説明

既設支承装置の更新方法及び更新構造

【課題】既設コンクリート製桁と更新された新設支承装置との連結固定が容易で、耐震性能を高めることができる既設支承装置の更新方法及び更新構造を提供することを目的とする。
【解決手段】既設支承装置の更新方法において、下部構造上の既設支承装置を撤去した後、上部構造である既設コンクリート製桁の側面及び下面をはつり作業によりかぶりコンクリートの厚さを越えて除去して鉄筋を露出させ、その後、底板部と、前記底板部から垂直に立設する両側壁部と、前記両側壁部にかぶるコンクリートの厚さを越えて突出する複数の補強兼定着用リブとを有する鋼製取付部材を前記コンクリート製桁の外側に配置し、前記コンクリート製桁と鋼製取付部材との間に固化性充填材を充填し固化させて一体化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高架道路橋、橋梁等の既設支承装置を撤去し、新設の支承装置に更新する既設支承装置の更新方法と更新構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ベースプレートをアンカーボルトによって下部構造に固定する鋼製あるいは弾性支承装置を、タイプBの鋼製または弾性支承装置に交換する既設支承装置の更新方法が知られている。
【特許文献1】特開2004−300897号公報
【非特許文献1】道路橋示方書(V耐震設計編)社団法人日本道路協会、2002年4月10日発行、P.245参照
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
既設支承装置を更新する場合、更新される支承装置には、保有耐力法により耐震性能を高めることが要求される。この要求に対応するためには、更新され新設された支承装置と上部構造である既設桁との連結をより確実にする必要がある。
【0004】
既設桁が鋼製である場合、鋼製既設桁とソールプレートを連結固定する溶接部に肉盛りを形成することにより容易に補強し要求される耐震性能を有するようにすることができるが、既設桁がコンクリート製桁の場合、ソールプレートと既設コンクリート製桁とはアンカーボルトにより連結固定される。しかし、この連結固定手段では連結固定部の強度を要求される耐震性能まで高めることに困難性があった。
【0005】
本発明は、前記従来技術の持つ課題を解決する、既設コンクリート製桁と更新された新設支承装置との連結固定が容易で、耐震性能を高めることができる既設支承装置の更新方法及び更新構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本第1発明は、既設支承装置の更新方法において、下部構造上の既設支承装置を撤去した後、上部構造である既設コンクリート製桁の側面及び下面をはつり作業によりかぶりコンクリートの厚さを越えて除去して鉄筋を露出させ、その後、底板部と、前記底板部から垂直に立設する両側壁部と、前記両側壁部にかぶるコンクリートの厚さを越えて突出する複数の補強兼定着用リブとを有する鋼製取付部材を前記コンクリート製桁の外側に配置し、前記コンクリート製桁と鋼製取付部材との間に固化性充填材を充填し固化させて一体化することを特徴とする。
【0007】
本第2発明は、本第1発明の既設支承装置の更新方法において、前記固化性充填材として無収縮モルタルを用いることを特徴とする。
【0008】
本第3発明は、本第1又は第2発明の既設支承装置更新方法において、新設支承装置の上部と前記鋼製取付部材の前記底板部とを溶接又はボルト連結により固定することを特徴とする。
【0009】
本第4発明は、既設支承装置の更新構造において、はつり作業により下面と側面がコンクリートの厚さを越え除去された既設コンクリート製桁と、その外側に配される底板部、前記底板部から垂直に立設する両側壁部、前記両側壁部にかぶりコンクリートを越えて突出する補強兼定着用リブを有する鋼製取付部材とが、固化性充填材により一体化され、前記鋼製取付部材の前記底板部が新設支承装置に固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の既設支承装置の更新方法において、下部構造上の既設支承装置を撤去した後、上部構造である既設コンクリート製桁の側面及び下面をはつり作業によりかぶりコンクリートの厚さを越えて除去して鉄筋を露出させ、その後、底板部と、前記底板部から垂直に立設する両側壁部と、前記両側壁部にかぶるコンクリートの厚さを越えて突出する複数の補強兼定着用リブとを有する鋼製取付部材を前記コンクリート製桁の外側に配置し、前記コンクリート製桁と鋼製取付部材との間に固化性充填材を充填し固化させて一体化する構成により、鋼製取付部材の補強兼定着部材がかぶりコンクリートの厚さを越えて鉄筋内に位置するのでコンクリート製桁と鋼製取付部材が強固に一体化され、既設コンクリート製桁の支承取付部の強度を向上させ、新設の支承装置との連結固定も鋼材同士の連結固定となるので、溶接、ボルト固定等の高強度の連結固定が可能となり、耐震性能を向上することができる。
固化性充填材として無収縮モルタルを用いる構成により、硬化時のひび割れ等を防止でき、高強度のコンクリート躯体を形成できる。
新設支承装置の上部の連結鋼板と鋼製取付部材の底板部とを溶接又はボルト連結により固定する鋼製により、高強度の連結固定により、更新された新設支承装置の耐震性能を向上することができる。
既設支承装置の更新構造において、はつり作業により下面と側面がコンクリートの厚さを越え除去された既設コンクリート製桁と、底板部と、両側壁部と、前記両側壁部にかぶりコンクリートを越えて突出する定着部とを備え、固化性充填により前記既設コンクリート製桁と一体化された鋼製取付部材と、前記鋼製取付部材の前記底板部が新設支承装置の連結鋼板と固定されている構成により、鋼製取付部材の補強兼定着部材がかぶりコンクリートの厚さを越えて鉄筋内に位置するのでコンクリート製桁と鋼製取付部材が強固に一体化され、既設コンクリート製桁の支承取付部の強度を向上させ、新設の支承装置との連結固定も鋼材同士の連結固定となるので、溶接、ボルト固定等の高強度の連結固定が可能となり、耐震性能を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態を図により説明する。図1は更新前の支承装置の一実施形態を示す図である。
【0012】
上部構造の既設コンクリート製桁1は、その下部にソールプレート2がアンカーボルト3により固定されている。橋脚等のコンクリート製の下部構造4上にアンカーボルト5により既設支承装置6が固定されている。既設支承装置6は、ベースプレート8と弾性支承体10により構成される。既設支承装置6の弾性支承体10上にソールプレート2が載置され、ベースプレート8に一端を固定されたサイドブロック7の係合部がソールプレート2と係合し上揚力止めの機能を果たす。
【0013】
図1に示される状態から、新設支承装置に更新するため、既設支承装置6とソールプレート2を係合しているサイドブロックの固定を解除し、下部構造4をはつり作業により既設支承装置6を固定しているアンカーボルト5が露出するまで除去し、アンカーボルト5を切断し、既設支承装置6を撤去する。
【0014】
その後、既設コンクリート製桁1の支承装置取付部の側面及び底面をはつり作業により、かぶりコンクリートの厚さを越えて内部の鉄筋14が露出するように破砕除去する。その後、アンカーボルト3が鉄筋14から下に突き出さないように切断し、ソールプレート2を撤去する。図2は、はつり作業が終了し、鉄筋3を切断し、ソールプレート2を撤去した状態の既設コンクリート製桁1を示す図である。
【0015】
図3は、図2の状態の既設コンクリート製桁1の外側に配置される鋼製取付部材24を示す図である。鋼製取付部材24は、底板部25と底板部から垂直に立設する一対の側壁部23を有する。側壁部23間の間隔ははつり作業前の既設コンクリート製桁1の側壁の間の間隔とほぼ同じにする。側壁部23は、水平板部23bと溶接等の連結手段により断面L字形に形成する。また、水平板部23bと一体に形成してL字形としても良い。水平板部23と底板部25を複数のボルト23aで連結することにより側壁部23を底板部25に固定する。水平板部23bを底板部25に溶接により固定して側壁部23を底板部25に固定しても良い。
【0016】
側壁部23には、内側方向に伸びる補強兼定着部22が複数溶接により固定される。補強兼定着部22の一部は、図2に示されるはつり作業後の既設コンクリート製桁1の外側に鋼製取付部材24を配置した状態で、鉄筋14の内側に位置するよう突出長さを有する。そのため、補強兼定着部22の配置は鉄筋14と干渉しない位置とする。底板部25にも、側壁部23に配置した補強兼定着部22を配置しても良い。図3に示される補強兼定着部22は、底板部25に対して垂直な状態で配置されているが、底板部25に対して斜め方向に配置しても良いし、それぞれの向きが異なる斜め方向の配置にしても良い。補強兼定着部22の配置数は適宜設計する。また、側壁部23の両側端には、外側方向に向く補強リブ26が溶接により固定されて配置される。
【0017】
鋼製取付部材24を図2に示されるはつり後の既設コンクリート製桁1の外側に位置決めして配置する。型枠を設置後、無収縮モルタル等の固化性充填材34を充填し固化させ、既設コンクリート桁1と鋼製取付部材24を一体化し、支承更新用コンクリート製桁1Aを形成する。支承更新用コンクリート製桁1Aは、鋼製取付部材24の補強兼定着部22が固化性充填材34によるかぶるコンクリートを越えて鉄筋14内に位置することにより定着性を向上させ、支承更新用コンクリート製桁1Aを高強度とする。
【0018】
図4は、鋼製取付部材24と一体化された支承更新用コンクリート製桁1Aと新設支承装置21とを連結固定した状態を示す図である。既設支承装置6を撤去後の下部構造4に新たに新設アンカーボルト用孔17を穿孔し、新設アンカーボルト20を配置する。新設アンカーボルト20は、短尺なものを使用し、支持力を得るために下部構造4の鉄筋にその端部を溶接等で固定する。新設アンカーボルト20に新設ベースプレート18を固定し、新設ベースプレート18上に弾性層36、上部鋼板35を積層した新設支承装置21が載置される。新設支承装置21は、新設ベースプレート18に一端を螺着されたせん断キー37が、弾性層36、上部鋼板35を貫通して配置される。さらにせん断キー37は、新設ソールプレート2Aを貫通し、その上端には、新設ソールプレート2Aに形成した凹部でナット38が螺着され、新設支承装置21と新設ソールプレート2Aが連結される。
【0019】
その後、鋼製取付部材24と一体化した支承更新用コンクリート製桁1Aの底板部25と新設ソールプレート2Aとを溶接又はボルトにより連結固定する。新設支承装置21と支承更新用コンクリート製桁1Aの連結は、鋼材同士の連結となるため高強度の連結ができ支承装置の耐震性能を向上させる。
【0020】
その後、はつり作業により除去した下部構造4に無収縮モルタル等の固化性充填材19を打ち込み、新設支承装置21をアンカーボルト20を介して下部構造4に固定する。
【0021】
図4に示される新設支承装置21として、せん断キー37を配置した弾性支承装置を一例として説明したが、鋼製支承装置等の他の支承装置を新設支承装置として用いても良い。
【0022】
既設支承装置6の更新方法の工程を図5(a)(b)(c)(d)、図6(a)(b)(c)(d)、図7(a)(b)(c)(d)、図8(a)(b)により説明する。
【0023】
図5(a)に示される既設支承装置6の更新方法の第1の工程は、ベースプレート8にボルトにより連結されているサイドブロック7を取り外す。サイドブロック7を取り外すことにより、既設支承装置6とソールプレート2が固定されたコンクリート製桁1との係合が解除される。
【0024】
図5(b)に示される第2工程では、ベースプレート8の下部の下部構造4をはつり作業により除去し、ベースプレート8下のアンカーボルト5が露出するようにする。
【0025】
図5(c)に示される第3工程では、ベースプレート8下のアンカーボルト5を切断する。アンカーボルト5を切断することによりベースプレート8と弾性支承体10からなる既設支承装置6は、上下構造1、4に拘束されない状態になる。
【0026】
図5(d)に示される第4工程では、既設支承装置6を撤去する。
【0027】
図6(a)に示される第5工程では、既設コンクリート製桁1の側面及び下面を、はつり作業によりかぶりコンクリートの厚さを越えて鉄筋14が露出するまで除去する。
【0028】
図6(b)に示される第6工程では、アンカーボルト3により固定されているソールプレート2の固定を解除し、撤去する。
【0029】
図6(c)に示される第7工程では、はつり作業により凹部の形成された下部構造4に、新設アンカーボルト用孔17を穿孔する。新設アンカーボルト用孔17は、下部構造4の鉄筋が露出する程度の深さとする。
【0030】
図6(d)に示される第8工程では、新設アンカーボルト用孔17に新設アンカーボルト20を配置する。新設アンカーボルト20は短尺なものが用いられ、支持力を得るため、その下端部を露出した鉄筋に溶接等で固定する。
【0031】
図7(a)に示される第9工程では、新設アンカーボルト20に新設ベースプレート18、弾性層36、上部鋼板35からなる新設支承装置21と、せん断キー37により連結された新設ソールプレート2Aを設置する。
【0032】
図7(b)に示される第10工程では、はつり作業により鉄筋14が露出する状態の既設コンクリート製桁の外側に図3に示される鋼製取付部材24を位置決めして配置する。
【0033】
図7(c)に示される第11工程では、新設支承装置21に連結された新設ソールプレート2Aと鋼製取付部材24の底板部25とを溶接又はボルト止め等の固定手段で固定する。
【0034】
図7(d)に示される第12工程では、はつり作業により鉄筋が露出する状態の既設コンクリート製桁と鋼製取付部材24に型枠を組立て、無収縮モルタル等の固化性充填材34を打設する。
【0035】
図8(a)に示される第13工程では、はつり作業により凹部が形成された下部構造4に型枠を組立て、無収縮モルタル等の固化性充填材19を打設する。
【0036】
図8(b)に示される第14工程では、固化性充填材34,19の固化後型枠を取り外し、図4に示される新設支承装置21に更新される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示す図である。
【図5】(a)(b)(c)(d)本発明の実施形態を示す図である。
【図6】(a)(b)(c)(d)本発明の実施形態を示す図である。
【図7】(a)(b)(c)(d)本発明の実施形態を示す図である。
【図8】(a)(b)本発明の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1:既設コンクリート製桁、1A:支承更新用コンクリート製桁、2:ソールプレート、2A:新設ソールプレート、3:アンカーボルト、4:下部構造、5:アンカーボルト、6:既設支承装置、7:サイドブロック、8:ベースプレート、10:弾性支承体、14:鉄筋 、17:新設アンカーボルト用孔、18:新設ベースプレート、19:固化性充填材、20:新設アンカーボルト、21:新設支承装置、22:補強兼定着用リブ、23:側壁部、23a:ボルト、23b:水平板部、24:鋼製取付部材、25:底板部、16:補強リブ、35:上部鋼板、36:弾性層、37:せん断キー、38:ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造上の既設支承装置を撤去した後、上部構造である既設コンクリート製桁の側面及び下面をはつり作業によりかぶりコンクリートの厚さを越えて除去して鉄筋を露出させ、その後、底板部と、前記底板部から垂直に立設する両側壁部と、前記両側壁部にかぶるコンクリートの厚さを越えて突出する複数の補強兼定着用リブとを有する鋼製取付部材を前記コンクリート製桁の外側に配置し、前記コンクリート製桁と鋼製取付部材との間に固化性充填材を充填し固化させて一体化することを特徴とする既設支承装置の更新方法。
【請求項2】
前記固化性充填材として無収縮モルタルを用いることを特徴とする請求項1に記載の既設支承の更新方法。
【請求項3】
新設支承装置の上部と前記鋼製取付部材の前記底板部とを溶接又はボルト連結により固定することを特徴とする請求項1又は2に記載の既設支承装置の更新方法。
【請求項4】
はつり作業により下面と側面がコンクリートの厚さを越え除去された既設コンクリート製桁と、その外側に配される底板部、前記底板部から垂直に立設する両側壁部、前記両側壁部にかぶりコンクリートを越えて突出する補強兼定着用リブを有する鋼製取付部材とが、固化性充填材により一体化され、前記鋼製取付部材の前記底板部が新設支承装置に固定されていることを特徴とする既設支承装置の更新構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−150067(P2009−150067A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327020(P2007−327020)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(391051256)株式会社美和テック (29)
【Fターム(参考)】