説明

新規化合物及びその製造方法

【課題】種々の機能性材料の製造用原料として有用な新規化合物、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】式(I)で表される化合物、式(III)で表される化合物及びこれらの製造方法を提供する。


[式中、
、R及びRは水素原子又は脂肪族飽和炭化水素基を表す。
は、単結合又は脂肪族飽和炭化水素基などを表す。
は、脂環式炭化水素基などを表し、当該脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ヒドロキシ基などに置換されていてもよく、当該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、カルボニル基などに置き換わっていてもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシ基と、脂環式炭化水素基とを分子内に有する新規化合物及びその製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも2つのヒドロキシ基と、脂環式炭化水素基とを分子内に有する化合物は、種々の機能性材料の製造用原料として有用である。このような化合物として、例えば、レジスト組成物に含有される樹脂の製造用原料である1,3−アダマンタンジオールが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−119220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ヒドロキシ基と、脂環式炭化水素基とを分子内に有する新規化合物、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の発明を含む。
〔1〕式(I)で表される化合物。

[式(I)中、
、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10の1価の脂肪族飽和炭化水素基を表す。
は、単結合又は炭素数1〜10の2価の脂肪族飽和炭化水素基を表し、該脂肪族飽和炭化水素基に含まれる水素原子は、ヒドロキシ基に置換されてもよく、該脂肪族炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、スルホニル基又はカルボニル基に置き換わっていてもよい。
は、炭素数3〜30の脂環式炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ヒドロキシ基に置換されてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、スルホニル基又はカルボニル基に置き換わっていてもよい。]
〔2〕前記〔1〕記載の化合物の製造方法であって、
式(II)

[式(II)中、
、R、R、X及びWはいずれも、前記と同義である。]
で表される化合物と、
酸化剤とを反応させる工程を含む製造方法。
〔3〕式(III)で表される化合物。

[式(III)中、
、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10の1価の脂肪族飽和炭化水素基を表す。
は水素原子又はメチル基を表す。
は、単結合又は炭素数1〜10の2価の脂肪族飽和炭化水素基を表し、該脂肪族飽和炭化水素基に含まれる水素原子は、ヒドロキシ基に置換されてもよく、該脂肪族炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、スルホニル基又はカルボニル基に置き換わっていてもよい。
は、炭素数3〜30の脂環式炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ヒドロキシ基に置換されてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、スルホニル基又はカルボニル基に置き換わっていてもよい。]
〔4〕前記〔3〕記載の化合物の製造方法であって、
式(I)

[式(I)中、
、R、R、X及びWはいずれも、前記と同義である。]
で表される化合物と、
メタクリル酸、メタクリル酸クロリド、メタクリル酸無水物、アクリル酸、アクリル酸クロリド又はアクリル酸無水物とを反応させる工程を含む製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ヒドロキシ基と、脂環式炭化水素基とを分子内に有する新規化合物、及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は上述のとおり、式(I)で表される新規化合物(以下、場合により「化合物(I)」という。)及び式(III)で表される新規化合物(以下、場合により「化合物(III)」という。)、並びに、それらの製造方法に関するものである。
【0008】
化合物(I)及び化合物(III)について説明する前に、本明細書で共通する置換基などを説明する。
本明細書において、炭化水素基とは、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基を包含する。脂肪族炭化水素基は、鎖式及び環式の双方を含み、特に定義しない限り、鎖式及び環式の脂肪族炭化水素基が組み合わせられたものをも包含する。また、これら脂肪族炭化水素基は、その一部に炭素−炭素二重結合を含んでいてもよいが、飽和の基(脂肪族飽和炭化水素基)が好ましい。
【0009】
鎖式の脂肪族炭化水素基のうち1価のものとしては、典型的にはアルキル基が挙げられる。
アルキル基としては、メチル基(C)、エチル基(C)、プロピル基(C)、ブチル基(C)、ペンチル基(C)、ヘキシル基(C)、ヘプチル基(C)、オクチル基(C)、デシル基(C10)、ドデシル基(C12)、ヘキサデシル基(C14)、ペンタデシル基(C15)、ヘキシルデシル基(C16)、ヘプタデシル基(C17)及びオクタデシル基(C18)などが挙げられる。
鎖式の脂肪族炭化水素基のうち2価のものとしては、アルキル基から水素原子を1個取り去ったアルカンジイル基が挙げられる。
該アルカンジイル基としては、メチレン基、エチレン基、プロパン−1,3−ジイル基、プロパン−1,2−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基、ヘプタン−1,7−ジイル基、オクタン−1,8−ジイル基、ノナン−1,9−ジイル基、デカン−1,10−ジイル基、ウンデカン−1,11−ジイル基、ドデカン−1,12−ジイル基、トリデカン−1,13−ジイル基、テトラデカン−1,14−ジイル基、ペンタデカン−1,15−ジイル基、ヘキサデカン−1,16−ジイル基、ヘプタデカン−1,17−ジイル基、メチリデン基、エチリデン基、プロピリデン基、2−プロピリデン基、1−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,2−プロピレン基、1−メチル−1,4−ブチレン基及び2−メチル−1,4−ブチレン基などが挙げられる。
【0010】
環式の脂肪族炭化水素基(以下、場合により「脂環式炭化水素基」という。)は、典型的には、シクロアルキル基を意味し、以下に示す単環式及び多環式のいずれをも包含する。
【0011】
脂環式炭化水素基のうち1価のものとして、単環式の脂肪族炭化水素基は、以下の式(KA−1)〜(KA−7)で表されるシクロアルカンの水素原子を1個取り去った基である。

【0012】
多環式の脂肪族炭化水素基は、以下の式(KA−8)〜(KA−19)で表されるシクロアルカンの水素原子を1個取り去った基である。

【0013】
脂環式炭化水素基のうち2価のものとしては、式(KA−1)〜式(KA−19)の脂環式炭化水素から水素原子を2個取り去った基が挙げられる。
【0014】
脂肪族炭化水素基は置換基を有していてもよい。このような置換基としては、そのつど定義するが、該置換基は例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アリール基、アラルキル基及びアリールオキシ基が挙げられる。
アルコキシ基としては、メトキシ基(C)、エトキシ基(C)、プロポキシ基(C)、ブトキシ基(C)、ペンチルオキシ基(C)、ヘキシルオキシ基(C)、ヘプチルオキシ基(C7)、オクチルオキシ基(C8)、デシルオキシ基(C10)及びドデシルオキシ基(C12)などが挙げられる。
アシル基としては、アセチル基(C)、プロピオニル基(C)、ブチリル基(C)、バレイル基(C)、ヘキシルカルボニル基(C)、ヘプチルカルボニル基(C7)、オクチルカルボニル基(C8)、デシルカルボニル基(C10)及びドデシルカルボニル基(C12)などのアルキル基とカルボニル基とが結合したもの並びにベンゾイル基(C7)などのアリール基とカルボニル基とが結合したものが包含される。
アシルオキシ基としては、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、及びイソブチリルオキシ基などが挙げられる。
アラルキル基としては、ベンジル基(C7)、フェネチル基(C8)、フェニルプロピル基(C9)、ナフチルメチル基(C11)及びナフチルエチル基(C12)などが挙げられる。
アリールオキシ基としては、フェニルオキシ基(C)、ナフチルオキシ基(C10)、アントニルオキシ基(C14)、ビフェニルオキシ基(C12)、フェナントリルオキシ基(C14)及びフルオレニルオキシ基(C13)などのアリール基と酸素原子とが結合したものが挙げられる。
【0015】
芳香族炭化水素基のうち1価のものは、典型的には、アリール基が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基(C)、ナフチル基(C10)、アントニル基(C14)、ビフェニル基(C12)、フェナントリル基(C14)及びフルオレニル基(C13)などが挙げられる。ここに示すアリール基から、さらに水素原子を1個取り去ったアリーレン基が、2価の芳香族炭化水素基に該当する。
【0016】
芳香族炭化水素基も置換基を有することがある。このような置換基はそのつど定義するが、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシル基、アルキル基及びアリールオキシ基を挙げることができる。これらのうち、アルキル基の具体例は、鎖式脂肪族炭化水素基として例示したものと同じであり、芳香族炭化水素基に任意に有する置換基のうち、アルキル基以外のものは、脂肪族炭化水素基の置換基として例示したものと同じものを含む。
【0017】
化合物(I)は上述のとおり、式(I)で表される。繰り返しになるが、式(I)を以下に示す。

[式(I)中、
、R及びR(R〜R)は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10の1価の脂肪族飽和炭化水素基を表す。
は、単結合又は炭素数1〜10の2価の脂肪族飽和炭化水素基を表し、該脂肪族飽和炭化水素基に含まれる水素原子は、ヒドロキシ基に置換されてもよく、該脂肪族炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、スルホニル基又はカルボニル基に置き換わっていてもよい。
Wは、炭素数3〜30の脂環式炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ヒドロキシ基に置換されてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、スルホニル基又はカルボニル基に置き換わっていてもよい。]
【0018】
〜Rの1価の脂肪族飽和炭化水素基は、その炭素数が1〜10の範囲ですでに例示したアルキル基、脂環式炭化水素基などを挙げることができる。中でも、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であると好ましく、水素原子又はメチル基であるとより好ましい。R及びRがともに水素原子であり、Rがメチル基であるとさらに好ましい。
【0019】
は、炭素数3〜30の脂環式炭化水素基であり、この炭素数は、6〜15の範囲であると好ましく。炭素数7〜10の範囲であるとさらに好ましい。当該脂環式炭化水素基の具体例は、炭素数が上述の範囲において、すでに例示したものを含む。
【0020】
また、Wの脂環式炭化水素基を構成するメチレン基が、酸素原子、スルホニル基又はカルボニル基に置き換わった基としては例えば、式(A12)〜式(A26)でそれぞれ表される基が挙げられる。

【0021】
以上のWの具体例の中でも、アダマンチル基及びアダマンタノンイル基(式(A14)で表される基)が好ましく、これらのアダマンチル基及びアダマンタノンイル基は、アルキル基及びヒドロキシ基といった置換基を有していてもよく、当該置換基の結合位置は任意である。
【0022】
は、単結合又は炭素数1〜10の2価の脂肪族飽和炭化水素基であり、単結合であることが好ましい。当該脂肪族飽和炭化水素基は、アルカンジイル基又は脂環式炭化水素基、或いはこれらを任意に組み合わせた2価の基が挙げられる。ここでいうアルカンジイル基及び脂環式炭化水素基は、その炭素数が10以下の範囲ですでに例示したものを含む。また、該アルカンジイル基及び脂環式炭化水素基、並びに、アルカンジイル基及び脂環式炭化水素基を組み合わせた2価の基は、それに含まれる水素原子が、ヒドロキシ基に置換されていてもよい。
【0023】
アルカンジイル基及び脂環式炭化水素基を組み合わせた2価の基とは、例えば、式(X−A)、式(X−B)及び式(X−C)[式(X−A)〜式(X−C)]でそれぞれ表される基を挙げることができる。

式(X−A)〜式(X−C)中において、
1A及びX1Bは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルカンジイル基を表す。式(X−A)〜式(X−C)で表される基の総炭素数の上限は10である。このX1A及びX1Bのアルカンジイル基を構成するメチレン基も、酸素原子又はカルボニル基に置き換わることもある。
【0024】
好ましい化合物(I)を具体的に示すと、式(I−1)、式(I−2)、式(I−3)、式(I−4)、式(I−5)、式(I−6)、式(I−7)、式(I−8)、式(I−9)、式(I−10)、式(I−11)、式(I−12)、式(I−13)、式(I−14)、式(I−15)、式(I−16)、式(I−17)、式(I−18)、式(I−19)、式(I−20)及び式(I−21)〔式(I−1)〜式(I−21)〕でそれぞれ表される化合物を挙げることができる。

【0025】

【0026】

【0027】
以上の化合物(I)の具体例の中でも、式(I−2)、式(I−6)、式(I−8)、式(I−11)、式(I−13)、式(I−17)及び式(I−20)でそれぞれ表されるものがさらに好ましい。
【0028】
以上、化合物(I)における各基、及び化合物(I)の好適例を説明したが、ここで化合物(I)の製造方法について説明する。なお、本発明はこの製造方法に係る発明も含む。
化合物(I)は、式(II)で表される化合物(以下、場合により「化合物(II)」という。)と、酸化剤とを反応させる工程を含む製造方法により製造できる。この工程における反応を反応式の形式で示すと以下のとおりである。

上式中、R、R、R、W及びXはいずれも前記と同義である。
ここで用いる酸化剤としては例えば、過酸化水素/蟻酸混合剤、及び四酸化オスミウム/4−メチルモルホリンN−オキシド混合剤などの酸化剤、或いは、第5版実験科講座 有機化合物の合成II アルコール・アミン(丸善株式会社)に記載された酸化剤を挙げることができる。中でも、好ましくは、過酸化水素/蟻酸混合剤、及び四酸化オスミウム/4−メチルモルホリンN−オキシド混合剤である。この反応は通常、有機溶媒中で実施される。この有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジメチルホルムアミド及びアセトニトリルなどが用いられる。
【0029】
かかる工程の後は定法による精製操作などを行うことにより、化合物(I)を精製することもできる。
【0030】
化合物(II)は、R、R、R、X及びWが所望のものとなる化合物を、公知の製造方法により製造するか、市場から容易に入手できるもの(市販品)を購入するなどにより準備できる。当該市販品としては例えば、以下に示すものなどがある。

【0031】
化合物(I)は、少なくとも2つのヒドロキシ基と、脂環式炭化水素基(W)とを分子内に有し、種々の機能性材料の製造用原料として極めて有用な化合物である。また、これらヒドロキシ基のうちの1つを他の反応基に変換することで、化合物(I)とは化学構造が異なり、該製造用原料とし有用な、他の化合物を得ることも可能である。本発明では、このような他の化合物として、化合物(III)を提供する。
【0032】
化合物(III)は上述のとおり、式(III)で表される。繰り返しになるが、式(III)を以下に示す。

式(III)中、
は水素原子又はメチル基を表し、その他の符号はいずれも前記と同義である。したがって、これら、R、R、R、X及びWに係る説明、並びに、その具体例及び好適例などは化合物(I)の場合と同じである。
【0033】
好ましい化合物(I)を具体的に示すと、式(III−1)、式(III−2)、式(III−3)、式(III−4)、式(III−5)、式(III−6)、式(III−7)、式(III−8)、式(III−9)、式(III−10)、式(III−11)、式(III−12)、式(III−13)、式(III−14)、式(III−15)、式(III−16)、式(III−17)、式(III−18)、式(III−19)、式(III−20)及び式(III−21)〔式(III−1)〜式(III−21)〕でそれぞれ表される化合物を挙げることができる。

【0034】

【0035】

【0036】
以上の化合物(III)の具体例の中でも、式(III−2)、式(III-6)、式(III-8)、式(III-11)、式(III-14)、式(III-17)、式(III-20)でそれぞれ表される化合物がさらに好ましい。
【0037】
化合物(III)は、ヒドロキシ基と、脂環式炭化水素基(W)とを分子内に有し、これらによる機能発現と、炭素炭素二重結合の作用により、化合物(III)由来の構造単位を有する樹脂などを容易に得られる点で、化合物(I)と同様に種々の機能性材料の製造用原料として有用な化合物である。
【0038】
化合物(III)は、化合物(I)から製造することができる。したがって、本発明は、この化合物(III)の製造方法も提供する。
化合物(III)は、化合物(I)を、メタクリル化又はアクリル化する工程を含む製造方法により製造できる。この工程における反応を反応式の形式で示すと以下のとおりである。

上式中、R、R、R、R、W及びXはいずれも前記と同義である。
この反応でいうメタクリル化又はアクリル化とは具体的には、まず、化合物(I)と、メタクリル酸、メタクリル酸クロリド、メタクリル酸無水物、アクリル酸、アクリル酸クロリド又はアクリル酸無水物といった(メタ)アクリル化剤を反応させるものであり、当該反応は塩基の存在下で実施すると好ましい。この塩基としてはトリエチルアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ピペリジン、モルホリン及びピリジンなどが使用できる。(メタ)アクリル化剤として、アクリル酸やメタクリル酸を使用する場合は、縮合剤を用いる場合もある。該縮合剤としては1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、ジシクロヘキシルカルボジイミド及び1,1’−カルボニルジイミダゾールなどが挙げられる。さらに、この反応は有機溶媒中で実施しても、無溶媒下で実施してもよいが、有機溶媒中で実施されると好ましい。該有機溶媒としてはテトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジメチルホルムアミド及びアセトニトリルなどが使用できる。
【0039】
かかる工程の後は定法による精製操作などを行うことにより、化合物(III)を精製することもできる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例及び比較例中、含有量ないし使用量を表す「%」及び「部」は、特記ないかぎり質量基準である。
また、化合物の構造はNMR(GX−270型又はEX−270型;日本電子製)、質量分析(LC;Agilent製1100型、MASS;Agilent製LC/MSD型又はLC/MSD TOF型)で確認した。
【0041】
実施例1:式(I−2)で表される化合物(I)の合成

式(I−2−a)で表される化合物10.0部と、クロロホルム30.0部とを混合した溶液に、4−メチルモルホリンN−オキシドの50%水溶液11.3部と、四酸化オスミウムの4.0%水溶液0.78部とを加えた。得られた混合物を、室温で24時間攪拌した。反応混合溶液に5%シュウ酸溶液82部を加え、クロロホルムにより抽出し、クロロホルム層を分離し、さらにクロロホルム層をイオン交換水で洗浄した。水洗後のクロロホルム層を減圧濃縮することで、式(I−2)で表される化合物(I)13.22部を得た。
H−NMR(DMSO−d):δ=4.8−4.7(1H,s),4.7−4.6(1H,m),3.5−3.3(2H,m),2.2−1.9(9H,m),1.7−1.5(6H,m),1.1(3H,s)
【0042】
実施例2:式(I−6)で表される化合物(I)の合成

式(I−6−a)で表される化合物10.0部と、クロロホルム30.0部とを混合した溶液に、4−メチルモルホリンN−オキシドの50%水溶液10.7部と四酸化オスミウムの4.0%水溶液0.73部とを加え加えた。得られた混合物を、室温で24時間攪拌した。反応混合溶液に5%シュウ酸溶液77部を加え、クロロホルムにより抽出し、クロロホルム層を分離し、さらにクロロホルム層をイオン交換水で洗浄した。水洗後のクロロホルム層を減圧濃縮することで、式(I−6)で表される化合物(I)13.92部を得た。
H−NMR(DMSO−d):δ=5.0−4.8(1H,m),4.8−4.6(1H,m),3.5−3.2(2H,m),2.5−2.4(2H,m),2.3−2.2(7H,m),2.0−1.7(4H,m),1.1(3H,s)
【0043】
実施例3:式(I−20)で表される化合物(I)の合成

式(I−20−a)で表される化合物10.0部と、クロロホルム30.0部とを混合した溶液に、4−メチルモルホリンN−オキシドの50%水溶液9.5部と四酸化オスミウムの4.0%水溶液0.65部とを加えた。得られた混合物を、室温で24時間攪拌した。反応混合溶液に5%シュウ酸溶液70部を加え、クロロホルムにより抽出し、クロロホルム層を分離し、さらにクロロホルム層をイオン交換水で洗浄した。水洗後のクロロホルム層を減圧濃縮することで、式(I−20)で表される化合物(I)11.53部を得た。
H−NMR(DMSO−d):δ=5.0−4.2(2H,m),3.6−3.4(2H,m),2.6−2.5(2H,m),2.5−2.4(1H,m),2.1−1.4(12H,m),1.2(3H,s),1.0−0.9(6H,m)
【0044】
実施例4:式(III−20)で表される化合物(III)の合成

式(I−20)で表される化合物3.62部と、テトラヒドロフラン7.5部とを混合した溶液に、ピリジン1.16部を加えた。得られた混合物を、0℃で攪拌した。反応混合溶液にメタクリル酸クロリド1.17部を加え、さらに0℃で1時間攪拌した。反応混合溶液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液30部を加え、酢酸エチルにより抽出し、酢酸エチル層を分離し、さらに酢酸エチル層をイオン交換水で洗浄した。水洗後の酢酸エチル層を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムにより精製することで、式(III−20)で表される化合物(III)4.12部を得た。
H−NMR(DMSO−d):δ=6.1−6.0(1H,m),5.7−5.6(1H,m),5.2−4.7(1H,m),4.3−4.0(2H,m),2.6−2.5(2H,m),2.5−2.4(1H,m),2.1−1.4(15H,m),1.3(3H,s),1.0−0.9(6H,m)
【0045】
実施例5:式(I−11)で表される化合物(I)の合成

式(I−11−a)で表される化合物20.0部と、クロロホルム60.0部とを混合した溶液に、4−メチルモルホリンN−オキシドの50%水溶液21.2部と四酸化オスミウムの4.0%水溶液1.5部とを加えて得られた混合物を、室温で18時間攪拌した。反応混合溶液に、5%シュウ酸溶液153部を加え、酢酸エチルにより抽出し、有機層を分離し、さらに有機層をイオン交換水で洗浄した。水洗後の有機層を減圧濃縮することで式(I−13−b)で表される化合物13.2部を得た。
H−NMR(DMSO−d):δ=5.0−4.8(1H,m),4.8−4.5(2H,brm),3.5−3.3(2H,m),2.3−2.2(2H,m),2.0−1.8(6H,m),1.4−1.6(6H,m),1.2(3H,s)
【0046】
実施例6:式(III−11)で表される化合物(III)の合成

式(I−11)で表される化合物4.0部と、テトラヒドロフラン8.0部とを混合した溶液に、ピリジン1.4部を加えた。得られた混合物を、0℃で攪拌した。反応混合溶液にメタクリル酸クロリド1.91部を加え、さらに0℃で1時間攪拌した。反応混合溶液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液30部を加え、酢酸エチルにより抽出し、酢酸エチル層を分離し、さらに酢酸エチル層をイオン交換水で洗浄した。水洗後の酢酸エチル層を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムにより精製することで、式(III−11)で表される化合物(III)4.4部を得た。
H−NMR(DMSO−d):δ=6.1−6.0(1H,m),5.7−5.6(1H,m),5.3−4.6(2H,brm),4.3−4.0(2H,m),2.3−2.2(2H,m),2.1−1.8(9H,m),1.4−1.6(6H,m),1.3(3H,s)
【0047】
樹脂(A)の合成
樹脂の合成において使用した化合物(モノマー)を下記に示す。

以下、これらのモノマーを、その式番号に応じて、「モノマー(M−2)」などという。
【0048】
合成例1:樹脂A1の合成
モノマー(M−5)18.00部、モノマー(M−4)3.85部、モノマー(III−11)3.86部及びモノマー(M−3)16.34部を反応器に仕込み(モル比; モノマー(M−5):モノマー(M−4):モノマー(III−11):モノマー(M−3)=35:10:6:49)、全モノマー量の1.5重量倍のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを加えて溶液とした。そこに開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルとアゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)とを全モノマー量に対してそれぞれ0.90mol%、2.70mol%添加し、75℃で約5時間加熱した。その後、得られた反応混合溶液を、大量のメタノール/水混合溶媒に注いで樹脂を沈殿させ、この樹脂をろ過した。かくして得られた樹脂を再び、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させて得られる溶解液をメタノール/水混合溶媒に注いで樹脂を沈殿させ、この樹脂をろ過するという再沈殿操作を2回行い、重量平均分子量が約8.6×10の樹脂を収率75%で得た。この樹脂は、次式の各構造単位を有するものであり、これを樹脂A1とする。

【0049】
合成例2:樹脂A2の合成
モノマー(M−5)18.00部、モノマー(M−4)3.85部、モノマー(M−2)2.78部及びモノマー(M−3)16.34部を反応器に仕込み(モル比; モノマー(M−5):モノマー(M−4):モノマー(M−2):モノマー(M−3)=35:10:6:49)、全モノマー量の1.5重量倍のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを加えて溶液とした。そこに開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルとアゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)とを全モノマー量に対してそれぞれ0.90mol%、2.70mol%添加し、75℃で約5時間加熱した。その後、得られた反応混合溶液を、大量のメタノール/水混合溶媒に注いで樹脂を沈殿させ、この樹脂をろ過した。かくして得られた樹脂を再び、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させて得られる溶解液をメタノール/水混合溶媒に注いで樹脂を沈殿させ、この樹脂をろ過するという再沈殿操作を2回行い、重量平均分子量が約8.4×10の樹脂を収率72%で得た。この樹脂は、次式の各構造単位を有するものであり、これを樹脂A2とする。

【0050】
参考例及び参考比較例
表1に示す各成分を混合して溶解することにより得られた混合物を孔径0.2μmのフッ素樹脂製フィルタで濾過し、レジスト組成物を調製した。
【0051】
【表1】

【0052】
<樹脂(A)>
A1:樹脂A1
A2:樹脂A2
<塩(B1)>
B1:式(B1−3)で表される塩(B1)

<塩基性化合物:クエンチャー>
C1:2,6−ジイソプロピルアニリン
<溶剤(D)>
D1:
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 130.0部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 200.0部
γ−ブチロラクトン 20.0部
【0053】
12インチのシリコン製ウェハ上に、有機反射防止膜用組成物[ARC−29SR−309;日産化学(株)製]を塗布して、205℃、60秒の条件でベークすることによって、厚さ75nmの有機反射防止膜を形成した。
次いで、有機反射防止膜の上に、上記のレジスト組成物を乾燥後の膜厚が80nmとなるようにスピンコートした。
得られたシリコンウェハをダイレクトホットプレート上にて、100℃で60秒間プリベーク(PB)した。得られたウェハに、液浸露光用ArFエキシマスキャナー[XT:1900Gi;ASML社製、NA=1.35、Dipole35、σout/in=0.97/0.77、Y偏向]を用いて、露光量を段階的に変化させてラインアンドスペースパターンを液浸露光した。
露光後、ホットプレート上にて、80度で60秒間ポストエキスポジャーベーク(PEB)を行い、さらに2.38質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液で60秒間のパドル現像を行った。
【0054】
各レジスト膜において、42nmのラインアンドスペースパターンが1:1となる露光量となる露光量を実効感度とした。
【0055】
ラインウィズスラフネス評価(LWR):リソグラフィプロセス後のレジストパターンの線幅を走査型電子顕微鏡で観察し、レジストパターンの線幅のばらつき(3σ)が2.1nm未満であるものを”g”(good)、2.1nm以上のものを”b”(bad)とした。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の化合物(I)及び(III)は、各種の機能性材料の製造用材料として有用である。例えば、半導体の微細加工に用いられるレジスト組成物に含まれる樹脂の製造用材料として使用し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される化合物。

[式(I)中、
、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10の1価の脂肪族飽和炭化水素基を表す。
は、単結合又は炭素数1〜10の2価の脂肪族飽和炭化水素基を表し、該脂肪族飽和炭化水素基に含まれる水素原子は、ヒドロキシ基に置換されてもよく、該脂肪族炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、スルホニル基又はカルボニル基に置き換わっていてもよい。
は、炭素数3〜30の脂環式炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ヒドロキシ基に置換されてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、スルホニル基又はカルボニル基に置き換わっていてもよい。]
【請求項2】
請求項1記載の化合物の製造方法であって、
式(II)

[式(II)中、
、R、R、X及びWはいずれも、前記と同義である。]
で表される化合物と、
酸化剤とを反応させる工程を含む製造方法。
【請求項3】
式(III)で表される化合物。

[式(III)中、
、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10の1価の脂肪族飽和炭化水素基を表す。
は水素原子又はメチル基を表す。
は、単結合又は炭素数1〜10の2価の脂肪族飽和炭化水素基を表し、該脂肪族飽和炭化水素基に含まれる水素原子は、ヒドロキシ基に置換されてもよく、該脂肪族炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、スルホニル基又はカルボニル基に置き換わっていてもよい。
は、炭素数3〜30の脂環式炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ヒドロキシ基に置換されてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、スルホニル基又はカルボニル基に置き換わっていてもよい。]
【請求項4】
請求項3記載の化合物の製造方法であって、
式(I)

[式(I)中、
、R、R、X及びWはいずれも、前記と同義である。]
で表される化合物と、
メタクリル酸、メタクリル酸クロリド、メタクリル酸無水物、アクリル酸、アクリル酸クロリド又はアクリル酸無水物とを反応させる工程を含む製造方法。

【公開番号】特開2013−53132(P2013−53132A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−164469(P2012−164469)
【出願日】平成24年7月25日(2012.7.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】