説明

昇圧チョッパ回路の制御方法

【課題】昇圧チョッパ回路に付属回路を設けることなく、単純な回路構成でスイッチング損失を低減したソフトスイッチングを実現容易にする。
【解決手段】入出力間にリアクトル11およびブロッキングダイオード12が直列接続され、入出力間に単一のスイッチング素子13が並列接続され、スイッチング素子13のオンオフにより入力電圧VINを所定の昇圧比でもって昇圧した固定値の出力電圧VOUTを生成し、スイッチング素子13のオン時間TONを演算式TON=ILA×2L/VINで算出し、オン時間TONに基づいて、スイッチング素子13のスイッチング周期Tを演算式T=TON×VOUT/(VOUT−VIN)で算出すると共に、スイッチング素子13の両端電圧をそのスイッチング素子13がオンする直前で検出し、両端電圧が入力電圧に近似する不連続モードでスイッチング素子13をオンさせ、スイッチング素子13を零電流スイッチングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池や燃料電池などの直流電源を系統と連系させた分散電源システムなどに用いられ、直流電源を昇圧する直流−直流変換装置(DC−DCコンバータ)を構成する昇圧チョッパ回路の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池や燃料電池などの直流電源を系統と連系させた分散電源システム、例えば太陽光発電システムにおいては、直流電源である太陽電池の出力電圧をDC−DCコンバータにより昇圧した上で、その太陽電池を高効率で最大電力追従制御(MPPT制御)するようにしている。
【0003】
このDC−DCコンバータを構成する昇圧チョッパ回路は、スイッチング素子のオンオフにより太陽電池からの入力電圧を所定の昇圧比でもって昇圧した出力電圧を生成するようにしている。この昇圧チョッパ回路におけるスイッチング方式には、ハードスイッチング方式とソフトスイッチング方式がある。
【0004】
このハードスイッチング方式では、スイッチング素子がオンオフする時に、そのスイッチング素子に電流が流れていたり、スイッチング素子の両端に電圧が発生していたりすることから、スイッチング損失が大きい。
【0005】
これに対して、ソフトスイッチング方式では、スイッチング素子がオンオフする時に、そのスイッチング素子に流れる電流が零となる零電流スイッチング、あるいは、スイッチング素子の両端電圧が零となる零電圧スイッチングであることから、スイッチング損失がない理想的なスイッチングとなる。
【0006】
そこで、従来では、このスイッチング損失を低減することを目的とした種々のソフトスイッチング方式を採用した昇圧チョッパ回路の制御が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。なお、スイッチング損失を低減するようにしたソフトスイッチング方式は、昇圧チョッパ回路のみならず、スイッチング素子のオンオフにより入力電圧を所定の降圧比でもって降圧した出力電圧を生成する降圧チョッパ回路にも同様に採用されている。
【0007】
非特許文献1に開示された昇降圧チョッパ回路としては、LC共振回路を付加してスイッチの電流または電圧を正弦波状にし、電流が零の状態でスイッチの動作(零電流スイッチング)を行う電流共振型コンバータや、電圧が零の状態でスイッチをターンオフ動作(零電圧スイッチング)を行う電圧共振型コンバータが開示されている(P32の図4.2.3参照)。
【0008】
その他、インダクタ電流を高周波で制御することにより回路入力電流を正弦波化する単相力率改善(PFC)回路でアクティブ方式を採用したツーコンバータ(P49の図5.3.2参照)や、補助スイッチのターンオンタイミングの制御により、メイン回路スイッチの素子電圧が最も低下するタイミングでメインスイッチをオンさせるようにした昇圧昇降圧型双方向コンバータ(P79の図7.3.12参照)がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】電気学会技術報告 第1072号 「新型ソフトスイッチング電力変換回路と応用機器の技術動向」(2006年11月 電気学会)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前述の非特許文献1で開示された従来の昇降圧チョッパ回路のいずれも、スイッチング損失が低減されたソフトスイッチング方式である。しかしながら、非特許文献1におけるP32の図4.2.3で開示された電圧共振型コンバータでは、サージ電圧を吸収するスナバ回路を必要とする。また、非特許文献1におけるP49の図5.3.2に開示されたツーコンバータでは、ソフトスイッチングによる高効率化を図るためにチョッパ回路にスナバ回路を付設している。さらに、非特許文献1におけるP79の図7.3.12に開示された昇圧昇降圧型双方向コンバータでは、メイン回路に補助スイッチ回路を付設している。
【0011】
このように、スナバ回路の回生回路の付加、共振現象を利用することによる外部共振回路の付加や、補助スイッチ回路を必要とすることから、昇降圧チョッパ回路に付属回路を設けなければ、スイッチング損失を低減したソフトスイッチングを実現することが困難である。その結果、それら付属回路による部品点数の増加で、昇降圧チョッパ回路のコストアップを招来するという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、前述した問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、昇圧チョッパ回路に付属回路を設けることなく、単純な回路構成でスイッチング損失を低減したソフトスイッチングを実現容易にし得る昇圧チョッパ回路の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、入出力間にリアクトルおよびブロッキングダイオードが直列接続され、かつ、入出力間に単一のスイッチング素子が並列接続された回路構成を備え、スイッチング素子のオンオフにより入力電圧を所定の昇圧比でもって昇圧した固定値の出力電圧を生成する昇圧チョッパ回路の制御方法であって、リアクトルのリアクタンスをL、スイッチング素子のオン時間をTON、スイッチング周期をT、入力電圧をVIN、出力電圧をVOUT、固定値の出力電圧を生成するための電流指令値をILAとした場合、スイッチング素子のオン時間TONを演算式TON=ILA×2L/VINで算出し、その算出されたスイッチング素子のオン時間TONに基づいて、スイッチング素子のスイッチング周期Tを演算式T=TON×VOUT/(VOUT−VIN)で算出することにより、スイッチング素子を零電流スイッチングで制御することを特徴とする。
【0014】
本発明では、固定値の出力電圧を生成するための電流指令値をILAを電流制御指令として付与することで、スイッチング素子のオン時間TONを演算式TON=ILA×2L/VINで算出し、その算出されたスイッチング素子のオン時間TONに基づいて、スイッチング素子のスイッチング周期Tを演算式T=TON×VOUT/(VOUT−VIN)で算出することにより、リアクトル電流ILが零となるスイッチング周期Tが得られ、このスイッチング周期Tでもってスイッチング素子をオンオフさせることにより零電流スイッチングが実現できる。
【0015】
また、本発明は、スイッチング素子の両端電圧をそのスイッチング素子がオンする直前で検出し、その検出された両端電圧が出力電圧に近似する連続モードでスイッチング素子を所定時間だけ遅延させてオンさせ、両端電圧が入力電圧に近似する不連続モードでスイッチング素子をオンさせることにより、スイッチング素子を零電流スイッチングで制御することを特徴とする。
【0016】
ここで、連続モードとは、リアクトルに連続的に電流が流れている状態を意味し、不連続モードとは、リアクトルに断続的に電流が流れている状態を意味する。また、不連続モードにおいてスイッチング素子の両端電圧が入力電圧と完全一致した時点でスイッチング素子をオンさせれば、理想的な零電流スイッチングを実現することが可能であるが、本発明の目的とするスイッチング損失の低減化を達成するためには、スイッチング素子の両端電圧が入力電圧に近似した時点でスイッチング素子をオンさせれば、理想的な零電流スイッチングに近いソフトスイッチングを実現することが可能である。なお、スイッチング素子の両端電圧が入力電圧に近似する程度については、スイッチング損失の低減をどの程度にするかによって決定される。
【0017】
前述の発明では、スイッチング素子の両端電圧を検出することにより、そのスイッチング素子の零電流スイッチングを理想するソフトスイッチングを行うようにしているが、本発明では、スイッチング素子の両端電圧以外に、リアクトルの両端電圧を検出することも可能である。つまり、リアクトルの両端電圧をスイッチング素子がオンする直前で検出し、その検出された両端電圧が負となる連続モードでスイッチング素子を所定時間だけ遅延させてオンさせ、両端電圧が零に近似する不連続モードでスイッチング素子をオンさせることを特徴とする。なお、不連続モードにおいてリアクトルの両端電圧が零に近似する程度は、スイッチング損失の低減をどの程度にするかによって決定されるため、前述したスイッチング素子の両端電圧が入力電圧に近似する程度と同一範囲に設定すればよい。
【0018】
以上のように、本発明の昇圧チョッパ回路では、スイッチング素子あるいはリアクトルの両端電圧をスイッチング素子がオンする直前で検出し、その検出された両端電圧に基づいて連続モードでスイッチング素子を所定時間だけ遅延させてオンさせ、不連続モードでスイッチング素子をオンさせることにより、従来のように昇圧チョッパ回路に付属回路を設けることなく、単純な回路構成でスイッチング損失を低減したソフトスイッチングを実現できる。
【0019】
ここで、前述した演算式に基づく零電流スイッチングとスイッチング素子あるいはリアクトルの両端電圧検出に基づく零電流スイッチングとを組み合わせれば、より一層確実な零電流スイッチングを実現することができ、スイッチング損失を低減したソフトスイッチングを実現することがより一層容易となる。
【0020】
なお、この昇圧チョッパ回路を太陽光発電システムにおけるDC−DCコンバータに適用する場合、そのDC−DCコンバータで必要とする容量を確保するため、前述した複数の昇圧チョッパ回路を並列多重接続することが望ましい。この場合、各昇圧チョッパ回路における入力電流のアンバランスを、電流フィードバックによりパルス幅制御することなしに、スイッチング損失を低減したソフトスイッチングで補正することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、演算式に基づく零電流スイッチング、あるいは、スイッチング素子またはリアクトルの両端電圧検出に基づく零電流スイッチングでもってスイッチング素子を制御することにより、従来のように昇圧チョッパ回路に付属回路を設けることなく、単純な回路構成でスイッチング損失を低減したソフトスイッチングを実現できる。その結果、昇圧チョッパ回路における部品点数を削減することができ、昇圧チョッパ回路のコスト低減化を図ることができてその実用的価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る昇圧チョッパ回路の制御方法の実施形態で、昇圧チョッパ回路の基本構成を示す回路図である。
【図2】図1の昇圧チョッパ回路および図11の降圧チョッパ回路におけるスイッチングパルスとリアクトル電流を示す波形図である。
【図3】図1の昇圧チョッパ回路を太陽光発電システムのDC−DCコンバータに適用した実施形態を示す構成図である。
【図4】図1の昇圧チョッパ回路に検出部および制御部を設けた実施形態を示す回路図である。
【図5】図4の昇圧チョッパ回路の他の実施形態を示す回路図である。
【図6】図4および図5の昇圧チョッパ回路の制御方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】図4および図5の昇圧チョッパ回路の制御方法における連続モードでの各部の波形図である。
【図8】図4および図5の昇圧チョッパ回路の制御方法における不連続モードでの各部の波形図である。
【図9】図4および図5の昇圧チョッパ回路を太陽光発電システムに適用するために並列多重接続した形態を示す回路図である。
【図10】(a)は昇圧チョッパ回路を並列多重接続した場合でのリアクトル電流のアンバランス状態を示す波形図、(b)は昇圧チョッパ回路を並列多重接続した場合でのリアクトル電流のバランス状態を示す波形図である。
【図11】本発明の参考例で、降圧チョッパ回路の基本構成を示す回路図である。
【図12】図11の降圧チョッパ回路をバッテリ付き太陽光発電システムのDC−DCコンバータに適用した参考例を示す構成図である。
【図13】図11の降圧チョッパ回路に検出部および制御部を設けた参考例を示す回路図である。
【図14】図13の降圧チョッパ回路の他の参考例を示す回路図である。
【図15】図13および図14の降圧チョッパ回路の制御方法を説明するためのフローチャートである。
【図16】図13および図14の降圧チョッパ回路の制御方法における連続モードでの各部の波形図である。
【図17】図13および図14の降圧チョッパ回路の制御方法における不連続モードでの各部の波形図である。
【図18】図13および図14の降圧チョッパ回路をバッテリ付き太陽光発電システムに適用するために並列多重接続した形態を示す回路図である。
【図19】(a)は降圧チョッパ回路を並列多重接続した場合でのリアクトル電流のアンバランス状態を示す波形図、(b)は降圧チョッパ回路を並列多重接続した場合でのリアクトル電流のバランス状態を示す波形図である。
【図20】本発明の参考例で、昇降圧チョッパ回路の基本構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る昇圧チョッパ回路の制御方法の実施形態を以下に詳述する。
【0024】
図1は本発明方法を適用する昇圧チョッパ回路10の基本回路構成を示す。この昇圧チョッパ回路10は、入出力間にリアクトル11およびブロッキングダイオード12が直列接続され、かつ、入出力間に単一のスイッチング素子13が並列接続された回路構成を備え、スイッチング素子13のオンオフにより入力電圧VINを所定の昇圧比でもって昇圧した出力電圧VOUTを生成する。
【0025】
図1の昇圧チョッパ回路10では、図2に示すようにスイッチングパルスに基づいてスイッチング素子13をオンオフさせることにより、入力電圧VINを所定の昇圧比でもって昇圧した出力電圧VOUTを生成する。この時、昇圧チョッパ回路10に流れるリアクトル電流ILは、スイッチング素子13のオン時間TONで増加し、そのオフ時間TOFFで減少する。図示では、スイッチング素子13をオンオフさせるスイッチング周期T(オン時間TON+オフ時間TOFF)で前述のリアクトル電流ILが零となる理想的な零電流スイッチングを示している。
【0026】
図3は、図1に示す昇圧チョッパ回路10を太陽光発電システムにおけるDC−DCコンバータに適用した構成を例示する。図3に示すように、太陽電池31と、その太陽電池31を電力系統33と連系させるインバータ32との間に昇圧チョッパ回路10を設け、その昇圧チョッパ回路10により太陽電池31からの入力電圧VINを所定の昇圧比でもって昇圧した出力電圧VOUTをインバータ32に供給する。
【0027】
この昇圧チョッパ回路10の出力電圧VOUTはインバータ32にて一定の固定値に制御されるため、太陽電池31からの入力電圧VINの変動に対して、出力電圧VOUTを一定の固定値に維持するには、VOUT=1/(1−d)×VINの関係から昇圧比1/(1−d)を所定値に設定することになる。ここで、d=TON/Tであることから、スイッチング素子13のオン時間TONとスイッチング周期Tを所定値に設定することにより、出力電圧VOUTに応じてスイッチング素子13を零電流スイッチングで制御する。
【0028】
図2に示すように、昇圧チョッパ回路10に流れるリアクトル電流ILは、t<TONにおいて、
L=(VIN/L)×t・・・(1)
となり、ここで、Lはリアクトル11のリアクタンスである。TON<t<Tにおいて、
L=(VIN/L)×TON−{(VOUT−VIN)/L×(t−TON)}
【0029】
=(1/L)×{VIN×TON+(VOUT−VIN)×(TON−t)}・・・(2)
となる。従って、スイッチング素子13を零電流スイッチングで制御するためには、t=Tで上記(2)式のIL=0であることが条件となる。つまり、(2)式より、
(1/L)×{VIN×TON+(VOUT−VIN)×(TON−T)}=0
T=TON×VOUT/(VOUT−VIN)・・・(3)
また、上記(1)式からt=TONのとき、リアクトル電流ILは最大となり、その平均電流、つまり、固定値の出力電圧VOUTを生成するための電流指令値ILAは、
LA=ILP/2=TON×VIN/2L・・・(4)
この上記(4)式から、
ON=ILA×2L/VIN・・・(5)
となり、固定値の出力電圧VOUTを生成するための電流指令値ILAから、スイッチング素子13のオン時間TONを算出することができる。また、このスイッチング素子13のオン時間TONに基づいて、上記(3)式からスイッチング素子13のスイッチング周期Tを算出することにより、スイッチング素子13を零電流スイッチングで制御することができる。
【0030】
以上では、上記(1)〜(5)の演算式に基づいてスイッチング素子13を零電流スイッチングで制御する場合について説明したが、スイッチング素子13あるいはリアクトル11の両端電圧を検出することにより、スイッチング素子13を零電流スイッチングで制御することも可能である。
【0031】
図4に示す昇圧チョッパ回路10は、スイッチング素子13の両端電圧を検出する検出部41と、その検出部41から出力される検出信号に基づいてスイッチング素子13をオンオフする制御信号を出力する制御部51を具備する。なお、図4の昇圧チョッパ回路10では、スイッチング素子13の両端電圧を検出する場合を例示しているが、図5に示すようにリアクトル11の両端電圧を検出するようにしてもよい。これら図4および図5のいずれの場合も、スイッチング素子13あるいはリアクトル11の両端電圧を検出することにより、最終的にリアクトル電流ILが流れているか否かを判定するものである。
【0032】
この制御部51におけるスイッチング素子13のオンオフ制御を、図6のフローチャートおよび図7と図8の波形図に基づいて説明する。
【0033】
まず、検出部41にて、スイッチング素子13の両端電圧VSWあるいはリアクトル11の両端電圧VLをスイッチング素子13がオンする(スイッチング素子13をオンオフさせる一周期Tごと)直前で検出する。そのスイッチング素子13の両端電圧VSWが出力電圧VOUTに近似する場合、あるいはリアクトル11の両端電圧VLが負となる場合、この昇圧チョッパ回路10のリアクトル電流ILが流れていることになる。
【0034】
このようにリアクトル電流ILが連続的に流れている連続モードでは、基準パルスのままでスイッチング素子13をオンすると、そのスイッチング素子13のオン時にリアクトル電流ILが流れていることから、スイッチング損失が大きくなる。そこで、このリアクトル電流ILが流れている連続モードでは、図7に示す制御信号でもって、スイッチング素子13を所定時間Δtだけ遅延させてオンさせていくことにより、リアクトル電流IL
が零となる点Pでスイッチング素子13をオンさせる零電流スイッチングを実現する。ここで、前述の所定時間Δtは、スイッチング素子ターンオフ動作時間以上に設定すればよ
い。
【0035】
スイッチング素子13の両端電圧VSWが入力電圧VINに近似する場合、あるいはリアクトル11の両端電圧VLが零に近似する場合、この昇圧チョッパ回路10のリアクトル電流ILが零となる状態に近似する。特に、スイッチング素子13の両端電圧VSWが入力電圧VINと一致、あるいはリアクトル11の両端電圧VLが零と一致すれば、リアクトル電流ILが零となっている。
【0036】
このようにリアクトル電流ILが断続的に流れる不連続モードでは、スイッチング素子13のオン時にリアクトル電流ILが極めて小さいことから、スイッチング損失が小さい。そこで、リアクトル電流ILが断続的に流れる不連続モードでは、基準パルスのままでスイッチング素子13をオンさせることにより零電流スイッチングを実現する(図8参照)。
【0037】
ここで、不連続モードにおいてスイッチング素子13の両端電圧VSWが入力電圧VINと一致、あるいはリアクトル11の両端電圧VLが零と一致した時点でスイッチング素子13をオンさせれば、理想的な零電流スイッチングを実現することが可能であるが、本発明の目的とするスイッチング損失の低減化を達成するためには、スイッチング素子13の両端電圧VSWが入力電圧VINに近似した時点、あるいはリアクトル11の両端電圧VLが零に近似した時点でスイッチング素子13をオンさせれば、理想的な零電流スイッチングに近いソフトスイッチングを実現することが可能である。なお、スイッチング素子13の両端電圧VSWが入力電圧VINに近似する程度、あるいはリアクトル11の両端電圧VLが零に近似する程度については、スイッチング損失の低減をどの程度にするかによって決定すればよい。
【0038】
以上のように、この昇圧チョッパ回路10では、スイッチング素子13の両端電圧VSWあるいはリアクトル11の両端電圧VLをスイッチング素子13がオンする直前で検出し、その検出された両端電圧VSW,VLに基づいて連続モードでスイッチング素子13を所定時間Δtだけ遅延させてオンさせ、不連続モードでスイッチング素子13をオンさせる
ことにより、従来のように昇圧チョッパ回路に付属回路を設けることなく、単純な回路構成でスイッチング損失を低減したソフトスイッチングを実現できる。
【0039】
なお、この昇圧チョッパ回路10を太陽光発電システムにおけるDC−DCコンバータに適用する場合、そのDC−DCコンバータで必要とする容量を確保するため、図9に示すように太陽電池31に対して前述した複数の昇圧チョッパ回路10a〜10cを並列多重接続することがある。この場合、図10(a)に示すように各昇圧チョッパ回路10a〜10cにおけるリアクトル電流ILのアンバランスを、電流フィードバックによりパルス幅制御することなしに、同図(b)に示すようにスイッチング素子13の零電流スイッチングを理想とするソフトスイッチングで補正してリアクトル電流ILのバランス状態を確保することが可能となる。
【0040】
次に、図11は本発明方法の参考例である降圧チョッパ回路20の基本回路構成を示す。この降圧チョッパ回路20は、入出力間にリアクトル21および単一のスイッチング素子23が直列接続され、かつ、入出力間にブロッキングダイオード22が並列接続された回路構成を備え、スイッチング素子23のオンオフにより入力電圧VINを所定の降圧比でもって降圧した出力電圧VOUTを生成する。
【0041】
図11の降圧チョッパ回路20では、図2に示すようにスイッチングパルスに基づいてスイッチング素子23をオンオフさせることにより、入力電圧VINを所定の降圧比でもって降圧した出力電圧VOUTを生成する。この時、降圧チョッパ回路20に流れるリアクトル電流ILは、スイッチング素子23のオン時間TONで増加し、そのオフ時間TOFFで減少する。図示では、スイッチング素子23をオンオフさせるスイッチング周期T(オン時間TON+オフ時間TOFF)で前述のリアクトル電流ILが零となる理想的な零電流スイッチングを示している。
【0042】
図12は、図11に示す降圧チョッパ回路20をバッテリ付き太陽光発電システムにおけるDC−DCコンバータに適用した構成を例示する。図12に示すように、太陽電池61を電力系統63と連系させるインバータ62とバッテリ64との間に降圧チョッパ回路20を設け、その降圧チョッパ回路20によりインバータ62からの入力電圧VINを所定の降圧比でもって降圧した出力電圧VOUTをバッテリ64に供給する。
【0043】
この降圧チョッパ回路20の出力電圧VOUTはバッテリ64にて制御されるため、インバータ62からの入力電圧VINに対する出力電圧VOUTは、VOUT=d×VINの関係から降圧比dを所定値に設定することになる。ここで、d=TON/Tであることから、スイッチング素子23のオン時間TONとスイッチング周期Tを所定値に設定することにより、出力電圧VOUTに応じてスイッチング素子23を零電流スイッチングで制御する。
【0044】
図2に示すように、降圧チョッパ回路20に流れるリアクトル電流ILは、t<TONにおいて、
L={(VIN−VOUT)/L}×t・・・(6)
となり、ここで、Lはリアクトル21のリアクタンスである。TON<t<Tにおいて、
L={(VIN−VOUT)/L}×TON−{(VOUT/L)×(t−TON)}
【0045】
=(1/L)×{(VIN−VOUT)×TON+VOUT×(TON−t)}・・・(7)
となる。従って、スイッチング素子23を零電流スイッチングで制御するためには、t=Tで上記(7)式のIL=0であることが条件となる。つまり、(7)式より、
(1/L)×{(VIN−VOUT)×TON+VOUT×(TON−t)}=0
T=TON×VIN/VOUT・・・(8)
また、上記(6)式からt=TONのとき、リアクトル電流ILは最大となり、その平均電流、つまり、出力電圧VOUTを生成するための電流指令値ILAは、
LA=ILP/2=TON×(VIN−VOUT)/2L・・・(9)
この上記(9)式から、
ON=ILA×2L/(VIN−VOUT)・・・(10)
となり、出力電圧VOUTを生成するための電流指令値ILAから、スイッチング素子23のオン時間TONを算出することができる。また、このスイッチング素子23のオン時間TONに基づいて、上記(8)式からスイッチング素子23のスイッチング周期Tを算出することにより、スイッチング素子23を零電流スイッチングで制御することができる。
【0046】
以上では、上記(6)〜(10)の演算式に基づいてスイッチング素子23を零電流スイッチングで制御する場合について説明したが、ブロッキングダイオード22あるいはリアクトル21の両端電圧を検出することにより、スイッチング素子23を零電流スイッチングで制御することも可能である。
【0047】
図13に示す降圧チョッパ回路は、ブロッキングダイオード22の両端電圧VDを検出する検出部42と、その検出部42から出力される検出信号に基づいてスイッチング素子23をオンオフする制御信号を出力する制御部52を具備する。なお、図13の降圧チョッパ回路では、ブロッキングダイオード22の両端電圧VDを検出する場合を例示しているが、図14に示すようにリアクトル21の両端電圧VLを検出するようにしてもよい。これら図13および図14のいずれの場合も、ブロッキングダイオード22の両端電圧VDあるいはリアクトル21の両端電圧VLを検出することにより、最終的にリアクトル電流ILが流れているか否かを判定するものである。
【0048】
この制御部52におけるスイッチング素子23のオンオフ制御を、図15のフローチャートおよび図16と図17の波形図に基づいて説明する。
【0049】
まず、検出部42にて、ブロッキングダイオード22の両端電圧VDあるいはリアクトル21の両端電圧VLを検出する。そのブロッキングダイオード22の両端電圧VDが零に近似する場合、あるいはリアクトル21の両端電圧VLが負となる場合、この降圧チョッパ回路のリアクトル電流ILが存在して流れていることになる。
【0050】
このようにリアクトル電流ILが流れている連続モードでは、基準パルスのままでスイッチング素子23をオンすると、そのスイッチング素子23のオン時にリアクトル電流ILが流れていることから、スイッチング損失が大きくなる。そこで、このリアクトル電流ILが流れている連続モードでは、図16に示す制御信号でもって、スイッチング素子23を所定時間Δtだけ遅延させてオンさせていくことより、リアクトル電流ILが零とな
る点Qでスイッチング素子23をオンさせる零電流スイッチングを実現する。ここで、前述の所定時間Δtは、スイッチング素子ターンオフ動作時間以上に設定すればよい。
【0051】
ブロッキングダイオード22の両端電圧VDが出力電圧VOUTに近似する場合、あるいはリアクトル21の両端電圧VLが零に近似する場合、この降圧チョッパ回路20のリアクトル電流ILが零となる状態に近似する。特に、ブロッキングダイオード22の両端電圧VDが出力電圧VOUTと一致、あるいはリアクトル21の両端電圧VLが零と一致すれば、リアクトル電流ILが零となっている。
【0052】
このようにリアクトル電流ILが断続的に流れる不連続モードでは、スイッチング素子23のオン時にリアクトル電流ILが極めて小さいことから、スイッチング損失が小さい。そこで、リアクトル電流ILが断続的に流れる不連続モードでは、基準パルスのままでスイッチング素子23をオンさせることにより零電流スイッチングを実現する(図17参照)。
【0053】
ここで、不連続モードにおいてブロッキングダイオード22の両端電圧VDが出力電圧VOUTと一致した時点、あるいはリアクトル21の両端電圧VLが零と一致した時点でスイッチング素子23をオンさせれば、理想的な零電流スイッチングを実現することが可能であるが、本発明の目的とするスイッチング損失の低減化を達成するためには、ブロッキングダイオード22の両端電圧VDが出力電圧VOUTに近似した時点、あるいはリアクトル21の両端電圧VLが零に近似した時点でスイッチング素子23をオンさせれば、理想的な零電流スイッチングに近いソフトスイッチングを実現することが可能である。なお、ブロッキングダイオード22の両端電圧VDが出力電圧VOUTに近似する程度、あるいはリアクトル21の両端電圧VLが零に近似する程度については、スイッチング損失の低減をどの程度にするかによって決定すればよい。
【0054】
以上のように、この降圧チョッパ回路20では、ブロッキングダイオード22の両端電圧VDあるいはリアクトル21の両端電圧VLをスイッチング素子23がオンする直前で検出し、その検出された両端電圧VD,VLに基づいて連続モードでスイッチング素子23を所定時間Δtだけ遅延させてオンさせ、不連続モードでスイッチング素子23をオン
させることにより、従来のように降圧チョッパ回路に付属回路を設けることなく、単純な回路構成でスイッチング損失を低減したソフトスイッチングを実現できる。
【0055】
なお、この降圧チョッパ回路20をバッテリ付き太陽光発電システムにおけるDC−DCコンバータに適用する場合、そのDC−DCコンバータで必要とする容量を確保するため、図18に示すようにインバータ62に対して前述した複数の降圧チョッパ回路20a〜20cを並列多重接続することがある。この場合、図19(a)に示すように各降圧チョッパ回路20a〜20cにおけるリアクトル電流ILのアンバランスを、電流フィードバックによりパルス幅制御することなしに、同図(b)に示すようにスイッチング素子23の零電流スイッチングを理想とするソフトスイッチングで補正してリアクトル電流ILのバランス状態を確保することが可能となる。
【0056】
以上で説明した図1の昇圧チョッパ回路と図11の降圧チョッパ回路を単一回路で構成した昇降圧チョッパ回路を使用することも可能である。この昇降圧チョッパ回路70は、図20に示すように、入出力間に第一のスイッチング素子13とブロッキングダイオード22の並列回路が並列接続され、かつ、入出力間に第二のスイッチング素子23とブロッキングダイオード12の並列回路およびリアクトル11が直列接続された回路構成を備えている。
【0057】
この昇降圧チョッパ回路70を昇圧チョッパ回路として使用する場合には、第一のスイッチング素子13をオンオフさせ、第二のスイッチング素子23をオフ状態のままとすれば、図1の昇圧チョッパ回路10と等価になる。また、降圧チョッパ回路として使用する場合には、第二のスイッチング素子23をオンオフさせ、第一のスイッチング素子13をオフ状態のままとすれば、図11の降圧チョッパ回路20と等価になる。
【0058】
なお、本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0059】
11,21 リアクトル
12,22 ブロッキングダイオード
13,23 スイッチング素子
SW スイッチング素子の両端電圧
L リアクトルの両端電圧
D ブロッキングダイオードの両端電圧
Δt 所定時間
IN 入力電圧
OUT 出力電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入出力間にリアクトルおよびブロッキングダイオードが直列接続され、かつ、前記入出力間に単一のスイッチング素子が並列接続された回路構成を備え、前記スイッチング素子のオンオフにより入力電圧を所定の昇圧比でもって昇圧した固定値の出力電圧を生成する昇圧チョッパ回路の制御方法であって、
前記リアクトルのリアクタンスをL、スイッチング素子のオン時間をTON、スイッチング周期をT、入力電圧をVIN、出力電圧をVOUT、固定値の出力電圧を生成するための電流指令値をILAとした場合、スイッチング素子のオン時間TONを演算式TON=ILA×2L/VINで算出し、その算出されたスイッチング素子のオン時間TONに基づいて、スイッチング素子のスイッチング周期Tを演算式T=TON×VOUT/(VOUT−VIN)で算出すると共に、前記スイッチング素子の両端電圧をそのスイッチング素子がオンする直前で検出し、その検出された両端電圧が出力電圧に近似する連続モードで前記スイッチング素子を所定時間だけ遅延させてオンさせ、前記両端電圧が入力電圧に近似する不連続モードで前記スイッチング素子をオンさせることにより、前記スイッチング素子を零電流スイッチングで制御することを特徴とする昇圧チョッパ回路の制御方法。
【請求項2】
入出力間にリアクトルおよびブロッキングダイオードが直列接続され、かつ、前記入出力間に単一のスイッチング素子が並列接続された回路構成を備え、前記スイッチング素子のオンオフにより入力電圧を所定の昇圧比でもって昇圧した固定値の出力電圧を生成する昇圧チョッパ回路の制御方法であって、
前記リアクトルのリアクタンスをL、スイッチング素子のオン時間をTON、スイッチング周期をT、入力電圧をVIN、出力電圧をVOUT、固定値の出力電圧を生成するための電流指令値をILAとした場合、スイッチング素子のオン時間TONを演算式TON=ILA×2L/VINで算出し、その算出されたスイッチング素子のオン時間TONに基づいて、スイッチング素子のスイッチング周期Tを演算式T=TON×VOUT/(VOUT−VIN)で算出すると共に、前記リアクトルの両端電圧をそのスイッチング素子がオンする直前で検出し、その検出された両端電圧が負となる連続モードで前記スイッチング素子を所定時間だけ遅延させてオンさせ、前記両端電圧が零に近似する不連続モードで前記スイッチング素子をオンさせることにより、前記スイッチング素子を零電流スイッチングで制御することを特徴とする昇圧チョッパ回路の制御方法。
【請求項3】
前記昇圧チョッパ回路が並列多重接続されている請求項1又は2に記載の昇圧チョッパ回路の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−48553(P2013−48553A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232947(P2012−232947)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2008−224653(P2008−224653)の分割
【原出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム実用化加速技術開発 太陽光・蓄電ハイブリッドシステム技術開発に係る共同研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】