説明

昆虫の羽化交尾促進方法及び装置

【課題】農作物栽培施設圃場で使用する昆虫の羽化を正常に促し、交尾率を高める技術を提供し、農作物に寄生する害虫の生物防除の効果を高める。
【解決手段】農作物栽培圃場の内部に、天敵昆虫の羽化及び交尾を促進する装置を配置し、農作物に寄生する害虫を防除する。この装置は内部がやや暗室で、内部壁面を昆虫が登りやすくしてあり、昆虫の蛹を効率的に羽化させるための浅底の容器と、羽化後の雌雄昆虫の交尾を促進するための空間を確保するため、天井下に水平に横に張った紐、布又は板とを内部に有し、昆虫が外部に飛び出すための開閉式開口部を装置側面に備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有翅昆虫の羽化及び交尾を促進する方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、農作物に発生し被害をもたらす害虫の防除は、化学農薬を用いて行われてきた。近年、化学農薬を減らす目的から防虫ネット、有色蛍光灯及び紫外線除去フィルムなどを使用した物理的な方法を用いて圃場内への害虫の侵入を抑制し、被害を未然に防ぐことが行われるようになった(特許文献1及び2)。また、カキ、ナシ及びリンゴなどの果樹栽培では、フェロモンを用いてチャバネアオカメムシを、殺虫成分アセタミプリド剤を処理したナスに集合させ、殺虫する方法が提案されている(特許文献3)。また、近年、生物を用いた病害虫の防除方法も広く普及し、天敵昆虫が農薬として使用されることも増えてきた。
【特許文献1】特開2003−299434号公報
【特許文献2】特開平8−47361号公報
【特許文献3】特開2004−143111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
多くの害虫は農作物圃場に侵入した後、農作物上又はその周辺で増加する。これらの害虫の防除には上述のような化学農薬や物理的な方法のほかに、天敵昆虫を放して害虫を捕食させたり、又は天敵昆虫を産卵させ増加させて害虫を栄養源として捕食させたりすることにより防除する方法が広く普及している。防除すべき害虫とその天敵昆虫の組み合わせとして、例えば、オンシツコナジラミに対するオンシツツヤコバチ;シルバーリーフコナジラミに対するサバクツヤコバチ;アブラムシ類に対するコレマンアブラバチ、ショクガタマバエ及びナミテントウ;並びに、ハモグリバエ類に対するイサエヤヒメコバチ、ハモグリコマユバチ及びハモグリミドリヒメコバチ;などが挙げられる。これらの天敵昆虫は、昆虫の成虫や幼虫を作物栽培施設内に放す(放飼という)という方法で、害虫の防除のために使用されている。
【0004】
天敵昆虫の放飼効果は、その種類によっては周囲の環境から大きな影響を受けることがある。例えば、オンシツツヤコバチやサバクツヤコバチは、小さなカードにマミーと呼ばれる蛹が貼り付けてあるが、直射日光に当たると蛹の羽化率が低下するため、日陰になるように葉の裏にこのカードを取り付け、羽化率の低下を防いでいる。
また、コレマンアブラバチでは、成虫をそのまま施設内に放飼する方法で、害虫であるアブラムシ類の防除効果を発揮する。一方、ショクガタマバエを用いる場合は、蛹を底の浅い容器に入れて施設内に置き、羽化後交尾した成虫が、害虫であるアブラムシ類の集団近くに産卵し、孵化した幼虫がアブラムシ類を捕食することにより、害虫の増加を抑制する。
【0005】
しかしながら、ショクガタマバエの蛹は羽化するときにやや暗いところを好み、夕刻に羽化し、羽化後交尾するために地上からやや高い場所に飛翔する性質がある。このため、従来法のように、単にショクガタマバエの蛹を皿等の底浅の容器の上にのせて農作物栽培施設内に置くだけでは、その羽化率及び交尾率が低下するという問題が発生していた。
【0006】
また、農作物栽培の施設内は温度が高く、場所によっては直射日光が当たる場合もあり、ショクガタマバエの場合もこれによって羽化率が低下してしまう。その一方で、農作物栽培の施設では作物の生育を促進するために光を必要とし、光を取り入れる工夫がされている。このため施設内で最も高い防除効果を発現するような天敵の放飼場所が、ショクガタマバエ類のような天敵昆虫にとっては必ずしも好適な環境条件ではないことが多かった。さらに、ショクガタマバエ類は飛翔力があるため、施設内で交尾できない場合は、施設外に飛去してしまい、害虫の防除効果を発揮できない場合も少なくなかった。
天敵昆虫としてショクガタマバエ類を用いた害虫アブラムシ類の防除では、上記の問題を解決し、天敵昆虫の羽化率と交尾・産卵率の向上を図ることが課題となっている。
【0007】
このように、天敵昆虫による害虫の防除においては、使用する天敵昆虫の羽化や増殖を効果的に促進させることが求められている。すなわち、天敵昆虫あるいは通常の昆虫の高い羽化率の確保、羽化後の飛去防止、及び交尾の促進を図るために、人為的に作成された装置はこれまでになく、新たな創意工夫が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、昆虫とりわけ、害虫の防除に使用する天敵昆虫の羽化率を高めること、羽化した後の成虫の飛去を防ぐこと、及び雌雄昆虫の交尾の促進を図ることを目的とする。また、天敵昆虫の交尾率を高めることにより、農作物栽培施設内で増加しつつある害虫を効率的に抑制することを目的とする。そして、本発明は、安定した羽化の促進と羽化後の効率的な交尾の促進という両機能を備えた装置を作成し、施設内の最も効果的な場所に設置して、天敵昆虫を害虫防除に有効に利用し、農作物の害虫被害を抑制することをも目的とする。
【0009】
上記目的を達成するための本発明の羽化交尾促進装置は、昆虫の蛹を効率的に羽化させるための容器と、羽化後の雌雄昆虫の交尾を促進するための天井下に水平に横に張った紐、布又は板とを内部に備え、昆虫が外部に飛び出すための開閉式開口部を側面に備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の羽化交尾促進装置は、害虫防除に使用されるあらゆる昆虫に利用できる。例えば、有翅昆虫の蛹又は成虫に使用でき、好ましくはショクガタマバエ類、オンシツツヤコバチ、イサエヤヒメコバチ、ハモグリコマユバチ、及びコレマンアブラバチ等から選ばれる天敵昆虫について使用することができる。より好ましくは、害虫アブラムシ類の防除のための天敵昆虫である、ショクガタマバエ類の羽化交尾促進のために使用することができる。
【0011】
本発明の羽化交尾促進装置は、蛹が羽化し交尾する容器として一定の大きさ又は形状を有し、装置の内部はやや暗室で、内部底面に昆虫の蛹を置くための底浅の容器を有し、羽化後の雌雄昆虫の交尾を促進するために天井下に水平に横に張った紐、布又は板を備えることを特徴とする。当該装置の大きさは、蛹が羽化し、羽化後に交尾するのに十分な大きさと高さを有するものであればよい。天井下に水平に横に張った紐、布又は板には、雌雄昆虫の成虫がぶら下がったり、つかまったりすることができ、広い農作物栽培施設内で雄が雌を探索する必要が無いため、高い交尾率を確保することができる。
【0012】
例えば、上記羽化交尾促進装置は、縦幅10cm以上、横幅10cm以上、高さ15cm以上を有する箱又は円筒様の容器であって、装置の内部はやや暗室で、内部底面に昆虫の蛹を置くための底浅の容器を有し、羽化後の雄雌昆虫の交尾を促進するために天井下に水平に横に張った直径0.1〜2mmの紐を数本備えることができる。
【0013】
より具体的には、上記羽化交尾促進装置は、縦幅40cm以上、横幅40cm以上、高さ40cm以上を有する箱又は円筒様の容器であって、装置の内部はやや暗室で、昆虫の蛹を置くための底浅の容器を有し、羽化後の雄雌昆虫の交尾を促進するために天井下に水平に横に張った直径0.1〜2mmの紐を少なくとも3本以上備えることができる。
【0014】
上記の羽化交尾促進装置は、その一部又は全部が半透明の硬質素材によって成形され、内部壁面に昆虫が上りやすい凸凹が付与され、装置上部あるいは装置周囲の表面に温度上昇を避けるための反射材を有し、そして、羽化後の雌雄昆虫の交尾を促進するための天井下に水平に横に張った紐、布又は板よりも下位の位置に、昆虫が外部に飛び出すための開閉式開口部を有することができる。装置上部あるいは装置周囲の表面に設けられた反射材は、温度上昇を避けるのみならず、装置の内部をやや暗室にして羽化に適した環境を作り出す。
【0015】
本発明の昆虫の羽化交尾促進装置内に備える、天井下に水平に横に張る紐、布又は板の素材は、羽化後の成虫がぶら下がったり、つかまったりできるものであれば特に限定されない。例えば、紐の場合は繊維素材、好ましくは綿糸、麻糸、ビニール紐等から選ばれる素材を使用できる。布の場合も、繊維素材、好ましくは綿、麻、ビニール等あるいは不織布から選ばれる素材を使用できる。また、板の場合は、ざらついた素材であればよく、好ましくは不織布を貼った板を使用することができる。昆虫の成虫がぶら下がったり、つかまったりするのに適した紐の太さや本数及び布又は板の大きさを選ぶことによって、成虫の飛去を少なくさせ、交尾率を向上させることができる。
【0016】
本発明は、上記の羽化交尾促進装置を使用する、昆虫の羽化及び交尾を促進するための方法を提供する。すなわち、上述した本発明の羽化交尾促進装置を使用することによって、目的とする天敵昆虫の羽化と交尾を効率的に促進することができる。本発明の羽化交尾促進装置は、内部底面に蛹を入れた浅い容器を置いて、農作物栽培施設内の最も防除効果を発現させるべき場所に設置することが可能である。例えば、防除すべき害虫が最も多く発生する場所や毎年害虫が決まって発生する場所に設置することができる。たとえ、これらの場所が、直射日光が入る場所であったとしても、本発明の羽化交尾促進装置を使用すれば、装置内の温度上昇を避けることができるため、羽化率の低下を防ぐことが可能である。さらに、天敵昆虫の卵や蛹は、農作物栽培施設に存在する蜘蛛類や蟻などを含めたその他の昆虫や動物に捕食されることも多いが、本発明の羽化交尾促進装置は、開閉可能な開口部を備えているため、天敵昆虫の卵や蛹が捕食されることを防ぐことも可能である。
【0017】
本発明は、上記の羽化交尾促進装置を農作物栽培施設の内部に配置して、農作物害虫に対する天敵昆虫の羽化及び交尾を促進させ、天敵昆虫を増殖させて、当該害虫を防除する方法を提供する。本発明の羽化交尾促進装置を農作物栽培施設の内部に配置することで、天敵昆虫を効率的に増殖させることができるため、農作物栽培施設圃場内へ侵入し増加した害虫数を効率的に減少させ、化学農薬の散布回数を削減するとともに、害虫による作物の甚大な被害を抑制することができる。
【0018】
本発明の昆虫の羽化交尾促進装置は、例えば、施設で栽培される野菜類、特にトマト、イチゴ、ナス、ピーマン、メロン、及びキュウリなどの農作物を害虫から保護するために使用できる。例えば、天敵昆虫であるショクガタマバエ類の羽化交尾促進のために本発明の羽化交尾促進装置を使用し、これらの農作物に発生する害虫であるアブラムシ類を防除することができる。しかしながら、本発明の羽化交尾促進装置は、施設栽培作物のみならず露地栽培作物の圃場内でも利用が可能であり、本発明の害虫防除方法は上記の農作物の保護及び対象害虫の防除に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
本発明の昆虫の羽化交尾促進方法及びその装置によれば、昆虫の蛹を効率的に羽化させることができるため、放飼した天敵昆虫の歩留まりを向上させることが可能となる。また、装置内部の天井下に水平に横に張った紐、布又は板により、羽化後の雌雄昆虫の交尾率が向上するため、天敵昆虫の産卵数が多くなり、害虫の防除効果を一段と向上させることができる。
また、本発明の羽化交尾促進装置を農作物栽培施設の内部に配置して、農作物害虫に対する天敵昆虫の羽化及び交尾を促進させ、天敵昆虫を増殖させることにより、農作物栽培施設圃場内へ侵入し増加した害虫数を効率的に減少させ、化学農薬の散布回数を削減するとともに、害虫による作物の甚大な被害を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態につき、図面を併用して詳細に説明する。
本発明は、図1に示すように、羽化交尾促進装置11内の底面に底浅の蛹入れ容器14を配置し、羽化交尾促進装置の内側壁面15には、羽化した成虫がつかまって上りやすいように、凹凸を付加しておく。また、天井近くには、昆虫の成虫がぶら下がったり、つかまったりすることを促進するため、横に水平に数本の紐、布又は板を張る。図1中には、ぶら下がり紐又は布13を張った例を示してある。紐、布又は板を張った位置より下には、交尾後の昆虫が作物栽培圃場に出て行くための開閉式の出口12を配置してある。
装置の内部はやや暗い状態を保持する。また、装置の外部には太陽光に照らされたときに温度が上昇しないように反射フィルムを張ることもできる。装置の大きさは、縦幅40cm×横幅40cm×高さ40cm以上あれば、安定して羽化交尾促進効果が発現する。
【0021】
図1の装置内に、天敵昆虫の蛹を数日間入れて静置しておくと、蛹から成虫が羽化し、羽化した成虫は壁面で翅を展張した後、紐まで上る。このため、装置内側の壁面は凹凸で、昆虫がつかまりやすい形状であることが望ましい。紐にぶら下がった昆虫の成虫は、落下しながら雌雄が交尾し、その後、側面の開閉式出口から装置の外に飛去する。
羽化交尾促進装置内部の壁面について、表面が滑らかなプラスチック板で作製した場合と、凹凸を付与した発泡スチロールで作製した場合とで、蛹の正常羽化率を比較したところ、凹凸を付与した発泡スチロールを内部壁面にした装置のほうが、蛹の正常羽化率が高いことがわかった。このように内部壁面は、昆虫がつかまりやすい形状にすることが好ましい。また、日長についても、発泡スチロールを素材にすると光が透過するため、羽化が安定することがわかった。
また、開閉式の開口部を設置することにより、開口部が閉まっている間は蜘蛛類、蟻などの侵入を防止できるため、昆虫が捕食されることを防ぐことができる。特に、蟻による昆虫の食害を防ぐためには、装置内の床を高床式にすることで効果的に昆虫が捕食されることを防止することができる。但し、開閉式の開口部は、1日1回以上は開口し、装置内で羽化し交尾した昆虫を、装置内から農作物栽培施設内へと解放する必要がある。
以上の形態によって発揮される効果を明らかにするため、試験例を以下に記載する。
【実施例】
【0022】
(試験例1)
表1に示す通り、各昆虫の蛹を100個体ずつ、羽化交尾促進装置内に入れておき、羽化率(%)、正常成虫率(%)、交尾率(%)を調べた(処理区)。
また、対照の慣行法として、羽化交尾促進装置を使用せず、各昆虫の蛹を直径15cmの底浅の皿にのせただけの場合における、羽化率(%)、正常成虫率(%)、交尾率(%)を調べた(慣行法)。
【表1】

【0023】
この結果、処理区のショクガタマバエの羽化率、正常成虫率及び交尾率は、各々95%、94%及び98%であった。一方、対照の従来法では、各々94%、55%及び不明であり、本発明の羽化交尾促進装置を使用した場合としない場合とでは大きな差が認められた。また、オンシツツヤコバチ、コレマンアブラバチ、ハモグリコマユバチでも同じ傾向がみられた。
このように本装置を使用することにより、アブラムシ類の天敵昆虫であるショクガタマバエをはじめ、オンシツツヤコバチ、コレマンアブラバチ、ハモグリコマユバチなどの天敵昆虫の正常な羽化率を高めるとともに、確実な交尾を促進することが可能であることが示された。
【0024】
(試験例2)
トマト栽培施設内で、4月に、天敵昆虫ショクガタマバエの蛹50頭を入れた羽化交尾促進装置を10アール当たり4装置配置して害虫アブラムシ類の防除を行った(羽化交尾促進装置区)。一方、対照として、天敵昆虫を使用しない区(無処理区)及び該羽化交尾促進装置を配置せず、直径15cmの底浅の皿にショクガタマバエの蛹50頭ずつを入れ、単に4カ所に置いた区(慣行法)を設置した。放飼2週間後に各区のトマト葉の1葉当たりにおけるアブラムシ類の発生状態を調べた。結果を表2に示す。
【表2】

【0025】
この結果、羽化交尾促進装置を配置した区では、2週間後アブラムシ類の発生は認められなかった。一方、慣行法では寄生株率が18%で、アブラムシの1葉当たり寄生頭数は8頭だった。また、天敵昆虫を用いて防除しなかった無処理区では、寄生頭数は314頭、寄生株率87%と著しく高かった。
このように天敵昆虫の羽化交尾促進装置の利用により、著しく高い害虫の防除効果を発揮することが明らかとなった。
【0026】
(試験例3)
羽化交尾促進装置内の天井下に張る横紐、布又は板に関し、その種類と太さが交尾率に与える影響について調べた。紐、布又は板として、木綿糸、麻紐、針金、ビニール紐、布、及びプラスチック板を用いた。また、横紐、布又は板を設置しない装置(無)についても試験した。
羽化交尾促進装置内の上部(天井下)に各々の素材を設置し又は張った。次に、該装置の内部底面に置いた浅底の容器にショクガタマバエの蛹を100頭ずつ入れ、出てくる成虫を採取した。交尾率は、これらの成虫を、アブラムシを寄生させたインゲン葉に1頭ずつ放飼し1週間静置した後、幼虫の有無を調べて交尾率を計算した。
【表3】

【0027】
これらの結果、表面の滑らかなプラスチック板よりも、0.2〜2.0mmの太さの細い糸を張り、ショクガタマバエがぶら下がりやすくした方が、交尾率が高まることが明らかとなった。
【0028】
(試験例4)
羽化交尾促進装置の高さが交尾率に与える影響を調べた。該装置の高さを15、20、30、40、60及び80cmの高さ、縦幅30〜50cm、横幅30〜50cmとして交尾率を比較した。交尾率は雌成虫を採取してインゲン葉上のアブラムシコロニーに放飼し産卵の有無を調べることによって算出した。
【表4】

【0029】
表4の結果から、40cm以上の高さで安定した交尾率を与えることがわかった。さらに60cm以上であれば、より高い交尾率を与えることが認められた。一方、幅に関しては、30cmあれば交尾率には差がなかった。
【0030】
(試験例5)
2004年9月4日の午後1時から3時まで、高温で暑くなるトマト栽培施設内で、施設内の直射日光の当たる場所と日陰、及び羽化交尾促進装置内の温度と、照度を測定した。温度は図2のグラフに、照度は表5に示す。
【表5】

【0031】
これらの調査の結果、羽化交尾促進装置は温度の上昇を抑制し、日陰状態を作り出すため、昆虫の羽化を促進し、羽化直後の飛去を防止することができることがわかった。また、羽化交尾促進装置は、温度の上昇を抑制し日陰状態を作り出す一方で、日没を感知できる程度の照度を有するため、装置内の昆虫は光周期を確保でき、交尾時間が攪乱されることがない。
【0032】
(試験例6)
複数の天敵昆虫を該羽化交尾促進装置内に入れて、害虫の防除効果を調べた。供試した天敵昆虫は、ショクガタマバエ、コレマンアブラバチ、オンシツツヤコバチ、ハモグリコマユバチ、及びイサエヤヒメコバチとした。
各々の天敵昆虫の蛹を同羽化交尾促進装置内の、底の浅い容器にのせて静置した区(羽化装置)と種々の慣行の方法(慣行法)の防除効果を比較した。
【表6】

【0033】
羽化装置に天敵昆虫をいれた場合、暗いところで天敵昆虫が羽化し、その後に開閉式出口から施設内へ出て行くため、農作物栽培施設外への逃亡を阻止でき、施設内に定着させることが可能となる。従って、天敵昆虫の施設内の定着により、害虫の防除効果も安定して高くなることが判明した。
特に、施設外への飛去が問題となっていたハモグリコマユバチやイサエヤヒメコバチでも、このような高い害虫防除効果が認められたことは、これらの天敵昆虫の施設外への飛去が顕著に少なくなったことを示している。さらに、ショクガタマバエをはじめ、コレマンアブラバチ、オンシツツヤコバチ、ハモグリコマユバチ、及びイサエヤヒメコバチでもこのような高い防除効果が得られたことは、羽化交尾促進装置を使用した天敵昆虫の効率的な放飼方法によって、効果的な害虫防除を行うことができることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による羽化交尾促進装置の概略図である。
【図2】トマト栽培施設内の直射日光の当たる場所と日陰、及び羽化交尾促進装置内の温度の推移を示したグラフである。
【符号の説明】
【0035】
11 羽化交尾促進装置
12 昆虫の開閉式出入口
13 ぶらさがり紐又は布
14 蛹入れ容器
15 内側壁面
16 外側壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫の蛹を効率的に羽化させるための容器と、羽化後の雌雄昆虫の交尾を促進するための天井下に水平に横に張った紐、布又は板とを内部に備え、昆虫が外部に飛び出すための開閉式開口部を側面に備えることを特徴とする、昆虫の羽化交尾促進装置。
【請求項2】
当該昆虫が害虫の天敵昆虫であって、好ましくはショクガタマバエ類、オンシツツヤコバチ、イサエヤヒメコバチ、ハモグリコマユバチ、コレマンアブラバチから選ばれる、請求項1に記載の羽化交尾促進装置。
【請求項3】
当該羽化交尾促進装置は、蛹が羽化し交尾する容器として一定の大きさ又は形状を有し、装置の内部はやや暗室で、内部底面に昆虫の蛹を置くための底浅の容器を有し、羽化後の雌雄昆虫の交尾を促進するために天井下に水平に横に張った紐、布又は板を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の羽化交尾促進装置。
【請求項4】
当該羽化交尾促進装置は、縦幅10cm以上、横幅10cm以上、高さ15cm以上を有する箱又は円筒様の容器であって、装置の内部はやや暗室で、内部底面に昆虫の蛹を置くための底浅の容器を有し、羽化後の雄雌昆虫の交尾を促進するために天井下に水平に横に張った直径0.1〜2mmの紐を数本備えることを特徴とする請求項3に記載の羽化交尾促進装置。
【請求項5】
当該羽化交尾促進装置は、縦幅40cm以上、横幅40cm以上、高さ40cm以上を有する箱又は円筒様の容器であって、装置の内部はやや暗室で、昆虫の蛹を置くための底浅の容器を有し、羽化後の雄雌昆虫の交尾を促進するために天井下に水平に横に張った直径0.1〜2mmの紐を少なくとも3本以上備えることを特徴とする請求項4に記載の羽化交尾促進装置。
【請求項6】
当該羽化交尾促進装置は、その一部又は全部が半透明の硬質素材によって成形され、内部壁面に昆虫が上りやすい凸凹が付与され、装置上部あるいは装置周囲の表面に温度上昇を避けるための反射材を有し、そして、羽化後の雌雄昆虫の交尾を促進するための天井下に水平に横に張った紐、布又は板よりも下位の位置に、昆虫が外部に飛び出すための開閉式開口部を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の羽化交尾促進装置。
【請求項7】
当該昆虫の羽化交尾促進装置内に備える天井下に水平に横に張る紐、布又は板の素材は、紐の場合は繊維素材、好ましくは綿糸、麻糸、ビニール紐等から選ばれ;布の場合は、繊維素材、好ましくは綿、麻、ビニール等あるいは不織布から選ばれ;そして、板の場合は、ざらついた素材であって、好ましくは不織布を貼った板であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の羽化交尾促進装置。
【請求項8】
請求項1から7に記載されたいずれか1項の装置を使用する、昆虫の羽化及び交尾を促進するための方法。
【請求項9】
請求項1から8に記載されたいずれか1項の装置を農作物栽培施設の内部に配置して、農作物害虫に対する天敵昆虫の羽化及び交尾を促進させ、天敵昆虫を増殖させて、当該害虫を防除する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−14232(P2007−14232A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197042(P2005−197042)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(501307826)アリスタ ライフサイエンス株式会社 (17)
【Fターム(参考)】