説明

既設護岸の補強方法

【課題】安価で工期が短く、河川や周辺への影響が少なく治水に優れた既設護岸の補強方法の提供。
【解決手段】河川岸において連続した鋼矢板11を水底地盤12に支持させた土留め壁と、該鋼矢板11上部をコンクリートで被覆した上部工13とを備えた既設護岸を補強する方法であって、補強を要する該既設護岸10前方の水底地盤12を掘り下げ、掘り下げた該水底地盤12にコンクリート等による水平なブロック設置基礎17を打設し、該ブロック設置基礎17上にL型擁壁ブロック20をクレーン18により吊り下げ、前記既設護岸10に沿うよう並列に配置し、L型擁壁ブロック20と前記既設護岸10との隙間を裏込めして擁壁30とし、L型擁壁ブロック20の周囲を土砂もしくはコンクリート等で打設して新たな水底地盤31とし、前記擁壁30を新規護岸とすることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川などの水底地盤に埋設された鋼矢板からなり、老朽化した護岸の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市化が進んだ昭和30年代、都市河川の改修工事には鋼矢板工法が多用されており、都市河川では、図7に示すように連続した鋼矢板1を水底地盤2に支持させた土留め壁と、鋼矢板1の上部をコンクリートで被覆した上部工3とを備えた護岸4が一般的である。しかし近年この鋼矢板1に錆が発生し、部分的に穴が開き始めており背面土砂5の流出による崩壊が心配されている。
【0003】
従来、鋼矢板護岸の改修工事は、既設鋼矢板を引き抜き、新たな鋼矢板の埋設を行うことが必要となる。
【0004】
しかしながら、既設の鋼矢板を引き抜く際、周辺の管理道路や住宅への影響を及ぼす危険があり、その問題を解決する手段として、次のような方法がある。図8に示すように、老朽化した護岸4の前面に新たな鋼矢板6を埋設し、既設護岸4と鋼矢板6との間を間詰めコンクリート7を打設し、間詰めコンクリート7の上部を新たな上部工8で被覆することにより、補強護岸9を形成する方法が行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の如き従来の技術では、大がかりな止水作業を必要とし、施工現場における工程が多く、工期が長期化し、施工費用が嵩むという問題があった。
【0006】
また、河川においては河川幅が減少し、河川の水の流速を速め治水工事としては不適切であった。
【0007】
そこで本発明は、上述の従来技術の問題を鑑み、安価で工期が短く、河川や周辺への影響が少なく治水に優れた既設護岸の補強方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、河川岸において連続した鋼矢板を水底地盤に支持させた土留め壁と、該鋼矢板上部をコンクリートで被覆した上部工とを備えた既設護岸を補強する方法であって、補強を要する該既設護岸前方の水底地盤を掘り下げ、掘り下げた該水底地盤にコンクリート等による水平な基礎を打設し、該基礎上に擁壁ブロックをクレーンにより吊り下げ、前記既設護岸に沿うよう並列に配置し、該擁壁ブロックと前記既設護岸との隙間を裏込めして擁壁とし、前記擁壁ブロックの周囲を土砂もしくはコンクリート等で打設して新たな水底地盤とし、前記擁壁を新規護岸とすることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は河川岸において連続した鋼矢板を水底地盤に支持させた土留め壁と、該鋼矢板上部をコンクリートで被覆した上部工とを備えた既設護岸を補強する方法であって、補強を要する該既設護岸から一定の距離を持って平行に遮水壁を構築し、該遮水壁と前記既設護岸間より河川の水の排除を行うことで施工空間を形成し、該施工空間の水底地盤を掘り下げ、掘り下げた該水底地盤にコンクリート等による水平な基礎を打設し、該基礎上に擁壁ブロックをクレーンにより吊り下げ、前記既設護岸に沿うよう並列に配置し、該擁壁ブロックと前記既設護岸との隙間を裏込めして擁壁とし、前記擁壁ブロックの周囲を土砂もしくはコンクリート等で打設して新たな水底地盤とし、前記遮水壁を取り払い河川の流れを戻すことで前記擁壁を新規護岸とすることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2の構成に加え、河川の両岸が連続した鋼矢板を水底地盤に支持させた土留め壁と、該鋼矢板上部をコンクリートで被覆した上部工とを備えた既設護岸であり、前記遮水壁を河川中央流れ方向に構築し、河川の流れを一方の前記既設護岸に寄せ、もう一方の前記既設護岸側に施工空間を形成し、両岸を交互に施工することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1、2又は3の構成に加え、前記擁壁ブロックは、前記基礎上に乗せられる底板部と該底板部の背縁から直立に立ち上げられた擁壁部とが一体成型され、断面がL字状のプレキャストコンクリート製L型擁壁ブロックであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る既設護岸の補強方法は、河川岸において連続した鋼矢板を水底地盤に支持させた土留め壁と、該鋼矢板上部をコンクリートで被覆した上部工とを備えた既設護岸を補強する方法であって、補強を要する該既設護岸前方の水底地盤を掘り下げ、掘り下げた該水底地盤にコンクリート等による水平な基礎を打設し、該基礎上に擁壁ブロックをクレーンにより吊り下げ、前記既設護岸に沿うよう並列に配置し、該擁壁ブロックと前記既設護岸との隙間を裏込めして擁壁とし、前記擁壁ブロックの周囲を土砂もしくはコンクリート等で打設して新たな水底地盤とし、前記擁壁を新規護岸とすることにより、別の場所で成型した擁壁ブロックを運び込むことで現場での施工期間が短く、管理道路や住宅など周辺環境への影響が少なくなる。
【0013】
河川岸において連続した鋼矢板を水底地盤に支持させた土留め壁と、該鋼矢板上部をコンクリートで被覆した上部工とを備えた既設護岸を補強する方法であって、補強を要する該既設護岸から一定の距離を持って平行に遮水壁を構築し、該遮水壁と前記既設護岸間より河川の水の排除を行うことで施工空間を形成し、該施工空間の水底地盤を掘り下げ、掘り下げた該水底地盤にコンクリート等による水平な基礎を打設し、該基礎上に擁壁ブロックをクレーンにより吊り下げ、前記既設護岸に沿うよう並列に配置し、該擁壁ブロックと前記既設護岸との隙間を裏込めして擁壁とし、前記擁壁ブロックの周囲を土砂もしくはコンクリート等で打設して新たな水底地盤とし、前記遮水壁を取り払い河川の流れを戻すことで前記擁壁を新規護岸とすることにより、河川の水を河川内で処理しながら、ドライ状態の施工空間を確保することが可能となる。
【0014】
河川の両岸が連続した鋼矢板を水底地盤に支持させた土留め壁と、該鋼矢板上部をコンクリートで被覆した上部工とを備えた既設護岸であり、前記遮水壁を河川中央流れ方向に構築し、河川の流れを一方の前記既設護岸に寄せ、もう一方の前記既設護岸側に施工空間を形成し、両岸を交互に施工することにより、施工範囲を河川の水を河川内で処理でき、大規模な止水作業を必要とせずに両岸の補強工事が可能である。
【0015】
前記擁壁ブロックは、前記基礎上に乗せられる底板部と該底板部の背縁から直立に立ち上げられた擁壁部とが一体成型され、断面がL字状のプレキャストコンクリート製L型擁壁ブロックであることにより、丈夫で精度が高く、土圧を考慮して成型可能であり、施工後鋼矢板が崩壊しても対応できる。また、施工後は河川幅が狭くなるものの、粗度係数が低下し、許容可能な流量は大きくなるため、治水管理の面でも有効となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明に係る既設護岸の補強方法について説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る既設護岸の補強方法の実施例を示しており、図中符号10は既設護岸であり、20はL型擁壁ブロック、30は擁壁である。
【0018】
この河川の既設護岸10は連続した鋼矢板11を水底地盤12に支持させた土留め壁と、鋼矢板11上部をコンクリートで被覆した上部工13とを備え、両岸に河川を挟むように構築されているものとする。
【0019】
L型擁壁ブロック20は、図2に示すように水平な底板部21と、底板部21の背縁から直立に立ち上げられた擁壁部22とが一体成型され、断面がL字状のプレキャストコンクリート製の擁壁ブロックである。
【0020】
次に本発明に係る既設護岸の補強方法を、図3〜図6を用いて説明する。
【0021】
まず、図3に示すように既設護岸から一定の距離を持って平行に土嚢により遮水壁14を構築することで河川を分水し、河川の水を逃がす流水部15と、既設護岸10の補強を施工する施工部16を形成する。流水部15側に河川の水の流れを寄せ、施工部16にドライ空間を確保した後、現れた水底地盤12の一部を掘り下げ、掘り下げた水底地盤12にL型擁壁ブロック20設置の為の上面が水平なブロック設置基礎17を栗石層やコンクリートによって打設する。打設したブロック設置基礎17の上に、別の場所で成型したL型擁壁ブロック20、20……を擁壁部22が既設護岸10に沿うよう河川の流れ方向に連続して配置する。このときL型擁壁ブロック20は、陸上のクレーン18により吊り下げ河川の上方より設置する。
【0022】
次いで、図4に示すようにL型擁壁ブロック20を配置した既設護岸10側に河川の水の流れを移して流水部15と施工部16とを逆転させ、もう一方の既設護岸10側にドライ空間を確保する。こちらももう一方の既設護岸10と同様に水底地盤12の一部を掘り下げ、掘り下げた水底地盤12に栗石層やコンクリートによって上面が水平なブロック設置基礎17を打設する。打設したブロック設置基礎17の上にL型擁壁ブロック20、20……を擁壁部22が既設護岸10に沿うようクレーン18により河川の流れ方向に連続して配置する。
【0023】
このように両岸の既設護岸10に沿うよう河川の流れ方向にL型擁壁ブロック20を多数並べた後、図5に示す如くL型擁壁ブロック20背面と既設護岸10の隙間に裏込め土砂19を充填して、既設護岸10に代わる新たな擁壁30を構築し固定する。
【0024】
擁壁30固定後、両岸のL型擁壁ブロック20の底板部21を新たな水底地盤31とする為、図6のように高さに合わせて河川中央を土砂で固めるかコンクリートを打設し、構築された擁壁30を新たな護岸として遮水壁14を排除し、河川内の水の流れを元に戻して完了となる。
【0025】
尚、上述の実施例では、両岸が鋼矢板11による既設護岸10としたが一方の岸が鋼矢板による既設護岸の場合でも同様に施工可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る既設護岸の補強方法の実施例を示す斜視図である。
【図2】同上のL型擁壁ブロックを示す斜視図である。
【図3】図1の既設護岸一方の補強工程を示す断面図である。
【図4】図1の既設護岸のもう一方の補強工程を示す断面図である。
【図5】同上の既設護岸の補強工程を示す断面図である。
【図6】図1中の断面図である。
【図7】従来の鋼矢板護岸の一例を示す断面図である。
【図8】従来の既設護岸の補強方法の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10 既設護岸
11 鋼矢板
12 水底地盤
13 上部工
14 遮水壁
15 流水部
16 施工部
17 ブロック設置基礎
18 クレーン
19 裏込め土砂
20 L型擁壁ブロック
21 底板部
22 擁壁部
30 擁壁
31 水底地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川岸において連続した鋼矢板を水底地盤に支持させた土留め壁と、該鋼矢板上部をコンクリートで被覆した上部工とを備えた既設護岸を補強する方法であって、
補強を要する該既設護岸前方の水底地盤を掘り下げ、掘り下げた該水底地盤にコンクリート等による水平な基礎を打設し、
該基礎上に擁壁ブロックをクレーンにより吊り下げ、前記既設護岸に沿うよう並列に配置し、該擁壁ブロックと前記既設護岸との隙間を裏込めして擁壁とし、
前記擁壁ブロックの周囲を土砂もしくはコンクリート等で打設して新たな水底地盤とし、前記擁壁を新規護岸とすることを特徴としてなる既設護岸の補強方法。
【請求項2】
河川岸において連続した鋼矢板を水底地盤に支持させた土留め壁と、該鋼矢板上部をコンクリートで被覆した上部工とを備えた既設護岸を補強する方法であって、
補強を要する該既設護岸から一定の距離を持って平行に遮水壁を構築し、該遮水壁と前記既設護岸間より河川の水の排除を行うことで施工空間を形成し、該施工空間の水底地盤を掘り下げ、掘り下げた該水底地盤にコンクリート等による水平な基礎を打設し、
該基礎上に擁壁ブロックをクレーンにより吊り下げ、前記既設護岸に沿うよう並列に配置し、該擁壁ブロックと前記既設護岸との隙間を裏込めして擁壁とし、
前記擁壁ブロックの周囲を土砂もしくはコンクリート等で打設して新たな水底地盤とし、前記遮水壁を取り払い河川の流れを戻すことで前記擁壁を新規護岸とすることを特徴としてなる既設護岸の補強方法。
【請求項3】
河川の両岸が連続した鋼矢板を水底地盤に支持させた土留め壁と、該鋼矢板上部をコンクリートで被覆した上部工とを備えた既設護岸であり、前記遮水壁を河川中央流れ方向に構築し、河川の流れを一方の前記既設護岸に寄せ、もう一方の前記既設護岸側に施工空間を形成し、両岸を交互に施工することを特徴としてなる請求項2に記載の既設護岸の補強方法。
【請求項4】
前記擁壁ブロックは、前記基礎上に乗せられる底板部と該底板部の背縁から直立に立ち上げられた擁壁部とが一体成型され、断面がL字状のプレキャストコンクリート製L型擁壁ブロックである請求項1、2又は3に記載の既設護岸の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−196271(P2010−196271A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39487(P2009−39487)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(390001306)興建産業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】