説明

既設鋼部材アーチ橋の補修・補強構造

【課題】 既設鋼アーチ橋の橋梁を撤去することなく、この既存鋼アーチ橋梁をコンクリートで巻き立てて合成アーチ橋とすることにより、資源の有効活用ができると共に、維持管理費の低減ができ、さらに剛性が高くて変形、振動が小さく既設鋼製アーチ橋梁の補修・補強を提供することを目的とする。
【解決手段】 既設鋼部材アーチ橋1において、既設アーチアバット2を補強鉄筋コンクリート17で補強し、さらに既設鋼アーチリブ2を補強鉄筋コンクリート16で巻き立てて合成構造とし、さらに既設鋼鉛直材5を補強鉄筋コンクリート31で補強して既設鋼部材アーチ橋をコンクリートアーチ橋に構造変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設鋼部材アーチ橋を解体しないで補修可能とし、かつ既設鋼部材の再利用を可能とした既設鋼部材アーチ橋の補修・補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
渓谷などに架設される橋は、優れた構造系であることや、周囲の景観との兼ねあいからアーチ構造系の橋が多く架設されている。これらのアーチ構造系の橋のなかでも、鋼部材アーチ橋は長年の経過により腐食、錆など経年劣化が進んで強度が低下し補修・補強が必要なケースが多く存在する。
【0003】
特に、山間部に位置する鋼部材アーチ橋では、古い荷重条件で設計されていて大型の車両が通行できない場合がある。その場合、鋼部材アーチ橋の補修・補強のために既設アーチ橋の橋梁を撤去して新設橋梁を構築できればよいが、これが困難な場合も多くある。このような立地条件の場合、従来は、既設橋梁の各部位毎に解体し新部材に取り替えるとか、添部材を取付けるなどにより補強する方法が主流である。しかし、この従来の補修・補強方法では、経年劣化した橋梁の抜本的な耐荷力は向上することができないのが実状である。
【0004】
本発明は、前記従来の補強構造を改めて既設橋梁にコンクリートを巻く補修・補強構造であるが、この種の従来技術は存在しない。なお、アーチ橋を新しく構築する場合のコンクリート巻き既設鋼アーチリブの構築方法に関し、特開平8−68014号に開示のものがあるが、これは経年劣化した橋梁を補修・補強するものではない。
【特許文献1】特開平8−68014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
設計当時の設計荷重がTL−20で架設された鋼部材アーチ橋の橋梁において、既設鋼部材の補修・補強に際し、現在のB活荷重に対応できる構造に耐力を向上させたい場合、(1)既設鋼部材を使用する補強方法、(2)既設鋼部材を撤去し、新設鋼部材を既設鋼部材と取り替える方法がある。しかし、(1)の既設鋼部材を使用して補強する方法では、耐力アップした部材は、既設橋梁より部材寸法が大きくなり周辺に影響するという問題がある。また、(2)の新設の橋梁とする場合は、架設が困難となる。さらに、(1)の補強方法の場合は、将来にわたる耐久性への懸念や維持管理等の保守の必要性が大いにある。
【0006】
本発明は、前記従来の欠点を改良したものである。すなわち、本発明は、既設鋼部材アーチ橋の補修・補強に際し、立地条件のため既設のアーチ橋梁を撤去したり、新設の橋梁を構築することが困難な鋼アーチ橋が山間部などに多く存在することに鑑みて、これらのアーチ橋梁を対象として、既存の鋼アーチ橋を荷重が重くなるが、その荷重条件を満たす範囲でコンクリートを巻き立てて合成アーチ橋とすることで、より剛性の高いコンクリートアーチ橋を構築することで、補修・補強の目的を達成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明は、次のように構成する。
【0008】
第1の発明は、既設鋼部材アーチ橋の補修・補強構造であって、既設鋼アーチリブを補強鉄筋コンクリートで巻き立てて合成構造とすることで、該既設鋼アーチリブを再利用が可能な構造としたことを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、既設鋼アーチリブの端部を継手ヒンジを介して連結する既設アーチアバットを補強鉄筋コンクリートで補強すると共に、該アバット部補強鉄筋コンクリートと既設鋼アーチリブの補強鉄筋コンクリートとを一体化したことを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、第1または第2の発明において、既設鋼アーチリブから立上がる既設鋼鉛直材を補強鉄筋コンクリートで巻き立てて合成構造としたうえ、該補強鉄筋コンクリートと既設鋼アーチリブの補強鉄筋コンクリートとを一体化することで、既設鋼部材アーチ橋の橋梁を維持管理が不要なコンクリート橋に構造変化させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、山間部に多く存在する、新設の橋梁を構築することが困難な立地条件にある橋梁の既設鋼アーチリブを解体することなく、既設鋼アーチリブを利用して吊足場を作り、かつこの既設鋼アーチリブを補強鉄筋コンクリートで巻き立てて合成構造とすることで、補修・補強の施工期間の短縮を図れるうえ、既設鋼部材の再利用ができ資源の有効活用ができる。
【0012】
さらに、既設鋼アーチリブの補強鉄筋コンクリートと、既設鋼鉛直材の巻き立て補強鉄筋コンクリートと、既設アーチアバットを補強鉄筋コンクリートとを一体化して既設鋼部材アーチ橋をコンクリートアーチ橋に変化した合成構造とすることで、アーチ橋の変形、振動が小さくできるうえ、コンクリート橋への変更で維持管理費を低減した構造となる。なお、上部構造に工場製PC桁を使用し、架設を容易にすることで、補修・補強の必要な施工期間の一層の短縮を図れる構造にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
既設鋼部材アーチ橋を補修・補強するに際して、既設鋼アーチリブを鋼部材のままで設計荷重のアップに耐え得る構造とするためには、新設の鋼部材を既設鋼部材の1本づつに対応して補強するか、または、既設鋼部材の全部を新設の鋼部材と取り替えなければならないが、そうすると新設の橋梁と変わらなくなる。
【0014】
そこで、本発明では、既設鋼アーチ橋を利用し、鋼部材をコンクリートで巻き、耐力アップに対応するようにした。但し、コンクリートで巻くわけなので当然橋梁の重量がアップし、既設アーチアバットも大荷重に耐えることが必要になる。このため既設アーチアバットと既設鋼アーチリブとが連結されたヒンジ部もコンクリートで巻き、既設アーチリブに巻いた補強コンクリートと一体化して増加した重量をコンクリート補強した既設アーチアバットに負担させている。
【0015】
以下、本発明の実施形態を図を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施対象である既設鋼部材アーチ橋1の側面図である。この既設鋼部材アーチ橋1は、H型鋼などからなる既設鋼アーチリブ2が河川や谷等の凹地3の上に架橋されていて、既設鋼アーチリブ2の端部は継手ヒンジを介して既設アーチアバット4に連結支持されている。既設鋼アーチリブ2上には、H型鋼などからなる既設鋼鉛直材5が立設されており、その上に上部工(橋体)6が載置され、橋体6の端部は橋台7に固定されて既設鋼部材アーチ橋1が架設されている。
【0017】
図2〜図4を参照して、前記既設鋼部材アーチ橋1の改修工程の概要をステップ1〜7にて説明する。
【0018】
図2aに示すステップ1では、トラッククレーン8を用いて橋体6の舗装版破砕・撤去及び床版切断撤去を行う。
【0019】
図2bに示すステップ2では、アーチクラウン10と一部の既設鋼鉛直材5を残して、縦桁や他の既設鋼鉛直材を撤去する。
【0020】
図2cに示すステップ3では、橋台7や既設アーチアバット4のコンクリート補強を行う(既設アーチアバット4のコンクリート補強は本発明の主要素の1つであり、詳細は図5によって後述する)。
【0021】
図3に示すステップ4では、吊足場枠11の設置と防護工の設置を行う(吊足場枠11の設置の詳細は図7によって後述する)。
【0022】
図4aに示すステップ5では、既設鋼アーチリブ2にコンクリート巻きを施して補強する(既設アーチリブ2のコンクリート補強は本発明の主要素の1つであり、詳細は図6、図7によって後述する)。
【0023】
図4bに示すステップ6では、既設鋼鉛直材5の周りに型枠12を組みコンクリート巻きを施して補強する(既設鋼鉛直材5のコンクリート補強は本発明の主要素の1つであり、詳細は図8によって後述する)。
【0024】
図4cに示すステップ7では、吊足場枠11を撤去し、プレテンション導入桁による新橋体6aを施工する。
【0025】
本発明は、前記ステップ1〜7の改修工程において、ステップ3、5、6におけるアーチ梁部の補修・補強構造に特徴を有している。以下順に説明する。
【0026】
図5に示すように既設鋼アーチリブ2の端部が継手ヒンジ13で既設アーチアバット4に連結されている。既設アーチアバット4は基礎コンクリート14にフーチング定着アンカー15を埋設して構成されているが、この既設アーチアバット4が腐食など経年劣化しているおそれがあると共に、後述のアーチリブ部補強鉄筋コンクリート16の施工でアバット部に大きな荷重が作用するので、この既設アーチアバット4も補強する必要がある。このため、本発明では、アバット部基礎コンクリート14を一部はつってアバット部補強鉄筋コンクリート17を打設する。これにより既設アーチアバット4と既設鋼アーチリブ4と継手ヒンジ13が該アバット部補強鉄筋コンクリート17に埋設された合成補強構造としてアバット部が大きな荷重に耐えるように補強する。図5は、アーチリブ部補強鉄筋コンクリート17が打設され、かつアバット部補強鉄筋コンクリート16と一体化された状態を示している。
【0027】
図6は既設鋼アーチリブ2がアーチリブ部補強鉄筋コンクリート16の巻き立てにより補強された断面図を示し、図7は、このアーチリブ部補強鉄筋コンクリート16を巻き立て施工する際の吊足場枠11や型枠18の設置態様を示している。図6、図7に示すように、既設鋼アーチリブ2は左右平行に配置したH型鋼製のアーチ梁19の間をH型鋼製の連結梁20で連結して構成されており、この既設鋼アーチリブ2の周りに補強用鉄筋21を配筋すると共に、アーチリブ部補強鉄筋コンクリート16を巻き立てて補強する。
【0028】
アーチリブ部補強鉄筋コンクリート16の巻き立て施工に際しては、図7に示すように、既設鋼アーチリブ2の上部に角形鋼管などからなる吊り枠22を設置し、下部に同じく角形鋼管などからなる吊足場枠11を設置し、吊足場枠11は、既設鋼アーチリブ2の両側に配置され、上部が吊り枠22に連結された角形鋼管などからなる吊り枠材23の下部で支持されている。また、吊足場枠11が左右に揺れるのを防止するため、吊り枠材23と既設鋼アーチリブ2のアーチ梁19の間に結合棒24が張設されている。また、吊り枠22と既設鋼アーチリブ2を結合するため連結梁20の上部に設けた支保工部材25と吊り枠22の間に複数の結合棒24が張設されている。
【0029】
吊足場枠11の上には型枠受けフレーム26が配置されていて、この型枠受けフレーム26は、吊り枠22により高さ調整自在に支持された吊り棒27で支持されている。また、既設鋼アーチリブ2の周囲を取囲むように型枠18が配置されており、型枠18の下部は型枠受けフレーム26から立上がる複数本の型枠支持棒28で支持されている。下部の型枠18を組んだ後、補強用鉄筋21(図6に示す)を配筋し、その後に側部の型枠を設置し、型枠18内にコンクリートを打設する。コンクリートは、既設鋼アーチリブ2が座屈を起こさないように複数回に分けて打設する。コンクリートの打設が完了し養生後、型枠を脱型し吊足場枠11などの支保工を解体する(なお、図7では補強用鉄筋21は省略している)。
【0030】
アーチリブ部補強鉄筋コンクリート16の巻き立て施工が完了した後、既設鋼鉛直材5の補強コンクリート打設を行う。図8は図1のA部の拡大断面図で、既設鋼鉛直材5は、既設鋼アーチリブ2の左右のアーチ梁19から平行に立上がるH型鋼製の鉛直梁29と左右の鉛直梁29を繋ぐ連結梁30とからなる。この既設鋼鉛直材5の周囲を取囲むように型枠12を配置し(図4bのステップ6に示す)、補強鉄筋32を配筋すると共にコンクリートを打設することで既設鋼鉛直材5は、鋼鉛直材補強鉄筋コンクリート31で補強される。鋼鉛直材補強鉄筋コンクリート31の下部はアーチリブ部補強鉄筋コンクリート16と一体化される。
【0031】
前記のとおり、本発明によると既設鋼部材アーチ橋1のアーチ部の各部を補強鉄筋コンクリートで巻いて補強することで、既設鋼製アーチ橋はコンクリートアーチ橋に構造変化して合成構造となる。このように本発明の補修・補強構造によると、既設アーチ橋の橋梁を撤去することなく、新設の橋梁を構築することが可能な構造であり、アーチ橋の変形、振動が小さくできるうえ、既設アーチアバット4と既設鋼アーチリブ2と既設鋼鉛直材5がRC造で一体化した再利用構造にでき、資源の有効活用を行うことができる。さらに、鋼製アーチ橋からコンクリートアーチ橋への変更で維持管理費費用を低減できる構造となる。
【0032】
なお、上部工(橋体6a)の施工には、工場製プレキャストPC桁を架設し、これにより従来必要としていた支保工施工をなくして施工工期の短縮を図った。 この上部工6aは、連結構造としていることから、走行性がよく耐震性能も向上した構造である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施対象である既設鋼部材アーチ橋の側面図である。
【図2】(a)、(b)、(c)は、本発明の補修・補強構造を実施する工程のステップ1、2、3を示す側面説明図である。
【図3】本発明の補修・補強構造を実施する工程のステップ4を示す側面説明図である。
【図4】(a)、(b)、(c)は、本発明の補修・補強構造を実施する工程のステップ5、6、7を示す側面説明図である。
【図5】既設アーチアバットの補修・補強構造を示す詳細図である。
【図6】既設鋼アーチリブを補強鉄筋コンクリートで巻き立てた状態を示す断面図である。
【図7】既設鋼アーチリブにコンクリートを打設するための吊足場枠と型枠の配置態様を示す説明図である。
【図8】既設鋼鉛直材を補強鉄筋コンクリートで巻き立てた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 既設鋼部材アーチ橋
2 既設鋼アーチリブ
3 凹地
4 既設アーチアバット
5 既設鋼鉛直材
6 橋体(上部工)
6a 新橋体
7 橋台
8 トラッククレーン
10 アーチクラウン
11 吊足場枠
12 型枠
13 継手ヒンジ
14 基礎コンクリート
15 フーチング定着アンカー
16 アーチリブ部補強鉄筋コンクリート
17 アバット部補強鉄筋コンクリート
18 型枠
19 アーチ梁
20 連結梁
21 補強用鉄筋
22 吊り枠
23 吊り枠材
24 連結棒
25 支保工材
26 型枠受けフレーム
27 吊り棒
28 型枠支持棒
29 鋼鉛直梁
30 連結梁
31 鋼鉛直材補強鉄筋コンクリート
32 補強用鉄筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設鋼部材アーチ橋において、既設鋼アーチリブを補強鉄筋コンクリートで巻き立てて合成構造とすることで、該既設鋼アーチリブを再利用が可能な構造としたことを特徴とする既設鋼部材アーチ橋の補修・補強構造。
【請求項2】
既設鋼アーチリブの端部を継手ヒンジを介して連結する既設アーチアバットを補強鉄筋コンクリートで補強すると共に、該アバット部補強鉄筋コンクリートと既設鋼アーチリブの補強鉄筋コンクリートとを一体化したことを特徴とする請求項1記載の既設鋼部材アーチ橋の補修・補強構造。
【請求項3】
既設鋼アーチリブから立上がる既設鋼鉛直材を補強鉄筋コンクリートで巻き立てて合成構造としたうえ、該補強鉄筋コンクリートと既設鋼アーチリブの補強鉄筋コンクリートとを一体化することで、既設鋼部材アーチ橋の橋梁を維持管理が不要なコンクリート橋に構造変化させたことを特徴とする請求項1または2記載の既設鋼部材アーチ橋の補修・補強構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−90026(P2006−90026A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277458(P2004−277458)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000103769)オリエンタル建設株式会社 (136)
【出願人】(504360266)株式会社エコー建設コンサルタント (2)
【Fターム(参考)】