説明

既存建物の保存・建て替え方法

【課題】既存建物の一部分を保存し、その他の建物部分は解体・撤去して、その跡地に新築建物を構築し建て替える方法を提供する。
【解決手段】保存する建物部分1Aの上部躯体構造について補強工事を行い、保存する建物部分1Aを基礎構造から切り離して、曳き家が可能な移動機構上に仮受け支持させる段階と、保存する建物部分1Aを曳き家して、解体した建物部分1Bの跡地に構築した仮受け用基礎上まで移動させて仮置きする段階と、保存する建物部分1Aが移動し去った跡地に、保存する建物部分1Aの永続的支持が可能な新基礎構造を新築し又は増・改築する段階と、仮受け用基礎上に仮置きしておいた保存する建物部分1Aを再び曳き家して元の場所へ戻し、新築し又は増・改築した新基礎構造上へ保存する建物部分1Aを支持させて定着する段階と、先に解体した建物部分1Bの跡地に構築した新築建物用基礎4A上に新築建物を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既存建物の一部分を保存し、その他の建物部分は解体・撤去して、その跡地に新築建物を構築し建て替える方法の技術分野に属し、更に言えば、保存する建物部分は先行して解体した建物部分の跡地へ曳き家し、保存する建物部分の跡地には新築基礎又は増・改築基礎を構築し、その後、前記保存する建物部分を再び元の場所へ曳き家して戻し前記新築基礎又は増・改築基礎上へ支持させて保存し、一方、既存建物の一部を解体した跡地には新築建物を構築して建て替えの目的を達する、既存建物の保存・建て替え方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、旧くなった既存建物の建て替え方法としては、通例、既存建物を全部解体・撤去して、その跡地に新たな建物を新築する方法が一般的に実施されている。既存建物の全部又は一部分を残して保存する考えはあまり採用されないのが我が国の現状である。そのため既存建物の建て替えにより、良くも悪くも市街の環境、景観を一新させる結果となり、産業廃棄物も大量に発生してその処分に困る問題点が起きている。
もっとも、下記の特許文献1に記載されているように、既存建物の存立に支障が生じた場合に、既存建物の敷地内にスペースの余裕があるときは、単純に既存建物を解体・撤去して建て替える方法を避ける手段として、既存建物をその存立に支障がない場所へ移動させる曳き家工法を実施することも知られている。
また、下記の特許文献2に開示された建物の建て替え方法では、解体・撤去を予定する既存建物を、ひとまず空き地へ移動させる曳き家を行い、移動した既存建物はそのまま従前通り住居などの用途に利用して、引っ越しにかかる手間や費用の負担、住民の拒絶反応を軽減する。そして、既存建物の跡地に新築建物が完成し利用可能となった後には、前記既存建物を解体・撤去する方法である。
【0003】
次に、下記の特許文献3に開示された発明は、既存建物の免震化を実現するための方法を提案する。即ち、既存建物の直下地盤に、同建物の移設およ免震化のための新設基礎を併設し、既存建物を既存基礎(柱基礎)から切り離して、レール構造から成る免震装置へ移し、免震装置のレールを移動させて新設基礎上への移設を行い免震化を完成する内容と認められる。
【0004】
【特許文献1】特公平7−76493号公報
【特許文献2】特開2008−8083号公報
【特許文献3】特開2001−123672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既存建物を建て替える方法として、上記特許文献1〜3に開示された発明は、それぞれ特有の技術的課題を解決する手段として有意義な技術的思想と認められる。
しかし、既存建物を建て替えるにあたり、単純に既存建物を全部解体・撤去して、その跡地に新規の建物を構築する方法は、市街に新しい空間、景観を創造する意義は認められるが、他方では、時代や歴史を証言する旧い町並みや景観を全部破壊し去る結果になる。レトロな旧い町並みや景観をそのまま残したい、或いは建築物として歴史的に価値ある文化遺産や建築デザインの評価が高いもの、一時代を代表する記念碑的な建築物、文化的価値の高い町並みや景観を可能なかぎり残して時代や歴史の証言とする運動も盛んに行われており、そうした要望に応える技術開発の必要性が高まっている。もっとも、耐震性の低い旧い既存建物をそのまま残すことは、震災時の安全性の確保が懸念されるので、耐震性、耐久性との調和がとれた解決策が待望されている。
【0006】
上記特許文献1〜3に開示された発明は、基本的に上記した歴史的建造物を保存する要望に応える内容にはなっていない。その他にも、上記保存の要望に応え得る既存建物の建て替え方法の先行技術は見当たらない。
なお、旧い既存建物を保存する方法の一例として、上記特許文献3に開示された発明のように、建物の免震化を図ることも一案である。しかし、当該公知発明のように、既存建物の直下地盤に移設およ免震化のための新設基礎を併設して、既存建物を既存基礎(柱基礎)から切り離し、新設基礎上への移設を行い免震化する方法の場合は、既存建物を仮受けしつつ、その直下地盤に必要な基礎構造を増築、改築する工事を余儀なくされる。ところが前記増築、改築の基礎工事には、空間的制限があるため、大型の重機類の使用は制限され、制約された狭い地下空間で特殊な施工機械を多用して工事を行わねばならないから、工事の能率が悪く、工期が長引き、工費が嵩むという問題点がある。
【0007】
本発明の目的は、既存建物のうち保存したい建物部分を残して、その他の建物部分は解体・撤去し、その跡地へ前記保存する建物部分を曳き家し、保存する建物部分の跡地には平地で行うのと同様に空間的制約を受けない工法で新基礎構造を新築し又は改築、増築し、この新基礎構造上へ前記保存する建物部分を再度曳き家して戻し、好ましくは免震化して保存する、既存建物の保存・建て替え方法を提供することである。
【0008】
本発明の次の目的は、既存建物の全部を保存する場合に、既存建物に隣接する敷地を確保して、既存建物は一旦隣接敷地へ曳き家し、既存建物の跡地へは平地で行うのと同様に空間的制約を受けない工法で新基礎構造を新築し又は改築、増築し、この新基礎構造上へ前記既存建物を再度曳き家して戻し、好ましくは免震化して保存する、既存建物の保存方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段として、請求項1記載の発明に係る既存建物の保存・建て替え方法は、
既存建物1のうち保存するべき建物部分1Aを残し、他の建物部分1Bは解体・撤去して、その跡地4に新築建物用基礎4Aを構築すると共に、同新築建物用基礎4A上に、前記保存するべき建物部分1Aを曳き家して受け入れる仮受け用基礎6を設ける段階と、
前記保存する建物部分1Aの上部躯体構造について補強工事を行い、同保存する建物部分1Aを基礎構造から切り離して、曳き家が可能な移動機構7上に仮受け支持させる段階と、
前記保存する建物部分1Aを曳き家して、前記解体した建物部分1Bの跡地に構築した前記仮受け用基礎6上まで移動させて仮置きする段階と、
前記保存する建物部分1Aが移動し去った跡地に、同保存する建物部分1Aの永続的支持が可能な新基礎構造を新築し又は増・改築する段階と、
前記仮受け用基礎6上に仮置きしておいた保存する建物部分1Aを再び曳き家して元の場所へ戻し、新築し又は増・改築した新基礎構造上へ同保存する建物部分1Aを支持させて定着する段階と、
更に、先に解体した建物部分1Bの跡地に構築した前記新築建物用基礎4A上に新築建物を構築する段階とより成ることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明に係る既存建物の保存方法は、
既存建物と隣接する敷地に、同既存建物を曳き家して受け入れる仮受け用基礎を構築する段階と、
既存建物の上部躯体構造について補強工事を行い、同既存建物の上部躯体構造を基礎構造から切り離し、曳き家が可能な移動機構上に仮受け支持させる段階と、
前記既存建物を曳き家して、隣接の敷地に構築した前記仮受け用基礎上まで移動させて仮置きする段階と、
前記既存建物が移動し去った跡地に、同既存建物の永続的支持が可能な新基礎構造を新築し又は増・改築する段階と、
前記隣接敷地の仮受け用基礎上に仮置きしておいた既存建物を再度曳き家して元の場所へ戻し、新築し又は増・改築した新基礎構造上へ同既存建物を支持させて定着する段階とから成ることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、上記請求項2に記載した既存建物の保存方法において、
更に、隣接の敷地に新築建物用基礎を構築し、その上に新築建物を構築する段階を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載した発明は、請求項1又は2に記載した既存建物の保存・建て替え方法において、
保存する建物部分又は既存建物が移動し去った跡地に新築し又は増・改築した新基礎構造上へ再び曳き家して戻した前記建物部分又は既存建物は、新基礎構造上に設置した免震装置により支持させて免震建物とすることを特徴とする。
請求項5に記載した発明は、請求項1又は3に記載した既存建物の保存・建て替え方法において、
解体した建物部分の跡地に構築した新築建物又は隣接の敷地に構築した新築建物もそれぞれ、免震装置により支持させた免震建物として構築することを特徴とする。
請求項6に記載した発明は、請求項2〜5のいずれか一に記載した既存建物の保存・建て替え方法において、
元の場所へ曳き家して戻し保存した建物部分又は既存建物と、解体・撤去した建物部分の跡地に構築した新築建物又は隣接の敷地に構築した新築建物とは、それぞれ構造的に、および機能的に合体させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る既存建物の保存・建て替え方法は、既存建物のうち、解体する建物部分1Bは先行して解体、撤去し、その跡地4に新築建物用基礎4Aを構築し、更に仮受け用基礎構造7を設け、保存する建物部分1Aを曳き家により前記仮受け用基礎構造7上へ移動させて仮置きし、跡地には、保存する建物部分1Aの永続支持に必要な新基礎構造9を新築し又は増・改築するから、前記新基礎構造9の構築工事は、いわゆる平地(更地)における新築工事と同様な条件下で、必要な大型重機類5を使用して、空間的制約を受けることなく新基礎構造9を新築し又は増・改築できる。したがって、新基礎構造9の基礎工事を能率良く、短工期で安価に実施できる。しかも同新基礎構造9に予め免震装置10を用意しておくことで、保存する建物部分1Aの免震化も容易にできる。よって、永続性および耐震性の観点で十分安全な建物の保存が可能である。
【0013】
次に、請求項2の発明に係る既存建物の保存方法は、上記請求項1に係る発明の応用技術として、保存する既存建物を隣接する敷地へ曳き家により一旦移動させ、その跡地に、保存する既存建物の永続支持に必要な新基礎構造を、いわゆる平地(更地)における新築工事と同様な条件下で、必要な大型重機類5を使用して、空間的制約を受けることなく新基礎構造を新築し又は増・改築できる。その後、保存する既存建物は再び曳き家して元の場所へ戻し、前記新基礎構造上に支持させ、或いは同新基礎構造に予め免震装置を用意しておくことで免震建物として保存できるから、永続性および耐震性の観点で安全な保存が可能である。
【0014】
上記請求項6の発明のように、解体した建物部分の跡地に構築した新築建物、或いは隣接敷地に構築した新築建物を、先に保存した建物部分1A又は既存建物と構造的、機能的に合体させると、最新の技術により構築した新築建物と、旧いレトロな保存建物それぞれの良さを共有する建物となるから、建物の機能や設備、構造、そして、広い床面積の居住性と経済効果を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
請求項1の発明は、既存建物1のうち、保存するべき建物部分1Aを残し、他の建物部分1Bは解体・撤去し、その跡地4に新築建物用基礎4Aを構築し、更に同新築建物用基礎4A上に前記保存する建物部分1Aを曳き家して受け入れる仮受け用基礎構造7を設ける。
前記保存する建物部分1Aの上部躯体構造に補強工事を行い、同保存する建物部分1Aを基礎構造から切り離し、曳き家が可能な移動機構8上に仮受け支持させる。
保存する建物部分1Aを曳き家して、前記解体した建物部分の跡地4の仮受け用基礎構造7まで移動させて仮置きする。
前記保存する建物部分1Aが去った跡地には、同保存する建物部分1Aの永続的支持が可能な新基礎構造9を新築し又は増・改築する。その後、仮置きしておいた保存する建物部分1Aを再び曳き家して元の場所へ戻し、新築し又は増・改築した新基礎構造9上へ保存する建物部分1A支持させて定着する。
更に、先に解体した建物部分1Bの跡地に新築建物11を構築して既存建物の建て替え目的を達成する。
【0016】
次に、請求項2の発明は、保存する既存建物と隣接する敷地に、同既存建物を曳き家して受け入れる仮受け用基礎を構築する。同既存建物の上部躯体構造について補強工事を行い、同既存建物の上部躯体構造を基礎構造から切り離し、曳き家が可能な移動機構上に仮受け支持させ、前記既存建物を曳き家して隣接の敷地に構築した仮受け用基礎上まで移動させ仮置きする。
前記既存建物が移動し去った跡地に、同既存建物の永続的支持が可能な新基礎構造を新築し又は増・改築する。そして、前記隣接敷地に仮置きしておいた既存建物を再度曳き家して元の場所へ戻し、新築し又は増・改築した新基礎構造上へ同既存建物を支持させて定着し保存する。
【0017】
なお、保存する建物部分1A又は既存建物1は、新基礎構造上に予め免震装置を設置して支持させた免震建物として保存することが好ましい。同様に、解体・撤去した建物部分の跡地に構築した新築建物11又は隣接敷地に構築した新築建物もそれぞれ、免震装置に支持させた免震建物として構築することが好ましい。
【実施例1】
【0018】
以下に、本発明を図面に示した実施例に基づいて説明する。
図1〜図6は、上記請求項1および請求項4〜6の発明に係る既存建物の保存・建て替え方法の実施例を示したもので、図1は既存建物1の全体平面と、敷地境界線2との関係、そして、既存建物1のうち保存するべき建物部分1Aと、その他の解体・撤去するべき建物部分1Bとの関係、および平面計画を概念的に示している。既存建物1のうち、どの建物部分を保存し、どの建物部分を解体・撤去するかは、全て建築計画の観点で当事者が自由に定めることである。
【0019】
図2は、図1の立面図に相当するもので、保存するべき建物部分1Aと、既に解体・撤去した建物部分1Bとの関係を示している。この実施例の場合は、保存するべき建物部分1Aを曳き家する関係上、解体・撤去した建物部分1Bの跡地4は、保存するべき建物部分1Aの平面形状および面積より大きいことが前提となる。仮囲い3は敷地境界線2の位置に立てられている。
図2では、左側の建物部分1Bは既に解体・撤去されており、その跡地4ではバックホウ5等の大型重機を入れて、後でこの跡地4に新築する建物用基礎の新築工事が進められている。もとより跡地4に構築する新築建物用基礎の構造型式は、その上に新築する建物を支持するためのものであることを考慮して、一例として図示した杭基礎4Aを構築する場合のほか、地盤改良等による直接基礎、その他の最適な型式で基礎を自由に設計、施工する。
【0020】
図3は、跡地4に上記新築建物用基礎4Aを構築した上で、更に上記保存するべき建物部分1Aを曳き家して受け入れる仮受け用基礎構造の底盤6を設けた段階を示している。
なお、新築建物用基礎4Aの構築は、先に解体した建物部分1Bの基礎を全部解体・撤去して新築する場合と、旧い基礎構造のうちで利用可能な部分は再利用し、その上で不足、追加するべき基礎構造を増築、改築する方法のいずれかを建築条件に応じて適宜に選択して実施される。
また、前記仮受け用基礎構造6の構造を具体的に言えば、図3のように保存する建物部分1Aの基礎の深さに応じて跡地4を掘削し、保存する建物部分1Aの曳き家が可能なレベルに揃える。その上で、掘削底面に底盤6を施工し(図3)、その上に曳き家工事に使用するレール7を敷設する(図4)等々の用意が行われる。
【0021】
一方、上記保存する建物部分1Aについても、その上部躯体構造および下部構造について、少なくとも曳き家工法の実施に耐え得る強度、剛性を確保する補強工事を行う。具体的には、上部躯体構造については躯体の補強を行い、下部構造については下部躯体の補強を行い、仮受け杭の仮設を行う場合もある。もっとも、保存する建物部分1Aの強度、剛性が十分に大きいと確認された場合には、前記補強工事は無用である。
【0022】
次に、保存する建物部分1Aの上部構造を図示を省略した仮受けジャッキで支持させて荷重の盛り替えを行う。そして、同建物部分1Aの上部躯体構造を下部構造および基礎から切り離し、上記図4に示したレール7の延長線上であって、保存する建物部分1Aの直下位置へも曳き家工事に使用するレール7Aを敷設し、このレール7A上へ、曳き家工法の実施が可能な構造の移動機構8を介して仮受け支持させる。この移動機構8としては、既往の曳き家工法で種々知られ使用されているように、レール7および7A上を滑る滑り機構、あるいはローラ等による転がり機構等が好適に使用される。
【0023】
上記のようにして曳き家の準備が整うと、次には曳き家用の水平ジャッキ(図示は省略した)を設置し、上記保存する建物部分1Aをレール7Aおよび7に沿って、左方の解体・撤去した建物部分1Bの跡地4に向かって移動させる。図5に例示するように、跡地4の新築建物用基礎4A上に既に用意しておいた仮受け用基礎構造の底盤6上へ保存する建物部分1Aを到達させ、同所へ仮置きして、不用意に移動することのないように仮固定も行う。
その一方では、上記保存する建物部分1Aが去った跡地には、図5に示したように、同建物部分1Aの永続支持に必要な耐力性能や機能、構造を備えた新基礎構造9の構築を行う。新基礎構造9の構築は、旧い基礎を全部解体・撤去して新しく新築する方法、又は旧い基礎構造のうちで有用な部分は利用し、更に不足、追加するべき基礎構造を増築、改築する方法のいずれかをを行う。
図5に示す新基礎構造9は、杭基礎9Aを新設して、その杭頭部に定着用底盤9Bを構築し、更に免震装置10を設置するなど、保存する建物部分1Aの永続支持と保存に必要な構造、機能などを満たす内容で構成している。
当然、杭基礎9Aを構築する基礎工事は、平地における新築工事と同じように、空間的制限を受けないので、大型重機類を使用して効率よく実施することができる。新基礎構造9の構築は、保存する建物部分1Aが残した旧い基礎を全部解体・撤去して新しく新築する方法、又は旧い基礎構造のうちで使用可能な部分は利用し、更に不足、追加するべき基礎構造を増築、改築する方法のいずれかを選択して実施でき、自由度が大きい。
【0024】
上記のようにして、保存する建物部分1Aの永続支持に必要な新基礎構造9の構築が完成すると、その上に再び図4に示したように延長レール7Aを敷設し、解体した建物部分の跡地4の仮受け用基礎構造6の上に仮置きしておいた保存する建物部分1Aを、今度は元の場所に向かって水平ジャッキにより移動させる曳き家を再び行い元の場所へ戻す。そして、既に完成した新基礎構造9上まで到達させると、再度仮受けジャッキを使用して荷重の盛り替えを行い、前記新基礎構造9上へ支持させて定着する。図5,図6の場合は、新基礎構造9の上に設置した免震装置10の上へ、保存する建物部分1Aを直接据え付けて支持させて免震化した構成の例を示す。
図7は、保存する建物部分1Aを免震装置10の上へ据え付けて免震化した構成の要部を示している。但し、保存する建物部分1Aの耐力性能が十分大きい場合には免震化しないことも選択肢である。
【0025】
一方、先に解体した建物部分1Bの跡地4には、上記保存する建物部分1Aが移動し去るのを待って、図6に示す曳き家用のレール7を撤去するなどの準備を行い、先に構築しておいた新築建物用基礎4Aの上に、新築建物11の構築を進めて建て替えの目的を達成する(図6を参照)。新築建物11は、もとより既存建物とは別個独立の建築計画で設計・施工することができる。この新築建物11も、免震装置を使用して支持させた免震建物として構築する場合と、免震化しない場合とがある。
【0026】
上記のようにして、元の場所へ戻して免震化し、又は免震化することなく保存した建物部分4Aと、解体・撤去した建物部分の跡地4に構築した新築建物11とは、最終的には必要に応じて、構造的に、および機能的に合体させて一つの建物として構成することが実施される。ここでいう構造的におよび機能的に合体させるとは、建物としての用途を一つに共通化することは勿論のこと、建物の各種機能を相互に分担して受け持たせ、人や物資の動線を共通化し、あるいは水回りや設備機器の共用化を図り一体化することなどを意味する。
【実施例2】
【0027】
なお、請求項2の発明に係る建物の保存方法は、上記実施例1の保存・建て替え方法とほぼ共通する工程と工事の進捗過程を経て実施される。よって、その実施例を敢えて図示することは省略したが、図1〜図6に示した上記実施例1を参照して同様に説明することができる。
即ち、実施例1において建物の一部分が保存される代わりに、本発明では1個の既存建物が全部そっくり保存される場合である。また、実施例1では解体・撤去した建物部分1Bの跡地4であることに代わり、本発明では、既存建物を全部曳き家できる大きさ、形状の隣接敷地が確保されることを条件として同様に実施される。
【0028】
そこで、以下には上記の前提条件で、請求項2の発明に係る建物の保存方法の実施例を説明する。
先ず、既存建物に隣接する敷地を確保して、その敷地に、とりあえず同敷地上に、前記既存建物を曳き家して受け入れる仮受け用基礎を設置し、曳き家に必要なレールの敷設も行う。
次に、前記既存建物の上部躯体構造について補強工事を行い、同既存建物を基礎から切り離し、仮受け用ジャッキを使用して荷重の盛り替えを行い、曳き家を実施可能な移動機構上に既存建物の上部躯体構造仮受け支持させる。
しかる後に、前記既存建物を曳き家して、前記隣接敷地の仮受け用基礎まで移動させて仮置きする。
次に、前記既存建物が移動し去った跡地には、同既存建物1Aの永続支持に必要な新基礎構造を新築し又は増・改築する。この新基礎構造の構築はやはり、既存建物1Aが残した旧い基礎を全部解体・撤去して新築するか、又は旧い基礎のうち使用可能な部分は利用して、更に必要な構造を増築、改築する方法のいずれかで行う。
【0029】
その後に、前記隣接敷地に仮置きしておいた既存建物を再び曳き家して、元の場所へ戻す。そして、元の場所に戻した既存建物は、上記のように新築し又は増・改築した新基礎構造の上に支持させて定着し保存する。この場合に、新基礎構造上に予め免震装置を設置しておいて、既存建物を免震装置の上に定着し免震化して保存する場合の有ることは、上記実施例1と同様である。
その一方、既存建物が移動し去った隣接の敷地には、必要に応じて、新築建物用基礎を構築して、新築建物をを構築(増築)する。この新築建物も免震建物として構築する場合がある。もとより、この新築建物の増築は必須の要件ではなく、隣接の敷地は庭園等のフリースペースとして利用することもできる。
また、保存した既存建物と新築建物とを構造的に、および機能的に合体させて一つの建物とすることも実施される。勿論、この実施例2の場合でも、新築建物は、自由な発想の建築計画に基づいて設計・施工すればよい。
【0030】
以上に本発明を、図示した実施例、或いは図示しない実施例に基づいて説明したが、勿論、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。発明の目的および要旨を逸脱しない範囲で、いわゆる当業者が通常行う設計変更の範囲で更に多様に実施することができ、それらを包含することを申し添える。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】請求項1の発明に係る既存建物の保存・建て替え方法の平面計画図を示した平面図である。
【図2】図1の立面図である。
【図3】解体・撤去した建物部分の跡地に基礎を構築する状況を示す立面図である。
【図4】解体・撤去した建物部分の跡地に新築建物用基礎および保存するべき建物部分を受け入れる仮受け用基礎構造を設けた段階を示す立面図である。
【図5】保存するべき建物部分が曳き家され、去った跡地に新基礎を構築した段階を示す立面図である。
【図6】保存するべき建物部分は元の位置に保存され、解体・撤去した建物部分の跡地に新規の建物を構築する場合を示す立面図である。
【図7】保存する建物部分が免震装置で支持された基礎構造を示す部分図である。
【符号の説明】
【0032】
1 既存建物
1A 保存するべき建物部分
1B 解体・撤去する建物部分
4 跡地
4A 新築建物用基礎
7 仮受け用基礎構造(レール)
8 移動機構
9 新基礎
10 免震装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物のうち保存するべき建物部分を残し、他の建物部分は解体・撤去し、その跡地に新築建物用基礎を構築すると共に、同新築建物用基礎上に、前記保存する建物部分を曳き家して受け入れる仮受け用基礎を設ける段階と、
前記保存する建物部分の上部躯体構造について補強工事を行い、同保存する建物部分を基礎構造から切り離し、曳き家が可能な移動機構上に仮受け支持させる段階と、
前記保存する建物部分を曳き家して、前記解体した建物部分の跡地に構築した前記仮受け用基礎上まで移動させて仮置きする段階と、
前記保存する建物部分が移動し去った跡地に、同保存する建物部分の永続的支持が可能な新基礎構造を新築し又は増・改築する段階と、
前記仮受け用基礎上に仮置きしておいた保存する建物部分を再び曳き家して元の場所へ戻し、新築し又は増・改築した新基礎構造上へ保存する建物部分を支持させて定着する段階と、
更に、先に解体した建物部分の跡地に構築した前記新築建物用基礎の上に新築建物を構築する段階とより成ることを特徴とする、既存建物の保存・建て替え方法。
【請求項2】
既存建物と隣接する敷地に、同既存建物を曳き家して受け入れる仮受け用基礎を構築する段階と、
既存建物の上部躯体構造について補強工事を行い、同既存建物の上部躯体構造を基礎構造から切り離し、曳き家が可能な移動機構上に仮受け支持させる段階と、
前記既存建物を曳き家して、隣接の敷地に構築した前記仮受け用基礎上まで移動させて仮置きする段階と、
前記既存建物が移動し去った跡地に、同既存建物の永続的支持が可能な新基礎構造を新築し又は増・改築する段階と、
前記隣接敷地の仮受け用基礎上に仮置きしておいた既存建物を再度曳き家して元の場所へ戻し、新築し又は増・改築した新基礎構造上へ同既存建物を支持させて定着する段階とから成ることを特徴とする、既存建物の保存方法。
【請求項3】
更に、隣接の敷地に新築建物用基礎を構築し、その上に新築建物を構築する段階を含むことを特徴とする、請求項2に記載した建物の保存方法。
【請求項4】
保存するべき建物部分又は既存建物が曳き家により移動し去った跡地に新築し又は増・改築した新基礎構造上へ再び曳き家して戻した前記建物部分又は既存建物は、新基礎構造上に設置した免震装置により支持させて免震建物とすることを特徴とする、請求項1又は3に記載した既存建物の保存・建て替え方法。
【請求項5】
解体した建物部分の跡地に構築した新築建物又は隣接の敷地に構築した新築建物はそれぞれ、免震装置により支持された免震建物とすることを特徴とする、請求項1又は3に記載した既存建物の保存・建て替え方法。
【請求項6】
元の場所へ曳き家して戻し保存した建物部分又は既存建物と、解体・撤去した建物部分の跡地に構築した新築建物又は隣接の敷地に構築した新築建物とは、それぞれ構造的に、および機能的に合体させることを特徴とする、請求項2〜5のいずれか一に記載した既存建物の保存・建て替え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−37901(P2010−37901A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205419(P2008−205419)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】