説明

新規ヒトリンパ球およびその製造方法並びにγδT細胞の増殖方法

【課題】強いサイトカイン産生能および細胞障害活性を有するとともに、γδT細胞の増殖を促進することができるヒトリンパ球およびその製造方法並びに上記ヒトリンパ球を用いたγδT細胞の増殖方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかるヒトリンパ球は、少なくともインターロイキン2およびインターロイキン18によって刺激されてなるヒトリンパ球であって、CD56の発現強度が10以上、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であり、上記発現強度はフローサイトメトリーによって測定したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規ヒトリンパ球およびその製造方法並びにγδT細胞の増殖方法に関する。特に、特定の表面抗原を備え、強いサイトカイン産生能および細胞障害活性を有するとともに、γδT細胞の増殖に関与する能力を持つヒトリンパ球およびその製造方法並びに上記ヒトリンパ球を用いたγδT細胞の増殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
γδT細胞は、メモリータイプのリンパ球であり、感染や腫瘍に対する生体防御において重要な役割を担っている。ヒト末梢血中では、その数は少なく、通常の末梢Tリンパ球のうち1〜5%を占めるに過ぎない。γδT細胞の大部分はVγ9Vδ2型で、ペプチドよりもリン酸抗原などに強く反応して活性化され、増殖する。
【0003】
ヒト末梢血リンパ球からγδT細胞を増殖させるには、インターロイキン2(IL−2。以下、インターロイキンを「IL」と称する)の存在下でビスホスホネートや、イソペンテニルピロリン酸(IPP)誘導体でヒト末梢血リンパ球を刺激するという方法が用いられる。このようにして活性化され、増殖したγδT細胞は、強い抗腫瘍活性をもつことから、癌治療への応用が試みられており、実際、肺転移した癌に対して用いたところ、完全寛解したという報告もある(非特許文献1)。一方、本発明者は、ゾレドロネート、IL−2およびIL−18を用いてVγ9Vδ2T細胞を刺激すると、その増殖が著しく高められることを見出している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4281071号公報(2009年6月17日発行)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】kobayashi H et al., Anticancer Res. 30, 575-580, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の発明においては、IL−18がγδT細胞の増殖を促進する機序についてはまだ明らかになっていなかった。
【0007】
本発明者が上記機序の解明を試みていたところ、ゾレドロネート、IL−2およびIL−18を用いてヒト末梢血単核球(以下、「PBMCs」と称する)を刺激すると、γδT細胞の増殖が促進され、細胞全体の主要部を占めるようになる一方、非T細胞の増殖も促進されることが見出された。そこで、上記非T細胞の構造および機能について鋭意検討したところ、フローサイトメトリーで測定したCD56およびCD11cの発現強度が所定の範囲にあり、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)および樹状細胞の性質を併せ持つ細胞であることが分かった。また、上記非T細胞は、IL−2およびIL−18を用いてヒトリンパ球を刺激することによって増殖し、高いサイトカイン産生能および細胞障害活性を有し、γδT細胞の増殖に深く関与していることが見出された。
【0008】
以上のことから、本発明は、CD56およびCD11cの発現強度が所定の範囲にあり、強いサイトカイン産生能および細胞障害活性を有するとともに、γδT細胞の増殖を促進することができるヒトリンパ球およびその製造方法並びに上記ヒトリンパ球を用いたγδT細胞の増殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明にかかるヒトリンパ球は、少なくともインターロイキン2およびインターロイキン18によって刺激されてなるヒトリンパ球であって、CD56の発現強度が10以上、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であり、上記発現強度はフローサイトメトリーによって測定したものであることを特徴としている。
【0010】
後述する実施例2に示すように、CD56の発現強度が10〜10であり、CD11cの発現強度が10〜10であるヒトリンパ球を含まないヒトリンパ球(CD56陽性かつCD11c陰性のヒトリンパ球。図6の(h)(i)を参照。)、および、CD11cの発現強度が10〜10であり、CD56の発現強度が10〜10であるヒトリンパ球を含まないヒトリンパ球(CD56陰性かつCD11c陽性のヒトリンパ球。図6の(e)(f)を参照。)は、γδT細胞の増殖を促進することができなかった。また、CD56陽性かつCD11c陽性のヒトリンパ球であっても、CD56の発現強度が低い場合は、γδT細胞の増殖を促進することができず、サイトカイン産生能および細胞障害活性も不十分であった。
【0011】
また、後述のように、IL−2のみによって刺激されたヒトリンパ球は、CD56の発現強度が10以上、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であっても、γδT細胞の増殖を促進することができず、サイトカイン産生能および細胞障害活性も不十分であった。
【0012】
上記構成によれば、少なくともIL−2およびIL−18によって刺激されたヒトリンパ球であって、CD56およびCD11cの発現強度が最適であるため、γδT細胞の増殖を促進することができ、しかも高いサイトカイン産生能および細胞障害活性を示すことができるものと推測される。
【0013】
本発明にかかるヒトリンパ球の80%以上は、CD25の発現強度が10以上であることが好ましい。
【0014】
また、本発明にかかるヒトリンパ球の80%以上は、HLA−DRの発現強度が10以上であることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明にかかるヒトリンパ球の80%以上は、CD86の発現強度が10以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明にかかるヒトリンパ球は、CD122を発現しているヒトリンパ球の数が、全細胞数の10%未満であることが好ましい。
【0017】
後述するように、本発明にかかるヒトリンパ球は、リンパ球でありながらアクセサリー機能を有するが、それは、このような表面抗原を所定量発現していることによるものと推測される。
【0018】
本発明にかかるヒトリンパ球を生産する方法は、少なくともインターロイキン2およびインターロイキン18によって、CD3の発現強度が10以上102.3以下であり、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であるヒトリンパ球を刺激する工程を含むことを特徴としている。
【0019】
本発明者は、IL−2およびIL−18を用いてヒト末梢血単核球を刺激すると、増殖される細胞の多くがγδT細胞となるが、それ以外に、CD3の発現強度が10以上102.3以下であり、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であるヒトリンパ球が刺激されることにより、本発明にかかるヒトリンパ球が増殖することを見出した。IL−2およびIL−18によって本発明にかかるヒトリンパ球が増殖されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、上記ヒトリンパ球は後述のように、γδT細胞を増殖させる効果を持ち、優れたサイトカイン産生能および細胞障害活性を有するため、上記方法は、非常に有用であるといえる。
【0020】
本発明にかかるγδT細胞の増殖方法は、本発明にかかるヒトリンパ球と、γδT細胞とを、インターロイキン2、インターロイキン18およびリン酸化合物を用いて刺激する工程を含むことを特徴としている。
【0021】
また、本発明にかかるγδT細胞の増殖方法では、上記ヒトリンパ球がケモカインを分泌しており、γδT細胞がケモカインレセプターを発現していることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明にかかるγδT細胞の増殖方法では、上記リン酸化合物は、ゾレドロネートであることが好ましい。
【0023】
後述するように、本発明にかかるヒトリンパ球は、γδT細胞を誘引してγδT細胞と接触し、IL−2、IL−18およびリン酸化合物の刺激を受けると、γδT細胞と共に細胞クラスターを形成し、γδT細胞の増殖を促進する。よって、本発明にかかるヒトリンパ球はγδT細胞の増殖に必須の成分であり、非常に重要な役割を果たすことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかるヒトリンパ球は、少なくともインターロイキン2およびインターロイキン18によって刺激されてなるヒトリンパ球であって、CD56の発現強度が10以上、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であり、上記発現強度はフローサイトメトリーによって測定したものであるという構成であり、γδT細胞の増殖を促進することができ、しかも高いサイトカイン産生能および細胞障害活性を示すことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】γδT細胞の増殖に対するIL−18の効果を示す図である。
【図2】刺激後のPBMCsの写真である。
【図3】IL−2、IL−18およびゾレドロネートの刺激によるγδT細胞の増殖の様子を示す図である。
【図4】刺激後0日目および14日目における、CD11c、CD3、およびCD56の発現を解析した結果を示す図である。
【図5】CD56の発現強度が10以上であり、かつ、CD11cの発現強度が10〜10であり、CD3陰性であるヒトリンパ球の細胞数が、γδT細胞の細胞数と並行して増加することを示す図である。
【図6】CD56の発現強度が10〜10であるヒトリンパ球、CD11cの発現強度が10〜10であるヒトリンパ球、またはCD14の発現強度が10以上であるヒトリンパ球を除去したPBMCsを、IL−2およびゾレドロネート、または、IL−2、ゾレドロネートおよびIL−18で刺激した場合の、本発明にかかるヒトリンパ球の増殖およびγδT細胞の増殖の様子を示すものである。
【図7】CD3の発現強度が102.3を超える細胞を除去したPBMCs(CD3陽性細胞を除去したPBMCs)を、IL−2およびゾレドロネート、または、IL−2、ゾレドロネートおよびIL−18の存在下で培養した場合における本発明にかかるヒトリンパ球の増殖を示すものである。
【図8】種々のサイトカイン、またはサイトカインおよびゾレドロネートの存在下で、CD3陽性細胞を除去したPBMCsを培養し、刺激前、培養5日目、培養8日目における生細胞数を測定した結果を示すものである。
【図9】CD3陽性細胞を除去したPBMCsを、IL−2,IL−2およびIL−18、または、GM−CSFおよびIL−4によって刺激し、本発明にかかるヒトリンパ球の増殖について検討した結果を示すものである。
【図10】CD3陽性細胞を除去したPBMCsにおけるCD14の発現が培養前後で変化する様子を示すものである。
【図11】樹状細胞の誘導のために一般的に用いられるIL−4およびGM−CSFが本発明にかかるヒトリンパ球の増殖を促進できるか否かを検討した結果を示すものである。
【図12】CD3陽性細胞を除去したPBMCsをIL−2、または、IL−2およびIL−18で10日間刺激し、表面分子の発現の変化について検討した結果を示すものである。
【図13】CD3陽性細胞を除去したPBMCsを刺激して得られた培養上清中に産生されたサイトカインおよびケモカインと、IL−2およびIL−18の存在下で培養したPBMCsの細胞障害活性とを示す図である。
【図14】γδT細胞上の共刺激分子の発現を示すものである。
【図15】本発明にかかるヒトリンパ球がγδT細胞の移動を誘導する能力について検討した結果を示す図である。
【図16】本発明にかかるヒトリンパ球とγδT細胞とがクラスターを形成する様子を示すものである。
【図17】γδT細胞の増殖に対する、本発明にかかるヒトリンパ球の効果について検討した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、「A〜B」なる記載は、A以上B以下であることを意味する。
【0027】
(1.本発明にかかるヒトリンパ球)
本発明にかかるヒトリンパ球は、少なくともインターロイキン2およびインターロイキン18によって刺激されてなるヒトリンパ球であって、CD56の発現強度が10以上であり、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であり、上記発現強度はフローサイトメトリーによって測定したものである。
【0028】
「少なくともインターロイキン2およびインターロイキン18によって刺激されてなるヒトリンパ球」とは、少なくともIL−2およびIL−18と接触したヒトリンパ球であることを意味する。刺激の対象となるヒトリンパ球は特に限定されるものではないが、サイトカイン等による刺激を未だ受けていないヒトリンパ球であることが好ましく、CD3の発現強度が10以上102.3以下、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であるリンパ球であることが好ましい。また、刺激の対象となるヒトリンパ球は、40歳以下のヒトから得たものであることが好ましい。
【0029】
刺激の方法としては、例えば次項で説明する方法を用いることができる。上記刺激は、IL−2およびIL−18のみによって行えば十分である。ただし、これに限定されるものではなく、例えば、IL−2およびIL−18に加えてゾレドロネート等の刺激剤を用いてもよい。しかし、IL−2のみ、IL−18のみ、あるいはゾレドロネートのみをヒトリンパ球に接触させても、本発明にかかるリンパ球を得ることはできない。
【0030】
本発明にかかるヒトリンパ球は、CD56の発現強度が10以上、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であり、上記発現強度はフローサイトメトリーによって測定したものである。また、CD3の発現強度は10以上102.3以下(CD3陰性)である。本明細書においてフローサイトメトリーの条件は一定であり、Becton-Dickinson immunocytometry systems, 1995.に記載されている条件に従って行った。なお、本明細書において、表面抗原の発現強度は、全てフローサイトメトリーによって測定した発現強度を意味する。
【0031】
本発明にかかるヒトリンパ球は、後述する実施例に示すように、IFN−γおよびTNF−αの高い産生能、K562細胞に対する高い細胞障害活性、並びにγδT細胞の増殖促進能を有している。本発明にかかるヒトリンパ球は、このような特性を有するとともに、ナチュラルキラー細胞(以下、NK細胞と称する)に特徴的な表面抗原であるCD56および樹状細胞に特徴的な表面抗原であるCD11cを強く発現している。よって本発明にかかるヒトリンパ球は、NK細胞および樹状細胞の両方の性質を持つ細胞であると考えられる。
【0032】
本発明にかかるヒトリンパ球の80%以上は、CD25の発現強度が10以上であることが好ましい。また、本発明にかかるヒトリンパ球の80%以上は、HLA−DRの発現強度が10以上であることが好ましい。さらに、本発明にかかるヒトリンパ球の80%以上は、CD86の発現強度が10以上であることが好ましい。HLA−DR、CD86は樹状細胞において特徴的に発現する表面抗原である。また、本発明にかかるヒトリンパ球は、CD122を発現しているヒトリンパ球の数が、全細胞数の10%未満であることが好ましい。これらの割合は、ヒストグラムから表面抗原を発現している細胞をゲートすることによって自動的に算出することができる。
【0033】
CD25の発現強度が10以上であるヒトリンパ球の細胞数が本発明にかかるヒトリンパ球の細胞数に占める割合は、85%以上であることがより好ましい。HLA−DRの発現強度が10以上であるヒトリンパ球の細胞数が本発明にかかるヒトリンパ球の細胞数に占める割合は、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。上記割合は多くても特に問題はないため、上限は特に規定されず、100%であってもよい。本発明にかかるヒトリンパ球は、後述する実施例に示すように、CD25、HLA−DR、CD86の発現量が、刺激を受けていないヒトリンパ球や、IL−2のみによって刺激されたヒトリンパ球よりも非常に多い。
【0034】
また、本発明にかかるヒトリンパ球においては、NKG2Dの発現強度が10以上であるヒトリンパ球の細胞数が80%以上であることが好ましい。NKG2Dは、NK細胞において特徴的に発現する表面抗原である。
【0035】
本発明にかかるヒトリンパ球は、CD122を発現しているヒトリンパ球の細胞数が、全細胞数の10%未満であることが好ましい。本発明にかかるヒトリンパ球は、後述する実施例に示すように、CD122の発現量が、刺激を受けていないヒトリンパ球や、IL−2のみによって刺激されたヒトリンパ球よりも非常に少ない。
【0036】
本発明にかかるヒトリンパ球は、少なくともIL−2およびIL−18により刺激されたリンパ球であるが、後述する実施例に示すように、IL−2のみにより刺激されたリンパ球は、CD56の発現強度が10以上、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であっても、本発明にかかるヒトリンパ球のようなサイトカイン産生能、細胞障害活性、γδT細胞の増殖促進能を示さなかった。
【0037】
本発明にかかるヒトリンパ球が優れたサイトカイン産生能、細胞障害活性およびγδT細胞の増殖促進能を示すようになる理由は必ずしも明らかではないが、IL−18は細胞死を抑制し、細胞生存を高める性質を有することが関係していると推測される。
【0038】
また、後述する実施例に示すように、刺激を受けていないヒトリンパ球や、IL−2のみで刺激して得られた、CD56の発現強度が10以上、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であるヒトリンパ球では、該ヒトリンパ球の80%以上においてCD25の発現強度が10以上であること、該ヒトリンパ球の80%以上においてHLA−DRの発現強度が10以上であること、該ヒトリンパ球の80%以上においてCD86の発現強度が10以上であること、該ヒトリンパ球において、CD122を発現しているヒトリンパ球の数が全細胞数の10%未満であること、のいずれも満たされていなかった。つまり、これらの表面抗原の発現量が、本発明にかかるヒトリンパ球とは著しく異なっていた。このような、表面抗原の発現量の違いも、本発明にかかるヒトリンパ球が優れた特性を備えることに寄与していると推測される。
【0039】
(2.本発明にかかるヒトリンパ球の製造方法)
本発明にかかるヒトリンパ球の製造方法は、少なくともインターロイキン2およびインターロイキン18によって、CD3の発現強度が10以上102.3以下であり(つまり、CD3の発現が陰性であり)、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であるヒトリンパ球(以下、被刺激リンパ球とも称する)を刺激する工程を含む方法である。
【0040】
上記被刺激リンパ球は、ヒトリンパ球中に含まれている。刺激は、例えばマグネットビーズを用いる純化等の方法によって予めヒトリンパ球から分離した上記被刺激リンパ球に対して行ってもよく、上記分離を行わず、例えばヒト血液、ヒトリンパ液またはPBMCsなどを刺激し、刺激後に例えばマグネットビーズを用いる純化等の方法によって本発明にかかるヒトリンパ球を上記ヒト血液等から分離してもよい。
【0041】
上記刺激は、少なくともIL−2およびIL−18を上記被刺激リンパ球に接触させることによって行うことができる。刺激はIL−2およびIL−18のみによって行ってもよいし、IL−2およびIL−18に加えて、例えばゾレドロネート等を刺激剤として用いてもよい。また、例えばIL−15のような他の補助因子を添加してもよい。接触させるための方法は特に限定されるものではなく、例えば、ヒトAB型血清を含有するRPMI1640培地などの従来公知の培地に、上記被刺激リンパ球、ヒト血液、ヒトリンパ液またはPBMCsなどを添加し、さらにIL−2およびIL−18を添加して、COインキュベーターなどの従来公知の培養装置中で培養することによって、上記接触を行うことができる。
【0042】
上記被刺激細胞の細胞数に対するIL−2の使用量およびIL−18の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、上記被刺激細胞の濃度が2.5×10個/ml〜1×10個/mlである培地に、IL−2を最終濃度が5〜10ng/ml、IL−18を最終濃度が50〜100ng/mlとなるように添加することが好ましい。
【0043】
培養温度、培養時間は特に限定されるものではないが、通常、摂氏37℃、5%CO存在下で培養し、3−5日おきに新鮮な培地とIL−2およびIL−18とを追加しながら10−14日間培養することが好ましい。
【0044】
本発明にかかるヒトリンパ球は、刺激後の上記被刺激細胞をフローサイトメトリーによって解析し、CD56およびCD11cの発現強度を測定することによって本発明にかかるヒトリンパ球を特定し、マグネットビーズを用いる純化のような方法によって、刺激後の上記被刺激細胞から分離することができる。
【0045】
(3.γδT細胞の増殖方法)
本発明にかかるγδT細胞の増殖方法は、本発明にかかるヒトリンパ球と、γδT細胞とをインターロイキン2、インターロイキン18およびリン酸化合物を用いて刺激する工程を含む方法である。
【0046】
後述する実施例に示すように、本発明にかかるヒトリンパ球は、ケモカインであるCCL−21を分泌することができ、IL−2、IL−18およびゾレドロネートを用いてPBMCsを刺激して得られたγδT細胞は、CCL−21のレセプターであるCCR5およびCCR7を発現する。また、本発明にかかるヒトリンパ球から産生されるケモカインによって、γδT細胞が誘引され、本発明にかかるヒトリンパ球の共刺激分子と、γδT細胞のリガンドとが結合するので、本発明にかかるヒトリンパ球と、γδT細胞とを、IL−2、IL−18およびゾレドロネートを用いて刺激することによって、γδT細胞を著しく増殖させることができる。
【0047】
上述のように、また、実施例に示すように、本発明にかかるヒトリンパ球の生産には、IL−2およびIL−18のみが必須であり、ゾレドロネートは必須ではない。一方、γδT細胞を増殖させる場合は、IL−2およびIL−18の他に、ゾレドロネートも必要となる。特許文献1の実施例には、IL−2、IL−18およびゾレドロネートによってPBMCsを刺激することによってVγ9Vδ2T細胞を増殖させることができたことが開示されている。ここでは本発明にかかるリンパ球の存在および役割は明らかではなかったが、今回、IL−2およびIL−18による刺激によって増殖した本発明にかかるヒトリンパ球が、γδT細胞を誘引し、IL−2、IL−18およびリン酸化合物の存在下でγδT細胞とクラスターを形成し、γδT細胞を著しく増殖させることが明らかとなった。
【0048】
上記方法において用いられる、本発明にかかるヒトリンパ球およびγδT細胞の使用量、インターロイキン2、インターロイキン18およびリン酸化合物の使用量は特に限定されるものではない。例えば、本発明にかかるヒトリンパ球の濃度が2.5×10個/ml〜1×10個/mlであり、γδT細胞の濃度が2.5×10個/ml〜1×10個/mlである培地に、IL−2を最終濃度が5〜10ng/ml、IL−18を最終濃度が50〜100ng/ml、リン酸化合物を最終濃度が0.1〜5.0μMとなるように添加することが好ましい。
【0049】
上記リン酸化合物としては、ゾレドロネート、2−エチル−3−ブテニルピロリン酸、イソペンテニルピロリン酸などを用いることができ、ゾレドロネートであることが好ましい。また、上記リン酸化合物と反応するγδT細胞はVγ9Vδ2T細胞であるが、γδT細胞からVγ9Vδ2T細胞のみを分離して刺激する必要はないため、刺激対象としてはγδT細胞を用いれば十分である。Vγ9Vδ2T細胞のみを刺激対象としてもよい。
【0050】
培養温度、培養時間は特に限定されるものではないが、本発明にかかるヒトリンパ球、γδT細胞、通常、摂氏37℃、5%CO存在下で培養し、3−5日おきに新鮮な培地とIL−2、IL−18およびリン酸化合物とを追加しながら10−14日間培養することが好ましい。
【0051】
γδT細胞の増殖は、例えば本発明にかかるヒトリンパ球とのクラスターの形成を顕微鏡等によって観察すること等によって確認することができる。また、抗γδT細胞レセプター抗体や抗Vγδ2T抗体等を結合させたマグネティックビーズを用いる方法等によって、必要に応じて上記クラスターからγδT細胞を分離することができる。
【実施例】
【0052】
(1.実験方法)
以下の実施例において用いた試薬類および実験方法は下記のとおりである。
【0053】
<試薬類>
組換えヒトIL−18は、Glaxo-SmithKline社製、IL−2はR&D Systems社製、ゾレドロネートはNovartis Pharma社製のものを用いた。
【0054】
2−エチル−3−ブテニルピロリン酸(以下、2M3BPPと称する。2M3BPPはイソペンテニルピロリン酸のアナログである。)は、trichloroacetonitrile (Wako Pure Chemicals Co., Ltd. Osaka)の存在下で2-methyl-3-buten-1-ol (Sigma Chemical Co., St. Louis, MO, U.S.A.) とditriethylammonium phosphate (Nacalai Tesque, Osaka, Japan)とを反応させることにより、化学合成した。
【0055】
中和抗IL−18レセプター抗体(抗IL−18Rα、α鎖クローン:70625.1111)および、ビオチニル化した抗IL−18Rα抗体およびビオチニル化した抗IL−18Rβ抗体は、R&Dシステム Inc.(ミネアポリス、MN)から購入した。
【0056】
ヒトAB血清は、GemCell(登録商標、US Gemini, バイオプロダクツ)から購入した。CD3(クローン:HIT3a)、γδ−T細胞レセプター(Cat:555716)、Vδ2(Cat:555738)、CD11a(クローン:H111)、CD18(クローン:TS1/18)、CD11c(クローン:3.9)、CD25(クローン:MEM−181)、CD28(クローン:CD28.2)、CD56(クローン:MEM−188)、CD40(クローン:HB14)、CD40L(クローン:24−31)、CD54(クローン:MEM−111)、CCR5(CD195,クローン:T21/8)、CCR7(CD197,クローン3D12)、CD80(クローン:2D10)、CD83(クローン:HB15e)、CD86(クローン:IT2.2)、CD122(Cat:554522)およびHLA−DR(クローン:L243)に対する標識抗体は、すべてBD PharMingen(サンホセ、CA,USA)より購入した。
【0057】
NKG2D−APCはIOTest Beckman Coulter Company(フランス、マルセイユ)より購入した。
【0058】
<細胞の調製および培養>
ヒト末梢血単核球(PBMCs)は、健康なドナー(25歳〜40歳)の血液から、室温(摂氏25℃)で、スイングローターTS−7(トミー精工)を用い、Ficoll−Hypaque密度勾配遠心法によって分離した。PBMCsは、ストレプトマイシン、ペニシリン、グルタミン酸、および5%AB血清を添加したAlyS505N−O培地(Iscov MEMをベースにした無血清培地。(株)細胞科学研究所製)中で、37℃、5%CO雰囲気下で培養した。
【0059】
CD3を発現しているヒトリンパ球、CD56を発現しているヒトリンパ球、CD11cを発現しているヒトリンパ球、またはCD14を発現しているヒトリンパ球のPBMCsからの除去は、CD3に対する抗体、CD56に対する抗体、CD11cに対する抗体またはCD14に対する抗体を結合させたマイクロビーズ(Miltenyi Biotec Inc. Auburn, CA95603, USA)を充填したLDカラムを用いて行った。生細胞はトリパンブルー色素排除試験によって解析し、細胞の組成はフローサイトメトリーによって解析した。
【0060】
<フローサイトメトリー>
CD3、γδ−T細胞レセプター、Vδ2、CD11a、CD18、CD11c、CD25、CD28、CD40、CD40L、CD56、CD80、CD83、CD86、CD122、HLA−DR、NKG2D、IL−18Rα、IL−18Rβのそれぞれに対する、FITC、PE、APCおよびビオチンによって標識した抗体によって、細胞を4℃で20分間染色し、フローサイトメーター(使用装置: BECTON DICKINSON, FACS Calibur)を用いて解析した。データはCell Questソフトウェア(BDバイオサイエンス製)を用いて解析した。
【0061】
<DELFIA法による細胞障害活性の測定>
細胞障害活性は、DELFIA EuTDA細胞障害活性試薬(登録商標、PerkinElmer製)を用いて測定した。該試薬は、蛍光を増強するリガンドであるBATDAを加水分解させ、親水性リガンドであるTDAを細胞内部に形成させる試薬である。ターゲット細胞としては、NK細胞のターゲット細胞として知られるK562細胞を用いた。K562細胞は、フェノールレッドを含有せず、2%FCSを含有するRPMI1640培地中で、1×10cells/wellとなるように96穴プレートに播種した。エフェクター細胞は、後述する実施例3で用いた「CD3陽性細胞を除去したPBMCs」2.5×10個/ml〜1×10個/mlを、IL−2(10ng/ml)およびIL−18(50ng/ml)によって刺激することによって誘導した。エフェクター細胞は、エフェクター細胞の細胞数とターゲット細胞の細胞数との割合が3:1、10:1、または30:1となるように培養系に添加し、さらに3時間培養した。
【0062】
培養上清を回収し、DELFIA ユーロピウム溶液と混合した。ユーロピウムと親水性リガンド(TDA)とは、上清中で、強い蛍光を発し、安定なキレート(EuTDA)を形成し、EuTDAは蛍光シグナルを測定することによって定量した。特異的な細胞障害活性を、以下の式1に従って求めた。
【0063】
特異的な細胞障害活性(%)=(サンプルの蛍光強度−自発的に発せられる蛍光の強度)/(蛍光強度の最高値−自発的に発せられる蛍光の強度)×100%・・・(1)
<サイトカインのアッセイ>
IFN−γ、TNF−α、CCL21は、ELISA法を用いてアッセイした(使用装置:BioLegend製ELISAキット)。
【0064】
<統計分析>
データは、平均値±標準偏差で表し、スチューデントのT検定またはボンフェローニの多重比較を用いて解析した。p<0.05で有意差ありとした。
【0065】
〔実施例1〕
<PBMCs中のγδT細胞の増殖および本発明にかかるヒトリンパ球の増殖に対するIL−18の効果>
5%のヒトAB型血清を含有するPRMI1640培地にゾレドロネートまたはイソペンテニルピロリン酸(IPP)を最終濃度1μMとなるように加え、IL-2(最終濃度5ng/ml)、または、IL−2およびIL−18(IL−2の最終濃度5ng/ml、IL−18の最終濃度50ng/ml)を添加した培養液に、健康なドナーから調製したPBMCsを2.5×10〜1×10個/mlとなるようにサスペンドした。図3の(a)に示すように、γδT細胞は上記PBMCs中に約2%含まれている。
【0066】
COインキュベーター中で、5%CO存在下、摂氏37℃で培養し、細胞が過剰増殖しないよう(培養液の色が黄色くならないよう)3−5日おきに、培養開始時に用いた上記培地の3−5倍量の新鮮な培地に、上記の濃度になるようにゾレドロネートもしくは2M3BPPと、IL−2とを添加した培養液、または、ゾレドロネートもしくは2M3BPP、並びにIL−2およびIL−18を添加した培養液を追加しながら14日間培養した。
【0067】
増殖したγδT細胞の解析は、細胞表面で発現されている抗原に対する標識抗体を用いてフローサイトメトリー法によって解析し(使用装置: BECTN DICKINSON, FACSCalibur)、γδT細胞が細胞全体に占める割合と全体の細胞数から、γδT細胞の絶対数を算出した。
【0068】
図1は、γδT細胞の増殖に対するIL−18の効果を示すものである。IL−2およびゾレドロネート、または、IL−2および2M3BPPによって刺激したPBMCsを黒塗りのグラフで表しており、さらにIL−18を添加して刺激したPBMCsを白抜きのグラフで表している。また、IL−18の代わりに抗IL−18R抗体(2μg/ml)を添加して刺激したPBMCsを、斜線のグラフで表している。縦軸はγδT細胞の絶対数を表している。γδT細胞の絶対数は、生細胞の数から計算し、γδT細胞の割合はフローサイトメトリーによって解析した。図中、**はp<0.001であることを示す。
【0069】
図2は、刺激後のPBMCsの写真であり、(a)はIL−2およびゾレドロネートで刺激したPBMCsの写真、(b)はIL−2,ゾレドロネートおよびIL−18で刺激したPBMCsの写真を示す。上記写真は、刺激剤を添加して14日間培養したうちの培養5日目に、ニコンデジタルサイトTE300−HM−2(倍率10倍)によって撮影したクラスターの写真であり、Lumina Vision ソフトウェアによって解析したものである。
【0070】
図1より、IL−18は、IL−2およびZOLによって刺激したγδT細胞の増殖を顕著に(3000〜8000倍に)高めたことが分かる。また図2より、IL−18は、γδT細胞のクラスター形成をラフに促進することが確認された。
【0071】
IL−18の代わりに、培養系に抗IL−18R抗体を添加すると、γδT細胞の増殖の顕著な減少が見られた(図1)。IL−18は、IL−2および2M3BPPによって誘導される増殖も促進した(図1)。図1に示す結果は、IL−18が抗原提示の状態に関わらず、γδT細胞を刺激することを示唆している。
【0072】
図3は、IL−2、IL−18およびゾレドロネートの刺激によるγδT細胞の増殖の様子を示す図である。横軸はCD3の発現強度、縦軸はγδT細胞レセプターの発現強度を表す。PBMCsをIL−2、IL−18およびゾレドロネートの存在下で14日間培養し、CD3およびγδT細胞レセプターの発現を解析した。図3の(a)に示すように、健康なボランティアから得たPBMCsは、2%しかγδT細胞を含んでいなかった。しかし、図3の(b)に示すように、IL−2、IL−18およびゾレドロネートの存在下で14日間培養した後は、γδT細胞は細胞全体の74%を占め、残りは殆ど非T細胞であった。
【0073】
図4は、刺激前(図中、「day0」と記載)および、14日間刺激後のPBMCs(図中、「day14」と記載)における、CD11c、CD3、およびCD56の発現を解析した結果を示すものである。図4(a)〜(c)において、CD3CD11c細胞(CD3の発現強度が10〜102.3と弱く、CD11cの発現強度が10〜10である細胞)を枠囲みしており、上記枠囲みした細胞におけるCD56の発現を、それぞれ(d)〜(f)に示している。図4(a)〜(c)の横軸はCD3の発現強度を、縦軸はCD11cの発現強度を表す。図4(d)〜(f)の横軸はCD56の発現強度を表し、縦軸はCD56を発現した細胞の数を表している。なお、本明細書において、「発現強度」とは、フローサイトメトリーで測定した蛍光強度をいう。フローサイトメトリーの条件としては、Becton-Dickinson immunocytometry systems, 1995.に記載されている条件を用いた。
【0074】
培養初期には、αβT細胞がT細胞の大部分を占めたが、10日間で殆ど消滅した。刺激前のPBMCsは、CD3CD11c細胞を4.8%含んでいた(図4の(a))。図4の(d)のintと記載された部分に示すように、CD3CD11c細胞の約半数は、CD56の発現強度が中間レベルであった。
【0075】
IL−2およびゾレドロネートによって刺激した後のPBMCsは、図4の(b)に示すように、CD3CD11c細胞を8.8%含んでおり、図4の(e)のintと記載された部分に示すように、CD3CD11c細胞の多くは、CD56の発現強度が中間レベルであった。
【0076】
一方、IL−2、ゾレドロネートおよびIL−18によって刺激した後のPBMCsは、図4の(C)に示すように、CD3CD11c細胞を22.2%含んでおり、当該CD3CD11c細胞では、図4の(f)のbrightと記載された部分に示すように、発現強度が10以上であるCD56の占める割合が顕著に増加していた。つまり、CD56の発現強度が10以上であり、かつ、CD11cの発現強度が10〜10であるヒトリンパ球(以下、ヒトリンパ球Aと称する)が顕著に増殖したことが明らかとなった。表1は、CD3CD11c細胞において、CD56の発現強度が101.5以上であるヒトリンパ球(以下、本実施例においてCD56細胞aとも称する。図4の(d)〜(f)において「CD56(+)」と示した部分。)の数が占める割合を「CD56(+)」と表し、上記ヒトリンパ球A(図4の(d)〜(f)において「bright」と示した部分)の数が占める割合を「CD56bright」と表したものである。
【0077】
【表1】

【0078】
刺激前(表中、「刺激前」と記載)は、CD3CD11c細胞に占めるヒトリンパ球Aの割合は8.50%であり、IL−2およびゾレドロネートによって14日間刺激した場合(表中、「IL−2+ZOL」と記載)は18.53%であったが、IL−2、ゾレドロネートおよびIL−18によって14日間刺激した場合(表中、「IL−2+ZOL+IL−18」と記載)は、58.80%にまで増加した。つまり、IL−2、ゾレドロネートおよびIL−18によって刺激されたPBMCsにおいて、上記ヒトリンパ球Aの数が約13%を占めていたことになる。
【0079】
図5は、上記ヒトリンパ球Aの細胞数が、γδT細胞の細胞数と並行して増加することを示したものであり、(a)、(b)はIL−2およびゾレドロネートによってPBMCsを刺激した場合、(e)、(f)はIL−2、ゾレドロネートおよびIL−18によってPBMCsを刺激した場合の、γδT細胞の増加の様子を示す。縦軸は細胞数を表す。また、(c)、(d)はIL−2およびゾレドロネートによってPBMCsを刺激した場合、(g)、(h)はIL−2、ゾレドロネートおよびIL−18によってPBMCsを刺激した場合の、上記ヒトリンパ球Aの増加の様子を示す。細胞数は、図1について上述したのと同じ方法で計算した。IL−18の代わりに中和抗体を添加すると、γδT細胞の増殖と同様に、ヒトリンパ球Aの増殖も停止した(データ示さず)。
【0080】
〔実施例2〕
<CD56陽性、CD11c陽性、またはCD14陽性のヒトリンパ球を除去した場合の、本発明にかかるヒトリンパ球の増殖およびγδT細胞の増殖>
本実施例では、γδT細胞の増殖に対するアクセサリー細胞の関与について検討した。γδT細胞の数は加齢に伴い減少するので、40歳以下のヒトから得たPBMCsを実験に用いた。
【0081】
図6は、CD56の発現強度が10〜10であるヒトリンパ球(本実施例において「CD56細胞b」と称する)、CD11cの発現強度が10〜10であるヒトリンパ球(本実施例において「CD11c細胞」と称する)、またはCD14の発現強度が10以上であるヒトリンパ球(本実施例において「CD14細胞」と称する)を除去したPBMCsを、IL−2およびゾレドロネート、または、IL−2、ゾレドロネートおよびIL−18で刺激した場合の、本発明にかかるヒトリンパ球の増殖およびγδT細胞の増殖の様子を示すものである。
【0082】
図中、(a)〜(c)はPBMCs、(d)〜(f)はCD56細胞bを除去したPBMCs、(g)〜(i)はCD11c細胞を除去したPBMCs、(j)〜(l)はCD14細胞を除去したPBMCsについて、それぞれ、CD3の発現強度を横軸に、γδT細胞、CD56またはCD11cの発現強度を縦軸に取り、フローサイトメトリーの測定結果を示したものである。
【0083】
図中、(m)、(n)はPBMCs、(o),(p)はCD56細胞bを除去したPBMCs、(q),(r)はCD11c細胞を除去したPBMCs、(s),(t)はCD14細胞を除去したPBMCsについて、それぞれ、刺激前(図中、「day0」と記載)および刺激後14日目(図中、「day14」と記載)のヒトリンパ球AおよびγδT細胞の細胞数を縦軸にとって表したものである。
【0084】
刺激後14日目に、生細胞数および表面抗原をフローサイトメトリーによって解析した。刺激後14日目の、ヒトリンパ球Aの細胞数およびγδT細胞の細胞数は、PBMCsの総数と、ヒトリンパ球またはγδT細胞が上記総数に占める割合に基づき算出した。
【0085】
刺激前のPBMCsは、γδT細胞を約2.6%、CD56細胞bを5.8%、CD11c細胞を24.7%、CD14細胞を15%含んでおり(図6の(a)〜(c))、IL−2、IL−18およびゾレドロネートによる刺激後は、図6の(m)、(n)に示すように、上記ヒトリンパ球AおよびγδT細胞が顕著に増殖した。刺激の方法は実施例1と同様である。
【0086】
CD56細胞bを刺激前にPBMCから除くと、γδT細胞の増殖と上記ヒトリンパ球Aの増殖は見られなくなった(図6の(o)、(p))。同様に、CD11c細胞またはCD14細胞をPBMCから除くと、γδT細胞および上記ヒトリンパ球Aの増殖が見られなくなった(図6の(g)〜(t))。CD56細胞bを除去したPBMCsは、図6の(f)に示すように、CD56細胞bを含まないCD11c細胞を15%含み、図6の(d)に示すように、γδT細胞を3.4%含んでいた。
【0087】
一方、CD11c細胞またはCD14細胞を除去したPBMCは、それぞれ3.3%(図6の(g))、3.7%(図6の(j))のγδT細胞の他に、CD11cを含まないCD56細胞bをそれぞれ4.1%(図6の(h))、5.5%(図6の(k))含んでいた。
【0088】
図6の(p)、(r)、(t)に示すように、γδT細胞はCD56細胞b、CD11c細胞またはCD14細胞を除去したPBMCs中では殆ど増殖することはできなかった。このことは、CD11cを含まないCD56細胞b、または、CD56細胞bを含まないCD11c細胞のみではγδT細胞の増殖を促進することはできないことを示唆している。一方、後述するように、上記ヒトリンパ球Aのうち、IL−2およびIL−18によって刺激されてなる細胞(つまり、本発明にかかるヒトリンパ球)は、γδT細胞の増殖を促進することができる。それゆえ、γδT細胞の増殖を促進するためには、少なくともIL−2およびIL−18によって刺激されてなり、CD56の発現強度が10以上であり、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であるヒトリンパ球であることが必要であると考えられる。
【0089】
〔実施例3〕
<(3)CD3陽性細胞を除去したPBMCsにおける、本発明にかかるヒトリンパ球のIL−18による増殖>
上記ヒトリンパ球Aの細胞数がγδT細胞の細胞数と並行して増加する現象(図5)は、一方の細胞が他方の増殖を助けているか、相互に増殖を促進しあっているか、ということを示唆しているため、以下の実験において検討した。
【0090】
まず、上記ヒトリンパ球Aの増殖に対する、CD3陽性細胞除去の効果を検討した。図7は、CD3の発現強度が102.3を超える細胞(以下、本実施例において「CD3陽性細胞」と称する)を除去したPBMCsを、IL−2およびゾレドロネート、または、IL−2、ゾレドロネートおよびIL−18の存在下で培養した場合における上記ヒトリンパ球Aの増殖を示すものである。なお、本明細書において、CD3の発現強度が102.3を超えることを「CD3陽性」、CD3の発現強度が10以上102.3以下であることを「CD3陰性」とも称する。CD3陽性細胞を除去したPBMCsのCD3発現強度は、10以上102.3以下である。
【0091】
CD3陽性細胞を除去するとγδT細胞の増殖が阻害されたが、CD3陽性細胞を除去したPBMCsを、IL−2およびゾレドロネート、または、IL−2、ゾレドロネートおよびIL−18によって刺激すると、図7の(b)、(c)で枠囲みした範囲に示すように、上記ヒトリンパ球Aが増殖した。この結果は、上記ヒトリンパ球AがT細胞とは独立して増殖できることを示しており、上記ヒトリンパ球AとγδT細胞とは、相互に増殖を促進しあう関係にはないことを示唆している。
【0092】
図8は、種々のサイトカイン、またはサイトカインおよびゾレドロネートの存在下で、CD3陽性細胞を除去したPBMCsを培養し、刺激前、培養5日後、培養8日後における生細胞数を測定した結果を示すものである。
【0093】
図8に示すように、培地からゾレドロネートを除去しても、CD3陽性細胞を除去したPBMCsの増殖に対する影響はなく、CD3陽性細胞を除去したPBMCsの数は、IL−2およびIL−18の刺激のみによって、8日間で5倍以上に増加した。
【0094】
図9は、CD3陽性細胞を除去したPBMCsを、IL−2、IL−2およびIL−18、または、GM−CSFおよびIL−4によって刺激し、上記ヒトリンパ球Aの増殖について検討した結果を示すものである。
【0095】
上記ヒトリンパ球Aが、CD3陽性細胞を除去したPBMCsに占める割合は、培養開始時(刺激前)には2〜4%であった(図7の(a))。IL−2およびゾレドロネート、または、IL−2、ゾレドロネートおよびIL−18によって刺激すると、刺激8日後には、上記ヒトリンパ球Aは、CD3陽性細胞を除去したPBMCsのそれぞれ約65%、約60%を占めていた(図7の(b)、(c))。上記ヒトリンパ球Aのうち、少なくともIL−2およびIL−18によって刺激したヒトリンパ球が、本発明にかかるヒトリンパ球に該当する。
【0096】
図9に黒塗りのグラフで示すように、本発明にかかるヒトリンパ球は、ゾレドロネートが存在しなくても増殖することができ、IL−2およびIL−18の刺激によって、細胞数が刺激前の150倍に増加した。
【0097】
図10は、CD3陽性細胞を除去したPBMCsにおけるCD14の発現が培養前後で変化する様子を示すものである。CD3陽性細胞を除去したPBMCs中の、CD11cを強く発現している細胞は、図10の(a)に示すように、CD14を強く発現している。しかし、CD3陽性細胞を除去したPBMCsをIL−2、または、IL−2およびIL−18によって10日間刺激した後に得られた上記ヒトリンパ球A(図10の(b)および(d)の枠囲みした細胞)には、図10の(d)および(e)に示すように、CD14は殆ど見られなかった。
【0098】
図11は、樹状細胞の誘導のために一般的に用いられるIL−4およびGM−CSFが上記ヒトリンパ球Aの増殖を促進できるか否かを検討した結果を示すものである。IL−4およびGM−CSFを、CD3陽性細胞を除去したPBMCsの培養系に加えた場合、図11の(b)〜(e)に示すように、樹状細胞に一般的に見られる分子、例えばCD14、CD80、CD86およびCD83の発現が見られるようになったが、上記ヒトリンパ球Aは増加しなかった(図11の(a)、図9)。
【0099】
〔実施例4〕
<本発明にかかるヒトリンパ球の特徴に関する検討>
本実施例では、上記ヒトリンパ球Aの特徴を調べた。図12は、CD3陽性細胞を除去したPBMCsをIL−2、または、IL−2およびIL−18で10日間刺激し、表面分子の発現の変化について検討した結果を示すものである。
【0100】
図12の(a)は、CD3陰性であって、CD56の発現強度が10以上であり、かつ、CD11cの発現強度が10〜10である、PBMCsから調製したヒトリンパ球(図12の(a)の上段に示す最も左の図において、2〜4%を占めている細胞。刺激を受けていないヒトリンパ球A。)の表面分子をフローサイトメトリーによって解析した結果を示している。図12の(b)は、刺激を受けていないヒトリンパ球AをIL−2によって10日間刺激することによって得られたヒトリンパ球(図12の(b)の上段に示す最も左の図において、65%を占めている細胞)の表面分子をフローサイトメトリーによって解析した結果を示している。
【0101】
図12の(c)は、刺激を受けていないヒトリンパ球AをIL−2およびIL−18によって10日間刺激することによって得られたヒトリンパ球(図12の(c)上段の最も左の図において、60%を占めている細胞)の表面分子をフローサイトメトリーによって解析した結果を示している。上記ヒトリンパ球が、本発明にかかるヒトリンパ球である。
【0102】
刺激を受けていないヒトリンパ球Aは、図12の(a)に示すように、IL−18レセプターαおよびIL−18レセプターβを発現しており、NK細胞関連分子であるCD122およびNKG2Dを発現していた。さらに、HLA−DR,CD11a/CD18(LFA−1)のような、樹状細胞に関連する抗原を発現しており、CD86は検出されないが、CD80およびCD83を低強度で発現していた。
【0103】
IL−2、または、IL−2およびIL−18によって刺激されたヒトリンパ球Aは、IL−18レセプターαおよびIL−18レセプターβを発現していた(図12の(b)、(c))。IL−18はCD25の発現を強くアップレギュレートし、CD122の発現を強くダウンレギュレートした(図12の(c))。IL−2およびIL−18によって刺激されたヒトリンパ球Aは、HLA−DRおよびCD11a/CD18(LFA−1)と同様に、CD80、CD83、CD86のような、樹状細胞上に検出される分子を発現しており、特にCD86を強く発現した(図12の(c))。
【0104】
一方、IL−2のみによって刺激されたヒトリンパ球Aでは、IL−2およびIL−18によって刺激した場合のように、CD25の発現の強いアップレギュレート、CD122の発現の強いダウンレギュレートは見られず、CD86の発現は殆ど見られなかった(図12の(b))。なお、図12の(a)〜(c)において、フローサイトメトリーの結果を示す3つの図の横軸および縦軸は発現強度を示している。それ以外の図の横軸は発現強度を示し、縦軸は細胞数を示している。
【0105】
表2は、図12の(a)〜(c)に示される表面抗原のうち、CD25、CD122、NKG2D、HLA−DRおよびCD86について、それぞれの表面抗原を発現しているヒトリンパ球Aがヒトリンパ球Aの総数に占める割合、および、それぞれの表面抗原の発現強度が10以上であるヒトリンパ球Aがヒトリンパ球Aの総数に占める割合(4回の実験の平均値)を示したものである。
【0106】
【表2】

【0107】
表2に示すように、IL−2およびIL−18の刺激によって、CD25、HLA−DR、CD86、NKG2Dの発現強度が、刺激前や、IL−2のみで刺激した場合と比べて著しく増強され、いずれも、これらの表面抗原の発現強度が10以上であるヒトリンパ球Aが、ヒトリンパ球Aの総数の80%以上を占めていた。また、CD122の発現は著しく低下し、CD122を発現しているヒトリンパ球Aは、ヒトリンパ球Aの総数の10%以下となっていた。
【0108】
ヒトリンパ球Aは、樹状細胞に特有な表面抗原であるHLA−DRおよびCD86と、NK細胞に特有な表面抗原であるNKG2Dとを強く発現していたため、樹状細胞およびNK細胞の特徴を併有するリンパ球であると言える。なお、NKG2Dの発現強度が102.3以上と極めて高いヒトリンパ球Aが、ヒトリンパ球Aの総数の38.58%を占めていた。
【0109】
図12の(c)と、図11との比較から分かるように、上記ヒトリンパ球Aにおける表面抗原の発現は、GM−CSFおよびIL−4によって誘導した樹状細胞における表面抗原の発現とは異なっていた。図示していないが、上記ヒトリンパ球AはCD14を発現していなかった。
【0110】
〔実施例5〕
<本発明にかかるヒトリンパ球によって生産されたサイトカインおよびケモカイン、ならびに本発明にかかるヒトリンパ球の細胞障害活性に関する検討>
実施例3で用いた「CD3陽性細胞を除去したPBMCs」を、GM−CSFおよびIL−4、IL−2、IL−2およびIL−18、IL−2および抗IL−18Rα抗体またはIL−18の存在下で6日間培養し、培養上清中のサイトカインおよびケモカインのプロファイルを検討した。IL−2およびIL−18の存在下で培養した上記PBMCsは、本発明にかかるヒトリンパ球を60%含有していた。
【0111】
図13は、上記培養上清中に産生されたサイトカインおよびケモカインと、IL−2およびIL−18の存在下で培養した上記PBMCsの細胞障害活性とを示す図である。図13の(a)および(b)に示すように、IL−2およびIL−18の存在下で培養した上記PBMCsは、IFN−γおよびTNF−αの産生能が非常に高いことが分かった。また、図13の(c)に示すように、ケモカインであるCCL−21を産生することも確認された。
【0112】
サイトカインおよびケモカインのこのような産生態様は、NK細胞および樹状細胞が示す産生態様に類似している。また、本発明にかかるリンパ球は、上述のように、樹状細胞およびNK細胞の特徴を併有するリンパ球である。よって、IL−2およびIL−18の存在下で培養した上記PBMCsが示した、非常に高いサイトカイン産生能と、CCL−21の産生能とは、本発明にかかるリンパ球に起因するものであると考えられる。
【0113】
IL−2およびIL−18の存在下で培養した、CD3陽性細胞を除去したPBMCsの65%がNKG2Dを強く発現していたため(図12の(c))、IL−2およびIL−18の存在下で培養した上記PBMCsが、K562細胞に対する細胞障害活性を示すかどうかについても検討した。結果を図13の(d)に示す。
【0114】
エフェクター細胞(図中、「E」と表示)として、IL−2およびIL−18の存在下で培養した上記PBMCsを、ターゲット細胞(図中、「T」と表示)としてK562細胞を用い、(1.実験方法)で説明した方法によって細胞障害活性を測定した。その結果、図13の(d)に示すように、IL−2およびIL−18の存在下で培養した上記PBMCsは強い細胞障害活性を示し、本発明にかかるヒトリンパ球が強い細胞障害活性を有することが明らかとなった。なお、IL−2およびIL−18の存在下で培養した、CD3陽性細胞を除去したPBMCsからはT細胞が除去されており、残りの細胞は殆どが本発明にかかるヒトリンパ球であるため、上記細胞障害活性は、本発明にかかるヒトリンパ球によるものであると言える。
【0115】
〔実施例6〕
<γδT細胞の増殖に対する本発明にかかるヒトリンパ球の効果>
γδT細胞に対する本発明にかかるヒトリンパ球の直接的な作用について検討した。図14はγδT細胞上の共刺激分子の発現を示すものである。γδT細胞の表面分子は、フローサイトメトリーによって解析した。
【0116】
ヒトリンパ球AはCCL−21を分泌し(図13の(c))、IL−2、IL−18およびゾレドロネートを用いてPBMCsを刺激して得られたγδT細胞はケモカインのレセプターであるCCR5およびCCR7を発現していた(図14)。そこで、上記ヒトリンパ球AがγδT細胞の移動を誘導する能力について検討した。
【0117】
走化性のアッセイは、24穴のトランスウェル・チャンバー(Costar製)に設けられた、ポアサイズ5μmのポリカーボネートのフィルターを通過するγδT細胞の移動を測定することによって行った。
【0118】
実施例3で用いた「CD3陽性細胞を除去したPBMCs」を、GM−CSFおよびIL−4(GM−CSFの最終濃度5ng/ml、IL−4の最終濃度20ng/ml)、IL−2(最終濃度5ng/ml)、IL−2、IL−18および抗CD86抗体(IL−2の最終濃度5ng/ml、IL−18の最終濃度50ng/ml、抗CD86抗体の最終濃度5μg/ml)、または、IL−2およびIL−18(IL−2の最終濃度5ng/ml、IL−18の最終濃度50ng/ml)と共に8日間培養し、刺激した。
【0119】
刺激された細胞を、IL−2、IL−18およびゾレドロネートの存在下(IL−2の最終濃度5ng/ml、IL−18の最終濃度50ng/ml、ゾレドロネートの最終濃度1μM)で、下流側のチャンバーに入れ(2×10cells/0.6ml)、γδT細胞を上流側のチャンバーに入れた(2×10cells/0.1ml)。また、刺激された細胞の代わりに、移動のポジティブ・コントロールとして、CCL−21のみ(20ng/ml)を下流側のチャンバーに入れた系も設けた。なお、下流側のチャンバーに入れた上記IL−2、Il−18およびゾレドロネートは、上流側のチャンバーに入れたγδT細胞を活性化するために用いた。
【0120】
37℃で18時間培養後、下流側のチャンバーに移動したγδT細胞をトリパンブルー染色によって計数し、移動したγδT細胞の割合をフローサイトメトリーによって決定した。自発的に移動した細胞の数は、移動したγδT細胞の総数から差し引いた。移動した細胞の割合は、以下の式2に従い、γδT細胞の総数に対する割合として求めた。
【0121】
移動した細胞の割合(%)=(移動したγδT細胞の数−自発的に移動したγδT細胞の数)/γδT細胞の総数×100%・・・(2)
なお、自発的に移動したγδT細胞の数は、下流側のチャンバーに何もいれず、上流側のチャンバーに上記γδT細胞を入れて同じ実験を行い、上流側のチャンバーから減少した細胞数を数えることによって求めることができる。
【0122】
図15は、本発明にかかるヒトリンパ球がγδT細胞の移動を誘導する能力について検討した結果を示す図である。図15において、縦軸は、γδT細胞の総数に対する、移動したγδT細胞数の割合を示す。
【0123】
図15の黒塗りのグラフに示すように、γδT細胞は、IL−2およびIL−18によって刺激された、CD3陽性細胞を除去したPBMCs(本発明にかかるヒトリンパ球を65%含有している)を下流側チャンバーに入れた場合に最もよく下流側チャンバーへ移動した。
【0124】
この結果から、本発明にかかるヒトリンパ球から放出されたCCL−21によって、本発明にかかるヒトリンパ球とγδT細胞との直接的な相互作用が起こり、本発明にかかるヒトリンパ球とγδT細胞との接触が誘導されることが示唆された。
【0125】
次に、本発明にかかるヒトリンパ球はγδT細胞の増殖を助けることが示唆されたので(図6)、本発明にかかるヒトリンパ球が直接的な相互作用によってγδT細胞の増殖を促進するかどうかを調べた。
【0126】
図16は、本発明にかかるヒトリンパ球とγδT細胞とがクラスターを形成する様子を示すものである。実施例3で用いた、CD3陽性細胞を除去したPBMCsを、IL−2およびIL−18の存在下で8日間培養したところ、培養後の上記PBMCsには約70%の本発明にかかるヒトリンパ球が含まれることが確認された。そこで、新たに調製したPBMCsから精製されたγδT細胞を、培養後の上記PBMCsに、細胞数が1:1になるように加え、IL−2、IL−18およびゾレドロネートの存在下でさらに18時間培養し、クラスター形成を確認した。
【0127】
結果を図16の下段の左から三番目の写真に示す。図16の「GM−CSF+IL−4刺激」は、IL−2およびIL−18の代わりに、GM−CSFおよびIL−4を用いて上記「CD3陽性細胞を除去したPBMCs」を刺激した系を表し、「IL−2刺激」は、IL−2およびIL−18の代わりに、IL−2のみを用いて上記「CD3陽性細胞を除去したPBMCs」を刺激した系を表す。「γδT細胞なし」は、培養後の上記「CD3陽性細胞を除去したPBMCs」にγδT細胞を加えない系を表し、「γδT細胞」は、培養後の「CD3陽性細胞を除去したPBMCs」に、細胞数が1:1になるようにγδT細胞を加えた系を示す。下段の最も右の写真は、刺激を加えないγδT細胞の写真である。
【0128】
本発明にかかるヒトリンパ球は共刺激分子であるCD11a/CD18、CD40、CD80、CD83、CD86を発現し(図12の(c))、CCL−21をも産生する。一方、γδT細胞は、ケモカインレセプターであるCCR5およびCCR7と、上記共刺激分子に対応するリガンドを発現する(図14)。CD54はCD11a/CD18に、CD40LはCD40に、CD28はCD80、CD83、CD86に対応するリガンドである。
【0129】
図16に示すように、IL−2およびIL−18によって刺激した「CD3陽性細胞を除去したPBMCs」(本発明にかかるヒトリンパ球を約70%含む)を、γδT細胞と共に培養した場合に最も大きなクラスターが形成され、細胞は大幅に増殖した。これは、本発明にかかるヒトリンパ球が、CCL−21によってγδT細胞を誘引し、上記共刺激分子によってγδT細胞と接着し、さらにIL−2、IL−18およびゾレドロネートによって刺激されたことによると考えられる。このようなクラスターの形成と細胞増殖は、γδT細胞の増殖には、γδT細胞上のT細胞レセプターが刺激されることが必要であることを示している。
【0130】
以上の結果から、IL−2およびIL−18によって「CD3陽性細胞を除去したPBMCs」を刺激することによって誘導された本発明にかかるヒトリンパ球が、γδT細胞の増殖に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
【0131】
図17は、γδT細胞の増殖に対する、本発明にかかるヒトリンパ球の効果について検討した結果を示す図である。横軸は培養後の日数、縦軸は生細胞の数を表す。
【0132】
実施例3で用いた「CD3陽性細胞を除去したPBMCs」を、IL−2およびIL−18の存在下で8日間培養したところ、培養後の上記PBMCsには約70%の本発明にかかるヒトリンパ球が含まれることが確認された。新たに調製したPBMCsから精製されたγδT細胞を、培養後の上記PBMCsに、細胞数が1:1になるように加え(図17において「IL−2、IL−18刺激PBMCs+γδT細胞」と記載)、IL−2、IL−18およびゾレドロネートの存在下でさらに10日間培養した。上記「IL−2、IL−18刺激PBMCs+γδT細胞」の代わりに、非刺激PBMCs(図17において「PBMC」と記載)、γδT細胞(図17において「γδT細胞」と記載)、培養後の上記PBMCsにγδT細胞を加えないもの(図17において「IL−2、IL−18刺激PBMCs」と記載)を用いた場合の結果も示した。結果は3回同じ実験を行った平均値を記載した。培養10日後において、「IL−2、IL−18刺激PBMCs+γδT細胞」で最も細胞増殖が著しかった。よって、本発明にかかるヒトリンパ球をγδT細胞と共存させたときに、生細胞数が最もよく増加するといえる。
【0133】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明にかかるヒトリンパ球は、優れたサイトカイン産生能、細胞障害活性、およびγδT細胞増殖促進能を有している。また、本発明にかかるγδT細胞の増殖方法は、癌治療等に有効なγδT細胞を非常に効率よく増殖させることができる。したがって、本発明は、製薬業等の生化学関係の産業全般において広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともインターロイキン2およびインターロイキン18によって刺激されてなるヒトリンパ球であって、CD56の発現強度が10以上、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であり、上記発現強度はフローサイトメトリーによって測定したものであることを特徴とするヒトリンパ球。
【請求項2】
上記ヒトリンパ球の80%以上は、CD25の発現強度が10以上であることを特徴とする請求項1に記載のヒトリンパ球。
【請求項3】
上記ヒトリンパ球の80%以上は、HLA−DRの発現強度が10以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のヒトリンパ球。
【請求項4】
上記ヒトリンパ球の80%以上は、CD86の発現強度が10以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のヒトリンパ球。
【請求項5】
上記ヒトリンパ球は、CD122を発現しているヒトリンパ球の数が、全細胞数の10%未満であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のヒトリンパ球。
【請求項6】
ヒトリンパ球の製造方法であって、上記ヒトリンパ球は請求項1から5のいずれか1項に記載のヒトリンパ球であり、
少なくともインターロイキン2およびインターロイキン18によって、CD3の発現強度が10以上102.3以下であり、かつ、CD11cの発現強度が10以上10以下であるヒトリンパ球を刺激する工程を含むことを特徴とする、ヒトリンパ球の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載のヒトリンパ球と、γδT細胞とを、インターロイキン2、インターロイキン18およびリン酸化合物を用いて刺激する工程を含むことを特徴とする、γδT細胞の増殖方法。
【請求項8】
上記ヒトリンパ球がケモカインを分泌しており、γδT細胞がケモカインレセプターを発現していることを特徴とする、請求項7に記載のγδT細胞の増殖方法。
【請求項9】
上記リン酸化合物は、ゾレドロネートであることを特徴とする、請求項7または8に記載のγδT細胞の増殖方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図14】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−250711(P2011−250711A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125140(P2010−125140)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【特許番号】特許第4748491号(P4748491)
【特許公報発行日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(506208908)学校法人兵庫医科大学 (12)
【出願人】(510151533)
【Fターム(参考)】