説明

既設構造物の壁体の改修補強構造及び改修補強工法

【課題】作業性に優れ、かつ、強固で安価に壁体を改修補強可能な壁体の改修補強構造及び改修補強工法を提供する。
【解決手段】高欄2の改修補強構造4は、高欄2の両側に配置された補強板5a、5bと、高欄2と補強板5a、5bとの間にそれぞれ設置されたスペーサー9と、高欄2と補強板5a、5bとの間にそれぞれ充填されたモルタル部6と、補強板5a、5bを高欄2に固定するための第一の固定部材7と、モルタル部6に充填されるモルタルの流出を防止する第一の流出防止材8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道や道路等の高架橋に設置されている高欄等の壁体の補強及び強度・機能向上を図る改修補強構造及び改修補強工法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道や道路等の高架橋に設置されている高欄等の壁体は、コンクリートの中性化等の経年劣化によって強度低下が生じたり、風や地震等によって作用する水平力の見直しに伴う耐力の増強化や、車両の高速化に伴う防音対策に起因した高さ寸法の嵩上げ等の要求が生じた場合に、改修補強が必要となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、高架橋の高欄の両側面に接着材で取り付けられた一対の補強板と、補強板及び高欄を貫通するとともに、両補強板同士を連結する固定部材と、両補強板の上端部同士を相互に一体的に繋ぐように設けられて高欄の上部を覆う笠板と、両補強板の下端を床版に固定するアンカーとを備えた補強構造が開示されている。
【特許文献1】特開2007−154600
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した補強構造では、次に示すような問題点があった。
(1)接着材は硬化時間が短いため、接着材を補強板に塗布すると直ちに補強板を高欄に取り付けなければならないので、作業性が悪い。(2)高欄の表面に水分が存在すると、接着材の付着強度が発現しない虞があるため、雨天時や湿度の高い箇所では接着材を使用できないので、作業性が悪い。(3)接着材では、被り厚さを確保することができないので、補強材としての機能を果たさない。(4)高欄に補強材を取り付ける際には、高欄及び補強板の表面の凹凸による接着強度のむらをなくため、大量の接着材を用いて接着材からなる層を形成する。このとき、高価な接着材を大量に使用するので、コストがかかる。
【0005】
そこで、本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業性に優れ、かつ、強固で安価に壁体を改修補強可能な壁体の改修補強構造及び改修補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の既設構造物の壁体の改修補強構造は、既設構造物の壁体の改修補強構造であって、前記壁体の側面から所定の間隔を隔てて配置された補強板と、前記壁体と前記補強板との間にモルタルを充填して形成されたモルタル部と、前記補強板に設けられた貫通孔及び前記モルタル部を貫通して前記補強板を前記壁体に固定する固定部材と、前記補強板に設けられた前記貫通孔を覆うように、前記補強板の前記モルタル部と反対側の表面に取り付けられ、当該貫通孔から前記モルタルが流出することを防止する流出防止材とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の既設構造物の壁体の改修補強構造によれば、壁体の側面から所定の間隔を隔てて配置された補強板と、壁体と補強板との間に形成されたモルタル部と、補強板を壁体に固定するための固定部材とを備えるので、壁体を補強板及びモルタル部の両方で補強することとなり、風荷重や地震荷重等の水平力に対する耐力が増加する。
【0008】
また、壁体及び補強板の表面には凹凸が存在するので、接着材で補強板を壁体に取り付ける従来の方法では、接着強度にむらが生じる虞があったが、壁体と補強板との間にモルタル部を設けることにより、壁体及び補強板の表面に凹凸が存在しても補強板をモルタル部を介して壁体に強固に取り付けることができる。したがって、接着材で接着する場合よりも強固で、かつ、強固で安価に補強板を取り付けることができる。
【0009】
また、補強板の貫通孔を覆うように取り付けられ、モルタルの流出を防止する流出防止材を備えるので、補強板と固定部材との間に形成された隙間にもモルタルが圧密状態で充填されている。したがって、補強板と固定部材とによる支圧接合構造が形成され、補強板に作用する引張力又は圧縮力をモルタル部を介して固定部材に伝達することができる。
【0010】
さらに、モルタルの充填作業は、補強板を設置後にいつでも施工することができるので、作業性が優れている。
【0011】
また、本発明において、前記補強板同士を前記壁体の側面に沿って接続した各接続部と前記壁体との間に、前記補強板同士にまたがって接するように設けられたスペーサーを更に備えることとすれば、壁体と補強板との間にモルタルを充填するためのスペースを確保して、モルタルを確実に充填することができる。さらに、補強板同士を壁体の側面に沿って接続した各接続部にスペーサーを、隣接する両補強板にまたがって接するように設置することにより、補強板同士の接続材としても機能するため、補強板同士をより強固に接続することができる。
【0012】
また、本発明において、前記スペーサーは、前記補強板と同じ材料からなることとすれば、新たにスペーサーを手配したり、在庫を管理する手間が省くことができる。
【0013】
また、本発明において、前記補強板の下端を前記既設構造物に固定するためのアンカー手段を更に備えることとすれば、補強板を既設構造物に強固に固定することができる。
【0014】
また、本発明において、前記アンカー手段は、前記補強板及び前記既設構造物に接するように配置された連結材と、前記連結材に設けられた貫通孔を貫通して前記連結材を前記既設構造物に固定する第二の固定部材と、前記連結材に設けられた前記貫通孔内にモルタルを充填して形成された第二のモルタル部と、前記連結材に設けられた前記貫通孔を覆うように前記補強板の表面に取り付けられ、当該貫通孔内に充填されたモルタルが流出することを防止する第二の流出防止材とを備えることとしてよい。このようにすれば、補強板を確実に既設構造物に固定することができる。さらに、前記第二の固定部材を貫通させるために前記連結材に設けられた貫通孔内にモルタルを充填して形成された第二のモルタル部と、当該貫通孔を覆うように前記連結材の表面に取り付けられ、当該貫通孔内に充填されたモルタルが流出することを防止する第二の流出防止材とを備えることとすれば、連結材と第二の固定部材との間に形成された隙間にもモルタルが圧密状態で充填されているので、支圧接合構造となり、連結材の側面方向に作用する引張力又は圧縮力をモルタル部を介して第二の固定部材に伝達することができる。
【0015】
さらに、本発明において、前記補強板が前記壁体の上端よりも上方に所定の長さ延設されて、前記壁体の上方に形成された嵩上げ部と、前記壁体の上に、上方に突出するように設置され、前記嵩上げ部を支持する柱部材とを更に備えることとしてよい。このようにすれば、防音効果が向上する。
【0016】
また、本発明の既設構造物の壁体の改修補強工法は、前記壁体の側面から所定の間隔を隔てて補強板を配置する補強板配置工程と、前記補強板を固定部材で前記壁体に固定する固定工程と、前記固定部材を貫通させるために前記補強板に設けられた貫通孔を覆うように、前記補強板の前記壁体と反対側の表面に流出防止材を取り付ける流出防止材取付工程と、前記壁体と前記補強板との間にモルタルを充填するモルタル充填工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の既設構造物の壁体の改修補強工法によれば、前記壁体の側面から所定の間隔を隔てて補強板を配置する補強板配置工程と、前記補強板を固定部材で前記壁体に固定する固定工程と、前記固定部材を貫通させるために前記補強板に設けられた貫通孔を覆うように、前記補強板の前記壁体と反対側の表面に流出防止材を取り付ける流出防止材取付工程と、前記壁体と前記補強板との間にモルタルを充填するモルタル充填工程とを備えるので、壁体を補強板及びモルタル部の両方で補強することとなり、風荷重や地震荷重等の水平力に対する耐力が増加する。
【0018】
また、壁体及び補強板の表面には凹凸が存在するので、接着材で補強板を壁体に取り付ける従来の方法では、接着強度にむらが生じる虞があったが、壁体と補強板との間にモルタル部を設けることにより、壁体及び補強板の表面に凹凸が存在しても補強板をモルタル部を介して壁体に強固に取り付けることができる。したがって、接着材で接着する場合よりも強固で、かつ、強固で安価に補強板を取り付けることができる。
【0019】
また、補強板の貫通孔を覆うように取り付けられ、モルタルの流出を防止する流出防止材を備えるので、補強板と固定部材との間に形成された隙間にもモルタルが圧密状態で充填されている。したがって、補強板と固定部材とによる支圧接合構造が形成され、補強板に作用する引張力又は圧縮力をモルタル部を介して固定部材に伝達することができる。
【0020】
さらに、モルタルの充填作業は、補強板を設置後にいつでも施工することができるので、作業性が優れている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、既設構造物の壁体を効率良く、かつ、強固で安価に改修補強することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の改修補強構造の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、鉄道高架の高欄を補強した場合について説明するが、本発明は、高架橋の壁体全般にも適用することができる。
【0023】
図1及び図2は、本発明の第一実施形態に係る鉄道高架1の高欄2の改修補強構造4を示す断面図及び斜視図である。
【0024】
図1及び図2に示すように、鉄道高架1の高欄2の改修補強構造4は、高欄2の両側に配置された補強板5a、5bと、高欄2と補強板5a、5bとの間にそれぞれ設置されたスペーサー9と、高欄2と補強板5a、5bとの間にそれぞれ充填されたモルタル部6と、補強板5a、5bを高欄2に固定するための第一の固定部材7と、モルタル部6に充填されるモルタルの流出を防止する第一の流出防止材8とを備える。
【0025】
高欄2は、床版3上にこれと一体的に所定の高さで形成された地覆部2aと、地覆部2aの上に所望の高さで形成されたコンクリートブロック部2bとからなる。地覆部2aは、鉄筋10が配筋されて床版3とともにRC造で一体的に形成される。また、コンクリートブロック部2bは、予め工場などで形成されて地覆部2a上に一体的に載置される。
【0026】
補強板5a、5bは、高欄2の両側にそれぞれ所定の間隔を隔てて配置されている。また、補強板5a、5bの上端部同士を相互に一体的に繋ぐとともに、高欄2の上端部を覆うように笠板11が設けられている。本実施形態においては、補強板5a、5bとして、高靭性セメント板を鉄道高架1の橋軸方向に複数枚、接着材12で接続して用いた。
【0027】
高靱性セメント板は高強度ビニロン繊維等の補強繊維を抄造法によりセメントに混練して形成され、高靱性・高曲げ強度の特性を与えつつ6〜9mm程度の薄板に成形して工場等で高品質に廉価に大量生産することができ、孔明けや切断等の加工も現場で容易になし得、運搬・施工性に優れたものである。
【0028】
なお、以下に示す表1は、高強度ビニロン繊維を用いて作製した高靱性セメント板の一例の性能を示すものである。
【表1】

【0029】
なお、本実施形態においては、補強板5a、5bとして高靱性セメント板を用いたが、これに限定されるものではなく、繊維補強樹脂板、ステンレス鋼板、アルミニウム合金板、高耐食溶融メッキ鋼板等の高耐食性の金属板を用いてもよい。
【0030】
図3は、本実施形態に係る改修補強構造4の補強板5aと第一の固定部材7との接続部分の拡大図である。
【0031】
図3に示すように、モルタル部6は、補強板5aと高欄2との間に高流動モルタルを充填することにより形成される。その高流動モルタルは、高欄2及び補強板5aの側面に密着して硬化するので、補強板5aは、モルタル部6を介して高欄2に一体化するように取り付けられる。
【0032】
スペーサー9は、モルタル部6の厚さが高欄2の壁面方向に一定となるように、すべて所定の厚さに揃えられて高欄2と補強板5aとの間に設置され、高欄2及び補強板5aに接着材12で接着されている。また、スペーサー9は、上記壁面方向に隣接する補強板5a、5a同士を接続した接続部13に、隣接する両補強板5a、5aにまたがって接するように設置されている。これにより、隣接する補強板5a、5a同士をより強固に接続することができる。本実施形態においては、スペーサー9は、補強板5aと同じ高靱性セメント板を用いたが、これに限定されるものではなく、他の材料からなるものを用いてもよい。
【0033】
また、図1〜図3に示すように、第一の固定部材7は、補強板5a、5b及び高欄2を貫通するボルト7aと、その両端にそれぞれ螺合されたナット7b、7bとからなる。両ナット7bを締め付けることにより、補強板5a、5bと高欄2とがモルタル部6を介して一体的に締結固定される。なお、このボルト7a及びナット7bは耐食性に優れたステンレス製のものを使用するのが望ましい。これは高欄2の地覆部2aの内部には鉄筋10が配筋されているので、地覆部2aを貫通するボルト7aはステンレス製のものを使用して、鉄筋10との異種金属間で腐蝕が進行することを防止するためである。また、笠板11もステンレス製のものを使用した。
【0034】
図4は、本実施形態に係る改修補強構造4の補強板5aに設けられた貫通孔14付近を示す拡大図である。
【0035】
図4に示すように、ボルト7aは補強板5aを貫通して貫通孔14内に挿通配置されていて、ボルト7aと補強板5aとの間に形成される隙間15にも高流動モルタルが充填されている。高流動モルタルの充填作業中にその隙間15から高流動モルタルが外方へ流出することを防止するための第一の流出防止材8が貫通孔14を覆うように、補強板5aのモルタル部6と反対側の表面(以下、補強板5aの外側という。)に設けられている。
【0036】
図5は、本実施形態に係る改修補強構造4の補強板5a、5bと床版3との接続部付近を示す拡大図である。
【0037】
図5に示すように、補強板5a、5bの下端は、それぞれ第一及び第二のアンカー手段16、17で床版3に固定されている。
【0038】
高欄2の外側(図中の高欄2に対して右側)に設けられている補強板5aは、その下端部が床版3の側面の下縁まで延設されていて、第一のアンカー手段16で床版3に固定されている。第一のアンカー手段16は、補強板5aの床版3の側面まで延長された下端部を貫通して床版3まで到達するボルト16aと、ボルト16aの端部に螺合して補強板5aの下端部をモルタル部6を介して床版3に締結固定するナット16bとを備えている。第一のアンカー手段16により、補強板5aの下端部が床版3に一体的に取り付けられる。
【0039】
また、高欄2の内側(図中の高欄2に対して左側)に設けられている補強板5bは、第二のアンカー手段17で床版3に固定されている。第二のアンカー手段17は、補強板5bの表面と床版3の上面とにまたがって接するように配置されたL型の連結材17aと、連結材17aの両端部を高欄2、床版3にそれぞれ固定する第一の固定部材7及び第二の固定部材17bとを備えている。
【0040】
第一の固定部材7は、連結材17a及び補強板5bを貫通するボルト7aと、このボルト7aの端部に螺合して連結材17a及び補強板5bを高欄2に締結固定するナット7bとからなる。
【0041】
第二の固定部材17bは、連結材17aを貫通して床版3まで到達するボルト17cと、このボルト17cの端部に螺合して連結材17aを床版3に締結固定するナット17dとからなる。
【0042】
各ボルト7a、17cはそれぞれ連結材17aを貫通して貫通孔18内に挿通配置されていて、各ボルト7a、17cと連結材17aとの間に形成される隙間19には高流動モルタルが充填されている。高流動モルタルの充填作業中にその隙間19から高流動モルタルが外方へ流出することを防止するための第一の流出防止材8又は第二の流出防止材20が貫通孔18を覆うように、連結材17aに取り付けられている。
【0043】
また、ボルト16a、17c、ナット16b、17d及び連結材17aは、第一の固定部材7と同様に、ステンレス製のものを用いた。
【0044】
上記のように構成された本実施形態に係る高欄2の改修補強構造4によれば、以下に示す効果が得られる。
【0045】
(1)補強板5a、5bと、モルタル部6と、第一の固定部材7とを備えるので、高欄2を補強板5a、5b及びモルタル部6で補強することとなり、風荷重や地震荷重等の水平力に対する耐力が増加する。
【0046】
(2)高欄2及び補強板5a、5bの表面には凹凸が存在するので、接着材12で補強板5a、5bを高欄2に接着する従来の方法では、接着強度にむらが生じる虞があったが、モルタル部6を設けることにより、高欄2及び補強板5a、5bの表面に凹凸が存在しても補強板5a、5bをモルタル部6を介して高欄2に強固に取り付けることができる。したがって、接着材12で接着する場合よりも強固で、かつ、安価に補強板5a、5bを取り付けることができる。
【0047】
(3)補強板5a、5bの貫通孔14を覆うように取り付けられた第一の流出防止材8を備えるので、補強板5a、5bと第一の固定部材7との間に形成された隙間15にもモルタルが圧密状態で充填される。したがって、補強板5a、5bと第一の固定部材7とによる支圧接合構造が形成され、補強板5a、5bに作用する引張力又は圧縮力をモルタル部6を介してボルト7aに伝達することができる。
【0048】
(4)補強板5a、5bと高欄2との間にスペーサー9が設置されているので、補強板5a、5bと高欄2との間にモルタルを充填するためのスペースを確保して、モルタルを確実に充填することができる。また、スペーサー9を隣接する両補強板5a、5a及び補強板5b、5bにまたがって接するように設置しているので、補強板5a同士及び補強板5b同士の接続材として機能し、補強板5a同士及び補強板5b同士をより強固に接続することができる。さらに、スペーサー9は、補強板5a、5bと同じ高靱性セメント板を用いるので、新たにスペーサー9を手配したり、在庫を管理する手間が省けるので、作業効率が良くなる。
【0049】
(5)補強板5a、5bの下端を床版3に固定するための第一及び第二のアンカー手段16、17を備えるので、補強板5a、5bを床版3に強固に固定することができる。
【0050】
(6)連結材17aの貫通孔18内にも高流動モルタルを充填するので、連結材17aとボルト7a、17cとの間に形成された隙間19にもモルタルが圧密状態で充填され、支圧接合構造となっている。すなわち、連結材17aの側面方向に作用する引張力又は圧縮力をモルタルを介してボルト7a、17cに伝達することができる。
【0051】
(7)高欄2に作用する水平方向の荷重として、例えば、風荷重が外側の補強板5a の外側に作用すると、図6に示すように、せん断力は第一の固定部材7と、高欄2の地覆部2a及びコンクリートブロック部2bと、笠板11とによって内側の補強板5bに伝達される。また、曲げモーメントは、風荷重を直接受ける外側の補強板5aに引張力が作用し、内側の補強板5bに圧縮力が作用してこれらの補強板5a、5bによってその曲げモーメントの大半が負担されることになる。よって高欄2の部分には曲げモーメントは殆ど作用せずにせん断力が支配的となる。このため、高欄2の耐曲げモーメント力が不足していても支障が生じることはなく、せん断力伝達部材として充分に機能し得て、高欄2を解体撤去することなく利用して合理的に耐力の向上を図ることができる。したがって、工期の短縮化及び環境負荷低減化によるコスト低減が可能となる。
【0052】
(8)高欄2はその両側面を補強板5a、5bで覆われ、かつ、上面を笠板11で覆われることによって、その全面が外気から遮断され雨水の浸透も可及的に防止されるので、その改修補強後に高欄2の中性化等による経時劣化を抑制することができ、耐久性が向上する。
【0053】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。以下の説明において、上記の実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0054】
図7及び図8は、本発明の第二実施形態に係る嵩上げ部22を示す断面図及び斜視図である。
【0055】
図7及び図8に示すように、両補強板5a、5bは高欄2の上端部よりも更に上方に所定の長さ延設されて、高欄2の上部に嵩上げ部22が形成されている。
【0056】
嵩上げ部22の内部には、補強板5a、5bを支持するための柱材23と、この柱材23を支持するための根固めモルタル部24とが設けられるとともに、発泡スチロール等の発泡樹脂25が充填されている。
【0057】
柱材23は、高欄2の上面に、上方に突出するとともに、両補強板5a、5bに接するように設置されている。本実施形態においては、柱材23として、チャンネル鋼材を用い、そのフランジが補強板5a、5bにそれぞれ接するように配置した。補強板5a、5bは、柱材23のフランジにネジ21で固定されている。なお、本実施形態においては、柱材23として、チャンネル鋼材を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば、H型鋼、I型鋼、角形鋼管等を用いてもよい。
【0058】
また、根固めモルタル部24は、高欄2の上に所定の厚さになるように高流動モルタルにて形成される。根固めモルタル部24の所定の厚さは、柱材23を支持するために必要な厚さであって、設計等により適宜決定される。
【0059】
発泡樹脂25は、補強板5aと補強板5bとの間で、かつ、根固めモルタル部24の上方の空洞部分に充填されている。この発泡樹脂25が流出しないように、嵩上げ部22の上端部は、第一実施形態と同様に、笠板11が設けられている。
【0060】
上記のように構成された本実施形態に係る高欄2の改修補強構造26によれば、第一実施形態と同様に、水平方向からの荷重として、例えば、外側の補強板5bに風荷重が作用すると、図9に示すように、せん断力は第一の固定部材7と、高欄2の地覆部2a及びコンクリートブロック部2bと、笠板11とによって内側の補強板5bに伝えられる。また、曲げモーメントは、風荷重を直接受ける外側の補強板5a に引張力が作用し、内側の補強板5bに圧縮力が作用してこれらの両補強板5a、5bによってその曲げモーメントの大半が負担されることになる。
【0061】
また、嵩上げ部22内には、柱材23が設置されるとともに、発泡樹脂25が充填されているので、柱材23及び発泡樹脂25を介してせん断力を内側の補強板5bに伝達することができる。ここで、柱材23及び発泡樹脂25は軽量なので、床版3に対する荷重の増大も小さい。
【0062】
さらに、嵩上げ部22によって防音壁としての機能を高めることができ、車両の走行騒音が沿線地域に拡散してしまうことを可及的に防止して、走行速度の向上を図る際の騒音増大対策にとって極めて有用なものとなる。
【0063】
なお、上述した各実施形態においては、補強板5a、5bを高欄2に固定する方法として、補強板5a、5b及び高欄2を貫通するボルト7aの両端に螺合する両ナット7b、7bを締め付ける方法について説明したが、これに限定されるものではなく、外側の補強板5aを貫通して高欄2まで到達するボルトと、内側の補強板5bを貫通して高欄2まで到達するボルトとをそれぞれ設け、各補強板5a、5bをそれぞれ高欄2に固定してもよい。
【0064】
また、上述した各実施形態においては、笠板11は、略コの字型の形状で、ステンレス製のものを用いる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、高欄2の上面を覆って雨水等の浸入を防止する機能を有するものであればよい。
【0065】
さらに、上述した各実施形態においては、スペーサー9及び補強板5a、5bをそれぞれ1枚ずつ用いる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、複数枚を重ねて用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第一実施形態に係る鉄道高架の高欄の改修補強構造を示す断面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る鉄道高架の高欄の改修補強構造を示す斜視図である。
【図3】本実施形態に係る改修補強構造の補強板と第一の固定部材との接続部分の拡大図である。
【図4】本実施形態に係る改修補強構造の補強板に設けられた貫通孔付近を示す拡大図である。
【図5】本実施形態に係る改修補強構造の補強板と床版との接続部付近を示す拡大図である。
【図6】本実施形態に係る高欄に風荷重が作用している時のせん断力と曲げモーメントとの関係及びその作用状態を示す図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る嵩上げ部を示す断面図である。
【図8】本発明の第二実施形態に係る嵩上げ部を示す斜視図である。
【図9】本実施形態に係る高欄に風荷重が作用している時のせん断力と曲げモーメントとの関係及びその作用状態を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 鉄道高架
2 高欄
2a 地覆部
2b コンクリートブロック部
3 床版
4 改修補強構造
5a、5b 補強板
6 モルタル部
7 第一の固定部材
7a ボルト
7b ナット
8 第一の流出防止材
9 スペーサー
10 鉄筋
11 笠板
12 接着材
13 接続部
14 貫通孔
15 隙間
16 第一のアンカー手段
16a ボルト
16b ナット
17 第二のアンカー手段
17a 連結材
17b 第二の固定部材
17c ボルト
17d ナット
18 貫通孔
19 隙間
20 第二の流出防止材
21 ネジ
22 嵩上げ部
23 柱材
24 根固めモルタル部
25 発泡樹脂
26 改修補強構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設構造物の壁体の改修補強構造であって、
前記壁体の側面から所定の間隔を隔てて配置された補強板と、
前記壁体と前記補強板との間にモルタルを充填して形成されたモルタル部と、
前記補強板に設けられた貫通孔及び前記モルタル部を貫通して前記補強板を前記壁体に固定する固定部材と、
前記補強板に設けられた前記貫通孔を覆うように、前記補強板の前記モルタル部と反対側の表面に取り付けられ、当該貫通孔から前記モルタルが流出することを防止する流出防止材とを備えたことを特徴とする既設構造物の壁体の改修補強構造。
【請求項2】
前記補強板同士を前記壁体の側面に沿って接続した各接続部と前記壁体との間に、前記補強板同士にまたがって接するように設けられたスペーサーを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の既設構造物の壁体の改修補強構造。
【請求項3】
前記スペーサーは、前記補強板と同じ材料からなることを特徴とする請求項2に記載の既設構造物の壁体の改修補強構造。
【請求項4】
前記補強板の下端を前記既設構造物に固定するためのアンカー手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の既設構造物の壁体の改修補強構造。
【請求項5】
前記アンカー手段は、
前記補強板及び前記既設構造物に接するように配置された連結材と、
前記連結材に設けられた貫通孔を貫通して前記連結材を前記既設構造物に固定する第二の固定部材と、
前記連結材に設けられた前記貫通孔内にモルタルを充填して形成された第二のモルタル部と、
前記連結材に設けられた前記貫通孔を覆うように前記補強板の表面に取り付けられ、当該貫通孔内に充填されたモルタルが流出することを防止する第二の流出防止材とを備えることを特徴とする請求項4に記載の既設構造物の壁体の改修補強構造。
【請求項6】
前記補強板が前記壁体の上端よりも上方に所定の長さ延設されて、前記壁体の上方に形成された嵩上げ部と、
前記壁体の上に、上方に突出するように設置され、前記嵩上げ部を支持する柱部材とを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の既設構造物の壁体の改修補強構造。
【請求項7】
既設構造物の壁体の改修補強工法において、
前記壁体の側面から所定の間隔を隔てて補強板を配置する補強板配置工程と、
前記補強板を固定部材で前記壁体に固定する固定工程と、
前記固定部材を貫通させるために前記補強板に設けられた貫通孔を覆うように、前記補強板の前記壁体と反対側の表面に流出防止材を取り付ける流出防止材取付工程と、
前記壁体と前記補強板との間にモルタルを充填するモルタル充填工程とを備えることを特徴とする既設構造物の壁体の改修補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−121360(P2010−121360A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295976(P2008−295976)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】