説明

新規ジアミノ芳香族カルボニル化合物

【課題】高い機械的強度を有し、且つ、耐熱性、耐久性に優れたポリイミド系イオン交換膜、すなわち側鎖にスルホン酸基を有する陽イオン交換膜を得る原料モノマーである特殊なジアミノ化合物を提供する。
【解決手段】ジ(アミノアリールオキシ)芳香族カルボニル化合物、ジ(アミノアリールチオ)芳香族カルボニル化合物及びジ(アミノアリールスルホニル)芳香族カルボニル化合物であって、カルボニル基を介して、直接又は間接的にスルホン酸基を置換した芳香族環を結合したジアミノ芳香族カルボニル化合物であり、特に該スルホン酸基を置換した芳香族環が酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、カルボニル基、メチレン基等の原子または2価の原子団を介して、或いは芳香族環同士が直接結合して複数個連なった置換基を有するジアミノ芳香族カルボニル化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重縮合可能な新規芳香族ジアミノ化合物に関する。特に側鎖にスルホン酸基を有するポリアミド又はポリイミドを製造するのに適した、新規ジ(アミノアリールオキシ)芳香族カルボニル化合物、ジ(アミノアリールチオ)芳香族カルボニル化合物及びジ(アミノアリールスルホニル)芳香族カルボニル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジアミノ化合物は、ポリアミドやポリイミドなどの樹脂製造用の原料として用いられる。芳香族ポリイミドは、一般にオキシジアニリンのような芳香族ジアミンとピロメリット酸無水物のようなテトラカルボン酸二無水物との重縮合により得られ、ジアミン残基と酸無水物残基との間の電荷移動相互作用に基づく強い分子間相互作用のため、薄膜形成能に優れ、機械的強度、耐熱性、耐溶剤性そして化学的安定性に優れるので、スーパエンジニアリングプラスチックス、層間絶縁材料等の電子材料あるいは中空糸気体分離膜などで利用されている。これらの優れた特性は、イオン交換膜や燃料電池用の電解質膜においても必要なものであり、スルホン酸基(スルホ基とも言う)やリン酸基のようなイオン交換基を有するポリイミドは良好な燃料電池用電解質膜などとして期待される。しかし、ポリイミドは、酸性水溶液中でイミド環が加水分解し易い欠点があり、スルホン化ポリフェニレンやスルホン化ポリエーテルスルホンなどのその他のスルホン化芳香族炭化水素系高分子に比べて大きな弱点であり、その解決が重大な課題である。
【0003】
そこで1,4,5,8‐ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTDA)からの六員環イミド環を有するポリイミドがフタル酸無水物からの五員環イミド環より耐加水分解性に優れているとの提案がなされ、(非特許文献1)、例えば、特許文献1では、NTDAと次記化学式(18)〜(20)で示されるスルホン化ジアミンおよび非スルホン化ジアミン(たとえば、オキシジアニリン)との共重合ポリイミド膜が燃料電池用の電解質膜として優れていると開示されている。しかし、これらのスルホン化ポリイミド膜の耐水性は十分なものではなく、特許文献2では、化学式(21)で示されるスルホン化ジアミンからのスルホン化共重合ポリイミド膜がさらに優れた耐水性を有することを開示している。これは、電子吸引性のスルホ基がアミノ基の結合しているフェニル環から離れたフェニル環に結合しているのでアミンの塩基性が高く、イミド環の耐加水分解性が増すためである(例えば、非特許文献2)と考えられる。
【0004】
【化6】

【0005】
【化7】

(DはO、S、CH、またはC(CF等、R〜Rは水素原子またはアルキル基、そして、Arはスルホ基を有する芳香環残基)
【0006】
上記のスルホン化ポリイミドは、いずれもスルホ基が高分子主鎖に直接結合している場合である。パーフルオロスルホン酸系高分子電解質膜では、側鎖のフルオロエーテル末端にスルホ基が結合し、親水性のスルホ基部が疎水性の主鎖部からミクロ相分離し、親水性のイオンチャンネルを形成していると考えられている。同様の効果を期待してこれまでに、芳香族炭化水素系高分子の側鎖にスルホ基を導入した側鎖型のスルホン化芳香族炭化水素系高分子膜が報告されている。例えば、化学式22で示される4‐(4‐スルホフェノキシ)ベンゾイル基を有するポリ‐1,4‐フェニレン(非特許文献3)、化学式23で示される2‐スルホベンゾイル基を有するポリスルホン(非特許文献4)、化学式24で示されるω‐スルホアルキルスルホニル基を有するポリスルホン(非特許文献5)、化学式25で示されるω‐スルホアルキル基を有するポリスルホンなどの芳香族炭化水素系ポリマー(特許文献3)が挙げられる。
【0007】
【化8】

【0008】
【化9】

【0009】
【化10】

【0010】
【化11】

ポリイミドにおいても化学式26で示されるω‐スルホアルコキシ基を有するジアミン(非特許文献6、特許文献4)及び化学式27で示されるスルホフェノキシ基を有するジアミン(非特許文献7)の合成とそのポリイミドの合成と物性が報告されている。これらの側鎖型スルホン化ポリイミド膜はミクロ相分離構造を有し、比較的優れた高温耐水性を有することが明らかにされている。
【0011】
【化12】

【0012】
【化13】

その他に、側鎖にスルホ基を有するものとして、主鎖の芳香族環にアルキレンエーテル結合を介してスルホン化芳香族基を結合したポリイミド(特許文献5)や下記一般式(28)
【0013】
【化14】

(Rは、アルキレン、ハロゲン化アルキレン、アリーレン及びハロゲン化アリーレン、又はエーテル結合を含むもの)
に示される側鎖にスルホン酸基を有するポリイミドが示されている(特許文献6)。これらのイオン交換体のあるものは、比較的高温下での耐久性や耐加水分解性を有しているが、更なる耐加水分解性が望まれる。また、特許文献7においては、下記一般式(29)で示される側鎖スルホ基を有する広範な種類(ポリエーテル、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリスルホン等)の高分子電解質膜が示されている。
【0014】
【化15】

(Xは単結合、電子吸引基または電子供与基、Rは単結合、‐(CH‐または‐(CF‐)
【0015】
この中には、ポリイミドも含まれているが、耐熱水性、ラジカル耐性に優れる好ましい繰り返し単位高分子としては、ポリイミドは除外されており、具体的な記載は全くなされていない。イミド環の加水分解性に問題があるからと考えられる。ポリフェニレン、ポリエーテル、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリスルホンなどの(特許文献7において好ましいものとして記載されている)高分子は、ポリイミドに比べて繰り返し単位の耐加水分解性には優れるが、分子間相互作用がポリイミドほど強くなく、薄膜形成能や耐溶剤性に劣る。このようなスルホン化高分子では、水は優れた溶剤であり、プロトン伝導性を高めるためスルホ基を多く導入しイオン交換容量を高くすると、膜が水に溶解もしくは著しく膨潤しやすく、またこれを抑えるため架橋構造を導入すると膜が乾燥時にもろくなるなどの欠点があり、その改善が必要とされている。
【0016】
このように、ポリイミドの強い分子間相互作用に基づく優れた特性を活かし、強靱で可橈性に富むスルホン化ポリイミド薄膜で、かつイミド環の耐加水分解性を著しく向上させ、優れた高温耐水性を有する電解質膜の開発が必要とされている。これまでに開発されたスルホン化ポリイミド膜は、長期間使用すると、イミド環の加水分解が生じ、分子量が低下するため、膜は機械的特性を失うことがある。また、高温使用中、経時的にスルホ基の脱離を生じ、イオン交換容量の低下を来たし、性能が低下するという現象が見られることがある。これらの現象は、特に高温で顕著になる。これらのスルホン化ポリイミド膜の中には、80℃程度までの使用条件下では高分子電解質膜として有効に利用可能のものもあるが、更に高温、即ち100℃を超える温度下ではやはり経時的劣化を生じることが分かった。
【0017】
そこで、100℃以上の温度下で用いても、長期耐久性と機械的強度を有し、特に幅広い温度領域で使用可能であり、しかも低湿度下でのプロトン伝導性低下の少ない燃料電池用の電解質膜として使用に耐え得る高分子電解質膜の開発が望まれている。
【0018】
本発明者は敍上の課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、特定のジアミン化合物をモノマーとして用いた場合、極めて耐熱性の高いすなわち、100〜120℃の温度条件下でも高い機械的強度を保ち、しかも経時的劣化の少ない陽イオン交換膜、特に燃料電池用電解質膜に適するスルホン化ポリイミド膜を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明はスルホン酸基を側鎖に有するポリイミドを得るのに適する新規なジアミノ化合物に関する。
【特許文献1】特表2000‐510511
【特許文献2】特開2003‐64181号公報
【特許文献3】特開2002‐110174号公報
【特許文献4】特開2004‐155998号公報
【特許文献5】特開2004‐35891号公報
【特許文献6】特開2004‐107484号公報
【特許文献7】特開2004‐256797号公報
【非特許文献1】ポリマー 第42巻 5097‐5105頁(2001)
【非特許文献2】ジャーナル メンブラン サイエンス 第230巻 111‐120頁(2004)
【非特許文献3】ソリッド ステート イオニクス 第147巻 189‐194頁(2002)
【非特許文献4】マクロモレキュラー ラピッド コミュニケーションズ 第23巻 896‐900頁(2002)
【非特許文献5】ジャーナル メンブラン サイエンス 第230巻 61‐70頁(2004)
【非特許文献6】ジャーナル マテリアルズ ケミストリー 第14巻1062‐1070頁(2004)
【非特許文献7】トランザクション マテリアルズ リサーチ ソサイアティ ジャパン 第29巻 2541−2546頁(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、上記技術背景に鑑み、高い機械的強度を有し、且つ、耐熱性、耐久性のあるポリイミド系イオン交換膜、すなわち側鎖にスルホン酸基を有する陽イオン交換膜を得る原料モノマーである特殊なジアミノ化合物を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は下記一般式(1)で表されるジ(アミノアリールオキシ)芳香族カルボニル化合物、ジ(アミノアリールチオ)芳香族カルボニル化合物及びジ(アミノアリールスルホニル)芳香族カルボニル化合物(以下、これら3種を総称して単にジアミノ芳香族カルボニル化合物ともいう)である。
【0022】
【化16】

[但し、Rは水素又は電子吸引性基、Ar、Arは、次の(a)〜(d)に示す基のいずれかの基、
【0023】
【化17】

(但し、Qは、‐O‐、‐S‐、‐CO‐、‐SO‐、‐CH‐、‐CF‐、‐C(CH‐、‐C(CF‐から選ばれる基)、Dは‐O‐、‐S‐又は‐SO‐から選ばれる基、Xはスルホン酸基を有し、且つ更に置換基を有することある芳香族炭化水素基である]
特に好適な芳香族炭化水素残基としては次の式(2)で示す構造のものが推奨される。
【0024】
【化18】

ここで、pは0又は1であり、Yは水素原子、ハロゲン、スルホン酸基などの置換基或いは、例えば次の式(3)〜(16)に示す官能基などが好適である。
【0025】
【化19】

【0026】
【化20】

【0027】
【化21】

【0028】
【化22】

【0029】
【化23】

【0030】
【化24】

【0031】
【化25】

(但し、(3)〜(16)においてnは1〜2の整数を表す、またTは‐O‐又は‐S‐を表す)
【0032】
また、イオン交換容量を大きくするために、前記一般式で示すジアミノ芳香族カルボニル化合物の「X」がスルホン酸基の置換されたポリフェニレン基、チオフェニレン基等、次の式(17)で示される基とするのも好ましい態様である。
【0033】
【化26】

(但し、Zは芳香族環が直接結合、‐O‐、‐S‐、‐SO‐、‐CF‐、‐C(CF‐を表す。またmは1〜20、nは1〜2の整数を表す。)
中でもポリフェニレンオキサイド及びポリフェニレンスルフィドが好適である。
【発明の効果】
【0034】
本発明の新規ジアミノ芳香族カルボニル化合物は、これを一方の成分とするポリイミドとすることにより、機械的強度が優れ、且つ、主鎖を構成する芳香族環に直接スルホン酸基が結合しているポリイミド、エーテル結合又はアルキレン結合を介してアルキル基または芳香族環にスルホン酸基が結合したポリイミド、そしてスルホン酸基を有する側鎖芳香環がカルボニルまたはスルホニル基などの電子吸引性基を介してアミノフェニル基に直接結合したポリイミドなどに比べて、高温下での酸性水溶液中など過酷な条件下で用いた場合の加水分解による高分子鎖の切断及びスルホン酸基の脱離等経時的劣化が少なく、しかも、低湿度下でのプロトン伝導性低下が少なく、燃料電池電解質膜として使用した場合、燃料の水素ガス等とメタノール等の液体に対して高いバリヤー性を併せ持つ優れた電解質膜とすることができる新規スルホン化ジアミノ芳香族化合物である。すなわち、本発明はポリイミドとした場合、主鎖を構成する部分に親水性の基であるスルホン酸基は存在せず、スルホン酸基を有する側鎖芳香環がカルボニル基を介して結合したフェニル環がさらにアリールオキシ基、アリールチオ基又はアリールスルホニル基を介してアミノ芳香環に結合しており、疎水性のポリイミド高分子鎖が比較的フレキシブルであり、かつ親水性のスルホン酸含有側鎖芳香環がイミド環から遠く離れた構造になっているので、疎水性の主鎖部と親水性の側鎖基部がミクロ相分離構造をとり易い。そのため、ポリイミド主鎖部の疎水性ドメインへの水収着量は少なく、電解質膜としての利用時に主鎖が加水分解を受け難くなるのである。更に、電子吸引性基であるカルボニル基を有する芳香環にスルホン酸基が結合されることにより、スルホン酸基の加水分解が起こり難いという特徴もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の新規ジアミノ芳香族カルボニル化合物は下記一般式(1)
【0036】
【化27】

[但し、Rは水素又は電子吸引性基、Ar、Arは、次の(a)〜(d)に示す基のいずれかの基、
【0037】
【化28】

(但し、Qは、‐O‐、‐S‐、‐CO‐、‐SO‐、‐CH‐、‐CF‐、‐C(CH‐、‐C(CF‐から選ばれる基)、Dは‐O‐、‐S‐又は‐SO‐から選ばれる基、Xはスルホン酸基を有し、且つ更に置換基を有することある芳香族炭化水素基である]
【0038】
一般式(1)において、スルホン酸基を有する側鎖を結合した芳香環は、エーテル結合を介してアミノ基を有する芳香環に結合しているものである。かかる構造とすることにより該アミノ基によりイミド結合を形成させたポリイミドは極めて安定化し、高温下においても加水分解を受け難くなるのである。
【0039】
更に、本発明の最大の特徴は、スルホン酸基を有する側鎖芳香環がカルボニル基(ケト基)を介して結合したフェニル環がさらにエーテル結合、スルフィド結合又はスルホニル結合基を介してアミノ基の結合した芳香環に結合している点にある。
【0040】
特に好ましい形態は上記ジアミノ芳香族カルボニル基に結合する芳香族環としては、下記式(2)で示される、ベンゼン環またはナフタレン環である。
【0041】
【化29】

これらの芳香族環に1個以上のスルホン酸基が結合していてもよいし、また該芳香族環に更に酸素原子、硫黄原子、メチレン基、プロピレン基等のアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基或いはスルホニル基等を介して、芳香族環が結合しており、それらにスルホン酸基が結合していてもよい。かかる基の好ましい例は、次の化学式(3)〜(16)または(17)等である。
【0042】
【化30】

【0043】
【化31】

【0044】
【化32】

【0045】
【化33】

【0046】
【化34】

【0047】
【化35】

【0048】
【化36】

【0049】
【化37】

(但しmは2〜30の整数、nは1〜2の整数、Tは‐O‐又は‐S‐を表す、またzは直接結合、‐O‐、‐S‐、‐SO‐、‐CO‐、‐CH‐、‐CF‐、又は‐C(CF‐を表す。)
【0050】
このように、アミノ基を結合したベンゾイル基などの芳香族カルボニル基に結合した芳香族環に更に芳香族環が結合する形態の場合、アミノ基を結合した芳香族カルボニル基に結合した芳香族環には、スルホン基は置換していないか又は1個だけ置換していることが好ましい。
【0051】
また、式(17)で示されるzが酸素であるポリフェニレンオキサイド等、重合鎖が存在する場合、該重合鎖があまり長くなると、ポリアミド又はポリイミド化する場合に支障を生じ、十分な重合度が得られないので、前記式(17)におけるmは20程度まで、好ましくは2〜8である。
【0052】
本発明の化合物の製造方法は、特に限定されないが、次に一般的製造方法のスキームの例を示す。
【0053】
【化38】


すなわち上記スキームの例におけるビフェニルにかえて、ベンゼンやナフタレン或いはその誘導体、ビフェニルエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ビフェニルスルホン、ジフェニルメチレンなどを用いれば、それぞれ対応するジ(アミノアリールオキシ)芳香族カルボニル化合物が得られる。また、アミノフェノール類にかえてアミノチオフェノール類を用いれば、対応するジ(アミノアリールチオ)芳香族カルボニル化合物が得られる。また、このスルフィド基を適当な条件下で適当な酸化剤を用いて(例えば、日本化学会編(丸善(株))第4版実験化学講座24、有機合成VIの371頁に記載の方法)、スルホニル基に酸化すれば対応するジ(アミノアリールスルホニル)芳香族カルボニル化合物が得られるのである。
【0054】
以下に実施例を示すが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
2,4‐ビス(4‐アミノフェノキシ)‐3‘‐スルホベンゾフェノン
(1)2,4‐ジクロロ‐3‘‐スルホベンゾフェノン(Na塩)の合成
十分乾燥した100mlの三つ口フラスコにAlCl7.5gとベンゼン15mlを窒素気流下で加え、この混合物を0℃に冷却した後、その温度に保ち、2,4‐ジクロロベンゾイルクロリド5.24g(0.025モル)を5mlのベンゼンに溶かした溶液を滴下して加えた。その間攪拌しながら0℃に保った。滴下後、該混合物を室温下で10時間攪拌した。反応溶液を約100gの氷水(数滴の塩酸を加えたもの)に注ぎ入れた。2相が現れ、水相から有機相を分離し、有機相を蒸発乾固して2,4‐ジクロロベンゾフェノン6.1gを得た。収率97%。
【0056】
マグネチックスターラーを装備した100mlの三つ口フラスコに2,4‐ジクロロベンゾフェノン6.0g(0.024モル)を入れ、アイスバスで冷却した後、6.0mlの濃硫酸を攪拌しながらゆっくりと添加した。2,4‐ジクロロベンゾフェノンが完全に溶解した後、6.0mlの発煙硫酸(60%)を滴下して加えた。発煙硫酸を添加した後、該混合物を70℃に加熱し8時間攪拌を続けた。室温まで冷却後、80gの氷水にゆっくり注ぎ入れ、水酸化ナトリウム溶液で中性にし、固体を濾別した。濾液を蒸発乾固し、80mlのジメチルスルホキシド(DMSO)を加え、固体中の有機成分を抽出した。固体を濾別後、DMSO相を蒸発乾固し、7.2gの固体生成物を得た。収率85%。
【0057】
(2)2,4‐ビス(4‐アミノフェノキシ)‐3‘‐スルホベンゾフェノンの合成
マグネチックスターラーを装備した100mlの四つ口フラスコに2,4‐ジクロロ‐3‘‐スルホベンゾフェノン(Na塩)3.53g(0.010モル)、4‐アミノフェノール3.27g(0.030モル)そして30mlのN‐メチルピロリドン(NMP)を窒素雰囲気下で加えた。溶解後、2.6gのKCOと15mlのトルエンを加え、窒素気流下130℃で4時間攪拌加熱した。生成した水はトルエンとの共沸混合物として反応系外に除去した。さらに、反応混合液を160℃で20時間攪拌した。この反応混合液を、室温まで冷却後、300mlの冷水中に加え、次いで濃塩酸を、液のpHが約1になるまでゆっくり加えた。得られた固体沈殿物を濾別し乾燥して、3.10gの固体生成物を得た。収率65%。このものはHNMR(270MHz,トリエチルアミン含有DMSO‐d)によりδ:5.0(‐NH2),6.25(1H),6.5‐6.7(8H),6.8(1H),7.4‐7.8(5H)のピークを示した。またFT‐IRにより2,4‐ビス(4‐アミノフェノキシ)‐3‘‐スルホベンゾフェノン(化33)であることが確認された。
【0058】
【化39】

【実施例2】
【0059】
2,5‐ビス(4‐アミノフェノキシ)3‘‐スルホ‐4’‐(4‐スルホフェニル)ベンゾフェノン
(1)2,5‐ジクロロ‐3‘‐スルホ‐4’‐(4‐スルホフェニル)ベンゾフェノン(Na塩)の合成
十分乾燥した100mlの三つ口フラスコにAlCl5.28gとビフェニル5.55g(0.036モル)そして20mlの1,2‐ジクロロエタンを窒素気流下で加え溶かし、この混合物を0℃に冷却した後、その温度に保ち、2,5‐ジクロロベンゾイルクロライド7.54g(0.036モル)を20mlの1,2‐ジクロロエタンに溶かした溶液を滴下して加えた。その間攪拌しながら0℃に保った。滴下後、該混合物を室温下で10時間攪拌した。反応溶液を約100gの氷水(数滴の塩酸を加えたもの)に注ぎ入れ、次いで200mlのベンゼンを加え、水相から有機相を分離し、有機相を蒸発乾固して2,5‐ジクロロ‐4‘‐フェニルベンゾフェノン10.60gを得た。収率90%。
【0060】
マグネチックスターラーを装備した100ml三つ口フラスコに2,5‐ジクロロ‐4‘‐フェニルベンゾフェノン8.18g(0.025モル)を入れ、アイスバスで冷却した後、8.0mlの濃硫酸を攪拌しながらゆっくりと添加した。2,5‐ジクロロ‐4‘‐フェニルベンゾフェノンを完全に溶解させ後、8.0mlの発煙硫酸(60%)を滴下して加えた。発煙硫酸を添加した後、該混合物を90℃にゆっくり加熱し10時間攪拌を続けた。室温まで冷却後、100gの氷水にゆっくり注ぎ入れ、水酸化ナトリウム溶液で中性にし、固体を濾別した。濾液を乾固し、80mlのジメチルスルホキシド(DMSO)を加え、固体中の有機成分を抽出した。固体を濾別後、DMSO相を濃縮乾固し11.29gの固体生成物を得た。収率85%。
【0061】
(2)2,5‐ビス(4‐アミノフェノキシ)3‘‐スルホ‐4’‐(4‐スルホフェニル)ベンゾフェノンの合成
マグネチックスターラーを装備した100mlの四つ口フラスコに2,5‐ジクロロ‐3‘‐スルホ‐4’‐(4‐スルホフェニル)ベンゾフェノン(Na塩)4.25g(0.008モル)と30mlのNMPを窒素雰囲気下で加えた。溶解後、4‐アミノフェノール2.62g(0.024モル)とKCO(2.07g,0.015モル)と15mlのトルエンを加え、窒素気流下130℃で4時間攪拌加熱した。生成した水はトルエンとの共沸混合物として反応系外に除去した。そらに、反応混合液を160℃で20時間攪拌した。この反応混合液を、室温まで冷却後、300mlの冷水中に加え、次いで濃塩酸を、液のpHが約1になるまでゆっくり加えた。得られた固体沈殿物を濾別し乾燥して、2.53gの固体生成物を得た。収率50%。このものはHNMR(270MHz,トリエチルアミン含有DMSO‐d)によりδ:5.0(‐NH),6.4‐6.6(8H),6.7‐6.8(2H),7.6‐8.4(8H)のピークを示した。またFT‐IRにより2,5‐ビス(4‐アミノフェノキシ)3‘‐スルホ‐4’‐(4‐スルホフェニル)ベンゾフェノン(化34)であることが確認された。
【0062】
【化40】

【実施例3】
【0063】
3,5‐ビス(4‐アミノフェノキシ)‐4‐シアノ‐4‘‐(4‐スルホフェニル)‐3’‐スルホベンゾフェノン
3,5‐ジクロロ‐4‐シアノ安息香酸を特許文献(US Patent 5304572,(1994))と同様の方法で合成し、チオニルクロライドで酸クロライドにした。実施例2の(1)と同様に、3,5‐ジクロロ‐4‐シアノ安息香酸クロリドをジフェニルとフリーデルクラフト反応させて、3,5‐ジクロロ‐4‐シアノ‐4‘‐フェニルベンゾフェノンを合成した。収率80%。次いで、これを、実施例2の(1)と同様に、スルホン化して、3,5‐ジクロロ‐4‐シアノ‐4‘‐(4‐スルホフェニル)‐3’‐スルホベンゾフェノン(Na塩)を得た。収率85%。
さらに、これを、実施例2の(2)と同様に4‐アミノフェノールと反応させて、3,5‐ビス(4‐アミノフェノキシ)‐4‐シアノ‐4‘‐(4‐スルホフェニル)‐3’‐スルホベンゾフェノンを得た。収率70%。このものはHNMR(270MHz,トリエチルアミン含有DMSO‐d)によりδ:5.0(‐NH),6.4‐6.6(8H),7.1(2H),7.6‐8.4(7H)のピークを示した。またFT‐IRにより3,5‐ビス(4‐アミノフェノキシ)‐4‐シアノ‐4‘‐(4‐スルホフェニル)‐3’‐スルホベンゾフェノン(化35)であることが確認された。
【0064】
【化41】

【実施例4】
【0065】
2,5−ビス(4−アミノフェニルチオ)−3‘−スルホ−4’−(4−スルホフェニル)ベンゾフェノン)
4−アミノフェノールの替わりに4−アミノチオフェノールを用い、実施例2と同様にして、2,5−ビス(4−アミノフェニルチオ)−3‘スルホ−4’−(4−スルホフェニル)ベンゾフェノン(化42)を得た。そのHNMRスペクトルは実施例2の(化40)のものに類似していた。
【0066】
【化42】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のジアミノ芳香族カルボニル化合物は、ポリアミド又はポリイミドの一方の成分として用いられ、優れた陽イオン交換体となり、特にこのモノマーを用いたポリイミドは高温下での劣化が少ないことから優れた燃料電池の電解質膜を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジアミノ芳香族カルボニル化合物。
【化1】

[但し、Rは水素又は電子吸引性基、Ar、Arは、次の(a)〜(d)に示す基のいずれかの基、
【化2】

(但し、Qは、‐O‐、‐S‐、‐CO‐、‐SO‐、‐CH‐、‐CF‐、‐C(CH‐、‐C(CF‐から選ばれる基)、Dは‐O‐、‐S‐又は‐SO‐から選ばれる基、Xはスルホン酸基を有し、且つ更に置換基を有することある芳香族炭化水素基である]
【請求項2】
Xが下記式(2)で示される請求項1に記載のジアミノ芳香族カルボニル化合物である。
【化3】

(但し、pは0又は1、Yは水素原子、ハロゲン原子、スルホン酸基又は下記式(3)〜(16)に示す基のいずれか1つの基である。)
【化4】

(但し(3)〜(16)におけるnは1〜2の整数を表す、またTは‐O‐又は‐S‐を表す)
【請求項3】
Xが下記式(17)で示される基である請求項1に記載のジアミノ芳香族カルボニル化合物。
【化5】

(但しZは直接芳香族環が結合したもの、‐O‐、‐S‐、‐SO‐、‐CO‐、‐CH‐、‐CF‐、又は‐C(CF‐、を表す。またmは1〜20、nは1〜2の整数を表す。)
【請求項4】
Xがスルホン酸基の置換されたポリフェニレンオキサイド鎖又はポリフェニレンスルフィド鎖よりなる請求項1に記載のジアミノ芳香族カルボニル化合物。

【公開番号】特開2006−151817(P2006−151817A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336247(P2004−336247)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】