尿のアレルゲン性α(2u)−グロブリン種の精製および同定). Biochim Biophys Acta 1996;1290:129-134.
【非特許文献10】10. Ohman JL. Allergy in man caused by exposure to mammals(哺乳類への暴露によって起こるヒトのアレルギー). J Am Vet Med Assoc 1978;172:1403-1406.
【非特許文献11】11. Schumacher MJ. Characterization of allergens from urine and pelts of laboratory mice(実験用マウスの尿および生皮由来のアレルゲンの特徴付け). Mol Immunol 1980;17:1087-1095.
【非特許文献12】12. Siraganian RP, Sandberg AL. Characterization of mouse allergens(マウスアレルゲンの特徴付け). Journal of Allergy and Clinical Immunology 1979;63:435-442.
【非特許文献13】13.Taylor AN, Longbottom JL, Pepys J. Respiratory allergy to urine proteins of rats and mice(ラットおよびマウスの尿タンパク質に対する呼吸器アレルギー). Lancet 1977;2:847-849.
【非特許文献14】14. Hoffman DR. Dog and cat allergens: urinary proteins or dander proteins ?(イヌおよびネコのアレルゲン:尿のタンパク質または皮屑のタンパク質?) Annals of Allergy 1980;45:205-206.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上に述べたように、特異的IgEに関する検査室のイムノアッセイは、好ましいアッセイ条件およびアレルゲンの付着に利用できる大きな固相による、天然のイヌ皮屑抽出物を使用して、ほとんどのケースのイヌに対する感作を検出することができる。しかしながら小型化したまたは非検査室のイムノアッセイ、例えばアレルゲンマイクロアレイまたは開業医院での検査においては、より好ましくないアッセイ条件、抗体結合アレルゲン試薬としてのより低い能力、および限定された効力の天然アレルゲン抽出物といったこと組み合わせから、十分な診断感受性を得られないことが見出されている。同様な状況は、他の動物の上皮への特異的IgEに関するイムノアッセイについても存在すると思われる。したがってケースによっては、特異的IgEに関する診断検査において十分な感受性を達成するための純粋なアレルゲン性タンパク質を使用する必要がある。
【0009】
さらに有意な比率のイヌアレルギーの個体はまた、公知の同定されたイヌアレルゲンのいずれとも反応せず、このことが最近フィンランドの集団において実証された(7)。
【0010】
上のことから本発明者らは、さらなる、まだ同定されていないイヌアレルゲンを探すこととした。そのような新規アレルゲンは、既定の診断検査における増大された感受性としての試薬としてだけでなく、異なるタイプの成分毎に分解した(component-resolved)診断の適用における公知のイヌアレルゲンに対する補体としてもまた有用であると思われる(15,16)。改善された非アナフィラキシー特性をもつ純粋なアレルゲン性タンパク質、またはそのフラグメントおよびバリアントもまた、成分毎に分解した免疫療法において使用してもよい(16−20)。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このように新規主要アレルゲンが、イヌ尿から精製され、前立腺カリクレインとして同定された。このアレルゲンはすべての側面において、従来より知られているイヌアレルゲンとは区別される。さらに、類似または同一の、そして免疫学的に均等なアレルゲンが、イヌ皮屑の抽出物中に存在することが見出された。カリクレインは、公知のイヌアレルゲンの一覧への重要な追加となることを意味し、イヌアアレルギーの診断においても有用となるだろう。他の哺乳類、例えばネコ、ウマ、ならびにラットおよびマウスを含むげっ歯類由来の相同なタンパク質が、同様のアレルゲン特性を有し、診断上の有用性を持つことも予想される。
【0012】
前立腺カリクレインは、イヌの尿中だけでなく皮屑の被毛中にも存在することが見出された。しかしながら、前立腺組織内に特異的に発現されるタンパク質は、オスの個体に限定されるであろうという事実は、メスイヌはこのアレルゲンを持たないであろうことを示唆する。われわれの研究室における予備的な結果は実際にこの考えを支持しており、より広範な研究の結果によって実証されれば、前立腺カリクレインのみに感作されたイヌアレルギーの個体は、メスイヌには耐容性があってよいことを意味することになるだろう。
【0013】
最近発表された報告の中で、射精への膣の過敏症反応は、精漿中に存在するヒト前立腺特異抗原であるPSAに対するIgEの感作に関連することが実証された(21)。イヌおよびヒトの前立腺カリクレイン、ならびにヒト前立腺特異抗原は部分的な配列類似性を有するため、イヌの前立腺特異的カリクレインへの感作が、そのようなアレルギー反応を発症する高められたリスクを与える可能性がある。前立腺特異的カリクレインに対するIgEを介した免疫反応が、ヒトの不妊症のある種のケースにおいて一役を担っているかもしれないこともまた、想定され得る。
【0014】
1つの側面において本発明は、I型アレルギーの診断におけるカリクレインの使用、およびI型アレルギーの診断のための組成物の製造のためのカリクレインの使用に関する。
【0015】
さらなる側面において本発明は、カリクレインを“加えた”アレルゲン組成物に関する。そのようなアレルゲン組成物は、カリクレインを含有しないまたは低量含有する、アレルゲン抽出物、または精製されたもしくはリコンビナントのアレルゲン成分の混合物であってよく、その場合カリクレインは、患者のIgEが組成物中の他のアレルゲン成分には結合しないまたはほとんど結合しない、患者由来のIgEに結合させるために添加される。本発明のこの側面はまた、そのような組成物を作成するための方法にも関し、その方法は、アレルゲン組成物、例えばアレルゲン抽出物(所望により他の成分を加えたもの)または精製されたネイティブのまたはリコンビナントのアレルゲン成分の混合物に、カリクレインを添加するステップを包含する。
【0016】
なおさらなる側面において本発明は、患者のI型アレルギーを診断するためのin vitroの診断法に関し、その場合患者由来の体液サンプル、例えば血液サンプルまたは血清サンプルを、カリクレインまたは先の側面に従っての組成物に接触させるようにし、患者のサンプルが、カリクレインに特異的に結合するIgE抗体を含有するか否かを検出する。そのような診断法は、当該技術において公知のあらゆる様式で実行してよい。カリクレインは、例えば従来の検査室の免疫アッセイ、マイクロアレイ、またはラテラルフローアッセイにおいて、例えば固相支持体上に固定化してよい。
【0017】
さらなる側面において本発明は、先の側面に従っての方法を実施するための診断用キットに関し、そのキットはカリクレインを含む。
【0018】
上述の側面において、野生型カリクレイン分子は、以下に定義するように野生型カリクレインと抗体に関するエピトープを共有する、天然または人工のカリクレインのフラグメントまたはバリアントで置き換えてよい。
【0019】
本発明はさらに、以下に説明するように、カリクレインまたは修飾された(変異した)カリクレインをI型アレルギーの治療を必要とする患者に投与することを包含する、そのような治療の方法に関する。本発明の側面はまた、例えば成分毎に分解した免疫療法(16)を含むそのような免疫療法におけるカリクレインの使用に関する。この側面の1つの態様において、カリクレインは天然の形で、または天然の分子の生物学的および免疫学的特性に類似した特性を示すリコンビナントの形で使用してよい。もう1つの態様においてカリクレインは、修飾された形で、すなわちそのIgE抗体との結合能力を抑止または減弱する目的で化学的または遺伝学的に作成された形で使用してよいが、同時にその形は、好ましくは治療する個体においてIgG応答を誘発する能力を持つものとする。修飾の例として、分子のフラグメント化、切断またはタンデム化、内部のセグメント(1つまたは複数)の欠失、アミノ酸残基(1つまたは複数)の置換、ドメインの再配置、あるいは別の高分子構造へのジスルフィド架橋もしくはジスルフィド結合の破壊による、またはカルシウムイオンもしくはその他の低分子化合物に結合するタンパク質の能力の除去による、少なくとも部分的な三次元構造の破壊を含むが、これに限定されない。本側面のなおもう1つの態様において、本来の分子と比較して低減されたIgE結合活性を示す、カリクレインの個々の10kDaおよび/または18kDaのサブユニットを、修飾されたカリクレインとして使用してよい。
【0020】
本発明の上述の側面すべてにおいて、カリクレインは、患者におけるアレルギー反応を誘発する能力のあるカリクレインを産生するあらゆる哺乳類に由来することができる。カリクレインはその天然の原料、例えば問題になっている哺乳類の尿、唾液もしくはその他の体液から、または組織、例えば体毛または皮屑から精製してよい。カリクレインはまた、リコンビナントDNA技術により生成してもよいし、または当業者に公知の方法により化学的に合成してもよい。
【0021】
本発明はまた、診断および治療、例えばイヌに対するI型アレルギーの診断および治療において使用するための、イヌ前立腺カリクレインに関する。
【0022】
本発明はまた、哺乳類の尿由来のカリクレインの精製のための方法に関し、以下の
−哺乳類の尿を濾過する;
−疎水性相互作用クロマトグラフィーに適するバッファーでバッファー交換する;
−バッファー交換した尿サンプルを濾過する;
−バッファー交換した尿サンプルを、疎水性相互作用クロマトグラフィーのカラムにかける;そして
−カリクレインを包含する素通り分画(flow through fraction)を集める、
というステップを包含する。
【0023】
哺乳類の尿は、イヌの尿であってよい。
【0024】
〔定義〕
カリクレインは、正常な血液および尿中に見出されるセリンエンドペプチダーゼファミリーのタンパク質分解酵素である。IUBMB酵素ラベル法システムにおいて、血漿カリクレインは酵素番号EC3.4.21.34、および組織カリクレインは酵素番号EC3.4.21.35と指定されている。イヌ由来の尿カリクレインは、各々およそ10±2および18±2kDaの2つのサブユニットを包含する28kDaヘテロダイマータンパク質であるが、本発明の目的のためこれらを各々10および18kDaのサブユニットと呼ぶ。カリクレインは、配列番号1、GenBankアクセション番号:P09582に従ってのアミノ酸配列を有し、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、ラットおよび霊長類を含む広範囲の哺乳類の種において、相同のタンパク質が記載されている(例えばアクセション番号AAQ23713−4(ウマ)、NP_001008416(ウシ)、P00752(ブタ)、P00755−6およびP15947(マウス)、P36373およびP00758(ラット)、Q28773(ヒヒ)、XP_001174026(チンパンジー)、Q07276(マカク)、P20151、Q07276およびAAM11874(ヒト))。
【0025】
カリクレインのバリアントおよびフラグメントは、少なくとも10アミノ酸残基、より好ましくは少なくとも50、さらにより好ましくは少なくとも75または100アミノ酸残基、そして少なくとも50%、好ましくは60%、70%、80%、90%、または95%を越える前記カリクレインとの配列同一性を有するタンパク質またはペプチドを意味するものと解釈されなければならない。
【0026】
修飾されたカリクレインは本発明の文脈において、例えば本発明の免疫療法の側面に関して上に例示したように、化学的または遺伝学的に修飾されて、その免疫学的特性を変化させたカリクレインを意味するものと解釈されなければならない。
【0027】
野生型カリクレインと抗体に関するエピトープを共有するカリクレインのバリアントおよびフラグメントは、代表的なカリクレインで感作された患者由来の血清サンプル由来のIgE抗体との結合が、カリクレインにより有意に阻害され得る、それらのフラグメントおよびバリアンドであると解釈されなければならない。そのような阻害アッセイは、例えば実施例8に開示したプロトコルに従って行ってよい。
【0028】
低アレルゲン化修飾されたカリクレイン、またはカリクレインのバリアントもしくはフラグメントは、例えば実施例3に従ってのプロトコルにより決定されるような、代表的なカリクレインに感作された患者の血清サンプル由来のカリクレイン反応性IgE抗体と結合する能力のない、または細胞の活性化アッセイ、例えば好塩基球のヒスタミン放出アッセイ(22,23)により決定されるような、生物学的アレルゲン活性を示さない、もしくは有意に低減された活性を示す、修飾されたカリクレインまたはカリクレインのバリアントもしくはフラグメントと解釈されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、サイズ排除クロマトグラフィーによるイヌ尿のタンパク質の分画を示す。図に示した3つの各ピーク(1−3とした)を包含する分画を、IgE結合活性の分析のため示したようにプールした。
【図2】図2は、図1のピーク2由来のIgE結合タンパク質の、逆相クロマトグラフィーによる精製を示す。さらなる研究のために選択されたタンパク質を含有するピークを、矢印で示す。
【図3】図3は、サイズ排除クロマトグラフィーおよび逆相クロマトグラフィーによりイヌ尿より精製された、IgE結合タンパク質の還元(red)および非還元(ox)サンプルのSDS−PAGE分析である。M列は、分子量マーカータンパク質を含有する。
【図4】図4は、固定化したイヌ皮屑抽出物への特異的IgE結合における、液相での阻害物質としてのカリクレインの効果を示す。
【図5a】図5a−bは、37名のイヌアレルギー被験者の血清における、イヌ皮屑抽出物へのIgE抗体反応性の免疫ブロット分析による評価である。短冊形の膜を用いてのインキュベーション前に、血清サンプルを示したように希釈した。M列は分子量マーカータンパク質を含有する。
【図5b】同上。
【図6】図6は、血清の希釈について補正した28kDaバンドの免疫ブロットシグナル強度、および実験レベルでのImmunoCAP分析により決定した場合のカリクレイン特異的IgEのレベルの比較を示す。ImmunoCAPおよび免疫ブロットの適用した検出限界を、破線で示す。免疫ブロットのシグナル強度は、任意のユニット(AU)で表示する。
【図7】図7は、精製されたイヌ尿カリクレインによる28kDaタンパク質バンドの特異的な免疫ブロットの阻害を示す。M列は分子量マーカータンパク質を含有する。
【図8】図8は、サイズ排除クロマトグラフィーによる、イヌ皮屑由来カリクレインの精製の最初のステップを示す。図に示した6つの分画(1−6とした)を、IgE結合活性について分析した。
【図9】図9は、逆相クロマトグラフィーによる、イヌ皮屑由来カリクレインの精製の第2のステップを示す。図に示した3つのピーク(1−3とした)の先端の分画を、IgE結合活性について分析した。
【図10】図10は、イヌ皮屑抽出物、精製された尿カリクレイン、および部分的に精製されたイヌ皮屑由来カリクレインに結合する、特異的IgE抗体の免疫ブロット比較分析を示す。カリクレイン反応性の2つの血清(No.6および8)ならびにカリクレイン非反応性の1つの血清(No.11)を使用した。図中の説明文に示したように、還元および非還元の双方の形のアレルゲン調製物質について分析した。M列は、分子量マーカータンパク質を含有する。
【図11】図11は、精製されたリコンビナントイヌ尿カリクレインのSDS Page分析を示す。
【図12】図12は、精製されたリコンビナントイヌ尿カリクレインの分析的ゲル濾過分析を示す。
【図13】図13は、天然およびリコンビナントのイヌ尿カリクレインの特異的IgE抗体結合活性の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下の実施例は、イヌ由来カリクレインの単離および使用をもって本発明を説明する。実施例は単なる説明に過ぎず、本発明を限定するものとして考慮すべきではなく、本発明は付記した請求項の範囲により定義される。
【実施例】
【0031】
実施例1:イヌ尿由来IgE結合タンパク質の検出および単離
イヌの尿がヒトのイヌアレルギーに関するアレルゲンを含有する可能性があるかどうかを調べるため、以下の実験を行った。尿は、7歳オスのシベリアンハスキーおよびポインター間交雑種より集めた。0.45μmセルロース混合エステル製フィルターを通しての濾過の後、10mLの尿を、20mM MOPS pH7.6、0.5M NaCl(MBS)で平衡化したSuperdex75サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラム(XK26/100、V=505mL、GE Healthcare Biosciences, Uppsala, Sweden)にのせ、同じバッファーで2mL/分の流速で溶出を行った。3つのピークの分画を、図1に示したクロマトグラムに示したようにプールし、アレルゲン活性について分析した。各分画のタンパク質含有物を、ImmunoCAP (Phadia, Uppsala, Sweden)固相上に固定化し、そのIgE抗体結合活性を、イヌ皮屑により感作された個体由来の8血清を使用して検査した。これらの血清のほとんどはイヌ皮屑抽出物への高いIgE結合を有するが、rCan f1、rCan f2およびnCan f3に対しては相対的に低い結合を有するものとして選択した。検査した3つのピークの内ピーク2は、圧倒的に最も高レベルのIgE結合活性を含有することが見出された(表1)。ピーク2の還元サンプルの、NuPAGE MESバッファー系(10% NuPAGEゲル、Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を用いてのドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)は、各々およそ10および18kDaの明確な分子量を有する2つの際立ったタンパク質のバンドを明らかにした(示していない)。
【0032】
ピーク2に対応するプールからのさらなるタンパク質の精製を、Source15逆相クロマトグラフィー(RPC)カラム (ST4.6/100、V=1.66 mL、GE Healthcare Biosciences)を使用して行った。最終濃度0.065%までトリフルオロ酢酸(TFA)を加えた後、プール液をカラムにのせ、続いてカラム容積の9倍量の水中0.065%TFAで洗浄した。溶出は、0.05%TFAを含有する水中アセトニトリルの0−45%直線勾配にて行い、1つの特徴的な、しかし多少非対称なピーク(図2、ピークを矢印で示す)を得た。このピークを含有する分画の還元サンプルのSDS−PAGEは、一見したところ分離されていない10および18kDaの双方のバンドの存在を明らかにした(図3)。それ故ピーク全体をカバーする分画を、図2の水平線で示したようにプールした。このプールの非還元サンプルのSDS−PAGEは、28kDaのさらなるバンド、そして10kDaおよび18kDaのバンドの移動度のわずかなシフトを明らかにした(図3)。およそ55kDaのタンパク質の薄いバンドもまた、非還元状態で見られるが、これは28kDaのダイマーであると思われる。非還元状態での28kDaバンドの出現は、このタンパク質が1つまたはそれより多くのシステイン架橋により共に結合した、10および18kDaのポリペプチドから構成されると思われることを示唆した。後の線形質量分析(データは示していない)が、還元時およびアルキル化時の28kDaの成分の解離を示したという事実は、この考えにさらなるエビデンスを加えることとなった。
【0033】
実施例2:イヌ尿由来IgE結合タンパク質の、前立腺カリクレインとしての同定
質量分析およびN末端配列決定を使用して、イヌ尿より単離したIgE結合タンパク質の同定を決定した。
【0034】
〔MALDI−TOFによるペプチドマスフィンガープリント法〕
RPCにより精製した尿タンパク質の溶液内消化のため、サンプルにDTTおよびヨードアセトアミドを各々およそ45倍および100倍モル過剰濃度で順次加えることにより、還元およびアルキル化を行った。その後トリプシン消化を、ブタトリプシン(Trypsin Gold、質量分析計グレード、Promega, Madison, WI, USA)を使用して、一晩、37℃で行った。消化したペプチドを含有するサンプルをMALDI標的プレート上にスポットし、50%アセトニトリル、10mM NH[HPO]、0.1% TFA中のα−シアノマトリクスを加えた。溶媒を蒸発させた後、ペプチドマスフィンガープリンティング(PMF)をBruker Daltonics Autoflex 2 装置(Bruker Daltonics, Bremen, Germany)にて行った。得られたPMFの結果とマッチするタンパク質を同定するため、MSDBデータベースからMascot サーバー(Matrixscience, London, UK)を使用して検索した。ポストソース分解(Post source decay (PSD))分析を、選択されたペプチドについて行った。ペプチドキャリブレーションスタンダード(Bruker Daltonics)を使用して外部較正を行った。
【0035】
SDS−PAGEによる個々のタンパク質のバンドのゲル内消化分析は、本質的にはShevchenko(24)に従って行った。まとめると、上の実施例1に記載した10、18、および28kDaのバンドを、クマシーブリリアントブルー染色したSDS−PAGEゲルから切り出した。ゲル小片を、50%アセトニトリルを含有する50mM 炭酸水素アンモニウムで順次洗浄し、続いて純粋なアセトニトリル中で収縮させた。50mM 炭酸水素アンモニウムによるゲル小片の再水和の後、アセトニトリルを50%まで加え、続いて2回目のアセトニトリル洗浄のステップを行い、ゲル小片を真空遠心にて乾燥させた。50mM炭酸水素アンモニウム中の45mM DTTおよび100mM ヨードアセトアミドを順に使用して、還元およびアルキル化を行った。50mM炭酸水素アンモニウム中の50%アセトニトリルを用いて繰り返し洗浄し、最終的に100%アセトニトリルで洗浄した後、ゲル粒子を真空遠心にて再度乾燥させた。トリプシン消化を、上に記載したブようにブタトリプシンを使用して、一晩、37℃で行った。その後消化したサンプルを超音波処理し、0.1%TFAを含有する50%アセトニトリル中で、ゲル粒子からペプチドを抽出した。サンプルの調製およびペプチドマスフィンガープリンティングを、上に記載したように行った。
【0036】
溶液内消化した尿タンパク質のPMF分析は、イヌ由来前立腺カリクレイン(アクセション番号P09582)と非常に有意にマッチする(p<0.05)という結果を得た。18kDaバンドのゲル内消化分析においても存在した、m/z=1224.6およびm/z=1632.8の2つのペプチドのPSD分析は、同じタンパク質のデータべースエントリーの各々194−204残基および117−130残基に対応する、アミノ酸配列FMLCAGVLEGKおよびSHDLMLLHLEEPAKとの有意なデータべースのマッチを得た。
【0037】
ゲル内消化したタンパク質のバンドの分析から、28kDaバンドのPMFもまた、イヌ由来カリクレイン(P09582)との非常に有意なデータベースのマッチ(p<0.05)を得たとの、確証する結果が得られた。単離した尿タンパク質のアイデンティティーへのさらなるエビデンスが、10kDaバンドのケル内消化サンプルの分析から得られ、ペプチドm/z=1004.5のPSD分析は、P09582の95−102残基に対応するアミノ酸配列SFIHPLYKとの非常に有意な(p<0.05)データベースのマッチを得た。
【0038】
〔N末端アミノ酸配列決定〕
N末端配列決定のため、還元された10kDaおよび18kDaのタンパク質バンドを、SDS−PAGEゲルより別々に切り出し、均一にするためにプラスチック棒を使用して、6M グアにジニウム−HCl、20mM Tris pH8.0、0.5M NaCl中に抽出した。抽出された10kDaおよび18kDaバンドのN末端配列分析は、Hewlett-Packard G1000A装置(Hewlett-Packard, Palo Alto, CA)を使用して行い、各々アミノ酸配列IIGGREXLKNおよびAVIRPGEDRSを得たが、この配列は、アクセション番号P09582のイヌ前立腺カリクレイン前駆体の配列の25−34残基および108−117残基にマッチすることが見出された。
【0039】
まとめると、本実施例に記載した結果は、還元SDS−PAGE分析における10および18kDaのバンドに対応する、精製されたイヌ尿タンパク質の主要な構成物が、イヌ由来前立腺カリクレインと同一であることを実証した。さらにこの観察結果は、10および18kDaのポリペプチドが一次遺伝子産生物の翻訳後開裂により形成され、ジスルフィド架橋により合わせてまとめられて、ヒトカリクレインについて従来より記載されてきたタンパク質(25)に類似する、非還元条件下で見られた28kDaタンパク質を形成することを示唆した。
【0040】
前立腺カリクレインはまた、アルギニンエステラーゼとしても知られており、NP_001003284、CAA68720およびAAA30831を含む同一またはほぼ同一のアミノ酸配列を記載する、データベースエントリー内での表記を持つ。さらに我々は、腎臓、膵臓および唾液腺の組織内で発現されるカリクレインのもう1つのバリアントが、イヌにおいて同定されており(アクセション番号CAA53210)、前立腺カリクレインと68%のアミノ酸の同一性を共有することに注目している。
【0041】
実施例3:カリクレイン、rCan f1、rCan f2およびnCan f3のIgE結合活性の評価
精製されたリコンビナントまたは天然のイヌアレルゲンのin vitroIgE結合活性を、アトピー性アレルギーの臨床診断における特異的IgE抗体の測定用に使用されるイムノアッセイシステムであるImmunoCAP(登録商標)(Phadia, Uppsala, Sweden)を使用して調べた。リコンビナントのCan f1およびCan f2(5)は、本質的には記載されている(26)ように、大腸菌内でクローン化し、発現させた。イヌアルブミンは、本質的には記載されている(27)ように、陰イオン交換クロマトグラフィーグラフィーおよびBlue Sepharoseアフィニティークロマトグラフィーを使用して、血清より精製した。実験レベルでのImmunoCAP検査は、記載されている(26)ように血清分析用に調製し、使用した。
【0042】
スウェーデン(n=9)、スペイン(n=23)、北米(n=4)からのイヌアレルギー患者37名由来の血清を、試験に使用した。すべての患者は、イヌ皮屑抽出物に関する皮刺検査陽性、ならびに喘息、鼻結膜炎および/または蕁麻疹の症状を伴うイヌアレルギーとの医師の診断を有した。血清はすべて、イヌ皮屑抽出物に対する特異的IgE検査(ImmunoCAP)陽性であった。
【0043】
イヌ皮屑抽出物、rCan f1、rCan f2、nCan f3、および精製カリクレインに対する特異的IgEのレベルを表2に示し、結果のまとめを表3に示す。検査した血清のうち29血清はカリクレインに対するIgE反応性を示し、18血清はrCan f1に対する反応性を示した。rCan f2およびnCan f3双方については、37血清中各々わずか8および6血清のみがIgEと結合するにとどまり、試験を行った被験者のなかではマイナーのアレルゲンのようである。37血清のうち14血清(38%)はカリクレインのみに反応した。カリクレイン反応性の血清の平均において、カリクレインへのIgE結合のレベルは、イヌ皮屑へのIgE結合の64%に達する。rCan f1、rCan f2、およびnCan f3への対応するIgE結合の相対レベルは、それらのアレルゲンに対して特異的に反応する血清の中で、各々45%、25%および47%であった。検査した37血清の内わずか2血清のみが、4つのイヌアレルゲンすべてに対してIgE反応性を示さなかった。カリクレインに対するIgE結合は、他のイヌアレルゲンのいずれとも相関を示さず、カリクレインへの免疫反応が独立した変数であり、rCan f1、rCan f2、またはnCan f3への交差反応性の結果ではないことを実証した。
【0044】
得られた結果は、イヌ由来前立腺カリクレインが、本明細書で試験したイヌアレルギー被験者の中で、主要かつ特有なアレルゲンであることを明確に実証した。IgE結合の有病率および強度の双方により、被験者の3分の1以上はカリクレインに反応したが、検査した他のアレルゲンのいずれとも反応せず、カリクレインが、これまで記載してきた、そして試験を行った被験者の中で最も重要なイヌアレルゲンであることが見出された。
【0045】
実施例4:イヌ皮屑抽出物におけるカリクレイン特異的IgE抗体結合活性の実証
IgE阻害実験を行い、イヌ皮屑が、カリクレイン反応性IgE抗体に結合する能力のあるエピトープを含有するかどうかを調べた。イヌに感作されている3名の被験者(A−C)由来の、カリクレインへのIgE反応性を有する血清サンプルを、最初に、最終濃度100μg/mLの精製されたカリクレインと共に、そして並行してネガティブコントロールとして血清希釈液または大腸菌の非アレルギー性マルトース結合プロテイン(MBP)と共に、室温で2時間インキュベーションした。次にすべてのサンプルを、固定化したイヌ皮屑抽出物を保有するImmunoCAP検査へのIgEの結合についてダブルで分析し、カリクレインとのプレインキュベーションが固相に付着させた皮屑タンパク質へのIgEの結合を特異的に妨げるかことになるどうかを研究した。阻害物質としてのカリクレインの特異性に関するコントロールとして、Can f1およびCan f2に感作されているが、カリクレインには感作されていない被験者(D)由来の血清を、実験において他の血清と平行して含めた。
【0046】
阻害実験の結果を図4に示す。イヌ尿より精製されたカリクレインは、3つのカリクレイン反応性血清のうちの2つ(AおよびB)の、イヌ皮屑へのIgE結合を完全に阻害し、そして他のイヌアレルゲンにも反応性があることが分かっている3番目の血清(C)の結合を、部分的に阻害することが見出された。ネガティブコントロールタンパク質であるMBPは、血清希釈液と比較して有意な阻害効果は示さなかった。加えてCan f1−およびCan f2−反応性の血清(D)のIgE結合においては、カリクレインによる阻害は観察されなかった。
【0047】
結果は、カリクレイン反応性IgE抗体に結合する能力のあるエピトープ構造が、イヌ皮屑中に存在し、故に尿に限定されないことを実証した。
【0048】
実施例5:免疫ブロット分析を使用してのイヌ皮屑抽出物由来カリクレイン様28kDaタンパク質へのIgEの結合の評価
観察されたカリクレイン様アレルゲン活性が起因すると思われるイヌ皮屑中に存在するタンパク質を同定する目的で、公知のレベルのカリクレイン反応性IgEを有する37血清を、免疫ブロット実験において使用した。免疫ブロット分析は、SDS−PAGE(12.5% Excel 2-D gel, GE Healthcare Biosciences)により分離した非還元イヌ皮屑抽出物において行い、ニトロセルロース膜(Hybond ECL, GE Healthcare Biosciences)上に電気的にブロッティングした。タンパク質のブロットは、ブロッキングバッファー(50mM リン酸塩 pH7.4、0.1%(v/v)Tween−20、0.9%(w/v)NaCl、0.3%(w/v)デキストランT10)を使用して、室温で1時間ブロックした後、ブロッキングバッファー中で1.5倍から20倍希釈した各患者の血清と共に、一晩インキュベーションした。各血清の希釈倍数は、図5の対応する短冊状の膜の上端の括弧内に表示する。膜は、0.5%(v/v)Tween−20を含むブロッキングバッファー中で洗浄した後、ブロッキングバッファー中で125I標識した抗ヒトIgE抗体と共に、室温で4時間インキュベーションし、その後ストレージホスファスクリーン(storage phosphor screen)およびVariable Mode Imager, Typhoon 9410 (GE Healthcare Biosciences)を使用して、X線撮影により検出した。
【0049】
実験の結果を図5a−bに示す。使用した37血清のうち、30血清は28kDaタンパク質へのIgE結合を示し、一方21血清は、Can f1および/またはおそらくCan f2に対応する23kDaバンドへのIgEの結合を示した。免疫ブロット法のシグナル強度は、Phoretix 1D ソフトウェア(Nonlinear Dynamics Ltd, Newcastle upon Tyne, UK)を使用して定量した。個々のバンドに対する各血清中のIgE反応性のレベルは、シグナル強度を血清希釈倍数と掛け合わせることにより算出した。図6は、免疫ブロット分析における28kDaバンドへのIgE結合のレベル、および上の実施例3に記載したカリクレインのImmunoCAP測定との比較を示すが、密接な相関を明らかにしている。
【0050】
尿カリクレインと、イヌ皮屑中の28kDaバンド間の関連性を直接調べるため、免疫ブロット阻害実験を行った。28kDaバンドに対してのみ反応性のある(mono-reactive)血清を、精製された尿カリクレインもしくはrCan f1のいずれか(双方とも最終濃度100μg/mL)、または血清希釈液と共に、室温で2時間プレインキュベーションした。次に免疫ブロットした非還元イヌ皮屑抽出物を保有する短冊状の膜を、プレインキュベーションした血清サンプルと接触させ、上に記載したようにIgE結合を分析した。実験は、イヌ皮屑中の28kDaバンドへのIgEの結合は、カリクレインとの血清のプレインキュベーションにより完全に消滅されたが、一方rCan f1およびバッファー単独の双方とのプレインキュベーションによっては、影響されないままであったことを明らかにした(図7)。
【0051】
まとめると、本実施例に記載した結果は、電気泳動によるおよび免疫学的な尿カリクレインとの密接な類似性を表すタンパク質が、イヌ皮屑抽出物中に存在することを実証した。
【0052】
実施例6:イヌ皮屑中のカリクレインの部分的な精製および同定
イヌ皮屑由来カリクレイン様タンパク質を、生化学的同定のためSECおよびRPCにより精製した。3グラムのイヌの皮屑(Allergon, Valinge, Sweden)から、100mLのMBS中で転倒式回転により3時間、室温で抽出した。20,000×gでの遠心、およびAmicon フィルター(PM-10, Millipore, Billerica, MA, USA)を使用しての濃縮の後、抽出物をXK50/100Superdex 75カラム(GE Healthcare Biosciences)にのせ、MBSを使用して溶出した(図8)。6つのピーク(図8において1−6と示した)からの分画をプールし、アレルゲン活性について分析した。各分画のタンパク質含有物をImmunoCAP (Phadia, Uppsala, Sweden)固相上に固定化し、そのIgE抗体結合活性をイヌ皮屑に感作された個体由来の8血清を使用して、表4に示したように検査した。これら血清のほとんどは、イヌ皮屑への高いIgE結合を有するが、rCan f1、rCan f2、およびnCan f3のいずれかに対しては相対的に低い結合を有するものとして選択した。表4から、SEC分離によるピーク3が、検査した6つのピークの中で最も高レベルのIgE結合活性を含有していたことは、明らかである。このプールをさらなる精製のために選択した。
【0053】
プール液に最終濃度0.065%までTFAを加えた後、ST4.6/100 Source 15RPCカラム(GE Healthcare Biosciences)にのせ、0.05%TFAを含有する水中アセトニトリルの、直線的な0−54%濃度勾配を使用して溶出を行った(図8)。図9に示した3つのピークのアレルゲン反応性の分析を、上に記載した基準により選択した5血清を使用して行った。分析の結果(表5)は、ピーク1が最も高レベルのIgE抗体結合を含有することを示した。このピークの還元SDS−PAGE分析は、10kDa、18kDaおよび23kDaのタンパク質バンドの存在を明らかにした(示していない)。
【0054】
ピーク1中に存在する3つのバンドをゲルから切り出し、上の実施例2に記載したように、ゲル内消化および質量分析計の分析を行った。23kDaのバンドはCan f1と同定されたが、10kDaおよび18kDaのバンドは、各々選択されたペプチドm/z=1004.52およびm/z=1632.98のPSD分析の後、双方ともイヌ前立腺カリクレイン(アクセション番号P09582)と同定された。
【0055】
さらに2つの10kDaおよび18kDaのバンドを切り出したゲルバンドから溶出させ、N末端アミノ酸配列決定を行った。得られた配列、xIGGRExLKNおよびAVxRPGEDRx(ここで“x”は解明されていない残基を表す)は、イヌ前立腺カリクレイン前駆体配列であるアクセション番号P09582の25−34残基および108−117残基とマッチした。
【0056】
本実施例に記載した結果は、前立腺カリクレインと同一なまたは密接に関連する一次構造をもったタンパク質が、イヌの皮屑中に存在することを実証した。
【0057】
実施例7:イヌの皮屑および尿由来のカリクレインに対する、類似するIgE抗体反応性
イヌの尿および皮屑由来のカリクレインのIgE抗体結合活性を比較するため、カリクレイン反応性の2つの血清(表2の血清No.6および8)、ならびにカリクレイン非反応性の1つの血清(No.11)を、イヌ皮屑抽出物、精製された尿カリクレイン、および部分的に精製されたイヌ皮屑由来カリクレインの、非還元サンプルの免疫ブロット分析において使用した(図10)。すべての3つの調製物において、カリクレイン反応性の2つの血清は、28kDaバンドへのIgEの結合を表し、イヌ皮屑抽出物中の28kDaへのIgEの結合がカリクレインによるものであることを示した。加えて、精製された尿カリクレイン中の28kDaバンドへの支配的な反応性は、同じ調製物のクマシー染色したタンパク質バンドと一致することが明らかになった。非還元カリクレイン調製物中の約55kDaのバンドへのIgE結合は、カリクレインの推定ダイマーという、上の実施例1の考え方と一致する。ImmunoCAPによりカリクレイン非反応性であった血清は、分析した3つのアレルゲン調製物のいずれにおいても28kDaバンドに対するIgEの結合は示さなかった。
【0058】
還元カリクレイン含有サンプルに対する免疫ブロット法の反応性は、非還元サンプルに対するよりかなり弱かった。分析を行った他の調製物より高いカリクレイン濃度を有する精製尿カリクレイン調製物のみが、還元時に形成される18kDaバンドへの検出可能レベルのIgE結合を示したにすぎない。
【0059】
免疫ブロット分析における精製尿カリクレインへの免疫反応が、28kDaの主要タンパク質バンドに対して方向づけられたという観察結果は、そのIgEの結合が、使用したタンパク質調製物の不純物によって引き起こされたのではないという、実験レベルでのカリクレインのImmunoCAP検査の妥当性を支持する裏付けとなった。この結果はさらに、28kDaの非還元分子と比較して、10kDaおよび18kDaのサブユニットへのより弱い抗体の結合によって示されたように、カリクレイン上の少なくともいくつかのIgE結合エピトープが分子の還元に対して感受性があることを示す。
【0060】
実施例8:修飾されたカリクレイン、またはカリクレインのバリアントもしくはフラグメント(分析物)のIgE結合特性の評価
分析物を、固体支持体、例えばImmunoCAP (Phadia, Uppsala, Sweden)に固定化する。関連種に感作され、その種由来のカリクレインへのIgE反応性を示す、少なくとも3名の代表的なヒト患者由来の血清サンプルを、最終濃度100μg/mLのカリクレインと共に、そして並行してネガティブコントロールとして、バッファー単独および大腸菌の非アレルギー性マルトース結合タンパク質(MBP)と共に、室温で3時間インキュベーションする。次にサンプルを、固定化した分析物を保有するImmunoCAP (Phadia, Uppsala, Sweden)検査でのIgEの結合について分析して、カリクレインとのプレインキュベーションがIgEの結合を特異的に阻害する、または有意に低下させるかどうかの研究を行う。
【0061】
実施例9:疎水性相互作用クロマトグラフィー[HIC]による、イヌ尿由来カリクレインの精製
イヌの尿のプールしたサンプルを、窒素圧下で、5μmおよび0.45μmのフィルターを通して濾過した。すべてのクロマトグラフィーの操作は、AKTA Explorer 100 Air システム (GE Healthcare Biosciences, Uppsala, Sweden)を用いて行った。120mlの濾過したイヌの尿の4つのアリコートを、Sephadex G−25カラム(GE Healthcare Biosciences, Uppsala, Sweden) (カラム容積 461ml)を使用して、検体をカラムに通す毎にカラム洗浄して、バッファー交換した。使用したバッファー:50mM リン酸ナトリウム、1M (NHSO、0.02% NaN、pH=7。次にサンプル(約505ml)を、0.45μmフィルターを通して濾過し、HICカラム(HiPrep Phenyl FF (high sub)、20ml、GE Healthcare Biosciences, Uppsala, Sweden)にかけた。HIC分離に使用したバッファーは:A)50mM リン酸ナトリウム、1M (NHSO、0.02% NaN、pH=7、およびB)50mM リン酸ナトリウム、0.02% NaN、pH=7、であった。素通り分画(カリクレインを含有する)を流速5ml/分で、10mlずつの分画(950分画)にて集めた後、素通り分画をプールした。吸着された材料は、100%バッファーBを使用して段階的勾配にて溶出させた。
【0062】
分画を、BCA(ビシンコニン酸)アッセイ、ならびにSDS−PAGE(非還元サンプル、銀染色)を使用して分析した。非還元条件下でのSDS−PAGEは、さらなる処置のためにこのようにプールした素通り分画中にカリクレインが見出されたことを明らかにした。
【0063】
プールしたHIC素通り分画のうち、約125mlの2つのアリコートおよび約87mlの1つのアリコートを、Sephadex G−25 SFカラム(GE Healthcare Biosciences, Uppsala, Sweden)を用いて、20mM リン酸ナトリウム、0.02%NaN、pH=8の組成物を含むバッファーに、バッファー交換した。次にカリクレインのプール(456ml)をAmicon cell (350ml、ミリポアフィルター、PBCC、カットオフ5000kDa、直径76mm)上で、約43mlの容積にまで濃縮した。BCAアッセイを使用して、最終プール中のタンパク質濃度が、0.9mg/ml(43ml中=総計38.7mg)であることが決定された。HICカラムにかけたサンプルは、101mgのタンパク質を含有しており、HIC精製後のカリクレインの回収率は38%であった。
【0064】
カリクレイン調製物の純度は、AKTA 精製XT10システムのSuperdex 75 HR 10/30カラム上での分析用ゲル濾過により評価した。この実験に関してサンプル容積は100μl、バッファーは10mM リン酸ナトリウム、150mM NaCl、0.02% NaN,pH=7.4であった。
【0065】
実施例10:電気泳動および質量分析の使用によるイヌ尿由来カリクレインの同定および特徴づけ
電気泳動を使用して以下のサンプルについて、同一ゲル上で、コロイド状のクーマシーブリリアントブルー(CBB)染色法を適用して比較した:
1.標準分子量マーカー
2.イヌの尿
3.HIC溶出材料(還元)
4.HIC素通り分画(還元)
5.HIC素通り分画(非還元)
6.HIC溶出材料(非還元)
サンプル2、3および6に関しては、多数のタンパク質が検出された。しかしながらサンプル4(還元HIC素通り分画)においては、2つの主要なバンドしか認められなかった。これら2つのバンドは後に、MALDI−TOF(−TOF)分析(以下参照)の使用により、(アルギニンエステラーゼ活性によるR107でのタンパク質分解の結果として)カリクレインタンパク質の2つの異なるバリアントに対応することが見出された。サンプル5(非還元HIC素通り分画)では7つの個別のバンドが検出され、すべてのバンドは、MALDI−TOF(−TOF)分析(以下参照)の使用により、カリクレインタンパク質の異なるバリアントに対応することが見出された。カリクレインは12のシステイン残基を包含しており、それ故異なるバリアンドの形成は、非還元条件下ではシステインシステイン架橋の形成により可能である。したがって例えばダイマー、トリマーなどの形成が、非還元条件下で起こる可能性は高い。
【0066】
SDS−PAGE条件、トリプシン消化、および、MALDI−TOF−TOF分析:
希釈サンプルは、SDS−PAGE精製キットを使用して、供給元(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)のマニュアルに推奨されている方法に従って調製した。ゲルはMESバッファー中、200Vで、35分間流した。還元サンプルおよび非還元サンプルは別々のまとまりとして流した。染色は、コロイドCBBを用いて一晩行った(脱染色は後に水に約5時間浸して行った)。サンプルは、ピペットの先端部を使用して手動でゲルから採取し、標準的なプロトコル(アセトニトリルの代わりにエタノールを使用して)に従って処理し、12.5ng/μlのトリプシンと共に37℃で一晩インキュベーションした。消化されたサンプルのうち0.5μlを、MALDIシステム用の標的プレートにのせ、0.5μl MALDIマトリクス溶液(50%アセトニトリル、0.1%TFA中のHCCの飽和溶液)と混合した。すべてのサンプルはMALDI−TOF−TOF(Bruker Daltonics, Bremen, Germany)質量分析計を使用して分析した。得られたPMFの結果とマッチするタンパク質を同定するため、Mascot サーバー(Matrixscience, London, UK)を使用してMSDBデータベースを検索した。選択されたペプチドについてMS−MS分析を行った。ペプチドキャリブレーションスタンダード(Bruker Daltonics)を使用して、外部較正を行った。データベースの検索は、以下の検索基準を使用して実行した:
分類学:哺乳類
質量の誤差範囲:100ppm
メチオニンの酸化および1回の開裂失敗を考慮する
データベースからのカリクレインの配列:
MWFLALCLAMSLGWTGAEPHFQPRIIGGRECLKNSQPWQVAVYHNGEFACGGVLVNPEWVLTAAHCANSNCEVWLGRHNLSESEDEGQLVQVRKSFIHPLYKTKVPR−−−−−−−−−
AVIRPGEDRSHDLMLLHLEEPAKITKAVRVMDLPKKEPPLGSTCYVSGWGSTDPETIFHPGSLQCVDLKLLSNNQCAKVYTQKVTKFMLCAGVLEGKKDTCKGDSGGPLICDGELVGITSWGATPCGKPQMPSLYTRVMPHLMWIKDTMKANT (配列番号: 1)
(MALDI−TOF(/TOF)MS(/MS)により同定されたペプチド配列を下線で示す)
実施例11:メタノール資化酵母(Pichia pastoris)において発現させるリコンビナントイヌカリクレインのクローン化、精製、およびIgE結合活性の評価
イヌアレルゲンとしての尿カリクレインの同定および重要性を検証するため、メタノール資化酵母を発現ホストとして使用して、リコンビナントアレルゲンとしてタンパク質を作成し、精製し、そしてIgE抗体結合活性について分析した。
【0067】
〔イヌ尿カリクレインをコードする合成遺伝子コンストラクトの調製〕
成熟タンパク質に対応するイヌの前立腺アルギニンエステラーゼ(尿カリクレイン、アクセション番号P09582)の報告されているアミノ酸配列の一部を、ヌクレオチド配列中に逆翻訳することにより、合成のイヌ尿カリクレイン遺伝子をデザインした。ヌクレオチド配列は、最適なコドンが利用されるようにデザインし、二次構造を最小化し、所望のように制限酵素を削除または付加するため、同義となるように調整した。最終コード配列に対応するオリゴヌクレオチドを得、これを組み立て、そして完全長の合成遺伝子をPCRにより増幅し、金属イオン固定化アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によるタンパク質の精製を可能にするC末端のヘキサヒスチジンタグを加えて、ベクターpPICZ A(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)のXhoI部位およびSalI部位内にクローン化した。プラスミドDNAコンストラクトをSac I消化により直線化し、染色体のAOX1遺伝子座内への相同なリコンビナント化のため、メタノール資化酵母株X−33内に形質転換した。
【0068】
〔リコンビナントイヌカリクレイン−2の発現および精製〕
リコンビナントタンパク質は、メタノール資化酵母株X−33(Invitrogen)において、7Lバイオリアクター(Belach Bioteknik, Solna, Sweden)を使用して作成した。rich broth培地(20g/L ペプトン、10g/L 酵母抽出物、3.4g/L 酵母窒素ベース、10g/L 硫酸アンモニウム、0.4mg/L ビオチン、および0.1M リン酸カリウム)を使用し、培養は30℃で行った。培養液にメタノールを0.1%(v/v)の定常状態の濃度で与えることにより、発現を誘発、維持した。70時間の発酵後、培養液から+4℃、10000g、10分間の遠心により収穫し、上清をタンパク質の精製のため回収した。
【0069】
上清に、イミダゾールを5mMまで、NaClを0.15Mまで加え、Tris塩基(1つまたは複数種)を使用してpH7.2に調整することにより精製のための条件を整え、その後Streamline 25キレートカラム(GE Healthcare Biosciences)にのせ、製造元の推奨に従ってNiSOでチャージした。カラムに注いだ後、カラムを20mMおよび60mMのイミダゾールを用いて別々に段階的に洗浄し、その後リコンビナントタンパク質を500mMイミダゾールで溶出させた。溶液はすべて20mM Tris−HCl pH8.0および0.15M NaClで構成されたバッファーにて作成した。
【0070】
リコンビナントタンパク質のさらなる精製は、陽イオン交換クロマトグラフィーを使用して行った。リコンビナントカリクレインを含有するIMAC分画を、SDS−PAGEにより同定し、プールし、2倍量の20mM MES pH6.0を用いて希釈した。pHを6.0に調整後、希釈したプール液をXK26/100 SPセファロースFFカラム(GE Healthcare Biosciences)にのせた。その後カラムを、カラムの2倍容量の20mM MES pH6.0中の0.15M NaClで洗浄し、同バッファー中の0.30M NaClでリコンビナントタンパク質を溶出させた。タンパク質濃度は、吸光計数計算値、1mg/mL当たり1.46を使用して、280nmの吸光度から決定した。
【0071】
合成カリクレイン遺伝子コンストラクトは、1本鎖ポリペプチドの作成を方向付けるようにデザインしたが、培養培地から精製されたタンパク質は、天然の尿カリクレインのプロセシングと同様に18kDaおよび12kDaのペプチド鎖への部分的な開裂が起こっていることが見出された(図11)。事実N末端の配列決定は、リコンビナントカリクレインが天然の分子と同じ位置で開裂されていたことを明らかにした(データは示していない)。
【0072】
生理学的条件下でのリコンビナントタンパク質の凝集状態および統合を評価するため、調製物のサンプルを分析用サイズ排除クロマトグラフィーにかけた。図12に示したように、LMWキャリブレーションキット(GE Healthcare Biosciences)により定義した場合、クロマトグラムは34kDaの分子量に対応する1本の対称なピークにより支配された。リコンビナントタンパク質はその部分的なプロセシングにもかかわらず、溶液中では1つにまとまり、均一な、おそらくモノマーの凝集状態で存在することが実証された。
【0073】
〔リコンビナントカリクレインのIgE結合活性〕
作成されたリコンビナントカリクレインの免疫学的活性を、イヌ尿より精製された天然のタンパク質と比較して評価した。2つのタンパク質をImmunoCAP(登録商標)固相上に別々に固定化し、それらのin vitroでのIgE結合能を、上の実施例3に記載したイヌアレルギー被験者由来の37血清サンプルを使用して調べた。
【0074】
図13に見られるように、2つのデータセットは非常に強い相関(r=0.9988)を示し、作成されたリコンビナントカリクレインはIgE抗体の結合に関して、天然の尿カリクレインに極めて似ていることが実証された。リコンビナントタンパク質調製物中にはいかなる他のイヌ由来タンパク質も全く含まれないことから推し測って、この結果は、これまでの実施例に記載した天然のカリクレイン調製物の活性成分のアイデンティティーとして、いかなる疑念の可能性もさしはさまないことを、さらに強調することができる。
【0075】
「参考文献」
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
I型アレルギーのin vitroの診断のための診断用組成物の製造のための、抗体に関するエピトープを野生型カリクレインと共有するカリクレイン、またはそのバリアントもしくはフラグメント。
【請求項2】
前記カリクレインが、ヒトを含む霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ラットまたはマウスに由来することを特徴とする、請求項1に記載のカリクレイン。
【請求項3】
前記カリクレインが、哺乳類の原料より精製される、または遺伝子組換えにより作成されることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載のカリクレイン。
【請求項4】
前記カリクレインが前立腺カリクレインであることを特徴とする、請求項1−3のいずれかに記載のカリクレイン。
【請求項5】
前記カリクレインが配列番号1のアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項1−4のいずれかに記載のカリクレイン。
【請求項6】
抗体に関するエピトープを野生型カリクレインと共有するカリクレイン、またはそのバリアントもしくはフラグメントを、アレルゲン抽出物および/または少なくとも1つの精製されたアレルゲン成分を包含する組成物に添加するステップを包含する、アレルゲン組成物を作成するための方法。
【請求項7】
前記カリクレインが、ヒトを含む霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ラットまたはマウスに由来することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記カリクレインが、哺乳類の原料より精製される、または遺伝子組換えにより作成されることを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記カリクレインが前立腺カリクレインであることを特徴とする、請求項6−8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記カリクレインが配列番号1のアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項6−9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項6−10のいずれかに記載の方法により得ることができるアレルゲン組成物。
【請求項12】
I型アレルギーのin vitroの診断のための方法であって、以下のステップ
−I型アレルギーを有するのではないかと疑われる患者由来の免疫グロブリンを含有する体液サンプルを、カリクレイン、または類似のIgE結合特性を有するそのバリアントもしくはフラグメントと、あるいは請求項11に記載のアレルゲン組成物と接触させる;そして
−前記カリクレインに特異的に結合するIgE抗体の、サンプル中の存在を検出する、
を包含し、
ここで前記カリクレインに特異的に結合するそのようなIgE抗体の存在がI型アレルギーの指標となる、前記方法。
【請求項13】
前記カリクレインが、ヒトを含む霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ラットまたはマウスに由来することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記カリクレインが、哺乳類の原料より精製される、または遺伝子組換えにより作成されることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記カリクレインが前立腺カリクレインであることを特徴とする、請求項12−14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記カリクレインが配列番号1のアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項12−15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
請求項1−6のいずれかに記載のカリクレイン、または請求項11に記載の組成物を包含する、請求項12−16のいずれかに記載の方法を実施するための診断用キット。
【請求項18】
哺乳類に対するI型アレルギーの治療のための方法であって、そのような治療に感受性の高い個体に、前記哺乳類由来のカリクレイン、またはそのIgE結合応答を抑止または減弱するように修飾された前記カリクレインの一形態を投与することを包含する、前記方法。
【請求項19】
前記哺乳類が、ヒトを含む霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ラットまたはマウスから成る群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記の修飾されたカリクレインが、10kDaサブユニットまたは18kDaサブユニットである、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記の低アレルゲン化カリクレイン誘導体が、分子のフラグメント化、切断またはタンデム化、内部のセグメントの欠失、ドメインの再配置、アミノ酸残基の置換、ジスルフィド架橋の破壊により修飾されたカリクレインである、請求項18−20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
カリクレイン、またはそのIgE結合応答を抑止または減弱するように修飾された前記カリクレインの一形態、および所望により医薬的に受容可能な担体、賦形剤、バッファーまたは希釈剤、を包含する医薬組成物。
【請求項23】
前記低アレルゲン性カリクレインフラグメントが10kDaサブユニットである、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記低アレルゲン性カリクレイン誘導体が、分子のフラグメント化、切断またはタンデム化、内部のセグメントの欠失、ドメインの再配置、アミノ酸残基の置換、ジスルフィド架橋の破壊により修飾されたカリクレインである、請求項22または23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
診断、例えばイヌに対するI型アレルギーの診断における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を有するカリクレイン。
【請求項26】
治療、例えばイヌに対するI型アレルギーの治療における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を有するカリクレイン。
【請求項27】
哺乳類の尿由来のカリクレインの単離のための方法であって、以下のステップ
−哺乳類の尿を濾過する;
−疎水性相互作用クロマトグラフィーに適するバッファーでバッファー交換する;
−バッファー交換した尿サンプルを濾過する;
−バッファー交換した尿サンプルを、疎水性相互作用クロマトグラフィーのカラムにかける;そして
−カリクレインを含む素通り分画を集める、
を包含する、前記方法。
【請求項28】
前記哺乳類の尿がイヌの尿である、請求項26に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−513479(P2010−513479A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542725(P2009−542725)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/SE2007/051080
【国際公開番号】WO2008/079095
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(506329801)ファディア・アクチボラグ (7)
【Fターム(参考)】