説明

既設フランジ配管接続部の補修用シール材圧入装置及び既設フランジ配管接続部の補修工法

【課題】狭い作業現場に持ち込むことができ、狭い作業現場であっても良好な作業性が得られること。小型且つ軽量の装置でありながら、シール材を封止間隙に注入するのに必要な高圧注入が可能であること。
【解決手段】シール材カセットが装填されるカセット装填部と、シール材カセットの吐出口が接続される圧入ヘッド部とを備え、圧入ヘッド部は、吐出口に連通し、シール材カセットの装填軸方向に直交してカセット装填部の直径と同等の長さを有するシリンダ部と、シリンダ部の端部に連通して装填軸方向と平行に形成される圧送流路とを備え、シリンダ部には、吐出口との連通位置手前から圧送流路との連通位置手前までのストローク長を摺動するプランジャが気密に装備され、プランジャの端部には、圧入ヘッド部に支点を有するリンク機構の揺動操作でストローク長だけプランジャを摺動させる操作レバーが接続され、圧送流路内には、逆止弁が装備されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設フランジ配管接続部の補修用シール材圧入装置及びこれを用いた既設フランジ配管接続部の補修工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設フランジ配管接続部の老朽化対策の1つとして、既設フランジ配管の接続間隙にシール材を注入する工法が知られている。この工法は、フランジ配管接続部の外周をリング状の治具で覆って、その内側に封止間隙を形成し、この封止間隙内にシール材を注入するものである。
【0003】
このような工法には、例えば下記特許文献1に記載されるようなシール材注入装置が用いられる。これは、油圧発生用加圧機構を備え、この油圧発生用加圧機構を駆動するためのハンドルが一つの支点を中心に揺動可能に設けられており、このハンドルを繰り返し揺動させることで油圧を発生させ、この油圧を利用してシール材充填口からシール材を吐出させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−132190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この従来技術では、シール材をどの程度吐出したかが明確に分からず、封止間隙に十分な量の樹脂が注入されているか否かが分からないという問題があった。したがって、前述した工法にこの従来技術を用いた場合には、フランジ内部の封止間隙に充分な量のシール材が充填されたか否かが確認できない問題があった。
【0006】
また、前述の従来技術は油圧発生用加圧機構を備えているが、このような機構を備えたシール材注入装置は装置が比較的大型になり、狭いピット内に既設されたフランジ配管接続部を作業対象とする場合には、装置をピット内に持ち込むことができない問題があった。また狭いピット内での作業を可能にするために装置を小型化すると、封止間隙にシール材を注入するために必要となる充分な圧力が得られない問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、シール材を注入する封止間隙に充分な量の樹脂が充填されたかを確認できるようにするために、1回の操作でのシール材の吐出量が比較的正確に把握できること、狭い作業現場に持ち込むことができ、狭い作業現場であっても良好な作業性が得られること、小型且つ軽量の装置でありながら、シール材を封止間隙に注入するのに必要な高圧注入が可能であること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明は、以下の独立請求項に係る構成を少なくとも具備するものである。
【0009】
[請求項1]既設フランジ配管接続部に形成される補修用封止間隙にシール材を圧入する装置であって、シール材カセットが装填されるカセット装填部と、該カセット装填部内に装填されたシール材カセットの吐出口が接続される圧入ヘッド部とを備え、前記圧入ヘッド部は、前記吐出口に連通し、前記シール材カセットの装填軸方向に直交して前記カセット装填部の直径と同等の長さを有するシリンダ部と、該シリンダ部の端部に連通して前記装填軸方向と平行に形成される圧送流路とを備え、前記シリンダ部には、前記吐出口との連通位置手前から前記圧送流路との連通位置手前までのストローク長を摺動するプランジャが気密に装備され、該プランジャの端部には、前記圧入ヘッド部に支点を有するリンク機構の揺動操作で前記ストローク長だけ前記プランジャを摺動させる操作レバーが接続され、前記圧送流路内には、逆止弁が装備されていることを特徴とする既設フランジ配管接続部の補修用シール材圧入装置。
【発明の効果】
【0010】
このような既設フランジ配管接続部の補修用シール材圧入装置及びこれを用いた既設フランジ配管接続部の補修工法によると、1回の操作でのシール材の吐出量がプランジャのストローク長で比較的正確に求められるので、シール材を注入する封止間隙に充分な量の樹脂が充填されたかを容易に確認することができる。また、カセット装填部の外径上に圧入ヘッド部が形成されるコンパクトな形態であるため、狭い作業現場に持ち込むことができ、また狭い作業現場であっても良好な作業性を得ることができる。シリンダ部から圧送流路にシール材を送る過程で高圧が得られるので、小型且つ軽量の装置でありながら、シール材を封止間隙に注入するのに必要な高圧注入が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る補修用シール材圧入装置の全体構成を示した説明図である。
【図2】管路のフランジ配管接続部へのシール材注入を説明する説明図(部分断面図)である。
【図3】本発明の実施形態に係る補修用シール材圧入装置を用いた管路のフランジ配管接続部における補修工法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る補修用シール材圧入装置の全体構成を示した説明図である。補修用シール材圧入装置1は、シール材カセットSが装填されるカセット装填部10と、カセット装填部10内に装填されたシール材カセットSの吐出口S0が接続される圧入ヘッド部20を備える。
【0013】
カセット装填部10は、例えば円筒状の中空容器によって形成され、一端にシール材カセット装填用の底蓋部11が設けられ、他端に圧入ヘッド部20が接続される。シール材カセットSは、シール材を吐出口S0から吐出させるためのピストン部S1を備えており、カセット装填部10内にはピストン部S1を押圧するためのバネ12が内装されている。
【0014】
圧入ヘッド部20は、吐出口S0にネジ接続される接続部21を有する。また、吐出口S0に連通し、シール材カセットSの装填軸O1方向に直交してカセット装填部10の直径と同等の長さを有するシリンダ部22を有する。シリンダ部22は装填軸O1と直交する軸O2に沿って形成されている。そして、シリンダ部22の端部に連通して装填軸O1方向と平行に形成される圧送流路23を備えている。圧送流路23は圧入ヘッド部20のノズル24内に連通している。
【0015】
シリンダ部22には、吐出口S0との連通位置手前から圧送流路23との連通位置手前までのストローク長Lを摺動するプランジャ25が気密に装備され、プランジャ25の端部には、プランジャ25を摺動させる操作レバー26が接続される接続部25Aが形成されている。
【0016】
操作レバー26は、圧入ヘッド部20に支点26P1を有するリンク機構を形成しており、先端に支点26P1を有する第1アーム26Aの後端と第2アーム26Bの先端が関節部26P2で連結され、このリンク機構の揺動操作でストローク長Lだけプランジャ25を摺動させる。また、このリンク機構は、操作アーム26の揺動操作をプランジャ25の直線的なストロークに変換する際にてこの作用が加えられ、操作アーム26に加える小さな操作力でシリンダ部22内のシール材を高圧で圧送流路23に送り出すことができる。
【0017】
圧送流路23内には、バネ27Aと栓玉27Bからなる逆止弁27が装備されている。これによって、シリンダ部22から圧送流路23に送られるシール材の流れを許容し、その逆の流れを防いでいる。
【0018】
また、シリンダ部22の圧送流路23との連通側端部には、シリンダ部22を開放するための開放栓28が着脱自在に設けられている。この開放栓28を取り外して、プランジャ25を引き抜くことで、シリンダ部22は開放状態になる。これによって、使用後のシール材の詰まりを防ぐ清掃作業を容易に行うことができる。
【0019】
このような補修用シール材圧入装置1では、シール材カセットSを圧入ヘッド部20に接続して、ピストン部S1にバネ12を取り付けて底蓋部11を閉めた後、操作レバー26を引いてプランジャ25を移動させてシリンダ部22を開放すると、プランジャ25の移動によって生じる吸引力とバネ12の押圧力によって吐出口S0からシリンダ部22内にシール材が送り込まれる。この状態で操作レバー26を押圧操作すると、シリンダ部22内のシール材が圧送流路23内に圧送され、逆止弁27をシール材の圧力で開放させてノズル24からシール材が吐出する。
【0020】
このような構造を有する補修用シール材圧入装置1は、シリンダ部22の長さをカセット装填部10の略直径相当に収めることができ、コンパクトな圧送ヘッド部20の構造を実現することができる。これによって、狭いピット内の既設フランジ配管接続部を作業対象にする場合にも、装置が嵩張ることなく良好な作業性を得ることができる。
【0021】
また、操作レバー26によって摺動するプランジャ25のストローク長Lが常時ほぼ設定長さになるので、1回の操作でシリンダ部22の内径×Lの定量のシール材を吐出させることができる。これによって、フランジ配管接続部に形成される封止間隙内にどの程度シール材が注入されたかを概略把握することが可能になる。
【0022】
また、シリンダ部22とプランジャ25との気密性が確保されているので、コンパクトな形態でありながら、比較的高圧のシール材注入を実現することができる。また、圧送流路23には逆止弁27が設けられているので、圧送先の封止間隙内が加圧状態になったとしても、シール材がシリンダ部22内に逆流してくる不具合は生じない。
【0023】
更には、シリンダ部22の圧送流路23との連通側端部には、シリンダ部22を開放するための開放栓28が着脱自在に設けられているので、硬化性のシール材を用いた後に、効果的にシリンダ部22及び圧送流路23の清掃を行うことができ、シール材の詰まりによる不具合を未然に解消することができる。
【0024】
このような特徴を備えた本発明の実施形態に係る補修用シール材圧入装置1は、管路のフランジ配管接続部における補修工法において有効に利用することができる。図2は、管路のフランジ配管接続部へのシール材注入を説明する説明図(部分断面図)である。フランジ配管接続部Jによって管路P1と管路P2が接続されている。フランジ配管接続部Jでは、一対のフランジF,F間にシール部材F1を介在させ、フランジFに形成されたボルト穴を通して、ボルト・ナットMによる機械的な接続が行われている。図示のようにフランジ配管接続部Jには、ボルト・ナットMによる機械的な接続箇所に隙間部Sが形成され、この隙間Sがシール部材F1内の隙間部に連通している。
【0025】
そして、フランジ配管接続部Jの老朽化対策等として、この隙間部Sをシール材で埋めて封止処理する修理工法が行われている。この際には、フランジFの外周縁にシールリング51を介在させて注入リング50を装着し、注入リング50の注入口50Aから注入リング50内にシール材を注入して、隙間部Sを介してシール部材F1内の隙間部にシール材を注入している。注入リング50をフランジFに装着するには固定具50Rを用いてボルト50Sで固定している。
【0026】
図3は、本発明の実施形態に係る補修用シール材圧入装置を用いた管路のフランジ配管接続部における補修工法を説明する説明図である。
【0027】
先ず、同図(a)に示すように、分割された注入リング50D1,50D2,50D3をフランジFの外周縁に装着して、同図(b)に示すような一体の注入リング50を形成する。そして、注入リング50の注入口50Aに注入ホース52を介して補修用シール材圧入装置1を接続する。注入ホース52には圧力計52Aとバルブ52Bが装着されている。
【0028】
シール材を注入するには、注入に先立ってフランジ配管接続部Jでのガス漏洩を抑えるために、ボルト・ナットMを増し締めすることが好ましい。この際、注入ホース52が接続される注入口50Aは、フランジFの下側に位置するものを採用し、シール材を下方から充填して、フランジFの上側に位置した注入口を開放して空気抜きを行うようにする。
【0029】
補修用シール材圧入装置1の接続後には、操作レバー26を操作して、注入リング50内にシール材を注入する。空気抜き用の注入口を開放して、注入ホース52が接続された注入口50Aからシール材を注入する。開放されている空気抜き用の注入口からシール材がオーバーフローすることによって、隙間部S全体にシール材が充填されたことを確認することができる。また、補修用シール材圧入装置1を異なる注入口に接続することによって、シール材を隙間部S全体に均等に充填させることができる。例えば、フランジFの下方に位置する注入口50Aから最初にシール材を充填し、その後に、やや側方の位置の注入口から同様にシール材を充填することで、隙間部S全体に均一にシール材を充填させることができる。
【0030】
シール材の充填が完了すると、隙間部Sを気密状態にしてから、再度シール材を加圧充填する。この際の充填圧は通じる流体の最高使用圧の2〜3割増しになり、このシール材の再充填によって、隙間部S内或いはシール部材F1内に残された微細な空隙がシール材で埋められることになる。
【0031】
その後、補修用シール材圧入装置1を注入リング50の注入口50Aから取り外し、注入リング50をフランジFに装着したままの状態で、シール材を硬化させる。シール材が硬化するとフランジFに注入リング50を装着したままの状態で、フランジ配管接続部を管理する。
【0032】
用いられるシール材は、隙間部S及びシール部材F1の隙間部内に隈無く入り込む流動性と固化後に高いシール性が得られるものであれば、どのようものであってもよい。好適例を挙げると、液状反応性シリコーンゴムを挙げることができる。反応形式は1液型であっても2液型であってもよいが、作業性を考慮すると、1液型反応性シリコーンゴムが好ましい。
【0033】
1液型反応性シリコーンゴムは、脱オキシムタイプ、脱アルコールタイプ、脱アセトンタイプ、脱酢酸タイプがあるが、いずれも使用可能である。但し、より使用性の良好なタイプは脱アルコールタイプである。1液型反応性シリコーンゴムは、充填剤として、炭酸カルシウム、無定形シリカなどを含有しているものであっても良い。
【0034】
シール材の粘度は、粘調な液体からペースト状まで使用可能であり、好ましくは、100Pa・sからペースト状が適している。タックフリータイム(23℃)は、5〜120分、伸び率は、50〜600%で使用可能である。
【0035】
このような本発明の実施形態に係るフランジ配管接続部の補修工法よると、補修対象のフランジ配管接続部において、流体の流通を維持した状態で、フランジ配管接続部の補修作業を行うことができる。そして、老朽化したフランジ配管接続部の機械的な接続部分における隙間部Sやシール部材F1内の隙間部をシール材で充填し、シール材を硬化させるので、フランジ配管接続部の接続強度を高めることが可能になり、また、老朽化したフランジ配管接続部の気密性を高めることができる。
【0036】
このようなフランジ配管接続部の補修工法を施工するためには、シール材充填圧を1.0MPa以上にすることが必要になる。本発明の実施形態に係る補修用シール材圧入装置1は、手動で充分なシール材充填圧を得ることができるので、最大で10〜20MPaでの充填圧を実現できる。したがって、前述したフランジ配管接続の補修工法へ問題なく適用することができる。
【0037】
更には、シール材注入時の操作レバー26の操作は、てこの作用を利用できるリンク機構を採用しているので大きな操作力を要さない。また、シール材の充填圧力は圧送流路23内に設けた逆止弁27で受け止めるようにしているので、充填圧に対応するように操作力をかけ続けることも必要ない。したがって、作業性良く注入リング内へのシール材の注入を行うことができる。
【0038】
そして、コンパクトな形態であるから、狭い作業現場においても装置が嵩張って作業性が悪化する或いは装置の搬入ができないといった不具合は生じない。
【符号の説明】
【0039】
1:補修用シール材圧入装置
10:カセット装填部
11:底蓋部
12:バネ
20:圧入ヘッド部
21:接続部
22:シリンダ部
23:圧送流路
24:ノズル
25:プランジャ
26:操作レバー
27:逆止弁
28:開放栓
S:シール材カセット
S0:吐出口
S1:ピストン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設フランジ配管接続部に形成される補修用封止間隙にシール材を圧入する装置であって、
シール材カセットが装填されるカセット装填部と、
該カセット装填部内に装填されたシール材カセットの吐出口が接続される圧入ヘッド部とを備え、
前記圧入ヘッド部は、前記吐出口に連通し、前記シール材カセットの装填軸方向に直交して前記カセット装填部の直径と同等の長さを有するシリンダ部と、該シリンダ部の端部に連通して前記装填軸方向と平行に形成される圧送流路とを備え、
前記シリンダ部には、前記吐出口との連通位置手前から前記圧送流路との連通位置手前までのストローク長を摺動するプランジャが気密に装備され、該プランジャの端部には、前記圧入ヘッド部に支点を有するリンク機構の揺動操作で前記ストローク長だけ前記プランジャを摺動させる操作レバーが接続され、
前記圧送流路内には、逆止弁が装備されていることを特徴とする既設フランジ配管接続部の補修用シール材圧入装置。
【請求項2】
前記シリンダ部の前記圧送流路との連通側端部には、当該シリンダ部を開放するための開放栓が着脱自在に設けられていることを特徴とする請求項1記載に記載された既設フランジ配管接続部の補修用シール材圧入装置。
【請求項3】
前記シール材カセットは、シール材を前記吐出口から吐出させるためのピストン部を備え、前記カセット装填部内には前記ピストン部を押圧するためのバネが内装されていることを特徴とする請求項1又は2に記載された既設フランジ配管接続部の補修用シール材圧入装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された既設フランジ配管接続部の補修用シール材圧入装置を用いた工法であって、
既設フランジ配管接続部のフランジ外周部に封止間隙形成用の注入リングを装着する工程と、
前記注入リングの注入口に前記補修用シール材圧入装置を装着する工程と、
前記補修用シール材圧入用装置を操作して前記注入リングの内側封止間隙にシール材を圧入する工程とを有することを特徴とする既設フランジ配管接続部の補修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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