説明

既存建物の解体工法

【課題】作業性を向上させて工期を大幅に短縮できる既存建物の解体工法を提供する。
【解決手段】既存建物11の解体工法であって、該既存建物11の地上部分1の解体時に、地下部分17の既存外壁部16から内側へ所定の間隔を開けた位置に仮設土圧壁14を構築し、該仮設土圧壁14と既存外壁部16との間に埋戻し土15を充填して、土圧を既存外壁部16から仮設土圧壁14に受け替え、既存建物11の地下部分17の解体時に、新築地下外壁部の地中障害物27撤去工事を行うことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の解体工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の既存建物の解体工法としては、次のような解体工法が知られている。即ち、図9(イ)(ロ)に示すように、先ず既存建物11の地上部分12を解体してから、地下部分1の既存外壁部2が自立できる範囲3を解体せずに存置させて、当該範囲3よりも中央部側の構造物4を解体する。
その後、GL(ground line)まで全面的に埋戻してから、新築地下外壁部の地中障害物撤去工事を行い、山留め工事を行う。
【0003】
なお、特開2000−204574号公報には、既設の地下外壁部を解体しつつ新たな地下構造物を構築できるようにした地下構造物の改築方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−204574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来例の解体工法においては、既存外壁部2が自立できる範囲3を解体せずに存置させるので、解体できる範囲が制限されることとなり、結果的に工期が長く掛かるという問題点を有している。
【0006】
また、中央部側の構造物4を解体してから、GLまで全面的に埋戻して、その後に新築地下外壁部の地中障害物撤去工事等を行うので、これも工期が長く掛かることとなる。
【0007】
このことから、従来例における解体工法においては、作業性を向上させて工期を短縮することに解決しなければならない課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、既存建物の解体工法であって、該既存建物の地上部分の解体時に、地下部分の既存外壁部から内側へ所定の間隔を開けた位置に仮設土圧壁を構築し、該仮設土圧壁と前記既存外壁部との間に埋戻し土を充填して、土圧を前記既存外壁部から前記仮設土圧壁に受け替え、前記既存建物の地下部分の解体時に、新築地下外壁部の地中障害物撤去工事を行うことである。
【0009】
また、前記仮設土圧壁の構築及び埋戻し土の充填は、最下階から上階に沿って順次各階毎に行うこと、;
前記埋戻し土の充填は、各階の上部スラブの一部を解体して、当該解体孔から行うこと、;
前記仮設土圧壁には、補強用の控え壁を設けること、;
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る既存建物の解体工法によれば、地中の土圧を既存外壁部から仮設土圧壁に受け替えたので、当該既存外壁部の自立を可能にし、従来例のようにGLまでの埋戻しを行わなくても新築地下外壁部の地中障害物撤去工事を行えることとなり、工期の大幅な短縮が図れるという優れた効果を奏する。
【0011】
また、仮設土圧壁の構築及び埋戻し土の充填は、最下階から上階に沿って順次各階毎に行うと共に、埋戻し土の充填は、各階の上部スラブの一部を解体して、当該解体孔から行うことによって、各階の埋戻し土の充填性が高まり、外壁部からの土圧をしっかりと受けることができるという優れた効果を奏する。
【0012】
そして、仮設土圧壁には、補強用の控え壁を設けることによって、仮設土圧壁の強度が向上するという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】仮設土圧壁14の構築を説明する既存建物11の断面図である。
【図2】(イ)地中障害物27の撤去工事を説明する既存建物11の断面図である。(ロ)本発明に係る既存建物11の解体工法を説明するフローチャート図である。
【図3】連続壁28の工事を説明する断面図である。
【図4】仮設土圧壁14の横断面図である。
【図5】仮設土圧壁14及び既存スラブ21の縦断面図である。
【図6】外壁部16及び仮設土圧壁14の縦断面図である。
【図7】各階における外壁部16及び仮設土圧壁14の縦断面図である。
【図8】図6のA−A線断面図である。
【図9】(イ)従来例の解体工法を説明する既存建物11の断面図である。(ロ)従来例の解体工法の作業手順を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
既存建物を解体するに際して、工期を短縮するという目的を、地中の土圧を既存外壁部から仮設土圧壁に受け替えて、当該既存外壁部の自立を可能にし、従来例のようにGLまでの埋戻しを行わなくても新築地下外壁部の地中障害物撤去工事を行えるようにしたことにより実現した。
【0015】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。まず、図1は、既存建物11の断面図であって、この既存建物11の地上部分12の解体時に、地下部分17の既存外壁部16から内側へ所定の間隔を開けた位置に仮設土圧壁14を構築する(図2(ロ)参照)。
【0016】
そして、仮設土圧壁14と既存外壁部16との間に埋戻し土15を充填して、土圧を既存外壁部16から仮設土圧壁14に受け替え、既存外壁部14の自立を可能にする。
【0017】
地上部分12の解体完了後には、図2(イ)に示すように、地下部分17の解体を行うと共に、新築地下外壁部の地中障害物27の撤去工事を行う(図2(ロ)参照)。この場合、上記のように既存外壁部16の自立が可能であり、GLまでの埋戻しを行わなくても地中障害物27の撤去工事が行える。
【0018】
地中障害物27の撤去工事の終了後は、図3に示すように、当該部位の埋戻し13が完了後に連続壁28の工事(山留め工事)に着手する(図2(ロ)参照)。即ち、重機の搬入後、オーガで掘削を行い、セメントミルクを投入し、H鋼を打ち込み、連続壁28の形成等の工程を行い、更には、逆打ち工法で新規の建物を構築する。
【0019】
次に、仮設土圧壁14及び控え壁14aの構築方法について説明する。既存外壁部16から所定の間隔を開けた位置に、図4及び図5に示すように、鉄筋19を配筋して、型枠20を設置する。既存外壁部16から仮設土圧壁14の間隔は、一例を上げると100〜200cm程度である。
【0020】
上部の既存スラブ21には、コア抜きして貫通孔22を設け、この貫通孔22に鉄筋23を挿通させて、この鉄筋23を下階の鉄筋24と上階の鉄筋25とにジョイントさせる(図5参照)。このように構成することにより、アンカーコストが低減できるだけでなく、貫通孔22がコンクリート打設時に空気抜き孔としての役目を果たすので、コンクリートの充填性を向上させることができる。そして、貫通孔29からコンクリートを打設して、仮設土圧壁14及び控え壁14aを構築する。
【0021】
次に、図6に示すように、上部スラブ18の一部を解体して解体孔26を形成し、この解体孔26から埋戻し土15を充填する。埋戻し土15は、具体的には、土とセメントを混合した流動化処理土、又は良質な埋戻し用の土を用いる。
【0022】
上記の仮設土圧壁14及び控え壁14aの構築作業と、埋戻し土15の充填作業とを、最下階から上階に沿って順次各階毎に行う。最下階から地下1階まで、連続した状態で仮設土圧壁14及び控え壁14aの構築と埋戻し土15の充填とがなされて(図7参照)、仮設土圧壁14が既存外壁部16からの土圧をしっかりと受けることができる。
【0023】
また、図8に示すように、仮設土圧壁14には、所定の間隔を開けて補強用の控え壁14aが形成されるので、仮設土圧壁14の強度が向上することとなる。
【0024】
以上のように、既存建物11の解体工法は、仮設土圧壁14を構築して地中の土圧を既存外壁部16から仮設土圧壁14に受け替えたので、当該既存外壁部16の自立が可能であり、GLまでの埋戻しを行わなくても新築地下外壁部の地中障害物撤去工事を行えることとなり、工期の大幅な短縮が図れるのである。
【符号の説明】
【0025】
1 地下部分
2 既存外壁部
3 自立できる範囲
4 中央部側の構造物
11 既存建物
12 地上部分
13 埋戻し
14 仮設土圧壁
14a控え壁
15 埋戻し土
16 既設外壁部
17 地下部分
18 上部スラブ
19 鉄筋
20 型枠
21 既存スラブ
22 貫通孔
23、24、25 鉄筋
26 解体孔
27 地中障害物
28 連続壁
29 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の解体工法であって、
該既存建物の地上部分の解体時に、地下部分の既存外壁部から内側へ所定の間隔を開けた位置に仮設土圧壁を構築し、
該仮設土圧壁と前記既存外壁部との間に埋戻し土を充填して、土圧を前記既存外壁部から前記仮設土圧壁に受け替え、
前記既存建物の地下部分の解体時に、新築地下外壁部の地中障害物撤去工事を行うこと
を特徴とする既存建物の解体工法。
【請求項2】
仮設土圧壁の構築及び埋戻し土の充填は、最下階から上階に沿って順次各階毎に行うこと
を特徴とする請求項1に記載の既存建物の解体工法。
【請求項3】
埋戻し土の充填は、各階の上部スラブの一部を解体して、当該解体孔から行うこと
を特徴とする請求項1に記載の既存建物の解体工法。
【請求項4】
仮設土圧壁には、補強用の控え壁を設けること
を特徴とする請求項1に記載の既存建物の解体工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−17188(P2011−17188A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162546(P2009−162546)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】