説明

昇華性物質の分離・精製装置

【課題】 本発明は、昇華性の目的物質を含有する原料固体混合物から、昇華性目的物の特性(昇華性)を利用して、連続または半連続的に比較的大量に無塵的に昇華処理し、目的とする昇華性物質のみを純度良く、収率良く得るための分離精製装置を提供する。
【解決手段】 昇華性の目的物質を含有する固体混合物を昇華槽に仕込み、真空ポンプを用いて全系内を減圧にして、昇華槽ジャケット10に熱媒を流して加熱し、昇華槽で発生した昇華蒸気を、外部から吸引した不活性ガスと共に導入管18を経由して、析出槽に導き、析出槽内にあって内部に冷媒が循環した析出管の外壁周囲に結晶を析出させて、付着した結晶を自然剥離、または析出管内の冷媒を熱媒に交換することにより溶融剥離させて、直下の結晶回収受器20に回収する。
回収した結晶は、結晶状態のままで、または結晶回収受器のジャケット29に熱媒を流して結晶を溶解して液体状態にし、連続的または半連続的に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華性物質を含有する固体混合物から、昇華性物質のみをその特性(昇華性)を利用して、他の固体混合物から分離精製する装置に関する
【背景技術】
【0002】
均一に混ざった混合物から目的成分を分離精製する手段としては、一般的には蒸留法、抽出法、再結晶法、昇華法法などがある。これらの方法のなかで蒸留法は、分離精製する成分の蒸気圧が小さい(沸点が高い)場合には適切ではない。また抽出法は、有機物の分離方法としてしばしば利用されるが、大量の溶剤を使用し、かつ目的物の選択的な分離精製という観点からいえば必ずしも適切ではない。再結晶法は、一般的には大量の溶剤を使用して、加熱溶解後、冷却して結晶析出させ、これを機械的に分離し、結晶に付着した溶剤を除去して、乾燥し、高純度の結晶を得るという大変な手間がかかる。
【0003】
これに対して、昇華法は、分離精製すべき成分に昇華性があって他の混合成分には昇華性がない場合、または昇華性があっても分離すべき目的成分と昇華速度に大きな差がある場合には有用な方法である。
【0004】
近年、分子量が大きく沸点が高い化合物を高度に分離精製する手段が切望されている。例えば、液晶と競合する技術として注目を集めている有機EL素材、半導体リソグラフィーに用いるレジスト素材などの分離精製手段である。
【0005】
従来から、昇華法は分離精製手段として知られているが、工業的に大量処理に適した方法は多くない。公知になった技術として、例えば、特開2004−141777、特開2006−95350が挙げられるが、これらの方法は、原料蒸気を冷風と共に混合し、フィルター上に昇華性物質を析出させたあと、エアーにて逆洗し、析出結晶を剥離させて回収しているが、フィルターの閉塞などの問題点があり大量処理には問題がある。また、特開2007−44592では昇華性蒸気を別室に導き、スクリーン上に凝縮付着させ、回収する方法であるが、やはり大量処理は難しい。
【0006】
一方、実験室規模の装置としては、ガラス製のもの(例えば、桐山製作所製のミル氏昇華管W77−1)がある。小規模のサンプルの分離精製用としてはこれでも充分であるが、試作あるいは工業スケールとなれば、この装置では規模的または無塵的に目的物を得る方法としては必ずしも充分ではない。
【0007】
本方法の昇華装置は、必要があれば、自然剥離または析出管内の冷媒を熱媒に換えて付着した結晶を溶融剥離させ、受器に回収したあと、受器に得られた結晶物を連続的または半連続的に、かつ無塵的に排出することが可能である。その場合、受器に得られた結晶を固体のままで連続的または半連続的にスクリューコンベアのような機械を用いて排出できる。また、受器外面に備えたジャケット内に循環する冷媒を熱媒に交換し、結晶を融解して液状にして排出することもできる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、昇華性物質を含有し、常温または常温より低温で固体状の混合物を比較的大量に処理し、昇華性を有する目的物だけを選択的に連続的または半連続的に分離精製して得ることを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による昇華分離精製法の操作法を、装置フロー系統図に従って開示する。
昇華槽に原料となる固体混合物を仕込口より投入し、真空ポンプを動かして全系内を真空にする。析出槽内の析出管内には入口から出口の方向に冷媒槽で調整した冷媒を流通させて冷却させておく。
【0010】
昇華槽の外周囲に設けたジャケット10内に入口11から出口12の方向に熱媒を循環し、原料固体混合物を加熱する。同時に吸引ノズル13を通して不活性ガス14を弁15で流量調節しながら吸引させる。
【0011】
昇華槽ジャケットに流す温浴槽16の熱媒温度は、結晶溶解温度以下の適切な温度とする。結晶溶解温度以上になると昇華槽中の固体混合物が溶解して液状になり、目的結晶物の昇華速度が著しく低下する。
【0012】
昇華槽で発生した昇華蒸気17は、外部から吸入した不活性ガスと共に導入管18を通って析出槽に入り、時間の経過につれて、目的の結晶物が析出槽に設けた析出管の外壁面に析出して付着してくる。析出管に付着した結晶層が厚くなるにつれて、付着した結晶19は析出管外壁から自然剥離して直下の結晶回収受器20に落下するようになる。
【0013】
析出槽の外側面にはジャケット21を設けて熱媒を22から23の方向に通して、結晶が付着しないようにしている。
【0014】
昇華槽に仕込んだ原料固体混合物中の目的とする昇華性結晶が全て昇華し、処理が完了したのを待って、析出管に入る冷媒入口弁24及び出口弁25を閉じ、昇華槽ジャケットに入る熱媒入口弁26を閉じて析出管に至る弁27及び出口弁28を開けて冷媒を熱媒に交換し、析出管外壁面に付着した結晶を溶融剥離させて直下の受器に回収する。その際、温浴槽内の熱媒温度は結晶溶解温度以上の適切な温度とする。
【0015】
剥離回収した結晶はそのままで、または受器の外周囲に設けたジャケット29内の冷媒を熱媒に交換し、全結晶を溶解して液状にして無塵状態で排出することもできる(図1にはラインは示していない)。その際の熱媒温度は結晶の溶解温度以上の適切な温度とする。
【0016】
場合によっては、昇華処理中に析出管外壁から受器に自然剥離する結晶を、連続的にスクリューコンベアのような輸送機械を用いて、無塵状態で排出することもできる(図1には装置は示していない)。
【実施例】
【0017】
予め冷媒槽の冷媒温度を−10℃前後に保ちながら、析出槽内の析出管及び結晶受器のジャケットに冷媒を循環させて、析出管内の温度が−10℃前後になるように十分冷却しておいた。
【0018】
昇華槽にナフタレン100grとハイドロキノン10gr(いずれも研究用試薬)の混合物を仕込み、真空ポンプを動かし、吸引管を通して、調節弁により流量を調節しながら、乾燥した窒素ガスを吸引し、系内を50mmHg〜150mmHgの真空とした。
【0019】
予め温浴槽の熱媒温度を80℃に加熱しておき、昇華槽のジャケット及び析出槽の外部ジャケットに熱媒を通し、80℃以下で循環させた。
【0020】
昇華槽で発生した昇華蒸気は導入管を経由して析出槽に入り、析出槽内の析出管外壁面に結晶として凝縮付着し、時間の経過と共に次第に厚くなった。付着した結晶は板状及び針状であった。
【0021】
付着した結晶厚さが増すにつれて、付着した結晶の一部が剥離し、直下に設置した結晶回収受器に落下した。約5時間で原料の固体混合物がすべて昇華し、昇華性結晶が析出管外壁面と結晶受器に回収された。昇華槽には約9.5grの固形物が残った。
【0022】
真空ポンプの運転を停止し、系内を常圧に戻し、冷媒循環ポンプの運転を停止した。
熱媒循環ポンプはそのまま運転して析出管内に流通する冷媒を熱媒に交換した。
【0023】
3〜5分後に析出管外壁面に付着した結晶は全て剥離して直下の結晶回収受器に落下し、操作中に自然剥離した結晶と一緒になって昇華性結晶は全て受器に回収された。得られた結晶は約95gr(対仕込みナフタレン95重量%)であった。測定分析の結果、昇華性結晶物のナフタレン純度100%、残留固形物のハイドロキノン純度100%であった。少量の昇華性結晶が真空ラインに残留してロスとなった。
【0024】
(使用装置寸法)
昇華槽:外径130mm×長さ300mm
析出槽:外径130mm×長さ500mm
析出管:外径50mm×長さ450mm
結晶回収受器:外径130mm×長さ300mm
【0025】
(測定方法)
昇華性物質を含む原料の固体混合物、および昇華精製した目的物の分析は、非極性充填剤でコーティングしたキャピラリーガスクロマトグラフィーによっておこなった。
カラム寸法:0.25mm×30m
測定条件:注入温度150℃、カラム入口温度150℃、オーブン温度200℃、
検出器温度250℃
【0026】
本発明の装置を用いると、実施例に示すように、昇華性結晶を含む原料固体混合物から昇華処理操作を行い、操作終了に際し析出管内の冷媒を熱媒に交換して、析出管に付着した結晶を剥離させて結晶回収受器に回収し、自然剥離した結晶と合わせて、目的の昇華性結晶が純度良く、しかも収率良く得られることがわかった。
【0027】
なお、目的によっては、目的の昇華性結晶を結晶体のまま、または溶融して液体状にした状態で、連続又は半連続的に無塵状態で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】昇華性物質の分離精製装置に関する全体のフローを示す系統図である。
【符号の説明】
【0029】
昇華槽
真空ポンプ
析出槽
析出管
冷媒槽
10 昇華槽ジャケット
16 熱媒槽
18 導入管
20 結晶回収受器
29 結晶回収受器ジャケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華性物質を、その特性(昇華性)を利用して原料の固体混合物中から分離・精製する装置であって、その手段は昇華性物質を含む固体混合物を昇華槽に仕込み、減圧下に昇華槽の外周に設けた加熱用ジャケットに熱媒液を流して加熱し、昇華性固体から発生した蒸気を、外部から吸引した不活性ガスと共に導入管を経由して隣接する別室の析出槽に導き、当該発生蒸気を、析出槽内に設けた冷媒液が流通する析出管の外壁面に結晶として凝縮付着させたのち、析出管内の冷媒液を熱媒液に交換し、付着した結晶を熱によって外壁面から剥離させ、結晶回収受器に落下せしめて回収する昇華分離・精製装置。
【請求項2】
昇華槽の上部から底部に向けて不活性気体(乾燥空気、または窒素、ヘリウムなどの不活性気体)を吸引するノズル管を備え、ノズル管の途中に設けた弁により気体流量の調節ができ、原料から発生した昇華蒸気を不活性気体と共に導入管を経由して、隣接する析出槽の上部に導入する構造を有する上記の昇華分離・精製装置。
【請求項3】
昇華槽で発生した昇華蒸気を析出管の外壁面に結晶として凝縮付着させ、その際、外壁面から自然剥離する結晶を直下の結晶回収受器に回収し、さらには昇華処理終了に際して、析出管内の冷媒液を熱媒液に交換し、付着した結晶を熱によって外壁面から溶融剥離させ、結晶回収受器に落下せしめて、連続的または半連続的に無塵の昇華性結晶を得ることができる上記の昇華分離・精製装置。
【請求項4】
析出槽の外周面に、結晶付着防止用の熱媒液を流通させるためのジャケットを有する上記の昇華分離・精製装置。
【請求項5】
析出槽内に設けた析出管の内部に流通する媒体(冷媒、熱媒兼用)が昇華槽の外周に設けた加熱用ジャケット内の流通媒体と同種類の液体からなり、結晶の凝縮と溶融剥離の両操作時に、適便に冷媒、熱媒の切り替えができる上記の昇華分離・精製装置。
【請求項6】
結晶回収受器の上部側面部に装置内を減圧にするためのノズル出口を有し、結晶回収受器の外周部に結晶冷却用の冷媒液、又は結晶溶解用の熱媒体を流通させるジャケットを備えた構造を有する上記の昇華分離・精製装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−106917(P2009−106917A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303683(P2007−303683)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(591196474)有限会社桐山製作所 (4)
【Fターム(参考)】