説明

新規アンチセンスRNAステム・ループ

【課題】 HCVの複製を抑制するアンチセンスRNAステム・ループ分子を提供すること。また、C型肝炎の有効な治療手段を提供すること。
【解決手段】 HCV IRESのSL IIIfを標的とするアンチセンスRNAステム・ループを含む核酸。前記核酸を細胞内で発現することができる発現ベクター、前記核酸及び/又は発現ベクターを含む医薬組成物も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型肝炎ウイルス(HCV)の内部リボソーム結合部位(IRES)を標的とする核酸分子に関するものであり、具体的には、IRESドメインIIIのステム・ループIIIf(ステム・ループIIIf)にループ・ループ相互作用により結合し、翻訳活性を阻害するアンチセンスRNAステム・ループを含む核酸分子に関する。本発明はまた、該アンチセンスRNAステム・ループを細胞内で発現することができる発現ベクターに関する。本発明は更に、該アンチセンスRNAステム・ループ、或いは該アンチセンスRNAステム・ループを細胞内で発現することができる発現ベクターを含む医薬組成物に関する。当該医薬組成物は、C型肝炎の予防又は治療に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(HCV)は、慢性肝炎疾患の主要な原因ウイルスであり、感染者数は世界では1億7千万人と見られている。現在、インターフェロン(及びリハビリンとの併用)が唯一の効果的な治療法であるが、その著効率は5割以下であり、新規治療薬の開発が急務となっている。特に、ウイルスゲノムの変異率が高く、分子標的薬の開発障壁となっている。
【0003】
HCVはフラビウイルス科、ヘパシウイルス属に属する(+)鎖一本鎖RNAウイルスである。約9.6kbのRNAゲノムは、約3,000のアミノ酸のポリタンパク質前駆体をコードする翻訳領域(open reading frame:ORF)と、その両末端の非翻訳領域(untranlated region:UTR)から構成される。5末端の約341ヌクレオチドからなる非翻訳領域には、内部リボソーム結合領域 (internal ribosomal entry site:IRES )と呼ばれる構造体が存在し、ウイルスRNAの非キャップ依存性翻訳を仲介する(図1A)。
【0004】
多くの真核細胞やその感染性ウイルスは、mRNAの5’末端に7−メチルグアノシンキャップ構造があり、これにeIF4、eIF4G、40Sリボソームサブユニットなど多くの翻訳開始因子や細胞性タンパク質が関与して翻訳が開始される。これに対し、HCVのIRES構造は、40SサブユニットやeIF3が直接結合し、上記キャップ依存性翻訳と比較してよりわずかな翻訳開始因子で翻訳が可能となる(非特許文献1)。
【0005】
HCV IRESの予測二次構造では、ドメインI、II、III、IVの4つの領域から構成され、翻訳開始複合体を形成する40SリボソームサブユニットやeIF3翻訳開始因子はドメインIIIの広範にわたって相互作用している(非特許文献2)。HCVは、変異率の違いから6種のジェノタイプが知られているが、IRESの二次構造はよく保存されている。先行研究では、デコイ実験や変異解析からIIId、e、fの重要性が示唆されている(非特許文献2、非特許文献3)。
【0006】
一方、アンチセンスやsiRNAを用いることによるHCVの複製阻害も報告されている。Tallet−Lopezらは、IIId領域に結合する2’−OMe化アンチセンスRNAが、in vitro翻訳系において40Sリボソームとの結合を阻害する(IC50 <10 nM)ことを報告している(非特許文献4)。また、Kandaらは、IIId〜IIIeの領域を標的とするshRNA(siRNA)をJFH1感染細胞(Huh−7)に導入することにより、ウイルス複製および感染性が阻害されることを報告している(非特許文献5)。
【0007】
また、アプタマーによるHCVの増幅、複製の阻害に関しては、Aldaz−CarrolらのドメインIのステム・ループ1に結合するアプタマー(apical loop−internal loop interaction)(Kd=70nM)(非特許文献6)、Da Rocha GomesらのドメインIIに結合するアプタマー(apical loop−internal loop interaction)(Kd=35nM)(非特許文献7)などの報告がある。また、Romero−LopezらによってIIIf領域に結合する81merアプタマー(HH363−10)が報告されているが、ウイルス複製阻害活性は示されていない。また、IIIfと結合するステム・ループ領域も弱い翻訳阻害活性しか示さない(非特許文献8)。
【0008】
一方、西川らは、リボザイムとアプタマーとからなるキメラRNAによりIRES活性とNS3プロテアーゼ活性をともに抑制可能な機能性RNA分子を提唱した(特許文献1など)。しかしながら、目的とするキメラRNAは160ntからなる巨大分子であり、医薬品としての利用には、分子量の低下など解決すべき課題は多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、HCVにおいてジェノタイプを超えて二次構造が保存されているIRESドメインIIIのステム・ループIIIf領域に結合することにより、HCVの複製を抑制するアンチセンスRNAステム・ループ分子を提供し、C型肝炎の有効な治療手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
HCV 5’UTR IRESのドメインIIIに存在するステム・ループ IIIe及びf領域はリボソーム40Sサブユニットとの結合に重要であり、高い保存性を示す(図1B)。この中で、ステム・ループ IIIfは下流の一本鎖領域とpseudoknot構造を形成すると考えられている(非特許文献9)。pseudoknot形成を妨げる変異は著しく翻訳効率低下させ、再びpseudoknot構造をrestoreする相補的な変異により効率は部分的にしか回復しない(非特許文献2)。このことから、pseudoknot領域の配列と構造がいずれも翻訳活性において重要であることが分かった。また、ドメインIIIe及びf領域に相当するデコイRNA分子が特異的にIRESからの翻訳を阻害することが示されている(非特許文献3)。以上のことから、HCVゲノムRNAのIIIfに相当するステム・ループ構造への結合により翻訳を阻害することにより、HCVの増殖を抑制することができる可能性がある。
【0011】
そこで発明者らは、上記RNA-タンパク質相互作用を阻害する方法として、アンチセンスRNAステム・ループの利用に着目し、U1Aタンパク質とU1hpII RNAとの相互作用などをモデルとしてその有効性を示した。また、このような方法論を用いて、HCV の翻訳に重要なゲノムRNA5’非翻訳領域に結合し、感染細胞におけるウイルス複製を抑制するアンチセンスRNAステム・ループの発明に想到した。
【0012】
以上、本発明の理解のため、本発明を想到するに至る経緯を説明したが、本発明の範囲は上記説明に限定されず、請求の範囲の記載によって定められる。
【0013】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)HCV IRESのSL IIIfを標的とするアンチセンスRNAステム・ループを含む核酸。
(2)アンチセンスRNAステム・ループが、HCV IRESのSL IIIf RNAのループ領域と相補的な2〜8塩基の領域を持つ4〜12塩基のループを持つ(1)記載の核酸。
(3)ループの根元にGAミスマッチ塩基対が挿入された(1)又は(2)記載の核酸。
(4)アンチセンスRNAステム・ループが2〜48塩基対のステムを持つ(1)〜(3)のいずれかに記載の核酸。
(5)アンチセンスRNAステム・ループが下記のいずれかの配列で表される(1)〜(4)のいずれかに記載の核酸。
IIIf-a0:5'-GGGAACCUGCUCGCACAGGUUCCC-3'(配列番号1)
IIIf-a1:5'-GGGAACCUGGCUCGCAACAGGUUCCC-3'(配列番号2)
IIIf-a2:5'-GGGAACCUGGACUCGCAAACAGGUUCCC-3'(配列番号3)
IIIf-a1-s4:5'-GGUGGCUCGCAACACC-3'(配列番号4)
IIIf-a1-s5:5'-GGCUGGCUCGCAACAGCC-3'(配列番号5)
IIIf-a1-s6:5'-GGCCUGGCUCGCAACAGGCC-3'(配列番号6)
IIIf-a1-s7:5'-GGACCUGGCUCGCAACAGGUCC-3'(配列番号7)
(6)化学修飾されている(1)〜(5)のいずれかに記載の核酸。
(7)(1)記載の核酸を細胞内で発現することができる発現ベクター。
(8)(1)記載の核酸及び/又は(7)記載の発現ベクターを含む、医薬組成物。
(9)C型肝炎の予防又は治療のために用いられる(8)記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアンチセンスRNAステム・ループを含む核酸は、一般的な一本鎖RNAからなるアンチセンス分子やsiRNAでは標的とすることが難しいIRESの二次構造を標的とする。RNA二次構造を標的とすることにより、HCVの翻訳において重要な役割を果たす宿主やウイルス因子の働きを直接阻害し、効果的な翻訳の抑制が期待される。また、IRESの二次構造は高い配列保存性を有し、耐性変異が生じ難いことが知られており、各種ジェノタイプに対応したHVC増殖、複製阻害が可能なアンチセンスRNAステム・ループを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A) HCV IRESの二次構造、(B)HCVIRESドメインIIIe及びf領域の二次構造
【図2】デザイン/合成したアンチセンスRNAステム・ループとその変異体
【図3】デザイン/合成したアンチセンスRNAステム・ループと標的RNAとの結合のポリアクリルアミド・ゲル電気泳動による解析
【図4】アンチセンスRNAステム・ループによるHCV RNA産生阻害の評価
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0017】
定義
本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。
【0018】
アンチセンスRNAステム・ループを含む核酸
本発明は、HCV IRESのSL IIIfを標的とするアンチセンスRNAステム・ループを含む核酸を提供する。
【0019】
アンチセンスRNAステム・ループは、HCV IRESのSL IIIf RNAのループ領域と相補的な2〜8塩基の領域を持つ4〜12塩基のループを持つとよい。また、ループの根元にGAミスマッチ塩基対が挿入されてもよい。さらに、ループには、HIV DISの5'AANNNNNNA3'のようにアデニン3個が挿入されてもよい。これにより、結合の親和性が向上する。アンチセンスRNAステム・ループは、4〜12塩基のループを持つとよく、好ましくは、5〜10塩基のループを持ち、より好ましくは、6〜10塩基のループを持つ。
【0020】
アンチセンスRNAステム・ループは、2〜48塩基対のステムを持つとよく、好ましくは、2〜20塩基対のステムを持ち、より好ましくは、2〜10塩基対のステムを持つ。
【0021】
アンチセンスRNAステム・ループは、下記のいずれかの配列で表されるとよい。IIIf-a0:5'-GGGAACCUGCUCGCACAGGUUCCC-3'(配列番号1)
IIIf-a1:5'-GGGAACCUGGCUCGCAACAGGUUCCC-3'(配列番号2)
IIIf-a2:5'-GGGAACCUGGACUCGCAAACAGGUUCCC-3'(配列番号3)
IIIf-a1-s4:5'-GGUGGCUCGCAACACC-3'(配列番号4)
IIIf-a1-s5:5'-GGCUGGCUCGCAACAGCC-3'(配列番号5)
IIIf-a1-s6:5'-GGCCUGGCUCGCAACAGGCC-3'(配列番号6)
IIIf-a1-s7:5'-GGACCUGGCUCGCAACAGGUCC-3'(配列番号7)
【0022】
本発明の核酸は、バルジ塩基、internalループ、apicalループなどを含んでもよい。本発明の核酸は、8〜120塩基の長さであるとよく、好ましくは、9〜60塩基の長さであり、より好ましくは、10〜40塩基の長さである。
【0023】
本発明の核酸は、鋳型DNAからin vitro転写法により、作製することができる。また、本発明の核酸は、公知のオリゴヌクレオチド合成法で作製することができる。
【0024】
本発明の核酸は、当業者に公知の手法で化学修飾することにより安定化することができる。具体的には、アンチセンスRNAステム・ループあるいはその他の構成要素の一部或いは全部が、ホスホロチオエート体、ボラノフォスフェート体であってもよく、DNA、Locked nucleic acid(LNA)、Bridged nucleic acid(BNA)或いはモルフォリノ体、protein nucleic acid(PNA)体で置換されていてもよい。また、2’−修飾体であってもよく、具体的には、2’−O−methyl、2’−methoxyethyl、2’−fluoro修飾体であってもよい。
【0025】
アンチセンスRNAステム・ループを含む核酸を発現するベクター
また、本発明は、HCV IRESのSL IIIfを標的とするアンチセンスRNAステム・ループを含む核酸を発現することができる発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターは、HCV IRESのSL IIIfを標的とするアンチセンスRNAステム・ループを含む核酸をコードするDNA又はRNAがベクターに組み込まれたものである。当該ベクターは非ウイルスベクターであってもよいし、ウイルスベクターであってもよい。
【0026】
非ウイルスベクターとしては、pUC19(宝酒造、京都)、pGREENLANTERN(ライフテックオリエンタル(株)、東京)、pHaMDR (HUMAN GENE THERAPY 6:905-915 (July 1995))など、当業者が周知のプラスミドベクターを用いることができる。
【0027】
ウイルスベクターとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス、センダイウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、又はワクシニアウイルスであってもよい。
【0028】
上記発現ベクターは、当該アンチセンスRNAステム・ループを含む核酸をコードするDNAを作製し、これを転写因子結合部位(プロモーター領域)を含むベクターに組み込むことによって調製できる。当該アンチセンスRNAステム・ループを含む核酸をコードするDNAは、当業者に周知の核酸の化学的合成法により、DNA合成機を用いて製造することができる。また、合成されたDNAを鋳型にしてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、あるいは当該DNAを含むベクターによって形質転換された培養宿主細胞中で増幅することができる。
【0029】
医薬品組成物
さらに、本発明は、HCV IRESのSL IIIfを標的とするアンチセンスRNAステムループを含む核酸及び/又は当該核酸を細胞内で発現することができる発現ベクターを含む、医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、C型肝炎の予防又は治療のために用いることができる。
【0030】
HCVに感染した被験者の組織または細胞(例えば、肝臓)に、本発明の核酸又は本発明の核酸を細胞内で発現することができる発現ベクターを導入することによって、細胞中のHCVタンパク質の合成を抑制および/またはHCVの複製を抑制することができる。本発明の核酸又は本発明の核酸を細胞内で発現することができる発現ベクターの導入は、例えば、それらをリポソームに封入し、細胞内に取り込む方法(”Lipidic vector systems for gene transfer”(1997)
R.J. Lee and L. Huang Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst 14, 173−206;中西守ら、蛋白質 核酸
酵素 Vol.44, No.11, 1590−1596 (1999))、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃による方法などで行うことができる。本発明の核酸又は本発明の核酸を細胞内で発現することができる発現ベクターを細胞に導入する場合には、例えば、疾患部位の細胞を一部取り出し、in
vitroで遺伝子導入を行った後、該細胞を再び組織に戻すことも可能であるし、あるいは、疾患部の組織に直接あるいは静脈、筋肉、腹腔、皮下、皮内投与などの投与経路で本発明の核酸又は本発明の核酸を細胞内で発現することができる発現ベクターを導入することもできる。本発明の核酸又は本発明の核酸を細胞内で発現することができる発現ベクターの投与は、疾病の状態の重篤度や生体の応答性によるが、治療の有効性が認められるまで、あるいは疾病状態の軽減が達成されるまでの期間にわたり、適当な用量、投与方法、頻度で行えばよい。例えば、通常、成人一人当たり1〜100mg、好ましくは、1〜10mgの投与量で、少なくとも1回、所望の効果が持続する頻度で投与するとよい。ベクターがウイルスの場合には、例えば、成人一人当たり10〜1012pfu、好ましくは1011〜1012pfuの投与量で少なくとも1回、所望の効果が持続する頻度で投与するとよい。
【0031】
本発明の核酸又は本発明の核酸を細胞内で発現することができる発現ベクターは、必要により、医薬上許容される担体(例えば、生理食塩水、緩衝液などの希釈剤)とともに製剤化した医薬組成物として、投与されるとよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本発明の記載に基づいて容易に本発明に修飾、変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
試薬・溶媒・使用機器など
【0033】
塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、ポリエチレングリコール(PEG6000)、尿素、アクリルアミド、エタノール、EDTA、エチジウム・ブロマイド、リン酸ナトリウム、グアノシン5’三リン酸(GTP)、シトシン5’三リン酸(CTP)は、和光純薬より購入した。HEPESは、シグマより購入した。ウリジン5’三リン酸(UTP)は、MP Biomedical社より購入した。アデノシン5’三リン酸(ATP)はロッシュより購入した。トリス(Tris)、TRIZOL Reagentは、インビトロジェンより購入した。ホウ酸は、アマシャム・バイオサイエンスより購入した。T7
RNA Polymeraseは、大腸菌で発現し、Trisacryl SP樹脂(シグマ)を用いて精製した。TransIT−mRNA Transfection Kitは、MirusBio社より購入した。UVトランスイルミネーターはフナコシ、スラブゲル電気泳動層はバイオクラフト、TaqMan real−time RT−PCR
はApplied Biosystems社のものを用いた。
【0034】
実施例1:アンチセンスRNAステム・ループのデザイン
図2に示したアンチセンスRNAステム・ループをデザインした。すなわち、アンチセンスRNAステム・ループ分子IIIf−a0は、HCVゲノムRNA IIIfのループに相補的な6塩基をループにもつようにデザインした。IIIf-a1はIIIf-a0のループ根元にGAミスマッチ塩基対を挿入した。IIIf-a2はIIIf-a1より2塩基多い8塩基の相補的な塩基をループに持つようにデザインした。IIIf-a1mは、IIIf-a1のループ先端の塩基CGをGCに置換した変異体で、IIIf-a1の陰性コントロールとして作成した。同様にIIIf-a2mは、IIIf-a2のループ先端の塩基CGをGCに置換した変異体で、IIIf-a2の陰性コントロールを目的として作成した。このようにデザインした当該アンチセンスRNA ステム・ループ分子は、RNA二次構造予測プログラム(MulFold)によってステム・ループ構造をとるか確認した。
【0035】
実施例2:アンチセンスRNAステム・ループの合成
アンチセンスRNA ステム・ループ分子は、T7 polymeraseを用いたin vitro転写法によって合成した。当該アンチセンスRNA
ステム・ループ分子と相補的なDNA配列にT7プロモーターの相補鎖の配列を連結した鋳型DNAを作製した。転写反応に用いた鋳型DNA配列を表1に示した。当該一本鎖鋳型DNA(5μM)は、T7 プロモーターDNA(7.5μM)、NaCl(100nM),Tris−HCl (10nM)を含む溶液を95℃で5分間熱変性させ室温まで戻すことでT7 プロモーターDNAをアニーリングさせた。これを鋳型としてT7 polymeraseにより転写し、当該アンチセンスRNA
ステム・ループ分子を含む転写反応溶液を得た。転写反応溶液[HEPES(1×), ポリエチレングリコール(PEG6000, 80mg/ml), GTP (8mM), UTP(8mM), ATP(4mM), CTP(4mM) 、MgCl(42mM), template DNA
(300mM)]を調製し、T7ポリメラーゼを加えて37℃で2時間インキュベーションした。転写反応溶液はEDTAを加え反応を停止させ、エタノール沈殿をして8M尿素/15%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で精製した。
表1に使用したRNAの鋳型オリゴDNA配列を示した。
【0036】
【表1】

IIIf、IIIf-a0、IIIf-a1、IIIf-a2、IIIf-a1m及びIIIf-a2mのDNA配列を、それぞれ、配列番号8、9、10、11、12及び13に示す。
【0037】
実施例3:アンチセンスRNAステム・ループと標的RNAとの相互作用の解析
各RNA基質が6μMになるように標的RNA:アンチセンスRNAステム・ループ=1:1のモル比になるようRNA基質溶液を調製した。95℃で5分間熱変性させ氷上で5分間急冷した。反応溶液に4×PNバッファー[リン酸ナトリウム、 pH7.0(40mM)、塩化ナトリウム(200mM)]を1×になるように加え、37℃で30分間インキュベーションした。グリセロールを終濃度の10%となるように添加し、ゲルTBE(89mMトリス、89mMホウ酸、2mM EDTA)、TBM(89mMトリス、89mMホウ酸、0.1mM塩化マグネシウム)の各ゲルに等分してアプライした。電気泳動は、一定温度(特記以外4℃)、200Vで行った。電気泳動後のゲルはエチジウムブロマイドで染色し、UVトランスイルミネーターでバンドを可視化した。
TBEゲルはマグネシウムイオンを含まないためループ・ループ相互作用はみられず、2本のバンドとして検出される。TBMゲルでは、マグネシウムイオンの存在により、ループ・ループ相互作用可能な条件になっている。
【0038】
標的RNAIIIfとアンチセンスRNAを組み合わせてゲルシフトを行った。IIIf-a0, IIIf-a1, IIIf-a2すべてにおいてバンドのシフトがみられたことから、デザインしたアンチセンスRNAステム・ループは標的に結合した。また、IIIf-a1, IIIf-a2については、バンドのシフトの度合いが大きいことから、GAミスマッチ塩基対の効果が得られ、IIIf-a0よりも強く結合した。特に、IIIf-a1はIIIf-a2より大きなシフトが確認された。シフトの度合いが大きかったこれら2つのアンチセンスRNAステム・ループIIIf-a1, IIIf-a2に関して、ループ先端の2配列を変えた変異体IIIf-a1m,
IIIf-a2mを作製し、同法によるバンドのシフトを調べた。その結果、変異体では、標的RNAとの結合がみられなかったことから、IIIf-a1, IIIf-a2は標的に対し特異的に結合することが示された。
【0039】
実施例4:アンチセンスRNAステム・ループ分子によるHCV複製阻害効果の確認
HCV感染ヒト肝癌細胞Huh−7を24-well培養プレートに1x10cells/well播種し、1日後、TransIT−mRNA Transfection Kit (MirusBio社)を利用してアンチセンスRNAを細胞へ導入した。アンチセンスRNA
1または5μgを、TransIT−mRNA Reagent/mRNA Boost Reagent/Opti−MEMと混和し、4分間静億後、細胞へ添加した。3日間培養後、細胞の全RNAをTRIZOL reagentにより調製した。全RNA量を測定し、TaqMan real−time RT−PCRによりHCV
RNAを定量測定した。その結果、IIIf-a1の場合、HCV RNA量の70%程度の低下が、IIIf-a2の場合は30%程度の低下が見られ、試験管内アッセイでの標的RNAとの結合活性に対応する結果が見られた。また、IIIf-a1およびIIIf-a2のループ変異を導入したIIIf-a1mおよびIIIf-a2mの場合は、予想される通り阻害活性は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の核酸は、HVC増殖、複製阻害が可能であり、C型肝炎の予防又は治療のための医薬品として利用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0041】
<配列番号1>
配列番号1は、アンチセンスRNAステム・ループIIIf-a0のRNA配列を示す。
<配列番号2>
配列番号2は、アンチセンスRNAステム・ループIIIf-a1のRNA配列を示す。
<配列番号3>
配列番号3は、アンチセンスRNAステム・ループIIIf-a2のRNA配列を示す。
<配列番号4>
配列番号4は、アンチセンスRNAステム・ループIIIf-a1-s4のRNA配列を示す。
<配列番号5>
配列番号5は、アンチセンスRNAステム・ループIIIf-a1-s5のRNA配列を示す。
<配列番号6>
配列番号6は、アンチセンスRNAステム・ループIIIf-a1-s6のRNA配列を示す。
<配列番号7>
配列番号7は、アンチセンスRNAステム・ループIIIf-a1-s7のRNA配列を示す。
<配列番号8>
配列番号8は、RNAの鋳型オリゴDNA配列IIIfのDNA配列を示す。
<配列番号9>
配列番号9は、RNAの鋳型オリゴDNA配列IIIf-a0のDNA配列を示す。
<配列番号10>
配列番号10は、RNAの鋳型オリゴDNA配列IIIf-a1のDNA配列を示す。
<配列番号11>
配列番号11は、RNAの鋳型オリゴDNA配列IIIf-a2のDNA配列を示す。
<配列番号12>
配列番号12は、RNAの鋳型オリゴDNA配列IIIf-a1mのDNA配列を示す。
<配列番号12>
配列番号12は、RNAの鋳型オリゴDNA配列IIIf-a2mのDNA配列を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0042】
【特許文献1】特開2002−165594
【非特許文献】
【0043】
【非特許文献1】Rijnbrand RC et al., Curr Top MicrobiolImmunol.242:85-116, 2000
【非特許文献2】Kieft et al., RNA, Feb;7(2):194-206, 2001
【非特許文献3】Ray & Das, Nucleic Acids Res.,32:1678-1687, 2004
【非特許文献4】Tallet-Lopez et al., Nucleic Acids Res.,31:734-742, 2003
【非特許文献5】Kanda et al., J. Virol., 81:669-676, 2007
【非特許文献6】Aldaz-Carrol et al., Biochem., 41:5883-5893, 2002
【非特許文献7】Da Rocha Gomes et al., BBRC, 322:820-826, 2004
【非特許文献8】Romero-Lopez et al., Cell Mol. Life Sci., 64:2994-3006, 2007
【非特許文献9】Wang et al., RNA, Jul;1(5):526-37.:526-537, 1995

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HCV IRESのSL IIIfを標的とするアンチセンスRNAステム・ループを含む核酸。
【請求項2】
アンチセンスRNAステム・ループがHCV
IRESのSL IIIf RNAのループ領域と相補的な2〜8塩基の領域を持つ4〜12塩基のループを持つ請求項1記載の核酸。
【請求項3】
ループの根元にGAミスマッチ塩基対が挿入された請求項1又は2記載の核酸。
【請求項4】
アンチセンスRNAステム・ループが2〜48塩基対のステムを持つ請求項1〜3のいずれかに記載の核酸。
【請求項5】
アンチセンスRNAステム・ループが下記のいずれかの配列で表される請求項1〜4のいずれかに記載の核酸。
IIIf-a0:5'-GGGAACCUGCUCGCACAGGUUCCC-3'(配列番号1)
IIIf-a1:5'-GGGAACCUGGCUCGCAACAGGUUCCC-3'(配列番号2)
IIIf-a2:5'-GGGAACCUGGACUCGCAAACAGGUUCCC-3'(配列番号3)
IIIf-a1-s4:5'-GGUGGCUCGCAACACC-3'(配列番号4)
IIIf-a1-s5:5'-GGCUGGCUCGCAACAGCC-3'(配列番号5)
IIIf-a1-s6:5'-GGCCUGGCUCGCAACAGGCC-3'(配列番号6)
IIIf-a1-s7:5'-GGACCUGGCUCGCAACAGGUCC-3'(配列番号7)
【請求項6】
化学修飾されている請求項1〜5のいずれかに記載の核酸。
【請求項7】
請求項1記載の核酸を細胞内で発現することができる発現ベクター。
【請求項8】
請求項1記載の核酸及び/又は請求項7記載の発現ベクターを含む、医薬組成物。
【請求項9】
C型肝炎の予防又は治療のために用いられる請求項8記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−160674(P2011−160674A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23781(P2010−23781)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(508098800)タグシクス・バイオ株式会社 (3)
【出願人】(591222245)国立感染症研究所長 (48)
【Fターム(参考)】