新規メチロール化合物とアルデヒド化合物、及び該メチロール化合物の製法
【課題】分子中に電荷輸送機能(ホール輸送性)を持つ構造単位とメチロール基を有し、他のモノマーやポリカーボネート等の高分子材料との相溶性や成膜性にも優れ、化学反応により摩耗等の機械的耐久性や耐熱性の要求に対応できる高密度な架橋構造の形成と共に、良好な電荷輸送特性の発現を両立できる新規なメチロール化合物とその製造方法及び製造中間体を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表わされることを特徴とするメチロール化合物。
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【解決手段】下記一般式(1)で表わされることを特徴とするメチロール化合物。
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電荷輸送材料、光導電体として有用なメチロール化合物、及び該メチロール化合物の製造方法に関する。
また、本発明は、該新規メチロール化合物の製造原料としても有用な新規アルデヒド化合物及びその製造方法に関する。
さらに、該新規メチロール化合物を有機半導体材料として用いた有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等の電子部品、電子素子に関する。該新規メチロール化合物は、詳しくは分子中に電荷輸送機能(ホール輸送性)を持つ構造単位とメチロール基を有し、他のモノマーやポリカーボネート等の高分子材料との相溶性や成膜性にも優れ、化学反応により摩耗等の機械的耐久性や耐熱性の要求に対応できる高密度な架橋構造の形成と共に、良好な電荷輸送特性の発現を両立できるものである。
【背景技術】
【0002】
電荷輸送機能を有する有機半導体材料は、有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等の有機デバイス用半導体膜形成材料として有用である。このような電荷輸送機能を樹脂に持たせる方法としては、機能膜形成等においてバインダーとして使用される樹脂中に電荷輸送性材料を分散させる方法が最も一般的であり、例えば電子写真感光体では広く使用されている。
【0003】
しかしながら、単に電荷輸送性材料を樹脂中に混合、分散させるだけでは電荷輸送機能膜の機械的強度や耐熱性を確保するのが難しく、特性として十分なものが得られない。したがって、これらの特性を向上するためには、電荷輸送性材料とバインダーとして使用される樹脂を結合させて一体化させることが有効である。そして、電子写真感光体寿命を向上させるために、感光層の摩耗を低減させる検討がこれまで種々提案されている。
例えば、感光体の表面層として、コロイダルシリカ含有硬化性シリコーン樹脂を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この感光体の表面層は耐摩耗特性は改善されるが、繰り返し使用時の電子写真特性が不十分であり、カブリや画像ボケが発生しやすく、また近年要求される高寿命感光体としての耐久性に対して不十分である。
【0004】
また、有機珪素変性正孔輸送性化合物を硬化性有機珪素系高分子中に結合させた樹脂層を表面に有する感光体が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。しかし、この感光体の表面層は、画像ボケが発生しやすく、実用化のためには、ドラムヒーター等の機構を搭載する等して画像ボケの発生を抑制する必要があり、装置の大型化、コストアップを招いている。また、露光部の残留電位が高く、帯電電位を抑えて作像する低電位現像プロセスにおいては、画像濃度の低下等が問題である。
【0005】
更に、電荷輸送性付与基を有する硬化性シロキサン樹脂を三次元網目構造状に硬化させる方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、この提案の方法では、体積収縮に起因すると考えられる塗膜の亀裂が生じることがあり、特に安価で取り扱いの容易な市販のコーティング剤との組み合わせでは、上記問題が発生する。また、露光部の残留電位に膜厚依存性があり、低電位現像プロセスにおける画像濃度低下が問題となる。また、電荷輸送性付与基の含有量を増加すると、塗膜強度が低下し、十分な耐久性が得られないことがある。さらに、画像ボケを引き起こすことがあり、長期間繰り返して良好な画像が出力される電子写真感光体を安価にかつ容易に得ることは困難である。
【0006】
また、水酸基を少なくとも1つ有する電荷輸送性物質と三次元に架橋された樹脂及び導電性微粒子を含有する保護層を有する感光体が提案されている(例えば、特許文献5参照)。この構成によって、耐摩耗性の向上、残留電位の低減はある程度達成されると思われるが、保護層に導電性微粒子を含有させると、保護層の体積抵抗が低下してしまうため、高温高湿環境下での静電潜像流れに起因する画像ボケが発生しやすくなる。
【0007】
近年、反応性電荷輸送性物質を少なくとも含む2つ以上の水酸基を有するポリオールと芳香族系イソシアネート化合物との架橋結合により形成された架橋性樹脂を含有する保護層を有する感光体が提案されている(例えば、特許文献6参照)。この構成によって、高速かつ長期にわたる画像形成において画像濃度低下や異常画像発生等のない安定した画像が得られる高耐久な電子写真感光体が得られた。しかしながら、これから環境負荷低減に向けて更なる高耐久化が得られる新規な化合物の開発が望まれる。
我々は、先に、特許文献7の特開2007−153765号公報にて、
HOCH2-(HO)CH2-O-Ar1-X-Ar2-O-CH2(OH)-CH-CH2OH (1)
の一般式で表され、製膜性のよい電荷輸送性テトラヒドロキシ化合物(ここで、Ar1、Ar2はアリレン基を、Xは「-N(Ar4)-Ar3-N(Ar5)-」で代表される二価の芳香族性基を表わす)を提示したが、このテトラヒドロキシ化合物は、2つのヒドロキシ基が炭化水素鎖構造の端部に露出しており、残りの2つのヒドロキシ基がリニアな炭化水素基の途中Cに結合するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、分子中に電荷輸送機能(ホール輸送性)を持つ構造単位とメチロール基を有し、他のモノマーやポリカーボネート等の高分子材料との相溶性や成膜性にも優れ、化学反応により摩耗等の機械的耐久性や耐熱性の要求に対応できる高密度な架橋構造の形成と共に、良好な電荷輸送特性の発現を両立できる新規なメチロール化合物とその製造方法及び製造中間体を提供することを目的とする。
なお、本発明における「メチロール化合物」は、「メチロール(メチルアルコール)基を有する化合物」を指すものと定義する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、分子中に2つのトリフェニルアミン構造を連結基で介した主要骨格構造からなる電荷輸送機能を有する化合物にアルデヒド基を導入し、更に還元反応により、上記課題を解決するメチロール化合物が得られることを見出し本発明に至った。以下、本発明について具体的に説明する。
すなわち、上記課題は、以下の本発明(1)〜(5)により達成される。
(1)「下記一般式(1)で表わされることを特徴とするメチロール化合物;
【0010】
【化1】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)」
(2)「下記一般式(2)で表わされるアルデヒド化合物;
【0011】
【化2】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)」
(3)「下記一般式(2)で表わされるアルデヒド化合物を還元剤の共存下で反応させて得ることを特徴とする前記一般式(1)で表わされるメチロール化合物の製造方法;
【0012】
【化3】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【0013】
【化4】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)」
(4)「下記一般式(1)で表わされるメチロール化合物を含有することを特徴とする電荷輸送性膜状体;
【0014】
【化5】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)」
(5)「基板上に、直接又は下引層を介して、電荷発生層と電荷輸送層が積層されてなる電子写真感光体において、該電荷輸送層が前記(4)項に記載された電荷輸送性膜状体であることを特徴とする電子写真感光体。」
【発明の効果】
【0015】
本発明の前記一般式(1)で表されるメチロール化合物は、メチロール基と電荷輸送性を有し、成膜性や他のモノマーやポリカーボネート等の高分子材料との相溶性にも優れる。更に、例えばイソシアネート化合物等の水酸基と容易に反応し、高密度の架橋膜形成が可能であり、しかも高密度架橋構造を有しながら良好な電荷輸送特性を示す。このため、良好な電荷輸送性と機械的耐久性や耐熱性の要求される各種有機半導体デバイス、例えば前出の有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等用の有機機能材料として極めて有用に用いることができる。
また本発明の上記メチロール化合物の製造原料として有用な前記一般式(2)の新規アルデヒド化合物を、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いた還元反応より、目的のメチロール化合物を容易に合成して提供することができるという極めて優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】合成例1において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図2】合成例2において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図3】合成例3において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図4】合成例4において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図5】合成例5において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図6】合成例6において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図7】合成例7において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図8】合成例8において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図9】合成例9において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図10】合成例10において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図11】合成例11において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図12】合成例12において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細を説明する。
前記一般式(1)で表される本発明のメチロール化合物の具体例を以下の表1に示すが、本発明は何らこれら例示の化合物に限定されるものではない。
【0018】
【表1】
【0019】
前記一般式(1)で表される本発明のメチロール化合物は新規物質であり、前記一般式(2)で表されるアルデヒド化合物を製造原料として用い、これらの原料を水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤によって、還元反応させることにより合成することができる。
例えば、以下の手順でアルデヒド化合物を合成し、得られたアルデヒド化合物を還元反応させて本発明のメチロール化合物を容易に合成することができる。
【0020】
[アルデヒド化合物の合成]
下記反応式に示すようにトリフェニルアミン化合物を原料とし、これを従来知られている方法(例えばビルスマイヤー反応)を用いてホルミル化し、アルデヒド化合物を合成することができる。
【0021】
【化6】
【0022】
すなわち、上記の具体的なホルミル化の方法としては、塩化亜鉛/オキシ塩化リン/ジメチルホルムアルデヒドを用いた方法が有効であるが、本発明の中間体(メチロール化合物原料)であるアルデヒド化合物を得るための合成方法は、これらに限定されるものではない。具体的な合成例については後述の実施例に示す。
【0023】
[メチロール化合物の合成]
下記反応式に示すようにアルデヒド化合物を製造原料とし、これを従来知られている還元方法を用いてメチロール化合物を合成することができる。
【0024】
【化7】
【0025】
すなわち、上記の具体的な還元方法としては、水素化ホウ素ナトリムを用いた方法が有効であるが、本発明のメチロール化合物を得るための合成方法は、これらに限定されるものではない。具体的な合成例については後述の実施例に示す。
【0026】
本発明の前記一般式(1)で表されるメチロール化合物は、分子中に2つのトリフェニルアミン構造を連結基で介した主要骨格構造を有するため、結晶性が低く、他のモノマーやポリカーボネート等の高分子材料との相溶性に優れた電荷輸送機能を有する。
更に、例えばイソシアネート化合物等の水酸基と容易に化学反応し、高密度の架橋膜形成が可能であり、しかも高密度架橋構造を有しながら良好な電荷輸送特性を示す。このため、良好な電荷輸送性と機械的耐久性や耐熱性の要求される各種有機半導体デバイス、例えば前出の有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等用の有機機能材料として極めて有用に用いることができる。
また、本発明のメチロール化合物は、他のモノマーやポリカーボネート等の高分子材料との相溶性も良好であり、例えば、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、トリメチロールプロパンアクリレート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、スミジュールHT(住化バイエルン社製)等が挙げられる。
芳香族イソシアネート化合物として、トリレンジイソシナネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、及びその重合体であるポリメリック(MDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、また(TDI)、(MDI)あるいは(XDI)とトリメチロールプロパン等のポリオールとのアダクト型が挙げられる。
これらのモノマーは単一あるいは複数用いて本発明のメチロール化合物に混合してもよく、目的とする要求特性等に合せて選択することができる。これらのモノマーの混合量は目的によっても異なるが、例えば電子写真感光体の電荷輸送層に応用する場合、通常メチロール化合物との混合比(重量%)で0.01%〜1500%、好ましくは1%〜500%程度である。
また、前記芳香族イソシアネート化合物1分子中に占める全イソシアネート基の含有比率NCO%(〔NCO基〕/〔イソシアネート化合物〕:wt%)が3〜50であることも好適な態様であり、より好ましくは10〜50%である。
【実施例】
【0027】
以下、合成例及び評価例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
[合成例1(例示化合物1のための中間体1製造に用いたアルデヒド化合物原料の合成)]
【0029】
【化8】
4,4‘−ジアミノジフェニルメタン:19.83g、ブロモベンゼン:69.08g、酢酸パラジウム:2.24g、ターシャルブトキシナトリウム:46.13g、o-キシレン:250mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。トリターシャルブチルホスフィン:8.09gを滴下。80℃にて1時間、還流にて1時間撹拌継続。トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土、シリカゲルを入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、結晶物が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行ない、目的物を得た。(収量45.73g、薄黄色粉末、赤外吸収スペクトルを図1に示す)
【実施例1】
【0030】
[合成例2(実施例1;例示化合物1の製造原料として用いたアルデヒド化合物の合成)]
【0031】
【化9】
中間体原料:30.16g、N-メチルホルムアニリド:71.36g、o-ジクロロベンゼン:400mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。オキシ塩化リン:82.01gを滴下。80℃に昇温し、撹拌。塩化亜鉛:32.71gを滴下。80℃にて撹拌を約10時間行ない、120℃にて約3時間撹拌継続。水酸化カリウム水溶液を加え、加水分解反応を行なった。ジクロロメタンにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水、活性白土にて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮を行ない、結晶物を得た。シリカゲルカラム精製(トルエン/酢酸エチル=8/2)を行ない、単離した。得られた結晶物をメタノール/酢酸エチルにて再結晶し、目的物を得た。(収量27.80g、黄色粉末、赤外吸収スペクトルを図2に示す)
【実施例2】
【0032】
[合成例3(実施例2;例示メチロール化合物1の合成)]
【0033】
【化10】
中間体アルデヒド化合物:12.30g、エタノール:150mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:3.63gを投下。そのまま4時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得た。(収量12.0g、薄黄白色アモルファス、赤外吸収スペクトルを図3に示す)
【0034】
[合成例4(例示化合物2のための中間体2製造に用いたアルデヒド化合物原料の合成)]
【0035】
【化11】
4,4‘−ジアミノジフェニルエーテル:20.02g、ブロモベンゼン:69.08g、酢酸パラジウム:0.56g、ターシャルブトキシナトリウム:46.13g、o-キシレン:250mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。トリターシャルブチルホスフィン:2.02gを滴下。80℃にて1時間、還流にて1時間撹拌継続。トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土、シリカゲルを入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、結晶物が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行ない、目的物を得た。(収量43.13g、薄茶色粉体、赤外吸収スペクトルを図4に示す)
【実施例3】
【0036】
[合成例5(実施例3;例示化合物2の製造に用いたアルデヒド化合物の合成)]
【0037】
【化12】
中間体原料:30.27g、N-メチルホルムアニリド:71.36g、o-ジクロロベンゼン:300mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。オキシ塩化リン:82.01gを滴下。80℃に昇温し、撹拌。塩化亜鉛:16.36gを滴下。80℃にて撹拌を1時間行ない、120℃にて4時間、140℃にて3時間撹拌継続。水酸化カリウム水溶液を加え、加水分解反応を行なった。トルエン溶媒を用いて、抽出し、硫酸マグネシウムを入れ、濾過、洗浄、濃縮。トルエン/酢酸エチルにてカラム精製を行ない、濃縮後結晶が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行ない、目的物を得た。(収量14.17g、薄黄色粉体、赤外吸収スペクトルを図5に示す)
【実施例4】
【0038】
[合成例6(実施例4;例示メチロール化合物2の合成)]
【0039】
【化13】
中間体アルデヒド化合物:6.14g、エタノール:75mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:1.82gを投下。そのまま7時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得。(収量5.25g、白色アモルファス、赤外吸収スペクトルを図6に示す)
【0040】
[合成例7(例示化合物3のための中間体3製造に用いたアルデヒド化合物原料の合成)]
【0041】
【化14】
ジフェニルアミン:22.33g、ジブロモスチルベン:20.28g、酢酸パラジウム:0.336g、ターシャルブトキシナトリウム:13.84g、o-キシレン:150mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。トリターシャルブチルホスフィン:1.22gを滴下。80℃にて1時間、還流にて2時間撹拌継続。トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土、シリカゲルを入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、結晶物が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行ない、目的物を得た。(収量29.7g、黄色粉体、赤外吸収スペクトルを図7に示す)
【実施例5】
【0042】
[合成例8(実施例5;例示化合物3の製造に用いたアルデヒド化合物の合成)]
【0043】
【化15】
脱水ジメチルホルムアルデヒド:33.44g、脱水トルエン:84.53gを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気、氷水浴下にて撹拌。オキシ塩化リン:63.8gをゆっくり滴下。そのまま約1時間撹拌継続。中間体原料:26.76gを脱水トルエン:106g溶解液をゆっくり滴下。80℃にて撹拌を1時間行ない、還流にて5時間撹拌継続。水酸化カリウム水溶液を加え、加水分解反応を行なった。トルエンにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、濃縮。カラム精製(トルエン/酢酸エチル=8/2)により単離した。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得た。(収量16.66g、オレンジ粉末、赤外吸収スペクトルを図8に示す)
【実施例6】
【0044】
[合成例9(実施例6;例示メチロール化合物3の合成)]
【0045】
【化16】
中間体アルデヒド化合物:6.54g、エタノール:75mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:1.82gを投下。そのまま4時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得。(収量2.30g、黄色アモルファス、赤外吸収スペクトルを図9に示す)
【0046】
[合成例10(例示化合物4のための中間体4製造に用いたアルデヒド化合物原料の合成)]
【0047】
【化17】
2,2‘−エチレンジアニリン:21.23g、ブロモベンゼン:75.36g、酢酸パラジウム:0.56g、ターシャルブトキシナトリウム:46.13g、o-キシレン:250mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気&室温下にて撹拌。トリターシャルブチルホスフィン:2.03gを滴下。還流撹拌にて、8時間継続。トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土を加え、室温下で撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、結晶物を得た。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行ない、目的物を得た。(収量47.65g、薄茶色粉末、赤外吸収スペクトルを図10に示す)
【実施例7】
【0048】
[合成例11(実施例7;例示化合物4製造のための中間体アルデヒド化合物の合成)]
【0049】
【化18】
中間体原料ドナー:31.0g、N-メチルホルムアニリド:71.36g、o-クロロベンゼン:400mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気&室温下にて撹拌。オキシ塩化リン:82.01gをゆっくり滴下し、80℃に昇温。塩化亜鉛:32.71gを加え、80℃にて1時間、120℃にて約24時間継続。水酸化カリウム水溶液を加え、加水分解反応を行なった。トルエンにて希釈し、その後水洗し、油層を塩化マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着し、濾過、洗浄、濃縮を行ない、目的物を得た。(収量22.33g、黄色液体、赤外吸収スペクトルを図11に示す)
【実施例8】
【0050】
[合成例12(実施例8;例示メチロール化合物4の合成)]
【0051】
【化19】
中間体アルデヒド化合物:9.43g、エタノール:100mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:2.72gを投下。そのまま7時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得た。(収量8.53g、白色アモルファス、赤外吸収スペクトルを図12に示す)
【0052】
以上に示した反応により合成される前記一般式(2)で表されるアルデヒド化合物を、本発明のメチロール化合物製造のための原料として用い、これを還元反応させることによって前記一般式(1)で表される本発明のメチロール化合物が容易に製造されることがわかる。更に、上記反応により前出の他の例示化合物5,6も容易に製造される。
【実施例9】
【0053】
<電荷輸送性評価>
[実施例9(応用例1)]
アルミ板上に下記組成の下引き層用塗工液、電荷発生層用塗工液、電荷輸送層用塗工液を順次、塗布、乾燥することにより、0.3μmの下引き層、0.3μmの電荷発生層、20μmの電荷輸送層を形成して6種類の感光体(1)〜(6)を作製した。
なお、6種類の感光体における電荷輸送層用塗工液の組成分として、それぞれ前記合成例において合成した本発明の例示メチロール化合物1〜4及び比較例化合物(I)、(II)を用いた。
【0054】
<下引き層用塗工液>
ポリアミド樹脂(CM−8000:東レ社製): 2部
メタノール: 49部
ブタノール: 49部
【0055】
<電荷発生層用塗工液>
下記構造式のビスアゾ顔料 : 2.5部
【0056】
【化20】
ポリビニルブチラール(XYHL:UCC社製): 0.5部
シクロヘキサノン: 200部
メチルエチルケトン: 80部
【0057】
<電荷輸送層用塗工液:(1)>
ビスフェノールZポリカーボネート
(パンライトTS−2050、帝人化成社製): 10部
電荷輸送性化合物
(表2に示す例示メチロール化合物1: 10部
テトラヒドロフラン: 80部
1%シリコーンオイルのテトラヒドロフラン溶液
(KF−50−100CS、信越化学工業社製): 0.2部
【実施例10】
【0058】
[実施例10(応用例2)]
実施例9(応用例1)における例示メチロール化合物1を、例示メチロール化合物2に変えた以外は、実施例9と同様にして感光体No(2)を作製した。
【実施例11】
【0059】
[実施例11(応用例3)]
実施例9(応用例1)における例示メチロール化合物1を、例示メチロール化合物3に変えた以外は、実施例9と同様にして感光体No(3)を作製した。
【実施例12】
【0060】
[実施例12(応用例4)]
実施例9(応用例1)における例示メチロール化合物1を、例示メチロール化合物4に変えた以外は、実施例9と同様にして感光体No(4)を作製した。
【0061】
[比較例1]
実施例9(応用例1)における例示メチロール化合物1を、つぎに示す化合物(I)に変えた以外は、実施例9と同様にして感光体No(5)を作製した。
【0062】
【化21】
【0063】
[比較例2]
実施例9(応用例1)における例示メチロール化合物1を、つぎに示す化合物(II)に変えた以外は、実施例9と同様にして感光体No(6)を作製した。
【0064】
【化22】
【0065】
上記により得られた感光体(1)〜(6)について、市販の静電複写紙試験装置[(株)川口電機製作所製EPA−8200型]を用い、半減露光量と残留電位から電荷輸送性を評価した。
すなわち、暗所で−6kVのコロナ放電により−800Vに帯電せしめた後、タングステンランプ光を感光体表面での照度が4.5luxになるように照射して、電位が1/2になるまでの時間(秒)を求め、半減露光量E1/2 (lux・sec)を算出した。また、露光30秒後の残留電位(−V)を求めた。なお、半減露光量が小さいほど感度が良く、残留電位が小さいほど電荷のトラップが少ないことを表す。
評価結果を下記表2に示す。
【0066】
【表2】
上記評価結果から、公知材料であるメチロール基を有していない電荷輸送性化合物(I)を用いた比較感光体に比べて、本発明のメチロール化合物を用いた感光体(1)〜(4)は遜色なく、半減露光量が小さく感度が良好であり、残留電位が無く電荷のトラップの無いことが明確であり良好な電荷輸送性を示すことが分る。
【0067】
<耐ソルベント性評価>
また、上記感光体(1)〜(6)の表面に10mm×10mmの範囲で指脂を付着させ、45℃/43%RHの暗所環境下に1週間放置した後、顕微鏡にてソルベントクラックの有無を観察した。結果を表3示す。
【0068】
【表3】
(クラック評価)
○:発生なし、△:5本未満の発生、×:5本以上(ほぼ全面クラック)の発生
公知材料であるメチロール基を有さない電荷輸送性化合物(I)では、ほぼ全面にクラックが見られた。また、メチロール基を有するが、剛直な構造である化合物(II)では、若干のクラックが見られた。
これら比較例に対し、本発明のメチロール化合物を用いた感光体(1)〜(4)は、クラックが発生しなかった。
【実施例13】
【0069】
<硬化膜のゲル分率測定>
上記合成例で合成した例示化合物1を用いて以下の〈塗工液A〉を調製し、この塗工液Aをアルミ板上にブレード塗工して指触乾燥後、135℃30分の加熱条件にて架橋反応し、厚さ5μmの硬化膜を作製した。得られた硬化膜のゲル分率を求めた。ゲル分率は、アルミ支持体上に架橋型電荷輸送層塗工液を上記のような態様で、直接塗工し、熱乾燥した膜を、テトラヒドロフラン溶液に25℃で5日間浸漬させ、ゲル分の質量残率より、下記数式1から求めた。結果を表3に示す。
【0070】
【数1】
【0071】
〈塗工液A〉
例示化合物1: 10部
トルエン−2,4−ジイソシアネート(TDI、東京化成社製): 10部
テトラヒドロフラン: 80部
【実施例14】
【0072】
[実施例14(塗工液Bからの塗工膜の作製)]
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、例示化合物2を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Bを調製し、同様に厚さ5μmの硬化膜を作製した。そして、この硬化膜について同様にゲル分率測定をした。結果を表3に示す。
【実施例15】
【0073】
[実施例15(塗工液Cからの塗工膜の作製)]
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、例示化合物3を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Cを調製し、同様に厚さ5μmの硬化膜を作製した。そして、この硬化膜について同様にゲル分率測定をした。結果を表3に示す。
【実施例16】
【0074】
[実施例16(塗工液Dからの塗工膜の作製)]
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、例示化合物4を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Dを調製し、同様に厚さ5μmの硬化膜を作製した。そして、この硬化膜について同様にゲル分率測定をした。結果を表3に示す。
【0075】
[比較例3(塗工液Eからの塗工膜の作製)]
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、比較化合物として下記化合物(III)を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Eを調製し、同様に厚さ5μmの硬化膜を作製した。そして、この硬化膜について同様にゲル分率測定をした。結果を表3に示す。
【0076】
【化23】
【0077】
[比較例4(塗工液Fからの塗工膜の作製)]
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、比較化合物として下記化合物(IV)を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Fを調製し、同様に厚さ5μmの硬化膜を作製した。そして、この硬化膜について同様にゲル分率測定をした。結果を表4に示す。
【0078】
【化24】
【0079】
【表4】
【0080】
上記評価結果から、本発明のメチロール化合物は、比較例に示した従来知られている電荷輸送性モノマーと比べてゲル分率が高く、架橋密度の高い硬化膜が形成されていることが分る。このような高密度架橋構造により、各種有機半導体デバイス用の有機機能材料として適用する場合に要求される摩耗や傷等に対する機械的耐久性や耐熱性の向上に応えることができる。
【0081】
上の評価例1(電荷輸送性評価)及び評価例2(硬化膜のゲル分率)から、化学反応により機械的耐久性や耐熱性に対応できる高密度な架橋構造の形成と共に、良好な電荷輸送特性の発現を両立することができるのは本発明のメチロール化合物であり、従来公知の電荷輸送性化合物の場合にはいずれも両立を達成することができない。
したがって、本発明のメチロール化合物は前記各種有機半導体デバイスを提供するための材料として極めて有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0082】
【特許文献1】特開平6−118681号公報
【特許文献2】特開平9−124943号公報
【特許文献3】特開平9−190004号公報
【特許文献4】特開2000−171990号公報
【特許文献5】特開2003−186223号公報
【特許文献6】特開2007−293197号公報
【特許文献7】特開2007−153765号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電荷輸送材料、光導電体として有用なメチロール化合物、及び該メチロール化合物の製造方法に関する。
また、本発明は、該新規メチロール化合物の製造原料としても有用な新規アルデヒド化合物及びその製造方法に関する。
さらに、該新規メチロール化合物を有機半導体材料として用いた有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等の電子部品、電子素子に関する。該新規メチロール化合物は、詳しくは分子中に電荷輸送機能(ホール輸送性)を持つ構造単位とメチロール基を有し、他のモノマーやポリカーボネート等の高分子材料との相溶性や成膜性にも優れ、化学反応により摩耗等の機械的耐久性や耐熱性の要求に対応できる高密度な架橋構造の形成と共に、良好な電荷輸送特性の発現を両立できるものである。
【背景技術】
【0002】
電荷輸送機能を有する有機半導体材料は、有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等の有機デバイス用半導体膜形成材料として有用である。このような電荷輸送機能を樹脂に持たせる方法としては、機能膜形成等においてバインダーとして使用される樹脂中に電荷輸送性材料を分散させる方法が最も一般的であり、例えば電子写真感光体では広く使用されている。
【0003】
しかしながら、単に電荷輸送性材料を樹脂中に混合、分散させるだけでは電荷輸送機能膜の機械的強度や耐熱性を確保するのが難しく、特性として十分なものが得られない。したがって、これらの特性を向上するためには、電荷輸送性材料とバインダーとして使用される樹脂を結合させて一体化させることが有効である。そして、電子写真感光体寿命を向上させるために、感光層の摩耗を低減させる検討がこれまで種々提案されている。
例えば、感光体の表面層として、コロイダルシリカ含有硬化性シリコーン樹脂を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この感光体の表面層は耐摩耗特性は改善されるが、繰り返し使用時の電子写真特性が不十分であり、カブリや画像ボケが発生しやすく、また近年要求される高寿命感光体としての耐久性に対して不十分である。
【0004】
また、有機珪素変性正孔輸送性化合物を硬化性有機珪素系高分子中に結合させた樹脂層を表面に有する感光体が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。しかし、この感光体の表面層は、画像ボケが発生しやすく、実用化のためには、ドラムヒーター等の機構を搭載する等して画像ボケの発生を抑制する必要があり、装置の大型化、コストアップを招いている。また、露光部の残留電位が高く、帯電電位を抑えて作像する低電位現像プロセスにおいては、画像濃度の低下等が問題である。
【0005】
更に、電荷輸送性付与基を有する硬化性シロキサン樹脂を三次元網目構造状に硬化させる方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、この提案の方法では、体積収縮に起因すると考えられる塗膜の亀裂が生じることがあり、特に安価で取り扱いの容易な市販のコーティング剤との組み合わせでは、上記問題が発生する。また、露光部の残留電位に膜厚依存性があり、低電位現像プロセスにおける画像濃度低下が問題となる。また、電荷輸送性付与基の含有量を増加すると、塗膜強度が低下し、十分な耐久性が得られないことがある。さらに、画像ボケを引き起こすことがあり、長期間繰り返して良好な画像が出力される電子写真感光体を安価にかつ容易に得ることは困難である。
【0006】
また、水酸基を少なくとも1つ有する電荷輸送性物質と三次元に架橋された樹脂及び導電性微粒子を含有する保護層を有する感光体が提案されている(例えば、特許文献5参照)。この構成によって、耐摩耗性の向上、残留電位の低減はある程度達成されると思われるが、保護層に導電性微粒子を含有させると、保護層の体積抵抗が低下してしまうため、高温高湿環境下での静電潜像流れに起因する画像ボケが発生しやすくなる。
【0007】
近年、反応性電荷輸送性物質を少なくとも含む2つ以上の水酸基を有するポリオールと芳香族系イソシアネート化合物との架橋結合により形成された架橋性樹脂を含有する保護層を有する感光体が提案されている(例えば、特許文献6参照)。この構成によって、高速かつ長期にわたる画像形成において画像濃度低下や異常画像発生等のない安定した画像が得られる高耐久な電子写真感光体が得られた。しかしながら、これから環境負荷低減に向けて更なる高耐久化が得られる新規な化合物の開発が望まれる。
我々は、先に、特許文献7の特開2007−153765号公報にて、
HOCH2-(HO)CH2-O-Ar1-X-Ar2-O-CH2(OH)-CH-CH2OH (1)
の一般式で表され、製膜性のよい電荷輸送性テトラヒドロキシ化合物(ここで、Ar1、Ar2はアリレン基を、Xは「-N(Ar4)-Ar3-N(Ar5)-」で代表される二価の芳香族性基を表わす)を提示したが、このテトラヒドロキシ化合物は、2つのヒドロキシ基が炭化水素鎖構造の端部に露出しており、残りの2つのヒドロキシ基がリニアな炭化水素基の途中Cに結合するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、分子中に電荷輸送機能(ホール輸送性)を持つ構造単位とメチロール基を有し、他のモノマーやポリカーボネート等の高分子材料との相溶性や成膜性にも優れ、化学反応により摩耗等の機械的耐久性や耐熱性の要求に対応できる高密度な架橋構造の形成と共に、良好な電荷輸送特性の発現を両立できる新規なメチロール化合物とその製造方法及び製造中間体を提供することを目的とする。
なお、本発明における「メチロール化合物」は、「メチロール(メチルアルコール)基を有する化合物」を指すものと定義する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、分子中に2つのトリフェニルアミン構造を連結基で介した主要骨格構造からなる電荷輸送機能を有する化合物にアルデヒド基を導入し、更に還元反応により、上記課題を解決するメチロール化合物が得られることを見出し本発明に至った。以下、本発明について具体的に説明する。
すなわち、上記課題は、以下の本発明(1)〜(5)により達成される。
(1)「下記一般式(1)で表わされることを特徴とするメチロール化合物;
【0010】
【化1】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)」
(2)「下記一般式(2)で表わされるアルデヒド化合物;
【0011】
【化2】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)」
(3)「下記一般式(2)で表わされるアルデヒド化合物を還元剤の共存下で反応させて得ることを特徴とする前記一般式(1)で表わされるメチロール化合物の製造方法;
【0012】
【化3】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【0013】
【化4】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)」
(4)「下記一般式(1)で表わされるメチロール化合物を含有することを特徴とする電荷輸送性膜状体;
【0014】
【化5】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)」
(5)「基板上に、直接又は下引層を介して、電荷発生層と電荷輸送層が積層されてなる電子写真感光体において、該電荷輸送層が前記(4)項に記載された電荷輸送性膜状体であることを特徴とする電子写真感光体。」
【発明の効果】
【0015】
本発明の前記一般式(1)で表されるメチロール化合物は、メチロール基と電荷輸送性を有し、成膜性や他のモノマーやポリカーボネート等の高分子材料との相溶性にも優れる。更に、例えばイソシアネート化合物等の水酸基と容易に反応し、高密度の架橋膜形成が可能であり、しかも高密度架橋構造を有しながら良好な電荷輸送特性を示す。このため、良好な電荷輸送性と機械的耐久性や耐熱性の要求される各種有機半導体デバイス、例えば前出の有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等用の有機機能材料として極めて有用に用いることができる。
また本発明の上記メチロール化合物の製造原料として有用な前記一般式(2)の新規アルデヒド化合物を、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いた還元反応より、目的のメチロール化合物を容易に合成して提供することができるという極めて優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】合成例1において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図2】合成例2において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図3】合成例3において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図4】合成例4において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図5】合成例5において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図6】合成例6において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図7】合成例7において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図8】合成例8において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図9】合成例9において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図10】合成例10において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図11】合成例11において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図12】合成例12において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(KBr錠剤法)であり、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細を説明する。
前記一般式(1)で表される本発明のメチロール化合物の具体例を以下の表1に示すが、本発明は何らこれら例示の化合物に限定されるものではない。
【0018】
【表1】
【0019】
前記一般式(1)で表される本発明のメチロール化合物は新規物質であり、前記一般式(2)で表されるアルデヒド化合物を製造原料として用い、これらの原料を水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤によって、還元反応させることにより合成することができる。
例えば、以下の手順でアルデヒド化合物を合成し、得られたアルデヒド化合物を還元反応させて本発明のメチロール化合物を容易に合成することができる。
【0020】
[アルデヒド化合物の合成]
下記反応式に示すようにトリフェニルアミン化合物を原料とし、これを従来知られている方法(例えばビルスマイヤー反応)を用いてホルミル化し、アルデヒド化合物を合成することができる。
【0021】
【化6】
【0022】
すなわち、上記の具体的なホルミル化の方法としては、塩化亜鉛/オキシ塩化リン/ジメチルホルムアルデヒドを用いた方法が有効であるが、本発明の中間体(メチロール化合物原料)であるアルデヒド化合物を得るための合成方法は、これらに限定されるものではない。具体的な合成例については後述の実施例に示す。
【0023】
[メチロール化合物の合成]
下記反応式に示すようにアルデヒド化合物を製造原料とし、これを従来知られている還元方法を用いてメチロール化合物を合成することができる。
【0024】
【化7】
【0025】
すなわち、上記の具体的な還元方法としては、水素化ホウ素ナトリムを用いた方法が有効であるが、本発明のメチロール化合物を得るための合成方法は、これらに限定されるものではない。具体的な合成例については後述の実施例に示す。
【0026】
本発明の前記一般式(1)で表されるメチロール化合物は、分子中に2つのトリフェニルアミン構造を連結基で介した主要骨格構造を有するため、結晶性が低く、他のモノマーやポリカーボネート等の高分子材料との相溶性に優れた電荷輸送機能を有する。
更に、例えばイソシアネート化合物等の水酸基と容易に化学反応し、高密度の架橋膜形成が可能であり、しかも高密度架橋構造を有しながら良好な電荷輸送特性を示す。このため、良好な電荷輸送性と機械的耐久性や耐熱性の要求される各種有機半導体デバイス、例えば前出の有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等用の有機機能材料として極めて有用に用いることができる。
また、本発明のメチロール化合物は、他のモノマーやポリカーボネート等の高分子材料との相溶性も良好であり、例えば、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、トリメチロールプロパンアクリレート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、スミジュールHT(住化バイエルン社製)等が挙げられる。
芳香族イソシアネート化合物として、トリレンジイソシナネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、及びその重合体であるポリメリック(MDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、また(TDI)、(MDI)あるいは(XDI)とトリメチロールプロパン等のポリオールとのアダクト型が挙げられる。
これらのモノマーは単一あるいは複数用いて本発明のメチロール化合物に混合してもよく、目的とする要求特性等に合せて選択することができる。これらのモノマーの混合量は目的によっても異なるが、例えば電子写真感光体の電荷輸送層に応用する場合、通常メチロール化合物との混合比(重量%)で0.01%〜1500%、好ましくは1%〜500%程度である。
また、前記芳香族イソシアネート化合物1分子中に占める全イソシアネート基の含有比率NCO%(〔NCO基〕/〔イソシアネート化合物〕:wt%)が3〜50であることも好適な態様であり、より好ましくは10〜50%である。
【実施例】
【0027】
以下、合成例及び評価例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
[合成例1(例示化合物1のための中間体1製造に用いたアルデヒド化合物原料の合成)]
【0029】
【化8】
4,4‘−ジアミノジフェニルメタン:19.83g、ブロモベンゼン:69.08g、酢酸パラジウム:2.24g、ターシャルブトキシナトリウム:46.13g、o-キシレン:250mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。トリターシャルブチルホスフィン:8.09gを滴下。80℃にて1時間、還流にて1時間撹拌継続。トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土、シリカゲルを入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、結晶物が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行ない、目的物を得た。(収量45.73g、薄黄色粉末、赤外吸収スペクトルを図1に示す)
【実施例1】
【0030】
[合成例2(実施例1;例示化合物1の製造原料として用いたアルデヒド化合物の合成)]
【0031】
【化9】
中間体原料:30.16g、N-メチルホルムアニリド:71.36g、o-ジクロロベンゼン:400mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。オキシ塩化リン:82.01gを滴下。80℃に昇温し、撹拌。塩化亜鉛:32.71gを滴下。80℃にて撹拌を約10時間行ない、120℃にて約3時間撹拌継続。水酸化カリウム水溶液を加え、加水分解反応を行なった。ジクロロメタンにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水、活性白土にて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮を行ない、結晶物を得た。シリカゲルカラム精製(トルエン/酢酸エチル=8/2)を行ない、単離した。得られた結晶物をメタノール/酢酸エチルにて再結晶し、目的物を得た。(収量27.80g、黄色粉末、赤外吸収スペクトルを図2に示す)
【実施例2】
【0032】
[合成例3(実施例2;例示メチロール化合物1の合成)]
【0033】
【化10】
中間体アルデヒド化合物:12.30g、エタノール:150mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:3.63gを投下。そのまま4時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得た。(収量12.0g、薄黄白色アモルファス、赤外吸収スペクトルを図3に示す)
【0034】
[合成例4(例示化合物2のための中間体2製造に用いたアルデヒド化合物原料の合成)]
【0035】
【化11】
4,4‘−ジアミノジフェニルエーテル:20.02g、ブロモベンゼン:69.08g、酢酸パラジウム:0.56g、ターシャルブトキシナトリウム:46.13g、o-キシレン:250mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。トリターシャルブチルホスフィン:2.02gを滴下。80℃にて1時間、還流にて1時間撹拌継続。トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土、シリカゲルを入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、結晶物が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行ない、目的物を得た。(収量43.13g、薄茶色粉体、赤外吸収スペクトルを図4に示す)
【実施例3】
【0036】
[合成例5(実施例3;例示化合物2の製造に用いたアルデヒド化合物の合成)]
【0037】
【化12】
中間体原料:30.27g、N-メチルホルムアニリド:71.36g、o-ジクロロベンゼン:300mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。オキシ塩化リン:82.01gを滴下。80℃に昇温し、撹拌。塩化亜鉛:16.36gを滴下。80℃にて撹拌を1時間行ない、120℃にて4時間、140℃にて3時間撹拌継続。水酸化カリウム水溶液を加え、加水分解反応を行なった。トルエン溶媒を用いて、抽出し、硫酸マグネシウムを入れ、濾過、洗浄、濃縮。トルエン/酢酸エチルにてカラム精製を行ない、濃縮後結晶が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行ない、目的物を得た。(収量14.17g、薄黄色粉体、赤外吸収スペクトルを図5に示す)
【実施例4】
【0038】
[合成例6(実施例4;例示メチロール化合物2の合成)]
【0039】
【化13】
中間体アルデヒド化合物:6.14g、エタノール:75mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:1.82gを投下。そのまま7時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得。(収量5.25g、白色アモルファス、赤外吸収スペクトルを図6に示す)
【0040】
[合成例7(例示化合物3のための中間体3製造に用いたアルデヒド化合物原料の合成)]
【0041】
【化14】
ジフェニルアミン:22.33g、ジブロモスチルベン:20.28g、酢酸パラジウム:0.336g、ターシャルブトキシナトリウム:13.84g、o-キシレン:150mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。トリターシャルブチルホスフィン:1.22gを滴下。80℃にて1時間、還流にて2時間撹拌継続。トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土、シリカゲルを入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、結晶物が得られた。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行ない、目的物を得た。(収量29.7g、黄色粉体、赤外吸収スペクトルを図7に示す)
【実施例5】
【0042】
[合成例8(実施例5;例示化合物3の製造に用いたアルデヒド化合物の合成)]
【0043】
【化15】
脱水ジメチルホルムアルデヒド:33.44g、脱水トルエン:84.53gを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気、氷水浴下にて撹拌。オキシ塩化リン:63.8gをゆっくり滴下。そのまま約1時間撹拌継続。中間体原料:26.76gを脱水トルエン:106g溶解液をゆっくり滴下。80℃にて撹拌を1時間行ない、還流にて5時間撹拌継続。水酸化カリウム水溶液を加え、加水分解反応を行なった。トルエンにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、濃縮。カラム精製(トルエン/酢酸エチル=8/2)により単離した。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得た。(収量16.66g、オレンジ粉末、赤外吸収スペクトルを図8に示す)
【実施例6】
【0044】
[合成例9(実施例6;例示メチロール化合物3の合成)]
【0045】
【化16】
中間体アルデヒド化合物:6.54g、エタノール:75mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:1.82gを投下。そのまま4時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得。(収量2.30g、黄色アモルファス、赤外吸収スペクトルを図9に示す)
【0046】
[合成例10(例示化合物4のための中間体4製造に用いたアルデヒド化合物原料の合成)]
【0047】
【化17】
2,2‘−エチレンジアニリン:21.23g、ブロモベンゼン:75.36g、酢酸パラジウム:0.56g、ターシャルブトキシナトリウム:46.13g、o-キシレン:250mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気&室温下にて撹拌。トリターシャルブチルホスフィン:2.03gを滴下。還流撹拌にて、8時間継続。トルエンにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土を加え、室温下で撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、結晶物を得た。メタノールにて分散し、濾過、洗浄、乾燥を行ない、目的物を得た。(収量47.65g、薄茶色粉末、赤外吸収スペクトルを図10に示す)
【実施例7】
【0048】
[合成例11(実施例7;例示化合物4製造のための中間体アルデヒド化合物の合成)]
【0049】
【化18】
中間体原料ドナー:31.0g、N-メチルホルムアニリド:71.36g、o-クロロベンゼン:400mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気&室温下にて撹拌。オキシ塩化リン:82.01gをゆっくり滴下し、80℃に昇温。塩化亜鉛:32.71gを加え、80℃にて1時間、120℃にて約24時間継続。水酸化カリウム水溶液を加え、加水分解反応を行なった。トルエンにて希釈し、その後水洗し、油層を塩化マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着し、濾過、洗浄、濃縮を行ない、目的物を得た。(収量22.33g、黄色液体、赤外吸収スペクトルを図11に示す)
【実施例8】
【0050】
[合成例12(実施例8;例示メチロール化合物4の合成)]
【0051】
【化19】
中間体アルデヒド化合物:9.43g、エタノール:100mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:2.72gを投下。そのまま7時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得た。(収量8.53g、白色アモルファス、赤外吸収スペクトルを図12に示す)
【0052】
以上に示した反応により合成される前記一般式(2)で表されるアルデヒド化合物を、本発明のメチロール化合物製造のための原料として用い、これを還元反応させることによって前記一般式(1)で表される本発明のメチロール化合物が容易に製造されることがわかる。更に、上記反応により前出の他の例示化合物5,6も容易に製造される。
【実施例9】
【0053】
<電荷輸送性評価>
[実施例9(応用例1)]
アルミ板上に下記組成の下引き層用塗工液、電荷発生層用塗工液、電荷輸送層用塗工液を順次、塗布、乾燥することにより、0.3μmの下引き層、0.3μmの電荷発生層、20μmの電荷輸送層を形成して6種類の感光体(1)〜(6)を作製した。
なお、6種類の感光体における電荷輸送層用塗工液の組成分として、それぞれ前記合成例において合成した本発明の例示メチロール化合物1〜4及び比較例化合物(I)、(II)を用いた。
【0054】
<下引き層用塗工液>
ポリアミド樹脂(CM−8000:東レ社製): 2部
メタノール: 49部
ブタノール: 49部
【0055】
<電荷発生層用塗工液>
下記構造式のビスアゾ顔料 : 2.5部
【0056】
【化20】
ポリビニルブチラール(XYHL:UCC社製): 0.5部
シクロヘキサノン: 200部
メチルエチルケトン: 80部
【0057】
<電荷輸送層用塗工液:(1)>
ビスフェノールZポリカーボネート
(パンライトTS−2050、帝人化成社製): 10部
電荷輸送性化合物
(表2に示す例示メチロール化合物1: 10部
テトラヒドロフラン: 80部
1%シリコーンオイルのテトラヒドロフラン溶液
(KF−50−100CS、信越化学工業社製): 0.2部
【実施例10】
【0058】
[実施例10(応用例2)]
実施例9(応用例1)における例示メチロール化合物1を、例示メチロール化合物2に変えた以外は、実施例9と同様にして感光体No(2)を作製した。
【実施例11】
【0059】
[実施例11(応用例3)]
実施例9(応用例1)における例示メチロール化合物1を、例示メチロール化合物3に変えた以外は、実施例9と同様にして感光体No(3)を作製した。
【実施例12】
【0060】
[実施例12(応用例4)]
実施例9(応用例1)における例示メチロール化合物1を、例示メチロール化合物4に変えた以外は、実施例9と同様にして感光体No(4)を作製した。
【0061】
[比較例1]
実施例9(応用例1)における例示メチロール化合物1を、つぎに示す化合物(I)に変えた以外は、実施例9と同様にして感光体No(5)を作製した。
【0062】
【化21】
【0063】
[比較例2]
実施例9(応用例1)における例示メチロール化合物1を、つぎに示す化合物(II)に変えた以外は、実施例9と同様にして感光体No(6)を作製した。
【0064】
【化22】
【0065】
上記により得られた感光体(1)〜(6)について、市販の静電複写紙試験装置[(株)川口電機製作所製EPA−8200型]を用い、半減露光量と残留電位から電荷輸送性を評価した。
すなわち、暗所で−6kVのコロナ放電により−800Vに帯電せしめた後、タングステンランプ光を感光体表面での照度が4.5luxになるように照射して、電位が1/2になるまでの時間(秒)を求め、半減露光量E1/2 (lux・sec)を算出した。また、露光30秒後の残留電位(−V)を求めた。なお、半減露光量が小さいほど感度が良く、残留電位が小さいほど電荷のトラップが少ないことを表す。
評価結果を下記表2に示す。
【0066】
【表2】
上記評価結果から、公知材料であるメチロール基を有していない電荷輸送性化合物(I)を用いた比較感光体に比べて、本発明のメチロール化合物を用いた感光体(1)〜(4)は遜色なく、半減露光量が小さく感度が良好であり、残留電位が無く電荷のトラップの無いことが明確であり良好な電荷輸送性を示すことが分る。
【0067】
<耐ソルベント性評価>
また、上記感光体(1)〜(6)の表面に10mm×10mmの範囲で指脂を付着させ、45℃/43%RHの暗所環境下に1週間放置した後、顕微鏡にてソルベントクラックの有無を観察した。結果を表3示す。
【0068】
【表3】
(クラック評価)
○:発生なし、△:5本未満の発生、×:5本以上(ほぼ全面クラック)の発生
公知材料であるメチロール基を有さない電荷輸送性化合物(I)では、ほぼ全面にクラックが見られた。また、メチロール基を有するが、剛直な構造である化合物(II)では、若干のクラックが見られた。
これら比較例に対し、本発明のメチロール化合物を用いた感光体(1)〜(4)は、クラックが発生しなかった。
【実施例13】
【0069】
<硬化膜のゲル分率測定>
上記合成例で合成した例示化合物1を用いて以下の〈塗工液A〉を調製し、この塗工液Aをアルミ板上にブレード塗工して指触乾燥後、135℃30分の加熱条件にて架橋反応し、厚さ5μmの硬化膜を作製した。得られた硬化膜のゲル分率を求めた。ゲル分率は、アルミ支持体上に架橋型電荷輸送層塗工液を上記のような態様で、直接塗工し、熱乾燥した膜を、テトラヒドロフラン溶液に25℃で5日間浸漬させ、ゲル分の質量残率より、下記数式1から求めた。結果を表3に示す。
【0070】
【数1】
【0071】
〈塗工液A〉
例示化合物1: 10部
トルエン−2,4−ジイソシアネート(TDI、東京化成社製): 10部
テトラヒドロフラン: 80部
【実施例14】
【0072】
[実施例14(塗工液Bからの塗工膜の作製)]
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、例示化合物2を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Bを調製し、同様に厚さ5μmの硬化膜を作製した。そして、この硬化膜について同様にゲル分率測定をした。結果を表3に示す。
【実施例15】
【0073】
[実施例15(塗工液Cからの塗工膜の作製)]
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、例示化合物3を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Cを調製し、同様に厚さ5μmの硬化膜を作製した。そして、この硬化膜について同様にゲル分率測定をした。結果を表3に示す。
【実施例16】
【0074】
[実施例16(塗工液Dからの塗工膜の作製)]
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、例示化合物4を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Dを調製し、同様に厚さ5μmの硬化膜を作製した。そして、この硬化膜について同様にゲル分率測定をした。結果を表3に示す。
【0075】
[比較例3(塗工液Eからの塗工膜の作製)]
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、比較化合物として下記化合物(III)を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Eを調製し、同様に厚さ5μmの硬化膜を作製した。そして、この硬化膜について同様にゲル分率測定をした。結果を表3に示す。
【0076】
【化23】
【0077】
[比較例4(塗工液Fからの塗工膜の作製)]
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、比較化合物として下記化合物(IV)を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Fを調製し、同様に厚さ5μmの硬化膜を作製した。そして、この硬化膜について同様にゲル分率測定をした。結果を表4に示す。
【0078】
【化24】
【0079】
【表4】
【0080】
上記評価結果から、本発明のメチロール化合物は、比較例に示した従来知られている電荷輸送性モノマーと比べてゲル分率が高く、架橋密度の高い硬化膜が形成されていることが分る。このような高密度架橋構造により、各種有機半導体デバイス用の有機機能材料として適用する場合に要求される摩耗や傷等に対する機械的耐久性や耐熱性の向上に応えることができる。
【0081】
上の評価例1(電荷輸送性評価)及び評価例2(硬化膜のゲル分率)から、化学反応により機械的耐久性や耐熱性に対応できる高密度な架橋構造の形成と共に、良好な電荷輸送特性の発現を両立することができるのは本発明のメチロール化合物であり、従来公知の電荷輸送性化合物の場合にはいずれも両立を達成することができない。
したがって、本発明のメチロール化合物は前記各種有機半導体デバイスを提供するための材料として極めて有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0082】
【特許文献1】特開平6−118681号公報
【特許文献2】特開平9−124943号公報
【特許文献3】特開平9−190004号公報
【特許文献4】特開2000−171990号公報
【特許文献5】特開2003−186223号公報
【特許文献6】特開2007−293197号公報
【特許文献7】特開2007−153765号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされることを特徴とするメチロール化合物。
【化1】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表わされるアルデヒド化合物。
【化2】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【請求項3】
下記一般式(2)で表わされるアルデヒド化合物を還元剤の共存下で反応させて得ることを特徴とする前記一般式(1)で表わされるメチロール化合物の製造方法。
【化3】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【化4】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【請求項4】
下記一般式(1)で表わされるメチロール化合物を含有することを特徴とする電荷輸送性膜状体。
【化5】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【請求項5】
基板上に、直接又は下引層を介して、電荷発生層と電荷輸送層が積層されてなる電子写真感光体において、該電荷輸送層が請求項4に記載された電荷輸送性膜状体であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされることを特徴とするメチロール化合物。
【化1】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表わされるアルデヒド化合物。
【化2】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【請求項3】
下記一般式(2)で表わされるアルデヒド化合物を還元剤の共存下で反応させて得ることを特徴とする前記一般式(1)で表わされるメチロール化合物の製造方法。
【化3】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【化4】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【請求項4】
下記一般式(1)で表わされるメチロール化合物を含有することを特徴とする電荷輸送性膜状体。
【化5】
(式中、Xは−O−、−CH2−、−CH=CH−、-CH2CH2−を表す。)
【請求項5】
基板上に、直接又は下引層を介して、電荷発生層と電荷輸送層が積層されてなる電子写真感光体において、該電荷輸送層が請求項4に記載された電荷輸送性膜状体であることを特徴とする電子写真感光体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−193115(P2012−193115A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56089(P2011−56089)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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