説明

既存杭の破壊工法及び装置

【課題】 掘削サイクルが早く、全体の作業時間が短縮され、また、硬い地盤での作業が容易であり、大口径の作業も可能で、しかも、全ての鉄筋を切断できるので、ハンマーグラブでの取り除き作業が容易である既存杭の破壊工法及び装置を提供する。
【解決手段】 カッタ18はケーシングヘッド3bの内周面に設けたホルダー16で上下方向にスライド自在とし、このホルダー16はカッタ18を下方に移動させるに応じてケーシングヘッド3bの内方により突出させるようにカッタスライド面17を傾斜させた既存杭の破壊装置を使用し、杭芯に合わせたケーシングヘッド3bを回転下降させてホルダー16の上部に位置するカッタ18で杭外周を切削し、次いで、ケーシングヘッド3bを引き上げてその位置で回転させ、ホルダー16の下部に位置するカッタ18で既存杭の鉄筋を切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設された既存杭の破壊工法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地中に埋設された既存のコンクリート杭の除去に関して、そのままの形態で引き抜く方法と部分的に破断してから除去する方法とがあり、後者では、いわゆるインナーカッターを設けたケーシングを使用し、ケーシング及びインナーカッターで既存杭の鉄筋部までを切断し、ハンマーグラブ等の瓦礫除去手段で除去する。
【0003】
下記特許文献もその一つであり、図8〜図11に示すように、地中に埋設された内部に鉄筋を有するコンクリート製の既存杭1を除去するものとして、下縁には掘進カッタ3aをまた円筒内にはカッタ2を突設してなる掘削ケーシング3と、この掘削ケーシング3を前記杭の上部に回転及び圧入可能に支持する建て込み装置11と、掘削ケーシング3内の処理済み杭を取り出す瓦礫除去手段としてのハンマーグラブ13とで構成する。
【特許文献1】特開平8−120671号公報(地中杭の除去装置)
【0004】
地上にはクレーン12が設置されており、前記ハンマーグラブ13はこのクレーン12から吊り下げ、前記建て込み装置11とクレーン12はバー14で連結しておく。
【0005】
前記カッタ2は掘削ケーシング3に溶接されたベッド2aに複数個取り付けられていて、前記ベッド2aはその上下に設けられた三角形のステー2b、及びベッド2aの側面に設けられた三角形のステー2cで強固に支持されている。
【0006】
また、4カ所に設けられたカッタ2はその取り付け深度に段差が設けられている。さらに4カ所のカッタ2は突出長に夫々差がつけられている。即ち、最も下に位置するカッタ2は最も突出しており、最も上に位置するカッタ2の突出長は少なくなっている。
【0007】
前記装置により、地中に埋まっている既存杭1を除去するに際しては、まず、除去すべき既存杭1の真上に建て込み装置11を設置する。そして、掘削ケーシング3を建て込み装置11にセットして回転及び圧力を加える。すると、前記カッタ2は杭1の鉄筋10を切りながら全体を粉砕して進行する。
【0008】
このようにして必要な深度、即ち、既存杭1が本来の工事に支障をきたさない程度まで除去する。この後、ハンマーグラブ13を掘削ケーシング3内に降下させ内部の残骸や土砂を排出する。
【0009】
この特許文献1の地中杭の除去装置では、カッタ2は杭1上面からカットしていくため掘削が極めて困難となり、さらに杭1を鉄筋ともども割ることに多大な時間を費やす。
【0010】
なお、この特許文献1では杭1を必要な位置で切断するものとして杭1の内側には前記した固定のカッタ2の他に可動カッタ(コピーカッタ)を進退可能に突設した実施形態も記載されているが、この可動カッタは、油圧シリンダを内装したベッドに設けられ水平方向に出没可能となっていて、このベッドには高圧ホースで液圧が印加されるようになっており、油圧スイベルが必要となるとともに、ケーシング内に高圧ホースを入れるとケーシングの内径の有効活用が阻害され、さらに、ケーシングの継ぎ足しに応じたホースの継ぎ足し、スイベル装置の取り付け、取り外し等の作業が増え、作業効率が悪い。
【0011】
下記特許文献は、出願人が先に出願し、特許を取得したもので、図12、図13に示すように、掘削ケーシング3の先端のケーシングヘッド3bの内周面に、カッタ15a,15b,…15eを半周内に収まるように間隔を存して、かつ、順次その突出長さが長くなるように並べて、横並びで一列に配置した。このカッタ15a,15b,…15eは掘削ケーシング3を構成する金属よりも焼き入れの多い超硬金属をもってなる鋭利な刃を有する爪状のもので、溶接などにより堅牢にケーシングヘッド3bの内周面に固着する。
【0012】
掘削ケーシング3は、適宜と途中で継ぎ足して必要な長さとする本体部3cの先端にケーシングヘッド3bが嵌合し、嵌着部はボルト4で締結する。また、ケーシングヘッド3bは下端に掘進カッタ3aを設けている。
【0013】
そして、カッタ15a,15b,…15eは、複数個のうち、全部又は一部(図示の例ではカッタ15a以外は既存杭1の鉄筋10からのコンクリートかぶり厚さよりもケーシングヘッド3bの内周面からの突出長を大とする。
【特許文献2】特開2003−293369(既存杭の除去工法及び装置)
【0014】
この特許文献2では、掘削ケーシング3を建て込み装置により揺動回転させながら既存杭1を偏芯させて囲むようにして地盤に挿入し、次いで、掘削ケーシング3を全周回転させて前記カッタ15a,15b,…15eで既存杭1を外周部から切断し、ハンマーグラブ等の瓦礫除去手段で処理済みの既存杭を取り出す。
【0015】
特許文献2では、杭の周辺を大きく掘削することなく杭を除去することができるので、音や振動等で近隣住民などの住宅環境を害するおそれがなく、また杭内に鉄筋があってもこれを確実に切断することができ、さらに杭の全部を破壊することなく必要な深度で切断することができるため、作業能率を大幅に向上させることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記特許文献2の既存杭の除去工法及び装置では、既存杭1を偏芯させて囲むようにして揺動回転させながら地盤に挿入するので、掘削の作業時間がかかる。また、硬い地盤では掘削が困難となることもあった。さらに、大口径になるほど掘削が困難となる。
【0017】
本発明は前記従来例の不都合を解消し、掘削サイクルが早く、全体の作業時間が短縮され、また、硬い地盤での作業が容易であり、大口径の作業も可能で、しかも、全ての鉄筋を切断できるので、ハンマーグラブでの取り除き作業が容易である既存杭の破壊工法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は前記目的を達成するため、既存杭の破壊工法としては、ケーシングヘッド内周面にカッタを突設した掘削ケーシングを建て込み装置により揺動回転させながら既存杭を偏芯させて囲むようにして地盤に挿入しながら掘削ケーシングを回転させて前記カッタで既存杭を外周部から切断する既存杭の除去工法において、カッタはケーシングヘッド内周面に設けたホルダーで上下方向にスライド自在とし、このホルダーはカッタを下方に移動させるに応じてケーシングヘッド内方により突出させるようにカッタスライド面を傾斜させた既存杭の破壊装置を使用し、杭芯に合わせたケーシングヘッドを回転下降させてホルダー上部に位置するカッタで杭外周を切削し、次いで、ケーシングヘッドを引き上げてその位置で回転させ、ホルダー下部に位置するカッタで既存杭の鉄筋を切断することを要旨とするものである。
【0019】
また、既存杭の破壊装置としては、第1に、地中に埋設された既存杭を除去するための装置であって、ケーシングヘッド内周面にカッタを突設した掘削ケーシングと、このケーシングを前記既存杭の周囲に揺動及び回転可能に支持する建て込み装置とからなる既存杭の除去装置において、カッタはケーシングヘッド内周面に設けたホルダーで上下方向にスライド自在とし、ホルダーはカッタを下方に移動させるに応じてケーシングヘッド内方により突出させるようにカッタスライド面を傾斜させたこと、第2に、ホルダーの最下端に位置するカッタは、その先端が既存杭の鉄筋配置輪径よりも内方に達するものとすること、第3に、ホルダーの下端外底面に下向きにカッタを配設したことを要旨とするものである。
【0020】
請求項1〜請求項3記載の本発明によれば、ケーシングヘッドを回転させながらホルダー上部に位置するカッタで杭外周(杭外径〜鉄筋の当たらない範囲)を切削し、ついで、ケーシングヘッドを引き上げればカッタはホルダー下部に移動するのでその位置で回転させ、カッタで既存杭の鉄筋を切断し、鉄筋切断と同時にカッタの厚みで杭を切り離すことができる。
【0021】
請求項4記載の本発明によれば、ホルダーはケーシングヘッド内方へ出っ張るとしてもホルダーの下端外底面に下向きにカッタを配設することで、この出っ張り分の下側を切削して障害を除くことができる。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように本発明の既存杭の破壊工法及び装置は、掘削サイクルが早く、その結果として、全体の作業時間が短縮でき、また、硬い地盤でも作業が容易であり、大口径φ3000相当での作業も可能で、しかも、全ての鉄筋を切断できるので、ハンマーグラブでの取り除き作業も容易とすることが出来るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の既存杭の破壊装置の1実施形態を示す縦断側面図、図2は同上平面図で、図中3は掘削ケーシングで、適宜と途中で継ぎ足して必要な長さとする本体部3cの先端にケーシングヘッド3bが嵌合し、嵌着部はボルト4で締結する。また、ケーシングヘッド3bは下端に掘進カッタ3aを設けている。
【0024】
この掘削ケーシング3は図3、図4に示すように建て込み装置11で回転可能に支持する。この建て込み装置11は周知のように例えばオールケーシング工法で使用する圧入機であり、反力フレーム9に、掘削ケーシング3の外周をたが状に締め付けるチャック装置5とこのチャック装置5を回転駆動するモーター6aや減速機6bなどの駆動装置6と、これらチャック装置5および駆動装置6を上下動する油圧シリンダーによる昇降シリンダー7を設けた。図中8は建て込み装置11を水平に設置する水平ジャッキによるアウトリガーを示す。
【0025】
掘削ケーシング3は前記建て込み装置11により外周をチャックされながら回転推進されて地盤に挿入されるものである。
【0026】
本発明ではかかる構成に加えて掘削ケーシング3の先端のケーシングヘッド3bの内周面に、上下方向で、下方に向けて高くなるように傾斜させたホルダー16を設けた。
【0027】
このホルダー16は、カッタ18を上下方向にスライド自在に保持するものであり、カッタ16を下方に移動させるに応じてケーシングヘッド3bの内方により突出させるようにカッタスライド面17を傾斜させた。
【0028】
一例として、カッタ18は図4に示すように略矩形の台板18aに横一文字状の刃部18bを形成したもので、台板18aは左右の薄肉係合部18cが縦長矩形のホルダー16の左右のコ字形断面のレール溝16aに下端開口より差し入れられる。刃部18bはある程度の厚みを有し、本実施形態では横一文字状の中央部をへこませてハの字形とし、左右の先端部に超硬チップを配した。
【0029】
このコ字形断面のレール溝16aの上端は閉塞されており、カッタ18の薄肉係合部18cは上方へは抜け出ることはなく、前記下端開口の間位置に円筒形のピン19を抜け出し防止用のストッパーとして脱着自在に配設した。台板18aにはこのピン19が係合する半円形の切欠きを形成した。
【0030】
このようにして、カッタ18はホルダー16の上下である(A)〜(B)間のストロークS分を移動可能となる。
【0031】
また、ホルダー16の最下端(B)に位置するカッタ18は、図2に示すようにその刃部18bの先端が既存杭1の鉄筋10の配置輪径よりも内方に達するものとした。
【0032】
なお、このようなホルダー16およびカッタ18は切断処理しようとする既存杭1の状況に合わせて、ケーシングヘッド3bの内周面に、1個または数個を間隔を存して設けるものとする。
【0033】
ホルダー16の下端外底面にも下向きにカッタ20を配設した。このカッタ20は掘進カッタ3aと同じようなものでよい。
【0034】
次にこのような装置を用いて行う本発明の既存杭の破壊方法について説明する。図5に示すように、既存杭1が既存の場所打杭などでは外周が凹凸になっていることが多い。
【0035】
図6に示すように、既存杭1の杭芯に合わせたてケーシングヘッド3bを回転し、掘削するとカッタ18は図2におけるm程くい込んだ状態で(A)の位置まで押し上げられる。その際、カッタ18はm分既存杭1の外周を切削する。
【0036】
図7に示すように、切断位置(B)で、ケーシングヘッド3bを引き上げ、回転させ、かかる引き上げ−回転−引き上げを図1におけるストロークSまで数回繰り返し、この繰り返しで、カッタ18を図2におけるn分くい込ませ、鉄筋10を切断する。また、カッタ18の厚みで、杭を切り離す。
【0037】
このようにして切断された理済みの既存杭1はクレーン12から吊り下げたハンマーグラブ13等の瓦礫除去手段で掴んで取り出す。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の既存杭の破壊装置の1実施形態を示す縦断側面図である。
【図2】本発明の既存杭の破壊装置の1実施形態を示す平面図である。
【図3】ホルダーの正面図である。
【図4】カッタの3方向説明図である。
【図5】本発明の既存杭の破壊方法を施す前の既存杭の説明図である。
【図6】本発明の既存杭の破壊方法の第1工程の説明図である。
【図7】本発明の既存杭の破壊方法の第2工程の説明図である。
【図8】本発明の既存杭の破壊装置で使用する建て込み装置と掘削ケーシングを示す側面である。
【図9】本発明の既存杭の破壊装置で使用する建て込み装置と掘削ケーシングを示す平面図である。
【図10】従来例を示す斜視図である。
【図11】従来例の平面図である。
【図12】従来例の縦断側面図である。
【図13】従来例の施工状態を示す概略図である。
【図14】他の従来例を示す縦断側面図である。
【図15】他の従来例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0039】
1…杭 2…カッタ
2a…ベッド 2b…ステー
2c…ステー 3…掘削ケーシング
3a…掘進カッタ 3b…ケーシングヘッド
3c…本体部
4…ボルト 5…チャック装置
6…駆動装置 6a…モーター
6b…減速機 7…昇降シリンダー
8…アウトリガー 9…反力フレーム
10…鉄筋
11…建て込み装置 12…クレーン
13…ハンマーグラブ 14…バー
15a〜15e…カッタ
16…ホルダー 16a…レール溝
17…カッタスライド面 18…カッタ
18a…台板 18b… 刃部
18c…薄肉係合部 19…ピン
20…カッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングヘッド内周面にカッタを突設した掘削ケーシングを建て込み装置により揺動回転させながら既存杭を偏芯させて囲むようにして地盤に挿入しながら掘削ケーシングを回転させて前記カッタで既存杭を外周部から切断する既存杭の除去工法において、カッタはケーシングヘッド内周面に設けたホルダーで上下方向にスライド自在とし、このホルダーはカッタを下方に移動させるに応じてケーシングヘッド内方により突出させるようにカッタスライド面を傾斜させた既存杭の破壊装置を使用し、杭芯に合わせたケーシングヘッドを回転下降させてホルダー上部に位置するカッタで杭外周を切削し、次いで、ケーシングヘッドを引き上げてその位置で回転させ、ホルダー下部に位置するカッタで既存杭の鉄筋を切断することを特徴とする既存杭の破壊工法。
【請求項2】
地中に埋設された既存杭を除去するための装置であって、ケーシングヘッド内周面にカッタを突設した掘削ケーシングと、このケーシングを前記既存杭の周囲に揺動及び回転可能に支持する建て込み装置とからなる既存杭の除去装置において、カッタはケーシングヘッド内周面に設けたホルダーで上下方向にスライド自在とし、ホルダーはカッタを下方に移動させるに応じてケーシングヘッド内方により突出させるようにカッタスライド面を傾斜させたことを特徴とする既存杭の破壊装置。
【請求項3】
ホルダーの最下端に位置するカッタは、その先端が既存杭の鉄筋配置輪径よりも内方に達するものとする請求項2記載の既存杭の破壊装置。
【請求項4】
ホルダーの下端外底面に下向きにカッタを配設した請求項2または請求項3に記載の既存杭の破壊装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−77631(P2007−77631A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265161(P2005−265161)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(502120147)株式会社キョウシン (1)
【出願人】(390010043)株式会社サンテック (3)
【Fターム(参考)】