説明

新規化合物

【課題】本発明の課題は、水に可溶な化合物であって、光開始重合剤としても使用可能である新規な化合物を提供することである。
【解決手段】本発明は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩に関する。



(式中、Rは、水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基を示す。R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。Xは、スルホ基、ホスホン酸基、カルボキシル基、又はアンモニウム基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
光重合開始剤は、紫外線、電子線等の照射により組成物を重合させたり、その物性を変性させたりするものとして、多種多様の化合物が開発され、種々の用途に普及している。
その中でもアセトフェノン骨格を有する化合物としては、例えば、例示する特許文献に数多く提案されている(特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭53−144539号公報
【特許文献2】特開昭54−99185号公報
【特許文献3】特公平7−2769号公報
【特許文献4】特開2007−314610号公報
【特許文献5】特表2002−544205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献の多くが有機溶媒に可溶の光開始重合剤化合物を提案しており、水溶性についてはほとんど着目されていない。また、水溶性について着目している文献もあるが、全体としては実際に市販されている水溶性光開始重合剤の種類の数は多いとは言えず、より多くの提供が望まれている。
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、水に可溶な化合物であって、光開始重合剤としても使用可能である新規な化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的に鑑みて鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の化合物及びその中間体に関する。
【0006】
項1.下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは、水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基を示す。R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。Xは、スルホ基、ホスホン酸基、カルボキシル基、又はアンモニウム基を示す。)
【0009】
項2.Xがスルホ基、ホスホン酸基又はカルボキシル基であり、塩がアルカリ金属塩又はアンモニウム塩である、前記項1に記載の化合物又はその塩。
【0010】
項3.Xがアンモニウム基であり、塩がハロゲン化物又は酸付加塩である、前記項1に記載の化合物又はその塩。
【0011】
項4.下記一般式(2)で表される化合物。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水に可溶で、光開始重合剤として使用可能な化合物を提供することができる。また、本発明によれば、上記化合物を製造するのに好適な中間体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本実施例1の化合物(4)をH−NMRで測定した結果である。
【図2】図2は、本実施例1の化合物(4)のIRスペクトルである。
【図3】図3は、本実施例2の化合物(5)をH−NMRで測定した結果である。
【図4】図4は、本実施例2の化合物(5)のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.化合物
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩である。
【0017】
【化3】



【0018】
は水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基を示す。好ましい炭素数は1〜4である。アルキレン基は、直鎖であっても分岐していてもよい。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、2−ヒドロキシプロピレン基等が挙げられる。水酸基(−OH基)が置換されている場合、その数は一つであっても二以上であってもよい。
【0019】
は炭素数1〜6のアルキル基を示す。Rのアルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基等である。Rは好ましくは、メチル基又はエチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0020】
は炭素数1〜6のアルキル基を示す。Rのアルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基等である。Rは好ましくは、メチル基又はエチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0021】
Xは、スルホ基(−SOH基)、ホスホン酸基(−PO基)、カルボキシル基(−COOH基)、又はアンモニウム基を示す。
アンモニウム基は、好ましくは−N(R3−nで表されるアルキルアンモニウム基である。Rは好ましくは炭素数1〜6(特に好ましくは炭素数1〜4)のアルキル基等である。nは0〜2までの整数(好ましくは0)である。アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。なお、Rが複数ある場合、複数のRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。具体的には、−NCH、−NH(CH、−N(CH、−N(C等が挙げられる。
【0022】
本発明の化合物の塩は、上記一般式(1)の化合物と塩を構成しているものであれば限定的でない。
Xがスルホ基である化合物(スルホン酸)、ホスホン酸基である化合物(ホスホン酸)又はカルボキシル基である化合物(カルボン酸)である場合は、その塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、遷移金属塩、オニウム塩が挙げられる。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩等が挙げられる。好ましくはアルカリ金属との塩、又はアンモニウム塩である
【0023】
Xがアンモニウム基である化合物(アンモニウム化合物)である場合、これらの塩としては、例えば、ハロゲン化物、酸付加塩、水酸化物等が挙げられる。具体的には、フッ化イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化イオン等のハロゲン化物イオンとの塩;塩酸、硝酸、硫酸、過酸化塩素塩等の無機酸、もしくはメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、マレイン酸等の有機酸との塩といった酸付加塩;水酸化物イオンとの塩等が挙げられる。好ましくはハロゲン化物、酸付加塩等であり、より好ましくはハロゲン化物である。
以下に本発明の化合物の具体例に一例を示すが、本発明は下記の具体例に限定されるものではない。
【0024】
【化4】

【0025】
本発明の化合物は水溶性である。水への溶解量は特に限定されないが、例えば、水(25℃)100重量部に対して0.5重量部以上、好ましくは3重量部以上であればよい。
本発明の化合物は、光開始重合剤として使用することが可能である。例えば、紫外線(波長範囲:250nm〜400nm)を照射することによりラジカル発生させ、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(具体的には、アクリル酸エステル類等)を重合させることができる。
本発明の化合物は、紫外線波長域に大きな吸収ピークを有するため、紫外線による光開始重合剤として使用した際に、高感度であることが期待される。
【0026】
2.中間体
本発明の化合物を製造する際に使用する好適な化合物(中間体)は、下記一般式(2)で表される。
【0027】
【化5】

【0028】
はRと同様であり、炭素数1〜6のアルキル基を示す。Rのアルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基等である。Rは好ましくは、メチル基又はエチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
はRと同様であり、炭素数1〜6のアルキル基を示す。Rのアルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基等である。Rは好ましくは、メチル基又はエチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0029】
3.製造方法
本発明の化合物は、一般式(2)の中間体から好適に得ることができる。
例えば、中間体を原料として、Xがスルホ基である化合物又はその塩を製造する場合は、中間体、スルトン、及びアルカリ金属アルコキシド若しくはアルカリ金属の水酸化物を反応させることにより得ることできる。スルトンとしては、例えば1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン等が挙げられる。アルカリ金属アルコキシドやアルカリ金属の水酸化物としては例えばカリウムt−ブトキシド、水酸化ナトリウム等が挙げられる。具体的には、中間体1molに対し、スルトン1〜3mol及びアルカリ金属アルコキシド若しくはアルカリ金属の水酸化物1〜3molをアルコール溶媒等にて反応させればよい。
【0030】
Xがカルボキシル基である化合物又はその塩を製造する場合は、中間体、及びハロゲン化脂肪族カルボン酸を反応させることにより得ることできる。ハロゲン化脂肪族カルボン酸としては、例えばブロモ酢酸等が挙げられる。具体的には、中間体1molに対し、ハロゲン化脂肪族カルボン酸を1〜3mol、アルコール溶媒等にて反応させればよい。
Xがホスホン酸基である化合物またはその塩を製造する場合は、例えば中間体にジハロゲン化アルキルを反応させ、更に亜リン酸トリアルキルと反応させてアルキルホスホン酸エステルとした後、アルカリ金属の水酸化物などで加水分解させることにより得ることができる。
【0031】
Xがアンモニウム基である化合物又はその塩を製造する場合は、アルカリ金属の水酸化物の存在下、中間体及びグリシジルトリアルキルアンモニウムハライドを反応させることにより得ることできる。グリシジルアルキルアンモニウムハライドとしては、例えば、グリシジルトリ(C1−6)アルキルアンモニウムクロリド等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。具体的には、中間体1molに対し、グリシジルトリアルキルアンモニウムハライド1〜3mol及び触媒量の水酸化アルカリをアルコール溶媒等にて反応させればよい。その他、中間体にジハロゲン化アルキルを反応させた後、アミンを反応させることによっても製造することができる。
なお、本発明の中間体は、例えば下記の工程により得ることができる。
【0032】
【化6】

【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明をより更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
<実施例1>
下記の合成スキームに従って、本発明の化合物を製造した。
【0035】
【化7】

【0036】
(中間体(1)の合成)
攪拌機、塩化カルシウム管及び温度計を備えた500mlの三口フラスコに4−アセトキシビフェニル10g(47.1mmol)(東京化成社製)及び塩化メチレン100mlを入れ、窒素雰囲気下で氷冷した。次いで塩化イソブチリル6.0g(56.3mmol)を反応容器内に入れた後、反応溶液を5℃以下に保ちながら塩化アルミニウム7.54g(56.6mmol)をゆっくり添加した。その後氷冷下で一時間攪拌した後、反応温度を室温まで上昇させ更に三時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を500mLの水に添加して攪拌し、300mlの酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過して、ろ液をエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶液:酢酸エチル/ヘキサン=1/8)で精製して中間体(1)を収量13gで得た。
【0037】
(中間体(2)の合成)
攪拌機、塩化カルシウム管及び温度計を備えた500mlの三口フラスコに中間体(1)6.7g(23.7mmol)及びジオキサン70mlを入れ、窒素雰囲気下で氷冷した。次いで臭素4.4g(27.5mmol)をゆっくり滴下した。その後氷冷下で一時間攪拌した後、反応温度を室温まで上昇させ更に1時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を300mlの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に入れて攪拌し、200mlの酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過して、ろ液をエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶液:酢酸エチル/ヘキサン=1/4)で精製して中間体(2)を収量6.7gで得た。
【0038】
(中間体(3)の合成)
攪拌機を備えた500mlの三口フラスコに中間体(2)6.7g(18.5mmol)及びイソプロパノール200mlを入れ、攪拌しながら30%水酸化ナトリウム水溶液16gを滴下した。室温で5時間攪拌した後、1規定塩酸を用いて反応溶液を中和し、300mlの酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過して、ろ液をエバポレーターで濃縮した。得られた粗生成物をアセトニトリルで再結晶して本発明の中間体(3)を得た(収量4.4g)。
【0039】
(化合物(4)の合成)
攪拌機と冷却管を備えた200mlの三口フラスコに中間体(3)1.0g(3.9mmol)、1,3−プロパンスルトン0.57g(4.67mmol)、カリウムt−ブトキシド0.53g(4.72mmol)及びエタノール20mlを入れ、還流下で6時間攪拌した。反応終了後、反応液をろ過し、得られた粗生成物をエタノールで洗浄することで本発明の化合物(4)を1.42gの収量で得た。
化合物の生成はH−NMR(測定溶媒:MeOD)およびIRスペクトル(KBr法)により確認した。これを図1及び図2に示す。
【0040】
<実施例2>
下記の合成スキームに従って、本発明の化合物を製造した。
【0041】
【化8】

【0042】
(化合物(5)の合成)
攪拌機と冷却管を備えた100mlの三口フラスコに中間体(3)0.5g(1.95mmol)、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド0.43g(2.83mmol)、水酸化カリウム(0.05規定エタノール溶液)0.1g及びエタノール20mlを入れ、還流下で6時間攪拌した。反応終了後、反応液を減圧濃縮し、得られた粗生成物をイソプロパノールで洗浄することで本発明の化合物(5)を0.55gの収量で得た。
化合物の生成はH−NMR(測定溶媒:DO)およびIRスペクトル(KBr法)により確認した。これを図3及び図4に示す。
【0043】
<水溶性の評価>
上記本発明の化合物(4)及び(5)の水溶性を測定したところ、水(25℃)100gに対して、それぞれ5g、7g溶解した。
【0044】
<光開始重合性の評価>
本発明の化合物(4)とエチレン性不飽和モノマー(ヒドロキシエチルアクリルアミド)とを1:10の重量比で混合し、銅版上に塗布して膜を形成した。次いで、得られた膜に高圧水銀ランプを用いて800mJ/cmの照射量で紫外線を照射したところ、IRスペクトル測定により不飽和モノマーの重合反応の進行が確認された。
本発明の化合物(5)も同様に行ったところ、重合反応の進行が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【化1】


(式中、Rは、水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基を示す。R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。Xは、スルホ基、ホスホン酸基、カルボキシル基、又はアンモニウム基を示す。)
【請求項2】
Xがスルホ基、ホスホン酸基又はカルボキシル基であり、塩がアルカリ金属塩又はアンモニウム塩である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
Xがアンモニウム基であり、塩がハロゲン化物又は酸付加塩である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
下記一般式(2)で表される化合物。
【化2】


(式中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−1451(P2012−1451A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135233(P2010−135233)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】