説明

易分解性ゴム組成物及びそれを用いたタイヤ

【課題】 分解が容易で、リサイクルが容易なゴム組成物であって、従来のゴム組成物とその性能が同等である易分解性ゴム組成物及び該ゴム組成物を主成分とする部材を含むタイヤを提供すること。
【解決手段】 基材としてのゴム材料に水溶性カーボンナノフィラー1phr以上を配合してなるゴム組成物及び該ゴム組成物を主成分とする部材を含むタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム組成物に関し、詳しくはタイヤなどのゴム製品として好適であり、ゴム製品のリサイクルを容易とし得る高機能/高性能ゴム組成物及び該ゴム組成物を主成分とする部材を含むタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、タイヤの再利用方法はサーマルリサイクルが主流であり、例えばセメント製造に必要な焼成熱エネルギーや金属精錬所等の溶解精錬のための熱エネルギーとして有効利用されている。その他の廃タイヤの有効利用としては、脱硫処理した再生ゴムを、タイヤトレッドなどのゴム材料にブレンドして使用する方法、廃タイヤを人工魚礁として利用する方法、廃タイヤゴムのクッション性を利用してトレッドを帯状に切断し、地下鉄用のマットとして利用する方法、及び最近はタイヤから粒状活性炭を製造する方法等の再利用技術が開発されている。
【0003】
しかしながら、燃料として熱エネルギーを取り出す方法は、重油の80%程度のエネルギーを発生し、かなり有効であるが、ゴム中に含まれるサルファーにより発生する亜硫酸ガスの除去設備を完全にしなければならないことや、地球温暖化につながるCO2を発生することからも必ずしもベストな再利用方法とはいえない。
さらに、熱分解により粒状活性炭を製造して有効利用する方法は、従来の活性炭に較べて性能、品質とコストのバランスにおいてまだ課題がある。
【0004】
また、廃タイヤを粉砕処理してリサイクルする方法が提案されており(例えば特許文献1参照)、そのゴム片を微細化すればするほど、そのゴム片を圧着成型体とした場合、タイヤトレッドコンパウンドへの配合材として用いた場合、あるいは再生ゴム原料として用いた場合、得られた加硫ゴムコンパウンド等の機械的性質としての引張り破断強度、破断のび、耐摩耗性等を高いレベルに保つことができる。
しかしながら、ゴムが硫黄等で架橋されていること、及びカーボンブラック、シリカ等の水や溶媒に不溶の充填材で補強されているため、一次破砕から微粉砕までの破砕エネルギー、コストがかさみ、しかも得られた微粉ゴムもカーボンブラック等と強固に複合化されたままの状態であるため、新ゴムとのなじみが悪く、配合されたコンパウンドのムーニー粘度が上がりすぎて作業性が悪化する等の課題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平11−104510
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記状況に鑑み、高い機能・性能を有しながら、その寿命を終えた後の分解もしくはリサイクルが容易な易分解性ゴム組成物を提供すること、特にタイヤに使用されるゴム組成物であって、廃タイヤとなった後に容易に分解、もしくは破砕・裁断でき、これにより高い経済性・再利用性をもってリサイクルできることを可能とするゴム組成物及びこれを用いたタイヤ等のゴム製品の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、基材としてのゴム材料に水溶性カーボンナノフィラー1phr(parts per hundred parts of rubber)以上を配合してなるゴム組成物およびこれを用いたタイヤが上記目的を達成することを見出し、本発明を完成したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分解が容易で、リサイクルが容易であるとともに、従来のゴム組成物とその機械的性質等の性能が同等であるゴム組成物を得ることができ、特にこれをタイヤに使用することで廃タイヤとなった際に容易に分解もしくは破砕でき、リサイクル利用を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のゴム組成物は、ゴム材料を基材とし、充填材として水溶性カーボンナノフィラーを含有する。
ゴム材料としては、天然ゴム、汎用合成ゴム、例えば、乳化重合スチレン−ブタジエンゴム、溶液重合スチレン−ブタジエンゴム、高シス−1,4ポリブタジエンゴム、低シス−1,4ポリブタジエンゴム、高シス−1,4ポリイソプレンゴム等、ジエン系特殊ゴム、例えば、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム等、オレフィン系特殊ゴム、例えば、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン等、その他特殊ゴム、例えば、ヒドリンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム、ウレタンゴム等を挙げることができる。コストと性能とのバランスから、好ましくは、天然ゴムまたは汎用合成ゴムである。
【0010】
本発明に係るゴム材料は加硫して使用することが好ましく、架橋方法としては、イオウ、過酸化物、金属酸化物等を添加して加熱により架橋させる方法や、光重合開始剤を添加して光照射により架橋させる方法、電子線や放射線を照射して架橋させる方法等が挙げられる。
【0011】
本発明に係るカーボンナノフィラーは炭素原子でできた直径がナノオーダーの球状、円筒状又は円柱状の物質であって、具体的にはフラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等をいう。フラーレンの粒子径は100nm(ナノメートル)以下が好ましく、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーの直径は200nm以下、長さは0.01〜10μm(マイクロメートル)の範囲が好ましい。尚、ここで直径及び粒子径は電子顕微鏡で測定した平均直径及び平均粒子径をいう。
本発明におけるカーボンナノフィラーは水溶性であることが必要である。フィラーが水溶性であることによって、再生時にフィラーが水に溶け出すため、残部を破砕等しやすくなり、リサイクルが容易となる。また、フィラーの抜けた後の色が黒色でないために、リサイクル用途が広がるという利点もある。
特に、本発明に係るゴム組成物をタイヤに用いる場合には、スリップサインより内部の層に配することが好ましい。トレッドが摩耗して廃タイヤになった場合に、本発明のゴム組成物の配合される層が現れ、該廃タイヤがリサイクルに供される場合に都合がよいからである。
【0012】
本発明に係るカーボンナノフィラーを水溶性とするためには、水溶性の官能基を導入することが必要であるが、例えばフラーレンC60に水酸基を付加し、C60(OH)n(n=5〜30の範囲が好ましい)とすることによって達成される。
ここで言う水溶性とは、中性あるいは0.1重量%水酸化ナトリウム水溶液に対して、0.1重量%、好ましくは1重量%以上溶解することをいう。
水酸基を付加する具体的方法としては、特に制限されないが、例えば硫酸−硝酸,NO2BF4,発煙硫酸を用いる付加、Bu4NOH−NaOH水溶液を用いる付加、ヒドロボレーションによる過酸化水素化等の方法がある。
また、その他の水溶性官能基、具体的にはカルボン酸基、スルホン酸基、ポリオキシエチレン基等が直接あるいは有機基を介してフラーレンに結合させた構造を有する水溶性フラーレン等も用いることが可能である。例をあげると、マロン酸付加体、スルホン−ブチル付加体、フェノール5重付加体、ポリオキシエチレン−アザフレロイド等が挙げられる。
官能基を導入するフラーレンとしては、C60以外にC70、C76、C78等の高次フラーレンを、単独、あるいはこれらの混合物で用いることも可能である。
また、水溶性カーボンナノフィラーの具体例としては、以下に示すようなカルボン酸で修飾された水溶性カーボンナノチューブ(アームチェア型(10,10)−SWCNT−COOH)も好適に使用される。
【0013】
【化1】

【0014】
本発明の水溶性カーボンナノフィラーの含有量は、1phr以上であることが必要である。1phr以上含有することで、フィラーとしての性能の発現が期待できる。さらに5phr以上、60phr以下が補強性、分解性のバランスに優れ、好適である。
【0015】
本発明の組成物においては、上記水溶性カーボンナノフィラー以外の各種充填材を1〜80phr、特には5〜60phr含有することが好適である。更に好適には、充填材として、カーボンブラックおよび/またはシリカを1〜80phr含有させる。組成物中にカーボンブラックおよび/またはシリカが適量含有されていると、水溶性カーボンナノフィラーのみを添加した場合に比してより高い補強効果が得られる。カーボンブラックとしては、HAF級のものなど公知のものを使用することができる。尚、ゴム組成物の混合、成型などの手法としては、通常のゴムの混合、成型に使用される公知の手法を用いることができ、特に制限はない。尚、本発明のゴム組成物は、JIS A硬度30〜90の範囲が好ましい。
【0016】
本発明のゴム組成物は、電気電子部品、タイヤ、ベルト、その他各種製品に幅広く使用することが可能である。尚、本発明のゴム組成物には、ゴム業界で一般に使用されている添加剤、例えば、加硫剤、加硫促進剤、補強材、老化防止剤、軟化剤等、通常のゴム用添加剤を適宜使用することが可能である。
【実施例】
【0017】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に
よってなんら限定されるものではない。
実施例1〜3および比較例1〜4
下記の第1表に示す配合内容にて、ゴム材料としてのスチレン−ブタジエンゴム(SBR#1500)と、各種添加剤とを混合し、以下に示す混練り条件およびシート作製条件に従い加硫ゴム組成物のシートを作製した。なお、下記の第1表中の配合量は全て重量部を表す。
【0018】
【表1】

【0019】
1)フロンティアカーボン社製、ミックスフラーレン(一次粒子径1nm、C60が主体であり、一部C70等が混合された混合組成品)
2)フロンティアカーボン社製、OH化フラーレン(一次粒子径1nm、フラーレンC60をOH基で化学修飾したもの、平均OH官能基数;10、0.1重量%の水酸化ナトリウム水溶液に4重量%溶解)
3)ノクラック6C(大内新興化学工業(株)製)
4)ノクセラーNS(大内新興化学工業(株)製)
【0020】
混練り条件
ラボプラストミル(東洋精機(株)製)を用いて、スチレン−ブタジエンゴム(SBR#1500)を70℃にて60rpmで1分間素練りした後、第1表中に示す、加硫促進剤および硫黄を除く各添加剤を投入して、4分間混練した(ノンプロ練)。得られた混合物を取り出して、冷却、秤量した後、残りの加硫促進剤および硫黄を投入し、プラベンダーを用いて、70℃にて50rpmで1分間混練した(プロ練)。
【0021】
シート作製条件
混練りした混合物を、高温プレスを用いて、150℃で第2表に示す時間だけ加硫して、1mm厚の加硫ゴムシートを作製した。加硫特性について、JSR(株)製「キュラストメーター 150C」にて測定した結果を第2表に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
物性評価
得られた各組成物のシートについて、破断強度及び破断伸び試験、及び動的粘弾性試験のそれぞれにつき評価を行った。破断強度および破断伸びについてはJIS K6251−1993に準拠して測定し、動的粘弾性試験については、レオメトリックス(株)製試験機「ARES」を使用して、50℃、測定周波数15Hz、動的歪1%における貯蔵弾性率G’(MPa)及び損失正接(tanδ)を測定した。
以上の結果を第3表に示す。これらより水溶性カーボンナノフィラーであるOH化フラーレンを配合したゴム組成物はタイヤをはじめとする種々のゴム製品に対する基本的な適用特性を有していることがわかる。
【0024】
【表3】

【0025】
次に、本発明のゴム組成物の分解特性を調べるために、薄層の加硫ゴムシート(厚さ;約50μm)を作製し、6ヶ月間、50℃の温水に浸漬した。その後シートを取り出し外観を観察した。結果を第4表に示す。この結果から明らかなように、比較例では外観にほとんど変化がなかったのに対し、実施例では無数の小さな孔の発生が認められ、一部水溶性充填剤の溶出、さらにはこれに伴って加硫ゴム組成物の一部の分解が起こっている可能性が示唆された。その程度は実施例1より、実施例2,3でより顕著であった。
以上のことから、水溶性ナノカーボンを適量用いて加硫ゴム組成物を調製することにより、一定の環境下で速やかに分解するゴム製品が得られることがわかる。
【0026】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のゴム組成物は、分解が容易で、リサイクルが容易であるとともに、従来のゴム組成物とその機械的性質等の性能が同等である。特にこれをタイヤに使用することで廃タイヤとなった際に容易に分解もしくは破砕でき、リサイクル利用を促進することができる。
より具体的には、本発明のゴム組成物をタイヤトレッドのスリップサインより内部のゴムに適用することにより、完全摩耗し、寿命を終えた後、分解しやすいタイヤが得られる。さらに、用済みタイヤをマテリアルリサイクルする場合も、一部が分解し始めることにより、あるいは、水を噴霧したり、水中に浸漬することによりシュレッズ、ゴム粉に破砕しやすい、もしくは破砕のエネルギーが少ないタイヤ、ゴム製品が得られる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材としてのゴム材料に水溶性カーボンナノフィラー1phr以上を配合してなるゴム組成物。
【請求項2】
前記水溶性カーボンナノフィラーが水溶性フラーレンである請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記水溶性フラーレンが水酸基で修飾されたフラーレンである請求項2記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記水溶性フラーレンの粒子径が100nm以下である請求項2又は3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記水溶性カーボンナノフィラーが水溶性カーボンナノチューブ又は水溶性カーボンナノファイバーである請求項1記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記水溶性カーボンナノチューブ又は水溶性カーボンナノファイバーがカルボン酸で修飾されたカーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバーである請求項5記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記水溶性カーボンナノチューブ又は水溶性カーボンナノファイバーの直径が200nm以下である請求項6記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物を主成分とする部材を含むタイヤ。
【請求項9】
前記ゴム組成物がスリップサインの内側に配されることを特徴とする請求項8記載のタイヤ。

【公開番号】特開2006−117877(P2006−117877A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309821(P2004−309821)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(502236286)フロンティアカーボン株式会社 (33)
【Fターム(参考)】