説明

方位姿勢検出装置

【課題】GPS手段で検出するGPS方向と磁気方位センサで検出する磁気方位とを用いて、信頼性の高い方位誤差修正を行なう。
【解決手段】ジャイロ信号を用いて座標変換行列を逐次求めて加速度信号の座標変換を行い、該加速度信号からレベル誤差修正値を演算し、GPS方向信号及び磁気方位信号を用いて、方位誤差修正値を演算する方位誤差修正値を演算し、レベル誤差及び方位誤差が修正された前記座標変換行列からロール角、ピッチ角、及び方位角の演算を行うものにおいて、方位誤差修正は、GPS方向信号の信頼性が高い条件下においては、GPS方向信号を用いて方位誤差修正値を求めると共に、GPS方向信号と磁気方位信号との差異を演算し、GPS方向信号の信頼性が高くない条件下で且つ磁気方位信号の信頼性が低くない条件下では、前記演算していたGPS方向信号と磁気方位信号との差異と、磁気方位信号とを用いて方位誤差修正値を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、自動車等の移動体の方位姿勢を検出するストラップダウン方式による方位姿勢検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ストラップダウン方式による方位姿勢検出装置では、3軸方向の加速度を検出する3軸加速度計と、3軸方向まわりの角速度を検出する3軸ジャイロとを備えている(特許文献1)。
【0003】
この方位姿勢検出装置では、ジャイロから求められるジャイロ信号を用いて、センサが取り付けられた機体の座標系(ボディ座標系という)からX軸方向が北方向で且つZ軸方向が重力方向に一致している座標系(ローカル座標系という)への変換する行列を演算し、この行列からローカル座標系に対する各軸回りの回転角である方位角、ピッチ角及びロール角を求めて方位姿勢を出力すると共に、ジャイロ誤差に起因する姿勢誤差を、加速度計により検出された重力加速度検知により修正する構成となっている。
【0004】
しかしながら、加速度計は重力以外の運動加速度も検知するため、運動加速度の影響を受けて姿勢誤差が発生してしまう、という問題がある。高価で高性能なジャイロ及び加速度計を使用すれば運動加速度の影響を受けにくい方位姿勢検出装置を構成することもできるが、低価格、低精度なジャイロまたは加速度を使用した場合の影響は大きく、運動状態によっては実用に耐えないものになってしまう、という問題がある。
【0005】
かかる運動加速度の影響を除去するための構成としては、例えば、X軸方向の速度を検出するX速度計を備え、加速度誤差を修正するようにしたものが知られている(特許文献2)。
【0006】
特許文献2では、移動体が旋回運動を行なう場合に、旋回時に生じる遠心力を移動体が支持できなくなることにより、進行方向速度と実際の軌跡速度とが一致しなくなる横滑りが発生するが、X軸方向の速度しか検出できず、Y軸方向の速度による加速度成分の修正ができないことによる横滑り誤差が姿勢角の誤差をもたらすことを防止するために、方位角信号とX軸方向の速度信号から横滑り角を演算によって求めることが提案されている。
【0007】
しかしながら、かかる特許文献2の演算を行なうためには、速度計を要し、また、横滑り角演算のための演算装置を要するため、装置が大型化し、高コストになるという問題がある。
【0008】
また、方位角の補正に関しては、従来、磁気方位センサにより検出された方位信号を用いることが一般的に行われている(特許文献1,3)。例えば、特許文献3では、ジャイロによって検出した走行方位角の修正において、地磁気センサが検出する方位を進行方位であるとして、その地磁気センサが検出する方位にジャイロが検出する方位を追従させる構成となっている。
【0009】
しかしながら、この特許文献3のような構成では、周辺の磁場環境の影響により、磁気方位センサが誤った方位を検出した場合、誤った方向を進行方位として解釈してしまうことになる。また、無条件で地磁気センサが検出する方位を進行方位として解釈することから、進行方向と磁気方位センサの軸方向が異なる運動状態の場合には、誤った方向を進行方向であると解釈してしまうという問題がある。
【0010】
かかる地磁気センサの問題点を考慮したものとしては、GPS受信機を使用したものが知られている(特許文献4)。
【0011】
特許文献4では、現時点で移動体が直面している状況に応じて最も信頼性の高い推定値を選択して絶対方位参照値としており、ある条件を満足するときには、磁気コンパスで検出した絶対方位を絶対方位参照値としており、他の条件を満足するときには、GPS受信機で検出した進行方向方位を絶対方位参照値としている。
【0012】
【特許文献1】特許第3038452号公報
【特許文献2】特開平6−201863号公報
【特許文献3】特開平11−94573号公報
【特許文献4】特開2002−158525号公報(段落番号0046、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献4の絶対方位参照値の決定では、条件の変化に応じて、磁気コンパスで検出した絶対方位からGPS受信機で検出した進行方向方位に参照値が変化するために、参照値の変動が激しく、参照値としての信頼性に欠けるという問題がある。
【0014】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたもので、GPS手段で検出するGPS方向と磁気方位センサで検出する磁気方位とを用いて、信頼性の高い方位誤差修正を行なうことができる方位姿勢検出装置を提供することをその目的とする。
【0015】
また、別の目的としては、加速度計で検出する加速度を用いてレベル誤差修正を行なう場合に、簡単な構成で低コストで、信頼性の高いレベル誤差修正を行なうことができる方位姿勢検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、3軸まわりの角速度をそれぞれ検出するジャイロと、3軸方向の加速度をそれぞれ検出する加速度計と、GPSを使用して移動体の移動方向を検出するGPS手段と、磁気方位角を検出する磁気方位センサと、ジャイロから出力される角速度信号、加速度計から出力される加速度信号、GPS手段から出力されるGPS方向信号及び磁気方位センサから出力される磁気方位信号が入力されてロール角、ピッチ角及び方位角の演算を行う演算手段と、を有し、移動体に搭載されて移動体の方位姿勢を検出する方位姿勢検出装置において、
前記演算手段は、
前記ジャイロ信号を用いて、ジャイロ及び加速度計が取り付けられたボディ座標系からローカル座標系への座標変換行列を逐次求めて更新する座標変換行列更新部と、
前記座標変換行列更新部からの座標変換行列を用いて前記加速度信号の座標変換を行う座標変換部と、
座標変換部で変換された加速度信号を用いて、レベル誤差修正値を演算するレベル誤差修正値演算部と、
GPS方向信号及び磁気方位信号を用いて、方位誤差修正値を演算する方位誤差修正値演算部と、
レベル誤差修正値及び方位誤差修正値によって修正された前記座標変換行列からロール角、ピッチ角及び方位角の演算を行う姿勢方位角演算部と、
を備え、前記方位誤差修正値演算部は、GPS方向信号の信頼性が高い条件下においては、GPS方向信号を用いて方位誤差修正値を求めると共に、GPS方向信号と磁気方位信号との差異を演算し、GPS方向信号の信頼性が高くない条件下で且つ磁気方位信号の信頼性が高い条件下では、前記演算していたGPS方向信号と磁気方位信号との差異と、磁気方位信号とを用いて方位誤差修正値を求めることを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のものにおいて、前記GPS方向信号の信頼性が高い条件は、移動体の速度が所定値以上であること、求めた方位角の変化が第2所定値以下であること、GPS方向信号と磁気方位信号との差異が第3所定値以下であること、の少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の前記方位誤差修正値演算部が、GPS方向信号の信頼性が高い条件下においては、方位角とGPS方向との差を表す値を方位誤差修正値とすることを特徴とする。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の前記方位誤差修正値演算部が、GPS方向信号の信頼性が高くない条件下で且つ磁気方位信号の信頼性が高い条件下においては、方位角と、磁気方位角から前記差異に基づく値を差し引いた値との差を表す値を方位誤差修正値とすることを特徴とする。
【0020】
請求項5記載の発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の前記レベル誤差修正演算部が、GPS手段から出力されるGPS速度信号を用いて、加速度信号からの加速度から運動加速度を除去して、レベル誤差修正値を求める、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、GPS方向信号の信頼性が高い条件下では、GPS方向信号を用いて方位誤差修正を行うと共に、GPS方向信号と磁気方位信号との差異を演算しておき、GPS方向信号の信頼性が高くない条件下では、磁気方位信号のみを使用するのではなく、GPS方向信号の信頼性が高いときに演算しておいたGPS方向信号と磁気方位信号との差異と、磁気方位信号を用いて方位誤差修正を行うようにしているので、GPS方向信号の信頼性が高いときと高くないときとで、参照とするべき信号が大きく変化することなく、周辺の磁場環境の影響があったとしても、その影響を少なくすることができ、より正確に方位誤差の修正を行うことができるようになる。
【0022】
請求項2記載の発明によれば、GPS方向信号の信頼性が高い条件として、移動体の速度、方位変化、またはGPS方向信号と磁気方位信号との差異を用いることにより、GPS方向信号の信頼性を判別することができる。
【0023】
請求項3記載の発明によれば、GPS方向信号の信頼性が高いときに、方位角をGPS方位に追従させる処理を行なうことができる。
【0024】
請求項4記載の発明によれば、GPS方向信号の信頼性が高くないときに、方位角を磁気方位に磁気方位角から前記差異に基づく値を差し引いた値に追従させる処理を行なうことができる。
【0025】
請求項5記載の発明によれば、加速度計によって検出される加速度において、運動加速度の影響を除去するのにGPS手段によって得られるGPS速度を使用することによって、簡単な構成で低コストでレベル誤差修正を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態による方位姿勢検出装置のブロック図である。方位姿勢検出装置10は、X軸まわりの角速度を検出するXジャイロ11G、Y軸まわりの角速度を検出するYジャイロ12G、Z軸まわりの角速度を検出するZジャイロ13G、X軸方向の加速度を検出するX加速度計11A、Y軸方向の加速度を検出するY加速度計12A、Z軸方向の加速度を検出するZ加速度計13A、GPSアンテナ14A、GPSアンテナ14Aに接続されるGPS受信機14、磁気方位センサ15、CPU、ROM、RAMからなる制御部によって構成されるデータ演算部16及び表示部18を備える。Xジャイロ11G、Yジャイロ12G、Zジャイロ13Gは、それぞれ検出方向が互いに直交するようにして方位姿勢検出装置10に固定される。同様に、X加速度計11A、Y加速度計12A、Z加速度計13Aは、それぞれ検出方向が互いに直交するように且つ対応するジャイロの検出方向が一致するようにして方位姿勢検出装置10に固定される。
【0028】
Xジャイロ11G、Yジャイロ12G、及びZジャイロ13Gからの角速度信号、X加速度計11A、Y加速度計12A、及びZ加速度計13Aからの加速度信号、並びに磁気方位センサ15からの磁気方位信号はデータ演算部16へと送られ、またGPS受信機14からのジャイロ速度信号及びジャイロ方向信号も、所定の周期でデータ演算部16へと送られる。
【0029】
データ演算部16は、上記信号を受信して姿勢角及び方位角を求めるが、そのために、ソフトウエアで構成される座標変換行列更新部20と、座標変換部22と、レベル誤差修正値演算部24と、方位誤差修正値演算部26と、姿勢方位角演算部28と、を備えている。
【0030】
図2に示すように、座標変換行列更新部20はジャイロ信号を用いて、ジャイロ11〜13G及び加速度計11〜13Aが取り付けられたボディ座標系からローカル座標系への座標変換行列を逐次求めて更新するものであり、座標変換部22は、該座標変換行列を用いて加速度信号の座標変換を行うものであり、レベル誤差修正値演算部24は、該座標変換された加速度信号を用いてレベル誤差修正値を演算するものであり、方位誤差修正値演算部26は、GPS方向信号及び磁気方位信号を用いて方位誤差修正値を演算するものであり、レベル誤差修正値及び方位誤差修正値で座標変換行列更新部20は座標変換行列の修正を行っており、姿勢方位角演算部28は、修正された座標変換行列からロール角、ピッチ角、方位角を出力している。
【0031】
以下、各部で行われる処理について、数式を用いて詳細に説明する。
(1)座標変換行列の更新
座標変換行列更新部20で行われる座標変換行列の更新とは、ボディ座標系とローカル座標系の関係を時々刻々計算することである。具体的な計算方法は任意の方法を採用することができるが、この実施形態においては、以下に概要を示すクォータニオンを使用している。
【0032】
クォータニオン<q>は次式で表される。スカラー成分λとベクトル成分<ρ>から成る。尚、以下、ベクトルは、<>を挟むことによって表すこととする。
【0033】
【数1】

ここで、<i>,<j>,<k>は単位クォータニオンであり、以下の性質を持つ。
【0034】
【数2】

この性質より、クォータニオンq1とq2の積は下式で表せる。
【0035】
【数3】

式中の「・」はベクトルの内積、「×」はベクトルの外積を表す。クォータニオンの和、差は通常のベクトル演算と同じであり、各成分の和および差の演算となる。
【0036】
クォータニオンの共役数<q>’は次式で表される。
【0037】
【数4】

また、式3、式4よりクォータニオン積の共役は下式となることが導かれる。
【0038】
【数5】

あるb座標系のベクトル<V>をあるa座標系に回転座標変換したベクトルを<V>としたとき、座標変換にクォータニオンを用いた場合の計算式は次のようになる。
【0039】
【数6】

この式6の性質により、回転の合成は式3に示したクォータニオン積で表せることになる。
【0040】
式6を成分で展開し、座標変換行列Cを用いて、<V>=C<V>とし、座標変換行列Cの要素を
【0041】
【数7】

とすると、各要素は、次のように表される。
【0042】
【数8】

【0043】
方位姿勢角はローカル座標系に対するボディ座標系の回転角として定義される。まず、ボディ座標系をローカル座標系に一致させた状態から次の順番で回転角を定義する。
・まず、Z軸まわりに方位角ξだけ回転させる。
・次に、Y軸まわりにピッチ角θだけ回転させる。
・最後にX軸まわりにロール角φだけ回転させる。
このとき、ボディ座標系からローカル座標系へ座標変換行列の各要素は次のように表される。
【0044】
【数9】

【0045】
クォータニオンから方位姿勢角を求めるときは、(式8)〜(式25)より、次式を用いればよいことが分かる。
【0046】
【数10】

【0047】
以上に概要を示したクォータニオンを用いると、式6より、ボディ座標系のあるベクトル<Vbody>をローカル座標系に座標変換したベクトルを<Vlocal>、ボディ座標系→ローカル座標系の回転座標変換を表すクォータニオンを<qbl>としたとき、<Vbody>と<Vlocal>の関係は下式で表せる。
【0048】
【数11】

【0049】
座標変換行列の更新は、下式に示すように、クォータニオン<qbl>を、クォータニオン積による回転の合成で更新する。この更新は、ジャイロ出力の計測周期(Δt)で行われる。
【0050】
【数12】

【0051】
ここで、<qb'l'(t−Δt)>は、前回計測時に計算された、ボディ座標系→ローカル座標系の回転座標変換を表すクォータニオンのことである。
(ア)<qbb'(t)>は、ボディ座標系の更新であるが、ジャイロが検出したサンプリング周期の変化角度(角速度より計算)により更新される。
(イ)<ql’l(t)>は、ローカル座標系の更新であるが、レベリング誤差および方位誤差の修正演算(後に、(3),(4)で示す)により更新される。
【0052】
(ア)の更新において、通常ジャイロの検出する角速度は、X、Y、Zの3軸方向ある。
ただし、各軸で使用する角度(角速度)は、センサの誤差(バイアス誤差、スケールファクタ誤差等)を既に補正した値を使用する。
【0053】
(イ)の更新においても、修正演算によって求められる回転は3軸方向(北、東、鉛直)ある。北向き、東向き、鉛直下向きの修正角度を各々Φ(t)、Φ(t)、Φ(t)とすると、実際には下式に示すように1次展開近似を用いて表す。
【0054】
【数13】

Φ(t)、Φ(t)、Φ(t)の演算は後述する。
【0055】
(2)座標変換
座標変換部22で行われる座標変換とは、(1)の座標変換行列更新部20で求めたクォータニオンを用いて、式29によりボディ座標系における任意のベクトルをローカル座標系に座標変換することである。即ち、加速度計11A、12A、13Aにより検出されたボディ座標系加速度ベクトル<Abody>(X加速度、Y加速度、Z加速度)を、次式によりローカル座標系加速度ベクトル<Alocal>(東西加速度、南北加速度、鉛直加速度)に座標変換する。
【0056】
【数14】

【0057】
(3)レベル誤差修正値計算
レベル誤差修正値演算部24は、(2)の座標変換部22で求めたローカル座標系加速度のうち、東西加速度および南北加速度の重力加速度成分をゼロに収束するように、即ちローカル座標系が水平になるように、式31におけるΦ(t)、Φ(t)(ローカル座標系の北および東方向の修正角度)を求めるものである。
【0058】
具体的にレベル誤差修正値演算部24で行う演算は、(2)の座標変換部22で求めた、東西加速度、南北加速度から、GPS受信機14より取得したGPS速度をリファレンス速度として用いて運動加速度を除いた結果のフィルタ値に、フィードバックゲイン定数を掛けてレベル誤差修正値を得るものである。尚、このときのローカル系の東西南北とリファレンス(GPS)速度の東西南北は、以下の(4)の方位誤差修正値演算部26に示す方位誤差修正により、一致するよう制御されている。図3に示すように、フィルタ1段目F1と、フィルタ2段目F2を構成するように演算を行う。
【0059】
実際の計算式を以下に示す。
【0060】
時刻tにおける、フィルタ1段目F1に入力するローカル加速度(南北、東西)を<Ain(t))>、リファレンス(GPS)速度を<Vgps(t)>、クォータニオン更新周期をΔt、フィルタ時定数をTとすると、フィルタ1段目F1より出力するローカル加速度(南北、東西)<Aout(t)>は、
【0061】
【数15】

で表される。
【0062】
このように、運動加速度の影響を除去するのにリファレンス速度としてGPS速度を用いて除去することにより、簡単に且つ低コストで構成することができる。
【0063】
フィルタ2段目F2の計算内容は式33のリファレンス速度の項を除いたものである。フィルタ2段目に関しては、本制御演算に関して本質的な内容ではなく、省略可能であるが、加速度計ノイズの影響を減少させる、即ち、加速度計の高周波入力に対する応答を遅らせる為のものである。但しこのフィルタ2段目F2によりフィードバック系の特性(応答、安定条件等)は影響を受ける。
【0064】
フィルタ2段目F2に<Aout(t)>を入力した出力を<Af(t)>とする(各要素はAfn(t):南北方向成分、Afe(t):東西方向成分)。この、<Af(t)>には、傾斜誤差(ローカル系が水平でない誤差)による重力加速度の成分と、フィルタ1段目F1における運動加速度補正の残差が含まれることになる。この<Af(t)>が0に収束するように式31におけるΦ(t):ローカル座標系の北軸回りの修正角度、Φ(t):ローカル座標系の東軸回りの修正角度、を下式により計算する。
【0065】
【数16】

尚、上式中、W0・cos(lat(t))は、アースレート(地球の自転)による角速度入力の修正項であり、W0は地球の自転角速度、lat(t)は緯度である。但しアースレートによる角速度入力の修正項は、ジャイロ誤差に比較すると小さいので、省略することも可能である。
【0066】
(4)方位誤差修正値計算
次に、方位誤差修正値演算部26で行う方位誤差の修正は、ア)GPS受信機14からのGPS方向(direction : 運動方向)に追従させる状態と、イ)磁気方位センサ15からの磁気方位に(基準(北)はGPS方向基準と合わせる)追従させる状態と、の2状態を切替えて行う。これらの状態遷移を示すフローチャートを図4に示す。
【0067】
ア) GPS方向に追従させる状態
GPS受信機14から得られるGPS速度が閾値以上であり(ステップS12)、方位角変化が閾値以下であり(ステップS14)、GPS方向と磁気方位との差が閾値以下である(ステップS16)場合に、GPS方向の信頼性が高いと判定して、GPS方向を追従する処理を行う(ステップS20)。これらの条件を満足しているときに、GPS方向と本方位姿勢検出装置10のある軸とが一致しているとみなせると考えられるからである。これらの条件以外、またはこれらの条件のいずれか少なくとも1つの条件を満足するときにステップS20に進むようにしてもよい。
【0068】
具体的には、(方位−GPS方向)を方位誤差とみなし、この方位誤差が0に収束するように、式31におけるΦ(t)(ローカル座標系の鉛直方向の修正角度)を計算する。
【0069】
【数17】

ここで、Tgps は収束の時定数、Δtはクォータニオン更新周期である。
【0070】
また、この時、次の磁気方位センサ15を追従する状態に備えて、GPS方向−磁気方位の1次フィルタ値を計算しておく。
【0071】
計算式は、式33のリファレンス速度の項を除いたものと同等の内容であり、フィルタ入力値Fin(n)=GPS方向(n)−磁気方位(n)、フィルタを出力値Fout(n)とすると、
【0072】
【数18】

で表される。
【0073】
イ)磁気方位に追従させる状態
図4のフローチャートにおいて、GPS受信機14から得られるGPS速度が閾値より小さく、方位角変化が閾値より大きく、またはGPS方向と磁気方位の差が閾値以上である場合には、GPS方向の信頼性よりも磁気方位の信頼性が高いと判定して、磁気方位を追従する処理を行なう。但し、このときに、完全に磁気方位に追従させるのではなく、GPS方向を追従する処理を行なっているときに計算していたGPS方向−磁気方位の1次フィルタ値を用いる。即ち、(方位−磁気方位)−(GPS方向−磁気方位の1次フィルタ値)を方位誤差とみなし、この方位誤差が0に収束するように、式31におけるΦ(t)(ローカル座標系の鉛直方向の修正角度)を計算する。
【0074】
【数19】

ここで、Tmag は収束の時定数、Δtはクォータニオン更新周期である。
【0075】
GPS方向−磁気方位のフィルタ値は、起動直後はGPSデータ中の磁気偏角(magnetic variation)、または不揮発メモリに記憶した前回動作時の計算値により初期化される。一度でもア)のGPS方向に追従する状態になった後は、ア)で計算した最新値を使用する。
【0076】
このように磁気方位センサからの磁気方位にのみ追従させるのではなく、GPS方向に追従するときに求めていたGPS方位と磁気方位との差分の最新値を、磁気方位に加算することにより、周囲の磁場の影響や、磁気方位と真方位との差である磁気偏角が使用場所や時間経過に伴い変化することによる影響により含まれるおそれのある磁気方位の誤差を低減させることができる。また、ア)のGPS方向追従とこのイ)の磁気方位追従とが切り替えられたときに、追従させるリファレンス方位が大きく変化することを防ぐことができ、システムの安定性を持たせることができる。
【0077】
(5)姿勢・方位角計算
姿勢方位角演算部28では、式26,27,28を用いて、クォータニオンより、姿勢角(ロール、ピッチ)および方位角を計算し、表示部18に更新周期で表示出力する。
【0078】
以上の処理によって、レベル誤差及び方位誤差が修正された座標変換行列からロール角、ピッチ角及び方位角を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施形態を表す方位姿勢検出装置のブロック図である。
【図2】図1の方位姿勢検出装置のデータ演算部の処理を表すブロック図である。
【図3】レベル誤差修正値演算部での処理を表すブロック図である。
【図4】方位誤差修正値演算部での処理を表すフローチャートである。
【図5】方位誤差修正値演算部での処理を表すブロック図である。
【符号の説明】
【0080】
10 方位姿勢検出装置
11G Xジャイロ
12G Yジャイロ
13G Zジャイロ
11A X加速度計
12A Y加速度計
13A Z加速度計
14 GPS受信機(GPS手段)
15 磁気方位センサ
16 データ演算部
20 座標変換行列更新部
22 座標変換部
24 レベル誤差修正値演算部
26 方位誤差修正値演算部
28 姿勢方位角演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3軸まわりの角速度をそれぞれ検出するジャイロと、3軸方向の加速度をそれぞれ検出する加速度計と、GPSを使用して移動体の移動方向を検出するGPS手段と、磁気方位角を検出する磁気方位センサと、ジャイロから出力される角速度信号、加速度計から出力される加速度信号、GPS手段から出力されるGPS方向信号及び磁気方位センサから出力される磁気方位信号が入力されてロール角、ピッチ角及び方位角の演算を行う演算手段と、を有し、移動体に搭載されて移動体の方位姿勢を検出する方位姿勢検出装置において、
前記演算手段は、
前記ジャイロ信号を用いて、ジャイロ及び加速度計が取り付けられたボディ座標系からローカル座標系への座標変換行列を逐次求めて更新する座標変換行列更新部と、
前記座標変換行列更新部からの座標変換行列を用いて前記加速度信号の座標変換を行う座標変換部と、
座標変換部で変換された加速度信号を用いて、レベル誤差修正値を演算するレベル誤差修正値演算部と、
GPS方向信号及び磁気方位信号を用いて、方位誤差修正値を演算する方位誤差修正値演算部と、
レベル誤差修正値及び方位誤差修正値によって修正された前記座標変換行列からロール角、ピッチ角及び方位角の演算を行う姿勢方位角演算部と、
を備え、前記方位誤差修正値演算部は、GPS方向信号の信頼性が高い条件下においては、GPS方向信号を用いて方位誤差修正値を求めると共に、GPS方向信号と磁気方位信号との差異を演算し、GPS方向信号の信頼性が高くない条件下で且つ磁気方位信号の信頼性が高い条件下では、前記演算していたGPS方向信号と磁気方位信号との差異と、磁気方位信号とを用いて方位誤差修正値を求めることを特徴とする方位姿勢検出装置。
【請求項2】
前記GPS方向信号の信頼性が高い条件は、移動体の速度が所定値以上であること、求めた方位角の変化が第2所定値以下であること、GPS方向信号と磁気方位信号との差異が第3所定値以下であること、の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1記載の方位姿勢検出装置。
【請求項3】
前記方位誤差修正値演算部は、GPS方向信号の信頼性が高い条件下においては、方位角とGPS方向との差を表す値を方位誤差修正値とすることを特徴とする請求項1または2記載の方位姿勢検出装置。
【請求項4】
前記方位誤差修正値演算部は、GPS方向信号の信頼性が高くない条件下で且つ磁気方位信号の信頼性が高い条件下においては、方位角と、磁気方位角から前記差異に基づく値を差し引いた値との差を表す値を方位誤差修正値とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方位姿勢検出装置。
【請求項5】
前記レベル誤差修正演算部は、GPS手段から出力されるGPS速度信号を用いて、加速度信号からの加速度から運動加速度を除去して、レベル誤差修正値を求める、ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方位姿勢検出装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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