説明

新規糸状菌を利用した植物の土壌伝染性病害防除資材

【課題】本発明の課題は、土壌中の微生物群の影響を受けることなく、少量施用で安定した土壌伝染性病害防除効果を発揮する資材を提供すること、また、これを利用した植物の土壌伝染性病害防除法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、各種植物の根部に感染、共生可能で、土壌伝染性病害を防除する能力を持つ新規糸状菌SD-F06菌株を提供する。本発明はまた、糸状菌SD-F06菌株の菌体または培養物を含む土壌伝染性病害防除資材、これを利用した植物の土壌伝染性病害防除法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象となる植物の本圃および/または苗床の土壌に混合施用することによって土壌伝染性病害、特にゴイマノマイセス属菌病害やフザリウム属菌病害を防除する効果を持つ新規菌株(SD-F06菌株)と、その菌体またはその培養物を有効成分として含有する土壌伝染性病害防除資材に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌伝染性病害は一度発生すると防除が極めて困難で、産地の崩壊を招く恐れがある重要病害である。中でも野菜類ではフザリウム属菌による土壌伝染性病害の被害は大きく、トマト萎凋病、ホウレンソウ萎凋病、レタス根腐病、キャベツ萎黄病、イチゴ萎黄病、キュウリ、メロン、スイカ等のつる割病など多岐にわたり、最重要病害の一つとなっている。現在、臭化メチルやクロルピクリンといった化学農薬による土壌くん蒸が最も有効な技術とされているが、臭化メチルは地球温暖化因子として製造・使用が制限されている。また、ガス剤使用による近隣住民の健康に関する懸念、土壌中の有用微生物や天敵昆虫を殺してしまう土壌空洞化現象を引き起こし、新たに侵入した病原菌による被害を増大する問題(リサージェンス現象)なども指摘されている。このため、安全で、環境に配慮し、効果の安定した微生物農薬の登場が切望されている。
【0003】
非特許文献1,2に記載されたSterile Dark菌(K89株)は、コムギ根部共生菌であり、コムギ立枯病(ゴイマノマイセス菌病害)に防除効果が認められている。しかしながら、コムギ立枯病菌とSterile Dark菌株を同時にポットに施用した結果では、立枯病の発病は軽減されるものの十分なものとはいえなかった。さらに、実圃場を想定した場合、非特許文献1に記載の1.5〜2.5%(V/V)土壌混和という施用条件では、非常に大量の資材が必要とされ、コストの面で微生物農薬としての実用化を困難にしていた。また、野菜類の最重要土壌伝染性病害であるフザリウム属菌の病害への防除効果については検討されていない。
また、Sterile Dark菌以外にも、非病原性フザリウム属菌(非特許文献3)、バチルス属菌(特許文献1,2)、シュードモナス属菌(特許文献5,6)、トリコデルマ菌(特許文献3,4)など病原菌に対する防除作用を持つ微生物(細菌、糸状菌)を土壌や植物に接種することによる土壌伝染性病害の生物防除法も数多く試みられている。しかしながら、施用した菌を土壌中で安定して棲息させることが難しく防除効果が不安定であること、また、非病原性フザリウム菌等の植物内生菌の場合でも防除効果が短期間しか持続できない等の問題があり、十分な病害防除効果を挙げるに至っていない。
【0004】
【特許文献1】特開平3-128988(バチルス属菌)
【特許文献2】特開平4-117278(バチルス属菌)
【特許文献3】特開平1-102010(トリコデルマ属菌)
【特許文献4】特開平2-245178(トリコデルマ属菌)
【特許文献5】特開平2-35075(シュードモナス属菌)
【特許文献6】特開平5-916(シュードモナス属菌)
【非特許文献1】「有用微生物の有効利用技術」土壌と根圏IV, p131-136, 1986
【非特許文献2】Ann. Phytopath. Soc. Japan 57:301-305, 1991
【非特許文献3】「非病原性フザリウム・オキシスポラムによるサツマイモつる割病の防除とその実用化」 今月の農業 10月号 p19-22(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、土壌中の微生物群の影響を受けることなく、少量施用で安定した土壌伝染性病害防除効果を発揮する資材を提供すること、また、これを利用した植物の土壌伝染性病害防除法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、各種植物の根部に共生可能で、土壌伝染性病害を防除する能力を持つ新規糸状菌SD-F06菌株を提供する。本発明はまた、糸状菌SD-F06菌株の菌体または培養物を含む土壌伝染性病害防除資材、これを利用した植物の土壌伝染性病害防除法を提供する。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)植物の根部に感染、共生する能力を有し、かつ感染、共生した植物に発病する土壌伝染性病害を防除する効果を有する、糸状菌SD-F06菌株(FERM AP-20969)又はその変異株。
(2)(1)に記載のSD-F06菌株又はその変異株の菌体またはその培養物を有効成分として含有する土壌伝染性病害防除資材。
(3)(2)に記載の土壌伝染性病害防除資材を用いて植物を生育させる土壌を処理することを特徴とする土壌伝染性病害防除方法。
(4)前記土壌伝染性病害が植物病原性糸状菌に起因する病害である(2)記載の土壌伝染性病害防除資材。
(5)前記土壌伝染性病害が植物病原性糸状菌に起因する病害である(3)記載の土壌伝染性病害防除方法。
(6)前記植物病原性糸状菌に起因する病害が、フザリウム属菌、ゴイマノマイセス属菌、リゾクトニア属菌、ピシウム属菌、バーティシリウム属菌、フィトフトラ属菌、スクレロチウム属菌、コルティシウム属菌、プラスモディオフォラ属菌、リゾプス属菌、トリコデルマ属菌、ミクロドチウム属菌、スクレロチニア属菌のいずれか1種以上に起因する病害である(4)記載の土壌伝染性病害防除資材。
(7)前記植物病原性糸状菌に起因する病害が、フザリウム属菌、ゴイマノマイセス属菌、リゾクトニア属菌、ピシウム属菌、バーティシリウム属菌、フィトフトラ属菌、スクレロチウム属菌、コルティシウム属菌、プラスモディオフォラ属菌、リゾプス属菌、トリコデルマ属菌、ミクロドチウム属菌、スクレロチニア属菌のいずれか1種以上に起因する病害である(5)記載の土壌伝染性病害防除方法。
【発明の効果】
【0008】
(1)本発明の北海道の畑土壌より取得した新規植物共生菌SD-F06菌株は、各種植物の根内部に共生可能で、共生した植物が罹病する土壌伝染性病害を防除する能力を持つ。
(2)本発明のSD-F06菌株が共生可能な植物種の範囲は広く、非常に広い範囲の植物の土壌伝染性病害防除へ適用できる。
(3)本発明のSD-F06菌株は野菜類の最重要土壌伝染性病害であるフザリウム属病害に、高い防除効果を示す。
(4)本発明のSD-F06菌資材は植物の育苗用培土に混合し、共生苗を作成することにより、本圃に移植した後も、土壌中の微生物群集の影響を受けることなく安定した防除効果を発揮する。また、菌の植物への共生は1ヶ月以上持続する。
(5)本発明の育苗用培土に混合するSD-F06菌資材の量は1%(W/V)以下で十分であり、非常に少量の施用量で高い防除効果が得られるため、経済性の高い防除資材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の新規糸状菌SD-F06菌株は、各種植物の根部内に共生可能で、土壌伝染性病害を防除する能力を有する。
本発明の新規糸状菌SD-F06菌株は、北海道のコムギ連作畑土壌より植物根内部共生菌をスクリーニングすることにより取得した。SD-F06菌株の特徴は、ポテトデキストロース寒天培地、麦芽エキス寒天培地、オートミール寒天培地上のコロニーが褐色、ビロード状であり、かつ培地上での胞子形成は認められなかった。このため形態学的な分類は困難であった。
本発明の糸状菌SD-F06菌株は、18S rRNA解析により、子のう菌綱に帰属する新菌株でdark septate endophyte DS16b、Sterile Dark K89菌(euascomycete sp. K89)の18S rRNAにより解析した配列と99.8%の相同性を有することが判明したが、子のう菌綱以下の分類学的位置づけは不明である。なお、SD-F06菌株の進化系統樹を図1に示す。
本発明の新規糸状菌SD-F06菌株は、平成18年7月26日に、(独)産業技術総合研究所
特許生物寄託センターにFERM AP−20969として寄託されている。
【0010】
本発明の菌株又は変異株は、各種植物の根部内に感染、共生可能で、土壌伝染性病害を防除する能力を有するSD-F06菌株又はその変異株である。
本発明における「変異株」には、上述したような植物の根部に感染、共生する能力、および植物の土壌伝染性病害を防除する効果を有する菌株である限り、SD-F06菌株から誘導されたいかなる変異株も含まれる。変異株は、SD-F06菌株を紫外線照射、X線照射、変異誘発剤(例えば、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジンなど)などを用いた人為的変異手段により変異誘発し、病害防除効果を有する株を選択することによって得ることができる。また、病害防除効果を有する限り、SD-F06菌株の自然変異株も含まれる。
なお、以下の明細書の記載における「SD-F06菌株」の語は、「SD-F06菌株又はその変異株」の意味で用いる場合がある。
【0011】
本発明における「植物の根部に感染、共生する能力を有する」とは、生育している植物の根において好適な条件下で生育又は増殖し、かつその植物の組織を変形・変色させる等の悪影響を植物に与えないことを意味する。
ある菌株がある植物の根部に感染、共生する能力を有するかどうかは、その菌株の菌体をその植物体又はその植物が栽培されている土壌に施用した後、好適な条件下でその植物を1ヶ月栽培した場合に、その菌株の菌体がその植物の根で生育又は増殖し、かつその植物の組織を変形・変色させる等の悪影響を植物に与えていないかどうか確認することで判断できる。ある菌株の菌体がある植物の根で生育又は増殖しているかどうかということは、例えば後述の実施例2に記載されているような方法を用いて確認することができる。また、植物の組織を変形・変色させる等の悪影響を植物に与えていないかどうかは、目視等により確認することができる。
「植物の根部に感染、共生する能力を有する」における「植物」は、本発明の新規糸状菌SD-F06菌株が感染、共生することができる植物である限り特に制限はない。本発明のSD-F06菌株が共生可能な植物種の範囲は広く、確認している植物種だけでもイネ科植物(コムギ、エンバク、トウモロコシ、芝、牧草)、ウリ科植物(スイカ、メロン)、ナス科植物(トマト、ナス、バレイショ)、マメ科植物(ダイズ、アズキ、インゲン)、アブラナ科植物(ハクサイ)、キク科植物(レタス)、アカザ科植物(テンサイ)、ユリ科植物(アスパラガス、ネギ)、アヤメ科植物(フリージア)など多岐にわたる。このため、前述各科に属する植物に対してはもちろんのこと、その他の種類、例えばタデ科植物、ヒルガオ科植物、アオイ科植物、サトイモ科植物、セリ科植物、ショウガ科植物、シソ科植物、バラ科植物、ヤマノイモ科植物、キキョウ科植物、ゴマノハグサ科植物、サクラソウ科植物、ナデシコ科植物、ラン科植物、リンドウ科植物など非常に広い範囲の植物の土壌病害防除へ適用できる可能性がある。
【0012】
本発明における「感染、共生した植物に発病する土壌伝染性病害を防除する効果を有する」とは、植物の病害を予防又は治癒する効果を有する菌株を意味する。
ここでいう「植物病害を予防する効果を有する菌株」とは、その菌株を施用すること以
外は同じ好適な条件で、その植物の病害の病原菌を含む土壌でそれに感染しうる植物を1ヶ月間栽培した場合に、その菌株を施用しなかった植物の発病度(後述の実施例4参照)より、その菌株を施用した植物の発病度が低いことをいい、また、「植物病害を治癒する効果を有する菌株」とは、その菌株を施用すること以外は同じ好適な条件で、その植物の病害に感染した植物を1ヶ月間栽培した場合に、その菌株を施用した植物の病気の程度がその菌株を施用しなかった植物における病気の程度より低下することをいう。
本発明における「植物の病害を防除する効果を有する菌株」には、具体的には、例えば後述の実施例4の実験を行った場合の防除価が、通常50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは90%以上である場合が含まれる。
【0013】
本発明における「植物の病害」は、本発明の新規糸状菌SD-F06菌株が、防除効果を発揮する植物病害であれば特に制限はないが、病原菌が植物に感染することにより引き起こされる植物の病害が好ましく、土壌病害がより好ましい。本発明において防除の対象となる土壌病害とは、好ましくは、土壌伝染性病害であり、より詳細には、フザリウム属菌、ゴイマノマイセス属菌、リゾクトニア属菌、ピシウム属菌、バーティシリウム属菌、フィトフトラ属菌、スクレロチウム属菌、コルティシウム属、プラスモディオフォラ属菌、リゾプス属菌、トリコデルマ属菌、ミクロドチウム属菌、スクレロチニア属菌のいずれか1種以上に起因する病害であるが、これらに限定されない。
【0014】
本発明の土壌伝染性病害防除資材は、各種植物を栽培する際の培土に混合することなどにより、SD-F06菌株を植物の根部に感染、共生させ、ひいては土壌伝染性病害を防除することができるSD-F06菌株の菌体またはその培養物を含有する資材である。
本発明のSD-F06菌株の培養は、通常の微生物の培養方法と同様にして行うことが可能である。例えば、実験室的には、ポテトデキストロース寒天培地で10日間、23℃で培養する等の培養法が挙げられる。大量培養する場合には、通常の液体培養でも、また、フスマやオートミール等の植物由来の固体成分、糖や窒素源を含浸させた多孔質体等を用いた固体培養も可能である。得られた培養物は、そのまま、または必要に応じて乾燥させてから本発明の資材として用いることができる。本発明の好ましい実施態様において、本発明の土壌伝染性病害防除資材は、実施例1に記載されているような方法を用いて製造することができる。
【0015】
本発明の資材は、本発明のSD-F06菌株の菌体を、水等の液体に単に懸濁することにより製造することもできるが、他の成分を配合し、液剤、粉剤、粒剤、煙霧剤等の製剤として製造することもできる。他の配合成分としては、液体担体、固体担体、界面活性剤(乳化剤、分散剤、消泡剤等)、補助剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0016】
液体担体としては、例えば、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、生理食塩水等が挙げられる。また、固体担体としては、例えば、カオリン、粘土、タルク、チョーク、石英、アタパルジャイト、モンモリロナイト、珪藻土等の天然鉱物粉末、ケイ酸、アルミナ、ケイ酸塩等の合成鉱物粉末、結晶性セルロース、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等の高分子性天然物が挙げられる。また、界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン-脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-脂肪アルコールエーテル、アルキルアリールポリグリコールエーテル、アルキルスルホネート、アルキルサルフェート、アリールスルフォネート等が挙げられる。補助剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリオキシアチレングリコール、アラビアゴム、デンプン、乳糖などが挙げられる。
【0017】
また、水系溶媒を担体とする液剤として製造する場合、溶媒中での菌体の水和性を向上させるために、水溶性高分子を添加することもできる。水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアミン
、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。さらに、SD-F06菌株の植物の根部への付着性の向上、および製剤中でのSD-F06菌株の安定性の向上を図るために、キシログルカン、グアーガムなどの多糖類を配合することもできる。
【0018】
本発明の資材に含まれるSD-F06菌株の濃度は、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、製剤として102〜108 CFU/g(コロニー形成単位)、好ましくは104〜107 CFU/g(コロニー形成単位)である。また、用いるSD-F06菌株の防除効果等に応じて適宜変更することができる。
また、粒剤又は粉剤の形態で本発明の資材を使用する場合は、資材の重量の10〜50000倍の重量になるように水で希釈して使用することができ、好ましくは100〜10000倍の重量になるように希釈して使用することができる。
また、本発明の資材は、上記の物質の他に、本発明の効果を妨げない限り、資材等に含まれるSD-F06菌株の培養に用いた培地等の任意の物質を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の資材の使用方法については、特に制限はないが、剤型等の使用形態、作物や病害によって適宜選択され、例えば、地上液剤散布、地上固形散布、空中液剤散布、空中固形散布、水面施用、施設内施用、土壌混和施用、土壌潅注施用、表面処理(種子粉衣、塗布処理等)育苗箱施用法、単花処理、株元処理等の方法を挙げることができるが、好ましくは、各種剤型の資材を栽培植物の種子・種イモにコートする、栽培植物の花に単花処理する、栽培植物の茎葉に処理する、栽培植物の傷口箇所、剪定部に塗布処理する、土壌潅注する、土壌混和する等の方法が挙げられる。ここで、土壌に施用する場合は、本発明の資材を土壌に施用してから栽培植物を植えてもよく、また、栽培植物を土壌に植えた後で本発明の資材をその土壌に施用してもよい。
【0020】
また、本発明の資材を栽培植物に施用する場合は、殺虫剤、殺線虫剤、殺ダニ剤、除草剤、殺菌剤、植物生長調節剤、肥料、土壌改良資材(泥炭、腐植酸資材、ポリビニルアルコール系資材等)等を混合施用、あるいは混合せずに同時施用または交互施用することもできる。
本発明の資材の施用量については特に制限はないが、病害の種類、適用植物の種類、資材の形態等によって適宜調節することができる。例えば、液剤の資材を地上散布する場合には、その散布液中のSD-F06菌株の濃度は、通常102〜108CFU/mL(コロニー形成単位)、好ましくは104〜107CFU/mL(コロニー形成単位)であり、その施用量は、0.5〜 100L/aとすることができる。また、粒剤、粉剤等はなんら希釈することなく製剤のままで施用することもできる。粒剤、粉剤等を地上散布する場合は、SD-F06菌株の施用量が、102〜109CFU/a程度となるように散布することが好ましい。
【0021】
(実施例)
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明が、これら実施例にのみ、限定を受けないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0022】
SD-F06菌株を含有する資材の作製
市販オートミール100gに水50mlを添加し、121℃、30分滅菌し、固体培養用基材を作製した。この基材に、種菌としてSD−F06菌株(FERM AP-20969)を寒天平板培地(ポテトデキストロース培地)で23℃、2週間増殖した菌体の一部を添加し、23℃、10日間培養した後、室温で風乾することにより、SD−F06菌株の固体培養物を得た。次に、風乾した培養物をミルにて粉砕し、SD-F06菌株資材として実施例2以降の検討に用いた。
【実施例2】
【0023】
各種植物へのSD-F06菌株感染、共生の確認
実施例1で作製したSD-F06菌株資材を市販園芸用培土(与作N-15:全農)に0.5%(W/V)混合したものを作製し、32穴セルトレイ(苗作くん:コバヤシ(株)製)に充填、潅水した後、表1に示した各種植物を播種し、18℃〜24℃の温室で栽培した。播種25日後に、各種植物の苗を取り出し、苗の根部を水道流水で5分間きれいに洗浄し、培土を取り除いた後、根部の表面を次亜塩素酸ソーダ(0.5%液)で殺菌した。次に、ストレプトマイシンを50ppm含有するポテトデキストロース寒天培地に根部を静置し、15℃で2週間後に、形成されるコロニーを観察した。SD-F06菌株が共生した苗の根部からは黒褐色のSD-F06菌のコロニーが形成されるため、非共生苗と区別することができる。この結果、SD-F06菌株は表1記載のように非常に多種類の植物の根部に感染、共生できることが判明した。
【0024】
【表1】

【実施例3】
【0025】
コムギ立枯病防除試験
コムギ立枯病菌Gaeumannomyces graminis(ゴイマノマイセス属菌株)を大麦培地で培養した固体培養物を0.5%(W/V)になるように市販園芸培土に混和後、さらに実施例1で作製した資材(SD-F06菌株)及び同様の方法で作製したSterile Dark菌(K89菌株)資材を表2に記載の割合で混合し、それぞれ1000ml容プラスチックポットに充填した。次に、プラスチックポットに小麦(農林61号)を播種し、18℃〜24℃の温室で栽培した。30日栽培した後、発病の程度を5段階で評価した。表2に示されるように、Sterile Dark菌2.0%(W/V)混合区では防除価は39.5%であったが、新菌株SD-F06菌株1.0%(W/V)混合区では防除価57.9%と少ない量で高い防除価を示すことが判明した。
【0026】
<発病度の評価>
*発病度 0:発病なし、1:10%発病、2:30%発病、3:50%発病、4:80%発病、5:100%枯死
【0027】
【表2】

【実施例4】
【0028】
レタスフザリウム病害防除試験
市販園芸培土に実施例1で作製したSD-F06菌資材を0.5%(W/V)混合後、32穴セルトレイ(苗作くん:コバヤシ(株)製)に800ml充填し、潅水した。これにレタス(品種:シスコ)種子を播種し、18℃〜24℃の温室で栽培した。播種14日後に、レタス根腐れ萎凋病菌Fusarium oxysporum (フザリウム属菌)をフスマ培地で培養した固体培養物を0.125%(W/V)になるように市販園芸培土と混合し、1000ml容プラスチックポットに充填した。次に、作製したフザリウム菌汚染ポットにセルトレイで栽培したレタス苗を移植し、30日後にレタスの罹病状況を地上部と地下部(根部)に分けて評価した。地上部は、健全レタスと比較し、発病度を3段階にわけ目視にて評価した。地下部はカミソリで主根部を2分割した後、導管の褐変化度合いを3段階で評価した。表3に示されるように、0.1%、0.3%(W/V)施用でも十分なフザリウム属菌病害の防除効果を示すことが判明した。また、苗作成時に施用するだけで、移植後も防除効果を維持できることが判明した。
【0029】
<発病度の評価>
*地上部発病度 0:萎凋なし、1:やや萎凋、2:かなり萎凋、3:枯死
*地下部発病度 0:褐変なし、1:やや褐変、2:褐変、3:クラウン部以上まで褐変
*発病指数 = [Σ(程度別発病株数×発病度)/調査株数×3]×100
【0030】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の新規糸状菌SD-F06菌株は、各種植物の根部内に感染、共生可能で、土壌伝染性病害を防除する能力を有し、産業上有用である。本発明の新規糸状菌SD-F06菌株の菌体または培養物を含有する土壌伝染性病害防除資材も、同様に、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】近隣結合法により作成したSD-F06菌株の分子系統樹を示す。左下の線はスケールバーを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の根部に感染、共生する能力を有し、かつ感染、共生した植物に発病する土壌伝染性病害を防除する効果を有する、糸状菌SD-F06菌株(FERM AP-20969)又はその変異株。
【請求項2】
請求項1に記載のSD-F06菌株又はその変異株の菌体またはその培養物を有効成分として含有する土壌伝染性病害防除資材。
【請求項3】
請求項2に記載の土壌伝染性病害防除資材を用いて植物を生育させる土壌を処理することを特徴とする土壌伝染性病害防除方法。
【請求項4】
前記土壌伝染性病害が植物病原性糸状菌に起因する病害である請求項2記載の土壌伝染性病害防除資材。
【請求項5】
前記土壌伝染性病害が植物病原性糸状菌に起因する病害である請求項3記載の土壌伝染性病害防除方法。
【請求項6】
前記植物病原性糸状菌に起因する病害が、フザリウム属菌、ゴイマノマイセス属菌、リゾクトニア属菌、ピシウム属菌、バーティシリウム属菌、フィトフトラ属菌、スクレロチウム属菌、コルティシウム属菌、プラスモディオフォラ属菌、リゾプス属菌、トリコデルマ属菌、ミクロドチウム属菌、スクレロチニア属菌のいずれか1種以上に起因する病害である請求項4記載の土壌伝染性病害防除資材。
【請求項7】
前記植物病原性糸状菌に起因する病害が、フザリウム属菌、ゴイマノマイセス属菌、リゾクトニア属菌、ピシウム属菌、バーティシリウム属菌、フィトフトラ属菌、スクレロチウム属菌、コルティシウム属菌、プラスモディオフォラ属菌、リゾプス属菌、トリコデルマ属菌、ミクロドチウム属菌、スクレロチニア属菌のいずれか1種以上に起因する病害である請求項5記載の土壌伝染性病害防除方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−67667(P2008−67667A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251418(P2006−251418)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】