既存建物の耐震補強構造
【課題】より性能の高いあと施工アンカーを用いて既存建物と架構とを連結することによって、効果的な耐震補強を行うことが可能な既存建物の耐震補強構造の提供。
【解決手段】既存建物1と前記架構2とが、あと施工アンカー3を用いて連結されており、あと施工アンカー3は、外壁1aの下孔10に挿入されるアンカー本体30と、拡張可能な拡張部31と、拡張部31の内側に嵌め込まれるコーン32とを具備し、前記下孔10には接着用樹脂材料4が充填されており、前記拡張部31は、前記アンカー本体30を下孔最奥部10aに当接させたコーン32に打ち込むことによって、前記下孔最奥部10a内で該下孔10に圧接するように拡張されている。これにより、高い剪断剛性や引張り耐力等を得ることができ、より性能の高いあと施工アンカーを得ることができるので、効果的な耐震補強を行うことが可能となる。
【解決手段】既存建物1と前記架構2とが、あと施工アンカー3を用いて連結されており、あと施工アンカー3は、外壁1aの下孔10に挿入されるアンカー本体30と、拡張可能な拡張部31と、拡張部31の内側に嵌め込まれるコーン32とを具備し、前記下孔10には接着用樹脂材料4が充填されており、前記拡張部31は、前記アンカー本体30を下孔最奥部10aに当接させたコーン32に打ち込むことによって、前記下孔最奥部10a内で該下孔10に圧接するように拡張されている。これにより、高い剪断剛性や引張り耐力等を得ることができ、より性能の高いあと施工アンカーを得ることができるので、効果的な耐震補強を行うことが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の外部に、この既存建物とは独立した架構が構築され、前記既存建物と架構とが、あと施工アンカーを用いて連結された既存建物の耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、旧来の建築基準法に則って設計された建物や、老朽化が懸念される建物等の各種の既存建物に対して、その躯体を補強することにより耐震性を向上させる様々な補強手段が実施されている。
このような補強手段の一例として、既存建築物の外側に、剛性や耐力の高い補強用架構を建築し、この補強用架構をその多数の箇所で既存建築物に緊結する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この補強手段を採用することによって、既存建築物の外側から耐震補強のための工事を行なうことができ、既存建築物の内部に手を加える必要がなく、既存建築物を使用しながら耐震補強を行うことが可能となっている。
【特許文献1】特開平09−203217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述したように補強用架構(以下、架構)をその多数の箇所で既存建築物(以下、既存建物)に緊結する際は、例えば、あと施工アンカーが利用される場合がある。
このあと施工アンカーとしては、母材に穿孔した下孔の孔壁に機械的に固着する金属系の拡張式あと施工アンカーや、母材に穿孔した下孔に充填した接着剤によって物理的に固着する接着系のあと施工アンカー等が知られており、これら金属系の拡張式あと施工アンカーと、接着系あと施工アンカーとでは性能が異なる。
【0004】
すなわち、金属系の拡張式あと施工アンカーは、穿孔径とアンカー外径に多少のすきまが生じる為、剪断剛性が低下する反面、アンカー筋に対する加熱やひび割れ等の要因による性能劣化が少なくなる等の利点がある。
一方、接着系のあと施工アンカーは、地震時の繰り返しに作用する剪断力によりコンクリートにひび割れが生じた場合やアンカー筋に対する加熱により性能劣化する場合がある反面、比較的高い剪断剛性、引張耐力が得られるという利点がある。
【0005】
そこで、これら金属系の拡張式あと施工アンカーおよび接着系あと施工アンカーの双方の利点を生かして、より性能の高いあと施工アンカーを開発し、このようなあと施工アンカーを利用して、既存建物と架構とを連結する技術の開発が望まれていた。
【0006】
本発明の課題は、より性能の高いあと施工アンカーを用いて既存建物と架構とを連結することによって、効果的な耐震補強を行うことが可能な既存建物の耐震補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、例えば図1〜図12に示すように、既存建物1の外部に、この既存建物1とは独立した架構2が構築され、前記既存建物1と前記架構2とが、あと施工アンカー3を用いて連結されており、
前記あと施工アンカー3は、前記既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10に挿入されるアンカー本体30と、このアンカー本体30の先端を筒状に形成した拡張可能な拡張部31と、この拡張部31の内側に嵌め込まれるコーン32とを具備し、
前記下孔10には、この下孔10にあと施工アンカー3を固着させるための接着用樹脂材料4が充填されており、前記拡張部31は、前記アンカー本体30を下孔最奥部10aに当接させたコーン32に打ち込むことによって、前記下孔最奥部10a内で該下孔10に圧接するように拡張されていることを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、前記下孔に、あと施工アンカーを固着させるための接着用樹脂材料が充填されているので、この接着用樹脂材料が硬化することによって、前記あと施工アンカーを既存建物の外壁に対して強固に固着させることができる。
しかも、前記拡張部は、前記アンカー本体を下孔最奥部に当接させたコーンに打ち込むことによって、前記下孔最奥部内で該下孔に圧接するように拡張されているので、前記あと施工アンカーを既存建物の外壁に対して、より強固に固着させることができる。
これによって、従来とは異なり、前記接着用樹脂材料の硬化によって固着する場合と、前記アンカー本体に設けられた拡張部の拡張によって固着する場合との双方の利点を生かすことができるので、高い剪断剛性や引張り耐力等を得ることができ、より性能の高いあと施工アンカーを得ることができる。
したがって、このような性能の高いあと施工アンカーを用いて既存建物と架構とを連結することによって、これら既存建物と架構とが強固に一体化するので、効果的な耐震補強を行うことが可能となる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の既存建物1の耐震補強構造において、例えば図10〜図12に示すように、前記アンカー本体30には、前記下孔10の入り口10bに圧入される補強スリーブ33が外挿されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、前記アンカー本体に外挿された前記補強スリーブが、前記下孔の入り口に圧入されることで、この補強スリーブが前記下孔内面に圧接されるので、前記あと施工アンカーを既存建物の外壁に対して、さらに強固に固着することができる。
また、このように前記補強スリーブが前記下孔内面に圧接されることによって、前記あと施工アンカーを下孔の中心軸線上に偏心なく支持することができるので、あと施工アンカーに取り付けられる取付物を、位置ずれなく正確に取り付けることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の既存建物1の耐震補強構造において、例えば図4に示すように、前記架構2に制震装置5が組み込まれていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、前記架構に制震装置が組み込まれていることから、この制震装置によって、前記架構に作用する地震力を確実に低減できるとともに、前記あと施工アンカーを介して架構と連結された前記既存建物に作用する地震力を確実に低減することができるので、より効果的な耐震補強を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、既存建物の外壁に穿孔された下孔に、あと施工アンカーを固着させるための接着用樹脂材料が充填されているので、この接着用樹脂材料が硬化することによって、あと施工アンカーを既存建物の外壁に対して強固に固着させることができる。
しかも、前記あと施工アンカーに設けられた拡張部は、アンカー本体を下孔最奥部に当接させたコーンに打ち込むことによって、前記下孔最奥部内で該下孔に圧接するように拡張されているので、前記あと施工アンカーを既存建物の外壁に対して、より強固に固着させることができる。
これによって、従来とは異なり、前記接着用樹脂材料の硬化によって固着する場合と、前記アンカー本体に設けられた拡張部の拡張によって固着する場合との双方の利点を生かすことができるので、高い剪断剛性や引張り耐力等を得ることができ、より性能の高いあと施工アンカーを得ることができる。
したがって、このような性能の高いあと施工アンカーを用いて既存建物と架構とを連結することによって、これら既存建物と架構とが強固に一体化するので、効果的な耐震補強を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0015】
本実施の形態における既存建物1の耐震補強構造は、図1〜図12に示すように、既存建物1の外部に、この既存建物1とは独立した架構2が構築され、前記既存建物1と前記架構2とが、あと施工アンカー3を用いて連結されたものであり、前記あと施工アンカー3は、前記既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10に挿入されるアンカー本体30と、このアンカー本体30の先端を筒状に形成した拡張可能な拡張部31と、この拡張部31の内側に嵌め込まれるコーン32とを具備し、前記下孔10には、この下孔10にあと施工アンカー3を固着させるための接着用樹脂材料4が充填されており、前記拡張部31は、前記アンカー本体30を下孔最奥部10aに当接させたコーン32に打ち込むことによって、前記下孔最奥部10a内で該下孔10に圧接するように拡張されている。
【0016】
ここで、本実施の形態の既存建物1は、例えば鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造等の構造からなる建物であり、図1および図2に示すように、複数の階層を備えている。そして、この既存建物1の外壁1aに隣接するようにして前記架構2が構築されている。また、図1に示す架構2は、制震装置5(後述)が組み込まれていない状態のものであり、図2に示す架構2は、制振装置5が組み込まれた状態のものであり、これら架構2は、複数の柱20や梁21、ブレース22,25等の鋼材を備えている。
図2に示す架構2は、図3に示すように、例えば既存建物1のバルコニー11や共用通路12、外階段13等を含む既存建物1の外郭の一部が、他の外郭よりも建物内部側に後退するようにして形成された凹部14を利用して構築されている。
【0017】
さらに、本実施の形態の架構2は、図2に示すように、既存建物1の外壁1aと、地中に埋設された基礎23上に立設される前記柱20との間に前記梁21が架設されている。
そして、上下階の梁21,21間に、下階側の梁21と外壁1aとの交点および下階側の梁21と柱20との交点から、上階側の梁21の中央まで2本のブレース22,22が延出して設けられており、これら2本のブレース22,22どうしの交点に形成されたブレース頭部24に、前記制震装置5が設けられている。
また、図3に示すように、前記架構2には、平面視菱形になるように、既存建物1の外壁1aと架構2の梁21とに固定される複数のブレース25が設けられている。
【0018】
なお、本実施の形態の架構2は、以上のように構成され、立体架構であるとしたが平面架構でも良く、さらに、図1と図2とを比較して明らかであるように、複数の柱20や梁21、ブレース22等の配置構成においても本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0019】
本実施の形態の制震装置5は、図4に示すように、前記ブレース頭部24に固定されるシリンダー50と、受け部51aを介して前記既存建物1の外壁1aに固定されるロッド51とを備えた高減衰オイルダンパーであり、前記シリンダー50内に設けた調圧弁(図示せず)を通過する作動油(図示せず)の流体抵抗によって必要な減衰力を発生させるものである。
【0020】
なお、本実施の形態の制震装置5は高減衰オイルダンパーとしたが、これに限られるものではなく、例えば鋼材が弾性限界以上に変形する際のエネルギー吸収を利用する弾塑性ダンパー等でも良く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
また、前記制震装置5は、その制震機能が確実に発揮されるのであれば、図2に示すように、制震装置5を組み込んだ架構2を最上階の高さまで構築する必要はなく、さらに組み込む制震装置5の数量も、前記ブレース頭部24に対して1つの制震装置5を設けたり、2つの制震装置5,5を設けたり等、適宜変更可能である。
【0021】
そして、このように前記架構2に制震装置5が組み込まれていることから、この制震装置5によって、前記架構2に作用する地震力を確実に低減できるとともに、前記あと施工アンカー3を介して架構2と連結された前記既存建物1に作用する地震力を確実に低減することができるので、効果的な耐震補強を行うことが可能となる。
【0022】
一方、前記あと施工アンカー3は、図6に示すように、前記既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10に挿入されるアンカー本体30と、このアンカー本体30の先端を筒状に形成した拡張可能な拡張部31と、この拡張部31の内側に嵌め込まれるコーン32とを具備している。
なお、これらアンカー本体30と、拡張部31と、コーン32とは、例えば鉄等の金属製のものを用いるが、材質はこれに限定されない。また、前記アンカー本体30は、図示例では、全ねじボルトを例示しているが、例えば、異形棒鋼等であっても良い。
また、前記アンカー本体30には、前記下孔10の入り口10bに圧入される補強スリーブ33(後述する)が外挿されるとともに、接着用樹脂材料4の飛散を防止する飛散防止板34(後述する)が取り付けられる。
【0023】
前記アンカー本体30は、例えば、JIS G 4107(SNB7)相当材の鋼製のものを採用することが好ましい。この場合、図7および図8に示すように、あと施工アンカー3を、既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10に挿入し、前記アンカー本体30を、下孔最奥部10aに当接させたコーン32に打ち込んで拡張部31を拡張する際に、拡張部31の先端が前記下孔10の孔壁を削り取りながら、拡張部31が拡張するようになる。これにより、拡張部31が下孔10の孔壁に食い込むようになり、従来の接着系のあと施工アンカーに比べて引張り耐力(引き抜き耐力)が向上する。
従来から、例えば金属系の拡張式あと施工アンカーでは、JIS G 3101(SS400。一般構造用圧延鋼材)相当材で形成したものが広く採用されているが、JIS G 3101(SS400)相当材は、一般に、上述のJIS G 4107(SNB7)相当材に比べて強度が劣る。JIS G 3101(SS400)相当材で形成した金属系の拡張式あと施工アンカーの場合は、拡張部31を拡張した際に、孔壁に押圧された拡張部31に曲げ変形が生じて、孔壁への食い込み量が必ずしも大きくならない。これに対して、JIS G 4107(SNB7)相当材で形成したアンカー本体30の拡張部31は、コーン32への打込みによる拡張によって、拡張部31の先端が前記下孔10の孔壁を削り取りながら拡張するため、拡張部31が下孔10の孔壁に確実に食い込むようになり、高い引張り耐力(引き抜き耐力)を確実に得られる。
なお、このアンカー本体30の他、コーン32、補強スリーブ33も、JIS G 4107(SNB7)相当材で形成したものを採用できることは言うまでもない。
【0024】
前記拡張部31は、図6に示すように、内側にコーン収納穴31aを有する筒状に形成され、しかも、割り31bによって複数に分割されている。この拡張部31の割り31bは、前記コーン32にアンカー本体30を打ち込む際に、拡張部31を拡張しやすくするためのものである。
コーン収納穴31aには、コーン32の一部が収納される。コーン32は、一部がコーン収納穴31aに嵌め込まれた状態で、アンカー本体30の先端に突出状態に取り付けられている。
【0025】
前記コーン32は、上述のように前記拡張部31を拡張させるためのものであり、紡錘形に形成されている。つまり、前記アンカー本体30がコーン32に打ち込まれることによって、前記拡張部31がコーン32外面に沿って拡張するようになっている。なお、このコーン32の形状は、拡張部31を拡張可能なものであれば良く、上述の紡錘形に限定されない。
【0026】
前記補強スリーブ33は、軸方向両端部が開口しているとともに、外周面に、連続する螺旋状の溝33aが形成されている。この溝33aは、補強スリーブ33を下孔10の入り口10bに圧入した際に、下孔10内から押し出される余剰分の接着用樹脂材料4を通過させて、下孔10から外に排出させる役割を果たす。
そして、このように前記アンカー本体30に外挿された前記補強スリーブ33が、前記下孔10の入り口10bに圧入されることで、この補強スリーブ33が前記下孔10内面に圧接されるので、前記あと施工アンカー3を既存建物1の外壁1aに対して、さらに強固に固着することができる。
また、このように前記補強スリーブ33が前記下孔10内面に圧接されることによって、前記あと施工アンカー3を下孔10の中心軸線上に偏心なく支持することができるので、あと施工アンカー3に取り付けられる取付物を、位置ずれなく正確に取り付けることができるようになっている。
【0027】
なお、前記溝33aは、補強スリーブ33の外周面でなく、補強スリーブ33の内周面に形成しても良く、外周面と内周面の両方に形成しても良い。
また、前記溝33aの形状は、上述した螺旋状に限定されない。この溝33aは、余剰分の接着樹脂材料を補強スリーブ33の軸方向に通過させるものとして機能するものであれば良く、例えば、補強スリーブ33の軸方向に沿って延在するストレート溝であっても良い。
ただし、前記溝33aは、補強スリーブ33の外周面および内周面のうち、外周面に形成するほうが、接着用樹脂材料4による外壁1aとあと施工アンカー3との固着力(下孔10内面(微細な凹凸が存在する)に対する接着用樹脂材料4の定着・係合・および接着用樹脂材料4の接着力、によって発生する固着力)の向上の点で好ましく、また、前記固着力の向上の点では、螺旋状(螺旋溝)に形成することがストレート溝よりも好ましい。
なお、アンカー本体30として、全ねじボルトを採用している場合、アンカー本体30の外周面のねじ溝30aに入りこんだ接着用樹脂材料4によって、アンカー本体30と補強スリーブ33との間の固着力が確保される、といった利点もある。ねじ溝30aは、余剰分の接着樹脂材料を排出するものとして機能させることも可能である。
【0028】
前記接着用樹脂材料4は、例えば、不飽和ポリエステル樹脂やエポキシアクリレート樹脂等のラジカル重合性オリゴマーの他、不飽和ポリエステルアクリレートや飽和ポリエステルアクリレート等、様々な種類のものが挙げられる。
このような接着用樹脂材料4は、カプセル内(図示せず)に封入される。この時、カプセル内には硬化剤(図示せず)も封入されるが、これら接着用樹脂材料4と硬化剤とが混ざらないように分封されている。必要に応じて骨材(図示せず)等が充填されていても良い。なお、接着用樹脂材料4の使用時は、前記既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10内部に前記カプセルを入れ、アンカー本体30を装入することによりカプセルを破砕させ、中身の接着用樹脂材料4と硬化剤とを混合して硬化反応を起こさせるようにして使用する。
なお、このようなカプセル式の使用方法の他にも、カートリッジ式(図示せず)と称されるもの等が知られている。カートリッジ式とは、接着用樹脂材料4と硬化剤とが別々の充填部に充填されて一体化されたものであり、先端に先細ノズルを装着してディスペンサーに取り付けて中身を押し出すことで、ノズル内で接着用樹脂材料4と硬化剤とを混合し、これを下孔10内に注入して硬化させる、というものである。
本実施の形態においては、前者のカプセル式が採用されるが、後者のカートリッジ式でも良く、また、その他の使用方法を採用しても良い。
【0029】
また、前記飛散防止板34は、リング状であり、図7および図8に示すように、中央部を貫通する孔34aをアンカー本体30に通すことによって、アンカー本体30に外挿して設けられる。
この飛散防止板34は、前記外壁1aの表面側から前記下孔10の入り口10b(詳細には、アンカー本体30と下孔10内周面との間の隙間)を覆うように設けられることで、例えば、下孔10へのアンカー本体30の打ち込み時に下孔10から溢れ出す余剰分の接着用樹脂材料4の飛散を防止する。
【0030】
次に、前記あと施工アンカー3を前記既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10に打ち込んで取り付ける方法について図面を参照して説明する。
【0031】
まず、前記既存建物1の外壁1aに、ドリル等を用いて、あと施工アンカー3を設けるための下孔10を穿孔し、穿孔終了後は、吸塵機やブロワー等を使用して下孔10内の切粉を除去する。
そして、下孔10へ接着用樹脂材料4を入れる。ここで、下孔10へ接着用樹脂材料4を入れる工程は、上述したように、接着用樹脂材料4と硬化剤とが混ざらないように分封されたカプセルを下孔10に入れるものとする。接着用樹脂材料4は下孔10全体に満遍なく行き渡るように充填する。
【0032】
次いで、図6に示すように、先端にコーン32が取り付けられているアンカー本体30を下孔10に挿入し、図7に示すように、アンカー本体30を後端側(コーン32が取り付けられている先端とは反対側)から、ハンマー35等の工具を用いて叩打して打ち込んで、下孔最奥部10aにコーン32を当接させるとともに、コーン32に拡張部31を打ち込んで拡張させる(アンカー挿入・打ち込み工程)。結果、コーン32に打ち込まれて拡張された拡張部31が下孔10の孔壁に食い込んで、アンカー本体30が既存建物1の外壁1aに固着される。
ここで、下孔10に挿入するアンカー本体30は、予め前記飛散防止板34を外挿しておいたものである。これにより、アンカー本体30の打ち込み時に、下孔10からの接着用樹脂材料4の飛び出しが生じても、前記飛散防止板34によって、接着用樹脂材料4の飛散を防止できる。なお、この段階では、アンカー本体30に補強スリーブ33は外挿させない。
【0033】
図7および図8において、符号36は、アンカー本体30の外周部に、例えば着色等によって設けられたマーキングである。
このマーキング36は、下孔10へのアンカー本体30の打ち込み量を(埋め込み深さ)が、拡張部31の拡張によるアンカー本体30の前記外壁1aに対する固着力が充分に確保されるところに達した時に、丁度、外壁1aの表面に達する位置に設けられている。下孔10へのアンカー本体30の打ち込みによって、マーキング36が外壁1aに達したら、必要埋め込み長が確保され、拡張部31の拡張による固着力も充分に確保されたことになる。
このマーキング36が、外壁1a表面から離間した位置にあるときは、マーキング36と外壁1a表面との間の距離が、丁度、下孔10に対するアンカー本体30の打ち込み残量を示すことになる。
【0034】
なお、以上の飛散防止板34およびマーキング36は、必ずしも必須ではなく、省略可能である。
【0035】
下孔10は、予めアンカー本体30の必要埋め込み長が確保される穿孔深さで形成しておくことは言うまでもない。
ただし、下孔10の穿孔深さは、下孔10への打ち込みによってアンカー本体30のマーキング36が外壁1aに達したところで必要埋め込み長が確保され、かつ、拡張部31の拡張による固着力も充分に確保されるように設定する。
【0036】
次に、アンカー本体30から飛散防止板34を取り外し、図9に示すように、アンカー本体30の、下孔10から外壁1aの外に突出された後端側から、補強スリーブ33を前記アンカー本体30に外挿し、この補強スリーブ33を前記下孔10に押し込んで挿入する。下孔10への補強スリーブ33の押し込みは、例えば、打ち込み治具(打ち込み用補強スリーブ37)を用い、ハンマー35等の工具で叩打して叩き込む。
ただし、補強スリーブ33は剪断耐力の向上等の点で、あと施工アンカー3の拡張部31から離隔した位置、例えば、下孔10の入り口10bに収納することが好ましい。
拡張部31の拡張後、下孔10に補強スリーブ33を挿入する工程を行うのは、前記接着用樹脂材料4の硬化前であることは言うまでもない。
【0037】
なお、下孔10は、補強スリーブ33が挿入可能な内径を確保して形成しておくことは言うまでもない。ただし、剪断剛性の確保の点では、下穴に圧入された補強スリーブ33が下孔10内面との圧接力によって固定されるように、下孔10内径を補強スリーブ33外径に対応して調整しておくことが好ましい。
【0038】
補強スリーブ33を下孔10に挿入していくと、下孔10内の接着用樹脂材料4の余剰分が、補強スリーブ33の溝33aを通って、下孔10の外、すなわち外壁1aの外に溢れ出してくる。これにより、下孔10への補強スリーブ33の押し込みを円滑に行える。
下孔10への補強スリーブ33の押し込みが完了したら、図10に示すように、外壁1a表面における下孔10の入り口10bおよびその近傍に溜まった接着用樹脂材料4を除去することで、あと施工アンカー3の外壁1aへの取付施工が完了となる(図11)。
なお、図10において、符号40は、余剰分の接着用樹脂材料4を掻き取るための掻き取り治具(スクレーパ)である。
【0039】
そして、下孔10内の接着用樹脂材料4が硬化すると、あと施工アンカー3が接着用樹脂材料4によって外壁1aに強固に固着される。
ここで、あと施工アンカー3は、接着用樹脂材料4が硬化するまで、下孔10内で拡張された拡張部31によって、アンカー本体30の先端側が下孔10の中心軸線上に支持されるとともに、下孔10内に収納された補強スリーブ33によっても下孔10の中心軸線上に支持される。すなわち、拡張部31および補強スリーブ33は、あと施工アンカー3を下孔10の中心軸線上に支持する機能を(姿勢支持機能)果たす。
このため、あと施工アンカー3を横向きに施工する場合に、下孔10内であと施工アンカー3の偏心が生じ難く、あと施工アンカー3を接着用樹脂材料4によって下孔10の中心軸線上となるように固定することも容易である。
【0040】
また、接着用樹脂材料4の硬化による固着力(下孔10内面(微細な凹凸が存在する)に対する接着用樹脂材料4の定着・係合・および接着用樹脂材料4の接着力、によって発生する固着力)のみならず、拡張部31の拡張による外壁1aに対する機械的な固着によって、外壁1aに対してあと施工アンカー3が固定される。
このため、外壁1aに対するあと施工アンカー3の施工完了後に、外壁1aが高温に加熱されることによる接着用樹脂材料4の炭化や、外壁1aにひび割れが生じるなどといった要因によって、接着用樹脂材料4によるあと施工アンカー3の固着力が低下したとしても、外壁1aに固着された拡張部31の固着力や補強スリーブ33の剛性によって、剪断剛性(あと施工アンカー3の外壁1aから突出した後端側部分に、あと施工アンカー3に垂直の方向に作用する変位力に対する耐力)や、耐力(引張り耐力等)を充分に確保することができる。
【0041】
また、あと施工アンカー3の施工作業において、下孔10内の接着用樹脂材料4の硬化が完了する前、つまり接着用樹脂材料4が強度を発現する前であっても、拡張部31の固着力によって、剪断剛性や、耐力(引張り耐力等)を確保できる。このため、あと施工アンカー3は、施工完了後、直ちに、取付物(架構2)の固定に利用できるので、あと施工アンカー3の施工から取付物の固定までの作業時間を大幅に短縮することができる。
【0042】
さらに、拡張部31および補強スリーブ33は、剪断剛性の向上にも寄与する。つまり、金属製の拡張部31および補強スリーブ33は、接着用樹脂材料4に比べて剛性が高いため、施工完了後のあと施工アンカー3に作用する曲げや剪断力が、拡張部31と補強スリーブ33とによって効率良く分散支持されることとなり、あと施工アンカー3の変形や下孔10内での変位を確実に抑えることができ、高い剪断剛性および曲げ耐力を得ることができる。
【0043】
次いで、以上のように取り付けられたあと施工アンカー3を複数用いて、前記既存建物1と前記架構2とを連結する方法について図面を参照して説明する。
【0044】
始めに、図5に示すように、前記既存建物1の外壁1aにおいて、前記架構2の柱20や梁21、ブレース22,22等が設けられるべき位置に、複数の下孔10を穿孔して、これら下孔10に複数のあと施工アンカー3を打ち込んで取り付ける。
【0045】
すなわち、図3〜図5に示すように、前記架構2の梁21や、ブレース22を取り付けるためのブラケット22aや、前記制震装置5のロッド51を受ける受け部51a等が固定される補助柱26の場合は、図5に示すように、複数のあと施工アンカー3を、既存建物1を構成する柱部15の位置に取り付ける。
そして、この補助柱26を既存建物1の柱部15に固定する際は、図12に示すように、まず、補助柱26に、前記あと施工アンカー3に対応する孔26aを複数形成しておき、その後、これら孔26aに前記あと施工アンカー3を挿通するようにして、補助柱26を既存建物1の外壁1aに設け、ナット38によって緊結固定する。
なお、補助柱26と外壁1aとの間にモルタル等のグラウト27を充填することによって、これら補助柱26および外壁1aにおいて充分な固定強度を得ることができる。
【0046】
次に、前記架構2の柱20のうち、図3に示した外階段13側に位置し、既存建物1の外壁1aに固定される柱20aの場合は、図5に示すように、複数のあと施工アンカー3を、既存建物1を構成する梁部16の位置に取り付ける。
そして、これら複数のあと施工アンカー3が取り付けられた位置に、固定板20bを固定し、この固定板20bを介して前記柱20aを外壁1aに設けるようにする。
なお、この柱20aは、既存建物1の壁部17に多く接しているので、この柱20aを既存建物1の外壁1aに対して強固に固定できる部位は既存建物1の梁部16となる。このため、この梁部16には、柱20aを取り付けるためのあと施工アンカー3が他所よりも多く設けられ、外壁1aと柱20aとの間に介在する前記固定板によってより強固に固定できるようになっている。
【0047】
次に、図3中、平面視菱形になるように、既存建物1の外壁1aと架構2の梁21とに固定される複数のブレース25の場合は、図5に示すように、複数のあと施工アンカー3を、既存建物1を構成する梁部16の位置に取り付ける。なお、これら複数のブレース25の場合は、前記複数のあと施工アンカー3を取り付ける位置を既存建物1の梁部16の位置としたが、詳しくは、前記補助柱26と、前記柱20との略中間位置に取り付ける。
そして、これら複数のあと施工アンカー3が取り付けられた位置に、複数のブレース25用のブラケット25aを設けるようにする。
【0048】
一方、図2に示すように、前記補助柱26は、前記架構2の上方だけに設けられた状態となっているので、前記補助柱26が設けられていない部分の外壁1aに、前記架構2の梁21や、ブレース22を取り付けるためのブラケット22aや、前記制震装置5のロッド51を受ける受け部51a等を固定する場合は、複数のあと施工アンカー3を、既存建物1を構成する柱部15の位置に取り付けるようにする。
すなわち、これら架構2の梁21や、ブレース22を取り付けるためのブラケット22aや、前記制震装置5のロッド51を受ける受け部51a等は、前記複数のあと施工アンカー3によって、前記既存建物の外壁1a(柱部15)に連結されている。
なお、図1に示す架構2においても同様に、補助柱26が設けられていない部分は、架構2を構成する複数の梁21や、ブレース22を取り付けるためのブラケット22a等が、複数のあと施工アンカー3によって、既存建物1の外壁1aに連結されている。
【0049】
なお、このように複数のあと施工アンカー3を既存建物1の柱部15や梁部16に沿って設けることによって、あと施工アンカー3を、柱部15や梁部16のない壁部17に取り付けた場合に比して、より高い剪断剛性および曲げ耐力を得ることができるので、既存建物1に対して架構2を強固に固定して構築できる。
【0050】
以上のようにして所定位置に複数のあと施工アンカー3を取り付けた後は、下方から架構2を構築していく。または、下方から架構2を構築しながら、複数のあと施工アンカー3を所定位置に取り付けていくようにしても良い。
なお、架構2を構築する間は、既存建物1を使用しながら耐震補強を行うことができるようになっている。
【0051】
次に、本実施の形態のあと施工アンカー3の性能について、図面を参照して説明する。
図13は、本実施の形態のあと施工アンカー3の剪断剛性について示されており、図14は、接着系のあと施工アンカーの剪断剛性について示されており、図15は、本実施の形態のあと施工アンカー3の引張り耐力について示されている。
【0052】
すなわち、図13は、図示はしないが、例えば本実施の形態のあと施工アンカー3が打ち込まれた本体部と、打ち込まれたあと施工アンカー3に剪断力をかける反力フレームと、この反力フレームに駆動力を付与する駆動部と、変位計等とを備えた剪断試験装置によって、あと施工アンカー3に正負繰り返し剪断試験を行った際の試験結果の一例を表している。
この試験結果によると、本実施の形態のあと施工アンカー3は、繰り返し載荷によっても耐力劣化は少なく、図中の一点鎖線(符号6)で示す初期剪断剛性目標値(50kN/mm)も上回っていることが判明した。
これに対し、図14は、カートリッジ式のあと施工アンカーに正負繰り返し剪断試験を行った際の試験結果の一例を表している。
この試験結果によると、カートリッジ式のあと施工アンカーは、繰り返し載荷による耐力劣化は少ないが、図中の破線(符号7)で示す初期剪断剛性目標値(50kN/mm)を下回っていることが判明した。
これら試験結果を比較してみると、カートリッジ式のあと施工アンカーに比して、本実施の形態のあと施工アンカー3が、より高い剪断剛性を備えていることがわかる。
一方、図15は、本実施の形態のあと施工アンカー3に引張り試験を行った際の試験結果の一例を表している。この試験結果によると、本実施の形態のあと施工アンカー3は、図中の一点鎖線(符号8)で示す初期引張り剛性目標値(300kN/mm)を上回る引張り剛性を確認することができた。
以上の各試験結果からわかるように、本実施の形態のあと施工アンカー3は、高い剪断剛性や引張り耐力等を備えているので、このような性能の高いあと施工アンカー3を用いて既存建物1と架構2とを連結する際に、高い効果を発揮することができる。
【0053】
本実施の形態によれば、既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10に、あと施工アンカー3を固着させるための接着用樹脂材料4が充填されているので、この接着用樹脂材料4が硬化することによって、あと施工アンカー3を既存建物1の外壁1aに対して強固に固着させることができる。
しかも、前記あと施工アンカー3に設けられた拡張部31は、アンカー本体30を下孔最奥部10aに当接させたコーン32に打ち込むことによって、前記下孔最奥部10a内で該下孔10に圧接するように拡張されているので、前記あと施工アンカー3を既存建物1の外壁1aに対して、より強固に固着させることができる。
これによって、従来とは異なり、前記接着用樹脂材料4の硬化によって固着する場合と、前記アンカー本体30に設けられた拡張部31の拡張によって固着する場合との双方の利点を生かすことができるので、高い剪断剛性や引張り耐力等を得ることができ、より性能の高いあと施工アンカー3を得ることができる。
したがって、このような性能の高いあと施工アンカー3を用いて既存建物1と架構2とを連結することによって、これら既存建物1と架構2とが強固に一体化するので、効果的な耐震補強を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施の形態の既存建物の耐震補強構造の一例を示す図である。
【図2】本実施の形態の既存建物の耐震補強構造の一例を示す図である。
【図3】図2に示す既存建物の耐震補強構造の平断面図である。
【図4】架構に制震装置が組み込まれた状態を示す正面図である。
【図5】あと施工アンカーボルトの取付位置を示す側断面図である。
【図6】本実施の形態のあと施工アンカーを示す正面図である。
【図7】図6のあと施工アンカーを既存建物の外壁の下孔に挿入した状態を示す図である。
【図8】図7のあと施工アンカーの拡張部を拡張させて、アンカー本体を既存建物の外壁の固着した状態を示す図である。
【図9】図8のあと施工アンカーに補強スリーブを外挿した状態を示す図である。
【図10】図9の補強スリーブの下孔への挿入を完了した状態を示す図である。
【図11】図6のあと施工アンカーの既存建物の外壁への取り付けを完了した状態を示す図である。
【図12】既存建物の外壁に取り付けられたあと施工アンカーに、架構の一部が取り付けられた状態を示す図である。
【図13】本実施の形態のあと施工アンカーに正負繰り返し剪断試験を行った際の試験結果の一例を示す図である。
【図14】カートリッジ式のあと施工アンカーに正負繰り返し剪断試験を行った際の試験結果の一例を示す図である。
【図15】本実施の形態のあと施工アンカーに引張り試験を行った際の試験結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 既存建物
2 架構
3 あと施工アンカー
4 接着用樹脂材料
5 制振装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の外部に、この既存建物とは独立した架構が構築され、前記既存建物と架構とが、あと施工アンカーを用いて連結された既存建物の耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、旧来の建築基準法に則って設計された建物や、老朽化が懸念される建物等の各種の既存建物に対して、その躯体を補強することにより耐震性を向上させる様々な補強手段が実施されている。
このような補強手段の一例として、既存建築物の外側に、剛性や耐力の高い補強用架構を建築し、この補強用架構をその多数の箇所で既存建築物に緊結する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この補強手段を採用することによって、既存建築物の外側から耐震補強のための工事を行なうことができ、既存建築物の内部に手を加える必要がなく、既存建築物を使用しながら耐震補強を行うことが可能となっている。
【特許文献1】特開平09−203217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述したように補強用架構(以下、架構)をその多数の箇所で既存建築物(以下、既存建物)に緊結する際は、例えば、あと施工アンカーが利用される場合がある。
このあと施工アンカーとしては、母材に穿孔した下孔の孔壁に機械的に固着する金属系の拡張式あと施工アンカーや、母材に穿孔した下孔に充填した接着剤によって物理的に固着する接着系のあと施工アンカー等が知られており、これら金属系の拡張式あと施工アンカーと、接着系あと施工アンカーとでは性能が異なる。
【0004】
すなわち、金属系の拡張式あと施工アンカーは、穿孔径とアンカー外径に多少のすきまが生じる為、剪断剛性が低下する反面、アンカー筋に対する加熱やひび割れ等の要因による性能劣化が少なくなる等の利点がある。
一方、接着系のあと施工アンカーは、地震時の繰り返しに作用する剪断力によりコンクリートにひび割れが生じた場合やアンカー筋に対する加熱により性能劣化する場合がある反面、比較的高い剪断剛性、引張耐力が得られるという利点がある。
【0005】
そこで、これら金属系の拡張式あと施工アンカーおよび接着系あと施工アンカーの双方の利点を生かして、より性能の高いあと施工アンカーを開発し、このようなあと施工アンカーを利用して、既存建物と架構とを連結する技術の開発が望まれていた。
【0006】
本発明の課題は、より性能の高いあと施工アンカーを用いて既存建物と架構とを連結することによって、効果的な耐震補強を行うことが可能な既存建物の耐震補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、例えば図1〜図12に示すように、既存建物1の外部に、この既存建物1とは独立した架構2が構築され、前記既存建物1と前記架構2とが、あと施工アンカー3を用いて連結されており、
前記あと施工アンカー3は、前記既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10に挿入されるアンカー本体30と、このアンカー本体30の先端を筒状に形成した拡張可能な拡張部31と、この拡張部31の内側に嵌め込まれるコーン32とを具備し、
前記下孔10には、この下孔10にあと施工アンカー3を固着させるための接着用樹脂材料4が充填されており、前記拡張部31は、前記アンカー本体30を下孔最奥部10aに当接させたコーン32に打ち込むことによって、前記下孔最奥部10a内で該下孔10に圧接するように拡張されていることを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、前記下孔に、あと施工アンカーを固着させるための接着用樹脂材料が充填されているので、この接着用樹脂材料が硬化することによって、前記あと施工アンカーを既存建物の外壁に対して強固に固着させることができる。
しかも、前記拡張部は、前記アンカー本体を下孔最奥部に当接させたコーンに打ち込むことによって、前記下孔最奥部内で該下孔に圧接するように拡張されているので、前記あと施工アンカーを既存建物の外壁に対して、より強固に固着させることができる。
これによって、従来とは異なり、前記接着用樹脂材料の硬化によって固着する場合と、前記アンカー本体に設けられた拡張部の拡張によって固着する場合との双方の利点を生かすことができるので、高い剪断剛性や引張り耐力等を得ることができ、より性能の高いあと施工アンカーを得ることができる。
したがって、このような性能の高いあと施工アンカーを用いて既存建物と架構とを連結することによって、これら既存建物と架構とが強固に一体化するので、効果的な耐震補強を行うことが可能となる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の既存建物1の耐震補強構造において、例えば図10〜図12に示すように、前記アンカー本体30には、前記下孔10の入り口10bに圧入される補強スリーブ33が外挿されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、前記アンカー本体に外挿された前記補強スリーブが、前記下孔の入り口に圧入されることで、この補強スリーブが前記下孔内面に圧接されるので、前記あと施工アンカーを既存建物の外壁に対して、さらに強固に固着することができる。
また、このように前記補強スリーブが前記下孔内面に圧接されることによって、前記あと施工アンカーを下孔の中心軸線上に偏心なく支持することができるので、あと施工アンカーに取り付けられる取付物を、位置ずれなく正確に取り付けることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の既存建物1の耐震補強構造において、例えば図4に示すように、前記架構2に制震装置5が組み込まれていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、前記架構に制震装置が組み込まれていることから、この制震装置によって、前記架構に作用する地震力を確実に低減できるとともに、前記あと施工アンカーを介して架構と連結された前記既存建物に作用する地震力を確実に低減することができるので、より効果的な耐震補強を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、既存建物の外壁に穿孔された下孔に、あと施工アンカーを固着させるための接着用樹脂材料が充填されているので、この接着用樹脂材料が硬化することによって、あと施工アンカーを既存建物の外壁に対して強固に固着させることができる。
しかも、前記あと施工アンカーに設けられた拡張部は、アンカー本体を下孔最奥部に当接させたコーンに打ち込むことによって、前記下孔最奥部内で該下孔に圧接するように拡張されているので、前記あと施工アンカーを既存建物の外壁に対して、より強固に固着させることができる。
これによって、従来とは異なり、前記接着用樹脂材料の硬化によって固着する場合と、前記アンカー本体に設けられた拡張部の拡張によって固着する場合との双方の利点を生かすことができるので、高い剪断剛性や引張り耐力等を得ることができ、より性能の高いあと施工アンカーを得ることができる。
したがって、このような性能の高いあと施工アンカーを用いて既存建物と架構とを連結することによって、これら既存建物と架構とが強固に一体化するので、効果的な耐震補強を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0015】
本実施の形態における既存建物1の耐震補強構造は、図1〜図12に示すように、既存建物1の外部に、この既存建物1とは独立した架構2が構築され、前記既存建物1と前記架構2とが、あと施工アンカー3を用いて連結されたものであり、前記あと施工アンカー3は、前記既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10に挿入されるアンカー本体30と、このアンカー本体30の先端を筒状に形成した拡張可能な拡張部31と、この拡張部31の内側に嵌め込まれるコーン32とを具備し、前記下孔10には、この下孔10にあと施工アンカー3を固着させるための接着用樹脂材料4が充填されており、前記拡張部31は、前記アンカー本体30を下孔最奥部10aに当接させたコーン32に打ち込むことによって、前記下孔最奥部10a内で該下孔10に圧接するように拡張されている。
【0016】
ここで、本実施の形態の既存建物1は、例えば鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造等の構造からなる建物であり、図1および図2に示すように、複数の階層を備えている。そして、この既存建物1の外壁1aに隣接するようにして前記架構2が構築されている。また、図1に示す架構2は、制震装置5(後述)が組み込まれていない状態のものであり、図2に示す架構2は、制振装置5が組み込まれた状態のものであり、これら架構2は、複数の柱20や梁21、ブレース22,25等の鋼材を備えている。
図2に示す架構2は、図3に示すように、例えば既存建物1のバルコニー11や共用通路12、外階段13等を含む既存建物1の外郭の一部が、他の外郭よりも建物内部側に後退するようにして形成された凹部14を利用して構築されている。
【0017】
さらに、本実施の形態の架構2は、図2に示すように、既存建物1の外壁1aと、地中に埋設された基礎23上に立設される前記柱20との間に前記梁21が架設されている。
そして、上下階の梁21,21間に、下階側の梁21と外壁1aとの交点および下階側の梁21と柱20との交点から、上階側の梁21の中央まで2本のブレース22,22が延出して設けられており、これら2本のブレース22,22どうしの交点に形成されたブレース頭部24に、前記制震装置5が設けられている。
また、図3に示すように、前記架構2には、平面視菱形になるように、既存建物1の外壁1aと架構2の梁21とに固定される複数のブレース25が設けられている。
【0018】
なお、本実施の形態の架構2は、以上のように構成され、立体架構であるとしたが平面架構でも良く、さらに、図1と図2とを比較して明らかであるように、複数の柱20や梁21、ブレース22等の配置構成においても本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0019】
本実施の形態の制震装置5は、図4に示すように、前記ブレース頭部24に固定されるシリンダー50と、受け部51aを介して前記既存建物1の外壁1aに固定されるロッド51とを備えた高減衰オイルダンパーであり、前記シリンダー50内に設けた調圧弁(図示せず)を通過する作動油(図示せず)の流体抵抗によって必要な減衰力を発生させるものである。
【0020】
なお、本実施の形態の制震装置5は高減衰オイルダンパーとしたが、これに限られるものではなく、例えば鋼材が弾性限界以上に変形する際のエネルギー吸収を利用する弾塑性ダンパー等でも良く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
また、前記制震装置5は、その制震機能が確実に発揮されるのであれば、図2に示すように、制震装置5を組み込んだ架構2を最上階の高さまで構築する必要はなく、さらに組み込む制震装置5の数量も、前記ブレース頭部24に対して1つの制震装置5を設けたり、2つの制震装置5,5を設けたり等、適宜変更可能である。
【0021】
そして、このように前記架構2に制震装置5が組み込まれていることから、この制震装置5によって、前記架構2に作用する地震力を確実に低減できるとともに、前記あと施工アンカー3を介して架構2と連結された前記既存建物1に作用する地震力を確実に低減することができるので、効果的な耐震補強を行うことが可能となる。
【0022】
一方、前記あと施工アンカー3は、図6に示すように、前記既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10に挿入されるアンカー本体30と、このアンカー本体30の先端を筒状に形成した拡張可能な拡張部31と、この拡張部31の内側に嵌め込まれるコーン32とを具備している。
なお、これらアンカー本体30と、拡張部31と、コーン32とは、例えば鉄等の金属製のものを用いるが、材質はこれに限定されない。また、前記アンカー本体30は、図示例では、全ねじボルトを例示しているが、例えば、異形棒鋼等であっても良い。
また、前記アンカー本体30には、前記下孔10の入り口10bに圧入される補強スリーブ33(後述する)が外挿されるとともに、接着用樹脂材料4の飛散を防止する飛散防止板34(後述する)が取り付けられる。
【0023】
前記アンカー本体30は、例えば、JIS G 4107(SNB7)相当材の鋼製のものを採用することが好ましい。この場合、図7および図8に示すように、あと施工アンカー3を、既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10に挿入し、前記アンカー本体30を、下孔最奥部10aに当接させたコーン32に打ち込んで拡張部31を拡張する際に、拡張部31の先端が前記下孔10の孔壁を削り取りながら、拡張部31が拡張するようになる。これにより、拡張部31が下孔10の孔壁に食い込むようになり、従来の接着系のあと施工アンカーに比べて引張り耐力(引き抜き耐力)が向上する。
従来から、例えば金属系の拡張式あと施工アンカーでは、JIS G 3101(SS400。一般構造用圧延鋼材)相当材で形成したものが広く採用されているが、JIS G 3101(SS400)相当材は、一般に、上述のJIS G 4107(SNB7)相当材に比べて強度が劣る。JIS G 3101(SS400)相当材で形成した金属系の拡張式あと施工アンカーの場合は、拡張部31を拡張した際に、孔壁に押圧された拡張部31に曲げ変形が生じて、孔壁への食い込み量が必ずしも大きくならない。これに対して、JIS G 4107(SNB7)相当材で形成したアンカー本体30の拡張部31は、コーン32への打込みによる拡張によって、拡張部31の先端が前記下孔10の孔壁を削り取りながら拡張するため、拡張部31が下孔10の孔壁に確実に食い込むようになり、高い引張り耐力(引き抜き耐力)を確実に得られる。
なお、このアンカー本体30の他、コーン32、補強スリーブ33も、JIS G 4107(SNB7)相当材で形成したものを採用できることは言うまでもない。
【0024】
前記拡張部31は、図6に示すように、内側にコーン収納穴31aを有する筒状に形成され、しかも、割り31bによって複数に分割されている。この拡張部31の割り31bは、前記コーン32にアンカー本体30を打ち込む際に、拡張部31を拡張しやすくするためのものである。
コーン収納穴31aには、コーン32の一部が収納される。コーン32は、一部がコーン収納穴31aに嵌め込まれた状態で、アンカー本体30の先端に突出状態に取り付けられている。
【0025】
前記コーン32は、上述のように前記拡張部31を拡張させるためのものであり、紡錘形に形成されている。つまり、前記アンカー本体30がコーン32に打ち込まれることによって、前記拡張部31がコーン32外面に沿って拡張するようになっている。なお、このコーン32の形状は、拡張部31を拡張可能なものであれば良く、上述の紡錘形に限定されない。
【0026】
前記補強スリーブ33は、軸方向両端部が開口しているとともに、外周面に、連続する螺旋状の溝33aが形成されている。この溝33aは、補強スリーブ33を下孔10の入り口10bに圧入した際に、下孔10内から押し出される余剰分の接着用樹脂材料4を通過させて、下孔10から外に排出させる役割を果たす。
そして、このように前記アンカー本体30に外挿された前記補強スリーブ33が、前記下孔10の入り口10bに圧入されることで、この補強スリーブ33が前記下孔10内面に圧接されるので、前記あと施工アンカー3を既存建物1の外壁1aに対して、さらに強固に固着することができる。
また、このように前記補強スリーブ33が前記下孔10内面に圧接されることによって、前記あと施工アンカー3を下孔10の中心軸線上に偏心なく支持することができるので、あと施工アンカー3に取り付けられる取付物を、位置ずれなく正確に取り付けることができるようになっている。
【0027】
なお、前記溝33aは、補強スリーブ33の外周面でなく、補強スリーブ33の内周面に形成しても良く、外周面と内周面の両方に形成しても良い。
また、前記溝33aの形状は、上述した螺旋状に限定されない。この溝33aは、余剰分の接着樹脂材料を補強スリーブ33の軸方向に通過させるものとして機能するものであれば良く、例えば、補強スリーブ33の軸方向に沿って延在するストレート溝であっても良い。
ただし、前記溝33aは、補強スリーブ33の外周面および内周面のうち、外周面に形成するほうが、接着用樹脂材料4による外壁1aとあと施工アンカー3との固着力(下孔10内面(微細な凹凸が存在する)に対する接着用樹脂材料4の定着・係合・および接着用樹脂材料4の接着力、によって発生する固着力)の向上の点で好ましく、また、前記固着力の向上の点では、螺旋状(螺旋溝)に形成することがストレート溝よりも好ましい。
なお、アンカー本体30として、全ねじボルトを採用している場合、アンカー本体30の外周面のねじ溝30aに入りこんだ接着用樹脂材料4によって、アンカー本体30と補強スリーブ33との間の固着力が確保される、といった利点もある。ねじ溝30aは、余剰分の接着樹脂材料を排出するものとして機能させることも可能である。
【0028】
前記接着用樹脂材料4は、例えば、不飽和ポリエステル樹脂やエポキシアクリレート樹脂等のラジカル重合性オリゴマーの他、不飽和ポリエステルアクリレートや飽和ポリエステルアクリレート等、様々な種類のものが挙げられる。
このような接着用樹脂材料4は、カプセル内(図示せず)に封入される。この時、カプセル内には硬化剤(図示せず)も封入されるが、これら接着用樹脂材料4と硬化剤とが混ざらないように分封されている。必要に応じて骨材(図示せず)等が充填されていても良い。なお、接着用樹脂材料4の使用時は、前記既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10内部に前記カプセルを入れ、アンカー本体30を装入することによりカプセルを破砕させ、中身の接着用樹脂材料4と硬化剤とを混合して硬化反応を起こさせるようにして使用する。
なお、このようなカプセル式の使用方法の他にも、カートリッジ式(図示せず)と称されるもの等が知られている。カートリッジ式とは、接着用樹脂材料4と硬化剤とが別々の充填部に充填されて一体化されたものであり、先端に先細ノズルを装着してディスペンサーに取り付けて中身を押し出すことで、ノズル内で接着用樹脂材料4と硬化剤とを混合し、これを下孔10内に注入して硬化させる、というものである。
本実施の形態においては、前者のカプセル式が採用されるが、後者のカートリッジ式でも良く、また、その他の使用方法を採用しても良い。
【0029】
また、前記飛散防止板34は、リング状であり、図7および図8に示すように、中央部を貫通する孔34aをアンカー本体30に通すことによって、アンカー本体30に外挿して設けられる。
この飛散防止板34は、前記外壁1aの表面側から前記下孔10の入り口10b(詳細には、アンカー本体30と下孔10内周面との間の隙間)を覆うように設けられることで、例えば、下孔10へのアンカー本体30の打ち込み時に下孔10から溢れ出す余剰分の接着用樹脂材料4の飛散を防止する。
【0030】
次に、前記あと施工アンカー3を前記既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10に打ち込んで取り付ける方法について図面を参照して説明する。
【0031】
まず、前記既存建物1の外壁1aに、ドリル等を用いて、あと施工アンカー3を設けるための下孔10を穿孔し、穿孔終了後は、吸塵機やブロワー等を使用して下孔10内の切粉を除去する。
そして、下孔10へ接着用樹脂材料4を入れる。ここで、下孔10へ接着用樹脂材料4を入れる工程は、上述したように、接着用樹脂材料4と硬化剤とが混ざらないように分封されたカプセルを下孔10に入れるものとする。接着用樹脂材料4は下孔10全体に満遍なく行き渡るように充填する。
【0032】
次いで、図6に示すように、先端にコーン32が取り付けられているアンカー本体30を下孔10に挿入し、図7に示すように、アンカー本体30を後端側(コーン32が取り付けられている先端とは反対側)から、ハンマー35等の工具を用いて叩打して打ち込んで、下孔最奥部10aにコーン32を当接させるとともに、コーン32に拡張部31を打ち込んで拡張させる(アンカー挿入・打ち込み工程)。結果、コーン32に打ち込まれて拡張された拡張部31が下孔10の孔壁に食い込んで、アンカー本体30が既存建物1の外壁1aに固着される。
ここで、下孔10に挿入するアンカー本体30は、予め前記飛散防止板34を外挿しておいたものである。これにより、アンカー本体30の打ち込み時に、下孔10からの接着用樹脂材料4の飛び出しが生じても、前記飛散防止板34によって、接着用樹脂材料4の飛散を防止できる。なお、この段階では、アンカー本体30に補強スリーブ33は外挿させない。
【0033】
図7および図8において、符号36は、アンカー本体30の外周部に、例えば着色等によって設けられたマーキングである。
このマーキング36は、下孔10へのアンカー本体30の打ち込み量を(埋め込み深さ)が、拡張部31の拡張によるアンカー本体30の前記外壁1aに対する固着力が充分に確保されるところに達した時に、丁度、外壁1aの表面に達する位置に設けられている。下孔10へのアンカー本体30の打ち込みによって、マーキング36が外壁1aに達したら、必要埋め込み長が確保され、拡張部31の拡張による固着力も充分に確保されたことになる。
このマーキング36が、外壁1a表面から離間した位置にあるときは、マーキング36と外壁1a表面との間の距離が、丁度、下孔10に対するアンカー本体30の打ち込み残量を示すことになる。
【0034】
なお、以上の飛散防止板34およびマーキング36は、必ずしも必須ではなく、省略可能である。
【0035】
下孔10は、予めアンカー本体30の必要埋め込み長が確保される穿孔深さで形成しておくことは言うまでもない。
ただし、下孔10の穿孔深さは、下孔10への打ち込みによってアンカー本体30のマーキング36が外壁1aに達したところで必要埋め込み長が確保され、かつ、拡張部31の拡張による固着力も充分に確保されるように設定する。
【0036】
次に、アンカー本体30から飛散防止板34を取り外し、図9に示すように、アンカー本体30の、下孔10から外壁1aの外に突出された後端側から、補強スリーブ33を前記アンカー本体30に外挿し、この補強スリーブ33を前記下孔10に押し込んで挿入する。下孔10への補強スリーブ33の押し込みは、例えば、打ち込み治具(打ち込み用補強スリーブ37)を用い、ハンマー35等の工具で叩打して叩き込む。
ただし、補強スリーブ33は剪断耐力の向上等の点で、あと施工アンカー3の拡張部31から離隔した位置、例えば、下孔10の入り口10bに収納することが好ましい。
拡張部31の拡張後、下孔10に補強スリーブ33を挿入する工程を行うのは、前記接着用樹脂材料4の硬化前であることは言うまでもない。
【0037】
なお、下孔10は、補強スリーブ33が挿入可能な内径を確保して形成しておくことは言うまでもない。ただし、剪断剛性の確保の点では、下穴に圧入された補強スリーブ33が下孔10内面との圧接力によって固定されるように、下孔10内径を補強スリーブ33外径に対応して調整しておくことが好ましい。
【0038】
補強スリーブ33を下孔10に挿入していくと、下孔10内の接着用樹脂材料4の余剰分が、補強スリーブ33の溝33aを通って、下孔10の外、すなわち外壁1aの外に溢れ出してくる。これにより、下孔10への補強スリーブ33の押し込みを円滑に行える。
下孔10への補強スリーブ33の押し込みが完了したら、図10に示すように、外壁1a表面における下孔10の入り口10bおよびその近傍に溜まった接着用樹脂材料4を除去することで、あと施工アンカー3の外壁1aへの取付施工が完了となる(図11)。
なお、図10において、符号40は、余剰分の接着用樹脂材料4を掻き取るための掻き取り治具(スクレーパ)である。
【0039】
そして、下孔10内の接着用樹脂材料4が硬化すると、あと施工アンカー3が接着用樹脂材料4によって外壁1aに強固に固着される。
ここで、あと施工アンカー3は、接着用樹脂材料4が硬化するまで、下孔10内で拡張された拡張部31によって、アンカー本体30の先端側が下孔10の中心軸線上に支持されるとともに、下孔10内に収納された補強スリーブ33によっても下孔10の中心軸線上に支持される。すなわち、拡張部31および補強スリーブ33は、あと施工アンカー3を下孔10の中心軸線上に支持する機能を(姿勢支持機能)果たす。
このため、あと施工アンカー3を横向きに施工する場合に、下孔10内であと施工アンカー3の偏心が生じ難く、あと施工アンカー3を接着用樹脂材料4によって下孔10の中心軸線上となるように固定することも容易である。
【0040】
また、接着用樹脂材料4の硬化による固着力(下孔10内面(微細な凹凸が存在する)に対する接着用樹脂材料4の定着・係合・および接着用樹脂材料4の接着力、によって発生する固着力)のみならず、拡張部31の拡張による外壁1aに対する機械的な固着によって、外壁1aに対してあと施工アンカー3が固定される。
このため、外壁1aに対するあと施工アンカー3の施工完了後に、外壁1aが高温に加熱されることによる接着用樹脂材料4の炭化や、外壁1aにひび割れが生じるなどといった要因によって、接着用樹脂材料4によるあと施工アンカー3の固着力が低下したとしても、外壁1aに固着された拡張部31の固着力や補強スリーブ33の剛性によって、剪断剛性(あと施工アンカー3の外壁1aから突出した後端側部分に、あと施工アンカー3に垂直の方向に作用する変位力に対する耐力)や、耐力(引張り耐力等)を充分に確保することができる。
【0041】
また、あと施工アンカー3の施工作業において、下孔10内の接着用樹脂材料4の硬化が完了する前、つまり接着用樹脂材料4が強度を発現する前であっても、拡張部31の固着力によって、剪断剛性や、耐力(引張り耐力等)を確保できる。このため、あと施工アンカー3は、施工完了後、直ちに、取付物(架構2)の固定に利用できるので、あと施工アンカー3の施工から取付物の固定までの作業時間を大幅に短縮することができる。
【0042】
さらに、拡張部31および補強スリーブ33は、剪断剛性の向上にも寄与する。つまり、金属製の拡張部31および補強スリーブ33は、接着用樹脂材料4に比べて剛性が高いため、施工完了後のあと施工アンカー3に作用する曲げや剪断力が、拡張部31と補強スリーブ33とによって効率良く分散支持されることとなり、あと施工アンカー3の変形や下孔10内での変位を確実に抑えることができ、高い剪断剛性および曲げ耐力を得ることができる。
【0043】
次いで、以上のように取り付けられたあと施工アンカー3を複数用いて、前記既存建物1と前記架構2とを連結する方法について図面を参照して説明する。
【0044】
始めに、図5に示すように、前記既存建物1の外壁1aにおいて、前記架構2の柱20や梁21、ブレース22,22等が設けられるべき位置に、複数の下孔10を穿孔して、これら下孔10に複数のあと施工アンカー3を打ち込んで取り付ける。
【0045】
すなわち、図3〜図5に示すように、前記架構2の梁21や、ブレース22を取り付けるためのブラケット22aや、前記制震装置5のロッド51を受ける受け部51a等が固定される補助柱26の場合は、図5に示すように、複数のあと施工アンカー3を、既存建物1を構成する柱部15の位置に取り付ける。
そして、この補助柱26を既存建物1の柱部15に固定する際は、図12に示すように、まず、補助柱26に、前記あと施工アンカー3に対応する孔26aを複数形成しておき、その後、これら孔26aに前記あと施工アンカー3を挿通するようにして、補助柱26を既存建物1の外壁1aに設け、ナット38によって緊結固定する。
なお、補助柱26と外壁1aとの間にモルタル等のグラウト27を充填することによって、これら補助柱26および外壁1aにおいて充分な固定強度を得ることができる。
【0046】
次に、前記架構2の柱20のうち、図3に示した外階段13側に位置し、既存建物1の外壁1aに固定される柱20aの場合は、図5に示すように、複数のあと施工アンカー3を、既存建物1を構成する梁部16の位置に取り付ける。
そして、これら複数のあと施工アンカー3が取り付けられた位置に、固定板20bを固定し、この固定板20bを介して前記柱20aを外壁1aに設けるようにする。
なお、この柱20aは、既存建物1の壁部17に多く接しているので、この柱20aを既存建物1の外壁1aに対して強固に固定できる部位は既存建物1の梁部16となる。このため、この梁部16には、柱20aを取り付けるためのあと施工アンカー3が他所よりも多く設けられ、外壁1aと柱20aとの間に介在する前記固定板によってより強固に固定できるようになっている。
【0047】
次に、図3中、平面視菱形になるように、既存建物1の外壁1aと架構2の梁21とに固定される複数のブレース25の場合は、図5に示すように、複数のあと施工アンカー3を、既存建物1を構成する梁部16の位置に取り付ける。なお、これら複数のブレース25の場合は、前記複数のあと施工アンカー3を取り付ける位置を既存建物1の梁部16の位置としたが、詳しくは、前記補助柱26と、前記柱20との略中間位置に取り付ける。
そして、これら複数のあと施工アンカー3が取り付けられた位置に、複数のブレース25用のブラケット25aを設けるようにする。
【0048】
一方、図2に示すように、前記補助柱26は、前記架構2の上方だけに設けられた状態となっているので、前記補助柱26が設けられていない部分の外壁1aに、前記架構2の梁21や、ブレース22を取り付けるためのブラケット22aや、前記制震装置5のロッド51を受ける受け部51a等を固定する場合は、複数のあと施工アンカー3を、既存建物1を構成する柱部15の位置に取り付けるようにする。
すなわち、これら架構2の梁21や、ブレース22を取り付けるためのブラケット22aや、前記制震装置5のロッド51を受ける受け部51a等は、前記複数のあと施工アンカー3によって、前記既存建物の外壁1a(柱部15)に連結されている。
なお、図1に示す架構2においても同様に、補助柱26が設けられていない部分は、架構2を構成する複数の梁21や、ブレース22を取り付けるためのブラケット22a等が、複数のあと施工アンカー3によって、既存建物1の外壁1aに連結されている。
【0049】
なお、このように複数のあと施工アンカー3を既存建物1の柱部15や梁部16に沿って設けることによって、あと施工アンカー3を、柱部15や梁部16のない壁部17に取り付けた場合に比して、より高い剪断剛性および曲げ耐力を得ることができるので、既存建物1に対して架構2を強固に固定して構築できる。
【0050】
以上のようにして所定位置に複数のあと施工アンカー3を取り付けた後は、下方から架構2を構築していく。または、下方から架構2を構築しながら、複数のあと施工アンカー3を所定位置に取り付けていくようにしても良い。
なお、架構2を構築する間は、既存建物1を使用しながら耐震補強を行うことができるようになっている。
【0051】
次に、本実施の形態のあと施工アンカー3の性能について、図面を参照して説明する。
図13は、本実施の形態のあと施工アンカー3の剪断剛性について示されており、図14は、接着系のあと施工アンカーの剪断剛性について示されており、図15は、本実施の形態のあと施工アンカー3の引張り耐力について示されている。
【0052】
すなわち、図13は、図示はしないが、例えば本実施の形態のあと施工アンカー3が打ち込まれた本体部と、打ち込まれたあと施工アンカー3に剪断力をかける反力フレームと、この反力フレームに駆動力を付与する駆動部と、変位計等とを備えた剪断試験装置によって、あと施工アンカー3に正負繰り返し剪断試験を行った際の試験結果の一例を表している。
この試験結果によると、本実施の形態のあと施工アンカー3は、繰り返し載荷によっても耐力劣化は少なく、図中の一点鎖線(符号6)で示す初期剪断剛性目標値(50kN/mm)も上回っていることが判明した。
これに対し、図14は、カートリッジ式のあと施工アンカーに正負繰り返し剪断試験を行った際の試験結果の一例を表している。
この試験結果によると、カートリッジ式のあと施工アンカーは、繰り返し載荷による耐力劣化は少ないが、図中の破線(符号7)で示す初期剪断剛性目標値(50kN/mm)を下回っていることが判明した。
これら試験結果を比較してみると、カートリッジ式のあと施工アンカーに比して、本実施の形態のあと施工アンカー3が、より高い剪断剛性を備えていることがわかる。
一方、図15は、本実施の形態のあと施工アンカー3に引張り試験を行った際の試験結果の一例を表している。この試験結果によると、本実施の形態のあと施工アンカー3は、図中の一点鎖線(符号8)で示す初期引張り剛性目標値(300kN/mm)を上回る引張り剛性を確認することができた。
以上の各試験結果からわかるように、本実施の形態のあと施工アンカー3は、高い剪断剛性や引張り耐力等を備えているので、このような性能の高いあと施工アンカー3を用いて既存建物1と架構2とを連結する際に、高い効果を発揮することができる。
【0053】
本実施の形態によれば、既存建物1の外壁1aに穿孔された下孔10に、あと施工アンカー3を固着させるための接着用樹脂材料4が充填されているので、この接着用樹脂材料4が硬化することによって、あと施工アンカー3を既存建物1の外壁1aに対して強固に固着させることができる。
しかも、前記あと施工アンカー3に設けられた拡張部31は、アンカー本体30を下孔最奥部10aに当接させたコーン32に打ち込むことによって、前記下孔最奥部10a内で該下孔10に圧接するように拡張されているので、前記あと施工アンカー3を既存建物1の外壁1aに対して、より強固に固着させることができる。
これによって、従来とは異なり、前記接着用樹脂材料4の硬化によって固着する場合と、前記アンカー本体30に設けられた拡張部31の拡張によって固着する場合との双方の利点を生かすことができるので、高い剪断剛性や引張り耐力等を得ることができ、より性能の高いあと施工アンカー3を得ることができる。
したがって、このような性能の高いあと施工アンカー3を用いて既存建物1と架構2とを連結することによって、これら既存建物1と架構2とが強固に一体化するので、効果的な耐震補強を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施の形態の既存建物の耐震補強構造の一例を示す図である。
【図2】本実施の形態の既存建物の耐震補強構造の一例を示す図である。
【図3】図2に示す既存建物の耐震補強構造の平断面図である。
【図4】架構に制震装置が組み込まれた状態を示す正面図である。
【図5】あと施工アンカーボルトの取付位置を示す側断面図である。
【図6】本実施の形態のあと施工アンカーを示す正面図である。
【図7】図6のあと施工アンカーを既存建物の外壁の下孔に挿入した状態を示す図である。
【図8】図7のあと施工アンカーの拡張部を拡張させて、アンカー本体を既存建物の外壁の固着した状態を示す図である。
【図9】図8のあと施工アンカーに補強スリーブを外挿した状態を示す図である。
【図10】図9の補強スリーブの下孔への挿入を完了した状態を示す図である。
【図11】図6のあと施工アンカーの既存建物の外壁への取り付けを完了した状態を示す図である。
【図12】既存建物の外壁に取り付けられたあと施工アンカーに、架構の一部が取り付けられた状態を示す図である。
【図13】本実施の形態のあと施工アンカーに正負繰り返し剪断試験を行った際の試験結果の一例を示す図である。
【図14】カートリッジ式のあと施工アンカーに正負繰り返し剪断試験を行った際の試験結果の一例を示す図である。
【図15】本実施の形態のあと施工アンカーに引張り試験を行った際の試験結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 既存建物
2 架構
3 あと施工アンカー
4 接着用樹脂材料
5 制振装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の外部に、この既存建物とは独立した架構が構築され、前記既存建物と前記架構とが、あと施工アンカーを用いて連結されており、
前記あと施工アンカーは、前記既存建物の外壁に穿孔された下孔に挿入されるアンカー本体と、このアンカー本体の先端を筒状に形成した拡張可能な拡張部と、この拡張部の内側に嵌め込まれるコーンとを具備し、
前記下孔には、この下孔にあと施工アンカーを固着させるための接着用樹脂材料が充填されており、前記拡張部は、前記アンカー本体を下孔最奥部に当接させたコーンに打ち込むことによって、前記下孔最奥部内で該下孔に圧接するように拡張されていることを特徴とする既存建物の耐震補強構造。
【請求項2】
前記アンカー本体には、前記下孔の入り口に圧入される補強スリーブが外挿されていることを特徴とする請求項1に記載の既存建物の耐震補強構造。
【請求項3】
前記架構に制震装置が組み込まれていることを特徴とする請求項1または2に記載の既存建物の耐震補強構造。
【請求項1】
既存建物の外部に、この既存建物とは独立した架構が構築され、前記既存建物と前記架構とが、あと施工アンカーを用いて連結されており、
前記あと施工アンカーは、前記既存建物の外壁に穿孔された下孔に挿入されるアンカー本体と、このアンカー本体の先端を筒状に形成した拡張可能な拡張部と、この拡張部の内側に嵌め込まれるコーンとを具備し、
前記下孔には、この下孔にあと施工アンカーを固着させるための接着用樹脂材料が充填されており、前記拡張部は、前記アンカー本体を下孔最奥部に当接させたコーンに打ち込むことによって、前記下孔最奥部内で該下孔に圧接するように拡張されていることを特徴とする既存建物の耐震補強構造。
【請求項2】
前記アンカー本体には、前記下孔の入り口に圧入される補強スリーブが外挿されていることを特徴とする請求項1に記載の既存建物の耐震補強構造。
【請求項3】
前記架構に制震装置が組み込まれていることを特徴とする請求項1または2に記載の既存建物の耐震補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−332555(P2007−332555A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162334(P2006−162334)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(390022389)サンコーテクノ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(390022389)サンコーテクノ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】
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