説明

新規イリジウム錯体及びこれを用いた有機電界発光素子

開示されるのは、有機電界発光素子の光放出層材料として用いられる重水素化した新規イリジウム錯体燐光材料、その調製方法及びこれを用いた有機電界発光素子である。先行技術の光放出層であって重水素置換が全くない光放出層を用いる有機電界発光素子と比較して、本発明の重水素化材料を用いた有機電界発光素子は、発光効率、輝度、電力効率、熱的安定性などが向上している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子の発光材料として用いられる重水素化した新規イリジウム錯体燐光材料、その調製方法及びこれを用いた有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、発光層用の材料は、光放出メカニズムによって、蛍光材料と燐光材料とに分類される。一般に、燐光材料は、重金属原子を中心として多数の配位子を含み、25%の三重項励起子生成確率を有する蛍光材料と比較してより高い発光効率を示すことが公知であり、燐光材料の三重項状態からの電子転移は、選択律に従って生じないと考えられるが、燐光材料の三重項状態からの電子転移が可能となり、その結果、75%の三重項励起子生成確率を有する三重項励起子が用いられ得る。
【0003】
公知のイリジウム錯体発光材料としては、Ir(ppy)(Universal Display Corporation)及びIr(ppy)(acac)(特許文献1)がある。
【0004】
一方、特許文献2では、Ir(ppy)の水素原子の一部又は全部を重水素に置換することにより得られた発光材料が開示されている。一般に、重水素に置換された場合は、励起子が容易に形成されるため、発光効率が高くなる。その理由は、重水素に置換された場合には、炭素と重水素との間の結合強度が、炭素と水素との間の結合強度より強いため、炭素と重水素との間の結合長さが短く、ファン・デル・ワールス力が小さくなるからである。それ故、より高い蛍光効率が得られる。
【0005】
しかしながら、前述した特許文献2では、Ir(ppy)の水素を重水素に置換した場合、置換していない場合に比べて、効率がどれほど向上したのかが数値として記載されておらず、効率の向上の程度は、図8及び図9から推測できるだけである。
【0006】
【特許文献1】国際公開第2004/043974号パンフレットA1
【特許文献2】米国特許第6,699,599号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、発光効率、電流効率、電力効率、熱的安定性などが向上した、重水素化した新規イリジウム錯体燐光材料、その調製方法及びこれを用いた有機電界発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
金属に配位した配位子の水素を重水素に置換しても、有機燐光材料の大部分の化学的性質はほぼ変化しない。しかしながら、重水素は原子量が水素の2倍であるから、化合物の水素を重水素に置換する場合に重要な物理的性質が変化し得る。すなわち、重い原子は、位置エネルギーレベルがより低いため、より低い零点エネルギー(zero point energy)を有することになり、そして振動モードが小さくなるため、振動エネルギーレベルも低くなる。よって、化合物内に存在する水素原子が重水素に置換される場合、分子間ファン・デル・ワールス力が減少し、振動による分子間衝突に起因してプロトン効率が減少する。
【0009】
本発明では、前述したような事実に基づき、イリジウム錯体の配位子内の水素原子の一部又は全部を重水素に置換することで、発光効率、輝度、電流効率、電力効率、熱的安定性などが向上した、重水素化した新規イリジウム錯体燐光材料及びこれを用いた有機電界発光素子を提供する。
【0010】
本発明による重水素化した新規イリジウム錯体は、下記一般式1で表される構造式を有する:
【0011】
【化1】

【0012】
一般式中、R〜R36のうち少なくとも一つは、独立して重水素であり、重水素でないR〜R36は、独立して、水素、置換又は非置換C−C30のアルキル基、置換又は非置換C−C30のアルケニル基、置換又は非置換C−C30の縮合環基、置換又は非置換C−C30のアリール基、置換又は非置換C−C30のアリールアルキル基、置換又は非置換C−C30のアリールオキシ基、置換又は非置換C−C30のヘテロアリール基、置換又は非置換C−C30のシクロアルキル基、置換又は非置換C−C30のヘテロシクロアルキル基、或いはハロゲン原子であり;
【0013】
Xは、下記一般式2a又は一般式2bで表される構造を有する二座配位子であり:
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
一般式中、Y〜Yは、水素、重水素、置換又は非置換C−C30のアルキル基、置換又は非置換C−C20のアルケニル基、置換又は非置換C−C30のアリール基、置換又は非置換C−C30のアリールオキシ基、置換又は非置換C−C30のヘテロアリール基、置換又は非置換C−C30のヘテロアリールアルキル基、置換又は非置換C−C30のヘテロアリールオキシ基、置換又は非置換C−C20のシクロアルキル基或いは置換又は非置換C−C20のヘテロシクロアルキル基からなる群より独立して選ばれるものであり;
【0017】
〜Pは、それぞれ独立して炭素、酸素、窒素又は硫黄原子であり;かつ
【0018】
a〜hは、それぞれ0、1又は2である。
【0019】
Xの具体例としては、アセチルアセトネート(acac)、ヘキサフルオロアセチルアセトネート(hfacac)、サリチリデン(sal)、ピコリネート(pic)、8−ヒドロキシキノリナート、L−プロリン(L−pro)、ジベンゾイルメタン(debenzoyl methane)、テトラメチルヘプタンジオン(tmd)、1−(2−ヒドロキシフェニル)ピラゾレート(oppz)などが挙げられ、下記一般式3に示されるもののいずれか一つを有し得る。
【0020】
【化4】

【0021】
以下には、上記一般式1で表される本発明による新規イリジウム錯体の調製方法が記載される。
【0022】
本発明による上記一般式1の化合物は、上記一般式2a又は一般式2bで表される化合物と下記一般式4で表されるイリジウム二量体化合物とを反応させて得られ得る:
【0023】
【化5】

【0024】
この反応において、上記一般式4の化合物1モルに対し、上記一般式2a又は一般式2bの化合物2モル以上を反応させるのが好ましく、反応溶媒は特別に限定されないが、2−エトキシエタノール、エタノール又はグリセロールが用いられ得、反応温度は70〜200℃であるのが好ましい。塩基としてはKCO、NaCO又はCsCOなどが用いられるのが好ましい。
【0025】
上記一般式4で表される化合物は、三塩化イリジウム(IrCl・3HO)と、下記一般式5で表される化合物の何れか一つとを反応させて得られる。
【0026】
【化6】

【0027】
一般式中、R〜R36は、上記一般式1について説明した通りである。上記一般式4の化合物の調製において、三塩化イリジウム(IrCl・3HO)1モルに対し、上記一般式5で表される化合物2モル以上を反応させるのが好ましく、反応溶媒としては、2−エトキシエタノール、水又はグリセロールが用いられるのが好ましく、反応温度は70〜200℃の範囲であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明により発光効率、輝度、電流効率、電力効率、熱的安定性などが向上した、重水素化した新規イリジウム錯体燐光材料、その調製方法及びこれを用いた有機電界発光素子が提供される。本発明による新規イリジウム錯体は、従来の発光特性に対する変化なしに、従来のイリジウム錯体のものに比べ、2倍の輝度及び電流効率の向上、2倍又は3倍の電力効率の向上を示し、他の光放出特性には変化を示さないため、有機電界発光素子の光放出層材料として用いられることが期待される。
【実施例】
【0029】
以下、後述する実施例に基づき、本発明をより詳細に説明する。しかしながら、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【0030】
本発明では、前述した方法で合成した化合物の構造をH−NMR分光法、元素分析法、質量分析法等により決定した。前記化合物をジクロロメタンに溶解してUV及びPLスペクトルを測定した。本実施例において調製した化合物を用いて電界発光素子を製作し、そしてこれらの発光特性を評価した。
【0031】
実施例1:Ir(ppy)(acac)−d8の調製
【0032】
【化7】

【0033】
ブロモベンゼン−d5 2.0g(12.3mmol)をテトラヒドロフラン(THF)60mLに溶解した後、−78℃でt−BuLi(25.8mmol)を徐々に添加した。次に、この反応溶液を、同温度で30分間撹拌し、B(OEt)4.2mL(24.6mmol)を徐々に添加した。この反応溶液の温度を室温に徐々に上げた後、この反応溶液を室温で12時間撹拌した。この反応溶液に1NのHCl水溶液を添加し、1時間撹拌した後、エチルアセテートを添加してこの反応溶液を抽出した。有機層を水で十分に洗浄し、MgSOで乾燥した後、溶媒を減圧蒸留した。得られた化合物を10%メタノール/ジクロロメタンでカラムクロマトグラフィーを行い、フェニルボロン酸−d5 1.10g(69%)を得た。
【0034】
フェニルボロン酸 0.36g(2.87mmol)及び2−ブロモピリジン0.45g(2.87mmol)を、トルエン3mLとエタノール1.5mLとの混合物に添加し、得られた溶液を撹拌した。次に、Pd(PPh)0.1g(0.089mmol)及び2M NaCO水溶液3mLを上記溶液に添加した。窒素雰囲気下で5時間撹拌しながら還流することにより反応させた後、室温にまで冷ました。この反応溶液を水に注ぎ、エチルアセテートで抽出した。有機層をMgSOで乾燥し、減圧蒸留した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製(溶離液:10%エチルアセテート/n−ヘキサン)し、純粋な生成物として2−フェニルピリジン−d5 0.296g(64%)を得た。
【0035】
2−フェニルピリジン−d5 0.296g(1.847mmol)及びIrCl3HO 0.184g(0.616mmol)を、2−エトキシエタノール15mL及び水4.5mLに溶解した後、得られた混合物を140℃で24時間反応させた。反応混合物の温度を室温に下げ、上記反応溶液を濾過して得られた黄色固体を95%エタノール、アセトン及びn−ヘキサンで順次洗浄し、黄色固体としてイリジウム二量体を0.228g(34%)得た。
【0036】
H−NMR(CDCl、500MHz)δ(ppm)9.24(d、1H)、7.86(d、1H)、7.74(t、1H)、6.77(t、1H)(図1参照)
【0037】
上記得られたイリジウム二量体228mg(0.210mmol)、アセチルアセトネート53mg(0.53mmol)及びNaCO223mg(2.10mmol)を2−エトキシエタノール10mLに添加し、得られた混合物を140℃で15時間反応させた。この反応溶液の温度を室温に下げ、水を添加して結晶化を誘導した。固体を濾過した後、エーテル及びn−ヘキサンで洗浄した。得られた固体をジクロロメタンに溶解した後、カラムクロマトグラフィーにより純粋な目的化合物204mg(80%)を得た。
【0038】
H−NMR(CDCl、300MHz)δ(ppm)8.60(d、2H)、8.11(d、2H)、7.95(t、2H)、7.36(t、2H)、5.30(s、1H)、1.72(s、6H)(図2参照)
【0039】
元素分析:測定値:C 53.54、H 5.01、N 4.60、計算値:C 53.36、H 5.14、N 4.61
【0040】
実施例2:Ir(ppy)(acac)−d16の調製
【0041】
【化8】

【0042】
実施例1に記載した方法と同様の方法(2−ブロモピリジンの代りに2−ブロモピリジン−d4を使用した点を除く)を用いて2−フェニルピリジン−d9を得た。
【0043】
2−エトキシエタノール80mL及び水25mLを混合することにより得られた溶液に、三塩化イリジウム(IrCl・3HO)1.0g(3.35mmol)及び2−フェニルピリジン−d9 1.4mL(10.0mmol)を添加し、そして得られた混合物を140℃で24時間反応させた。この反応溶液の温度を室温に下げ、生じた沈殿物を濾過し、次いで、エタノール及びアセトンで洗浄した。濾過した固体を真空乾燥して、1.2g(収率33%)のイリジウム二量体を黄色固体として得た。
【0044】
得られたイリジウム二量体1.1g(1mmol)、アセチルアセトネート0.25g(2.5mmol)及び2N KCO水溶液10mLをエタノール20mLに添加し、次いで、得られた混合物を24時間還流させることにより反応させた。生成した固体を濾過し、次いで、エタノール及びアセトンで洗浄して、目的化合物を80%の収率で得た。
【0045】
H−NMR(CDCl、300MHz)δ(ppm)5.25(s、1H)、1.69(s、6H)
【0046】
元素分析:測定値:C 52.50、H 6.31、N 4.47;計算値:C 52.66、H 6.38、N 4.55
【0047】
実施例3:Ir(ppy)(L−pro)−d16の調製
【0048】
【化9】

【0049】
実施例2で説明した方法と同様の方法により調製したイリジウム二量体1.1g(1mmol)、L−プロリン0.29g(2.5mmol)及び2N KCO水溶液10mLをエタノール20mLに添加し、そして得られた混合物を24時間還流させることにより反応させた。生成した固体を濾過し、次いで、エタノール及びアセトンで洗浄して、目的化合物を85%の収率で得た。
【0050】
H−NMR(CDCl、300MHz)δ(ppm)5.45(s、1H)、2.90(m、1H)、1.95(m、1H)、1.21(m、5H)
【0051】
元素分析:測定値:C 50.89、H 6.34、N 6.45。計算値:C 51.41、H 6.39、N 6.66
【0052】
実施例4:Ir(piq)(acac)−d8の調製
【0053】
【化10】

【0054】
ブロモベンゼン−d5 2.0g(12.3mmol)をテトラヒドロフラン(THF)60mLに溶解した後、−78℃でt−BuLi(25.8mmol)を徐々に添加した。次に、この反応溶液を同温度で30分間撹拌し、B(OEt)4.2mL(24.6mmol)を徐々に添加した。この反応溶液の温度を室温に徐々に上げた後、この反応溶液を室温で12時間撹拌した。この反応溶液に1NのHCl水溶液を添加し、これを室温でさらに1時間撹拌した後、エチルアセテートで抽出した。有機層を水で十分に洗浄し、MgSOで乾燥した後、減圧蒸留した。残渣を10%メタノール/ジクロロメタンを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製し、フェニルボロン酸−d5 1.10g(69%)を得た。
【0055】
フェニルボロン酸−d5 1.49g(12.2mmol)及び2−クロロイソキノリン2.0g(12.2mmol)を、トルエン13mL及びエタノール6.5mLに添加し、次いで、得られた混合物を撹拌した。次に、Pd(PPh)0.44g(0.38mmol)及び2M NaCO水溶液13mLを上記反応溶液に添加した。窒素雰囲気下で5時間撹拌しながら還流させることにより上記反応溶液を反応させた後、室温にまで冷ました。この反応溶液を水に注ぎ、エチルアセテートで抽出した。有機層をMgSOで乾燥し、減圧蒸留した後、得られた化合物をカラムクロマトグラフィーで精製(溶離液:トルエン/n−ヘキサン=2/1)し、純粋な生成物として2−フェニルイソキノリン−d5 2.279g(91%)を得た。
【0056】
2−フェニルイソキノリン−d5 2.0g(9.51mmol)及びIrCl・3HO 0.947g(3.17mmol)を、2−エトキシエタノール80mL及び水25mLに溶解した後、得られた混合物を140℃で24時間反応させた。上記反応溶液の温度を室温に下げ、この反応溶液を濾過して赤色固体を得、次いでこの赤色固体を95%エタノール、アセトン及びn−ヘキサンで順次洗浄して、イリジウム二量体を赤色固体として1.54g(76%)得た。
【0057】
上記得られたイリジウム二量体1.54g(1.20mmol)及びアセチルアセトネートナトリウム塩0.36g(2.99mmol)を、2−エトキシエタノール50mLに添加し、得られた混合物を140℃で15時間反応させた。この反応混合物の温度を室温に下げ、そして固体を濾過した後、エーテル及びn−ヘキサンで洗浄した。得られた固体をジクロロメタンに溶解した後、カラムクロマトグラフィーにより精製し、純粋な目的化合物1.45g(85%)を得た。最終生成物の構造を質量分析で確認した。その質量分析スペクトルを図3に示す。
【0058】
図4及び図5は、実施例1で調製したIr(ppy)(acac)−d8のUV及びPLスペクトルを例証する。本発明による重水素化したイリジウム錯体の発光特性と比較するために、公知の方法によりIr(ppy)(acac)を合成した。次いで、これと実施例1で調製したIr(ppy)(acac)−d8とを各々用いて、下記の構造を有する電界発光素子を構築した。また、これらの発光特性を評価した。
【0059】
ITO/NPB(40nm)/CBP+10%Ir(ppy)(acac)(20nm)/BCP(10nm)/Alq(40nm)/LiF(1nm)/Al
【0060】
ITO/NPB(40nm)/CBP+10%Ir(ppy)(acac)−d8(20nm)/BCP(10nm)/Alq(40nm)/LiF(1nm)/Al
【0061】
図6及び図7は、各々Ir(ppy)(acac)の電圧−電流特性及びELスペクトルを例証し、図8及び図9は、各々Ir(ppy)(acac)−d8の電圧−電流特性及びELスペクトルを例証する。図9から、本発明の実施例1において調製された新規イリジウム錯体Ir(ppy)(acac)−d8及び先行技術のIr(ppy)(acac)は、類似の発光特性を示すことが理解され得る。
【0062】
下記の表1は、Ir(ppy)(acac)の輝度、電流効率及び電力効率を示す。表2は、Ir(ppy)(acac)−d8の輝度、電流効率及び電力効率を示す。図10及び図11は、 Ir(ppy)(acac)及びIr(ppy)(acac)−d8の輝度及び電力効率をそれぞれ例証する。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
上記のような結果から、本発明による新規イリジウム錯体は、重水素化しない先行技術のIr(ppy)(acac)と類似の発光特性を示すが、Ir(ppy)(acac)に比べ、輝度及び電流効率は2倍以上(図10参照)、電力効率は2倍又は3倍(図12参照)向上したことが分かる。
【0066】
一般に、配位子の水素が重水素に置換される場合、量子効率及び発光効率が僅かに上昇し得る。例えば、米国特許第6,699,599号明細書で開示したIr(ppy)−d24の場合は、6.26Vでの電力効率が約15lm/Wであった。しかし、本発明において示される通りにした場合でも、量子効率及び発光効率は2倍〜3倍に向上するとは予想され得ない。つまり、図11に示すように、本発明によるIr(ppy)(acac)−d8の場合は、6.26Vでの電力効率が約19lm/Wであり、電力効率が顕著に向上した。よって、本発明による新規重水素化したイリジウム錯体燐光材料を有機電界発光素子の発光層として用いる場合、通常使用される重水素に置換されない発光材料に比べ、発光効率、輝度特性及び電力効率が向上する。
【0067】
本発明は、いくつかの形態において、本発明の精神からも必要不可欠の特徴からも逸脱せずに具現化され得るので、別段の記載なき限り、上述の実施例が、上述の記載の詳細のいずれにも限定されないと理解されるべきであり、むしろ添付の特許請求の範囲に定義される本発明の精神及び範囲内で広く解釈されるべきであり、従って特許請求の範囲の技術的保護範囲内である全ての変更及び改変、すなわちこのような技術的保護範囲の均等物が、添付の特許請求の範囲により包含されることが意図されることもまた理解される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施例1において調製されるイリジウム二量体Ir(ppy)Cl−d16のH−NMRスペクトルである。
【図2】本発明の実施例1において調製されるイリジウム錯体Ir(ppy)(acac)−d8のH−NMRスペクトルである。
【図3】本発明の実施例1において調製されるイリジウム錯体Ir(piq)(acac)−d8の質量スペクトルである。
【図4】本発明の実施例1において調製されるイリジウム錯体Ir(ppy)(acac)−d8のUVスペクトルである。
【図5】本発明の実施例1において調製されるイリジウム錯体Ir(ppy)(acac)−d8のPLスペクトルである。
【図6】先行技術のイリジウム錯体Ir(ppy)(acac)を10%の量でドープした光放出層を備える有機電界発光素子の電流−電圧特性のグラフプロットである。
【図7】先行技術のイリジウム錯体Ir(ppy)(acac)を10%の量でドープした光放出層を備える有機電界発光素子の電気発光スペクトルである。
【図8】本発明の実施例1において調製されたイリジウム錯体Ir(ppy)(acac)−d8を10%の量でドープした光放出層を備える有機電界発光素子の電流−電圧特性グラフプロットである。
【図9】本発明の実施例1において調製されたイリジウム錯体Ir(ppy)(acac)−d8を10%の量でドープした光放出層を備える有機電界発光素子の電気発光スペクトルである。
【図10】先行技術のイリジウム錯体Ir(ppy)(acac)と、本発明の実施例1において調製されたイリジウム錯体Ir(ppy)(acac)−d8とを、それぞれ10%の量でドープした光放出層を備える有機電界発光素子の電流効率を示したグラフプロットである。
【図11】先行技術のイリジウム錯体Ir(ppy)(acac)と、本発明の実施例1において調製されたイリジウム錯体Ir(ppy)(acac)−d8とを、10%の量でそれぞれドープした光放出層を備える有機電界発光素子の電力効率を比較したグラフプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式1で表される重水素化したイリジウム錯体。
【化1】

前記一般式中、R〜R36のうち少なくとも一つは、独立して重水素原子であり、そして重水素原子でないR〜R36は、独立して、水素、置換又は非置換C−C30のアルキル基、置換又は非置換C−C30のアルケニル基、置換又は非置換C−C30の縮合環基、置換又は非置換C−C30のアリール基、置換又は非置換C−C30のアリールアルキル基、置換又は非置換C−C30のアリールオキシ基、置換又は非置換C−C30のヘテロアリール基、置換又は非置換C−C30のシクロアルキル基、置換又は非置換C−C30のヘテロシクロアルキル基、或いはハロゲン原子であり;
Xは、下記一般式2a又は一般式2b:
【化2】

【化3】

で表される構造を有する二座配位子であり、
前記一般式中、Y〜Yは、水素、重水素、置換又は非置換C−C30のアルキル基、置換又は非置換C−C20のアルケニル基、置換又は非置換C−C30のアリール基、置換又は非置換C−C30のアリールオキシ基、置換又は非置換C−C30のヘテロアリール基、置換又は非置換C−C30のヘテロアリールアルキル基、置換又は非置換C−C30のヘテロアリールオキシ基、置換又は非置換C−C20のシクロアルキル基或いは置換又は非置換C−C20のヘテロシクロアルキル基からなる群より独立して選ばれるものであり;
〜Pは、炭素、酸素、窒素又は硫黄原子であり;かつ
a〜hは、それぞれ0、1又は2である。
【請求項2】
前記Xが、下記一般式3で示される化合物より選択される二座配位子である、請求項1に記載の重水素化したイリジウム錯体。
【化4】

【請求項3】
前記イリジウム錯体が少なくとも一つの重水素原子を有する場合に、前記R〜R36が、独立して水素又は重水素原子である、請求項1又は請求項2に記載の重水素化したイリジウム錯体。
【請求項4】
(1)三塩化イリジウムを下記一般式5で表される化合物の何れか一つと反応させ、下記一般式4で表される化合物を得るステップ;および
(2)下記一般式4で表される化合物を下記一般式2a又は一般式2bで表される化合物と反応させることにより、下記一般式1の化合物を得るステップとを包含する、重水素化したイリジウム錯体の調製方法。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

前記一般式中、R〜R36のうち少なくとも一つは、独立して重水素原子であり、そして重水素原子でないR〜R36は、独立して、水素、置換又は非置換C−C30のアルキル基、置換又は非置換C−C30のアルケニル基、置換又は非置換C−C30の縮合環基、置換又は非置換C−C30のアリール基、置換又は非置換C−C30のアリールアルキル基、置換又は非置換C−C30のアリールオキシ基、置換又は非置換C−C30のヘテロアリール基、置換又は非置換C−C30のシクロアルキル基、置換又は非置換C−C30のヘテロシクロアルキル基、或いはハロゲン原子であり;
Xは、前記一般式2a又は一般式2bで表される構造を有する二座配位子であり;
〜Yは、水素、重水素、置換又は非置換C−C30のアルキル基、置換又は非置換C−C20のアルケニル基、置換又は非置換C−C30のアリール基、置換又は非置換C−C30のアリールオキシ基、置換又は非置換C−C30のヘテロアリール基、置換又は非置換C−C30のヘテロアリールアルキル基、置換又は非置換C−C30のヘテロアリールオキシ基、 置換又は非置換C−C20のシクロアルキル基、或いは置換又は非置換C−C20のヘテロシクロアルキル基からなる群より独立して選ばれるものであり;
〜Pは、炭素、酸素、窒素又は硫黄原子であり;かつ
a〜hは、それぞれ0、1又は2である。
【請求項5】
前記Xが、下記一般式3で示される化合物から選択される二座配位子である、請求項4に記載の調製方法。
【化10】

【請求項6】
前記ステップ(1)において、三塩化イリジウム1モルに対して、前記一般式5で表される化合物を2モル以上使用し、反応溶媒として、2−エトキシエタノール、エタノール又はグリセロールを使用する、請求項4に記載の調製方法。
【請求項7】
前記ステップ(2)において、前記一般式4で表される化合物1モルに対して前記一般式2a又は一般式2bで表される化合物を2モル以上使用し、反応溶媒として、2−エトキシエタノール、エタノール又はグリセロールを使用する、請求項4に記載の調製方法。
【請求項8】
前記ステップ(1)及びステップ(2)の反応が、それぞれ70〜200℃で実行される、請求項4に記載の調製方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のイリジウム錯体を光放出層材料として備える、有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−532998(P2008−532998A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500603(P2008−500603)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【国際出願番号】PCT/KR2005/003922
【国際公開番号】WO2006/095951
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(507299367)ドゥサン コーポレーション (10)
【Fターム(参考)】