説明

新規プロモーターDNA及び該DNAを用いたタンパク質の生産方法

【課題】組換えタンパク質生産、好ましくはBrevibacillus属細菌を宿主細胞に用いた組換えタンパク質生産において利用可能なプロモーター活性を有する新規DNAの開発。
【解決手段】Brevibacillus choshinensisの液体培地での培養の際に分泌される分子量22kDの機能未知の新規タンパク質P22から、そのプロモーター領域(P22プロモーター)を分離したところ、P22プロモーターは新規であって高いプロモーター活性を有することを見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質生産、好ましくは、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞に用いた組換えタンパク質生産において利用可能なプロモーター活性を有する新規DNAに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換えによるタンパク質生産において、組換えタンパク質の生産量は様々な要素の影響を受ける。それらの要素の中でもプロモーターの活性は、特に重要な要素のひとつとして知られている。
【0003】
プロモーターとは、遺伝子DNAの上流に位置し、遺伝子DNAのmRNAへの転写、すなわち、遺伝子の発現に関与する連続した領域である。したがって、プロモーターの活性は、組換えタンパク質生産の最初の段階である組換えDNAの発現効率に直接影響する。そのため、これまでにも、組換えタンパク質の生産に用いられている大腸菌を初めとする様々な系において、プロモーターの検討による組換えDNAの発現効率の向上、及び、そのことによる組換えタンパク質の生産効率の向上が図られてきた。
【0004】
しかしながら、特にブレビバチルス(Brevibacillus)属細菌を宿主とする組換えタンパク質生産においては、利用されているプロモーターの種類はごく限られており、これまでプロモーターの検討による組換えDNAの発現効率の向上、更には、そのことによる組換えタンパク質の生産効率の向上はほとんど図られていなかった。
【0005】
ブレビバチルス属細菌を宿主とする組換えタンパク質生産において、これまで主に用いられてきたプロモーターは、ブレビバチルス属細菌の細胞壁タンパク質のプロモーター領域に由来するプロモーターである。ブレビバチルス属細菌の細胞壁タンパク質は培養時に大量に分泌生産され、そのプロモーター領域は強いプロモーター活性を有している。
【0006】
この細胞壁タンパク質のプロモーター領域に由来するプロモーターとして最も広く用いられているのは、バチルス・ブレビス47(Bacillus brevis 47) (FERM P−7224)(現在はブレビバチルス属に分類されている。)の細胞壁タンパク質遺伝子のプロモーター領域に由来するプロモーター(MWPプロモーター)である(非特許文献1)。このMWPプロモーターは、P1からP5の5つの個別のプロモーター配列を含む領域である。MWPプロモーターは、プロモーター領域全長、あるいは、必要に応じて、MWPプロモーターが含む5つのプロモーターの内、特にプロモーター活性が高いとされるP2プロモーターまたはP5プロモーターが単独で用いられている。
【0007】
また、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31(Brevibacillus choshinensis HPD31)(バチルス・ブレビスH102(FERM BP−1087)と同一菌株)の細胞壁タンパク質(HWP)遺伝子のプロモーター領域(HWPプロモーター)(特許文献1)も、プロモーター領域全長、あるいは、HWPプロモーターが含むプロモーターの内、プロモーター活性が高いとされるプロモーターが単独で用いられている。
【0008】
なお、原核生物においては、プロモーター領域上の−35領域及び−10領域と呼ばれる領域がプロモーター活性に必須な領域とされている。この−35領域は転写開始点の上流約35塩基対付近に存在し通常6から8塩基対からなる領域であり、また、-10領域は転写開始点の上流約10塩基対付近に存在する通常6から8塩基対からなる領域である。
【特許文献1】特開平3−094683号
【非特許文献1】J. Bacteriol., 169 (3), 1239-1245 (1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の通り、現在、ブレビバチルス属細菌を宿主とする組換えタンパク質生産に利用されているプロモーターの種類は、ごく限られている。
【0010】
一般に、プロモーターと発現されるDNAの間には相性があり、活性が強いプロモーターとして知られているものであっても、どのようなDNAに対しても強いプロモーター活性を示すわけではない。
【0011】
また、同一のDNAに対してであっても培養条件の違いによりプロモーター活性に変化が見られることも知られている。
【0012】
したがって、発現されるDNAの種類や培養条件に応じて、もっとも活性が強いプロモーターを用いることができるようにするためには、より多くの種類のプロモーターが利用可能である必要がある。
【0013】
また、プロモーターの活性は単に高いことのみが求められているわけではない。例えば、組換えタンパク質が宿主細胞に害を及ぼすものである場合に活性が強いプロモーターを用いた場合には、生産された組換えタンパク質により宿主細胞の生育が阻害されるため目的とするタンパク質が得られないなどの問題が生じる場合がある。このような場合には活性が比較的弱いプロモーターを用いて発現の好適化を図る必要があり、そのためにも異なった特性を有する多種類のプロモーターが利用可能である必要がある。
【0014】
以上に述べた理由などにより、特にブレビバチルス属細菌を宿主とする組換えタンパク質生産において利用可能な、新規のプロモーター活性を有するDNAの提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5(Brevibacillus choshinensis HPD31−S5)(Bacillus brevis HPD31−S5(FERM BP−6623)と同一菌株)を液体培地で培養した際に、培地中に大量に分泌される、分子量約22 kDの機能未知の新規タンパク質を発見した。本発明者は、このタンパク質をその分子量からP22と命名した。このP22タンパク質の分泌量は2日間の培養で約0.1g/lに達し、この分泌量は、ブレビバチルス・チョウシネンシスが分泌するタンパク質としては細胞壁タンパク質(HWP)に次ぐ量であることを見出した。
【0016】
そのため、本発明者は、このP22タンパク質は極めて大量に分泌生産されるタンパク質であることにはじめて着目し、そのプロモーター領域(P22プロモーター)は高いプロモーター活性を持っており、組換えタンパク質生産、特に、ブレビバチルス属細菌を宿主とする組換えタンパク質生産においてプロモーターとして利用可能ではないかとの観点にはじめてたった。
【0017】
そこで、本発明者は、P22プロモーターとブレビバチルス属細菌を宿主とする組換えタンパク質生産に、従来用いられていた主要なプロモーターとのプロモーター活性の比較評価を行い、本発明のP22プロモーターが、従来のプロモーターと同等かそれ以上のプロモーター活性を示すことをはじめて確認し本発明を完成させた。
【0018】
本発明は、新規プロモーター、特にブレビバチルス属細菌細胞内で高いプロモーター活性を示す新規DNAであるP22プロモーターを提供する。本プロモーターは、新規物質であって、その由来をブレビバチルス属細菌に求めることができる。
【0019】
また、本発明は、P22プロモーターを含有するベクターDNAを提供するものであって、高発現ベクターを提供するものである。
更に、P22プロモーター、及び、P22プロモーターがプロモーターとして機能する位置に組換えDNAを含有するベクターDNAを提供する。
【0020】
また更に、本発明は、該ベクターDNAを保持する原核生物細胞を提供する。原核生物としては、各種の原核生物が広く包含されるが、例えば、細菌、好ましくはグラム陽性細菌、更に好ましくは、ブレビバチルス属細菌(例えば、ブレビバチルス・チョウシネンシス)が例示される。
【0021】
また更に、本発明は、該原核生物細胞を培養する工程を含むタンパク質又はポリペプチドの生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の新規DNAであるP22プロモーターは、遺伝子組換えによるタンパク質生産においてプロモーターとして利用可能である。本プロモーターは、その活性の高いことが、実施例からも実証されており、本プロモーターを含有するベクターは高発現ベクターとしてきわめて有用である。
【0023】
特に、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞に用いた遺伝子組換えによるタンパク質生産において、本発明のP22プロモーターをプロモーターに用いることにより、組換えDNAの発現効率が向上あるいは好適化されるため、より一層効率的な組換えタンパク質またはポリペプチドの生産が可能になる。
【0024】
また、本発明によって、効率的なプロモーター活性の評価システムが新たに開発された。したがって、本発明は、新しいプロモーターを開発するのにも多大な貢献をなすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明のP22プロモーターの配列を配列番号1(図1)に示す。本発明のP22プロモーターは新規DNAであり、この配列番号1(図1)の配列と有意な相同性を有する配列は知られていない。また、本発明のP22プロモーターは、配列番号2(図2)に示す−35領域と推定される配列、及び、配列番号3(図3)に示す−10領域と推定されるDNA配列を有しており、−35領域と推定される配列と−10領域と推定される配列の間隔は17塩基対である。
【0027】
更に、配列番号1(図1)に記載のヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロモーター活性を示すDNAも本発明のP22プロモーターに包含される。前記のストリンジェントな条件とは、6M 尿素、0.4% SDS、0.5×SSCの条件、または0.1% SDS(60℃、0.3mol NaCl、0.03M クエン酸ソーダ)の条件、より好ましくは、6M 尿素、0.4% SDS、0.1×SSCの条件、あるいはこれらと同等の条件である。
【0028】
また更に、配列番号1のDNA配列に対して、1または複数のヌクレオチドが置換、欠失、付加、及び/または、挿入された配列からなり、かつ、プロモーター活性を示すDNAも本発明のP22プロモーターに包含される。前記の「1または複数のヌクレオシドが置換、欠失、付加、及び/または挿入された配列」とは、配列番号1(図1)のDNA配列と約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、最も好ましくは約90%以上の相同性を有するDNA配列を意味している。
【0029】
本発明のP22プロモーターは、そのDNA配列を元に、当業者に公知の標準的な遺伝子組換え技術を適宜、選択し、組み合わせて用いることにより得ることができる。例えば、ブレビバチルス属細菌、特には、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5のゲノムDNAライブラリーを作製し、このライブラリーに対して配列番号1で表されるDNA配列の一部を有するDNA断片をプローブとして用いたハイブリダイゼーション、もしくは、該DNA断片をプライマーとして用いたPCRを行うことにより調製することができる。あるいは、そのDNA配列を元に、当業者に公知の核酸化学合成法などによりP22プロモーターを得ることも可能である。これらの操作の具体的な方法としては、Molecular Cloning 2nd.Ed., A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory(1990)に記載の方法を例示することができる。
【0030】
P22プロモーターを含有するベクターDNAの作製は、通常は既存のベクターDNAにP22プロモーターを含むDNA断片を組み込むことで行う。P22プロモーターを組み込むベクターDNAが既にプロモーターとして機能する配列を含有している場合には、当該プロモーターを含む領域を削除した上でP22プロモーターを組み込む。
【0031】
P22プロモーターを組み込むベクターDNAは、宿主細胞内で安定に保持され増殖が可能なものであるならば特に限定されないが、特にブレビバチルス属細菌を宿主細胞に用いる場合には、特に好ましいものとして、これまでにブレビバチルス属細菌を宿主に用いた組換えタンパク質生産において利用実績があるStaphylococcus aureus由来のプラスミドpUB110(GenBank: NC_001565)またはBacillus brevis HP926由来のプラスミドpHT926(特開平6−133782号、GenBank: D43692)、あるいは、これらのプラスミドを元に必要に応じて改変を行ったベクターDNAを挙げることができる。
【0032】
また、P22プロモーターを含有するベクターDNAは、SD配列などの組換えDNAの発現を制御する配列、P22プロモーターの下流に組換えDNAを組み込むためのマルチクローニングサイトなどの適当な制限酵素切断部位、及び、ベクターDNAの宿主細胞への導入確認のために薬剤耐性遺伝子などの選択マーカーを含有していることが好ましい。
【0033】
なお、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞に用いた場合には、通常、生産されたタンパク質は宿主細胞内に蓄積されず細胞外の培地中に分泌されるため、P22プロモーターを含有するベクターDNAは、P22プロモーターの下流側に分泌シグナルをコードするDNAを含有する必要がある。該DNAがコードする分泌シグナルは宿主細胞内において機能するものであれば特に限定されないが、ブレビバチルス属細菌を宿主に用いる場合には、特に好ましいものとして、MWPの分泌シグナル部(J.Bacteriol., 169(3),1239−1245(1987))、または、HWPの分泌シグナル部(特開平3−094683)を例示することができる。
【0034】
P22プロモーターを含有するベクターDNAは、当業者に公知の標準的な遺伝子組換え技術を適宜、選択し組み合わせて用いることにより作製が可能である。具体的には、Molecular Cloning 2nd.Ed., A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory(1990))に記載の方法を例示することができる。
【0035】
また、P22プロモーターを含有するベクターDNAにおいて、P22プロモーターの下流に組み込むDNAは特に限定されない。例えば、サイトカイン、ケモカイン、酵素、ホルモンなどのタンパク質の遺伝子、もしくは、その他の任意のペプチドをコードするDNA断片などのいずれであってもよい。また、組換えDNAは、そのコードするタンパク質またはポリペプチドの取得を目的としないものであっても構わない。
【0036】
更に、生産された組換えタンパク質の用途も特に限定されない。その用途は医薬品、生化学試薬、産業用酵素などのいずれであってもよい。
【0037】
P22プロモーターを含有するベクターDNAへの組換えDNAの組み込みは、当業者が通常用いる一般的な方法により行うことが可能である。例えば、精製したDNAを適当な制限酵素で処理することにより得たDNA断片をベクターDNAのマルチクローニングサイトなどの適当な制限酵素切断部位に挿入するなどの方法により可能である。なお、P22プロモーターの下流に組み込む組換えDNAは、P22プロモーターが組換えDNAに対してプロモーターとして機能する位置に連結する必要がある。
【0038】
更に、P22プロモーターを含有し組換えDNAが組み込まれたベクターDNAを宿主細胞に導入し、宿主細胞の形質転換体を作製することが可能である。
【0039】
該ベクターDNAを導入する宿主細胞としては、その細胞内で、P22プロモーターがプロモーターとして機能するものであれば特に限定されないが、通常は原核生物、好ましくは細菌であり、より好ましくはグラム陽性細菌であり、更に好ましくはブレビバチルス属細菌であり、より一層好ましくは、ブレビバチルス・チョウシネンシスである。また、ブレビバチルス・チョウシネンシスの中でも、特に好ましい菌株としてブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31(FERM BP−1087)、及び、その変異株であるブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5(FERM BP−6623)を例示することができる。
【0040】
更に、宿主細胞に該ベクターDNAを導入する方法も特に限定されないが、特に、宿主細胞にブレビバチルス属細菌を用いる場合には、特に好ましい導入方法としてエレクトロポレーション法を挙げることができる。
【0041】
また更に、該形質転換された宿主細胞を培養することによる組換えタンパク質またはポリペプチドの生産は、該形質転換された宿主細胞を適当な培地で培養し、培養終了後、生産されたタンパク質を回収・精製することにより行うことができる。
【0042】
該形質転換された宿主細胞の培養条件も、該宿主細胞の増殖及び組換えDNAの発現が可能なものであるならば特に限定されないが、特にブレビバチルス属細菌を宿主に使用する場合には、特に好ましい培養条件として、後述の実施例に示すTM液体培地で30℃、2〜4日間の条件を例示することができる。また必要に応じて、培地中に無機塩類を添加したり、培養中に攪拌や通気を行ってもよい。
【0043】
更に、該宿主細胞の培養により生産された組換えタンパク質は、当業者が通常用いる一般的な方法を適宜選択し用いることにより回収することができる。
【0044】
生産された組換えタンパク質が宿主細胞外に分泌される場合には、例えば、遠心分離、ろ過などの方法で、宿主細胞と分泌生産された組換えタンパク質を含む上清を分離することにより生産された組換えタンパク質を回収することができる。また、生産された組換えタンパク質が宿主細胞内に蓄積される場合には、例えば、培養終了後、培養液から遠心分離、ろ過などの方法により宿主細胞を採取し、次いで、この宿主細胞を超音波破砕法、フレンチプレス法などにより破砕し、また必要に応じて界面活性剤等を添加して可溶化することにより組換えタンパク質を回収することができる。
【0045】
更に、回収した組換えタンパク質の分離、精製を行う場合にも、当業者が通常用いる一般的な方法、たとえば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、電気泳動、溶媒抽出、限外濾過、塩沈、等電点沈殿などの方法を適宜、単独または組み合わせて用いることにより行うことができる。
【0046】
なお、プロモーターのプロモーター活性の評価は、プロモーターの下流に検出可能なタンパク質をコードするDNA断片、すなわち、レポーター遺伝子を連結し、そのレポーター遺伝子の遺伝子産物の生産量(活性)を測定することにより可能である。レポーター遺伝子については、その遺伝子産物の検出法が存在すれば特に限定されないが、通常、当業者が利用するレポーター遺伝子として、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、GFP(green fluorescent protein)、GFPuv等のGFP遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、CAT(クロラムフェニコールアセチル転移酵素(Chloramphenicol acetyl transferase))遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子などを例示することができる。
【0047】
また、プロモーター活性の評価は、レポーター遺伝子から転写されたmRNAの発現量を測定することにより行うことも可能である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明を実施例の場合に限定することを意図するものでない。
【0049】
(実施例1:P22タンパク質遺伝子及びP22プロモーターのクローニング)
【0050】
P22タンパク質遺伝子及びP22タンパク質のプロモーター領域(P22プロモーター)を以下の手順でクローン化した。
【0051】
まず、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5(Brevibacillus choshinensis HPD31−S5)(FERM BP−6623)をTM液体培地(1% ペプトン、0.5% 肉エキス、0.2% 酵母エキス、1% グルコース)で30℃、20時間、振とう培養した後、培養上清をSDS−PAGEに供した。泳動終了後、PVDF膜に転写して染色し、PVDF膜の22kDの大きさに相当する染色バンドを切り出しアミノ酸配列の決定を行った。アミノ酸配列の決定は、N末端配列と2つの内部配列の合計3つの断片について行った。上記でアミノ酸配列を決定した配列の内、N末配列と内部配列のひとつを配列番号4(N末端アミノ酸配列:図4上段)及び配列番号5(内部アミノ酸配列:図4下段)としてそれぞれ示した。
【0052】
次いで、上記のN末端アミノ酸配列と内部アミノ酸配列をもとに作製した下記の2種類のデジェネレートプライマー22KDN及び22KDCをプライマーに用い、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5のゲノムDNAを鋳型に用いたPCRを行い、P22タンパク質遺伝子の一部である約200bpのDNA断片を増幅した。プライマー22KDNを配列番号6(図5上段)及びプライマー22KDCを配列番号7(図5下段)にそれぞれ示した。
【0053】
(注)B=T or C or G, S=C or G, K=T or G, Y=C or T, R=A or G, H=A or T or C, W=A or T, N=A or C or G or T, D=A or T or G, V=A or C or G, M=A or C
【0054】
更に、この約200bpのDNA断片を元にジーンウォーキングの手法で残りの部分のDNA配列を解読し、591bpから成るP22タンパク質遺伝子の全DNA配列、及び、P22プロモーターを含むP22タンパク質遺伝子の上流域のDNA配列を決定した。以上により判明したP22プロモーターのDNA配列を配列番号1(図1)に示す。
【0055】
このP22タンパク質は、公知のタンパク質と有意な相同性はなく、また、その機能も未知である。更に、P22プロモーターのDNA配列についても、公知のDNA配列の中に有意な相同性があるものはなかった。
【0056】
(実施例2:プロモーター活性評価用ベクターの作製)
ベクターDNA pNY301(特開平10−295378号)を元に作製したプロモーター活性評価用ベクターを用いて、P22プロモーターと、現在、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞とする組換えタンパク質生産に用いられている主要なプロモーターとのプロモーター活性の比較評価を行った。
【0057】
なお、pNY301は、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞とする組換えタンパク質生産に用いられている主要なベクターのひとつであり、プロモーター活性が高いとされているMWPプロモーター由来のP5プロモーターを含有している。
【0058】
1)pNF1(プロモーターなし)の作製
対照として用いるプロモーターを含有しないプラスミドDNAであるpNF1を以下の手順により作製した。
【0059】
下記の2種類の合成DNA XSDM及びXXRVをプライマーに用い、pNY301を鋳型に用いたPCRを行い、pNY301からP5プロモーターを除いた部分を増幅した。プライマーXSDMを配列番号8(図6上段)及びプライマーXXRVを配列番号9(図6下段)にそれぞれ示した。
【0060】
次いで、上記で得たDNA断片を制限酵素NdeIで処理し、得られた約3.3kbpのDNA断片の両端をT4 DNAリガーゼで連結し、プロモーターを含まないプラスミドDNAを作製した。このプラスミドDNAをpNF1とした。
【0061】
2)pNF1−bga(プロモーターなし、β−ガラクトシダーゼ遺伝子のみ含有)(コントロール用)の作製
次いで、1)で得たpNF1を元に、レポーター遺伝子であるβ−ガラクトシダーゼ遺伝子が組み込まれているが、プロモーターを含有しないプラスミドDNAであるpNF1−bgaを作製した。
【0062】
まず、pNF1を制限酵素BspHIとBamHIで処理し、約3.3kbpのDNA断片を回収した。また、2種類の合成DNA bgaM及びbgaRVをプライマーに用い、B.stearothermophilus のゲノムDNAを鋳型とするPCRを行い、B.stearothermophilus のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子(Hirata,H., et.al., J.Bacteriol., 166,722−727(1986)、GenBank: M13466)を増幅した。プライマーbgaMを配列番号10(図7上段)及びプライマーbgaRVを配列番号11(図7下段)にそれぞれ示した。
【0063】
次いで、上記のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を含むDNA断片を制限酵素BspHIとBamHIで処理した約2kbpのDNA断片と、上記で得た3.3kbpのDNA断片をT4 DNAリガーゼで連結し、β−ガラクトシダーゼ遺伝子を含有するがプロモーターを含有しないプラスミドDNAを作製した。このプラスミドDNAをpNF1−bgaとした。
【0064】
また、このpNF1−bgaをブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5に導入し、得られた形質転換体をブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNF1−bgaとした。
【0065】
3)pNF2(P2プロモーター含有)の作製
1)と同様に、XSDM及びXXRVをプライマーに用いpNY301を鋳型に用いたPCRを行うことでpNY301からP5プロモーターを除いた部分を増幅し、得られたDNA断片を制限酵素NdeIとXhoIで処理し、約3.3 kbpのDNA断片を回収した。
【0066】
また、下記の2種類の合成DNA P2M1及びP2SDRV1をプライマーに用い、バチルス・ブレビス47のゲノムDNAを鋳型に用いたPCRを行い、MWPプロモーターが含む5つのプロモーターの内のひとつであるP2プロモーターを含むDNA断片(J.Bacteriol.,169(3),1239−1245(1987))を増幅した。増幅したDNA断片を制限酵素NdeIとXhoIで処理し、P2プロモーターを含有する103 bpのDNA断片を回収した。プライマーP2M1を配列番号12(図8上段)及びプライマーP2SDRV1を配列番号13(図8下段)にそれぞれ示した。
【0067】
更に、上記で得た約3.3kbpのDNA断片とP2プロモーターを含有する103 bpのDNA断片をT4 DNAリガーゼで連結し、P2プロモーターを含有するベクターDNAを得た。このベクターDNAをpNF2とした。
【0068】
4)pNF2−bga(P2プロモーター及びβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を含有)の作製
更に上記で得たpNF2を制限酵素BspHIとBamHIで処理して3.4 kbpの断片を回収した。また、2)と同様によりPCRで増幅したβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を含むDNA断片を制限酵素BspHIIとBamHIで処理し、約2 kbpのDNA断片を回収した。
【0069】
次いで、上記で得た約3.4kbpのDNA断片と約2kbpのDNA断片をT4 DNAリガーゼで連結することにより、P2プロモーターとβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を有するベクターDNAを得た。このベクターDNAをpNF2−bgaとした。
【0070】
また、このpNF2−bgaをブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5に導入し、得られた形質転換体をブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNF2−bgaとした。
【0071】
5)pNF4(P22プロモーターを含有)の作製
本発明のP22プロモーターを含有するベクターDNAであるpNF4を以下の手順により構築した。
【0072】
1)と同様に、pNY301からP5プロモーターを除いた部分をPCRで増幅し、得られたDNA断片を制限酵素NdeIとXhoIで処理し約3.3kbpのDNA断片を回収した。
【0073】
また、下記の2種類の合成DNA P22M1及びP22SDRV1をプライマーに用い、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5のゲノムDNAを鋳型に用いてPCRを行い、P22プロモーターを含むP22タンパク質遺伝子の上流域を増幅した。得られたDNA断片を制限酵素NdeIとXhoIで処理し、P22プロモーターを含む約400bpのDNA断片を得た。このDNA断片と上記で得た約3.3kbpのDNA断片とをT4 DNAリガーゼで連結し、P22プロモーターを含有するベクターDNAを得た。このベクターDNAをpNF4とした。プライマーP22M1を配列番号14(図9上段)及びプライマーP22SDRV1を配列番号15(図9下段)にそれぞれ示した。
【0074】
6)pNF4−bga(P22プロモーター及びβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を含有)の作製
上記のpNF4を制限酵素BspHIとBamHIで処理して約3.7kbpのDNA断片を回収した。更に、2)と同様の方法で得たβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を含むDNA断片を制限酵素BspHIとBamHIで処理し、前記の約3.7kbpのDNA断片とT4 DNAリガーゼで連結し、P22プロモーターとβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を含有するベクターDNAを作製した。このベクターDNAをpNF4−bgaとした。
【0075】
また、このpNF4−bgaをブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5に導入し、得られた形質転換体をブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNF4−bgaとした。
【0076】
7)pNY301−bga(P5プロモーター及びβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を含有)の作製
pNY301を制限酵素BspHIとBamHIで処理し、pNY301が含有しているP5プロモーターを含む3.4kbpのDNA断片を回収した。更に、2)と同様の方法で得たβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を含むDNA断片を制限酵素BspHIとBamHIで処理し、前記の3.4kbpのDNA断片とT4 DNAリガーゼで連結し、P5プロモーターとβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を含有するベクターDNAを作製した。このベクターDNAをpNY301−bgaとした。
【0077】
また、このpNY301−bgaをブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5に導入し、得られた形質転換体をブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNY301−bgaとした。
【0078】
(実施例3:β−ガラクトシダーゼ遺伝子をレポーター遺伝子とするプロモーター活性の比較評価)
次いで、実施例2で作製したブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-S5の形質転換体をそれぞれ培養し、プロモーター活性の比較評価を行った。なお、このプロモーター活性の比較評価では、生産されたβ−ガラクトシダーゼの活性値をプロモーター活性の指標として用いた。
【0079】
まず、上記の実施例2で作製したブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNF1−bga、HPD31−S5/pNF2−bga、HPD31−S5/pNY301−bga及びHPD31−S5/pNF4−bgaのそれぞれを、500ml三角フラスコ内で、ネオマイシン50μg/ml含有TM液体培地100mlを用いて、30℃で48時間振とう培養した。培養終了後、各々の培養液を遠心分離し、その菌体画分のβ−ガラクトシダーゼ活性の測定を行った。β−ガラクトシダーゼの活性測定は、Molecular Cloning 17.35(Cold Spring Harbor Laboratory (1990))に記載の方法を改変した方法により行った。この活性測定の結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1が示すとおり、本発明のP22プロモーターを含有するpNF4−bgaを用いた場合に最も高いβ−ガラクトシダーゼ活性が得られており、その値は、P5プロモーターを含有するpNY301−bgaやP2プロモーターを含有するpNF2−bgaを用いた場合より明らかに高かった。
【0082】
なお、対照として用いた、β−ガラクトシダーゼ遺伝子が組み込まれているがプロモーターを含有しないpNF1−bgaについては、そのβ−ガラクトシダーゼ活性は80 unit/mg protein以下であった。
【0083】
以上のプロモーター活性の比較評価により、本発明のP22プロモーターが、従来のプロモーターと同等か、または、それ以上のプロモーター活性を持っていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】P22プロモーターのDNA配列を示す。
【図2】P22プロモーターの−35領域と推定される配列を示す。
【図3】P22プロモーターの−10領域と推定される配列を示す。
【図4】N末端アミノ酸配列(上段)及び内部アミノ酸配列(下段)を示す。
【図5】プライマー22KDN(上段)及び22KDC(下段)を示す。
【図6】プライマーXSDM(上段)及びXXRV(下段)を示す。
【図7】プライマーbgaM(上段)及びbgaRV(下段)を示す。
【図8】プライマーP2M1(上段)及びP2SDRV1(下段)を示す。
【図9】プライマーP22M1(上段)及びP22SDRV1(下段)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のプロモーター活性を示すDNA。
(a)配列番号1の配列からなるDNA。
(b)配列番号1の配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
(c)配列番号1の配列に対して、1または複数のヌクレオチドが置換、欠失、付加、及び/または、挿入された配列からなるDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAを含有するベクターDNA。
【請求項3】
請求項1に記載のDNA、及び、該DNAがプロモーターとして機能する位置に組換えDNAを含有するベクターDNA。
【請求項4】
請求項3に記載のベクターDNAを保持する原核生物細胞。
【請求項5】
ブレビバチルス属細菌である請求項4に記載の原核生物細胞。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の原核生物細胞を培養する工程を含むことを特徴とするタンパク質またはポリペプチドを生産する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−14304(P2007−14304A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201715(P2005−201715)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000112060)ヒゲタ醤油株式会社 (7)
【Fターム(参考)】