説明

既設ALCパネルの補強構造及び補強工法

【課題】既設のALCパネルにその屋外側からだけで容易に補強処理を行うことができると共に、補強後の外観の変化がなく美観に優れる既設ALCパネルの補強構造を提供することを目的とする。
【解決手段】ALCパネル7の内部に埋設されている支持金物の両側に延びるようにALCパネル7の屋外側に溝71を形成し、補強用金物10をALCパネル7の内部鉄筋72の屋外側で溝71に埋設すると共に、補強用金物10を支持金物に固定して取り付け、補強用金物10を内部鉄筋72に接合し、溝71を補修材で埋める既設ALCパネルの補強構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばビル等の既設建築物に外壁材等として使用されているALC(軽量気泡コンクリート)パネルが経年劣化などにより耐力が低下した場合に適用する既設ALCパネルの補強構造及び補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルを製造する際には、一般に、けい石、生石灰、セメントなどの主成分と発泡剤としてアルミ粉末を添加した原料スラリーを、補強鉄筋を配置した型枠内に注入して、発泡・硬化させて半硬化状態となったALCブロックを型枠内から取り出し、所定の張力で緊張させたピアノ線等のワイヤカッターで所定の大きさのパネル状に切断する。次いで、その切断された半硬化状体のALCパネルをオートクレーブで蒸気養生した後、適宜表面加工等を施して製品化される。
【0003】
そのようにして製品化されたALCパネルは、縦長方向ないし横長方向に建物壁面として配置し、様々な取り付け工法により建物躯体に取り付けられるが、過去の大きな地震を教訓として耐震性能が強化されてきている建築物とともに、取り付け工法も耐震性能を強化するといったように変化してきている。
【0004】
図3(a)、(b)は、取り付け工法であるALC横壁ボルト止め工法の施工例を示すものであり、建物躯体であるH型鋼等によりなる柱材1にアングル材(定規アングル)等よりなる下地鋼材2を取り付け、その下地鋼材2にALCパネル7の自重を受けるアングル材等よりなる受け鋼材3を溶接等で固着し、その上にALCパネル7を載せ、丸座金4及びナット5が取り付けられるフックボルト6をALCパネル7に貫通させ、フックボルト6のフック部61を下地鋼材2に溶接等で固着することにより、ALCパネル7の壁面として構成されるものである。図中、8はALCパネル7・7間に設けられるシーリング材等の隙間処理材である。
【0005】
尚、特許文献1には、既設ALCパネルの取付構造として、下地鋼材の側面に棒状体を介して支持板を取り付け、その支持板と下地鋼材との間にALCパネルを挟んで固定するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−255045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記ALC横壁ボルト止め工法は、ALCパネル7をフックボルト6を貫通させて、丸座金4でALCパネル7の母材自体を受けることにより、ALCパネル7の面外方向の力を支えているが、ALCパネル7の経年劣化による母材の強度低下や、過去の地震等によりALCパネル7の丸座金4、フックボルト6が設けられている取付部にひび割れが生じる等により、耐力に支障をきたす恐れがある。すなわち、経年劣化したALCパネル7、ひび割れが生じたALCパネル7は、一般に物性が低下し、それによって強度も低下する。しかし、経年劣化の程度は建物の維持管理、おかれている環境などによってまちまちで、今後の継続的な使用の適否をいつ判断すべきかは一概には決められないが、少なくとも20年以上経過したALC建物は専門家による劣化診断を受けて、適切なメンテナンスを行う必要がある。
【0008】
その場合、かなり劣化を受けたALC パネルでも曲げ耐力は十分に安全側に設計されているので殆ど問題ないが、取付部の強度については詳細な調査により、必要に応じて補強工事を行うとよく、また今後予想される大地震に対応するためにも、地球環境のためにも既存ALC建物の安全を考慮した補強対策が必要な場合も少なくない。しかし、既設建築物はその殆どが使用中で、外壁の内部側には内装や屋内装置品等が設置されていることから、屋内側から補強対策を施すことはできない等の問題があった。また、屋外から補強を行う場合においても、その補強用金物がパネル表面に現れてしまい、外観が変化してしまうといった問題があった。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みて提案したものであり、既設のALCパネルにその屋外側からだけで容易に補強処理を行うことができると共に、補強後の外観の変化がなく美観に優れる既設ALCパネルの補強構造及び補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の既設ALCパネルの補強構造は、ALCパネルの内部に埋設されている支持金物の両側に延びるようにALCパネルの屋外側に溝を形成し、補強用金物を前記ALCパネルの内部鉄筋の屋外側で前記溝に埋設すると共に、前記補強用金物を前記支持金物に固定して取り付け、前記溝を補修材で埋めることを特徴とする。
この構成によれば、既設のALCパネルにその屋外側からだけで容易に補強処理を行うことができると共に、補強後の外観の変化がなく優れた美観を得ることができる。また、支持金物の両側に延びる補強用金物により、高強度の補強を行うことができる。
【0011】
本発明の既設ALCパネルの補強構造は、前記補強用金物を前記内部鉄筋に接合することを特徴とする。
この構成によれば、例えば丸座金、フックボルトが設けられている取付部の高強度など、より高い補強強度を得ることができる。特に、ALC母材の強度に依存せず、ALCパネルの内部鉄筋で補強用金物を支えることが可能であるため、ALCパネルの劣化状態によらずにALCパネルの取付部等を補強することができる。
【0012】
本発明の既設ALCパネルの補強構造は、前記補強用金物を略中央の座金部と、その両側の腕部とから構成し、前記支持金物をボルトと、その外側で螺合されているナットとから構成し、前記座金部を前記ボルトに嵌め込み、その外側から前記ナットを螺合することにより、前記補強用金物を前記支持金物に固定することを特徴とする。
この構成によれば、支持金物をボルトとナットとから構成する場合に、高強度の補強用金物を簡単に取り付けることができる。
【0013】
本発明の既設ALCパネルの補強工法は、ALCパネルの内部に、ボルト及びその外側で螺合されているナットとから構成される支持金物が埋設されている劣化箇所で、前記支持金物の両側に延びるように且つALCパネルの幅方向に延びるようにして溝を形成する工程と、略中央の座金部及びその両側の腕部とから構成される補強用金物を、前記座金部を前記ボルトに嵌め込んで前記ナットを締め付ける若しくは前記支持金物に溶接することにより前記支持金物に固定すると共に、前記内部鉄筋に溶接して接合し、前記ALCパネルの内部鉄筋の屋外側で前記溝に埋設する工程と、前記溝を補修材で埋める工程とを備えることを特徴とする。
この構成によれば、既設のALCパネルにその屋外側からだけで容易に補強処理を行うことができると共に、補強後の外観の変化がなく優れた美観を得ることができる。また、支持金物の両側に延びる補強用金物により、より高強度の補強を行うことができる。更に、簡単な施工で補強を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の既設ALCパネルの補強構造或いは補強工法は、屋内が使用中であっても、また屋内に内装や屋内装置品があっても屋外側からだけの施工で、ALCパネルに補強用金物を埋め込むことが可能であり、既設のALCパネルにその屋外側からだけで容易に補強処理を行うことができる。また、補強後の外観の変化がなく優れた美観を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による実施形態の既設ALCパネルの補強構造を示す断面図。
【図2】実施形態における補強用金物を示す斜視図。
【図3】(a)及び(b)はALC横壁ボルト止め工法の施工例の構造を説明する斜視説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔実施形態の既設ALCパネルの補強構造及び補強工法〕
本発明による実施形態の既設ALCパネルの補強構造及び補強工法について説明する。図1は実施形態の既設ALCパネルの補強構造を示す断面図、図2は実施形態における補強用金物を示す斜視図である。
【0017】
本実施形態の既設ALCパネルの補強構造は、上述のALCボルト止め工法によって施工された既設ALCパネルに適用するものである。その既設ALCパネルは、図3の上記従来例と同様に、建物躯体であるH型鋼等によりなる柱材1にアングル材(定規アングル)等よりなる下地鋼材2を取り付け、その下地鋼材2にALCパネル7の自重を受けるアングル材等よりなる受け鋼材3を溶接等で固着し、その上にALCパネル7を載せ、支持金物に相当する丸座金4及びナット5が取り付けられているフックボルト6をALCパネル7に貫通させ、フックボルト6のフック部61を下地鋼材2に溶接等で固着している。ALCパネル7・7間にはシーリング材等の隙間処理材8が設けられている。
【0018】
そして、本実施形態の補強構造では、図1に示すように、丸座金4の周辺のALCパネル7が屋外側から掘り込まれて、ALCパネル7の内部に埋設され、フックボルト6の外側寄りに嵌め込まれてALCパネル7を保持する丸座金4、フックボルト6の外側寄りで螺合されているナット5及びフックボルト6のパネル幅方向両側に延びるように溝71が形成されている。補強用金物10はALCパネル7の内部鉄筋72の屋外側で溝71に埋設されていると共に、支持金物であるフックボルト6に固定して取り付けられている。
【0019】
補強用金物10は、図2に示すように、中心に穴12が形成されている略中央の座金部11と、座金部11の両側から反対方向に突出して形成されている腕部13とを有する。補強用金物10の座金部11の穴12にはフックボルト6が貫通して配置、換言すれば座金部11がフックボルト6に嵌め込まれ、その外側にナット5を螺合することにより、補強用金物10はフックボルト6に固定されている。フックボルト6に予め丸座金4、ナット5が設けられている場合には、一旦ナット5を取り外し、穴12にフックボルト6を挿入するようにして補強用金物10を溝71内に配置し、再度ナット5を螺合して補強用金物10を固定する。
【0020】
補強用金物10が埋設された溝71には、補修材が埋められて補修される。尚、溝71内に埋設される補強用金物10は、好適には内部鉄筋72に溶接等で接合すると、強度を一層高めることができて好ましい。
【0021】
本実施形態の補強構造を施工する際には、先ず既設の丸座金4、ナット5及びフックボルト6が埋め込んであるALCパネル7の劣化箇所の部分において、その表面のALC補修材を取り外す。ALCボルト止め工法において劣化が進んだ場合は、ほぼ全てのフックボルト6の位置で表面の補修材にひび割れを生じており、そのひび割れ部分を全面的に取り外す。
【0022】
更に、支持金物であるフックボルト6等の両側に延びるように且つALCパネル7の幅方向に延びるようにして溝71を形成する。溝71は、補強用金物10の座金部11を埋め込む大きさと深さに掘り込むと共に、腕部13を埋め込むようにALCパネル7の幅方向に向かって溝71を掘り込む。この際、ALCパネル7の内部鉄筋72を切断しないように、内部鉄筋72の表面まで掘り込みを行う。
【0023】
既設のフックボルト6の先端に設けられているナット5を取り外し、丸座金4の外側において、補強用金物10の中央部分の座金部11を穴12にフックボルト6が挿入されるようにして嵌め込むと共に、補強用金物10を溝71内に嵌め込んで埋設し、再度フックボルト6の先端側にナット5を螺合して締め付ける。この際、フックボルト6、ナット5に錆が発生して取り外しが困難である場合には、補強用金物10を溶接等によりフックボルト6やナット5等の支持金物に接合することも可能である。これにより、補強用金物10が内部鉄筋72の屋外側でALCパネル7の幅方向等に亘るように設置される。好適には、内部鉄筋72の屋外側で溝21内に埋設される補強用金物10の腕部13等を内部鉄筋72と溶接等で接合することにより、フックボルト6、丸座金4、ナット5等で構成される取付部のより高い強度を得ることができる。
【0024】
その後、補強用金物10が埋設されている溝71をALC専用の補修材で埋め、ALCパネル7の表面に塗装等の仕上げを施す。
【0025】
本実施形態では、補強用金物10でALCパネル7の既設取付部および内部鉄筋72を保持することにより、既設ALCパネルを簡単・確実に補強することができる。また、ALCパネル7の外側、即ち屋外側からだけでできるので、屋内が使用中であっても、また屋内に内装や屋内装置品があっても何ら支障がなく容易に施工を行うことができる。また、補強用金物10の腕部13の長さ、太さによる強度や、腕部13を内部鉄筋72に接合させるか等により、取付部の補強強度を任意に選択的に設定することが可能であり、耐震強度等の必要強度を容易に確保することができる。また、補強用金物10の設置を行ってもALCパネル7の表面に補強用金物10、支持金物が露出せず、今まで通りの外観を保持することができ、ALCの補修及び止水シーリング、表面塗装等の仕上により、ほぼ新設の状態に戻すことができる。
【0026】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明には、各発明や実施形態等の構成の他に、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものも含まれ、下記のような変形例も包含される。
【0027】
例えば上記実施形態では、中央部分にプレート状の座金部11と、座金部11の両側から突出して内部鉄筋72の外側に覆いかぶさるように配置ないし接合される腕部13とを有する補強用金物10を用いたが、補強用金物10は前記構成に限定されず、例えば腕部13に相当する部位のみ、換言すれば棒状体のような補強用金物で構成してもよい。前記棒状体の補強用金物を施工する際には、既設のフックボルト6の外側先端部分を跨ぐようにALC幅方向に棒状体を埋め込む溝をフックボルト6の丸座金4の部分まで掘り込む。その後、棒状体の中央をフックボルト6の丸座金4等と溶接等により接合し、必要に応じて棒状体を内部鉄筋72に接合し、前記溝をALC専用の補修材等により補修する。尚、本例では施工自体は容易であるが、大きな補強強度を確保することができないので、ALCパネル7の劣化がそれ程進んでいない状態のときに有効である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、既設建築物にALCボルト止め工法で施されている既設ALCパネルの補強として利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1…柱材 2…下地鋼材 3…受け鋼材 4…丸座金 5…ナット 6…フックボルト 61…フック部 7…ALCパネル 71…溝 72…内部鉄筋 8…隙間処理材 10…補強用金物 11…座金部 12…穴 13…腕部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ALCパネルの内部に埋設されている支持金物の両側に延びるようにALCパネルの屋外側に溝を形成し、
補強用金物を前記ALCパネルの内部鉄筋の屋外側で前記溝に埋設すると共に、
前記補強用金物を前記支持金物に固定して取り付け、
前記溝を補修材で埋めることを特徴とする既設ALCパネルの補強構造。
【請求項2】
前記補強用金物を前記内部鉄筋に接合することを特徴とする既設ALCパネルの補強構造。
【請求項3】
前記補強用金物を略中央の座金部と、その両側の腕部とから構成し、
前記支持金物をボルトと、その外側で螺合されているナットとから構成し、
前記座金部を前記ボルトに嵌め込み、その外側から前記ナットを螺合することにより、
前記補強用金物を前記支持金物に固定することを特徴とする請求項1又は2記載の既設ALCパネルの補強構造。
【請求項4】
ALCパネルの内部に、ボルト及びその外側で螺合されているナットとから構成される支持金物が埋設されている劣化箇所で、前記支持金物の両側に延びるように且つALCパネルの幅方向に延びるようにして溝を形成する工程と、
略中央の座金部及びその両側の腕部とから構成される補強用金物を、前記座金部を前記ボルトに嵌め込んで前記ナットを締め付ける若しくは前記支持金物に溶接することにより前記支持金物に固定すると共に、前記内部鉄筋に溶接して接合し、前記ALCパネルの内部鉄筋の屋外側で前記溝に埋設する工程と、
前記溝を補修材で埋める工程と、
を備えることを特徴とする既設ALCパネルの補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−256657(P2011−256657A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133786(P2010−133786)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】