説明

新規化合物及び該化合物を用いた光学記録材料

【課題】新規化合物及びその錯体、特に短波長記録光用の光学記録媒体における光学記録層の形成に適した光学記録材料を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物。


(式中、環Aはベンゼン環又はナフタレン環を表し、R1は、水素原子、アルキル基、アリール基又はアリールアルキル基を表し、R2は、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又はアミノ基を表し、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、N−R又はC−Rを表し、Rは水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、アリール基又はアリールアルキル基、複素環基又はハロゲン原子などを表し、nは1〜4の数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として光学記録材料等に用いられる新規化合物及びその金属錯体に関し、詳しくは、主として情報をレーザ等による情報パターンとして付与することにより記録する光学記録媒体に使用される光学記録材料に関し、さらに詳しくは、紫外及び可視領域の波長を有し且つ低エネルギーのレーザ等による高密度の光学記録及び再生が可能な光学記録媒体に使用される光学記録材料に関する。
【背景技術】
【0002】
光学記録媒体は、一般に、記録容量が大きく、記録又は再生が非接触で行なわれること等の優れた特徴を有することから、広く普及している。WORM、CD−R、DVD±R等の追記型の光ディスクでは、記録層の微小面積にレーザを集光させ、光学記録層の性状を変えて記録し、記録部分と未記録部分との反射光量の違いによって再生を行なっている。
【0003】
現在、上記の光ディスクにおいては、記録及び再生に用いる半導体レーザの波長は、CD−Rは750〜830nmであり、DVD−Rは620nm〜690nmであるが、更なる容量の増加を実現すべく、短波長レーザを使用する光ディスクが検討されており、例えば、記録光として380〜420nmの光を用いるものが検討されている。
【0004】
短波長記録光用の光学記録媒体において、光学記録層の形成には、各種化合物が使用されている。例えば、特許文献1及び2には特定の構造を持つ金属錯体を含有する光学記録材料が報告されている。しかし、これらの化合物は、光学記録層の形成に用いられる光学記録材料としては、その吸収波長特性が必ずしも適合するものではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−34645号公報
【特許文献2】特開2004−345212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、新規化合物及びその錯体、特に短波長記録光用の光学記録媒体における光学記録層の形成に適した光学記録材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、検討を重ねた結果、短波長記録光用の光学記録媒体における光学記録層の形成に適した吸収波長特性を持つ特定の化合物を配位子とする金属錯体を見出し、これを使用することにより上記課題を解決しうることを知見した。
【0008】
本発明は、下記一般式(I)で表される化合物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
【化1】

(式中、環Aはベンゼン環又はナフタレン環を表し、R1は、水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基又は炭素原子数7〜20のアリールアルキル基を表し、R2は、水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又はアミノ基を表し、隣接するR2は互いに連結して環を形成していてもよく、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、N−R又はC−R3(R4)を表し、Rは水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基又は炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、複素環基又はハロゲン原子を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基又は炭素原子数7〜20のアリールアルキル基を表し、R3及びR4は連結して環構造を形成していてもよく、nは1〜4の数である。上記ベンゼン環、ナフタレン環、炭素原子数1〜8又は1〜18のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、アミノ基及び複素環基は置換基を有していてもよく、上記炭素原子数1〜8又は1〜18のアルキル基中のメチレン基は、−O−、−CO−、−SO2−又は−CH=CH−で置き換えられていてもよい。)
【0010】
また、本発明は、上記化合物を配位子とする金属錯体を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0011】
また、本発明は、上記金属錯体を少なくとも一種含有することを特徴とする光学記録材料を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0012】
また、本発明は、基体上に、上記光学記録材料からなる光学記録層を形成したことを特徴とする光学記録媒体を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、短波長記録光用の光学記録媒体における光学記録層の形成に適した光学記録材料を提供することができる。また、本発明の金属錯体は、感度及び耐光性が高く、光学記録媒体における光学記録層の形成に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
先ず、上記一般式(I)で表される化合物について説明する。
【0015】
上記一般式(I)において、R1、X中の基であるN−R中のR、並びにX中の基であるR3及びR4で表される炭素原子数1〜8のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第三アミル、ヘキシル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、シクロヘキシルエチル、ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル等が挙げられ、R2で表される炭素原子数1〜18のアルキル基としては、上記R1で例示したものの他、ノニル、イソノニル、デシル、ラウリル、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、パルミチル、ヘプタデシル、ステアリル等が挙げられ、R1、X中の基であるN−R中のR、並びにX中の基であるR3及びR4で表される炭素原子数6〜20のアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントラセン−1−イル、フェナントレン−1−イル等が挙げられ、R1、X中の基であるN−R中のR、並びにX中の基であるR3及びR4で表される炭素原子数7〜20のアリールアルキル基としては、ベンジル、フェネチル、2−フェニルプロパン、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、スチリル、シンナミル等が挙げられる。
【0016】
上記一般式(I)において、隣接するR2、あるいはR3とR4とが連結して形成される環としては、ピペリジン環、ピペラジン環、ピロリジン環、モルフォリン環、チオモルフォリン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、イミダゾール環、オキサゾール環、イミダゾリジン環、ピラゾリジン環、イソオキサゾリジン環、イソチアゾリジン環、ユロリジン環、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、テトラヒドロピラン環等が挙げられ、これらの環は他の環と縮合されていたり、置換されていたりしてもよい。
【0017】
上記一般式(I)において、R2及びX中の基であるN−R中のRで表されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられ、X中の基であるN−R中のRで表される複素環基としては、ピリジル、ピリミジル、ピリダジル、ピペラジル、ピペリジル、ピラニル、ピラゾリル、トリアジル、ピロリジル、キノリル、イソキノリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、トリアゾリル、フリル、フラニル、ベンゾフラニル、チエニル、チオフェニル、ベンゾチオフェニル、チアジアゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、インドリル、ユロリジル、モルフォリニル、チオモルフォリニル、2−ピロリジノン−1−イル、2−ピペリドン−1−イル、2,4−ジオキシイミダゾリジン−3−イル、2,4−ジオキシオキサゾリジン−3−イル等が挙げられる。
【0018】
Aで表される上記のベンゼン環及びナフタレン環、R1、X中の基であるN−R中のR、並びにX中の基であるR3及びR4で表される炭素原子数1〜8のアルキル基、R2で表される炭素原子数1〜18のアルキル基、R1、X中の基であるN−R中のR、並びにX中の基であるR3及びR4で表される炭素原子数6〜20のアリール基、R1、X中の基であるN−R中のR、並びにX中の基であるR3及びR4で表される炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、R2で表されるアミノ基及びX中の基であるN−R中のRで表される複素環基は、いずれも、置換基を有していてもよい。該置換基としては、以下のものが挙げられる。尚、R1〜R4及びRが、上記の炭素原子数1〜8のアルキル基等の炭素原子を含有する基であり、且つ、それらの基が、以下の置換基の中でも、炭素原子を含有する置換基を有する場合は、該置換基を含めたR1〜R4及びR全体の炭素原子数が、規定された範囲を満たすものとする。
上記置換基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第三アミル、シクロペンチル、ヘキシル、2−ヘキシル、3−ヘキシル、シクロヘキシル、ビシクロヘキシル、1−メチルシクロヘキシル、ヘプチル、2−ヘプチル、3−ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル等のアルキル基;メチルオキシ、エチルオキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ、第二ブチルオキシ、第三ブチルオキシ、イソブチルオキシ、アミルオキシ、イソアミルオキシ、第三アミルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、イソヘプチルオキシ、第三ヘプチルオキシ、n−オクチルオキシ、イソオクチルオキシ、第三オクチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ等のアルコキシ基;メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、第二ブチルチオ、第三ブチルチオ、イソブチルチオ、アミルチオ、イソアミルチオ、第三アミルチオ、ヘキシルチオ、シクロヘキシルチオ、ヘプチルチオ、イソヘプチルチオ、第三ヘプチルチオ、n−オクチルチオ、イソオクチルチオ、第三オクチルチオ、2−エチルヘキシルチオ等のアルキルチオ基;ビニル、1−メチルエテニル、2−メチルエテニル、2−プロペニル、1−メチル−3−プロペニル、3−ブテニル、1−メチル−3−ブテニル、イソブテニル、3−ペンテニル、4−ヘキセニル、シクロヘキセニル、ビシクロヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、デセニル、ぺンタデセニル、エイコセニル、トリコセニル等のアルケニル基;ベンジル、フェネチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、スチリル、シンナミル等のアリールアルキル基;フェニル、ナフチル等のアリール基;フェノキシ、ナフチルオキシ等のアリールオキシ基;フェニルチオ、ナフチルチオ等のアリールチオ基;ピリジル、ピリミジル、ピリダジル、ピペリジル、ピラニル、ピラゾリル、トリアジル、ピロリル、キノリル、イソキノリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、トリアゾリル、フリル、フラニル、ベンゾフラニル、チエニル、チオフェニル、ベンゾチオフェニル、チアジアゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、インドリル、2−ピロリジノン−1−イル、2−ピペリドン−1−イル、2,4−ジオキシイミダゾリジン−3−イル、2,4−ジオキシオキサゾリジン−3−イル等の複素環基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;アセチル、2−クロロアセチル、プロピオニル、オクタノイル、アクリロイル、メタクリロイル、フェニルカルボニル(ベンゾイル)、フタロイル、4−トリフルオロメチルベンゾイル、ピバロイル、サリチロイル、オキザロイル、ステアロイル、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−オクタデシルオキシカルボニル、カルバモイル等のアシル基;アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ等のアシルオキシ基;アミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、2−エチルヘキシルアミノ、ドデシルアミノ、アニリノ、クロロフェニルアミノ、トルイジノ、アニシジノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ,ナフチルアミノ、2−ピリジルアミノ、メトキシカルボニルアミノ、フェノキシカルボニルアミノ、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ、ホルミルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチル−メトキシカルボニルアミノ、フェノキシカルボニルアミノ、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ等の置換アミノ基;スルホンアミド基、スルホニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホ基、水酸基、ニトロ基、メルカプト基、トリアルキルシリル基、イミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基等が挙げられ、これらの基は更に置換されていてもよい。また、カルボキシル基及びスルホ基は無機塩基又は有機塩基と塩、錯体又は複合体を形成していてもよい。
【0019】
上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、下記化合物No.1〜14が挙げられる。
【0020】
【化2】

【0021】
上記一般式(I)で表される化合物は、その製造方法により特に制限を受けることはなく、例えば、下記[化3]に示すように、該当するサリチルアルデヒド誘導体とアミン化合物とから得ることができる。
【0022】
【化3】

(式中、A、R1、R2、X及びnは上記一般式(I)と同じである。)
【0023】
上記一般式(I)で表される化合物は、金属錯体の配位子の他、重合開始剤、各種ポリマー原料、医薬等に用いることができる。
【0024】
次に、上記一般式(I)で表される化合物を配位子とする金属錯体について説明する。
上記一般式(I)で表される化合物を配位子とする金属錯体とは、金属原子に上記一般式(I)で表される化合物が少なくとも一つ配位しているものであり、一般式(I)で表される化合物中の水酸基の水素原子と金属原子が置換され、さらにXが金属原子に配位結合することにより少なくとも一つのキレート構造を形成しているものを指す。上記金属錯体としては、化学的、熱的に安定であり、該金属錯体の溶液の光吸収における最大吸収波長λmaxでの吸収特性が適正なものが好ましい。
【0025】
上記金属錯体を構成する金属原子としては、例えば、周期表の2族元素、8族元素
9族元素、10族元素、11族元素及び12族元素からなる群から選ばれるいずれかの金属原子が挙げられる。
【0026】
これらの金属原子の中でも、特に銅、亜鉛、ニッケル、コバルト及び鉄から選ばれる金属原子が好ましく、該金属原子がコバルトであると、該金属原子を含有する上記金属錯体を安価に製造でき、得られる該金属錯体の光吸収特性も良好なのでより好ましい。
【0027】
上記の好ましい性質を有する金属錯体としては、例えば、上記金属原子が二価の金属原子である下記一般式(II)で表されるものが挙げられる。
【0028】
【化4】

(式中、A、R1、R2、X及びnは上記一般式(I)と同じであり、R1'は上記一般式(I)におけるR1と同じであり、R2'は上記一般式(I)におけるR2と同じであり、Mは、周期表の2族元素、8族元素、9族元素、10族元素、11族元素及び12族元素からなる群から選ばれるいずれかの金属原子を表す。)
【0029】
上記一般式(II)で表される化合物の具体例としては、下記に示す金属錯体No.1〜8が挙げられる。
【0030】
【化5】

【0031】
上記一般式(I)で表される化合物を配位子とする金属錯体は、その製造方法により特に制限を受けることはない。例えば、好ましい形態である上記一般式(II)で表される金属錯体の製造方法としては、下記[化6]に示すように、該当するサリチルアルデヒド誘導体とアミン化合物とから上記一般式(I)で表される化合物を合成し、該化合物と金属塩化合物とのキレート化反応により合成する方法、あるいは該当するサリチルアルデヒド誘導体と金属塩化合物とのキレート化反応により得られる金属錯体にアミン化合物を反応させる方法が挙げられる。
【0032】
【化6】

(式中、R1及びR2は上記一般式(I)と同じであり、R1'、R2'及びMは、上記一般式(II)と同じである。)
【0033】
上記[化6]で表される反応において、キレート化反応に用いられる金属塩化合物としては、ハロゲン化金属塩、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩等の無機金属塩;酢酸塩等の有機酸金属塩;メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド等の低級金属アルコキシド;アセチルアセトン塩、EDTA塩等のキレート錯体等が挙げられる。また、キレート化反応には、必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキシド、酢酸ナトリウム、水素化ナトリウム、ナトリウムアミド、リチウムアミド、有機アミン化合物等の塩基性化合物を反応剤として用いてもよい。
【0034】
本発明の金属錯体は、各種触媒、造影剤、医薬、酸素吸着剤、現像剤、美容剤、光増感剤、退色防止剤、殺菌剤等に用いることができる。
【0035】
次に、上記金属錯体を少なくとも一種含有することを特徴とする光学記録材料及び基体上に、該光学記録材料からなる光学記録層を形成したことを特徴とする光学記録媒体について説明する。
【0036】
本発明の光学記録材料は、上記金属錯体の少なくとも一種を含有する。また、本発明の光学記録媒体は、基体上に、該光学記録材料からなる光学記録層を形成して得られるものである。本発明の光学記録材料は、含有する金属錯体の光吸収特性に応じて各種の光学記録媒体に適用することができる。本発明の光学記録材料の中でも、波長が380nm〜420nmの短波長レーザ用の光ディスクに特に適合するのは、含有する金属錯体が、溶液状態での光吸収特性において、最大吸収波長λmaxを300〜450nmの範囲に有するものである。また、吸収強度については、λmaxでのεが1.0×104より小さいと記録感度が低下するおそれがあるので、1.0×104以上が好ましい。上記一般式(I)で表される化合物を配位子とする金属錯体の溶液状態でのλmax及びεの測定は、常法に従って、試料溶液の濃度、測定に用いる溶媒等を選択して行なうことができる。
【0037】
本発明の光学記録材料の調製、及び本発明の基体上に、該光学記録材料からなる光学記録層を形成したことを特徴とする光学記録媒体を製造する方法については、特に制限を受けない。一般には、メタノール、エタノール等の低級アルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルジグリコール等のエーテルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール等のフッ化アルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;メチレンジクロライド、ジクロロエタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素類等の有機溶媒に、本発明の金属錯体及び必要に応じて後述の各種化合物を溶解して溶液状の光学記録材料を調製する。続いて、該光学記録材料を基体上にスピンコート、スプレー、ディッピング等で塗布する湿式塗布法により、上記光学記録層を形成することで、上記光学記録媒体を製造する。該方法以外には、蒸着法、スパッタリング法等も用いられる。上記有機溶媒を使用する場合、その使用量は、本発明の光学記録材料中における上記金属錯体の含有量が0.1〜10質量%となる量にするのが好ましい。
【0038】
上記光学記録層は薄膜として形成され、その厚さは、通常、0.001〜10μmが適当であり、好ましくは0.01〜5μmの範囲である。
【0039】
また、本発明の光学記録材料中において、本発明の金属錯体の含有量は、本発明の光学記録材料に含まれる固形分中、10〜100質量%が好ましい。上記光学記録層は、光学記録層中に上記金属錯体を50〜100質量%含有するように形成されることが好ましく、このような金属錯体含有量の光学記録層を形成するために、本発明の光学記録材料は、上記金属錯体を、本発明の光学記録材料に含まれる固形分基準で50〜100質量%含有するのがさらに好ましい。
【0040】
本発明の光学記録材料は、本発明の金属錯体の他に、必要に応じて、アゾ系化合物、フタロシアニン系化合物、オキソノール系化合物、スクアリリウム系化合物、インドール化合物、スチリル系化合物、ポルフィン系化合物、アズレニウム系化合物、クロコニックメチン系化合物、ピリリウム系化合物、チオピリリウム系化合物、トリアリールメタン系化合物、ジフェニルメタン系化合物、テトラヒドロコリン系化合物、インドフェノール系化合物、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、キサンテン系化合物、チアジン系化合物、アクリジン系化合物、オキサジン系化合物、スピロピラン系化合物、フルオレン系化合物、ローダミン系化合物等の、通常光学記録層に用いられる化合物;ポリエチレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート等の樹脂類;界面活性剤;帯電防止剤;滑剤;難燃剤;ヒンダードアミン等のラジカル捕捉剤;フェロセン誘導体等のピット形成促進剤;分散剤;酸化防止剤;架橋剤;耐光性付与剤等を含有してもよい。さらに、本発明の光学記録材料は、一重項酸素等のクエンチャーとして芳香族ニトロソ化合物、アミニウム化合物、イミニウム化合物、ビスイミニウム化合物、遷移金属キレート化合物等を含有してもよい。本発明の光学記録材料において、これらの各種化合物は、本発明の光学記録材料に含まれる固形分中、0〜50質量%の範囲となる量で使用される。
【0041】
このような光学記録層を設層する上記基体の材質は、書き込み(記録)光および読み出し(再生)光に対して実質的に透明なものであれば特に制限はなく、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどの樹脂、ガラスなどが用いられる。また、その形状は、用途に応じ、テープ、ドラム、ベルト、ディスク等の任意の形状のものを使用できる。
【0042】
また、上記光学記録層上には、金、銀、アルミニウム、銅等を用いて蒸着法あるいはスパッタリング法により反射膜を形成することもできるし、アクリル樹脂、紫外線硬化性樹脂等により保護層を形成することもできる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例、比較例及び評価例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
下記実施例1〜7は、上記一般式(I)で表される化合物No.1〜No.7の製造例及び該化合物No.1〜No.7を配位子とする金属錯体No.1〜7の製造例を示す。得られた該化合物No.1〜No.7及び該金属錯体No.1〜No.7の同定は、1H−NMR、UV吸収スペクトル、IR、元素分析等により行った。それらの同定結果を以下の〔表1〕〜〔表4〕に示す。
【0044】
また、下記実施例8〜14は、実施例1〜7で得られた金属錯体No.1〜No.7を用いた光学記録材料の調製及び該光学記録材料を用いた光学記録媒体No.1〜No.7の製造例を示し、下記比較例1は、本発明の化合物とは異なる構造を持つシアニン化合物を用いた比較光学記録材料の調製及び該比較光学材料を用いた比較光学記録媒体No.1の比較製造例を示す。
【0045】
また、下記評価例1−1〜1−7では、実施例8〜14で得られた光学記録媒体No.1〜7及び比較例1で得られた比較光学記録媒体No.1について、短波長レーザによる記録及び再生の適否をUV吸収スペクトルの測定により評価を行った。それらの結果を〔表5〕に示す。
【0046】
さらに下記評価例2−1〜2−7では、実施例8〜14で得られた光学記録媒体No.1〜7及び比較例1で得られた比較光学記録媒体No.1についての耐光性を、UV吸収スペクトルの最大吸収波長(λmax)における吸光度残存率の測定により評価を行った。それらの結果を〔表6〕に示す。
【0047】
[実施例1〜7]
<ステップ1>化合物No.1〜7(上記一般式(I)で表される化合物)の製造例
サリチルアルデヒド誘導体13.6mmol及びエタノール38mlを仕込み、室温でアミン塩13.6mmolを加えて30分間加熱還流した。続いて、(+)−10−カンファースルホン酸0.14mmolを加えて6時間加熱還流した。溶媒を留去し、残さをエタノール100mlで洗浄し、ろ別、乾燥を経て目的物である化合物を得た。各種同定の結果、得られた反応生成物は、それぞれ対応する化合物No.1〜No.7であることを確認した。得られた化合物No.1〜7についての同定結果を以下の〔表1〕に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
<ステップ2>金属錯体No.1〜7の製造例
ステップ1で得られた化合物No.1〜7を9.03mmol、それぞれメタノール60mlに仕込み、さらに室温で水酸化ナトリウム0.38g(9.48mmol)をメタノール20mlに溶解したものを加えて30分間加熱還流した。続いて、酢酸コバルト(II)四水和物4.50mmolをメタノール20mlに溶解したものを加えて3時間加熱還流した。析出物をろ別してメタノール100mlで洗浄し、ろ過、乾燥を経て反応生成物を得た。各種同定の結果、得られた反応生成物は、それぞれ対応する金属錯体No.1〜No.7であることを確認した。得られた金属錯体No.1〜7についての同定結果を以下の〔表2〕〜〔表4〕に示す。
【0050】
【表2】

*:UV吸収測定におけるクロロホルム溶液の濃度
【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
[実施例8〜14]
上記の実施例1〜7で得た金属錯体No.1〜7を、それぞれ金属錯体濃度が濃度1.0質量%となるように2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液に溶解して、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液として光学記録材料を調製した。チタンキレート化合物(T−50:日本曹達社製)を塗布、加水分解して下地層(0.01μm)を設けた直径12cmのポリカーボネートディスク基板上に、上記の光学記録材料をスピンコーティング法にて塗布して、厚さ100nmの光学記録層を形成させて、それぞれ光学記録媒体No.1〜7を得た。
【0054】
[比較例1]
上記金属錯体に代えて下記比較化合物No.1を用いた以外は上記実施例8〜14と同様にして比較光学記録材料を調製し、該比較光学記録材料を用いて比較光学記録媒体No.1を得た。
【0055】
【化7】

【0056】
[評価例1−1〜1−7及び比較評価例1−1]
実施例8〜14で得られた光学記録媒体No.1〜7及び比較例1で得られた比較光学記録媒体No.1について、UVスペクトル吸収を測定した。それらの評価結果を〔表5〕に示す
【0057】
【表5】

【0058】
〔表5〕の結果から明らかなように、本発明の光学記録材料により形成された光学記録層を有する光学記録材媒体No.1〜7は、UVスペクトル吸収において300〜450nm近くにλmaxを示し、いずれの光学記録媒体も、380〜420nmのレーザ光により記録が可能であることが確認できた。一方、比較化合物を含有する比較光学記録材料により形成された光学記録層を有する比較光学記録材媒体No.1は、UVスペクトル吸収において300〜450nm近くにλmaxを示さず、380〜420nmのレーザ光により記録することができなかった。
【0059】
[評価例2−1〜2−5及び比較評価例2−1]
実施例8、9、12、13及び14で、それぞれ得られた光学記録媒体No.1、2、5、6及び7並びに比較例1で得られた比較光学記録媒体No.1について、耐光性評価を行なった。評価は、該光学記録媒体及び該比較光学記録媒体に55000ルクスの光を照射し、それぞれ50時間、100時間照射した後、照射前のUV吸収スペクトルのλmaxでの吸光度残率を測定した。それらの評価結果を〔表6〕に示す。
【0060】
【表6】

【0061】
本発明の金属錯体を含有する本発明の光学記録材料により形成された光学記録層を有する光学記録媒体は、照射50時間後において吸光度残存率が高く、照射100時間後においても吸光度残存率の低下はほとんど見られなかった。それに比べて、比較化合物を含有する比較光学記録材料により形成された光学記録層を有する比較光学記録媒体は、照射50時間後、照射100時間後ともに吸光度残存率が著しく低く、耐光性は良好でなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物。
【化1】

(式中、環Aはベンゼン環又はナフタレン環を表し、R1は、水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基又は炭素原子数7〜20のアリールアルキル基を表し、R2は、水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又はアミノ基を表し、隣接するR2は互いに連結して環を形成していてもよく、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、N−R又はC−R3(R4)を表し、Rは水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基又は炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、複素環基又はハロゲン原子を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基又は炭素原子数7〜20のアリールアルキル基を表し、R3及びR4は連結して環構造を形成していてもよく、nは1〜4の数である。上記ベンゼン環、ナフタレン環、炭素原子数1〜8又は1〜18のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、アミノ基及び複素環基は置換基を有していてもよく、上記炭素原子数1〜8又は1〜18のアルキル基中のメチレン基は、−O−、−CO−、−SO2−又は−CH=CH−で置き換えられていてもよい。)
【請求項2】
上記一般式(I)で表される化合物を配位子とする金属錯体。
【請求項3】
上記金属錯体が、下記一般式(II)で表される請求項2記載の金属錯体。
【化2】

(式中、A、R1、R2、X及びnは上記一般式(I)と同じであり、R1'は上記一般式(I)におけるR1と同じであり、R2'は上記一般式(I)におけるR2と同じであり、Mは、周期表の2族元素、8族元素、9族元素、10族元素、11族元素及び12族元素からなる群から選ばれるいずれかの金属原子を表す。)
【請求項4】
上記一般式(II)において、Mがコバルトである請求項3記載の金属錯体。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の金属錯体を少なくとも一種含有することを特徴とする光学記録材料。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれかに記載の金属錯体の含有量が、上記光学記録材料に含まれる固形分中、10〜100質量%であることを特徴とする請求項5記載の光学記録材料。
【請求項7】
基体上に、請求項5又は6記載の光学記録材料からなる光学記録層を形成したことを特徴とする光学記録媒体。


【公開番号】特開2007−210890(P2007−210890A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29129(P2006−29129)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】