説明

早期新生児の処置

本発明は、未熟児に関連した病的状態及び死亡を低減若又は防止させるための、パラオキソナーゼ3(PON3)又は血清アミロイドA様タンパク質3(SAA3)による早期新生児の処置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば未熟児に関連した病的状態及び死亡を低減又は防止するための、早期新生児の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
未熟児出産は、先進国では人口の5%〜10%、また発展途上国では人口のおよそ25%に影響を及ぼす(非特許文献1)。早期出産は、新生児の死亡の大部分を占め、また新生児集中治療室の作業負荷の大半を占める。このことは、コストの著しい負担を表し、1日の新生児集中治療は、およそ1000ポンドの費用がかかり、イギリスにおける年間コストは、2006年〜2007年で4億2千万ポンドと推定される(非特許文献2)。
【0003】
新生児集中治療における最も首尾よい介入の1つは、出産直後の早期乳児の肺へ合成界面活性剤を投与することである。このことにより、未熟児に関連した病的状態及び死亡が低減される(概説に関しては非特許文献3を参照)。界面活性剤は、動物研究で同定されており、新生児がその第一呼吸をした際に、肺での表面張力を低減させるのに重要な役割を有することがわかった。肺内での界面活性剤の発現は、妊娠の後半の3分の1で増大し、ヒトを含む多くの種において、これは、胎児中のコルチコステロイドにより誘導される。界面活性剤の使用は、出産準備の生物学の理解が、有用かつ有益な治療上の介入へどのように変換され得るかの一例である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Steer P. BJOG 2005; 112 Suppl 1:1-3.
【非特許文献2】National Audit Office (UK). Caring for Vulnerable Babies: The reorganisation of neonatal service in England. London: The Stationery Office; 2007.
【非特許文献3】Suresh GK, Soll RF. J Perinatol 2005; 25 Suppl 2:S40-S44.
【発明の概要】
【0005】
本発明は、パラオキソナーゼ3(PON3)及び血清アミロイドA様タンパク質3(SAA3)をコードする転写産物が、正常な哺乳動物の妊娠の最終段階において胎児中で上方調節され、出産時に母体環境からの分娩後に続いて起こる変化に、新生児を適応させるのに重要な役割を果たすという知見に関する。したがって、パラオキソナーゼ3(PON3)及び/又は血清アミロイドA様タンパク質3(SAA3)は、早期新生児において病的状態若しくは死亡を低減又は防止させる際の治療薬として有用であり得る。
【0006】
本発明の一態様は、早期新生児を処置する方法であって、上記早期新生児においてパラオキソナーゼ3(PON3)ポリペプチドのレベル又は活性を増大させることを含む、早期新生児を処置する方法を提供する。
【0007】
本発明の別の態様は、早期新生児を処置する方法であって、上記早期新生児において血清アミロイドA様タンパク質3(SAA3)ポリペプチドのレベル又は活性を増大させることを含む、早期新生児を処置する方法を提供する。
【0008】
早期新生児は、正常な妊娠期間の終了前に生まれた乳児である。ヒトでは、37週未満(予定日の最良の臨床上の概算から算出される場合、ここでこの予定日は、40週0日に等しいと解釈される)の妊娠期間で分娩された乳児が、一般的に早期であるとみなされる。
【0009】
幾つかの実施形態では、早期新生児は、極めて早期の新生児、例えば、32週未満の妊娠期間で分娩されるヒト乳児であり得る。
【0010】
本明細書中で記載されるような処置に適した早期新生児は、哺乳動物早期新生児、好ましくはヒト早期新生児であり得る。
【0011】
本明細書中に記載されるような処置に適した早期新生児は、PON3を欠損している場合がある。換言すると、早期新生児中のPON3のレベル又は活性は、満期新生児中のPON3のレベル又は活性未満であり得る。幾つかの実施形態では、早期新生児は、分娩前若しくは分娩後にPON3のレベルを測定することによって直接的に、又は酸化的ストレス関連の合併症のようなPON3欠損に関連した1つ又は複数の症状を同定することによって間接的に、処置前にPON3が欠損していると同定され得る。他の実施形態では、早期新生児は、PON3が欠損していると同定されることなく、記載されるように処置され得る。
【0012】
本明細書中に記載されるような処置に適した早期新生児は、SAA3を欠損している場合がある。換言すると、早期新生児中のSAA3のレベル又は活性は、満期新生児中のSAA3のレベル又は活性未満であり得る。幾つかの実施形態では、早期新生児は、分娩前若しくは分娩後にSAA3のレベルを測定することによって直接的に、又は酸化的ストレス関連の合併症のようなSAA3欠損に関連した1つ又は複数の症状を同定することによって間接的に、処置前にSAA3が欠損していると同定され得る。他の実施形態では、早期新生児は、SAA3が欠損していると同定されることなく、記載されるように処置され得る。
【0013】
病的状態及び/又は死亡の危険性がある早期新生児を同定する方法は、該新生児から入手されるサンプル中のPON3及び/若しくはSAA3のレベル又は活性を決定することを含むことができ、対照に対するPON3及び/若しくはSAA3のレベル又は活性の低減が、該早期新生児は該病的状態及び/又は死亡の危険性があることを示す。
【0014】
PON3及び/又はSAA3のレベルは、標準的な技法、例えば、ELISAのようなイムノアッセイにより、又は酵素活性のアッセイにより、早期新生児から得られるサンプル、例えば血液サンプル又は血清サンプル中で決定され得る。
【0015】
病的状態及び/又は死亡の危険性がある早期新生児は、満期新生児に対して病的状態及び/又は死亡の増大された危険性を有し得る。病的状態及び/又は死亡の危険性があると同定された早期新生児は、本明細書に記載されるように処置され得る。
【0016】
本明細書中で記載されるように早期新生児においてPON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドのレベル又は活性を増大させることによって、病的状態及び/又は死亡の程度、重篤性又は危険性を低減させ得る。例えば、本明細書中に記載されるような処置は、未熟児の医学的合併症、例えば酸化的ストレスに関連した合併症の重篤性若しくは危険性を防止又は低減し得る。
【0017】
処置され得る未熟児の合併症としては、呼吸器合併症(例えば、呼吸窮迫症候群、肺高血圧症及び気管支肺異形成症)、神経系合併症(未熟児無呼吸発作、低酸素性虚血性脳症(HIE)、頭蓋内出血、未熟児網膜症(ROP)、発育障害及び脳性まひ)、心血管系合併症(例えば、動脈管開存症(PDA))、胃腸及び代謝系合併症(例えば、低血糖症、摂食困難及び壊死性腸炎(NEC))、並びに血液系合併症(例えば、未熟児貧血、血小板減少症、及び高ビリルビン血症(黄疸)及び核黄疸)が挙げられる。
【0018】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるように処置され得る未熟児の合併症は、敗血症若しくは感染症、又は敗血症若しくは感染症に関連した状態を含まない。
【0019】
パラオキソナーゼ3(PON3)ポリペプチドのレベル又は活性は、新生児において全身的に、又は早期新生児の特定の臓器若しくは組織において(例えば早期新生児の肺、血管系及び/又は他の組織において)局所的に増大され得る。
【0020】
好ましくは、PON3ポリペプチドのレベルは、PON3ポリペプチドを早期新生児に投与することによって増大される。
【0021】
パラオキソナーゼ3(PON3、GeneID:5446)は、血清中での高密度リポタンパク質に関連するホスホジエステラーゼ(EC 3.1.8.1)である。
【0022】
ヒトPON3のアミノ酸配列は、Genbankデータベース識別番号NP_000931.1 GI:29788996を有し、配列番号2で示される。ヒトPON3をコードするヌクレオチド配列は、Genbankデータベース識別番号NM_000940.2 GI:94538355を有し、配列番号1で示される。本発明者らはまた、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するヒトPON3のスプライス変異体を同定した。ヒトPON3スプライス変異体をコードするヌクレオチド配列は、配列番号3に示される。
【0023】
本明細書に記載されるような使用に適した他のPON3ポリペプチドは、ウシ又はブタのような非ヒト哺乳動物由来のPON3のアミノ酸配列を含んでもよく、又はそれらの断片、変異体若しくは対立遺伝子であってもよい。ウシPON3(GeneID:510953)のアミノ酸配列は、Genbankデータベース識別番号NM_001068947.1 GI:115496165を有する。ウシPON3をコードするヌクレオチド配列は、Genbankデータベース識別番号NM_001075479.1 GI:115496164を有するブタPON3(GeneID:733674)のアミノ酸配列は、Genbankデータベース識別番号NP_001038069.1 GI:113205866を有する。
【0024】
本明細書に記載されるような使用に適したPON3ポリペプチドは、参照PON3配列のアミノ酸配列(例えば配列番号2又は配列番号4)、又は参照PON3配列のフラグメント、対立遺伝子若しくは変異体を含んでもよい。例えば、配列番号2又は配列番号4のような参照PON3配列の対立遺伝子又は変異体は、参照PON3配列に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも98%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0025】
PON3ポリペプチドは、1個のアミノ酸、2個、3個、4個、5個〜10個、10個〜20個又は20個〜30個のアミノ酸の挿入、付加、置換又は欠失により、例えば配列番号2又は配列番号4のような参照PON3配列と異なるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0026】
PON3ポリペプチドは、配列番号2若しくは配列番号4のような完全長PON3アミノ酸配列のフラグメント、又は配列番号2若しくは配列番号4の変異体若しくは対立遺伝子であり得る。フラグメントは、パラオキソナーゼ3活性を保持する完全長配列よりも少ないアミノ酸で構成される切断型ポリペプチドである。適切なフラグメントは、完全長配列の少なくとも100個、少なくとも150個、少なくとも200個、少なくとも250個又は少なくとも300個のアミノ酸を含み得る。適切なフラグメントは、PON3活性を保持する。
【0027】
本明細書に記載されるような使用に適したPON3ポリペプチドは、配列番号1若しくは配列番号3のヌクレオチド配列、又は配列番号1若しくは配列番号3の対立遺伝子若しくは変異体によりコードされ得る。例えば、PON3ポリペプチドは、配列番号1又は配列番号3のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも98%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によりコードされ得る。
【0028】
PON3ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、例えば、1個のヌクレオチド、2個、3個、4個、5個〜10個、10個〜20個又は20個〜30個のヌクレオチドの挿入、付加、置換又は欠失により、配列番号1又は配列番号3と異なり得る。
【0029】
同様に、血清アミロイドA様タンパク質3(SAA3)ポリペプチドのレベル又は活性は、早期新生児において全身的に、又は新生児の特定の臓器若しくは組織において(例えば肺、血管系及び/又は他の組織において)局所的に増大され得る。
【0030】
好ましくは、SAA3ポリペプチドのレベルは、SAA3ポリペプチドを早期新生児に投与することによって増大される。
【0031】
ヒトSAA3のアミノ酸配列は、Genbankデータベース識別番号AAO48437.1 GI:28864698を有し、配列番号6で示される。ヒトSAA3をコードするヌクレオチド配列は、Genbankデータベース識別番号AY209188.1 GI:28864697を有し、配列番号5で示される。
【0032】
本明細書に記載されるような使用に適した他のSAA3ポリペプチドは、ウシ、ラット若しくはマウスのような非ヒト哺乳動物由来のSAA3のアミノ酸配列を含んでもよく、又はそれらのフラグメント、変異体若しくは対立遺伝子であってもよい。マウスSAA3(GeneID:20210)のアミノ酸配列は、Genbankデータベース識別番号NP_035445.1 GI:6755396を有する。マウスSAA3をコードするヌクレオチド酸配列は、Genebankデータベース識別番号NM_011315.3 GI:118130197を有する。ラットSAA3をコードするヌクレオチド酸配列は、Genebankデータベース識別番号BF282318 GI:11213489を有し、Rat230_2アレイ上でAffymetrixプローブ1392647_にハイブリダイズする。ウシSAA3(GeneID:281474)のアミノ酸配列は、Genebankデータベース識別番号NP_851359.2 GI:38566696を有する。ウシSAA3をコードするヌクレオチド配列は、Genebankデータベース識別番号NM_181016.3 GI:38566695を有する。
【0033】
本明細書に記載されるような使用に適したSAA3ポリペプチドは、参照SAA3配列のアミノ酸配列(例えば配列番号6)、又は参照SAA3配列のフラグメント、対立遺伝子若しくは変異体を含んでもよい。例えば、配列番号6のような参照SAA3配列の対立遺伝子又は変異体は、参照SAA3配列に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも98%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0034】
SAA3ポリペプチドは、1個のアミノ酸、2個、3個、4個、5個〜10個、10個〜20個又は20個〜30個のアミノ酸の挿入、付加、置換又は欠失により、例えば配列番号6のような参照SAA3配列と異なるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0035】
SAA3ポリペプチドは、配列番号6のような完全長SAA3アミノ酸配列のフラグメント、又は配列番号6の変異体又は対立遺伝子であり得る。フラグメントは、血清アミロイドA様タンパク質3活性を保持する完全長配列よりも少ないアミノ酸で構成される切断型ポリペプチドである。適切なフラグメントは、完全長配列の少なくとも30個、少なくとも40個、又は少なくとも50個のアミノ酸を含み得る。適切なフラグメントは、血清アミロイドA様タンパク質3活性を保持する。
【0036】
本明細書に記載されるような使用に適したSAA3ポリペプチドは、配列番号5のヌクレオチド配列、又は配列番号5の対立遺伝子若しくは変異体によりコードされ得る。例えば、SAA3ポリペプチドは、配列番号5のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも98%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によりコードされ得る。
【0037】
SAA3ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、例えば、1個のヌクレオチド、2個、3個、4個、5個〜10個、10個〜20個又は20個〜30個のヌクレオチドの挿入、付加、置換又は欠失により、配列番号5と異なり得る。
【0038】
ヌクレオチド及びアミノ酸の配列同一性は概して、アルゴリズムGAP(GCG ウィスコンシンパッケージ(商標)、Accelrys、カリフォルニア州、サンディエゴ)を参照して規定される。GAPは、Needleman及びWunschのアルゴリズム36を使用して、マッチの数を最大にするとともに、ギャップの数を最低限に抑える2つの完全配列を整列させる。一般的には、ギャップ開始ペナルティ=12及びギャップ伸長ペナルティ=4を用いてデフォルトパラメータが使用される。GAPの使用が好ましいとされるが、一般的にデフォルトパラメータを用いて他のアルゴリズム、例えばBLAST又はTBLASTN(これは、Altschul他(1990年)、J. Mol. Biol. 215: 405-410の方法を使用する)、FASTA(これは、Pearson及びLipman(1988年)、PNAS USA85: 2444-2448の方法を使用する)又はスミス・ウォータマンアルゴリズム(Smith及びWaterman(1981年)、J. Mol Biol. 147: 195-197)を使用してもよい。
【0039】
1つ又は複数の異種アミノ酸、例えば異種ペプチド又は異種ポリペプチド配列を、本明細書中に記載されるPON3アミノ酸配列又はSAA3アミノ酸配列に結合又は融合させてもよい。例えば、PON3ポリペプチドは、1つ又は複数の異種アミノ酸に連結又は融合された上述するようなPON3アミノ酸配列を含んでもよい。1つ又は複数の異種アミノ酸は、PON3以外の供給源由来の配列を含んでもよい。同様に、SAA3ポリペプチドは、1つ又は複数の異種アミノ酸に連結又は融合された上述するようなSAA3アミノ酸配列を含んでもよい。1つ又は複数の異種アミノ酸は、SAA3以外の供給源由来の配列を含んでもよい。
【0040】
PON3ポリペプチド又はSAA3ポリペプチドが、融合タンパク質内に含まれてもよい。
【0041】
幾つかの実施形態では、融合タンパク質は、本明細書中に記載されるような早期新生児の処置における使用前に、成熟PON3ポリペプチド又は成熟SAA3ポリペプチドを生産するようにプロセシングすることができる。例えば、PON3ポリペプチド又は成熟SAA3ポリペプチドの他に、融合タンパク質は、部位特異的プロテアーゼ認識配列のすべて又は一部を形成するN末端若しくはC末端での1つ又は複数の異種アミノ酸を含んでもよい。成熟PON3ポリペプチド又は成熟SAA3ポリペプチドは、例えば、トロンビン又は第Xa因子のような部位特異的プロテアーゼを使用して、部位特異的プロテアーゼ認識配列の切断により融合タンパク質から生産することができる。
【0042】
融合タンパク質は、精製後に部位特異的プロテアーゼにより除去される精製タグを含んでもよい。適切な精製タグとしては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(日本住吸血虫(Schistosoma Japonica)由来)が挙げられる。
【0043】
PON3ポリペプチド及びSAA3ポリペプチドを、任意の利便性の高い技法により生産することができ、広範な適切なアプローチが利用可能である。
【0044】
PON3ポリペプチド及びSAA3ポリペプチドを、ブタ又はウシのような非ヒト哺乳動物から単離及び/又は精製することができる。
【0045】
PON3ポリペプチド及びSAA3ポリペプチドを、全体的に又は部分的に化学合成により生成することができる。例えば、ポリペプチドは、液相又は固相合成方法を使用して、溶液中で、又は固相、液相及び溶液化学の任意の組合せにより、例えばまず、各々のペプチド部分を完成させ、続いて、望ましくかつ適切である場合、存在している任意の保護基の除去後に、各々のカルボン酸若しくはスルホン酸又はそれらの反応性誘導体の反応による残基Xの導入により合成することができる。
【0046】
ポリペプチドの化学合成は、当該技術分野で既知である(J.M. Stewart及びJ. D. Young、Solid Phase Peptide Synthesis、第2版、Pierce Chemical Company、イリノイ州、ロックフォード(1984年);M. Bodanzsky及びA. Bodanzsky、The Practice of Peptide Synthesis、Springer Verlag、ニューヨーク(1984年);J.H. Jones、The Chemical Synthesis of Peptides. Oxford University Press、オックスフォード(1991年);Applied Biosystems 430A Users Manualにて、ABI Inc.、カリフォルニア州、フォスター市;G.A. Grant(著)、Synthetic Peptides, A User's Guide. W.H. Freeman & Co.、ニューヨーク、1992年;E. Atherton及びR.C. Sheppard、Solid Phase Peptide Synthesis, A Practical Approach. IRL Press、1989年、並びにG.B. Field(著)、Solid-Phase Peptide Synthesis(Methods in Enzymology Vol. 289)にて、Academic Press、ニューヨーク及びロンドン(1997年)。
【0047】
PON3ポリペプチド及びSAA3ポリペプチドを、全体的に又は部分的に組換え技法により生成することができる。例えば、PON3ポリペプチド又はSAA3ポリペプチドをコードする核酸を宿主細胞中で発現し、発現されたポリペプチドを細胞培養液から単離及び/又は精製することができる。
【0048】
組換えPON3ポリペプチド又はSAA3ポリペプチドの生産に関して、PON3ポリペプチド又はSAA3ポリペプチドをコードする核酸配列(すなわち、PON3核酸又はSAA3核酸)は、発現ベクター内に含まれ得る。適切な調節配列(プロモータ−配列、ターミネーターフラグメント、ポリアデニル化配列、エンハンサ配列、マーカー遺伝子及び適切な場合には他の配列を含む)を含有する適切なベクターが、選択又は構築され得る。好ましくは、ベクターは、宿主細胞中でPON3核酸又はSAA3核酸の発現を駆動させるのに適した調節配列を含有する。広範な発現系において異種核酸コード配列の発現を駆動させるのに適した調節配列は、当該技術分野で既知であり、構成プロモータ−(例えばCMV又はSV40のようなウイルスプロモータ−)、及び誘導プロモータ−(例えば、Tet−on制御プロモータ−)が挙げられる。ベクターはまた、大腸菌(E. Coli)のような細菌宿主において、及び/又は酵母、昆虫又は哺乳動物の細胞のような真核細胞において、その選択及び複製及び発現を可能にする配列(例えば、複製起点及び選択マーカー)を含み得る。
【0049】
PON3核酸又はSAA3核酸を発現させる際の使用に適したベクターとしては、プラスミド及びウイルスベクター、例えば「ファージ」又はファージミドが挙げられ、ベクターの正確な選択は、用いられる特定の発現系に依存する。PON3ポリペプチド又はSAA3ポリペプチドは、任意の利便性の高い発現系で発現することができ、細菌、酵母、昆虫又は哺乳動物の細胞発現系を含む多数の適切な系が当該技術分野で利用可能である。更なる詳細に関しては、例えば、Molecular Cloning: a Laboratory Manual:第3版、Russell他、2001年、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。細胞培養液中での組換えポリペプチドの発現、並びにそれらの続く単離及び精製に関する技法及びプロトコルは当該技術分野で既知である(例えば、Protocols in Molecular Biology、第2版、Ausubel他(著)、John Wiley & Sons、1992年;Recombinant Gene Expression Protocols、RS Tuan(著)(1997年3月)、Humana Press Incを参照)。
【0050】
上述するように、PON3ポリペプチド又はSAA3ポリペプチドは、PON3ポリペプチド配列又はSAA3ポリペプチド配列と精製タグとを含む融合タンパク質として発現系中で発現され得る。好ましくは、プロテアーゼ認識部位は、PON3ポリペプチド又はSAA3ポリペプチドと精製タグとの間に位置する。発現に続いて、融合タンパク質は、精製タグに結合する固定化剤を使用したアフィニティクロマトグラフィにより単離され得る。単離後、融合タンパク質を、例えばトロンビン又は第Xa因子を使用してタンパク質分解的に切断して、PON3ポリペプチド又はSAAポリペプチドを生産し得る。
【0051】
精製タグは、特異的結合対の一成員を形成する異種アミノ酸配列である。精製タグを含有するポリペプチドは、ポリペプチドに対する特異的結合対の他の成員の結合によって検出、単離及び/又は精製され得る。例えば、精製タグは、抗体分子よって結合されるエピトープを形成し得る。
【0052】
様々な適切な精製タグが当該技術分野で既知であり、例えば、MRGS(H)、DYKDDDDK(FLAG(商標))、T7−、S−(KETAAAKFERQHMDS)、ポリ−Arg(R5〜6)、ポリ−His(H2〜10)、ポリ−Cys(C)、ポリ−Phe(F11)、ポリ−Asp(D5〜16)、ストレプト−タグII(WSHPQFEK)、c−myc(EQKLISEEDL)、インフルエンザ−HAタグ(Murray, P.J.他、(1995年)、Anal Biochem 229、170-9)、Glu−Glu−Pheタグ(Stammers, D.K.他、(1991年、FEBS Lett 283、298-302)、Tag.100(Qiagen;哺乳動物MAPキナーゼ2に由来する12個アミノ酸タグ)、Cruzタグ09(商標)(MKAEFRRQESDR、Santa Cruz Biotechnology Inc.)及びCruzタグ22(商標)(MRDALDRLDRLA、Santa Cruz Biotechnology Inc.)が挙げられる。既知のタグ配列は、Terpe(2003年)、Appl. Microbiol. Biotechnol.60, 523-533で概説される。
【0053】
幾つかの好ましい実施形態では、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ精製タグが用いられ得る。発現に続いて、PON3ポリペプチド又はSAA3ポリペプチドとグルタチオン−S−トランスフェラーゼとを含む融合タンパク質は、固定化グルタチオンを使用したアフィニティクロマトグラフィにより単離され得る。グルタチオン−S−トランスフェラーゼ融合タンパク質の精製は、当該技術分野で既知である。単離後、続いて融合タンパク質をタンパク質分解的に切断して、PON3ポリペプチド又はSAA3ポリペプチドを生産し得る。
【0054】
PON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドは、上述するように早期新生児に投与され得る。PON3ポリペプチド又はSAA3ポリペプチドを単独で投与することが可能であるが、1つ又は複数の薬学的に許容されるキャリア、補助剤、賦形剤、希釈剤、充填剤、緩衝液、安定剤、防腐剤、潤滑剤又は当業者に既知の他の材料、及び任意に他の治療剤又は予防剤と一緒に、上記で規定されるようなPON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドを含む薬学的組成物(例えば、配合物)としてそれを提供することが好ましい。
【0055】
本明細書中で記載されるように、1つ又は複数の薬学的に許容されるキャリア、賦形剤、緩衝液、補助剤、安定剤又は他の材料と一緒に混合又は配合されるPON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドを含む薬学的組成物は、上述する方法で使用され得る。
【0056】
本発明の別の態様は、薬学的組成物を調製する方法であって、
上述するようなPON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドを準備することと、
上記PON3ポリペプチド及び/又は上記SAA3ポリペプチドを、薬学的に許容される賦形剤と混合することと
を含む、薬学的組成物を調製する方法を提供する。
【0057】
「薬学的に許容される」という用語は本明細書中で使用する場合、過度の毒性、刺激、アレルギー反応又は他の問題若しくは合併症を伴わずに、妥当な医学的判断の範囲内で、被験体(例えば、ヒト又は他の哺乳動物)の組織との接触における使用に適しており、合理的な有益性/危険性の比に相応する化合物、材料、組成物及び/又は剤形に関する。各キャリア、賦形剤等はまた、配合物の他の成分と適合性であるという意味で「許容可能で」なくてはならない。
【0058】
適切なキャリア、賦形剤等は、標準的な医薬品テキスト、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、第18版、Mack Publishing Company、ペンシルバニア州、イースト、1990年に見出すことができる。
【0059】
配合物は、単位剤形で利便性良く提供することができ、薬学の分野で既知の任意の方法により調製され得る。かかる方法は、PON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドを、1つ又は複数の補助成分を構成し得るキャリアと結合させる工程を含む。概して、配合物は、活性化合物を、液体キャリア若しくは微細固体キャリア又はその両方と一様かつ緊密に結合させること、続いて必要であれば、生成物を成形することによって調製される。好ましい配合物は、液体若しくは溶液、又は徐放性インプラント若しくはカプセル(例えば、経口投与用)の形態で存在し得る。
【0060】
PON3ポリペプチド、SAA3ポリペプチド、又はPON3ポリペプチド及び/若しくはSAA3ポリペプチドを含む薬学的組成物は、任意の利便性の高い投与経路によって被験体へ投与され得る。幾つかの実施形態では、投与は、静脈内経路、皮下経路、髄腔内経路又は気管内経路のような非経口経路によるものである。例えば、PON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドは、注射、特に静脈内注射により投与され得る。他の実施形態では、投与は、腸内経路による、例えば鼻空腸チューブ又は気道内チューブを介したものである。
【0061】
非経口投与(例えば、静脈内注射を含む注射による)に適した配合物としては、酸化防止剤、緩衝液、防腐剤、安定化剤、静菌薬及び対象とされるレシピエントの血液と配合物を等張にする溶質を含有し得る水溶性及び非水溶性の等張性の発熱性物質を含まない滅菌注射溶液、並びに沈殿防止剤及び増粘剤を包含し得る水性及び非水性の滅菌懸濁液が挙げられる。かかる配合物における使用に適した等張性媒体の例としては、塩化ナトリウム注射液、リンゲル溶液又は乳酸加リンゲル注射液が挙げられる。通常、溶液中の活性化合物の濃度は、約1μg/ml〜約100mg/ml、例えば約10μg/ml〜約50mg/mlである。
【0062】
腸内投与(例えば、摂取による)に適した配合物は、カプセル、サシェ又は錠剤のような別個のユニットとして提供されてもよく、各々が粉末若しくは顆粒として、水性液体若しくは非水性液体中の溶液若しくは懸濁液として、又は水中油型液体エマルジョン若しくは油中水型液体エマルジョンとして、ボーラスとして、舐剤として、又はペーストとして、既定量のPON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドを含有する。錠剤又はカプセルは任意に、胃以外の消化管の一部での放出を与えるように、腸内コーティングが提供されてもよい。
【0063】
PON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドを含む配合物は、単位用量又は複数回用量の密封容器、例えばアンプル及びバイアル中に提供されてもよく、使用の直前に滅菌液体キャリア(例えば注射用の水)の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保管してもよい。
【0064】
PON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチド、並びにPON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドを含む薬学的組成物の適切な投与量は、状況に応じて患者ごとに様々であり得る。最適な投与量を決定することは一般的に、投与の任意の危険性又は有害な副作用に対して治療上の有益性のレベルのバランスを取ることを包含する。選択される投与量レベルは、投与経路、投与期間、PON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドの排出速度、併用される他の薬物、化合物及び/又は材料、並びに早期乳児の成熟度、性別、体重、条件及び全体的な健康状態を含むがこれらに限定されない様々な要因に依存する。PON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドの量、並びに投与経路は最終的には、医師の自由裁量であるが、一般的には投与量は、かなりの害を及ぼす副作用又は有害な副作用を引き起こすことなく、有益な効果をもたらすのに十分であるPON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドの血清濃度を達成するものとする。
【0065】
in vivoでの投与は、1回の用量で、連続して又は断続的に(例えば、適切な間隔での分割用量で)実施させることができる。投与の最も有効な手段及び投与量を決定する方法は、当業者に既知であり、配合物及び処置される被験体により様々である。単回投与又は複数回投与は、医師により選択される用量レベル及びパターンを用いて実行させてもよい。
【0066】
PON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドは好ましくは、早期新生児の分娩の直後に、又は分娩後間もなくして、投与する。例えば、PON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドは、分娩後1時間未満で、3時間未満で、6時間未満で、12時間未満で、24時間未満で、又は48時間未満で投与され得る。
【0067】
他の実施形態では、PON3ポリペプチド及び/SAA3ポリペプチドは、出産後48時間を超えて投与されてもよい。
【0068】
PON3ポリペプチドは、分娩後に予防的に、又は早期新生児が、酸化的ストレス関連合併症のようなPON3欠損に関連した1つ若しくは複数の症状を示す場合に投与され得る。
【0069】
SAA3ポリペプチドは、分娩後に予防的に、又は早期新生児が、SAA3欠損に関連した1つ若しくは複数の症状を示す場合に投与され得る。
【0070】
幾つかの実施形態では、SAA3ポリペプチドは、人工呼吸器及び/又は肺損傷若しくは炎症に曝されていない早期新生児に投与され得る。
【0071】
PON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチド、並びにPON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドを含む組成物は、上述するように、界面活性剤及びステロイドのような他の治療薬と組み合わせて投与され得る。
【0072】
本発明の他の態様は、早期新生児の処置における使用のための上述するようなPON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチド、並びに早期新生児の処置における使用のための薬剤の製造におけるPON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドの使用を提供する。PON3ポリペプチド及び/又はSAA3ポリペプチドを使用した早期新生児の処置は、上述するように、病的状態及び/又は死亡の程度、重篤性又は危険性を低減し得る。
【0073】
本発明の様々な更なる態様及び実施形態は、本開示を鑑みて当業者に明らかである。本明細書中で言及される文献はすべて、それらの全体が参照により本明細書に援用される。
【0074】
出願日に上述したデータベース(例えば、Genbank)アクセッション番号を有する配列もまた、それらの全体が参照により本明細書に援用される。
【0075】
「及び/又は」は本明細書中で使用される場合、2つの特定の特徴又は構成成分それぞれの、他のものを伴うか又は伴わない特定の開示として解釈されるものとする。例えば、「A及び/又はB」は、それぞれが本明細書中で個々に記述されているかのように、(i)A、(ii)B、並びに(iii)A及びBそれぞれの特定の開示として解釈されるものとする。
【0076】
文脈が他の場合を指示しない限りは、上述した特徴の説明及び規定は、本発明の任意の特定の態様又は実施形態に限定されず、記載される態様及び実施形態すべてに同様に適用する。
【0077】
本発明の或る特定の態様及び実施形態はここで、一例として、また以下で記載される図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】妊娠後期において胎児中で上方調節又は下方調節される転写産物を同定するための実験スキームを示す図である。
【図2】妊娠期間16日及び20日で分娩されたラットを比較して(ともに、n=10、それぞれ、別個の同腹子由来の動物)、初期アレイで使用されるラットの同胞種における肺組織(A)、腸(B)及び肝臓(C)における18S RNAに対するPon3 mRNAのRT−PCR解析の結果を示す図である。P値は、所定の組織における2つの妊娠期間で対応のないスチューデントt検定を使用して、log変換したPon3転写産物レベル(18S RNAに対して)を比較する。
【図3】妊娠の後半の3分の1における種々の妊娠期間でのヒツジ肺(A)及び腸(B)(各群中、n=5)における4つのハウスキーピング遺伝子の幾何平均に対するPON3 mRNAのRT−PCR解析の結果を示す図である。カラム=平均値;バー=SEM。P値は、log変換したPon3転写産物レベル(4つのハウスキーピング遺伝子に対して)対妊娠期間の線形回帰に由来。スピアマンのローは、Aでは0.94及びBでは0.79(ともに、P<0.001)。パネルC及びパネルDは、log変換したコルチゾール値に対してプロットしたlog変換したPon3レベルである。P値は、log変換したPon3レベル対log変換したコルチゾールの線形回帰に由来。スピアマンのローは、Cでは0.94及びDでは0.80(ともに、P<0.001)。
【図4】妊娠130日目にデキサメタゾン処置したヒツジ及び対照ヒツジ(各群中、n=5)の肺及び腸におけるPON3 mRNAのRT−PCR解析の結果を示す図である。カラム=平均値、バー=SEM。PON3 mRNAのレベルは、4つのハウスキーピング遺伝子の幾何平均に対して示される。
【図5】早期(115dGA〜188dGA)副腎摘出術を受けたヒツジ及び対照ヒツジ(両群ともに、妊娠145日目に分娩)(各群中、n=5)の肺及び腸におけるPON3 mRNAのRT−PCR解析の結果を示す図である。カラム=平均値、バー=SEM。PON3 mRNAのレベルは、4つのハウスキーピング遺伝子の幾何平均に対して示される。
【図6】種々の市販の抗体を使用して比較し、成人血液(Ad)並びに4人の早期乳児及び4人の満期乳児由来の臍帯血におけるPON3のウェスタンブロット解析を示す図である(上部パネル)。また、満期乳児及び早期乳児を比較するシグナル上でのデンシトメトリの結果も示す(下部パネル)。
【図7】妊娠期間16日目及び20日目でのラットの肺(A及びC)腸(B及びD)のウェスタンブロット解析を示す図である。パネルA及びパネルBは、PON3に特異的な抗体を用いた。パネルC及びパネルDは、それぞれA及びBと同じブロットを用いて、ストリッピングして、GAPDHに特異的な抗体で再プローブした。パネルA及びパネルC:レーン1及び2は、16dGA由来の肺であり、レーン3及びレーン4は、20dGA由来の肺である。パネルB及びパネルD:レーン1及びレーン2=16dGA由来の小腸及び大腸の組み合わせ;レーン3及びレーン4=20dGA由来の小腸;レーン5及びレーン6=20dGA由来の大腸。
【図8】図8Aは、8人の早期乳児及び10人の満期乳児由来の臍帯血清中のPON3のウェスタンブロット解析を示す図である。図8Bは、満期乳児及び早期乳児を比較するシグナル上でのデンシトメトリの結果を示す図である。P値は、対応のないスチューデントt検定を使用して満期乳児及び早期乳児を比較するlog変換したデンシトメトリ値である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
表1は、ヒツジにおけるリアルタイムRT−PCRに使用されるプライマー及びプローブを示す。
【0080】
表2は、選択した転写産物に関する妊娠期間(dGA)16日と20日との間での遺伝子アレイ由来の倍数変化を示す。
【実施例】
【0081】
実験
方法
動物サンプル
実験手順はすべて、適切な内務省ライセンスの下でUK Animals (Scientific Procedures)Act 1986に従って、また地域倫理審査プロセス(the local ehical review process)からの承認を受けて実行した。
【0082】
20回交配した妊娠中のウィスターラットを、妊娠期間(dGA)16日目(n=10)及び20日目(n=10)でCO過剰摂取により安楽死させ、ここでは0日目を、プラグの日と定義して、満期は21日である。子は、帝王切開により分娩され、頸椎脱臼により安楽死させて、それらの臓器を解剖顕微鏡下で取り出した。複数の同胞種由来の組織を液体窒素中で瞬間凍結させた(snap flozen)後、続く分析用に−80℃で保管した。ヒツジでの実験は、過去に詳述されるように行った。簡潔に述べると、既知の妊娠期間の妊娠中のウェールズ・マウンテン雌ヒツジを、個々の檻中に保持して、乾草、水及び岩塩ブロックへ自由に近づける状態で200g/dの濃縮製剤で維持した。遺伝子発現に対する妊娠期間の影響を研究するため、正常な胎児を、妊娠の100日目(n=5)、114日目〜116日目(n=5)、129日目〜131日目(n=5)及び144日目〜145日目(n=5)(ここで、満期は145±2日目である)で全身麻酔(20mg/kgのペントバルビトンナトリウム(静脈内))下で帝王切開により組織採取のために分娩させた。満期で起きる内因性コルチコステロイドの正常な上昇を防止する影響を研究するために、胎児(n=5)を116dGA〜120dGAの日数の間で全身麻酔(1:1のO:NO中の1.5%ハロタン)下で副腎摘出して、続いて満期で分娩させた。この影響は、正常な満期レベルの15%にまでコルチゾールレベルを低減させることであることが過去に示されている。母体のグルココルチコイド処置の影響を研究するために、雌ヒツジを、125dGAに始まって24時間間隔で、2回用量の12mgのデキサメタゾン又は生理食塩水のいずれかで処置して(それぞれn=5)、2回目の注射の10時間後に帝王切開により、胎児を分娩させた。すべての場合において、新生子ヒツジは、分娩直後に、ペンタバルビトンナトリウム(200mg/kg)で安楽死させた。分娩後に、臍帯血を入手した。コルチゾール濃度は、ヒツジ血漿を用いた使用に関して確認されたラジオイムノアッセイにより測定した20。コルチゾールの検出限界量は1.5ng/mlであり、アッセイ間変動係数は11%であった。部検中、胎児の肺及び空腸(幽門括約筋と回盲部との間)のサンプルを液体窒素中で凍結させて、分析するまで−80℃で保管した。
ヒト臍帯血サンプル
ヒト臍帯血を入手するためのプロトコルは、ケンブリッジ地域研究倫理委員会2(Cambridge Local Research Ethics Committee 2)によって承認された。女性はすべて、書面によるインフォームド・コンセントを提出した。早期乳児は、妊娠期間の24週〜28の完了週に出産後に元気であったかどうかを研究するのに適格であった。満期は、37週以上であると定義された。
RNA抽出及びcDNA合成
総RNAは、製造業者の取扱説明書に従ってTRIzol(商標)(Invitrogen、英国、ペーズリー)を使用して、凍結組織から単離して、DNaseI(Promega、英国、サウサンプトン)で37℃にて30分間処理した。反応は、停止溶液の添加及び65℃で10分間の加熱により停止させた。RNA完全性は、分光光度系及びAgilent 2100バイオアナライザを使用して確認された。OD 260/280>1.8を有するRNAだけを、定量的PCRに使用し、7よりも大きいRNA完全性数を有するRNAをアレイハイブリダイゼーションに使用した。定量的RT−PCRに関して、総RNAを、ランダム六量体プライマー(Bioline、英国、ロンドン)及びスーパースクリプトII逆転写酵素(Invitrogen、英国、ペーズリー)を使用してcDNAへ逆転写させた。
マイクロアレイ解析
Affymetrixのラットゲノム230.2Genechipを用いた。総RNAは、標準的なAffymetrixの2サイクル標的標識及びハイブリダイゼーションプロトコルを使用してプロセシングした。データは、ロバストなマルチアレイ平均化を使用して予め正規化し、正規化は、LIMMAソフトウェアパッケージ(マイクロアレイデータの線形モデル、http://bioinf/wehi.edu.au/limma/)を使用して達成された。正規化された転写産物の大量データは、2つの独立した方法:Cyber−Tアルゴリズム及び順位プロダクト解析(Rank Product Analysis)を使用して16dGAと20dGAとの間で比較した21,22。Cyber−Tアルゴリズムは、データ組において他の転写産物の分散に基づいてベイズ事前確率(Bayesian prior)の包含により修飾された対応のないt検定である。Cyber−T(ベイズP値<0.001、差次的発現の事後確率>0.99)及び順位プロダクト解析(P<0.0001)の両方を使用して統計学的に有意である転写産物を、差次的に発現されると定義した。マイクロアレイデータは、NetAffx(商標)解析センタ(Affymetrix)を使用してアノテートした。
ラットcDNAの定量的リアルタイムRT−PCR
リアルタイムPCRはすべて、ABI Prism 7900HTシステム(Applied Biosystems、英国、ウォリントン)上で行い、鋳型として100ngのcDNA、1×ABI PCRミックス NO AmpErase UNG(Applied Biosystems、英国、ウォリントン)並びにパラオキソナーゼ3(Pon3)及びApplied Biosystemsから購入した18Sに関する予め設計されかつ予め最適化された遺伝子発現アッセイ(それぞれ、Rn01500926_ml及びRn00824548_ml)を含有する10μlの容量中で実施した。これらの専用のプライマー−プローブ組の配列は入手可能ではない。PCRサイクルは、95℃で20秒間の初期変性、続く95℃で1秒及び60℃で20秒の40サイクルを含んでいた。サンプルはすべて、三重反復で解析した。発現レベルは、ddCt法を使用して18Sに対して定量化した。
ヒツジcDNAクローニング及び定量的リアルタイムRT−PCR
ヒツジPon3遺伝子の配列はいまだ公開されていないため、本発明者らは、ウシPon3 mRNA(nm_001075479)を使用してNCBI発現配列タグ(EST)データベースを検索した。これにより、ウシ遺伝子に対して95%を超える同一性を示す幾つかのヒツジESTを同定した。本発明者らは、推定ヒツジPon3 cDNAのフラグメントをクローニングするために、最高の相同性を示す2つのEST(EE859920及びEE792195)を使用して、PCR戦略を設計した。プライマーは下記の通りであった:フォワード(5’−CCCTAGTCGGGGAGAGATTT−3’)及びリバース(5’−TTCTATGCCACCAGAGACCA−3’)。使用した鋳型は、胎児ヒツジ腸から生成したcDNAであった。PCRは、1.25mMのMgCl、200μMの各dNTP、800nMの各プライマー及び0.1ユニット/μlのBioTaq(商標)DNAポリメラーゼ(Bioline、英国、ロンドン)の最終濃度を含有する50μl中で実施した。PCRプログラムは、95℃で5分間の初期変性、続く95℃で40秒間、60℃で45秒間、72℃で60秒間の40サイクル、及び72℃で10分間の最終伸長工程で構成されていた。PCR産物は、1.5%アガロースゲル上で解析し、予想サイズを有するバンドを切除して、Qiaquick(商標)ゲル抽出キット(Qiagen、英国、クローリー)を使用して精製して、続いてpGEM−T−Easy(商標)プラスミド(Promega)へクローニングさせた。3つのクローンを配列検証した。
【0083】
6−FAM標識主溝結合剤(MGB)プローブを用いたリアルタイムPCRアッセイは、ヒツジPON3に関するクローニングされた部分的cDNA及びヒツジハウスキーピング遺伝子に関する公的に利用可能な配列データ(NCBI)を使用して、Applied Biosystemsのファイルビルダー3.1を用いて設計した。Pon3の相対的定量化は、本発明者らがヒツジにおいてより大きな動物間変動性を観察した場合に4つのハウスキーピング遺伝子(18S、GAPDH、シクロフィリンA及びβ−アクチン)の幾何平均に対して実施され、この方法は、任意の単一参照遺伝子を使用することよりも優れていると報告されている23。PCRは、鋳型としての100ngのcDNA、1×TaqMan Fast Universal PCRマスターミックス NO AmpErase UNG(Applied Biosystems、英国、ウォリントン)及び注文設計されたプライマー−プローブ組を含有する10μl中で実施された。PCRサイクルは、95℃で20秒間の初期変性、続く95℃で1秒間及び60℃で20秒間の40サイクルを包含した。参照サンプルの段階希釈を使用して、各アッセイに関して相対標準曲線を作成して、相対標準曲線法を使用して結果を解析した。
ウェスタンブロッティング
ラット腸におけるPon3タンパク質発現を解析するために、10ml当たり1つの完全ミニEDTAフリープロテアーゼ阻害剤カクテルタブレット(Roche)を含有する1×RIPA緩衝液(Millipore)中でガラスホモジナイザを使用して、凍結組織を均質化した。タンパク質濃度は、BioRad DCタンパク質アッセイを使用して決定した。20μgのタンパク質を含有するサンプルは、Nupageサンプル還元剤(Invitrogen)を添加することによって還元して、熱変性させて、10%Novexビス−トリスゲル(Invitrogen)上に負荷した。電気泳動後、タンパク質をPVDF膜(Invitrogen)へ転写して、TBS−ツイーン20(0.05%)中の5%脱脂粉乳で1時間ブロックして、続いて0.2μg/mlでのヤギポリクローナル抗ヒトPon3抗体(Lifespan Biosciences)を用いて振とう機上で4℃にて一晩プローブした。抗体結合は、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ウサギ抗ヤギ二次抗体(DAKO)により検出した。続いて、ECL基質(Amersham Biosciences)を使用して、結合を可視化させた。膜をRestore(商標)ウェスタンブロッティングストリッピング緩衝液(Pierce)を用いて室温で15分間ストリッピングして、0.2μg/mlでのヒトGAPDHに対するウサギポリクローナル抗体(Abcam)で再プローブさせて、タンパク質の等しい負荷を確認した。
【0084】
ヒト胎児におけるPon3発現を解析するために、臍帯血サンプルをリチウム−へパリンチューブ中に回収して、3000rpmで4℃にて10分間の遠心分離により分離させた。血清サンプルをPBSで10倍に希釈して、Nupageサンプル還元剤(Invitrogen)を添加することによって還元して、熱変性させた。3μlの10倍希釈したサンプルを、10%Novexビス−トリスゲル(Invitrogen)上に負荷した。電気泳動後、上述するように、タンパク質をPVDF膜(Invitrogen)へ転写して、PBS−ツイーン20(0.05%)中の5%脱脂粉乳で1時間ブロックして、続いてヒトPon3に対する抗体(Lifespan Biosciences、レバノン)でプローブした。等しい負荷を確認するためのウェスタンブロッティングの再プローブは、すべてのレーンに同一容量の血清が負荷された場合には不要であった。したがって、タンパク質の抽出効率又はタンパク質濃度の測定の変動性に関するノイズは存在しない。総タンパク質は、ポンソーSでブロットを染色することによって評価した。
統計学
転写産物及びコルチゾールのレベルをlog変換し、続いて、対応のないスチューデントt検定を使用して、平均値を比較した。2つの連続した変数間の関連性は、スピアマン順位相関及び線形回帰の両方を使用して評価した。統計学的有意性はP<0.05で仮定されて、P値はすべて、両側であった。
結果の概要
本発明者らは、系統発生的に単に遠縁であるラット及びヒツジにおける肺並びに腸を研究した。両方の哺乳動物における両方の組織中の上方調節は、この遺伝子が、一般的に哺乳動物(ヒトを含む)における出産のための全身的な準備において、例えば酸化的ストレスに対する防御において重要であることを示す。
【0085】
本発明者らは、広範の妊娠期間について研究し、またヒツジにおけるコルチコステロイドの影響を研究したが、これはコルチコステロイドが出産のための準備段階中である胎児において重要なプロセスの多くを上方調節することに関与するためである。
【0086】
実験スキームを図1に示す。
【0087】
アレイ実験により、肺(24倍)及び腸(31倍)の両方でのパラオキソナーゼ3をコードするmRNAの16日目と20日目との間での上方調節が実証された。定量的TaqMan RT−PCRを使用したサンプルバリデーションから、別個の一連の動物由来の肺及び腸において(図2A及び図2B)、また肝臓において(図2C)、同程度の変化が確認された。
【0088】
次に、本発明者らは、ヒツジにおいてPON3 cDNAのフラグメントをクローニングして、RT−PCR用のプライマー及びプローブを設計して、定量的TaqMan RT−PCRを使用して、それぞれが妊娠の後半の3分の1で分娩された5匹の動物を有する4つの群において、PON3 mRNAのレベルを解析した。小腸のサンプルは、幽門括約筋と回盲部との間の中間点から入手した。PON3 mRNAは、妊娠期間が進むにつれ直線的に増大し、両方の組織における変化は、非常に統計学的に有意であった。およそ5倍の上方調節が、肺及び腸の両方で観察された(図3A及び図3B)。
【0089】
本発明者らは、外因性合成コルチコステロイド(デキサメタゾン)及び媒体に暴露させた早期ヒツジ胎児におけるPON3の発現を研究した。これにより、コルチコステロイドは、肺及び腸の両方でPON3 mRNAを増大させるが、サンプル間のより大きな変動性に起因して、差異は、腸においては統計学的に有意でないことが実施された(図4A及び図4B)。
【0090】
続いて、本発明者らは、満期(145日)で分娩した動物間でのPON3 mRNAレベルに対する内因性コルチコステロイドの影響を検査した。対照動物を、内因性コルチコステロイドの妊娠後期での増加が妊娠期間およそ115日目〜118日目に実施された副腎摘出術により防止された動物と比較した。副腎摘出術は、満期での両方の組織においてより低いPON3 mRNAと関連するが、サンプル間のより大きな変動性に起因して、この差異も同様に、統計学的に有意ではなかった(図5A及び図5B)。
【0091】
これらの結果により、PON3 mRNAは、ラット及びヒツジの両方において肺並びに腸の両方で出産に先立って上方調節されることが示される。
【0092】
次に、本発明者らは、4人の早期乳児及び満期に生まれた4人の乳児において出産時に入手した臍帯血を得ることによって、早期ヒト胎児及び満期ヒト胎児に循環しているPON3のレベルを比較した。満期乳幼児におけるPON3タンパク質レベルは、成人と同程度であるが、PON3発現のレベルは、早期に生まれた乳児の臍帯血中ではより低かった(図6)。
妊娠後期における胎児ラットにおけるPon3発現
マイクロアレイ解析により、肺及び腸の両方において16dGAと20dGAとの間でアレイ上で20倍を超えて上方調節される4つの遺伝子が実証された(表2):血清アミロイドA様タンパク質3、パラオキソネーゼ3(Pon3)、溶質キャリアファミリー34(メンバー2)及び塩化物細胞内チャネル5。これに対して、Pon遺伝子ファミリーの他の2つの成員(Pon1及びPon2)の発現は、有意に変化しなかった。
【0093】
本発明者らは、アレイで使用される動物の同胞種においてリアルタイム定量的RT−PCRによるPon3の発現について解析して、ラットの肺、腸及び肝臓において、16dGAと20dGAとの間でPon3 mRNAの上方調節を確認した(図2)。16dGA及び20dGAのラット肺及び腸のウェスタンブロット解析により、Pon3タンパク質は16dGAで検出不可能であるが、20dGAでは適切な分子量の明らかなバンドが存在することが実証された(図7)。
胎児ヒツジにおけるPon3発現
ヒツジPON3遺伝子に関して公開された配列が存在しないため、本発明者らは、オルソロガスなヒツジ遺伝子の部分的cDNAをクローニングした。本発明者らは、ヌクレオチドレベルでウシPon3と96%の相同性、及びヒトPon3と87%の相同性を共有する505bpの配列を入手した。これに対して、その配列は、ウシPon1(62%)及びPON2(70%)とあまり相同性を示さなかった。定量的RT−PCR戦略は、クローニングした配列を使用して設計された(表2)。次に、本発明者らは、それぞれが妊娠の後半の3分の1で分娩された5匹の動物を有する4つの群において、PON3の発現について解析した。PON3発現は、肺及び腸の両方における進行中の妊娠期間の進行(図3A及び図3B)、及びコルチゾールレベル(図3C及び図3D)とともに直線的に増大し、変化はすべて、非常に統計学的に有意であった。
【0094】
続いて、本発明者らは、外因性合成グルココルチコイド(デキサメタゾン)又は媒体に暴露した早期ヒツジ胎児を比較した。これにより、デキサメタゾンが肺及び腸の両方においてPON3の発現を増大させたが、サンプル間のより大きな変動性に起因して、差異は、腸では統計学的に有意ではなかったことが実証された(図4A及び図4B)。次に、本発明者らは、対照満期動物を、115dGA〜118dGAで胎児副腎摘出術を実施した満期動物と比較することによって、満期(145日目)で分娩された動物間でのPON3の発現に対する、内因性グルココルチコイドの正常な妊娠後期での上昇を阻止することの影響について検査した。副腎摘出術は、満期では両方の組織でのPON3のより低い発現に関連したが、サンプル間のより大きな変動性に起因して、この差異も、腸では統計学的に有意ではなかった(図4C及び図4D)。
ヒト臍帯血におけるPon3タンパク質
PON3に関して適切なサイズのバンドは、臍帯血清のウェスタンブロットを使用して検出可能であった。PON3の臍帯血清レベルを、8人の早期乳児及び10人の満期乳児で比較した。早期乳児の平均妊娠期間は27週3日であり、平均出生体重は、986gであった。4人は正常分娩であり、4人は、帝王切開により分娩された。乳児の1人には、出産前にベタメタゾンの単回投与を施し、他はすべて、出生前ステロイドのコースを完了している。8人の乳児のうち6人は、5mg/L未満の初期CRPを有し、2人が、初期CRPが上昇していた(14mg/L及び68mg/L)。いずれも、出産後に実施される第1のサンプル中で血液又はCSFの陽性培養を有さなかった。PON3レベルは、満期では6.3倍高かった(図8)。PON3が総タンパク質に対して発現されて、ポンソーS染色により評価される場合、満期レベルは4.9倍高く、log変換した平均値の比較は、依然として非常に統計学的に有意であった(P<0.001)。
【0095】
パラオキソナーゼ−3は、ラットの肺及び腸の両方において、妊娠後期に20倍を超えて上方調節されるアレイ上の28532個の遺伝子のうちのたった4つの中の1つであった。この上方調節は、同胞種において確認された。また、これまでの研究により、ヒトでは、PON3は主に肝臓で発現されることが実証されており24、本発明者らもまた、ラットにおいて妊娠後期にこの臓器中でPon3の上方調節を観察した。ウェスタンブロットにより、タンパク質レベルでの上方調節が確認された。本発明者らは、系統発生学的に異なる哺乳動物種である胎児ヒツジにおいて、妊娠の後半の3分の1でのPON3 mRNAの顕著な全身性の上方調節を確認した。さらに、内因性コルチゾールレベルとの強力な相関、デキサメタゾンが母体に付与された場合の早期動物における発現の増加、及び115dGA〜118dGAで副腎摘出術が実施された胎児間での満期での発現の低減により明らかであるように、胎児ヒツジPON3 mRNAの発現は、界面活性剤のように19、グルココルチコイドにより制御された。PON3は、低密度リポタンパク質と関連した血液中で循環する25。したがって、本発明者らは、このタンパク質が、臍帯血清濃度を測定することによって妊娠後期におけるヒト乳児でも上方調節されるかどうかを研究することが可能であった。本発明者らは、出産前ベタメタゾンの完全なコースに暴露させたにもかかわらず、8人の早期乳児のうち7人が、PON3レベルが、満期で生まれたヒト乳児間で6倍を超えて高いことを見出した。本発明者らは、PON3の上方調節は、ラット、ヒツジ及びヒトの胎児において観察され、かつグルココルチコイドにより制御される、出産のための全身的な準備プロセスであり得ると結論付ける。
【0096】
パラオキソナーゼファミリーは、1〜3の番号が付された3つのタンパク質で構成される。これらのタンパク質をコードする遺伝子は、ヒト染色体7q21〜7q22上のクラスター中に位置し、およそ65%の相同性を共有する。3つはすべて、加水分解酵素であり、具体的には、一連のラクトン及びヒドロキシ酸を加水分解する。2つの研究により、PON3が酸化防止剤として作用することが実証された。PON3は、in vitroで銅誘導性酸化に対して低密度リポタンパク質(LDL)を保護するが、PON2は保護しないことを見出した25。最近の研究により、マウスの骨格筋におけるヒトPon3のトランスジェニック発現が四塩化炭素(CCl)の肝毒性効果の低減に関連することが実証された26。CClの投与は、フリーラジカルの肝臓誘導により肝臓損傷を引き起こす。トランスジェニックヒトPON3は、脂質過酸化のレベルを低減させ、CClにより引き起こされる肝臓損傷の生化学的徴候及び組織学的徴候を低減させた。さらに、トランスジェニックヒトPon3は、内因性酸化防止剤であるグルタチオン及びスーパーオキシドジスムターゼの正常な肝臓レベルの維持をもたらし、これらはともに、対照動物では欠失されていた。マウスにおけるヒトPon3のトランスジェニック発現はまた、アテローム硬化性病変形成及び脂肪症を阻害することも知られている27
【0097】
胎児ラットにおける妊娠後期でのPON3の上方調節の全身的な性質により、PON3が種々の臓器において種々の細胞型により必要とされる幾つかの役割を有することが示唆される。さらに、Pon3が、ラット及びヒツジの両方において妊娠後期に全身的に上方調節されるという観察により、上方調節が、出産前後に多様な哺乳動物種に一般的なプロセスに関連することが示唆される。出産後、すべての哺乳動物種において動脈の酸素分圧の急速な上昇がみられる。ヒツジでは、胎児動脈血中の酸素分圧はおよそ18mmHg〜28mmHgであり、これは、出産後数分以内に、およそ100mmHgへ上昇する28。出産後の酸素圧の上昇は、動脈管の閉鎖を促進すること16a及び肺血流を増大させること30のような心血管系の出産後の適応にとって重要な誘因である。しかしながら、酸素圧の急速な増加は、「生理学的環境で上昇する酸素(スーパーオキシドから水に至るまで、ただし、水は除く)のすべての酸化状態及び励起状態」について記載するように定義され得る反応性酸素種(ROS)の生成をもたらし得る31。出産後の酸素分圧の急激な増加を考慮すると、新生児は、出産後にROSの生成の増加に暴露される可能性が高い。Pon3の酸化防止効果を考慮すると、妊娠後期での酵素の全身的な上方調節は、出産直後に酸化的ストレスを制限するための一般的な要件に起因して、多様な種間で保存され得る。
【0098】
早期出産は、病的状態及び死亡の増加に関連する。このことは、乳幼児が、妊娠後期に胎児に起こる新生児期にとって正常な準備の変化に先立って生まれるという事実に関する。界面活性剤療法は、通常妊娠後期に上方調節されたであろう物質を、早期乳児に補うことに基づく首尾よい臨床介入の一例である。したがって、これらの結果により、早期ヒト新生児へのPON3の投与は、早期出産という結末を改善させる可能性が高く、上述するように未熟児の合併症に対する保護を提供することが示唆される。
【0099】
PON3の重要な特性は、血清中に見出されることである。最初に、このことにより、本発明者らは、臍帯血サンプルから得られる血清中のレベルを測定することによって、ヒト乳児における上方調節を確認した。次に、新生児におけるPON3の役割が、タンパク質の循環レベルを増大させることによって一部介在される場合、このことは、早期新生児に対する外因性Pon3の静脈内投与が有益であり得ることを示唆する。この解釈は、上述するマウスにおけるトランスジェニックヒトPON3の研究により支持される。骨格筋におけるPon3のトランスジェニック発現は、血中のPon3ラクトナーゼ活性の上昇をもたらし、このことは、肝臓におけるCCl誘導性のフリーラジカル生成の影響の低減に関連していた。したがって、これらの観察結果は、循環しているPon3の全身効果を支持している。種々のパラオキソナーゼの生化学的研究により、3つの亜型は幾つかの共通基質を有するが、それらはまた、それぞれが特異的な基質を加水分解することも可能であることが実証された32
【0100】
3つの他の遺伝子は、ラットの肺及び腸の両方で妊娠後期に20倍を超えて上方調節した。これらのうちの2つが、イオンチャネル(溶質キャリアファミリー34(メンバー2)及び塩化物細胞内チャネル5)であった。したがって、どちらも潜在的な候補置換療法ではないが、妊娠後期におけるそれらの全身性かつ強い上方調節は、それらが出産前後の適応に重要である可能性が高いという示唆を提供する。
【0101】
残りの上方調節された転写産物である血清アミロイドA様タンパク質3は、急性期タンパク質である。過去の研究は、胎児ヒツジにおけるこのタンパク質の発現に対する人工呼吸器、エンドトキシン及びグルココルチコイドの影響について取り組んできた33〜35。しかしながら、妊娠後期にラット胎児において転写産物レベルでの生理学的上方調節は、本明細書中で初めて示される。したがって、血清アミロイドA様タンパク質3(SAA3)もまた、早期新生児における候補となる新規治療薬を示す。
【0102】
参考文献
【表1】

【0103】
配列
【化1】

【0104】
【化2】

【0105】
【化3】

【0106】
ヒツジ配列中のシーケンシング誤差又は単一ヌクレオチド多型を示すことができる多義塩基は下記の通りに表す:R=A/G、Y=C/T。は、所定のヌクレオチドに関する3種すべての間の相同性を表す。アクセッション番号:ヒト=NM_000940.2;ウシ=NM_001075479;及びヒツジ=GU327780。
【0107】

【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
略記:Saa3=血清アミロイドA様タンパク質3;Pon=パラオキソナーゼ;slc34a2=溶質キャリアファミリー34(メンバー2);Clic5=塩化物細胞内チャネル5。16dGA及び20dGAではともにn=10(所定の同腹子由来の単一動物から採取された所定の妊娠期間での所定の組織中のすべてのサンプルを用いる)。 Cyber−T(ベイズP値<0.001、差次的発現の事後確率>0.99)及び順位プロダクト解析(P<0.0001))の両方を用いて、16dGA〜20dGAの間の統計的に有意な倍数変化。
【配列表フリーテキスト】
【0110】
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配列番号27:合成順序:リバースプライマー
配列番号28:nはa、c、g又はt

【特許請求の範囲】
【請求項1】
早期新生児を処置する方法であって、パラオキソナーゼ3(PON3)ポリペプチドを該早期新生児に投与することを含む、早期新生児を処置する方法。
【請求項2】
前記処置が、前記新生児において死亡の危険性、及び/又は病的状態の程度、重篤性若しくは危険性を低減させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PON3ポリペプチドが、配列番号2に対して少なくとも80%の配列同一性を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記PON3ポリペプチドを薬学的組成物中に配合する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記PON3ポリペプチドを非経口投与する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記PON3ポリペプチドを静脈投与する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記PON3ポリペプチドを腸内投与する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
早期新生児の処置における使用のためのPON3ポリペプチド。
【請求項9】
早期新生児の処置における使用のための薬剤の製造におけるPON3ポリペプチドの使用。
【請求項10】
早期新生児を処置する方法であって、血清アミロイドA様タンパク質3(SAA3)ポリペプチドを該早期新生児に投与することを含む、早期新生児を処置する方法。
【請求項11】
前記処置が、前記新生児において死亡の危険性、及び/又は病的状態の程度、重篤性若しくは危険性を低減させる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記SAA3ポリペプチドが、配列番号6に対して少なくとも80%の配列同一性を有する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記SAA3ポリペプチドを薬学的組成物中に配合する、請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記SAA3ポリペプチドを非経口投与する、請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記SAA3ポリペプチドを静脈内投与する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記SAA3ポリペプチドを腸内投与する、請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
パラオキソナーゼ3(PON3)ポリペプチドを前記早期新生児に投与することを更に含む、請求項10〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
早期新生児の処置における使用のためのSAA3ポリペプチド又はSAA3ポリペプチド及びPON3ポリペプチドの組合せ。
【請求項19】
早期新生児の処置における使用のための薬剤の製造におけるSAA3ポリペプチド又はSAA3ポリペプチド及びPON3ポリペプチドの組合せの使用。
【請求項20】
前記投与前に、PON3及び/又はSAA3を欠損していると前記早期新生児を同定することを含む、請求項1〜7又は請求項10〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
病的状態及び/又は死亡の危険性がある早期新生児を同定する方法であって、該新生児から入手されるサンプル中のPON3及び/又はSAA3のレベル若しくは活性を決定することを含み、対照に対するPON3及び/又はSAA3のレベル若しくは活性の低減が、該早期新生児は病的状態及び/又は死亡の危険性があることを示す、病的状態及び/又は死亡の危険性がある早期新生児を同定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−508345(P2013−508345A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534765(P2012−534765)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001965
【国際公開番号】WO2011/048387
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(500341551)ケンブリッジ エンタープライズ リミティッド (8)
【Fターム(参考)】