説明

易熱分解性撥液組成物及びそれを用いるパターニング方法

【課題】撥液性と低温分解性に優れた易熱分解性撥液性組成物を提供すること。
【解決手段】50%熱分解温度が350℃以下である熱分解性有機高分子と含フッ素高分子とを含んでなる、易熱分解性撥液組成物、及び、前記易熱分解性撥液組成物を用いる耐熱性塗料のパターニング方法、並びに、該方法を使用して得られる電気化学的素子や電気光学的素子等の素子。50%熱分解温度が350℃以下である熱分解性有機高分子の例は、α-メチルスチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸メチルおよびイソブチレン等であり、含フッ素高分子の例示は、含フッ素(メタ)アクリル系高分子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料からなる電気化学素子等の素子の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物は、導電性膜、半導体材料、センサー材料、絶縁膜、圧電体などの電気化学素子や電気光学素子等の素子として用いられている。特に圧電体は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換できる性質を有し、インクジェットプリンター、超音波モーター、燃料インジェクターなどに用いられている。圧電性セラミックスは、チタン酸ジルコニウム酸鉛(以下「PZT」という)のような鉛系の圧電セラミックスが一般的である。インクジェット式記録ヘッドなどでは、薄膜状の圧電体をプリント基板上に実装する。
【0003】
圧電薄膜の製法としては、スパッタリング法、有機金属気相成長法(MOCVD法)、ゾルゲル法などが挙げられる。ゾルゲル法は、薄膜の前駆体となる各金属成分を含有する溶液または分散液を基板に塗布し、その塗膜を加熱して金属酸化物の膜を形成し、更にその金属酸化物を結晶化温度以上で焼成して結晶化させることにより成膜する方法である。一般に、塗布溶液に含有される金属成分が加水分解性の金属化合物であるとゾルゲル法と呼ばれ、熱分解性の金属化合物であると有機金属分解法(MOD法)と呼ばれる。
【0004】
基板に実装するには、基材上へのアルコール溶液の塗布(または、キャスト)工程、塗布フィルムの加水分解工程および成形工程を経て所定の大きさに切断し、基板に接着して素子とする。ここにおいて、金属アルコキシドのアルコール溶液で基板上に直接パターンを形成することができれば工程が短縮できるが、金属アルコキシドのアルコール溶液は表面張力が低いため塗布した溶液が流れてパターン形成が困難である。また、印刷法で導電回路を描くには、金属微粒子をアルコール等に分散させた導電インクで回路を描いた後に加熱して金属微粒子を焼結させれば良いが、導電インクの表面張力が低いため微細回路を描くのは困難であった。撥液性塗料でパターンを書き、撥液性塗料がついていないところに金属アルコキシドのアルコール溶液などを塗布し、加水分解して焼成後に撥液性塗料を除去すればよいが、撥液性と熱分解性に優れた撥液性塗料が存在しなかった。例えば、特開2006−131953号公報で開示された撥水性有機高分子を用いる場合は、パターニング後に撥水性高分子の塗膜を分解除去するには350℃以上の加熱が必要である。従って、得られる素子の熱安定性の点や有機材料の基板を用いることもできることから、より低温で塗膜の分解除去ができる撥液組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−131953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、撥液性と低温分解性に優れた易熱分解性撥液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、驚くべきことに、50%熱分解温度が350℃以下である熱分解性有機高分子と含フッ素高分子とを含んでなる、易熱分解性撥液組成物が、撥液性と低温分解性とを備えることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
本発明で云う50%熱分解温度とは、重量熱分析装置(TGA)を用い、窒素、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下、有機高分子5〜20mgを室温から10℃/分の昇温速度で加熱した場合に、有機高分子の重量が、初期重量の50%にまで低下する温度を指す。重量の低下は、熱分解(あるいは、天井温度以上での解重合)によって高分子を構成する単量体が揮散することによると推定される。
【0009】
本発明における熱分解性有機高分子の50%熱分解温度は350℃以下であるが、好ましくは150〜300℃であってよく、より好ましくは200〜300℃であってよい。
【0010】
本発明の撥液組成物における撥液性の発現機構は、本発明の主旨がこれらの機構に囚われるものではないが、以下の様に説明され得る。即ち、優れた撥液特性を有する含フッ素高分子は、通常、フッ素を含有しない有機高分子との相溶性が悪く、溶液状態では混合していても塗布後の塗膜が乾燥するに従って相分離して、含フッ素高分子が表面に移行する。そのために、塗膜表面は含フッ素高分子の割合が増加して低表面エネルギー状態となり、撥液性(即ち、撥水性および撥油性)を発現するものと推定される。
また、本発明の撥液組成物における易熱分解性(あるいは、低温分解性)の発現機構は、本発明の主旨がこれらの機構に囚われるものではないが、以下の様に説明され得る。即ち、上記の様に、含フッ素高分子の割合は塗膜表面で高く塗膜内部では低くなる。それに応じて、塗膜内部では熱分解性有機高分子の割合が高くなり、特に、塗膜下面の基板との接触界面は熱分解性有機高分子が主成分になっていると推定される。そのため、基板全体を加熱することによって、基板と塗膜界面付近の熱分解性有機高分子が分解して揮散すると同時に、塗膜表面付近に多く存在する含フッ素高分子も、それ自身は高温安定(熱分解温度は、350℃〜400℃程度)であるにも拘わらず、熱分解されて揮散する熱分解性有機高分子の単量体に同伴されて揮散し、結果として塗膜全体が分解除去されると推定される。
【0011】
本発明の撥液組成物中の熱分解性有機高分子と含フッ素高分子との重量比は、例えば、99:1〜50:50、好ましくは、99:1〜70:30、より好ましくは、95:5〜80:20の範囲である。前記重量比は、塗膜の撥液性および熱分解性に影響を及ぼす。熱分解性有機高分子は塗膜の低温分解性に寄与し、含フッ素高分子は塗膜の撥液性に寄与するからである。
【0012】
本発明はまた、耐熱性塗料のパターニング方法を提供する。即ち、上記の本発明の撥液組成物で基板上にパターンを描いて撥液性塗膜のマトリクスを形成する工程、耐熱性塗料を前記マトリクス以外の部分に塗布してパターン化された耐熱性塗膜を形成する工程、ならびに、前記マトリクスおよび前記耐熱性塗膜を150℃以上に加熱して、前記マトリクスを熱分解させる工程を含んでなる、耐熱性塗料のパターニング方法を提供する。
本発明における耐熱性塗料とは、導電性膜、半導体材料、センサー材料、絶縁膜、圧電体などの電気化学素子や電気光学素子等の「素子」として用いられる導電性微粒子や金属酸化物またはそれ等の前駆体(例えば、アルコキシド等)を、アルコール等の溶媒中に溶解または分散した状態で含有している溶液を指す。
本発明はまた、上記の方法でパターニングされた素子を提供する。ここで云う素子とは、導電性膜、半導体材料、センサー材料、絶縁膜、圧電体などの電気化学素子や電気光学素子等を指す。
【発明の効果】
【0013】
本発明の易熱分解性撥液組成物によって低温分解性且つ撥液性の塗膜によるパターニングが可能となる結果、耐熱性塗料のパターニング後の撥液性塗膜の、従来に比べて低温での熱分解除去が可能となり、金属酸化物や焼結金属からなる素子の性能を損なうことなく、当該素子を安価に効率よく作成することができる。また、耐熱温度の低い有機基板を用いることも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施態様について、詳細に説明する。
本発明における50%熱分解温度が350℃以下である熱分解性有機高分子としては、種々のタイプの有機高分子を用いることができる。
【0015】
例えば、ポリオレフィン、ポリスチレン系高分子、ポリアルキレンオキシド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアルキレングリコール、ポリエステル、ポリアミドおよびポリカーボネート等が挙げられる。
【0016】
ポリオレフィン系高分子としては、ランダムポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリイソアミレン等が挙げられるが、ポリイソブチレンが好ましい。
【0017】
ポリスチレン系高分子としては、例えば、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリビニルキシレン、ポリα−メチルスチレン、ポリα−メチルビニルトルエン、ポリα−メチルビニルキシレン、ポリα−エチルスチレン、ポリα−エチルビニルトルエン、ポリα−エチルビニルキシレンなどが挙げられ、これらの中で、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリα−メチルスチレン、またはポリα−メチルビニルトルエンが好ましく、ポリスチレン、またはポリα−メチルスチレンがより好ましく、ポリα−メチルスチレンが特に好ましい。
【0018】
ポリアルキレンオキシド系高分子としては、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレン− ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレン− ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン− ポリオキシプロピレンアルキルエステル、ポリオキシブチレンなどが挙げられ、中でも、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンが好ましく使用される。これらは分解後のモノマーが250℃以上の温度で蒸散して、廃残を生じないため好適に用いられ得る。
【0019】
(メタ)アクリル系高分子としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、あるいはアクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系の重合体、または共重合体よりなるものが挙げられる。
【0020】
本発明において特に好ましい熱分解性有機高分子としては、ポリ-α-メチルスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸イソブチル、ポリアクリル酸メチルおよびポリイソブチレンから選ばれた少なくとも1つの単独重合体が挙げられる。
ポリ-α-メチルスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸イソブチルおよびポリアクリル酸メチルは加熱によって解重合を生じて揮散し、ポリイソブチレンは加熱により解重合および熱分解を生じて揮散すると考えられる。
共重合体の場合は、上記単量体(例えば、α-メチルスチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸メチルおよびイソブチレン)のいずれか2種以上を含む共重合体であってよい。あるいは、上記単量体のいずれか1種と上記以外の他の単量体、例えば、α−エチルスチレン、アクリル酸イソブチルおよびイソアミレン等のいずれか1種との共重合体であってもよいが、共重合体中における他の単量体の含有率は、多くても70モル%、好ましくは50モル%以下であることが好ましい。
上記の熱分解性有機高分子の50%熱分解温度は、以下の通りである:
ポリ-α-メチルスチレン:280℃、ポリメタクリル酸メチル:330℃、ポリアクリル酸メチル:300℃、およびポリイソブチレン:335℃。
【0021】
本発明で用いる含フッ素高分子としては、通常の含フッ素高分子を用いることができるが、フルオロアルキル基を含む単量体を重合した高分子が好ましく、フルオロアルキル基を含む単量体としては、例えば、フルオロアルキル基および炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。フルオロアルキル基を有す単量体は、フルオロアルキル基含有ビニル単量体であってよい。フルオロアルキル基含有ビニル単量体としては、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートや、フルオロアルキル基を有するα位が、ハロゲン原子、CF、CFHまたはCFHに置換されたアクリレートであってよい。例えば、フルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートは、次の一般式で表されるものであってよい。
Rf−A−OC(=O)CR=CH2[式中、Rf直鎖又は分枝鎖のフルオロアルキル基、Rは水素原子、F原子、Cl原子、CF基、CFH基、CFH基、メチル基、または1価の有機基、Aは2価の有機基である。]
フルオロアルキル基を有する単量体を重合した高分子構造の例としては、
−(Rf−A−OC(=O)CR−CH2)n−[式中、Rf、A、Rは、上記と同義であり、nは1〜200、特に2〜100である。]が挙げられる。
【0022】
含フッ素高分子としては、上記単量体を含む単独重合体または共重合体であってよい。共重合する単量体は、フッ素を含有せず、炭素-炭素二重結合を有する単量体であってよい。フッ素原子を含まない単量体としては、例えば、エチレン、酢酸ビニル、ハロゲン化ビニリデン、アクリロニトリル、スチレン、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ビニルアルキルエーテル、イソプレンなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明において用いられる含フッ素高分子の特に好ましい例は、一般式(1):
【化1】

[式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状もしくは分岐状のフルオロアルキル基、置換もしくは非置換のベンジル基、置換もしくは非置換のフェニル基、または炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状アルキル基であり、
Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、環状脂肪族基もしくは芳香脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OY1)CH2−基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、または、-(CH2)nSO2-基(nは1〜10)である。
Rfは炭素数が1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基(炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい)。]
で表される、含フッ素単量体からの重合体である。
ここで、Rfは、好ましくは炭素数が4〜8、より好ましくは4〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基(炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい)であってよく、更には、直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基が特に好ましい。
【0024】
前記一般式(1)で表わされるα位置換アクリレートの例は、次のとおりである。
【0025】
【化2】

【0026】
【化3】

【0027】
【化4】

【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

Rf-SO2(CH2)3-OCO-CH=CH2
【0031】
CH2=C(-H)-C(=O)-O-C6H4-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)2N(-CH3)SO2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)2N(-C2H5)SO2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-CH2CH(-OH)CH2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-CH2CH(-OCOCH3)CH2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)2-S-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)2-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-H)-C(=O)-NH-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-C6H4-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-(CH2)2N(-CH3)SO2-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-(CH2)2N(-C2H5)SO2-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-CH2CH(-OH)CH2-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-CH2CH(-OCOCH3)CH2-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-(CH2)2-S-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-(CH2)2-S-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-(CH2)3-SO2-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)-O-(CH2)2-SO2-(CH2)2-Rf
CH2=C(-CH3)-C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(H)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
[式中、Rf上記と同義である。]
【0032】
本発明の撥液組成物から形成される塗膜の撥液性は、好ましくは、耐水接触角で90度以上である。この程度の撥液性を有することによって、耐熱性塗料のパターニング形成がより有利に行うことができる。
【0033】
本発明は、前述の様に、耐熱性塗料のパターニング方法を提供する。その方法は、本発明に係る撥液組成物で基板上にパターンを描いて撥液性マトリクスを形成する工程、耐熱性塗料を前記マトリクス以外の部分に塗布してパターン化された耐熱性塗膜を形成する工程、ならびに、前記マトリクスおよび前記耐熱性塗膜を150℃以上に加熱して、前記マトリクスを熱分解させる工程を含んでなる。前記耐熱性塗膜の加熱は、150℃以上、好ましくは、150〜400℃、より好ましくは、180〜350℃、更に好ましくは、250〜350℃であってよい。
本発明はまた、上記パターニング方法を使用して形成された素子を提供する。
【0034】
本発明のパターニング方法を以下、説明する。パターニング方法には、塗料溶液を基板上に塗布もしくはキャスティングによってパターンを形成する塗布法もしくはキャスティング法、または、塗料溶液をインクジェットとして基板上に吹き付けるインクジェット法等のいずれも採用し得る。以下、塗布法によるパターン形成法について説明する。
【0035】
本発明で用い得る耐熱性塗料としては、導電性膜、半導体材料、センサー材料、絶縁膜、圧電体などの電気化学素子や電気光学素子等の「素子」となり得る導電性微粒子、金属酸化物または金属化合物(例えば、圧電性セラミックス素子の場合は、チタン酸ジルコニウム酸鉛(以下「PZT」という)のような鉛系化合物等)、またはそれ等の前駆体(例えば、金属アルコキシド(この場合は、ゾルゲル法と称する。)等)を含む組成物をアルコール等の溶媒に溶解若しくは分散させた溶液を用いることができる。溶液中には、界面活性剤等の溶解助剤、分散助剤等を含んでよい。これらの耐熱性塗料を基板に塗布し、その塗膜を加熱して導電性微粒子の膜または金属酸化物の膜等を形成し、要すれば、さらにその金属酸化物を結晶化温度以上で焼成して結晶化させることにより成膜する。
【0036】
パターニングされた電気化学素子や電気光学素子等の素子を製造するためには、まず、基板上に本発明の撥液組成物を含むアルコール等の溶液を塗布・乾燥・および/または、要すれば、光架橋や触媒架橋による硬化工程を経て、所望形状の易熱分解性撥液性パターン(マスキングパターン)を形成する。次に、耐熱性塗料を塗布すると、耐熱性塗料は撥液性を有する前記マスキングパターン部分からははじかれ、マスキングパターンの覆っていない基板部分にのみ塗布され、所望のパターンを有する素子原料の塗膜が得られる。次にこの基板を加熱することによって易熱分解性撥液パターンを分解・除去する。本発明では、この段階の分解・除去が、従来法に比べると低温で行うことが可能であり、通常、150℃以上、好ましくは、150〜400℃、より好ましくは、180〜350℃、更に好ましくは、250〜350℃であってよい。
易熱分解性撥液パターンを分解・除去後、素子原料の塗膜を、酸化物塗膜とする場合には酸素雰囲気下に、または、導電性金属塗膜とする場合には窒素等の不活性ガス雰囲気下に、昇温・加熱して金属酸化物または導電性金属の塗膜を生成する。要すれば、生成した金属酸化物を結晶化温度以上の温度で焼成して結晶化させてもよい。かくして、所望の形状にパターニングされた素子を得ることができる。
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
50%熱分解温度の測定は、重量熱分析装置(TGA:TG8120(株式会社リガク製))を用い、不活性ガスとして窒素の雰囲気下、有機高分子5〜20mgを室温から10℃/分の昇温速度で加熱して、有機高分子の重量が初期重量の50%に低下する温度を求めることによって行った。
【0038】
実施例1
還流冷却管、窒素導入管、温度計、撹拌装置を備えた四つ口フラスコ中にフルオロアクリレートCH=CHCOO−CHCH13 144gを入れ、70℃に加熱後、30分間窒素気流下で撹拌した。これに2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(略称AIBN)1.8gを添加し、18時間重合させた。反応液中に残存するモノマーをガスクロマトグラフィーで分析することより、転化率が95%以上であることを確認した。得られた反応液をヘキサンで沈殿、真空乾燥して、含フッ素高分子を単離した。得られた含フッ素高分子の分子量をGPCで測定すると、重量平均分子量は5,000であった。
次に、例えば、得られたポリマー0.1gとポリ-α-メチルスチレン(関東化学)0.9gをテトラヒドロフラン100gに溶解させて、易熱分解性撥液組成物の溶液を得る。ポリイミドフィルム(カプトン(登録商標)・デュポン社)を基板とし、その基板上に刷毛を用いて上記溶液で線を描き、室温でテトラヒドロフランを蒸発させて、撥液性塗膜を得る。この塗膜の水の接触角を測定すると、101度である。テトラエトキシシラン1gと濃塩酸0.1gをエタノール100gに溶解させ、1夜放置したSiO耐熱性塗料を全面に塗布すると、予め撥液性塗膜を形成した箇所では耐熱性塗料がはじかれ、撥液性塗膜が形成されていない箇所のみSiO耐熱性塗料でコーティングされる。得られた複合塗膜(撥液性塗膜と耐熱性塗膜)を300℃で1時間加熱することにより、パターニングされた耐熱性塗膜が得られる。得られるフィルムに油性ペンで文字を描くと、予め撥液性塗膜を形成していて300℃の加熱で塗膜が分解・揮散した箇所も、撥液性塗膜を形成していない箇所も、文字を描くことができる。
【0039】
比較例1
実施例1得た含フッ素高分子1gをテトラヒドロフラン100gに溶解させて溶液を得る。実施例1と同様にポリイミドフィルム基板上に線を描き、テトラヒドロフランを蒸発させてパターン化された塗膜を得る。この塗膜の水の接触角は105度である。実施例1と同様にSiO耐熱性塗料を全面に塗布すると、予め撥液性塗膜を形成した箇所では耐熱性塗料がはじかれ、撥液性塗膜が形成されていない箇所のみSiO耐熱性塗料でコーティングされる。得られた複合塗膜を300℃で1時間加熱する。得られる塗膜上に油性ペンで文字を描くと、予め含フッ素高分子を塗布した箇所はインクをはじいて文字を描くことができない。
【0040】
比較例2
ポリ-α-メチルスチレン(関東化学)1gをテトラヒドロフラン100gに溶解させて溶液を得る。実施例1と同様にポリイミドフィルム基板上に線を描き、テトラヒドロフランを蒸発させて塗膜を得る。この塗膜の水の接触角は88度である。実施例1と同様にSiO耐熱性塗料を全面に塗布すると、予め塗膜を形成した箇所も、塗膜が形成されていない箇所もSiO耐熱性塗料でコーティングされる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の、撥液性と低温分解性に優れた易熱分解性撥液組成物は、パターニングされた導電性膜、半導体材料、センサー材料、絶縁膜、圧電体などの電気化学素子や電気光学素子等の素子の製造に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50%熱分解温度が350℃以下である熱分解性有機高分子と含フッ素高分子とを含んでなる、撥液組成物。
【請求項2】
熱分解性有機高分子と含フッ素樹脂との重量比が99:1〜50:50の範囲にある、請求項1に記載の撥液組成物。
【請求項3】
50%熱分解温度が、150〜300℃の範囲である、請求項1または2に記載の撥液組成物。
【請求項4】
熱分解性有機高分子が、ポリオレフィン、ポリスチレン系高分子、ポリアルキレンオキシド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアルキレングリコール、ポリエステル、ポリアミドおよびポリカーボネートからなる群から選ばれた少なくとも1つの有機高分子である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の撥液組成物。
【請求項5】
熱分解性有機高分子が、α-メチルスチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸メチルおよびイソブチレンから選ばれた少なくとも1種を含んでなる単量体からの単独重合体もしくは共重合体を含んでなる、請求項1〜4のいずれか1つに記載の撥液組成物。
【請求項6】
含フッ素樹脂が、含フッ素(メタ)アクリル系高分子である、請求項1〜5のいずれか1つに記載の撥液組成物。
【請求項7】
含フッ素高分子が、一般式(1):
【化1】

[式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状もしくは分岐状のフルオロアルキル基、置換もしくは非置換のベンジル基、置換もしくは非置換のフェニル基、または炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状アルキル基であり、
Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、環状脂肪族基もしくは芳香脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OY1)CH2−基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、または、-(CH2)nSO2-基(nは1〜10)である。
Rfは炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基(炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい)である。]
で表される、含フッ素単量体からの重合体である、請求項1〜6のいずれか1つに記載の撥液組成物。
【請求項8】
撥液組成物から形成される塗膜の撥液性が、耐水接触角で90度以上である、請求項1〜7のいずれか1つに記載の撥液組成物。
【請求項9】
耐熱性塗料のパターニング方法であって、請求項1〜8のいずれか1つに記載の撥液組成物で基板上にパターンを描いて撥液性マトリクスを形成する工程、耐熱性塗料を前記マトリクス以外の部分に塗布してパターン化された耐熱性塗膜を形成する工程、ならびに、前記マトリクスおよび前記耐熱性塗膜を150℃以上に加熱して、前記マトリクスを熱分解させる工程を含んでなる、耐熱性塗料のパターニング方法。
【請求項10】
請求項9に記載のパターニング方法を使用して形成された素子。

【公開番号】特開2011−241273(P2011−241273A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113327(P2010−113327)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】