昇圧トランス
【課題】浮遊容量を低減し、出力電圧を安定させることができる昇圧トランスを提供すること。
【解決手段】2次巻線4を巻芯部21に対して複数層に巻回すると共に、この2次巻線4の巻芯部21への巻き始め部分であるスタートワイヤS2を上層の2次巻線4によって覆い、1次巻線3を上層の2次巻線4の外側に巻回する。したがって、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との間には上層の2次巻線4が介在し、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との接触を防止できる。よって、この昇圧トランス1Aでは、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【解決手段】2次巻線4を巻芯部21に対して複数層に巻回すると共に、この2次巻線4の巻芯部21への巻き始め部分であるスタートワイヤS2を上層の2次巻線4によって覆い、1次巻線3を上層の2次巻線4の外側に巻回する。したがって、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との間には上層の2次巻線4が介在し、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との接触を防止できる。よって、この昇圧トランス1Aでは、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧トランスに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来、小型の電子機器等に用いるトランスとして、例えば特許文献1に記載のバルントランスが知られている。この従来のトランスは、両端に四角形状の端部つばを有し中央に中央つばを有するドラム型コアに、平板状コアを接合させて構成されている。また、ドラム型コアの端部つばと中央つばとの間に形成された巻線溝(巻芯部)には、二本の巻線(1次巻線及び2次巻線)が、例えば、下層及び上層に分けて一層ずつ巻かれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−326715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような構成に準じた構成のトランスを昇圧トランスとして用い、この昇圧トランスの変圧比を大きくする場合には、1次巻線の巻数に対する2次巻線の巻数の比をなるべく大きくする必要がある。この場合、ドラムコアの巻芯部に2次巻線を往復で多層にして巻回し、その最外層に1次巻線を巻回する方法が考えられる。しかし、この方法では、1次巻線の巻き始め部分と2次巻線の巻き始め部分との位置関係によっては、2次巻線と1次巻線との間の浮遊容量が増大してしまうという問題があった。特に2次巻線の高圧側(2次巻線の巻き始め側)と1次巻線との浮遊容量が増大すると、LC共振が大きくなってトランスの出力電圧が安定せず、リンギングが発生するおそれがあり、巻芯部への1次巻線及び2次巻線の巻き回し方が重要な課題となっていた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、浮遊容量を低減し、出力電圧を安定させることができる昇圧トランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る昇圧トランスは、巻芯部及び巻芯部の両端に設けられた鍔部を有するドラムコアと、鍔部に設けられた入力端子及び出力端子と、入力端子に接続される1次巻線と、出力端子に接続される2次巻線とを備えた昇圧トランスであって、1次巻線の径は、2次巻線の径よりも大きく、2次巻線の巻数は、1次巻線の巻数よりも多く、2次巻線は、巻芯部に対して複数層に巻回されていると共に、巻芯部への巻き始め部分が上層の2次巻線によって覆われ、1次巻線は、上層の2次巻線の外側に巻回されていることを特徴としている。
【0007】
この昇圧トランスでは、2次巻線が巻芯部に対して複数層に巻回されると共に、この2次巻線の巻芯部への巻き始め部分が上層の2次巻線によって覆われ、1次巻線が上層の2次巻線の外側に巻回される。これにより、2次巻線の巻き始め部分と1次巻線の巻き始め部分との間には上層の2次巻線が介在し、2次巻線の巻き始め部分と1次巻線の巻き始め部分との接触を防止できる。したがって、この昇圧トランスでは、2次巻線の巻き始め部分と1次巻線の巻き始め部分との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0008】
ここで、1次巻線の巻き始め部分と2次巻線の巻き始め部分とが、巻芯部の軸方向について異なる位置に位置していることが好ましい。こうすると、1次巻線の巻き始め部分と2次巻線の巻き始め部分との接触を一層確実に防止できる。したがって、この昇圧トランスでは、2次巻線の巻き始め部分と1次巻線の巻き始め部分との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0009】
また、1次巻線は、各周の巻回部分が互いに接触しないように間隔を空けて巻回されていることが好ましい。こうすると、漏れ磁束を低減することができ、結果としてさらに電圧波形のリンギングを抑えることができる。
【0010】
また、2次巻線の巻き始め部分は、巻芯部の中央寄りに位置しており、2次巻線の巻き始め部分と鍔部との間には、2次巻線の中間の巻回部分が位置していることが好ましい。こうすると、2次巻線の巻き始め部分が鍔部に隣接して配置されることが防止され、2次巻線の巻き始め部分を2次巻線で覆う際に、2次巻線が鍔部と干渉せず、2次巻線の巻き始め部分を上層の2次巻線によって覆うことが容易となる。したがって、この昇圧トランスでは、2次巻線の巻き始め部分と1次巻線の巻き始め部分との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、浮遊容量を低減し、出力電圧を安定させることができる昇圧トランスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る昇圧トランスを示す斜視図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】図1の側面図である。
【図4】図1の上面図である。
【図5】図1の底面図である。
【図6】板状コアを外して示す昇圧トランスの正面図である。
【図7】図6の側面図である。
【図8】図6の上面図である。
【図9】図6の底面図である。
【図10】本実施例に係るドラムコアの回路図である。
【図11】本実施例に係るドラムコアの1次巻線及び2次巻線の巻回状態を示す断面図である。
【図12】比較例に係るドラムコアの1次巻線及び2次巻線の巻回状態を示す断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。
【図14】本発明の第3実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。
【図15】本発明の第4実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。
【図16】本発明の第5実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の昇圧トランスの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1〜図5は、それぞれ本発明の第1実施形態に係る昇圧トランスを示す斜視図、正面図、側面図、上面図及び底面図であり、図6〜図9は、それぞれ板状コアを外して示す昇圧トランスの正面図、側面図、上面図及び底面図である。また、図10は、本実施例に係るドラムコアの回路図である。
【0015】
本実施形態に係る昇圧トランス1Aは、例えば、カメラのストロボ光源の昇圧等に用いるためのものであり、図1〜図5に示すように、ドラムコア2、1次巻線3、2次巻線4、入力端子5U,5L、出力端子6U,6L及び板状コア7を備えている。昇圧トランス1Aは、ここでは、長さ(図4において、紙面左右方向)が3.2mm程度、幅(図4において、紙面上下方向)が2.5mm程度、高さ(図2において、紙面上下方向)が1.2〜2.4mm程度となっている。
【0016】
ドラムコア2は、フェライトからなる部材であり、巻芯部21及び鍔部22U,22Lを有している。巻芯部21は、例えば略四角柱等をなしている。鍔部22U,22Lは、巻芯部21の両端に設けられており、巻芯部21よりも断面が大きい略直方体をなしている。
【0017】
入力端子5U,5Lは、図7〜8に示すように、鍔部22U,22Lの上面、側面及び底面に亘って設けられている。出力端子6U,6Lは、入力端子5U,5Lと同様にして、鍔部22U,22Lにそれぞれ設けられている。入力端子5U,5L及び出力端子6U,6Lは、鍔部22U,22Lの上面、側面及び底面に、例えばAg等を主成分とする導電ペーストを転写した後に所定温度(例えば、700℃程度)にて焼き付け、更に金属めっきを施すことにより形成される。金属めっきには、例えばSn等を用いることができる。なお、入力端子5U,5L及び出力端子6U,6Lは、金属製の板材にて構成し、鍔部22U,22Lの対応する位置に装着して構成してもよい。金属製の板材には、例えば金属めっき(NiとSn)を施した燐青銅等を用いることができる。
【0018】
板状コア7は、フェライトからなる略矩形状の部材であり、磁気抵抗を下げて、昇圧トランス1Aのインダクタンスを向上させるために用いるものである。板状コア7は、ドラムコア2を覆う程度の大きさとなっており、鍔部22U,22Lの上面とそれぞれ対向するように配置されている。板状コア7において、入力端子5U,5L及び出力端子6U,6Lと対向する部分には、逃げ部71がそれぞれ設けられている。板状コア7の鍔部22Uの上面と対向する部分であって、逃げ部71,71の間の部分には、板状コア7と鍔部22Uとの間に隙間を設けるための突起72,72が配置されている。同様にして、板状コア7の鍔部22Uの上面と対向する部分にも、突起72,72が設けられている。板状コア7は、突起72,72の間に塗布された接着剤によって鍔部22U,22Lの上面に固定されている。板状コア7の上面には、昇圧トランス1の基盤への実装の際、その極性方向を識別できるように方向性識別マーク73が設けられている。
【0019】
1次巻線3及び2次巻線4は、いずれも、鍔部22U側から見て時計回り(右回り)に巻芯部21に巻回されており、1次巻線3は入力端子5U,5Lに、2次巻線4は出力端子6U,6Lにそれぞれ接続され、図10に示すように、出力端子6Lが接地されている。1次巻線3の径は、2次巻線4の径よりも2〜5倍程度大きく、ここでは、1次巻線3の径は50〜100μm程度、2次巻線4の径は10〜40μm程度となっている。2次巻線4の巻数は1次巻線3の巻数よりも多く、本実施形態では、例えば2次巻線4の巻数は153程度、1次巻線3の巻数は15程度となっており、これにより33Vの1次電圧を、330Vの2次電圧まで昇圧できるようになっている。1次巻線3及び2次巻線4は、互いに電気的に絶縁されており、1次巻線3及び2次巻線4には、例えば絶縁被膜銅線を用いることができる。なお、1次巻線3及び2次巻線4の巻数、1次電圧及び2次電圧は上記値に限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。
【0020】
続いて、巻芯部21に対する1次巻線3及び2次巻線4の巻回状態について、詳細に説明する。図11は、本実施例に係るドラムコアの1次巻線及び2次巻線の巻回状態を示す断面図である。図11に示すように、巻芯部21に対してまず2次巻線4が巻回され、この2次巻線4の外周に1次巻線3が巻回されている。
【0021】
2次巻線4は巻芯部21に対して整列巻されており、その巻芯部21への巻き始め部分(以下、「スタートワイヤ」という)S2は、巻芯部21の中央寄り、より具体的には一方側(図11において左側)の鍔部22Uと巻芯部21の中央部との間に位置している。2次巻線4は、スタートワイヤS2から他方側の鍔部22Lに向けて第1層が巻回され、鍔部22Lに至る前に鍔部22Uに向けて折り返して第2層が巻回されている。2次巻線4の第2層が鍔部22Uに至る途中で、スタートワイヤS2が第2層の2次巻線4によって覆われている。これにより、スタートワイヤS2と鍔部22Uとの間には、2次巻線4の中間の巻回部分が位置している。このスタートワイヤS2と鍔部22Uとの間に位置する2次巻線4の中間の巻回部分の巻数は、1〜10巻であることが好ましい。2次巻線4は、鍔部22Uに隣接する位置で鍔部22Lに向けて折り返して第3層が巻回されており、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3が、3層目の2次巻線4で覆われている。そして、2次巻線4の巻き終わり部分は、鍔部22Lに隣接した位置で巻芯部21に直接巻回されている。なお、2次巻線4が巻回される層数は3層に限られず、複数層であれば良い。
【0022】
1次巻線3は、上層の2次巻線4の外側に整列巻されており、その巻き始め部分S1は、一方側の鍔部22Uに隣接した位置に位置している。1次巻線3は、巻き始め部分S1から鍔部22Lに隣接した位置まで隙間なく巻回されている。
【0023】
次に、昇圧トランス1Aの作用及び効果について説明する。
【0024】
図12は、比較例に係るドラムコアの1次巻線及び2次巻線の巻回状態を示す断面図である。比較例に係る昇圧トランス50では、スタートワイヤS2は、鍔部52Uに隣接した位置に配置されている。このように、スタートワイヤS2が鍔部52Uに隣接した位置に配置されていると、スタートワイヤS2の上層に2次巻線54を巻回する際に、2次巻線54が鍔部52Uと干渉して2次巻線54を巻回し難くなり、図12に示すように、スタートワイヤS2の上層に2次巻線54が巻回されない非巻回領域55が生じる場合がある。この非巻回領域55に1次巻線53の巻き始め部分S1が位置し、スタートワイヤS2と1次巻線53の巻き始め部分S1とが接触すると、2次巻線54と1次巻線53との間の浮遊容量が増大してしまう。浮遊容量が増大すると、LC共振が大きくなってトランスの出力電圧が安定せず、リンギングが発生するおそれがある。
【0025】
これに対し、昇圧トランス1Aでは、2次巻線4が、巻芯部21に対して複数層に巻回されていると共に、この2次巻線4の巻芯部21への巻き始め部分であるスタートワイヤS2が上層の2次巻線4によって覆われており、1次巻線3が上層の2次巻線4の外側に巻回されている。これにより、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との間には上層の2次巻線4が介在し、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との接触を防止できる。したがって、この昇圧トランス1Aでは、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0026】
また、昇圧トランス1Aでは、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3が、3層目の2次巻線4で覆われている。したがって、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3と、1次巻線3の巻き終わり部分との接触が防止され、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0027】
また、昇圧トランス1Aでは、2次巻線4の巻き始め部分であるスタートワイヤS2は、巻芯部21の中央寄りに位置しており、スタートワイヤS2と鍔部22Uとの間には、2次巻線4の中間の巻回部分が位置している。これにより、スタートワイヤS2が鍔部22Uに隣接して配置されることが防止され、スタートワイヤS2を2次巻線4で覆う際に、2次巻線4が鍔部22Uと干渉せず、スタートワイヤS2を上層の2次巻線4によって覆うことが容易となる。したがって、この昇圧トランス1Aでは、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0028】
次に、本発明の第2実施形態に係る昇圧トランスについて説明する。
【0029】
図13は、本発明の第2実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。この昇圧トランス1Bは、図11に示す第1実施形態に係る昇圧トランス1Aにおいて、1次巻線3及び2次巻線4の巻回状態を変化させたものである。
【0030】
昇圧トランス1Bでは、スタートワイヤS2が鍔部22Uに隣接した位置に位置しており、2次巻線4の各層は一方側の鍔部22Uから他方側の鍔部22Lに至るまで巻回され、2次巻線4の巻き終わり部分が直接巻芯部21に巻回されていない。
【0031】
また、昇圧トランス1Bでは、1次巻線3の巻数が第1実施形態に係る昇圧トランス1Aよりも少なく、1次巻線3の巻き始め部分S1が巻芯部21の中央寄り、より具体的には鍔部22Uと巻芯部21の中央部との間に位置している。これにより、1次巻線3の巻き始め部分S1と2次巻線4の巻き始め部分であるスタートワイヤS2とが、巻芯部21の軸方向について異なる位置に位置している。そして、1次巻線3は、2次巻線4の上層の一部分のみ、具体的には上層の2/3程度のみに巻回されている。1次巻線の巻き始め部分S1とスタートワイヤS2との間隔は、2次巻線の巻数で1巻分以上であることが好ましい。
【0032】
このような昇圧トランス1Bでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の巻芯部21への巻き始め部分であるスタートワイヤS2が上層の2次巻線4によって覆われており、1次巻線3が上層の2次巻線4の外側に巻回されている。したがって、この昇圧トランス1Bでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0033】
また、昇圧トランス1Bでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3が、3層目の2次巻線4で覆われている。したがって、この昇圧トランス1Bでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0034】
また、昇圧トランス1Bでは、1次巻線3の巻き始め部分S1と2次巻線4の巻き始め部分であるスタートワイヤS2とが、巻芯部21の軸方向について異なる位置に位置している。これにより、1次巻線3の巻き始め部分S1とスタートワイヤS2との接触を確実に防止できる。したがって、この昇圧トランス1Bでは、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0035】
また、昇圧トランス1Bでは、1次巻線3が2次巻線4の上層の一部分のみに巻回されることにより、1次巻線3の巻き始め部分S1の位置を容易に調節することができ、1次巻線3の巻き始め部分S1とスタートワイヤS2との間隔を容易に調節することができる。したがって、この昇圧トランス1Bでは、さらにスタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0036】
次に、本発明の第3実施形態に係る昇圧トランスについて説明する。
【0037】
図14は、本発明の第3実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。この昇圧トランス1Cは、図13に示す第2実施形態に係る昇圧トランス1Bにおいて、1次巻線3の巻回状態を変化させたものである。すなわち、昇圧トランス1Cでは、1次巻線3の巻き始め部分S1が一方側の鍔部22Uに隣接した位置に位置しており、1次巻線3は各周の巻回部分が互いに接触しないように略均等な間隔を空けて巻回されている。
【0038】
このような昇圧トランス1Cでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の巻芯部21への巻き始め部分であるスタートワイヤS2が上層の2次巻線4によって覆われており、1次巻線3が上層の2次巻線4の外側に巻回されている。したがって、この昇圧トランス1Cでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0039】
また、昇圧トランス1Cでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3が、3層目の2次巻線4で覆われている。したがって、この昇圧トランス1Cでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0040】
また、昇圧トランス1Cでは、1次巻線3が、2次巻線4全体を覆っているため、漏れ磁束を低減することができ、結果としてさらに電圧波形のリンギングを抑えることができる。
【0041】
次に、本発明の第4実施形態に係る昇圧トランスについて説明する。
【0042】
図15は、本発明の第4実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。この昇圧トランス1Dは、図14に示す第3実施形態に係る昇圧トランス1Cにおいて、2次巻線4の巻回状態を変化させたものである。すなわち、昇圧トランス1Dでは、スタートワイヤS2が巻芯部21の中央寄り、より具体的には一方側の鍔部22Uと巻芯部21の中央部との間に位置しており、スタートワイヤS2と鍔部22Uとの間には、2次巻線4の中間の巻回部分が位置している点である。
【0043】
このような昇圧トランス1Dでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の巻芯部21への巻き始め部分であるスタートワイヤS2が上層の2次巻線4によって覆われており、1次巻線3が上層の2次巻線4の外側に巻回されている。したがって、この昇圧トランス1Dでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0044】
また、昇圧トランス1Dでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3が、3層目の2次巻線4で覆われている。したがって、この昇圧トランス1Dでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0045】
また、昇圧トランス1Dでは、第3実施形態に係る昇圧トランス1Cと同様に、1次巻線3が、2次巻線4全体を覆っているため、第3実施形態に係る昇圧トランス1Cと同様に、さらに電圧波形のリンギングを抑えることができる。
【0046】
また、昇圧トランス1Dでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、スタートワイヤS2を2次巻線4で覆う際に、2次巻線4が鍔部22Uと干渉せず、スタートワイヤS2を上層の2次巻線4によって覆うことが容易となる。したがって、この昇圧トランス1Dでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0047】
次に、本発明の第5実施形態に係る昇圧トランスについて説明する。
【0048】
図16は、本発明の第5実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。この昇圧トランス1Eは、図11に示す第1実施形態に係る昇圧トランス1Aにおいて、1次巻線3及び2次巻線4の巻回状態を変化させたものである。
【0049】
昇圧トランス1Eでは、スタートワイヤS2が鍔部22Uに隣接した位置に位置しており、2次巻線4の各層は一方側の鍔部22Uから他方側の鍔部22Lに至るまで巻回され、2次巻線4の巻き終わり部分が直接巻芯部21に巻回されていない。また、2次巻線4の巻き終わり部分では、2次巻線4は間隔を空けて巻回されている。そして、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3の鍔部22L寄りの上層に、2次巻線4の巻き終わり部分(2次巻線4の3層目)が配置されている。
【0050】
また、昇圧トランス1Eでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aよりも1次巻線3の巻数が少なく、その巻き終わり部分は巻芯部21の中央部と鍔部22Lとの間に位置している。
【0051】
このような昇圧トランス1Eでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の巻芯部21への巻き始め部分であるスタートワイヤS2が上層の2次巻線4によって覆われており、1次巻線3が上層の2次巻線4の外側に巻回されている。したがって、この昇圧トランス1Eでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0052】
また、昇圧トランス1Eでは、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3の上層に、2次巻線4の巻き終わり部分(2次巻線4の3層目)が配置されている。したがって、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3と、1次巻線3の巻き終わり部分との接触が防止され、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0053】
また、昇圧トランス1Eでは、1次巻線3の巻き終わり部分は巻芯部21の中央部と鍔部22Lとの間に位置し、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3と、1次巻線3の巻き終わり部分とが、巻芯部21の軸方向について異なる位置に位置している。このため、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3と、1次巻線3の巻き終わり部分との接触が確実に防止され、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0054】
また、昇圧トランス1Eでは、2次巻線4の巻き終わり部分では、2次巻線4は間隔を空けて巻回されている。このため、2次巻線4の3層目において、間隔を空けずに2次巻線4を鍔部22Lに至るまで巻回できない場合に、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3の上層に、2次巻線4の巻き終わり部分(2次巻線4の3層目)を確実に配置することができる。よって、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3と、1次巻線3の巻き終わり部分との接触が防止され、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【符号の説明】
【0055】
1A,1B,1C,1D,50…昇圧トランス、2,52…ドラムコア、3,53…1次巻線、4,54…2次巻線、5U,5L…入力端子、6U,6L…出力端子、21,51…巻芯部、22U,22L,52U,52L…鍔部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧トランスに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来、小型の電子機器等に用いるトランスとして、例えば特許文献1に記載のバルントランスが知られている。この従来のトランスは、両端に四角形状の端部つばを有し中央に中央つばを有するドラム型コアに、平板状コアを接合させて構成されている。また、ドラム型コアの端部つばと中央つばとの間に形成された巻線溝(巻芯部)には、二本の巻線(1次巻線及び2次巻線)が、例えば、下層及び上層に分けて一層ずつ巻かれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−326715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような構成に準じた構成のトランスを昇圧トランスとして用い、この昇圧トランスの変圧比を大きくする場合には、1次巻線の巻数に対する2次巻線の巻数の比をなるべく大きくする必要がある。この場合、ドラムコアの巻芯部に2次巻線を往復で多層にして巻回し、その最外層に1次巻線を巻回する方法が考えられる。しかし、この方法では、1次巻線の巻き始め部分と2次巻線の巻き始め部分との位置関係によっては、2次巻線と1次巻線との間の浮遊容量が増大してしまうという問題があった。特に2次巻線の高圧側(2次巻線の巻き始め側)と1次巻線との浮遊容量が増大すると、LC共振が大きくなってトランスの出力電圧が安定せず、リンギングが発生するおそれがあり、巻芯部への1次巻線及び2次巻線の巻き回し方が重要な課題となっていた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、浮遊容量を低減し、出力電圧を安定させることができる昇圧トランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る昇圧トランスは、巻芯部及び巻芯部の両端に設けられた鍔部を有するドラムコアと、鍔部に設けられた入力端子及び出力端子と、入力端子に接続される1次巻線と、出力端子に接続される2次巻線とを備えた昇圧トランスであって、1次巻線の径は、2次巻線の径よりも大きく、2次巻線の巻数は、1次巻線の巻数よりも多く、2次巻線は、巻芯部に対して複数層に巻回されていると共に、巻芯部への巻き始め部分が上層の2次巻線によって覆われ、1次巻線は、上層の2次巻線の外側に巻回されていることを特徴としている。
【0007】
この昇圧トランスでは、2次巻線が巻芯部に対して複数層に巻回されると共に、この2次巻線の巻芯部への巻き始め部分が上層の2次巻線によって覆われ、1次巻線が上層の2次巻線の外側に巻回される。これにより、2次巻線の巻き始め部分と1次巻線の巻き始め部分との間には上層の2次巻線が介在し、2次巻線の巻き始め部分と1次巻線の巻き始め部分との接触を防止できる。したがって、この昇圧トランスでは、2次巻線の巻き始め部分と1次巻線の巻き始め部分との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0008】
ここで、1次巻線の巻き始め部分と2次巻線の巻き始め部分とが、巻芯部の軸方向について異なる位置に位置していることが好ましい。こうすると、1次巻線の巻き始め部分と2次巻線の巻き始め部分との接触を一層確実に防止できる。したがって、この昇圧トランスでは、2次巻線の巻き始め部分と1次巻線の巻き始め部分との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0009】
また、1次巻線は、各周の巻回部分が互いに接触しないように間隔を空けて巻回されていることが好ましい。こうすると、漏れ磁束を低減することができ、結果としてさらに電圧波形のリンギングを抑えることができる。
【0010】
また、2次巻線の巻き始め部分は、巻芯部の中央寄りに位置しており、2次巻線の巻き始め部分と鍔部との間には、2次巻線の中間の巻回部分が位置していることが好ましい。こうすると、2次巻線の巻き始め部分が鍔部に隣接して配置されることが防止され、2次巻線の巻き始め部分を2次巻線で覆う際に、2次巻線が鍔部と干渉せず、2次巻線の巻き始め部分を上層の2次巻線によって覆うことが容易となる。したがって、この昇圧トランスでは、2次巻線の巻き始め部分と1次巻線の巻き始め部分との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、浮遊容量を低減し、出力電圧を安定させることができる昇圧トランスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る昇圧トランスを示す斜視図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】図1の側面図である。
【図4】図1の上面図である。
【図5】図1の底面図である。
【図6】板状コアを外して示す昇圧トランスの正面図である。
【図7】図6の側面図である。
【図8】図6の上面図である。
【図9】図6の底面図である。
【図10】本実施例に係るドラムコアの回路図である。
【図11】本実施例に係るドラムコアの1次巻線及び2次巻線の巻回状態を示す断面図である。
【図12】比較例に係るドラムコアの1次巻線及び2次巻線の巻回状態を示す断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。
【図14】本発明の第3実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。
【図15】本発明の第4実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。
【図16】本発明の第5実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の昇圧トランスの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1〜図5は、それぞれ本発明の第1実施形態に係る昇圧トランスを示す斜視図、正面図、側面図、上面図及び底面図であり、図6〜図9は、それぞれ板状コアを外して示す昇圧トランスの正面図、側面図、上面図及び底面図である。また、図10は、本実施例に係るドラムコアの回路図である。
【0015】
本実施形態に係る昇圧トランス1Aは、例えば、カメラのストロボ光源の昇圧等に用いるためのものであり、図1〜図5に示すように、ドラムコア2、1次巻線3、2次巻線4、入力端子5U,5L、出力端子6U,6L及び板状コア7を備えている。昇圧トランス1Aは、ここでは、長さ(図4において、紙面左右方向)が3.2mm程度、幅(図4において、紙面上下方向)が2.5mm程度、高さ(図2において、紙面上下方向)が1.2〜2.4mm程度となっている。
【0016】
ドラムコア2は、フェライトからなる部材であり、巻芯部21及び鍔部22U,22Lを有している。巻芯部21は、例えば略四角柱等をなしている。鍔部22U,22Lは、巻芯部21の両端に設けられており、巻芯部21よりも断面が大きい略直方体をなしている。
【0017】
入力端子5U,5Lは、図7〜8に示すように、鍔部22U,22Lの上面、側面及び底面に亘って設けられている。出力端子6U,6Lは、入力端子5U,5Lと同様にして、鍔部22U,22Lにそれぞれ設けられている。入力端子5U,5L及び出力端子6U,6Lは、鍔部22U,22Lの上面、側面及び底面に、例えばAg等を主成分とする導電ペーストを転写した後に所定温度(例えば、700℃程度)にて焼き付け、更に金属めっきを施すことにより形成される。金属めっきには、例えばSn等を用いることができる。なお、入力端子5U,5L及び出力端子6U,6Lは、金属製の板材にて構成し、鍔部22U,22Lの対応する位置に装着して構成してもよい。金属製の板材には、例えば金属めっき(NiとSn)を施した燐青銅等を用いることができる。
【0018】
板状コア7は、フェライトからなる略矩形状の部材であり、磁気抵抗を下げて、昇圧トランス1Aのインダクタンスを向上させるために用いるものである。板状コア7は、ドラムコア2を覆う程度の大きさとなっており、鍔部22U,22Lの上面とそれぞれ対向するように配置されている。板状コア7において、入力端子5U,5L及び出力端子6U,6Lと対向する部分には、逃げ部71がそれぞれ設けられている。板状コア7の鍔部22Uの上面と対向する部分であって、逃げ部71,71の間の部分には、板状コア7と鍔部22Uとの間に隙間を設けるための突起72,72が配置されている。同様にして、板状コア7の鍔部22Uの上面と対向する部分にも、突起72,72が設けられている。板状コア7は、突起72,72の間に塗布された接着剤によって鍔部22U,22Lの上面に固定されている。板状コア7の上面には、昇圧トランス1の基盤への実装の際、その極性方向を識別できるように方向性識別マーク73が設けられている。
【0019】
1次巻線3及び2次巻線4は、いずれも、鍔部22U側から見て時計回り(右回り)に巻芯部21に巻回されており、1次巻線3は入力端子5U,5Lに、2次巻線4は出力端子6U,6Lにそれぞれ接続され、図10に示すように、出力端子6Lが接地されている。1次巻線3の径は、2次巻線4の径よりも2〜5倍程度大きく、ここでは、1次巻線3の径は50〜100μm程度、2次巻線4の径は10〜40μm程度となっている。2次巻線4の巻数は1次巻線3の巻数よりも多く、本実施形態では、例えば2次巻線4の巻数は153程度、1次巻線3の巻数は15程度となっており、これにより33Vの1次電圧を、330Vの2次電圧まで昇圧できるようになっている。1次巻線3及び2次巻線4は、互いに電気的に絶縁されており、1次巻線3及び2次巻線4には、例えば絶縁被膜銅線を用いることができる。なお、1次巻線3及び2次巻線4の巻数、1次電圧及び2次電圧は上記値に限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。
【0020】
続いて、巻芯部21に対する1次巻線3及び2次巻線4の巻回状態について、詳細に説明する。図11は、本実施例に係るドラムコアの1次巻線及び2次巻線の巻回状態を示す断面図である。図11に示すように、巻芯部21に対してまず2次巻線4が巻回され、この2次巻線4の外周に1次巻線3が巻回されている。
【0021】
2次巻線4は巻芯部21に対して整列巻されており、その巻芯部21への巻き始め部分(以下、「スタートワイヤ」という)S2は、巻芯部21の中央寄り、より具体的には一方側(図11において左側)の鍔部22Uと巻芯部21の中央部との間に位置している。2次巻線4は、スタートワイヤS2から他方側の鍔部22Lに向けて第1層が巻回され、鍔部22Lに至る前に鍔部22Uに向けて折り返して第2層が巻回されている。2次巻線4の第2層が鍔部22Uに至る途中で、スタートワイヤS2が第2層の2次巻線4によって覆われている。これにより、スタートワイヤS2と鍔部22Uとの間には、2次巻線4の中間の巻回部分が位置している。このスタートワイヤS2と鍔部22Uとの間に位置する2次巻線4の中間の巻回部分の巻数は、1〜10巻であることが好ましい。2次巻線4は、鍔部22Uに隣接する位置で鍔部22Lに向けて折り返して第3層が巻回されており、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3が、3層目の2次巻線4で覆われている。そして、2次巻線4の巻き終わり部分は、鍔部22Lに隣接した位置で巻芯部21に直接巻回されている。なお、2次巻線4が巻回される層数は3層に限られず、複数層であれば良い。
【0022】
1次巻線3は、上層の2次巻線4の外側に整列巻されており、その巻き始め部分S1は、一方側の鍔部22Uに隣接した位置に位置している。1次巻線3は、巻き始め部分S1から鍔部22Lに隣接した位置まで隙間なく巻回されている。
【0023】
次に、昇圧トランス1Aの作用及び効果について説明する。
【0024】
図12は、比較例に係るドラムコアの1次巻線及び2次巻線の巻回状態を示す断面図である。比較例に係る昇圧トランス50では、スタートワイヤS2は、鍔部52Uに隣接した位置に配置されている。このように、スタートワイヤS2が鍔部52Uに隣接した位置に配置されていると、スタートワイヤS2の上層に2次巻線54を巻回する際に、2次巻線54が鍔部52Uと干渉して2次巻線54を巻回し難くなり、図12に示すように、スタートワイヤS2の上層に2次巻線54が巻回されない非巻回領域55が生じる場合がある。この非巻回領域55に1次巻線53の巻き始め部分S1が位置し、スタートワイヤS2と1次巻線53の巻き始め部分S1とが接触すると、2次巻線54と1次巻線53との間の浮遊容量が増大してしまう。浮遊容量が増大すると、LC共振が大きくなってトランスの出力電圧が安定せず、リンギングが発生するおそれがある。
【0025】
これに対し、昇圧トランス1Aでは、2次巻線4が、巻芯部21に対して複数層に巻回されていると共に、この2次巻線4の巻芯部21への巻き始め部分であるスタートワイヤS2が上層の2次巻線4によって覆われており、1次巻線3が上層の2次巻線4の外側に巻回されている。これにより、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との間には上層の2次巻線4が介在し、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との接触を防止できる。したがって、この昇圧トランス1Aでは、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0026】
また、昇圧トランス1Aでは、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3が、3層目の2次巻線4で覆われている。したがって、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3と、1次巻線3の巻き終わり部分との接触が防止され、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0027】
また、昇圧トランス1Aでは、2次巻線4の巻き始め部分であるスタートワイヤS2は、巻芯部21の中央寄りに位置しており、スタートワイヤS2と鍔部22Uとの間には、2次巻線4の中間の巻回部分が位置している。これにより、スタートワイヤS2が鍔部22Uに隣接して配置されることが防止され、スタートワイヤS2を2次巻線4で覆う際に、2次巻線4が鍔部22Uと干渉せず、スタートワイヤS2を上層の2次巻線4によって覆うことが容易となる。したがって、この昇圧トランス1Aでは、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0028】
次に、本発明の第2実施形態に係る昇圧トランスについて説明する。
【0029】
図13は、本発明の第2実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。この昇圧トランス1Bは、図11に示す第1実施形態に係る昇圧トランス1Aにおいて、1次巻線3及び2次巻線4の巻回状態を変化させたものである。
【0030】
昇圧トランス1Bでは、スタートワイヤS2が鍔部22Uに隣接した位置に位置しており、2次巻線4の各層は一方側の鍔部22Uから他方側の鍔部22Lに至るまで巻回され、2次巻線4の巻き終わり部分が直接巻芯部21に巻回されていない。
【0031】
また、昇圧トランス1Bでは、1次巻線3の巻数が第1実施形態に係る昇圧トランス1Aよりも少なく、1次巻線3の巻き始め部分S1が巻芯部21の中央寄り、より具体的には鍔部22Uと巻芯部21の中央部との間に位置している。これにより、1次巻線3の巻き始め部分S1と2次巻線4の巻き始め部分であるスタートワイヤS2とが、巻芯部21の軸方向について異なる位置に位置している。そして、1次巻線3は、2次巻線4の上層の一部分のみ、具体的には上層の2/3程度のみに巻回されている。1次巻線の巻き始め部分S1とスタートワイヤS2との間隔は、2次巻線の巻数で1巻分以上であることが好ましい。
【0032】
このような昇圧トランス1Bでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の巻芯部21への巻き始め部分であるスタートワイヤS2が上層の2次巻線4によって覆われており、1次巻線3が上層の2次巻線4の外側に巻回されている。したがって、この昇圧トランス1Bでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0033】
また、昇圧トランス1Bでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3が、3層目の2次巻線4で覆われている。したがって、この昇圧トランス1Bでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0034】
また、昇圧トランス1Bでは、1次巻線3の巻き始め部分S1と2次巻線4の巻き始め部分であるスタートワイヤS2とが、巻芯部21の軸方向について異なる位置に位置している。これにより、1次巻線3の巻き始め部分S1とスタートワイヤS2との接触を確実に防止できる。したがって、この昇圧トランス1Bでは、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0035】
また、昇圧トランス1Bでは、1次巻線3が2次巻線4の上層の一部分のみに巻回されることにより、1次巻線3の巻き始め部分S1の位置を容易に調節することができ、1次巻線3の巻き始め部分S1とスタートワイヤS2との間隔を容易に調節することができる。したがって、この昇圧トランス1Bでは、さらにスタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0036】
次に、本発明の第3実施形態に係る昇圧トランスについて説明する。
【0037】
図14は、本発明の第3実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。この昇圧トランス1Cは、図13に示す第2実施形態に係る昇圧トランス1Bにおいて、1次巻線3の巻回状態を変化させたものである。すなわち、昇圧トランス1Cでは、1次巻線3の巻き始め部分S1が一方側の鍔部22Uに隣接した位置に位置しており、1次巻線3は各周の巻回部分が互いに接触しないように略均等な間隔を空けて巻回されている。
【0038】
このような昇圧トランス1Cでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の巻芯部21への巻き始め部分であるスタートワイヤS2が上層の2次巻線4によって覆われており、1次巻線3が上層の2次巻線4の外側に巻回されている。したがって、この昇圧トランス1Cでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0039】
また、昇圧トランス1Cでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3が、3層目の2次巻線4で覆われている。したがって、この昇圧トランス1Cでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0040】
また、昇圧トランス1Cでは、1次巻線3が、2次巻線4全体を覆っているため、漏れ磁束を低減することができ、結果としてさらに電圧波形のリンギングを抑えることができる。
【0041】
次に、本発明の第4実施形態に係る昇圧トランスについて説明する。
【0042】
図15は、本発明の第4実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。この昇圧トランス1Dは、図14に示す第3実施形態に係る昇圧トランス1Cにおいて、2次巻線4の巻回状態を変化させたものである。すなわち、昇圧トランス1Dでは、スタートワイヤS2が巻芯部21の中央寄り、より具体的には一方側の鍔部22Uと巻芯部21の中央部との間に位置しており、スタートワイヤS2と鍔部22Uとの間には、2次巻線4の中間の巻回部分が位置している点である。
【0043】
このような昇圧トランス1Dでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の巻芯部21への巻き始め部分であるスタートワイヤS2が上層の2次巻線4によって覆われており、1次巻線3が上層の2次巻線4の外側に巻回されている。したがって、この昇圧トランス1Dでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0044】
また、昇圧トランス1Dでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3が、3層目の2次巻線4で覆われている。したがって、この昇圧トランス1Dでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0045】
また、昇圧トランス1Dでは、第3実施形態に係る昇圧トランス1Cと同様に、1次巻線3が、2次巻線4全体を覆っているため、第3実施形態に係る昇圧トランス1Cと同様に、さらに電圧波形のリンギングを抑えることができる。
【0046】
また、昇圧トランス1Dでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、スタートワイヤS2を2次巻線4で覆う際に、2次巻線4が鍔部22Uと干渉せず、スタートワイヤS2を上層の2次巻線4によって覆うことが容易となる。したがって、この昇圧トランス1Dでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0047】
次に、本発明の第5実施形態に係る昇圧トランスについて説明する。
【0048】
図16は、本発明の第5実施形態に係る昇圧トランスの要部を示す断面図である。この昇圧トランス1Eは、図11に示す第1実施形態に係る昇圧トランス1Aにおいて、1次巻線3及び2次巻線4の巻回状態を変化させたものである。
【0049】
昇圧トランス1Eでは、スタートワイヤS2が鍔部22Uに隣接した位置に位置しており、2次巻線4の各層は一方側の鍔部22Uから他方側の鍔部22Lに至るまで巻回され、2次巻線4の巻き終わり部分が直接巻芯部21に巻回されていない。また、2次巻線4の巻き終わり部分では、2次巻線4は間隔を空けて巻回されている。そして、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3の鍔部22L寄りの上層に、2次巻線4の巻き終わり部分(2次巻線4の3層目)が配置されている。
【0050】
また、昇圧トランス1Eでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aよりも1次巻線3の巻数が少なく、その巻き終わり部分は巻芯部21の中央部と鍔部22Lとの間に位置している。
【0051】
このような昇圧トランス1Eでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、2次巻線4の巻芯部21への巻き始め部分であるスタートワイヤS2が上層の2次巻線4によって覆われており、1次巻線3が上層の2次巻線4の外側に巻回されている。したがって、この昇圧トランス1Eでは、第1実施形態に係る昇圧トランス1Aと同様に、スタートワイヤS2と1次巻線3の巻き始め部分S1との浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0052】
また、昇圧トランス1Eでは、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3の上層に、2次巻線4の巻き終わり部分(2次巻線4の3層目)が配置されている。したがって、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3と、1次巻線3の巻き終わり部分との接触が防止され、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0053】
また、昇圧トランス1Eでは、1次巻線3の巻き終わり部分は巻芯部21の中央部と鍔部22Lとの間に位置し、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3と、1次巻線3の巻き終わり部分とが、巻芯部21の軸方向について異なる位置に位置している。このため、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3と、1次巻線3の巻き終わり部分との接触が確実に防止され、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【0054】
また、昇圧トランス1Eでは、2次巻線4の巻き終わり部分では、2次巻線4は間隔を空けて巻回されている。このため、2次巻線4の3層目において、間隔を空けずに2次巻線4を鍔部22Lに至るまで巻回できない場合に、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3の上層に、2次巻線4の巻き終わり部分(2次巻線4の3層目)を確実に配置することができる。よって、2次巻線4の2層目の巻き始め部分S3と、1次巻線3の巻き終わり部分との接触が防止され、浮遊容量を低減させることができ、出力電圧を安定させることができる。
【符号の説明】
【0055】
1A,1B,1C,1D,50…昇圧トランス、2,52…ドラムコア、3,53…1次巻線、4,54…2次巻線、5U,5L…入力端子、6U,6L…出力端子、21,51…巻芯部、22U,22L,52U,52L…鍔部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部及び前記巻芯部の両端に設けられた鍔部を有するドラムコアと、前記鍔部に設けられた入力端子及び出力端子と、前記入力端子に接続される1次巻線と、前記出力端子に接続される2次巻線とを備えた昇圧トランスであって、
前記1次巻線の径は、前記2次巻線の径よりも大きく、
前記2次巻線の巻数は、前記1次巻線の巻数よりも多く、
前記2次巻線は、前記巻芯部に対して複数層に巻回されていると共に、前記巻芯部への巻き始め部分が上層の前記2次巻線によって覆われ、
前記1次巻線は、前記上層の前記2次巻線の外側に巻回されている、
昇圧トランス。
【請求項2】
前記1次巻線の巻き始め部分と前記2次巻線の巻き始め部分とが、前記巻芯部の軸方向について異なる位置に位置している請求項1に記載の昇圧トランス。
【請求項3】
前記1次巻線は、各周の巻回部分が互いに接触しないように間隔を空けて巻回されている請求項1又は2に記載の昇圧トランス。
【請求項4】
前記2次巻線の巻き始め部分は、前記巻芯部の中央寄りに位置しており、前記2次巻線の巻き始め部分と前記鍔部との間には、前記2次巻線の中間の巻回部分が位置している請求項1〜3のいずれか1項に記載の昇圧トランス。
【請求項1】
巻芯部及び前記巻芯部の両端に設けられた鍔部を有するドラムコアと、前記鍔部に設けられた入力端子及び出力端子と、前記入力端子に接続される1次巻線と、前記出力端子に接続される2次巻線とを備えた昇圧トランスであって、
前記1次巻線の径は、前記2次巻線の径よりも大きく、
前記2次巻線の巻数は、前記1次巻線の巻数よりも多く、
前記2次巻線は、前記巻芯部に対して複数層に巻回されていると共に、前記巻芯部への巻き始め部分が上層の前記2次巻線によって覆われ、
前記1次巻線は、前記上層の前記2次巻線の外側に巻回されている、
昇圧トランス。
【請求項2】
前記1次巻線の巻き始め部分と前記2次巻線の巻き始め部分とが、前記巻芯部の軸方向について異なる位置に位置している請求項1に記載の昇圧トランス。
【請求項3】
前記1次巻線は、各周の巻回部分が互いに接触しないように間隔を空けて巻回されている請求項1又は2に記載の昇圧トランス。
【請求項4】
前記2次巻線の巻き始め部分は、前記巻芯部の中央寄りに位置しており、前記2次巻線の巻き始め部分と前記鍔部との間には、前記2次巻線の中間の巻回部分が位置している請求項1〜3のいずれか1項に記載の昇圧トランス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−119568(P2012−119568A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269385(P2010−269385)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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