説明

新規微生物及びこの新規微生物を用いた植物病害防除資材

【課題】果樹や野菜病害に対する新規微生物、及びこの微生物を用いた植物病害防除資材を提供する。
【解決手段】自然環境下より分離したバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株、および該株を用いた植物病害防除資材。該微生物は、広範囲の糸状菌性の植物病害防除に有効であり、且つ体外へ生産する抗生物質により抗菌効果を示す。また、他の化学農薬とも併用が可能であり、減農薬栽培、または有機農業栽培に対して有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新種のバチルス・アミロリクエファシエンス及びこの微生物の菌体および培養物を用いた植物病害防除資材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生物農薬市場は、約8億円(平成21年度)に留まっており、農薬市場全体からみると、1%以下の規模となっている。ただし、有機および減農薬栽培を試行する生産者の増加や、残留農薬に関する昨今の消費者意識の向上および残留農薬規制が強化された改正食品衛生法の施行等の影響により、生物農薬および生物資材への注目は今後ますます高まっていくと予想される。これらがもたらす減農薬栽培、そしてそれに付随する「安全・安心」というイメージは、マーケティング戦略上、非常に有効である。また、農薬取締法の改正や、残留農薬ポジティブリスト制の導入などが、生物農薬の市場拡大への大きな後押しとなっている。
生物農薬の中でも微生物を利用した微生物農薬は俄然注目を集めている。
現在、微生物農薬は、軟腐病、灰色かび病などに4剤が登録され、病原菌に対して、住み処および栄養分を競合、拮抗物質を生産又は寄生して効果を発揮すると考えられている。微生物農薬は化学農薬に比べ、(1)自然界に生存する微生物を利用するため、反応が温和であり人体や環境等への負荷が極めて低い、(2)宿主特異性が高く標的とする病原菌が明確であり、多重散布も防げる、(3)微生物が植物体に定着すれば効果の持続が期待される、などの大きなメリットがある。
従来、バチルス・ズブチルスを利用した生物農薬として、例えば、バチルス・ズブチルスなどのバチルス属細菌の培養物から胞子を乾燥重量で50重量%以上含むように調整された胞子画分を含有する植物病害防除方法が知られている。他の拮抗菌バチルス属細菌として知られているバチルス・リケニホルミス、バチルス・アミロリクエファシエンス(特許文献1乃至4)などは、ジャガイモの疫病菌として有名なフィトフィトラ属、クワの白紋羽病を引き起こすロゼリニア属病原菌に対して有効である。
しかし、上記従来の植物病害防除剤は、化学農薬よりもかなり防除効果は低く、病原菌に対する適応範囲が狭く、特異的な防除効果しか挙げられないなど困難な課題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許文献1:特開平11−246324
【特許文献2】特開2002−145712
【特許文献3】特開昭63−38482
【特許文献4】特開2009−101063
【特許文献5】国際公開番号 WO2010/004713A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、予防効果にのみならず治療効果も期待することができ、且つ種々の植物病原菌に対して適用される新規微生物及びこの新規微生物を用いた植物病害防除資材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1による新規微生物は、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株(Bacillus amyloliquefaciens S13-3) (受託番号:NITE P-1121)であることを特徴とするものである。
【0006】
また、請求項2による植物病害防除資材は、前記バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株の培養物及び/又は微生物菌体を有効成分として含むことを特徴とするものである。
【0007】
また、請求項3による植物病害防除資材は、ブドウ晩腐病、灰色かび病、イチゴ炭疽病に有効に作用することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株の培養物、及び/又は、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株の微生物菌体を有効成分として含む植物病害防除資材は、炭疽病菌、晩腐病菌、灰色かび病菌、黒斑病菌など幅広く植物病原菌に対する予防効果、抑制効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株の菌体と芽胞の観察結果の位相差顕微鏡写真。
【図2】本発明のバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株のイチゴの炭疽病菌に対する圃場での散布試験結果の写真(上図:無処理区、下図:S13-3株区)。
【図3】イチゴ切り葉を用いた試験のバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株と対照資材との発病率(%)結果。
【図4】イチゴ切り葉を用いたS13-3株の散布試験、発病度合いの写真(上図:無処理区、下図:S13-3株)。
【図5】バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株の抗生物質分泌試験、対峙培養結果。
【図6】本発明のバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株と対峙培養したときのブドウ晩腐病菌の菌糸先端の顕微鏡写真。
【図7】本発明のバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株が産生する抗生物質によるブドウ晩腐病菌の生育阻害写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に係るバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株は、財団法人新技術開発財団が所有する植物研究園(静岡県熱海市相の原町)の土壌より分離した数千種の細菌の中から同定された細菌であり、様々な病原菌に対して強い抑制効果を示す特徴を有している。以下に、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株の微生物学的特性、並びに諸性質について示す。
【0011】
A.細菌の形態
(1) 形状:長桿菌
(2) 大きさ:0.8×9μm
(3) 運動性:あり
【0012】
B.コロニーの形態(31℃、1日間培養)
(1) 培地名:SCD寒天培地
(2) コロニーの大きさ:9mm
(3) コロニーの形状:不規則円形
(4) コロニーの隆起:扁平状
(5) コロニー周辺の形状:波状
(6) コロニー表面の形状:しわ状
(7) コロニーの質:粘質
(8) コロニーの透明度:不透明
(9) コロニーの光沢:鈍光
(10) コロニーの色:淡いベージュ色
【0013】
C.生理学的性質
【表1】

【0014】
16S rDNAの塩基配列を以下の配列番号に示す。
【配列番号】
【0015】
1509 bp

【0016】
以上の微生物学的性質および16S rDNAの塩基配列の配列番号に基づいて、本菌株をバチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)と同定し、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株は、2011年8月9日に、独立行政法人製品評価技術基盤気候特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託し、受託番号「NITE P-1121」として受託された。
【0017】
なお、本発明に係るバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株は、上記配列番号に示された16S rDNA塩基配列と完全に一致する塩基配列のみに限定されるものではなく、当該塩基配列の1つ若しくは数個の塩基が欠損、置換または付加や挿入された塩基配列からなる場合においても、植物病害防除作用、特にブドウ病害やイチゴ病害防除作用において、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株と同様の形質を備えるものとする。
【0018】
本発明において使用することができる培地は、本菌株が培養により増殖し得るものであれば、とくに制約を受けない。例えば、炭素源としてグルコース、シュークロース、酵母エキス、肉エキス、ポリペプトン、ペプトンなどが利用される。また、他の栄養素として、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、カルシウムなども添加される。
【0019】
本発明における培養条件は、好気条件下で、例えば通気攪拌や振盪培養あるいは、固形培地法などによって培養することが出来る。培養条件は特に限定されないが、培養温度は30-37℃、培地pHは6.5-7.5、培養時間は10-16時間の範囲が適している。
【0020】
以上のようにして培養したバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株は、培養物から分離することなく利用することができ、また遠心分離方法により菌体を分離して利用することも出来る。さらに、これを植物防除剤として利用する場合には、界面活性剤(例えば、polyoxyethylene sorbitan monolaurate;Tween20)、展着剤(例えば、丸和バイオケミカル(株)製のアプローチBI)などの種々の添加物と共に製剤化し、粒剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤などとして使用することができる。
【0021】
このようにして調整されたバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株の菌体または培養物を、植物体あるいは土壌に施用することによって、植物の病害を防除することができる。本発明の防除剤は、例えば、ブドウ灰色かび病菌、ブドウ晩腐病菌、ブドウ白紋羽病菌、などによって引き起こされるブドウ病害の防除に著しい効果を示すほか、ブドウ以外の植物、例えばイチゴやキュウリなどに感染する灰色かび病菌や炭疽病菌の防除にも効果を示す。
【0022】
防除資材の施用方法は、製剤の形態やホスト植物の種類、病害の種類や程度によって適宜選択され、例えば液化した防除剤を地上液剤散布や空中液剤散布する方法、あるいは直接植物の葉に散布、塗布する方法、さらには防除剤溶液中に浸漬する方法などがある。
【0023】
施用量は、病害の種類や適用植物によって異なるが、例えば、1.0×108 cells/ml(0.02% Tween20)の濃度で、圃場1a当たり5Lである。
【実施例】
【0024】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されないことはもちろんである。
【0025】
〔実施例1:培養例〕
SCD培地(soybean casein digest broth)に本発明に係るバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株のシングルコロニーを白金耳植菌し、37℃、150 rpmにて12時間振盪培養して培養液を得た。この培養液を1.0×108 cells/mlのS13-3株が含まれるようにSCD培地で調整し、界面活性剤としてTween20(最終濃度0.02%)を添加して、フロアブル剤とした。
【0026】
〔実施例2:ブドウ晩腐病に対する小規模散布試験〕
この実施例では、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株のブドウ晩腐病菌に対する防除効果評価試験を行った。山梨大学ワイン科学研究センター附設の育種試験圃場(山梨県甲府市塚原)にて、植栽されているセミヨン種のブドウ(棚仕立て)を供試作物とし、上記の実施例1で調整したフロアブル剤を散布して調べた。本試験圃場では、多種のヨーロッパ系醸造用ブドウを育てている。そのうち、セミヨン種はブドウ晩腐病菌に非常に弱い品種である。そのセミヨン種を無農薬栽培で育て、それに自然発生するブドウ晩腐病の発病度を指標に、S13-3株の防除効果評価試験を行った。平成22年7月7日〜平成22年9月8日までの間、週一回の割合で毎週ブドウの房に上記の実施例1で調整したフロアブル剤を直接噴霧し、その噴霧量は10ml/房とした。(1a当たり5L程度)。対照区として、何も散布しない無処理区を設定した。散布試験終了後に、発病度(%)を<晩腐病発病粒/全粒×100>で算出した。
【0027】
平成22年9月15日に晩腐病の罹病調査を行い、晩腐病が現れた粒数を基にして、上記の式に入れて発病率を算出した。
【0028】
【表2】

【0029】
上記の表2の結果より、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株のブドウ晩腐病菌に対する防除効果が高いことが明らかとなった。
【0030】
〔実施例3:イチゴ炭疽病に対する小規模散布試験〕
この実施例では、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株のイチゴ炭疽病に対する防除評価試験を行った。株式会社アイエイアイ試験圃場(静岡県静岡市清水区尾羽)にて、ポット育苗している一季成りイチゴ(品種:章姫)を供試作物とし、上記の実施例1にて調整した菌体に展着剤アプローチBI(丸和バイオケミカル株式会社製)を0.2%の濃度で添加して、フロアブル剤として散布した。
平成22年8月24日〜平成22年9月7日までの3週間に渡り、週一回の割合でイチゴ苗全体に噴霧した。同時に対照防除剤として、化学農薬のアントラコール顆粒水和剤(バイエルクロップサイエンス株式会社製)、市販微生物農薬であるバイオトラスト水和剤(出光興産株式会社製)、Bacillus subtilis KS1株(特許文献5)1.3-1.5×108 cells/ml、そして薬剤なしで水だけを散布する無処理区の5試験区を設けた。また、各試験区はイチゴ苗25株に炭疽病の保菌株を1株中央に配置し、2反復にして試験を実施した。また、これらの資材には展着剤としてアプローチBI 0.2%を施用した。
【0031】
平成22年9月28日にイチゴの炭疽病の罹病調査を行い、以下に調査項目を示した。
(a)薬剤散布開始以後、適宜薬害、汚れの有無とその程度を調査。
(b)調査株:隣接区の影響を受けない株の中から15株ランダムに選抜し、調査葉は、なるべく各区ともほぼ同一葉位や茎のものを観察し、健全葉の枚数を確認した。
(c)調査項目:発病小葉数(率)を調査、または小葉当たりの病斑数を調査した。
発病指数 0:病斑なし 1:葉に小斑点 2:葉に大型病斑 3:萎凋 4:枯死
5段階評価を行い、発病程度に関しては、(式1)にて算出した。
発病程度=(Σ(発病指数×発病別株数))/(4×調査株数)×100 ・・・(式1)
【0032】
イチゴの炭疽病発病調査結果
【表3】

1:全調査株(2反復計30株)の平均
【0033】
上記の表3より、化学農薬であるアントラコールやバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株と同様の微生物資材であるバイオトラストと比較しても、S13-3株の発病率が低く、すなわち防除効果が高いという結果を得た。茎や葉への炭疽病の病斑も少なく、また展着剤等との薬害も無いため、S13-3株は植物病害の防除資材として大変有用であることが明らかとなった。
【0034】
〔実施例4:イチゴ切り葉散布試験〕
SCD培地で培養したS13-3株をSCD培地で、1.0×108
cells/mlに調整した。市販のイチゴ苗(品種:女峰)から葉を切り取り、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株を2ml/枚の濃度で噴霧した。同時に対照防除剤として、化学農薬のゲッター水和剤(有効成分:ジエトフェンカルブ、日本曹達株式会社製)、市販の微生物農薬であるタフパール(出光興産株式会社製)、そして薬剤を使わない無処理区の4試験区で試験を実施した。散布濃度や頻度は各メーカーの指示に従って、行った。
自然乾燥後、切り葉の中央に針で微小の穴を開け、PDA培地(寒天中にジャガイモ・エキスとグルコースを含んだもの)上で生育させたイチゴ炭疽病菌Colletotrichum gloeosporioidesの菌叢ディスクを穴の上に、菌叢が下になるように静置した。滅菌水で軽く切り葉を湿らせた後、28℃、24時間光照射条件で、6日間培養を行った。
発病指数として、0:病斑なし、1:接種した菌叢の下だけに病班、2:菌叢の2倍の病班、3:菌叢の3倍の病班、4:菌叢の4倍の病班、5:菌叢の5倍の病班、6:菌叢の6倍の病班、7:菌叢の7倍の病班、の8段階の評価を行なった。
【0035】
図3、4に結果を示した。本発明のバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3はイチゴ炭疽病に適応される市販微生物農薬タフパールと同程度の防除効果を示した。
【0036】
〔実施例5:バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株の抗菌成分の評価試験〕
この実施例では、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株のブドウ晩腐病菌に対する防除効果試験を行った。まず、検定するための病原菌をPDA培地上で25℃、4日間培養した。次に、成長した菌糸をコルクボーラにて直径4 mmのディスクを打ち抜き、これをPDA培地が入っている新しいシャーレの中心に置いた。さらに、同じシャーレの端にバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株を直線的に塗り、対峙培養を25℃、4日間行って検定菌の菌叢とバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株との阻止帯形成を観察した。
【0037】
図5乃至7は、検定菌C. gloeosporioidesを25℃にて3日間対峙培養した後の菌糸先端の顕微鏡写真(200倍)である。この写真より、ブドウ晩腐病菌の菌糸先端が膨潤して破裂し、病原菌の生育が抑制された様子を示している。この生育抑制には、本発明のバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株が産生する抗菌性物質が関与していると考えられた。その後、このS13-3株の産生する抗菌性物質を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析したところ、抗真菌剤として知られているイツリンAであると同定された。SCD培地で6日間培養した際の培地中へのイツリンA分泌量は0.1 mg/mlであり、C. gloeosporioidesの生育を抑制するのに充分な量であった。したがって、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株は、イツリンAを体外へ産生・分泌することで、晩腐病菌を抑制することが明らかとなった。
【0038】
〔実施例6:適用病原菌試験〕
この実施例では、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株の各種糸状菌性の植物病原菌に対する防除効果試験を行った。検定菌の調整は、実施例5の方法に従い、PDA培地にてS13-3株との対峙培養を行い、評価を行った。
【0039】
バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株と各病原菌との対峙培養の結果、Alternaria brassicicola、Aspergillus niger、Botrytis alli、Botrytis cinerea、Botrytis fabae、Cochliobolus sativus、Cochliobolus miyabeanus、Colletotrichum coccodes、Colletotrichum lagenarium、Colletotrichum lindemuthianum、Colletotrichum higginoianum 、Helicobasidium mompa、Mucor racemosus、Mycosphaerella pinodes、Phytophthora porri、Pyricularia zingiberis、Pythium aphanidermatum、Rosellinia necatrix、Stemphylium lycopersici、Taphrina mume、Thielaviopsis basicola、Ustilago maydis、など数多くの糸状菌性植物病原菌に対する抗菌活性が確認された。これら病原菌はブドウやリンゴ、ナシといった果樹だけでなく、イチゴなどの果菜類、キュウリなどのウリ科、また葉菜類のアブラナ科の主要病原菌であるため、S13-3株が防除する適応範囲は広範囲に渡ると考えられ、このことからもS13-3株が大変有用な拮抗菌であることは明らかである。
【0040】
〔実施例7:薬剤耐性試験〕
この実施例では、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株の化学農薬に対する耐性試験を行った。先ず、対象となる化学農薬を含有したSCD培地をシャーレに作る。この時の化学農薬の濃度(ppm)は一般的な散布濃度と同じである。次に、前記化学農薬を含有する培地の表面にバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株を、プレート当たり50〜100コロニー生育するように塗付し、37℃で1日間培養した。対照区として、化学農薬を含まないSCD培地にバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株を同量塗布した。培養後に生育したコロニー数を対照区と比較した結果、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株は以下の濃度の化学農薬に耐性を示すことが明らかとなった。
200ppmアゾキシストロビン、200ppmベノミル、100ppmジエトフェンカルブ、100ppmフェンヘキサミド、400ppmフェニトロチオン、1,000ppmフォセチル、200ppm クレソキシムメチル、300ppmマンジプロパミド、100ppmプロシミドン、200ppmトリアクロプリド、200ppmチオファネートメチル、500ppmトリフロキシストロビン
ただし、400ppmカルバリル、100ppmイプロジオン、100ppmマネブ、700ppmマンゼブでは、コロニーの出現率が著しく低かったことを付け加えておく。
以上の結果から、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株は一般に野菜および果樹に使用されている化学農薬に対し、広く耐性を示すことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係るバチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株は、白紋羽病、灰色かび病、晩腐病、炭疽病などの幅広い作物の病害に有効である。この広範な防除効果は、現在各作物病害を防除するために施用されている化学農薬、微生物農薬の種類や散布量を低減することができ、環境保全に加え、低農薬栽培、有機栽培だけでなく持続可能型農業への実現に向けての寄与は大変大きいと考える。したがって、微生物資材としての産業上の利用が可能である。
【受託番号】
【0042】
NITE P−1121

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス・アミロリクエファシエンスに属する新規微生物、バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株(Bacillus amyloliquefaciens S13-3) (NITE P-1121)。
【請求項2】
バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株の培養物及び/又は微生物菌体を有効成分として含む植物防除資材。
【請求項3】
前記バチルス・アミロリクエファシエンスS13-3株の培養物及び/又は微生物菌体が、ブドウ晩腐病、灰色かび病、イチゴ炭疽病菌に作用する請求項2記載の植物病害防除資材。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−42690(P2013−42690A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181973(P2011−181973)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(391008515)株式会社アイエイアイ (107)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】