説明

新規化合物および新規色素

【解決手段】下記式(1)で表される化合物および下記式(1)で示される配位子を有する色素。


(上記一般式(1)中、Xは窒素原子等、R1およびR2は、水素原子または炭素数1〜40の炭化水素基、R3は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、等、R4は、水素原子または炭素数1〜40の炭化水素基、R5は、水素原子、水酸基または炭素数1〜40のアルコキシ基である。)
【効果】可視光領域の光の吸収が大きく、この色素を色素増感太陽電池に使用した場合には高い変換効率を示すことが期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物および該化合物を配位子として有する色素に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー問題に対する関心の高まりと共に光、特に太陽光を効率よく電気に変換できる太陽電池の研究が進められている。一般に太陽電池としては、アモルファスシリコン又は多結晶シリコンを利用したシリコン系の太陽電池が普及し始めている。しかし、シリコン系太陽電池は、コストが高く、また、高純度シリコンの供給面での問題があり、一般に広く普及するには限界があるといわれている。
【0003】
近年、色素増感太陽電池が関心を集めている。色素増感太陽電池は、発電効率が高いこと、製造コストが比較的低いこと、酸化チタン等の安価な酸化物半導体を高純度に精製することなく原料として使用できること、製造に際して使用する設備が安価ですむこと等の点でシリコン系の太陽電池と比較して多くの利点を有するものとして期待されている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0004】
色素増感太陽電池において、その発電効率や耐候性、耐熱性は、色素に大きく依存することが知られている。色素増感太陽電池用の色素としては、例えば、「N3」と呼ばれる色素、「N719」と呼ばれる色素や、「ブラック・ダイ」と呼ばれる色素が従来広く用いられている(例えば、非特許文献1および2参照。)。
【0005】
しかし、これらの色素は、可視光領域の光の吸収が十分ではなく、太陽電池としての変換効率の面で十分ではなかった。このため、更に優れた色素の開発が待たれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4927721号
【特許文献2】国際公開第98/50393号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,115,6382−6390(1993)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,123,1613−1624(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、可視光領域の光の吸収が大きく、色素増感太陽電池に使用した場合に、高い変換効率を示す色素増感太陽電池が得られることが期待される新規な色素、該色素の配位子として利用される化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は、下記一般式(1)で表される化合物、およびこの化合物を配位子として有する色素によって達成される。
【0010】
【化1】

【0011】
(上記一般式(1)中、Xは窒素原子または=CR5−であり、R1およびR2は、それぞ
れ独立に、水素原子または炭素数1〜40の炭化水素基、R3は、水素原子、ハロゲン原
子、水酸基、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基または炭素数1〜40の炭化水素基、R4は、水素原子または炭素数1〜40の炭化水素基、R5は、水素原子、水酸基または炭素数1〜40のアルコキシ基である。)
また、前記色素は下記一般式(2)で表わされることが好ましい。
【0012】
【化2】

【0013】
(上記一般式(2)中、Mは長周期表上の8〜10族の元素であり、L1およびL2は二座配位子であり、L1およびL2の内、少なくとも一つは上記一般式(1)で表わされる配位子であり、X1およびX2は一価の原子団又は一座配位子である。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の色素は、上記一般式(1)で表される化合物を配位子として用いた色素であるため、可視光領域の光の吸収が大きく、この色素を色素増感太陽電池に使用した場合に、この色素増感太陽電池は高い変換効率を示すことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】合成例1−4で得られた化合物(D)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】合成例1−5で得られた化合物(E)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】合成例1−6で得られた化合物(F)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】合成例1−6で得られた化合物(F)のIRスペクトルを示す図である。
【図5】合成例1−6で得られた化合物(F)のUVスペクトルを示す図である。
【図6】合成例1−6で得られた化合物(F)のUVスペクトルの拡大図である。
【図7】「N−3」色素のUVスペクトルを示す図である。
【図8】「N−3」色素のUVスペクトルの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の新規な化合物および色素を具体例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0017】
本発明の色素は、下記一般式(1)で表される化合物を配位子として有する。下記一般
式(1)で表される化合物が本発明の化合物である。
【0018】
【化3】

【0019】
上記一般式(1)中、Xは窒素原子または=CR5−である。ここで、R5は、水素原子、水酸基または炭素数1〜40のアルコキシ基である。R5で表される炭素数1〜40の
アルコキシ基としては、容易に合成できるという観点から、炭素数1〜12のアルコキシ基であることが好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、アリルオキシ基、ベンジルオキシ基等を挙げることができる。
【0020】
また、上記一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜40の炭化水素基である。炭素数1〜40の炭化水素基の中でも、容易に合成できるという観点から、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基等が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル等を挙げることができる。
【0021】
また、上記一般式(1)中、R3は、水酸基、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基
または炭素数1〜40の炭化水素基である。炭素数1〜40の炭化水素基としては、容易に合成できるという観点から、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基等が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル等を挙げることができる。R3としては、これらの中でも特にカルボン酸基が好ましい。
【0022】
また、上記一般式(1)中、R4は、水素原子または炭素数1〜40の炭化水素基であ
る。炭素数1〜40の炭化水素基としては、容易に合成できるという観点から、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基等が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル等を挙げることができる。R4としては、容易に合成できるとい
う観点から、これらの中でも特に水素原子、が好ましい。
【0023】
上記一般式(1)で表される化合物の製造方法としては、たとえば、下記式(7)で表わされる化合物(以下、化合物(7)ともいう。)、下記式(8)で表わされる化合物(以下、化合物(8)ともいう。)及びアンモニウム塩を反応させて下記式(9)で表わさ
れる化合物(以下、化合物(9)ともいう。)を得る工程(a)と、必要に応じて下記式(9)で表わされる化合物と金属アルコキシドとを反応させた後、酸処理して上記一般式(1)で表わされる化合物を得る工程(b)とを含む製造方法を挙げることができる。まず、工程(a)について説明する。
【0024】
【化4】

【0025】
上記一般式(7)中、X、R2およびR4は、それぞれ上記一般式(1)におけるX、R2およびR4と同義であり、R6は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜40の炭化水素
基、−CON(R72、−OR8、−PO(OR93、または−SO2(OR10)であり、R7〜R10は、それぞれ独立に炭素数1〜40の炭化水素基である。
【0026】
【化5】

【0027】
上記一般式(8)中、R1は、上記一般式(1)のR1と同義である。
【0028】
【化6】

【0029】
上記一般式(9)中、X、R1、R2およびR4は、それぞれ上記一般式(1)中のX、
1、R2およびR4と同義であり、R6は、上記式(7)中のR6と同義である。
【0030】
アンモニウム塩としては、有機アンモニウム塩または無機アンモニウムのいずれでもよく、有機アンモニウム塩としては、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウムなどが挙げられ、無機アンモニウム塩としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどが挙げられる。
【0031】
上記式(8)で表わされる化合物としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルt−ブチルケトンなどが挙げられる。
【0032】
化合物(7)、化合物(8)及びアンモニウム塩の反応において、化合物(7)と化合物(8)とのモル比(化合物(8)/化合物(7))は、通常は1〜5、好ましくは1〜2である。
【0033】
化合物(7)、化合物(8)及びアンモニウム塩の反応において、化合物(7)とアンモニウム塩とのモル比(アンモニウム塩/化合物(7))は、通常は1〜20、好ましくは2〜10である。
【0034】
また、このようなモル比で化合物(7)、化合物(8)及びアンモニウム塩を反応させると新規化合物(1)を収率良く、容易に合成することができる。
【0035】
上記の反応条件は特に限定されないが、反応温度は、通常は−30〜120℃、好ましくは−20〜90℃であり、反応時間は、通常は0.1〜48時間、好ましくは0.5〜24時間である。
【0036】
また、該反応は、塩基性化合物の存在下で行うことができる。化合物(7)と塩基性化合物とのモル比(塩基性化合物/化合物(7))は、通常は1〜10、好ましくは2〜5である。
【0037】
塩基性化合物としては、金属アルコキシド、アミン化合物を挙げることができ、合成の容易さの観点から、金属アルコキシドであることが好ましい。金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、tert−ブトキシカリウム、tert−ブトキシナトリウム、tert−ブトキシリチウムなどを挙げることができる。
【0038】
また、上記反応は、通常、溶媒中で行われ、溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トルエン、ベンゼンなどの炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0039】
続いて、上記工程(b)ついて説明する。
【0040】
工程(b)において、化合物(9)と金属アルコキシドを反応させるが、金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、tert−ブトキシカリウム、tert−ブトキシナトリウム、tert−ブトキシリチウムなどを挙げることができる。化合物(9)と金属アルコキシドとのモル比(金属アルコキシド/化合物(9))は、通常は1〜50、好ましくは2〜20である。
【0041】
また、工程(b)において酸処理は、化合物(9)と金属アルコキシドを反応させて得られた溶液のpHを1〜6とすることが好ましく、2〜5とすることがより好ましい。pHを該範囲に調整する方法としては、例えば、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、リン酸水素ナトリウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどを、化合物(9)と金属アルコキシドを反応させて得られた溶液に添加する方法などが挙げられる。
【0042】
また、上記反応は、通常、溶媒中で行われ、溶媒としては、メタノール、エタノール、1−ブタノールなどのアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、水などが挙げられる。
【0043】
上記式(9)で表わされる化合物において、R6が水素原子、または炭素数1〜40の
炭化水素基である場合、化合物(9)はそれぞれR3が水素原子、または炭素数1〜40
の炭化水素基である化合物(1)であるので、上記工程(b)は不要である。上記式(9)で表わされる化合物において、R6が、−CON(R72、−OR8、−PO(OR93、または−SO2(OR10)である場合には、上記工程(b)を行うことにより、それぞ
れR3がカルボン酸基、水酸基、リン酸基、またはスルホン酸基である化合物(1)を得
ることができる。また、R6が−OR8の場合には、工程(b)は行わなくてもよい。
【0044】
また、上記式(7)で表わされる化合物は、下記式(5)で表わされる化合物(以下、化合物(5)ともいう。)に二硫化炭素および下記式(6)で表わされる化合物(以下、化合物(6)ともいう。)を反応させることで合成することができる。
【0045】
【化7】

【0046】
上記一般式(5)中、XおよびR4は、それぞれ上記一般式(1)中のXおよびR4と同義であり、R6は、上記式(7)中のR6と同義である。
【0047】
【化8】

【0048】
上記一般式(6)中、Zはハロゲン原子を示し、R2は、上記一般式(1)中のR2と同義である。
【0049】
上記式(6)で表わされる化合物としては、ヨウ化メチル、臭化メチル、ヨウ化エチル、臭化エチル、ヨウ化プロピル、臭化プロピル、ヨウ化ブチル、臭化ブチルなどが挙げられる。
【0050】
化合物(5)と、二硫化炭素および化合物(6)との反応において、化合物(5)と二硫化炭素とのモル比(二硫化炭素/化合物(5))は、通常は2〜30、好ましくは5〜20である。
【0051】
化合物(5)と、二硫化炭素および化合物(6)との反応において、化合物(5)と化合物(6)とのモル比(化合物(6)/化合物(5))は、通常は2〜20、好ましくは3〜10である。
【0052】
また、このようなモル比で化合物(5)と、二硫化炭素および化合物(6)とを反応させると化合物(7)を収率良く、容易に合成することができる。
【0053】
上記の反応条件は特に限定されないが、反応温度は、通常は−30〜120℃、好ましくは−20〜90℃であり、反応時間は、通常は0.1〜48時間、好ましくは0.5〜24時間である。
【0054】
また、該反応は、金属アルコキシドの存在下で行うことができる。化合物(5)と金属アルコキシドとのモル比(金属アルコキシド/化合物(5))は、通常は1〜10、好ましくは2〜5である。
【0055】
また、上記反応は、通常、溶媒中で行われ、溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トルエン、ベンゼンなどの炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0056】
さらに、上記式(5)で表わされる化合物は、下記式(4)で表わされる化合物(以下、化合物(4)ともいう。)にパラアルデヒドを反応させる方法により合成することができる。該方法は、例えば、J.Org.Chem., Vol. 56,No.8(19
91)にしたがって行うことができる。
【0057】
【化9】

【0058】
上記一般式(4)において、XおよびR4は、それぞれ上記一般式(1)中のXおよび
4と同義であり、R6は、上記式(7)中のR6と同義である。
【0059】
化合物(4)とパラアルデヒドとの反応において、化合物(4)とパラアルデヒドとのモル比(パラアルデヒド/化合物(4))は、通常は1〜20、好ましくは2〜10である。
【0060】
また、このようなモル比で化合物(4)とパラアルデヒドとを反応させると化合物(5)を収率良く、容易に合成することができる。
【0061】
上記の反応条件は特に限定されないが、反応温度は、通常は−30〜120℃、好ましくは−20〜90℃であり、反応時間は、通常は0.1〜48時間、好ましくは0.5〜24時間である。
【0062】
また、該反応は、酸、硫酸鉄(II)およびt−ブチルヒドロペルオキシドの存在下で行うことができる。
【0063】
酸としては、硫酸、硝酸などの無機酸やカルボン酸などの有機酸などが挙げられる。カルボン酸としては、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸などが挙げられる。
【0064】
上記反応は、金属アルコキシドの存在下で行うことができる。化合物(4)と金属アルコキシドとのモル比(金属アルコキシド/化合物(4))は、通常は1〜10、好ましくは2〜5である。
【0065】
また、上記反応は、通常、溶媒中で行われ、溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トルエン、ベンゼンなどの炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0066】
本発明の色素は、配位子として有する上記一般式(1)で表される化合物が、上記のように−SR2基を有するジピリジン誘導体であることにより、ジピリジン誘導体ではあっ
ても−SR2基を有していないジピリジン誘導体を配位子として有するN719等の色素
と比較して、可視光領域の光の吸収が大きい。このため、本発明の色素は、N3およびN719等の従来の色素と同様に色素増感太陽電池に使用することができ、色素増感太陽電池に使用した場合に、従来の色素を使用した場合と比較して、より高い変換効率を有する色素増感太陽電池が得られることが期待される。
【0067】
本発明の色素が配位子として有する上記一般式(1)で表される化合物の数としては特に制限はなく、上記一般式(1)で表される化合物が配位する金属原子がルテニウムの場合には通常2個である。
【0068】
本発明の色素は、上記一般式(1)で表される化合物以外の配位子を有することもできる。そのような配位子としては、具体的には、下記式(11)〜(17)で表される一価の原子団又は一座配位子などが挙げられる。
【0069】
【化10】

【0070】
上記式(12)中のR11は、アルキル基であり、その中でも炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。また、式(13)および(17)中のArは、アリール基であり、その中でも炭素数6〜12のアリール基であることが好ましい。本発明の色素が有する、上記一般式(1)で表される化合物以外の配位子としては、上記の原子団又は配位子の中でも、上記式(11)で示す配位子(イソチオシアナート)が特に好ましい。
【0071】
本発明の色素が有する上記一般式(1)で表される化合物以外の配位子の数としては、上記一般式(1)で表される化合物が配位される限り特に制限はない。
【0072】
本発明の色素において、上記一般式(1)で表される化合物が配位する金属原子としては、長周期表上の8〜10族の元素、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、白金等を挙げることができる。これらのうち、色素体用電池用の
色素として用いた場合の変換効率の向上という点から、ルテニウムが好ましい。
【0073】
本発明の、上記一般式(1)で表される化合物を配位子として有する色素は、下記一般式(2)で表されることが好ましい。式(2)で表される色素を使用した色素増感太陽電池は特に高い変換効率を示す。
【0074】
【化11】

【0075】
上記一般式(2)中、Mは長周期表上の8〜10族の元素であり、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、白金等を挙げることができ、上記のとおりルテニウムであることが好ましい。
【0076】
上記一般式(2)中、L1およびL2は二座配位子であり、L1およびL2の内、少なくとも一つは上記一般式(1)で表わされる配位子である。ただし、可視光領域の光の吸収が大きい色素増感太陽電池を得るという観点からは、L1およびL2の両方が上記一般式(1)で表わされる配位子であることが好ましい。L1およびL2の内、一方のみが上記一般式(1)で表わされる配位子である場合、他方のL1またはL2としては、本発明の効果が阻害されない限り特に制限はなく、公知の二座配位子であって差し支えない。
【0077】
上記一般式(2)中、X1およびX2は一価の原子団又は一座配位子であり、上述した上記式(11)〜(17)で表される一価の原子団又は一座配位子などが挙げられる。
【0078】
上記一般式(2)で表される化合物の具体例としては下記式(21)で表わされる色素を挙げることができる。
【0079】
【化12】

【0080】
(上記一般式(21)中、R1〜R4は、それぞれ式(1)におけるR1〜R4と同義であり、L1およびL2は、一価の原子団又は一座配位子である。)
1およびL2で表される一価の原子団又は一座配位子としては、上述の式(11)〜(17)で表されるものを挙げることができる。
【0081】
本発明の色素は、例えば、上記一般式(1)で表される配位子を合成した後、「Nat.Mater.,2、402−407(2003)」に記載された方法等により合成することができる。
【0082】
このような本発明の色素は、色素増感太陽電池に好適に使用することができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【0084】
下記式(3)に示す反応経路に従って、目的とする化合物(D)、(E)および(F)を合成した。化合物(D)は本発明に係る化合物であり、化合物(E)および(F)は本発明に係る色素である。
【0085】
【化13】

【0086】
[合成例1−1]
2L4つ口フラスコに温度計、滴下ロートおよびジムロート冷却管を装着したのち、N,N−ジエチルイソニコチンアミド 52g(292mmol)、パラアルデヒド 195.1g(1476mmol)、アセトニトリル 884gを入れ、窒素雰囲気下、10℃以下に冷却し、攪拌した。そこにトリフルオロ酢酸 33.9g(297mmol)を、反応液温度を10℃以下に保ちながら約20分間かけて滴下した。次いで、硫酸鉄七水和物 1.3g(16mmol)を加え、更に10分間攪拌し、次いで、70%t−ブチルヒドロペルオキシド 73.3g(569mmol)を滴下した。30分間、10℃以下で攪拌後、25℃まで昇温し、更に、80℃で5時間、加熱攪拌を行った。反応液を50℃まで冷却した後、50℃で反応液を減圧濃縮した。この濃縮した反応液に、飽和炭酸ナトリウム液をゆっくり加え、反応液を中和した。この液から反応生成物をトルエン200mlで3回抽出し、この有機層を集め、蒸留水で水洗作業を行った。この有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥を行った後、ろ紙でろ過した。ろ液から溶媒を減圧留去し、粗生成物60.1gを得た。次いで、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(A)を30.7g(収率47%)得た。
[合成例1−2]
2L4つ口フラスコに温度計、滴下ロートおよびジムロート冷却管を装着したのち、上記合成例1−1で合成した化合物(A)30.7g(139mmol)を入れた。フラスコ内を窒素置換した後、テトラヒドロフラン614gを加え、25℃で攪拌した。次いで、二硫化炭素 37.0g(486mmol)を滴下し、次いで、ヨウ化メチル 154.1g(1085mmol)を滴下した。次いで、この反応溶液を10℃以下に冷却し、t−ブトキシカリウム 109.5g(976mmol)を少量づつ添加した。この添加の際、反応液の温度は30℃以下に保持した。t−ブトキシカリウム添加終了後、更に30℃で1時間攪拌した。次いで、反応液を、30℃で減圧濃縮した。この濃縮液に、塩化アンモニウム水溶液を加え攪拌した。この液から反応生成物を酢酸エチル200mlで3回抽出し、この有機層を集め、これに無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥を行った後、ろ紙でろ過した。ろ液から溶媒を残渣が約130gになるまで減圧留去した。この残渣にn−ヘキサンを加え、結晶化させた後、このヘキサン不溶分を吸引ろ過により分離した。得られた結晶成分を真空乾燥し、化合物(B)を28.9g(収率63%)得た。
[合成例1−3]
2L4つ口フラスコに温度計、滴下ロートおよびジムロート冷却管を装着したのち、上記合成例1−2で合成した化合物(B)28.9g(89mmol)を入れた。フラスコ内を窒素置換した後、テトラヒドロフラン722gを加え、更に、アセトン 9.3g(106mmol)を加え、25℃で攪拌した。次いで、t−ブトキシカリウム 130.0g(267mmol)を少量づつ添加し、t−ブトキシカリウム添加終了後、更に25℃で1時間攪拌した。次いで、酢酸 867gを加え、更に酢酸アンモニウム 30.9g(400mmol)を加えて攪拌した。次いで、反応液を、50℃で減圧濃縮した。この濃縮液に蒸留水200gを加え攪拌した後、この液から反応生成物をクロロホルム 200mlで3回抽出した。この有機層を集め、蒸留水でpHが中性(pH6〜7程度)になるまで水洗作業(蒸留水1500mlで5回の水洗)を繰り返した。この有機層に無水硫酸ナトリウムを加え、乾燥を行った後、ろ紙でろ過した。ろ液から溶媒を減圧留去し、粗生成物27.7gを得た。次いで、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(C)を11.1g(収率39%)得た。
[合成例1−4]
500mL3つ口フラスコに温度計、滴下ロートおよびジムロート冷却管を装着したのち、上記合成例1−3で合成した化合物(C)9.0g(28.5mmol)および1−ブタノール 90gを入れ、窒素雰囲気下、100℃で加熱攪拌した。次いで、この反応液中に28%ナトリウムメトキシド−メタノール溶液 46.2g(240mmol)を10分間かけ滴下し、更に5分後に蒸留水5.4gを10分間かけ滴下した。次いで、90℃で5時間加熱攪拌した後、反応液を25℃まで冷却した。次いで、フラスコ内に析出した目的物のナトリウム塩結晶を吸引ろ過で分離し、更にこの結晶を酢酸エチルで洗浄し、この塩結晶を真空乾燥した。この時点で目的物のナトリウム塩7.3gを得た。次いで、このナトリウム塩に蒸留水73gを加え攪拌し、得られた液に、硫酸水素ナトリウム3.6gを蒸留水3.6gに溶解した水溶液を加え、目的物のナトリウム塩溶液をpH4の弱酸性溶液とした。この溶液を氷冷した後、析出した結晶を吸引ろ過で分別し目的化合物(D)を5.0g(収率67%)得た。
【0087】
上記吸引ろ過で得られた結晶について1H−NMR測定、IR測定、MS分析を行い、
この結晶が化合物(D)の結晶であることを確認した。分析結果は以下の通りであった。1H−NMR測定の測定結果を図1に示す。
【0088】
1H-NMR(溶媒:d6-DMSO) 化学シフトσ: 8.85ppm(ピリジン環上5'位水素、1H)、8.79ppm(ピリジン環上3'位水素、1H)、8.05ppm(ピ
リジン環上3位水素、1H)、7.86ppm(ピリジン環上6'位水素、1H)、7.
23ppm(ピリジン環上5位水素、1H)、2.58ppm(CH3S−、3H)、2
.55ppm(ピリジン環上6位メチル、3H)。
IR(KBr錠): 3116cm-1、3085cm-1、2994cm-1、2985cm-1、2923cm-1、1735cm-1、1581cm-1、1544cm-1、1376cm-1、1321cm-1、1290cm-1、1257cm-1
【0089】
DI−MS:m/z=260(M+
[合成例1−5]
100mLフラスコにジムロート冷却管を装着し、これに、上記合成例1−4で合成した化合物(D)800mg(3.07mmol)、ジクロロ(p−シメン)−ルテニウム(II)ダイマー471mg (0.767mmol)、ジメチルホルムアミド 10gを入
れ、窒素雰囲気下において、190℃で22時間加熱攪拌を行った。反応液を空冷した後
、反応液を90℃で減圧濃縮し、目的物の粗生成物を得た。次いで、この粗生成物にエタノール50gを加え、攪拌した。この作業により析出した結晶を吸引ろ過により分取し、更にこの結晶をエタノールで洗浄し、真空乾燥後、目的化合物(E)577mg(収率68%)を得た。
【0090】
上記結晶について1H−NMR測定、IR測定を行い、この結晶が化合物(E)の結晶
であることを確認した。分析結果は以下の通りであった。1H−NMR測定の測定結果を
図2に示す。
【0091】
1H-NMR(溶媒:d6-DMSO) 化学シフトσ: 9.50ppm(ピリジン環上水素
、1H)、8.95ppm(ピリジン環上水素、1H)、8.85ppm(ピリジン環上水素、1H)、8.46ppm(ピリジン環上水素、1H)、8.39ppm(ピリジン環上水素、1H)、8.17ppm(ピリジン環上水素、1H)、7.75ppm(ピリジン環上水素、1H)、7.68ppm(ピリジン環上水素、1H)、7.32ppm(ピリジン環上水素、1H)、7.24ppm(ピリジン環上水素、1H)、3.19ppm(CH3基、3H)、2.73ppm(CH3基、3H)、2.57ppm(CH3基、
3H)、2.55ppm(CH3基、3H)、
IR(KBr錠): 2927cm-1、2854cm-1、2059cm-1、1963cm-1、1598cm-1、1550cm-1、1436cm-1、1367cm-1
[合成例1−6]
100mLフラスコにジムロート冷却管を装着し、これに、上記合成例1−5で合成し
た化合物(E)450mg(0.65mmol)、チオシアン酸アンモニウム 494m
g(6.5mmol)、ジメチルホルムアミド 10gを入れ、窒素雰囲気下において、180℃で8時間加熱攪拌を行った。反応液を空冷した後、反応液を、90℃で減圧濃縮
し、目的物の粗生成物を得た。次いで、この粗生成物をODSカラム(ODS =オクタ
デシルシリル(Octa Decyl Silyl)(=C1837Si)基で表面が修飾された化学結合型多孔性球状シリカゲルが固定相として充填されているタイプのもの)で精製し、水―アセトニトル溶媒で流出する成分を分取し、溶媒留去後、目的化合物(F)204mg(収率65%)を得た。
【0092】
上記溶媒留去により得られた生成物について1H−NMR測定、IR測定、UV吸収測
定、MS分析を行い、この生成物が化合物(F)であることことを確認した。分析結果は以下の通りであった。1H−NMR測定、IR測定、UV吸収測定の結果をそれぞれ図3
〜図5に示す。また、図5に示したUVスペクトルの拡大図を図6に示す。UV吸収測定の結果、可視光領域である532nm付近の波長の光の吸収が確認された。
【0093】
1H-NMR(溶媒:d4-MeOH) 化学シフトσ: 9.7ppm〜7.0ppm(ピリ
ジン環上水素)、3.3ppm〜2.5ppm(CH3S基、ピリジン環上6位メチル基
)。
IR(KBr錠): 2923cm-1、2850cm-1、2113cm-1、1978cm-
1、1718cm-1、1637cm-1、1617cm-1、1598cm-1、1540cm-1、1436cm-1
【0094】
UV吸収(EtOH 0.1mM溶液)258nm,309nm、532nm
LC−MS:m/z=680(M+ − SCN)
(比較例1)
「N−3」色素(アルドリッチ社製)についてUV吸収測定を行った結果を図7、8に示す。
【0095】
UV吸収(EtOH 0.1mM溶液)314nm,398nm、537nm
UV吸収スペクトルから、合成例(1−6)で得られた化合物(F)は、「N−3」色素と比較して、可視光領域における波長の光の吸収が大きいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上、説明してきたように、本発明の新規化合物を配位子として有する本発明の色素は、太陽電池用色素として、好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される配位子を有する色素。
【化1】

(上記一般式(1)中、Xは窒素原子または=CR5−であり、R1およびR2は、それぞ
れ独立に、水素原子または炭素数1〜40の炭化水素基、R3は、水素原子、ハロゲン原
子、水酸基、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基または炭素数1〜40の炭化水素基、R4は、水素原子または炭素数1〜40の炭化水素基、R5は、水素原子、水酸基または炭素数1〜40のアルコキシ基である。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表わされる、請求項1に記載の色素。
【化2】

(上記一般式(2)中、Mは長周期表上の8〜10族の元素であり、L1およびL2は二座配位子であり、L1およびL2の内、少なくとも一つは上記一般式(1)で表わされる配位子であり、X1およびX2は一価の原子団又は一座配位子である。)
【請求項3】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化3】

(上記一般式(1)中、Xは窒素原子または=CR5−であり、R1およびR2は、それぞ
れ独立に、水素原子または炭素数1〜40の炭化水素基、R3は、水素原子、ハロゲン原
子、水酸基、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基または炭素数1〜40の炭化水素基、R4は、水素原子または炭素数1〜40の炭化水素基、R5は、水素原子、水酸基または炭素数1〜40のアルコキシ基である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−219577(P2011−219577A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88626(P2010−88626)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】