説明

新規オリゴチオフェン化合物及びそれからなる2色性色素、並びに、液晶性樹脂組成物、それからなる異方性膜及び異方性膜の製造方法

【課題】長いπ共役系を有し、容易に合成でき、液晶ポリマーと複合させてなる液晶性樹脂組成物の製造に好適に使用できるオリゴチオフェン化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるオリゴチオフェン化合物とする。


[式中、xは、2〜10の整数であり、y及びzは、それぞれ独立に0又は1である。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基である。R及びRは互いに結合して環を形成していてもよい。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基である。Arは、含窒素芳香環基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規オリゴチオフェン化合物及びそれからなる2色性色素に関する。また、前記オリゴチオフェン化合物が液晶ポリマー中で配向してなる液晶性樹脂組成物、並びに、当該液晶性樹脂組成物からなる異方性膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、π共役系を有する化合物は、発光材料;有機電界トランジスタ、有機電界コンデンサ、有機太陽電池、有機レーザー等の有機電子材料;マイクロレンズ;異方性熱伝導薄膜;電気化学センサー、環境応答センサー、医療診断センサー等の各種センサー等として広く利用されている。当該化合物が配向することによって、異方性に基づく機能が発揮される。したがって、π共役系を有する化合物には、配向の制御が容易であることや配向した後に安定であること等が要求される。π共役系を有する化合物を配向させる方法として代表的なものの一つに、当該化合物を液晶ポリマーなどの配向性を有するポリマーと複合化させる方法がある。配向性を有するポリマーとπ共役系を有する化合物が相互作用することによって当該化合物が配向する。
【0003】
ところで、オリゴチオフェン化合物は、分子内に長いπ共役系を有することから、長波長における発光や高いキャリア移動度等が期待でき、幅広い分野への応用が期待されている。これまでに、オリゴチオフェン化合物とポリマーを複合化させた複合材料がいくつか報告されている。
【0004】
非特許文献1には、アゾベンゼン基を側鎖に有するポリマーからなる光配向膜上に、両末端にオクチルオキシフェニル基を有するオリゴチオフェン化合物をスピンコートした後に、加熱による配向処理(245℃、5min)を行うことにより作製した高分子液晶半導体が記載されている。光配向技術を用いることにより、当該半導体の汚染、表面の傷及び凹凸の発生などが避けられたと記載されている。しかしながら、当該文献に記載されたオリゴチオフェン化合物を配向させるには、高温で熱処理する必要があった。そのため、半導体の形成に用いることのできる基材が耐熱性の高いものに限られていた。
【0005】
非特許文献2には、両末端にピリジル基を有するオリゴチオフェン化合物とポリスチレンスルホン酸からなる複合膜が記載されている。当該オリゴチオフェン化合物と強酸性のポリスチレンスルホン酸が反応することによって当該オリゴチオフェン化合物の両末端のピリジル基がプロトン化されたと記載されている。しかしながら、当該オリゴチオフェン化合物は弱酸と反応しなかったと記載されている。したがって、当該オリゴチオフェン化合物と安定な複合体を形成できるポリマーは強酸性のポリマーに限られていた。また、当該文献には、オリゴチオフェン化合物を配向させることについては記載されていない。
【0006】
非特許文献3には、一方の末端に分岐鎖のオクチル基が結合し、他方の末端にスペーサーを介してフェノール基が結合したオリゴチオフェン化合物と、ポリビニルピリジンとを含有する混合液をスピンコートして膜を得た後に、得られた膜に加熱による配向処理(110℃、1時間)を施すことにより作製した有機半導体が記載されている。当該文献には、オリゴチオフェン化合物の末端のフェノール基とポリビニルピリジンのピリジル基が水素結合すると記載されている。しかしながら、当該文献に記載されたオリゴチオフェン化合物を配向させるには、長時間熱処理する必要があった。また、当該オリゴチオフェン化合物は、合成工程が長いためコスト高であった。さらに、大面積において当該オリゴチオフェン化合物を均一に配向させることが困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T.Fujiwara et al.,Appl.Phys.Lett.,90,p.232108 (2007)
【非特許文献2】M.Kondo et al.,Chem. Lett.,40,p.264−265 (2011)
【非特許文献3】B.J.Rancatore et al.,ACS Nano.,4(5),p.2721−2729 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、長いπ共役系を有し、容易に合成でき、液晶ポリマーと複合させてなる液晶性樹脂組成物の製造に好適に使用できるオリゴチオフェン化合物を提供することを目的とするものである。また、そのようなオリゴチオフェン化合物からなる2色性色素を提供することを目的とするものである。さらに前記オリゴチオフェン化合物が液晶ポリマー中で配向してなる液晶性樹脂組成物、並びに、当該液晶性樹脂組成物からなる異方性膜及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、下記一般式(1)で表されるオリゴチオフェン化合物を提供することによって解決される。
【化1】

【0010】
[式中、xは、2〜10の整数であり、y及びzは、それぞれ独立に0又は1である。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基である。R及びRは互いに結合して環を形成していてもよい。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基である。Arは、含窒素芳香環基である。]
【0011】
前記オリゴチオフェン化合物からなる2色性色素が本発明の好適な実施態様である。
【0012】
前記オリゴチオフェン化合物が液晶ポリマー中で配向してなる液晶性樹脂組成物も本発明の実施態様である。このとき、前記液晶ポリマーが水素結合性基を有するものであることが好適である。
【0013】
前記液晶性樹脂組成物からなる異方性膜も本発明の好適な実施態様である。前記液晶ポリマーからなる光配向膜上に前記一般式(1)で表されるオリゴチオフェン化合物を塗布又は蒸着することによって該オリゴチオフェン化合物を配向させる前記異方性膜の製造方法も本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の新規オリゴチオフェン化合物は、長いπ共役系を有し、水素結合の形成が可能であるうえに、シンプルな構造を有するため容易に合成できる。また、本発明のオリゴチオフェン化合物は、液晶ポリマー中に凝集することなく分散し、液晶ポリマーと相互作用することにより配向する。したがって、本発明のオリゴチオフェン化合物は、液晶ポリマーと複合化してなる液晶性樹脂組成物の製造に好適に用いられる。このような液晶性樹脂組成物は、異方性材料、特に異方性膜として好適に用いられる。本発明の異方性膜の製造方法によればこのような異方性膜を簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1及び2で得られた異方性膜の紫外可視吸収ペクトル及び蛍光スペクトルである。
【図2】実施例1及び2で得られた異方性膜の偏光紫外可視吸収ペクトル及び偏光蛍光スペクトルである。
【図3】実施例3及び4で得られた異方性膜の紫外可視吸収ペクトル及び蛍光スペクトルである。
【図4】実施例3及び4得られた異方性膜の偏光紫外可視吸収ペクトル及び偏光蛍光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のオリゴチオフェン化合物は、下記一般式(1)で表されるものである。当該オリゴチオフェン化合物は新規化合物である。
【0017】
【化2】

【0018】
[式中、xは、2〜10の整数であり、y及びzは、それぞれ独立に、0又は1である。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基である。R及びRは互いに結合して環を形成していてもよい。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基である。Arは、含窒素芳香環基である。]
【0019】
本発明のオリゴチオフェン化合物は、一方の末端に含窒素芳香環基を有し、他方の末端に炭素数1〜20の炭化水素基を有する。オリゴチオフェンと末端の含窒素芳香環基は直接連結されており、これらが長いπ共役系を形成している。当該オリゴチオフェン化合物は、このようなπ共役系を有することにより2色性を有する。また、このような長いπ共役系を有する本発明のオリゴチオフェン化合物は導電性を有すると考えられる。さらに、本発明のオリゴチオフェン化合物の末端の含窒素芳香環基は水素結合性を有するため、他の化合物と水素結合を形成することができる。
【0020】
上記一般式(1)において、xは、2〜10の整数である。xは、チオフェンの繰り返し単位数を示す。上述のとおり、本発明のオリゴチオフェン化合物は、チオフェンの繰り返し単位数が上記範囲であるオリゴチオフェンと末端の含窒素芳香環基により長いπ共役系を形成する。このようなπ共役系を有することにより、本発明のオリゴチオフェン化合物は2色性を示す。そして、このようなπ共役系を有することにより、本発明のオリゴチオフェン化合物は、導電性を有するものと考えられる。上記一般式(1)におけるxが2未満である場合には、π共役系が短すぎるため、2色性色素として機能しない。また、共役系が短すぎるため、導電性が不十分になると考えられる。さらに、昇華温度が低いため、取り扱いにくくなる。一方、xが10を超える場合には、溶解性や水素結合性が低下する。また、オリゴチオフェン化合物の昇華温度が高くなり過ぎて、蒸着する場合に、当該化合物が分解する。さらに、合成が煩雑になり、コスト高になる。xが8以下であることが好適であり、5以下であることがより好適である。
【0021】
上記一般式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基である。
【0022】
ここで、炭化水素基は特に限定されないが、アルキル基、シクロアルキル基等の飽和炭化水素基、アルケニル基、アルキニル基等の不飽和炭化水素基等が挙げられる。
【0023】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等の直鎖のアルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基等の分岐鎖のアルキル基が挙げられる。
【0024】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
【0025】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基等が挙げられる。
【0026】
アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基等が挙げられる。
【0027】
及びRは互いに結合して環を形成していてもよい。R及びRが互いに結合して環を形成している場合、炭素数が2〜10の炭素環を形成していればよく、炭素数が2〜5の炭素環を形成していることが好適である。
【0028】
炭化水素基が飽和炭化水素基であることが好適である。また、炭化水素基が直鎖の炭化水素基であることも好適である。
【0029】
合成が容易である観点からは、R及びRが、それぞれ独立に、水素原子、又は、直鎖又は分岐鎖のアルキル基であることが好適である。xが5以下の場合には、R及びRが共に水素原子であることがより好適である。xが6以上の場合には、R及びRの少なくとも1つがアルキル基であることがより好適である。ここで、R及びRの一方のみがアルキル基である場合には、他方が水素原子であることがさらに好適である。
【0030】
上記一般式(1)において、y及びzは、それぞれ独立に0又は1である。合成が容易である観点からは、y及びzが0であることが好適である。
【0031】
上記一般式(1)において、Rは、炭素数1〜20の炭化水素基である。片末端にこのような炭化水素基を有することにより、本発明のオリゴチオフェン化合物は、適度な流動性を有するとともに、溶媒への溶解性が向上する。また、液晶ポリマーと複合化させた際に、液晶ポリマー中でのオリゴチオフェン化合物の分散性及び配向性が向上する。
【0032】
炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基等の飽和炭化水素基、アルケニル基、アルキニル基等の不飽和炭化水素基が挙げられる。
【0033】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等の直鎖のアルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基等の分岐鎖のアルキル基等が挙げられる。
【0034】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
【0035】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基等が挙げられる。
【0036】
アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基等が挙げられる。
【0037】
が直鎖の炭化水素基であることが好適である。Rが飽和炭化水素基であることも好適である。
【0038】
の炭素数が20を超える場合には、コスト高になりすぎ、現実的ではない。また、チオフェン環に由来する電子特性が低下する。さらに、分子間相互作用が起こりにくくなり、この点からも、電子特性が低下する。Rの炭素数は15以下であることが好適であり、10以下であることがより好適である。一方、Rの炭素数は3以上であることが好適である。
【0039】
上記一般式(1)において、Arは、含窒素芳香環基である。Arは、含窒素芳香環基であれば特に限定されず、ピリジル基又はイミダゾリル基等が挙げられる。水素結合を形成し易い観点からは、ピリジル基又はイミダゾリル基であることが好適であり、ピリジル基であることがより好適であり、4−ピリジル基であることがさらに好適である。
【0040】
含窒素芳香環基は置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、炭素数1〜10の炭化水素基等が挙げられる。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられる。
【0041】
片末端にこのような含窒素芳香環基を有することが本発明のオリゴチオフェン化合物の大きな特徴である。上述したように、当該含窒素芳香環基はオリゴチオフェンとπ共役系を形成する。そして、本発明のオリゴチオフェン化合物は、片末端にのみ含窒素芳香環基を有することにより、他の分子と水素結合を形成できる。また、このような含窒素芳香環基を有するオリゴチオフェン化合物は合成が容易である。さらに、後述するように、本発明のオリゴチオフェン化合物は液晶ポリマー中に凝集することなく分散し、液晶ポリマーと相互作用することにより配向する。
【0042】
本発明のオリゴチオフェン化合物を合成する方法は特に限定されない。例えば、下記一般式(2)
【0043】
【化3】

【0044】
[式中、x、y、z、R、R及びRは、上記一般式(1)に同じである。Aは、ボロン酸エステル基又はボロン酸基である。]
【0045】
で示される化合物と下記一般式(3)
【0046】
【化4】

[式中、Arは、上記一般式(1)に同じである。Dは、ハロゲン原子である。]
【0047】
で示される化合物を触媒及び塩基の存在下、カップリング反応を行うことにより上記一般式(1)で示される本発明のオリゴチオフェン化合物が得られる。このとき使用される一般式(3)で示される化合物の使用量は特に限定されないが、一般式(2)で示される化合物1モルに対して、概ね1モル使用することが好適である。触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、酢酸パラジウム3量体等のパラジウム触媒等が挙げられ、その使用量は特に限定されないが、一般式(2)で示される化合物1モルに対して、0.001〜0.5モルであることが好適である。このとき使用される塩基としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられ、当該塩基の反応液中における濃度は特に限定されないが、0.1〜5mol/Lであることが好適である。当該反応を行う際の反応温度は、特に限定されないが、65〜90℃であることが好適である。
【0048】
また、上記合成方法において、一般式(2)における置換基Aと一般式(3)におけるハロゲン原子Dが入れ替わっていてもよい。このような場合でも、本発明のオリゴチオフェン化合物を合成できる。
【0049】
また、上記カップリング反応は、チオフェン同士を連結する場合にも利用することができる。チオフェンのα位に一般式(2)中の置換基Aを有する化合物と、チオフェンのα位に一般式(3)中のハロゲン原子Dを有する化合物を反応させることにより、チオフェン同士を連結できる。
【0050】
上述のように、本発明のオリゴチオフェン化合物は2色性を有する。したがって、本発明のオリゴチオフェン化合物からなる2色性色素が本発明の好適な実施態様である。本発明のオリゴチオフェン化合物を2色性色素として用いるに際して、当該オリゴチオフェン化合物を配向させる方法は特に限定されない。例えば、当該オリゴチオフェン化合物の自己配向性を利用して自己配向させる方法、液晶ポリマーと複合化させることによって配向させる方法等が挙げられるが、後者が好適である。本発明のオリゴチオフェン化合物は液晶ポリマー中に凝集することなく分散し、液晶ポリマーと相互作用することにより配向する。また、液晶ポリマーと複合化させることによって配向したオリゴチオフェン化合物が安定化する。
【0051】
本発明のオリゴチオフェン化合物は、上述のように、長い共役系を有し、なおかつ合成も容易である。当該オリゴチオフェン化合物は、長い共役系を有するため、長波長において発光するとともに、高いキャリア移動度が期待できる。このようなオリゴチオフェン化合物は、2色性色素に限られず、発光材料;有機電界トランジスタ、有機電界コンデンサ、有機太陽電池、有機レーザー等の有機電子材料;マイクロレンズ;異方性熱伝導薄膜;電気化学センサー、環境応答センサー、医療診断センサー等の各種センサー等、幅広い分野に応用できると考えられる。
【0052】
本発明のオリゴチオフェン化合物が液晶ポリマー中で配向してなる液晶性樹脂組成物も本発明の好適な実施態様である。本発明のオリゴチオフェン化合物は、液晶ポリマー中で凝集することなく分散し、液晶ポリマーと相互作用することにより配向する。そして、液晶ポリマーが液晶性を示す温度付近の温度で熱処理することによって、さらに配向性を高めることができる。また、液晶ポリマーと複合化させることによって配向したオリゴチオフェン化合物が安定化する。
【0053】
通常、π共役系を有する化合物を高度に配向させるためには、当該化合物の融点又は当該化合物が液晶性を示す温度で熱処理する必要がある。したがって、融点や液晶性を示す温度が高い化合物は、配向処理を厳しい条件で行う必要があり、用途が制限される場合があった。一方、融点や液晶性を示す温度が低い化合物は熱安定性が不十分である場合があった。これに対して、本発明のオリゴチオフェン化合物は、上述のように、液晶ポリマーが液晶性を示す温度付近のそれほど高くない温度で熱処理することにより高度に配向する。
【0054】
前記液晶性樹脂組成物の原料として用いられる液晶ポリマーは、特に限定されない。主鎖内にメソゲン基を有する主鎖型液晶ポリマーを用いてもよいし、側鎖にメソゲン基を有する側鎖型液晶ポリマーを用いてもよい。主鎖型液晶ポリマーとしては、ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルイミド等が挙げられる。側鎖型液晶ポリマーとしては、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリマロネート、ポリシロキサン、ポリエーテル等が挙げられる。オリゴチオフェン化合物の配向性の観点からは、側鎖型液晶ポリマーが好適であり、なかでも、ポリメタクリレートがより好適である。
【0055】
前記液晶ポリマー中のメソゲン基としては、特に限定されないが、ベンゼン骨格を有する基、ビフェニル骨格を有する基、ターフェニル骨格を有する基、フェニルベンゾエート骨格を有する基、アゾベンゼン骨格を有する基、トラン骨格を有する基等が挙げられる。メソゲン基が、光配向性や水素結合性を有するものであってもよい。また、メソゲン基は、後述する、光配向性基や水素結合性基と構造の一部を共有していてもよい。
【0056】
前記液晶ポリマーが光配向性基を有する光配向性の液晶ポリマーであることが好適である。このような液晶ポリマーを用いることにより、本発明のオリゴチオフェン化合物の配向性や分散性がさらに向上する。また、このような液晶ポリマーを用いた場合には、非接触で配向処理が行えるため、得られる液晶性樹脂組成物の汚染が低減する。そして、このような液晶性樹脂組成物を用いることにより、得られる異方性材料中の欠陥が低減する。
【0057】
本発明において、光配向性基は、光照射により配向が誘起されるものであればよい。例えば、直線偏光の照射によって、異方的に光二量化、光異性化又は光分解することにより配向する光配向性基が挙げられる。具体的には、ポリエン骨格を有する基、スチルベン骨格を有する基、スチルバゾール骨格を有する基、スチルバゾリウム骨格を有する基、シンナモイル骨格を有する基、ヘミチオインジゴ骨格を有する基、カルコン骨格を有する基、芳香族シッフ塩基骨格を有する基、芳香族ヒドラゾン骨格を有する基、アゾベンゼン骨格を有する基、アゾナフタレン骨格を有する基、芳香族複素環アゾ骨格を有する基、ビスアゾ骨格を有する基、ホルマザン骨格を有する基、アゾキシベンゼン骨格を有する基、ベンゾフェノン骨格を有する基、クマリン骨格を有する基、アントラキノン骨格を有する基、などが挙げられ、なかでもシンナモイル骨格を有する基が好適である。光配向性基が、メソゲンとしての機能や水素結合性を有していてもよい。また、光配向性基は、メソゲン基や後述する水素結合性基と構造の一部を共有していてもよい。
【0058】
前記液晶ポリマーが水素結合性基を有することが好適である。上述のとおり、本発明のオリゴチオフェン化合物は水素結合を形成することが可能である。本発明のオリゴチオフェン化合物とこのような液晶ポリマーを複合化させた場合には、オリゴチオフェン化合物中の含窒素芳香環基と液晶ポリマー中の水素結合性基が水素結合を形成する。これにより、オリゴチオフェン化合物と液晶ポリマーとの結合が強固になり、液晶ポリマーを複合化させた後に行う熱処理の際に、オリゴチオフェン化合物が昇華しにくくなる。また、水素結合の形成によって、オリゴチオフェン化合物が安定化する。さらに、水素結合の形成によって、オリゴチオフェン化合物の配向性がさらに向上すると考えられる。水素結合性基は、本発明のオリゴチオフェン化合物中の含窒素芳香環基と水素結合できるものであれば特に限定されず、カルボキシル基、水酸基などが挙げられる。
【0059】
オリゴチオフェン化合物をより低温での熱処理で配向させる観点からは、前記液晶ポリマーが300℃以下で液晶性を示すものであることが好適であり、150℃以下で液晶性を示すものであることがより好適である。
【0060】
前記液晶ポリマーは、具体的には、下記一般式(4)
【0061】
【化5】

【0062】
[式中、dは、1〜10の整数である。eは、0又は1である。fは、1〜5の整数である。R〜Rは、炭素数1〜5の炭化水素基である。Gは以下の中から選択される置換基である。]
【0063】
【化6】

【0064】
で示される側鎖を有するものであることが好適である。ここで、Gが、以下の置換基であることがより好適である。
【0065】
【化7】

【0066】
前記液晶性樹脂組成物中のオリゴチオフェン化合物の含有量は特に限定されないが、1〜50重量%であることが好適であり、5〜20重量%であることがより好適である。オリゴチオフェン化合物の含有量が1重量%未満である場合には、オリゴチオフェン化合物の特性が十分に発現しないおそれがある。一方、オリゴチオフェン化合物の含有量が50重量%を超える場合には、配向性が低下するおそれがある。
【0067】
前記液晶性樹脂組成物中の液晶ポリマーの含有量は特に限定されないが、50〜99重量%であることが好適であり、80〜95重量%であることがより好適である。液晶ポリマーの含有量が50重量%未満である場合には、配向性が低下するおそれがある。一方、液晶ポリマーの含有量が95重量%を超える場合には、オリゴチオフェン化合物の含有量が少なくなり過ぎることにより、オリゴチオフェン化合物の特性が十分に発現しないおそれがある。
【0068】
前記液晶性樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の添加物を含有していてもよい。その他の添加物としては、4−シアノ−4’−ペンチルビフェニル、4−(トランス−4−ペンチルシクロヘキシル)ベンゾニトリル等の低分子液晶等が挙げられる。
【0069】
前記液晶性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、液晶ポリマーを基材に塗布して膜を形成し、得られた膜に配向処理を施すことによって配向膜を得た後に、当該配向膜上にオリゴチオフェン化合物を塗布又は蒸着することによって当該オリゴチオフェン化合物を配向させる方法が好適である。ここで、オリゴチオフェン化合物を塗布又は蒸着した後に、さらに熱処理を行うことがより好適である。液晶ポリマーを基材に塗布する方法は特に限定されないが、例えば、スピンコートする方法等を用いることができる。液晶ポリマーを配向させる方法は、液晶ポリマーの種類によって、光配向処理、熱処理、ラビング処理等の既存の方法の中から適宜選択すればよい。配向膜上にオリゴチオフェン化合物を塗布する方法は特に限定されないが、例えば、スピンコート法等を用いることができる。配向膜上にオリゴチオフェン化合物を蒸着する方法は特に限定されないが、例えば、化学蒸着法等を用いることができる。オリゴチオフェン化合物を塗布又は蒸着した後に、さらに熱処理を行う場合、温度は、特に限定されないが、120〜200℃であることが好適である。また、熱処理時間は特に限定されないが、0.5〜20分間であることが好適である。このような穏和な処理で配向処理を行うことにより、オリゴチオフェン化合物が高度に配向する。したがって、本発明の液晶性樹脂組成物は、様々な異方性材料への応用が可能である。
【0070】
また、溶媒にオリゴチオフェン化合物と液晶ポリマーを添加して混合した後に溶媒を除去して得られる混合物に配向処理を施すことにより前記液晶性樹脂組成物を得ることもできる。
【0071】
光配向性基を有する液晶ポリマーを使用する場合には、液晶ポリマーを基材に塗布して膜を形成し、得られた膜に光配向処理を施すことによって光配向膜を得た後に、当該光配向膜上にオリゴチオフェン化合物を塗布又は蒸着することによって当該オリゴチオフェン化合物を配向させる方法が好適である。ここで、オリゴチオフェン化合物を塗布した後に、さらに熱処理を行うことがより好適である。光配向処理の方法は特に限定されないが、直線偏光紫外光を照射することにより行うことが好適である。照射条件は液晶ポリマーの種類により適宜調整すればよく、通常、強度は1〜100mW/cm2であり、照射時間は0.1〜100秒である。液晶ポリマーの塗布方法、並びに、オリゴチオフェン化合物の塗布方法、蒸着方法及び熱処理条件は、上述した液晶性樹脂組成物の製造方法と同様のものを採用できる。
【0072】
こうして得られる液晶性樹脂組成物からなる異方性膜も本発明の好適な実施態様である。このような異方性膜は、長いπ共役系を有するオリゴチオフェン化合物が高度に配向している。したがって、本発明の異方性膜は、発光材料;有機電界トランジスタ、有機電界コンデンサ、有機太陽電池、有機レーザー等の有機電子材料;マイクロレンズ;異方性熱伝導薄膜;電気化学センサー、環境応答センサー、医療診断センサー等の各種センサー等として幅広い分野に利用できる。なかでも、光配向性基を有する液晶ポリマーを用いてなる異方性膜がより好適である。
【0073】
このような異方性膜は、液晶性樹脂組成物の好適な製造方法として上述した方法により製造することが好適である。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。本実施例で用いた試薬および溶媒は、市販品をそのまま使用した。
【0075】
[化合物の同定]
本実施例において合成した化合物の同定は、1H NMR測定(日本ブルカー株式会社製「BRUKER DRX500 500Hz」)およびFT-IRスペクトル測定(日本分光株式会社製「JASCO FT/IR-410」及び「IRT-3000」)により行った。1H NMRスペクトル測定においては内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を使用し、δ値(ppm)で表した。多重度はs(single)、d(double)、t(triplet)、dd(double doublet)及びm(multiplet)の略号で表し、スピン結合定数はJ(Hz)で表した。
【0076】
[熱特性の測定]
本実施例において、化合物の熱特性は、示差走査熱量測定(DSC、セイコーインスツル株式会社製「SSC5200H」)及びホットステージ(Linkam社製「TH600PM」)上の試料を偏光顕微鏡(POM、オリンパス株式会社製「BX51」)観察することにより評価した。DSC測定は、窒素雰囲気下、昇温および降温速度10℃/minで行った。
【0077】
[光学特性の測定]
本実施例において、オリゴチオフェン化合物及び配向膜の光学特性は、紫外可視(UV-vis)吸収ペクトル測定及び蛍光(PL)スペクトル測定により評価した。紫外可視(UV-vis)吸収ペクトル測定には、グランテーラープリズムを備えた分光吸収光度計(日立製作所製「U-3000」)を用いた。蛍光(PL)スペクトル測定には分光蛍光光度計(日立製作所製「F-4500」)を用いた。
【0078】
[面内配向度の算出]
偏光紫外可視(UV-vis)吸収ペクトル測定を行うことにより、偏光電界Eに対して平行方向及び垂直方向における、配向膜の吸収度をそれぞれ測定した。測定波長は、配向膜中の配向基由来の吸収波長とした。測定には、グランテーラープリズムを備えた日立製作所製分光吸収光度計「U-3000」を用いた。偏光電界Eに対して、平行方向における吸収度と垂直方向の吸収度のうち、大きい方をAlargerとし、小さい方をAsmallerとし、これらを下記式(I)に代入して面内配向度Sを算出した。
【0079】
【数1】

【0080】
[偏光度の算出]
偏光蛍光(PL)スペクトル測定を行うことにより、異方性膜の配向方向に対して平行方向及び垂直方向における発光強度(水平方向PL//、垂直方向PL)をそれぞれ求めた。測定波長は、極大蛍光波長とした。測定には、日立製作所製分光蛍光光度計「F-4500」を用いた。PL//及びPLを下記式(II)に代入して偏光度Pを算出した。
【0081】
【数2】

【0082】
[液晶ポリマーの製膜]
光配向膜の作製には、以下に示される液晶ポリマーP6CAM及びPMCB6Mを用いた。
【0083】
【化8】

【0084】
[式中、PMCB6Mのpは33(数平均分子量17000)、P6CAMのpは167(数平均分子量56000)である。]
【0085】
P6CAMは特開2007−232934号公報に、PMCB6Mは特開2007−304215号公報に記載された方法を用いてそれぞれ合成した。P6CAMは135〜185℃で液晶性を示し、PMCB6Mは116〜315℃で液晶性を示す。
【0086】
得られた液晶ポリマーP6CAM10mgをテトラヒドロフラン(THF)1.0gに溶解することにより得た溶液を石英基板上にスピンコート(1st:500rpm,10sec. 2nd:1500rpm,40sec)した後に、溶媒を除去することにより、液晶ポリマーP6CAMからなる厚さ 190 μmの膜を形成した。スピンコートには、ミカサ株式会社製スピンコーター「SPINNER IH-02」を用いた。得られた膜の配向を誘起するため、強度10mW/cm2(at 365nm)の直線偏光紫外(LPUV)光を0.5秒間照射した。このとき、LPUV光照射は、ウシオ電機株式会社製超高圧水銀ランプ「SPOT CURE MODEL UIS-25102」を用いた。当該ランプは、290nm以下の波長をカットするガラスフィルター、強度を下げるためのNDフィルター及びグランテーラープリズムを備えたものである。こうして得られた液晶ポリマーP6CAMからなる光配向膜をオリゴチオフェン化合物の塗布に供した。
【0087】
液晶ポリマーとしてPMCB6Mを用いたこと、当該ポリマーを溶解させる溶媒として塩化メチレンを用いたこと、及び、膜の配向を誘起するため、強度50mW/cm2(at 365nm)のLPUV光を10秒間照射したこと以外は、P6CAMからなる膜の作製方法と同様にして、PMCB6Mからなる光配向膜を作製し、オリゴチオフェン化合物が配向した異方性膜の作製に供した。
【0088】
実施例1
[2-hexyl-5,5’-(4-pyridyl)-bithiopheneの合成]
2-hexyl-5,5’-(4-pyridyl)-bithiophene(以下、「62TP」と略記することがある)の合成には、東京化成株式会社製の4-ヨードピリジン及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、関東化学株式会社製の炭酸カリウム、シグマアルドリッチジャパン株式会社製の5’-ヘキシル-2,2’-ビチオフェン-5-ボロン酸ピナコールエステルを使用した。
【0089】
三口フラスコに5’-ヘキシル-2,2’-ビチオフェン-5-ボロン酸ピナコールエステル1.1g(3.0mmol)、4-ヨードピリジン0.69g(3.4mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) 70 mg(0.061mmol)を加えた。前記三口フラスコに窒素雰囲気下でテトラヒドロフラン(THF)15mL、濃度1mol/Lの炭酸カリウム(K2CO3)水溶液10mLを加え、70℃で20時間撹拌した。反応終了後、反応液に水50mLを加えた後に、クロロホルム100 mLで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/アセトン=5/1)により精製し、さらにクロロホルムで再結晶して化合物62TPを得た。このときの化学反応式を以下に示す。
【0090】
【化9】

【0091】
得られた化合物62TPのデータを以下に示す。
白黄色固体 収量:0.51 g (1.6 mmol). 収率:52 %. 融点:93℃. 液晶性を示す温度:102℃以上
1H-NMR(CDCl3):δ (ppm) 0.89-0.91 (s, 3H, -CH2-CH3), 1.31-1.40 (m, 6H, -CH2-CH2-(CH2)3-CH3), 1.67-1.70 (m, 2H, -CH2-CH2-(CH2)3-CH3), 2.79-2.82 (t, 2H, -CH2-CH2-(CH2)3-CH3), 6.71-6.72 (d, J=3.1 Hz, 1H, Th), 7.05-7.06 (d, J=3.5 Hz, 1H, Th) 7.10-7.11 (d, J=3.8 Hz, 1H, Th) 7.40-7.41 (d, J=3.8 Hz, 1H, Th), 7.43-7.44 (d, J=4.9 Hz, 2H, Py), 8.57-8.58 (d, J=4.9 Hz, 2H, Py)
IR(KBr):1038, 1062, 1221, 1312, 1411, 1445, 1467, 1496, 1545, 1591, 2857, 2928, 2954, 3036, 3063
【0092】
化合物62TP 2.0mgをクロロホルム1.0gに溶解して得た溶液を、石英基板上に形成された液晶ポリマーP6CAMからなる光配向膜上にスピンコート(1st:500rpm,10sec. 2nd:1500rpm,40sec)した後に、溶媒を除去した。ここで、化合物62TPがコートされた光配向膜の偏光UV-vis吸収ペクトル測定(光配向膜の配向方向に対して、平行方向及び垂直方向の2通り)を行った。このときの結果を図2に示す。化合物62TPがコートされた光配向膜を150℃で10分間熱処理することにより異方性膜を得た。
【0093】
得られた異方性膜のUV-vis吸収ペクトル測定及びPLスペクトル測定(励起波長365nm)を行った。このとき得られた各スペクトルを図1に示す。図1に示されるように、当該異方性膜の極大吸収波長は378nmであり、極大蛍光波長は494nmであった。
【0094】
さらに、得られた異方性膜の偏光UV-vis吸収ペクトル測定及び偏光PLスペクトル測定(ホトマル電圧400V、励起波長365nm)を行った。いずれの測定においても、異方性膜の配向方向に対して、平行方向及び垂直方向の2通りのスペクトルをそれぞれ測定した。このとき得られた各スペクトル図2に示す。このときの偏光UV-vis吸収ペクトルから、P6CAMからなる光配向膜の面内配向度S及び化合物62TPの面内配向度Sをそれぞれ求めた。液晶ポリマーP6CAMからなる光配向膜の面内配向度Sの算出には、液晶ポリマーP6CAM中のシンナモイル基に由来する314nmにおける吸収を用い、化合物62TPの面内配向度Sの算出には、当該化合物62TPに由来する378 nmにおける吸収を用いた。液晶ポリマーP6CAMからなる光配向膜の面内配向度Sは-0.7であり、化合物62TPの面内配向度Sは-0.65であった。さらに、偏光PLスペクトルから化合物62TPの偏光度Pを求めた。化合物62TPの偏光度Pは2.4であった。
【0095】
実施例2
液晶ポリマーP6CAMからなる光配向膜の代わりに、液晶ポリマーPMCB6Mからなる光配向膜を用いたことと、化合物62TPをスピンコートする際の当該化合物を溶解させる溶媒としてTHFを用いたこと以外は、実施例1と同様にして異方性膜を作製した。
【0096】
得られた異方性膜のUV-vis吸収ペクトル測定及びPLスペクトル測定(励起波長365nm)を行った。このとき得られた各スペクトルを図1に示す。図1に示されるように、当該異方性膜の極大吸収波長は378nmであり、極大蛍光波長は445nmであった。
【0097】
さらに、得られた異方性膜の偏光UV-vis吸収ペクトル測定及び偏光PLスペクトル測定を実施例1と同様にして行った。このとき得られた各スペクトル図2に示す。このときの偏光UV-vis吸収ペクトルから、液晶ポリマーPMCB6Mからなる光配向膜の面内配向度Sを求めた。液晶ポリマーPMCB6Mからなる光配向膜の面内配向度Sの算出に、液晶ポリマーPMCB6M中のメトキシシンナモイル基に由来する315nmにおける吸収を用いたこと以外は、実施例1と同様にして液晶ポリマーPMCB6Mからなる光配向膜の面内配向度Sを求めた。液晶ポリマーPMCB6Mからなる光配向膜の面内配向度Sは-0.69であった。化合物62TPの面内配向度Sは、378 nmにおける吸収度が低かったため算出できなかった。また、化合物62TPの偏光度Pも、蛍光強度が低かったため算出できなかった。
【0098】
実施例3
以下の方法により、2-Hexyl-5,5’’-(4-pyridyl)-terthiophene(以下、「63TP」と略記することがある)の合成を行った。63TPの合成には、東京化成株式会社製の2-ブロモチオフェン、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン及びN-ブロモスクシンイミド(NBS)、関東化学株式会社製の酢酸及び炭酸カリウム、シグマアルドリッチジャパン株式会社製の5’-ヘキシル-2,2’-ビチオフェン-5-ボロン酸ピナコールエステルを使用した。
[2-(4-Pyridyl)-Thiopheneの合成]
【0099】
三口フラスコに2-ブロモチオフェン1.2g(7.7mmol)、4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン1.4g(7.0mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) 242 mg(0.20mmol)を加えた。前記三口フラスコに窒素雰囲気下でTHF 20mL、濃度1mol/L K2CO3水溶液20mLを加え、65℃で26時間撹拌した。反応終了後、反応液に水50 mLを加えた後に、ジエチルエーテル100mLで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去した。生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/アセトン=3/1)により精製し、さらに酢酸エチルで再結晶して2-(4-Pyridyl)-Thiophene(以下、「Th-Py」と略記することがある)を得た。
【0100】
得られた化合物Th-Pyのデータを以下に示す。
白色固体 収量:0.41 g (2.6 mmol). 収率:37 %. 融点:92−94℃
1H-NMR (CDCl3):δ (ppm) 7.15 (d, 1H, Th-Py), 7.42 (s, 1H, Th-Py), 7.49 (s, 2H, Th-Py), 7.52 (s, 1H, Th-Py), 8.60 (s, 2H, Th-Py)
【0101】
[2-Bromo-5-(4-pyridyl)-thiopheneの合成]
ナスフラスコに、化合物Th-Py 0.40g(2.5mmol)、N-ブロモスクシンイミド(NBS) 0.49g(2.7mmol)、クロロホルム10mL及び酢酸10mLを加え、室温で23時間撹拌した。反応終了後、反応溶液にNaOH水溶液を加えて中性にし、水50mLを加え、クロロホルム100mLで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去した後に、生成物をエタノールとクロロホルムで再結晶したて2-Bromo-5-(4-pyridyl)-thiophene(以下、「TP-Br」と略記することがある)を得た。
【0102】
得られた化合物TP-Brのデータを以下に示す。
茶白色固体 収量:0.37 g (1.5 mmol). 収率:63 %. 融点:156−158℃.
1H-NMR (CDCl3):δ (ppm) 7.10 (d, J=4.0 Hz, 1H, Th), 7.26-7.27 (d, J=3.8 Hz, 1H, Th) 7.38-7.39 (d, J=4.6 Hz, 2H, Py), 8.60-8.61 (d, J=4.8 Hz, 2H, Py)
白色固体 収量:0.41 g (2.6 mmol). 収率:37 %. 融点:92−94℃.
1H-NMR (CDCl3):δ (ppm) 7.15 (d, 1H, Th-Py), 7.42 (s, 1H, Th-Py), 7.49 (s, 2H, Th-Py), 7.52 (s, 1H, Th-Py), 8.60 (s, 2H, Th-Py)
【0103】
[2-Hexyl-5,5’’-(4-pyridyl)-terthiopheneの合成]
三口フラスコに化合物TP-Br 0.35g(1.5mmol)、5’-ヘキシル-2,2’-ビチオフェン-5-ボロン酸ピナコールエステル0.60g(1.6mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) 70mg(0.061mmol)を加えた。前記三口フラスコに窒素雰囲気下でTHF10mL、濃度1mol/L K2CO3水溶液10 mLを加え、70℃で24時間撹拌した。反応終了後、反応液に水50 mLを加えた後に、クロロホルム100 mLで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/アセトン=2/1)により精製し、さらにクロロホルムで再結晶して化合物63TPを得た。化合物63TPの合成スキームを以下に示す。
【0104】
【化10】

【0105】
得られた化合物63TPのデータを以下に示す。
黄色固体 収量:0.43 g (1.0 mmol). 収率:71 %. 融点:215℃.
1H-NMR(CDCl3):δ (ppm) 0.90-0.91 (s, 3H, -CH2-CH3), 1.40-1.30 (m, 6H, -CH2-CH2-(CH2)3-CH3), 1.72-1.66 (m, 2H, -CH2-CH2-(CH2)3-CH3), 2.79-2.82 (t, 2H, -CH2-CH2-(CH2)3-CH3), 6.70-6.71 (d, J=3.6 Hz, 1H, Th), 7.01-7.02 (d, J=3.6 Hz, 1H, Th) 7.03 (d, J=3.8 Hz, 1H, Th) 7.13-7.14 (d, J=3.8 Hz, 1H, Th), 7.17 (d, J=3.9 Hz, 1H, Th), 7.43-7.44 (d, J=3.9 Hz, 1H, Th), 7.45-7.46 (d, J=4.6 Hz, 2H, Py), 8.59-8.60 (d, J=4.6 Hz, 2H, Py)
IR(KBr):1064, 1218, 1321, 1410, 1443, 1492, 1514, 1547, 1589, 1703, 2854, 2925, 2955, 3029, 3062
【0106】
化合物62TPの代わりに化合物63TPを用いたことと、化合物63TPがコートされた光配向膜の熱処理を170℃で10分間行ったこと以外は、実施例1と同様にして異方性膜を得た。
【0107】
得られた異方性膜のUV-vis吸収ペクトル測定及びPLスペクトル測定(励起波長400nm)を行った。このとき得られた各スペクトルを図3に示す。図3に示されるように、当該異方性膜の極大吸収波長は412nmであり、極大蛍光波長は554nmであった。
【0108】
さらに、偏光PLスペクトル測定を行う際の励起波長を400nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、得られた異方性膜の偏光UV-vis吸収ペクトル測定及び偏光PLスペクトル測定を行った。このとき得られた各スペクトル図4に示す。このときの偏光UV-vis吸収ペクトルから、P6CAMからなる光配向膜の面内配向度S及び化合物63TPの面内配向度Sをそれぞれ求めた。化合物63TPの面内配向度Sの算出に、当該化合物63TPに由来する412 nmにおける吸収を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、各面内配向度Sを算出した。液晶ポリマーP6CAMからなる光配向膜の面内配向度Sは-0.70であり、化合物63TPの面内配向度Sは−0.76であった。さらに、偏光PLスペクトルから化合物63TPの偏光度Pを求めた。化合物63TPの偏光度Pは3.5であった。このように化合物63TPは融点よりも低い温度で配向処理を行った(化合物63TPの融点は215℃、熱処理温度は170℃)にも関わらず配向した。これは化合物63TPが光配向膜中に分散して組成物を形成しているためであると考えられる。
【0109】
実施例4
液晶ポリマーP6CAMからなる光配向膜の代わりに、液晶ポリマーPMCB6Mからなる光配向膜を用いたこと、化合物63TPをスピンコートする際の当該化合物を溶解させる溶媒としてTHFを用いたこと及び化合物63TPがコートされた光配向膜の熱処理を180℃で10分間行ったこと以外は、実施例3と同様にして異方性膜を作製した。
【0110】
得られた異方性膜のUV-vis吸収ペクトル測定及びPLスペクトル測定(励起波長400nm)を行った。このとき得られた各スペクトルを図3に示す。図3に示されるように、当該異方性膜の極大吸収波長は410nmであり、極大蛍光波長は505nmであった。
【0111】
さらに、得られた異方性膜の偏光UV-vis吸収ペクトル測定及び偏光PLスペクトル測定を実施例3と同様にして行った。このとき得られた各スペクトル図4に示す。このときの偏光UV-vis吸収ペクトルから、液晶ポリマーPMCB6Mからなる光配向膜の面内配向度S及び化合物63TPの面内配向度Sをそれぞれ求めた。液晶ポリマーPMCB6Mからなる光配向膜の面内配向度Sの算出に、液晶ポリマーPMCB6M中のメトキシシンナモイル基に由来する315nmにおける吸収を用いたこと以外は、実施例3と同様にして各面内配向度Sを算出した。液晶ポリマーPMCB6Mからなる光配向膜の面内配向度Sは-0.70であり、化合物63TPの面内配向度Sは-0.71であった。さらに、偏光PLスペクトルから化合物63TPの偏光度Pを求めた。化合物63TPの偏光度Pは5.1であった。
【0112】
図2及び4の各偏光UV-vis吸収ペクトルにおいて、熱処理前後で、オリゴチオフェン化合物に由来する吸収(62TPでは378nm、63TPでは412nm)の強度が大きく変化していることが示されている。このことから、実施例1、3及び4のいずれの場合においても、光配向膜上にコートされたオリゴチオフェン化合物の異方性が励起されたことが分かる。図1及び3の各PLペクトルにおいて、光配向膜として、液晶ポリマーP6CAMからなる光配向膜を用いた異方性膜の方が、液晶ポリマーPMCB6Mからなる光配向膜を用いた異方性膜よりも極大蛍光波長が長波長側にシフトしている。液晶ポリマーP6CAMからなる光配向膜を用いた場合には、液晶ポリマーP6CAM中のけい皮酸とオリゴチオフェン化合物中のピリジル基が水素結合することによって、極大蛍光波長がシフトしたものと考えられる。
【0113】
化合物62TPと液晶ポリマーPMCB6Mからなる光配向膜を用いて作製した異方性膜(実施例2)は、熱処理後、化合物62TPに由来する378nmの吸収が減少した(図1のUV-vis吸収ペクトルには、378nmの吸収がほとんど確認できない)。一方、化合物62TPと液晶ポリマーP6CAMからなる光配向膜を用いて作製した異方性膜(実施例1)では、そのような吸収の減少は見られなかった。実施例1の異方性膜中では、化合物62TP中のピリジル基と液晶ポリマーP6CAM中のけい皮酸が水素結合することにより、化合物62TPが安定化しているものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるオリゴチオフェン化合物。
【化1】

[式中、xは、2〜10の整数であり、y及びzは、それぞれ独立に0又は1である。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基である。R及びRは互いに結合して環を形成していてもよい。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基である。Arは、含窒素芳香環基である。]
【請求項2】
請求項1に記載のオリゴチオフェン化合物からなる2色性色素。
【請求項3】
請求項1に記載のオリゴチオフェン化合物が液晶ポリマー中で配向してなる液晶性樹脂組成物。
【請求項4】
前記液晶ポリマーが水素結合性基を有するものである請求項3に記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3又4に記載の液晶性樹脂組成物からなる異方性膜。
【請求項6】
前記液晶ポリマーからなる光配向膜上に前記一般式(1)で表されるオリゴチオフェン化合物を塗布又は蒸着することによって該オリゴチオフェン化合物を配向させることを特徴とする請求項5に記載の異方性膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−82853(P2013−82853A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225303(P2011−225303)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成23年9月13日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集60巻2号」 2.平成23年9月28日 社団法人高分子学会主催の「第60回高分子討論会」
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】