説明

易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙

【課題】保湿・防水性,耐熱性および使用後の古紙回収が可能となる離解性を備えた耐熱性および使用後の古紙回収が可能となる離解性をも備えてなる易離解・保湿・防水性紙に,さらに野菜から放出されるエチレンガスやアンモニアガス等の腐敗ガスを吸着し鮮度を保持する機能を持たせた易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙を提供する。
【解決手段】ヒドロゾル法によって得られたガラス転移温度が65〜75℃の範囲に調整されたスチレン・アクリル共重合バインダーに炭の粉末を混錬したものを,最低造膜温度(MFT)以上の温度で乾燥させてなる易離解・保湿・防水性紙の収納物面側に塗工した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,各種食品や生鮮食料品等の収納,包装等に適した易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度を常温状態でも経時保持することができる紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から,木炭は,その多孔質な構造から,保湿機能や,脱臭機能の他に,エチレンガスやアンモニアガス等の腐敗ガスの吸着機能を有していることが知られており,このため,例えば,特許文献1に示すような野菜等の食品の鮮度を保つ紙製容器の内側に塗布されているものが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−10660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,上記従来の紙製容器は,一般に用いられている厚紙や薄紙等の紙材の表面に炭塗工層を形成した構造であるため,例えば,本発明者が先に提案した耐熱性および使用後の古紙回収が可能となる離解性をも備えてなる易離解・保湿・防水性紙(特許第2852388号)には,上記従来の炭塗工層を塗布することができない,という問題を有していた。
【0005】
これは,紙の表面に形成された撥水コート層で上記従来の炭塗工剤が弾かれるためであり,密に接着しようとして接着剤を増やすと,炭の微細な孔が塞がれて炭の上記各機能が損なわれる,という問題を有していたためである。
【0006】
この発明は,かかる現状に鑑み創案されたものであって,その目的とするところは,本発明者が先に提案し特許を取得している保湿・防水性,耐熱性および使用後の古紙回収が可能となる離解性を備えた耐熱性および使用後の古紙回収が可能となる離解性をも備えてなる易離解・保湿・防水性紙(以下,TRエココート紙という。)に,野菜から放出されるエチレンガスやアンモニアガス等の腐敗ガスを吸着し鮮度を保持する機能を持たせた易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため,請求項1に記載の発明に係る易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙にあっては,ヒドロゾル法によって得られたガラス転移温度が65〜75℃の範囲に調整されたスチレン・アクリル共重合バインダーに炭の粉末を混錬したものを,最低造膜温度(MFT)以上の温度で乾燥させてなる易離解・保湿・防水性紙の収納物面側に塗工したことを特徴とする。
【0008】
また,請求項2に記載の発明は,請求項1に記載の易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙を技術的前提とし,前記炭は,活性炭,ヤシ殻,おがくず,木炭,竹炭,褐炭,骨,石油ピッチのいずれか若しくはこれらの組み合わせを用い,比表面積800cm/g以上,好ましくは1000cm/g以上用いることを特徴とする。
【0009】
さらに,請求項3に記載の発明は,請求項1または請求項2のいずれかに記載の易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙を技術的前提とし,前記炭の粒径は,1〜100μ,好ましくは5〜15μのものを用いることを特徴とする。
【0010】
また,請求項4に記載の発明は,請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙を技術的前提とし,前記炭とバインダーとの配合比率は,炭100重量部に対してバインダーを1〜50重量部,好ましくは2〜25重量部としたことを特徴とする。
【0011】
さらに,請求項5に記載の発明は,請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙を技術的前提とし,スチレン・アクリル共重合バインダーに炭の粉末を混錬したもので,文字,図形又は模様を,最低造膜温度(MFT)以上の温度で乾燥させてなる易離解・保湿・防水性紙の収納物面側に上塗りしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように,請求項1に記載の発明にあっては,原紙の表面をヒドロゾル法によって得られたスチレン・アクリル共重合体を主体とする炭の粉末が混練されてなるバインダーで保護するように構成したので,エマルジョン乳化重合法よりも最低造膜温度(MFT)を低くすることができ,その結果,強靭な塗工被膜を容易に得ることができると共に,防水・防湿性・エチレンガス等のガス吸着性にも優れ,しかも,エマルジョン粒子が小さくできるので,成膜し易く,薄膜化を達成し,易離解性を達成することができる,という効果が得られる。
【0013】
また,請求項1に記載の発明に係るバインダーは,ガラス転移温度が65〜75℃の範囲に調整されているので,最低造膜温度(MFT)を低く抑えることができ,その結果,塗工被膜を均一かつ安定的に生成することができる,という優れた効果が得られる。即ち,古紙回収時における原紙と樹脂被膜との分離性能品質及び被膜の分解性能品質である「易離解性」を達成する目的から,本発明では,バインダーをヒドロゾル法で生成すると共に,ガラス転移温度を65〜75℃の範囲に調整することにより,最低造膜温度(MFT)を低く抑えることができ,その結果,より均一で安定性に優れた樹脂被膜を塗布することが可能となり,易離解性は勿論,防水・防湿・ガス吸着性能をバランスよく得ることができる。
【0014】
さらに,請求項1に記載の発明にあっては,スチレン・アクリル共重合バインダーには,無機充填剤を何ら添加することなく十分な耐熱性を得ることができるように構成されていると共に,界面活性剤を何ら添加することなく十分な防水性を得ることができ,しかも,これらを添加しないことで,被膜を薄膜化することができるので,易離解性能が大幅に向上する,という作用・効果を得ることができる。
【0015】
またさらに,請求項1に記載の発明にあっては,バインダーを,塗布量が原紙に対して1〜30g/mの範囲内で紙面に塗布するように構成したので,被膜を,強度を落とすことなくさらに薄膜化することができるため,易離解性能をさらに向上させることができる。
【0016】
また,請求項1に記載の発明にあっては,粉末の炭を塗布して炭塗工層を設け,該炭塗工層面が収納物側となるように使用するように構成したので,炭の多孔質構造による保湿機能と,エチレンガスやアンモニアガス等の腐敗ガスの吸着機能によって得られ,野菜等の食品の鮮度を保つことができる。
【0017】
即ち,この発明にあっては,先の特許でいうヒドロゾル法から得られる塗工液が発揮する易離解・保湿・防水の各性能を第1層目の皮膜層で得,この第1皮膜層の収納物側に,上記ヒドロゾル法塗工液と同一組成のものに炭粉末をブレンドした塗工液を塗布して第2皮膜層を形成することを特徴とする。
【0018】
このように,ヒドロゾル法塗工液で第1層目を塗工した表面に,同じ組成の塗工液に炭をブレンドしたもので2回目を塗ることで,前記特許から得られる基本特性(防湿,防水,耐熱,撥水性,接着剤及び印刷適正)をクリアし,かつ第2層目も,液の組成が第1層目と同一となるので,その接着強度を最適な状態で得ることができる。この場合,上塗り適正として下塗りの表面特性の内,撥水性が大きく影響するため,上記基本特性を有しており,且つ撥水性が無ければ,炭の細孔を”つぶさない”バイダーの種類及び混合比率を選択すれば,バインダーの選択肢は広げることができ,価格が安いバインダーを選択することで,廉価に提供することが可能となる。従って,バインダーとしては,ブタジエン,酢ビ,アクリル等を使用することもできる。但し,無機物(炭)ブレンドによる耐熱性アップ効果が前提となるため,第2層(炭ブレンド層)の物性は,前記特許の基本物性すべてを確保するは難かしいので,第1層の物性で第2層分の防湿,防水を確保するのが望ましい。第1層のみで前記基本物性を確保するには,請求項1の構成が最も望ましい。
【0019】
次に,請求項2に記載の発明は,前記炭塗工層のエマルジョンの炭として,活性炭,ヤシ殻,おがくず,木炭,竹炭,褐炭,骨,石油ピッチのいずれか若しくはこれらの組み合わせを用い,比表面積800cm/g以上,好ましくは1000cm/g以上用いるように構成したので,野菜等から放出されるエチレンガスやアンモニアガス等の腐敗ガスを確実に,かつ,高効率で吸着し,鮮度を保持することができる。
【0020】
また,請求項3に記載の発明にあっては,前記炭の粒径が,1〜100μ,好ましくは5〜15μのものを用いたので,炭の微細な孔がバインダーで目詰まりする虞がなく,野菜等から放出されるエチレンガスやアンモニアガス等の腐敗ガスを確実に吸着し,鮮度を保持することができる。1μ以下では比表面積が小さすぎ,かつ,バインダーで微細孔が埋もれ,ガス吸着機能を発揮することができない。また,100μ以上では,比表面積が大きくガス吸着機能は増大するが,粒径が大きすぎるため,塗工時に塗工表面にストリーク(筋)が発生し,均一な塗工表面が得ることができなくなるためである。
【0021】
さらに,請求項4に記載の発明は,前記炭とバインダー或は接着剤との配合比率を,炭100重量部に対してバインダーまたは接着剤を1〜50重量部,好ましくは2〜25重量部としたので,炭の脱落を有効に防止し,効率的なガス吸着性能を保持させることができる。バインダー量または接着剤量が少ない場合には,塗工表面からの炭の脱落が多くなり,ガス吸着性能が低下することは勿論,脱落した炭が収納物に付着して収納物が汚損される,という問題が発生し,また,バインダー量又は接着剤量が多い場合には,炭の表面がバインダー又は接着材に埋もれ,ガス吸着性能が大幅に低下する,という問題が発生するためである。
【0022】
またさらに,請求項5に記載の発明は,スチレン・アクリル共重合バインダーに炭の粉末を混錬したもので,文字,図形又は模様を,最低造膜温度(MFT)以上の温度で乾燥させてなる易離解・保湿・防水性紙の収納物面側に上塗りするように構成したので,文字,図形又は模様を容易に形成することができ,かつ,これら文字,図形又は模様の形成面は,野菜等の収納物側に配置されるように構成したので,炭の上記特性を充分発揮させつつ,広告として,或は収納物の取扱い説明や商品名等を表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下,この発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
この実施例1に係る易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙は,ヒドロゾル法によって得られたガラス転移温度が65〜75℃の範囲に調整されたスチレン・アクリル共重合バインダーを主体とし,かつ,無機充填剤及び界面活性剤を添加しないで生成されてなるバインダーを,塗布量が原紙1に対して1〜30g/mの範囲内で紙面に塗布すると共に,上記バインダーを,最低造膜温度(MFT)以上の温度で乾燥させて形成されている。
【0025】
そして,上記バインダーには,炭の粉末が混練され,原紙1の収納部側に塗布されて形成されている。
【0026】
本実施例1に用いられる炭は,活性炭,ヤシ殻,おがくず,木炭,竹炭,褐炭,骨,石油ピッチのいずれか若しくはこれらの組み合わせを用いることができ,その比表面積800cm/g以上,好ましくは1000cm/g以上用いる。
【0027】
また,上記炭の粒径は,1〜100μ,好ましくは5〜15μのものを用いることで,炭の微細な孔がバインダーで目詰まりする虞がなく,野菜等から放出されるエチレンガスやアンモニアガス等の腐敗ガスを確実に吸着し,鮮度を保持することができる。1μ以下では比表面積が小さすぎ,かつ,バインダーで微細孔が埋もれ,ガス吸着機能を発揮することができない。また,100μ以上では,比表面積が大きくガス吸着機能は増大するが,粒径が大きすぎるため,塗工時に塗工表面にストリーク(筋)が発生し,均一な塗工表面が得ることができなくなるためである。
【0028】
さらに,この実施例1では,前記炭とバインダーとの配合比率を,炭100重量部に対してスチレン・アクリル共重合体からなるバインダーを1〜50重量部,好ましくは2〜25重量部とする。この配合比率により,炭の脱落を有効に防止し,効率的なガス吸着性能を保持させることができる。バインダー量が少ない場合には,塗工表面からの炭の脱落が多くなり,ガス吸着性能が低下することは勿論,脱落した炭が収納物に付着して収納物が汚損される,という問題が発生し,また,バインダー量が多い場合には,炭の表面がバインダーに埋もれ,ガス吸着性能が大幅に低下する,という問題が発生するためである。
【0029】
この実施例1において,スチレン・アクリル共重合バインダーを主体としたバインダーは,防湿性,防水性,撥水性,防滑性,耐熱性,耐湿ブロッキング性(40℃,90%RH),塗布面の印刷性,酢ビエマルジョン系接着剤での接着性,易離解性等の特性を有するものである。
【0030】
また,この実施例1では特に優れた耐熱性を得るために,バインダーの主体をなすスチレン・アクリル共重合バインダーのガラス転移温度を65〜75℃,好ましくは68〜72℃の範囲に調整する必要がある。
【0031】
これはガラス転移温度が低い場合には,所定の耐熱性を得ることができず,一方,ガラス転移温度が高すぎると,形成された被膜が固くなってしまうからである。
【0032】
スチレン・アクリル共重合バインダーは,各種のスチレン系単量体及び種々のアクリル系単量体から選択された1種又は2種以上を共重合することにより得ることができるが,上記ガラス転移温度を満足させた共重合物を得るためには,ガラス転移温度の比較的高い単量体と,ガラス転移温度の比較的低い単量体との組合せを選択し,及びそれら単量体の配合割合などを適当に決定することにより,幾種類もの組合せの中から選択することができる。
【0033】
例えば,ガラス転移温度の比較的高い単量体としては,スチレン,アクリル酸,メタクリル酸メチル,メタクリル酸,アクリルアミド,アクリロニトリルなどが適当であり,またガラス転移温度の比較的低い単量体としては,アクリル酸n−ブチル,アクリル酸2−エチルヘキシル,メタクリル酸ラウリル,アクリル酸エチル,アクリル酸メチルなどが適当である。そして,これらガラス転移温度の比較的低い単量体は,0〜40%,好ましくは15〜30%が配合されると耐熱性に優れ且つ柔軟性のある被膜を得ることができる。尚,アクリル系単量体は,共重合物のガラス転移温度に関与するだけでなく,被膜に強靭性と造膜性とを付与する働きがある。
【0034】
また,共重合物の分子量もガラス転移温度に影響を及ぼすことが知られており,一般には分子量の大きい方がガラス転移温度も高いとされている。従って,本実施例1のようにガラス転移温度の比較的高い共重合物を得ようとする場合,分子量を大きくすることで目的を達成することも可能である。
【0035】
一方,上記各単量体の内で,エステル結合(−COOR)のアルキル基(R)の炭素数が多いぼど疎水性が高くなり,防水・防湿性に優れた原料といえる。また,カルボキシル基(−COOH),水酸基(−OH),エステル結合(−COOR)などは親水性基であり,これらが多いほど防水・防湿性に劣る原料といえる。従って,上記各単量体を選択する場合には,上述したガラス転移温度と共に,これら防水・防湿性をも考慮する必要がある。
【0036】
上述したスチレン・アクリル共重合バインダーの耐熱性を満足させる各単量体の種類,及びその配合割合の一例として,以下のものを示す。因みに,この場合のガラス転移温度は,例1の場合が約72℃,例2の場合が74℃であった。
【0037】
〔例1〕
スチレン 70部
メタクリル酸メチル 30部
アクリル酸メチル 25部
メタクリル酸 15部
アクリル酸エチル 10部
アクリルアミド 10部
アクリル酸n−ブチル 5部
【0038】
〔例2〕
スチレン 80部
メタクリル酸メチル 20部
アクリル酸メチル 30部
メタクリル酸 20部
アクリル酸エチル 5部
アクリルアミド 20部
アクリル酸n−ブチル 5部
【0039】
次に,上記例1,2に示したような単量体を用いて,スチレン・アクリル共重合バインダーを得るための具体的手段について説明する。この方法は,被膜の防水性,防湿性などを考慮して界面活性剤を使用しないヒドロゾル法である。
【0040】
先ず,上記例1又は例2に示した各単量体を,それぞれ反応容器内に水1500部と共に注入し,約62℃に加温した。
【0041】
次に,アゾビスイソブチロニトリルのメタノール溶液を15ml/分の割合で1時間に亘って添加し,反応温度を62±2℃に保持したまま約3時間反応させた。
【0042】
さらに,メタノール10部,アゾビスイソブチロニトリル1部からなるメタノール溶液を全量添加して1時間保持した。
【0043】
次に,上記反応させた共重合物100部を,水130部,ジエチレングリコールモノエチルエーテル30部,28%アンモニア水3部と共に反応容器内に入れ,65℃保温下で攪拌しながらメタノールを水との共沸化留出した。冷却後,28%アンモニア水にてpH8.0〜9.0の間に調整し所定の濃度とした。
【0044】
上述の製法で得たスチレン・アクリル共重合バインダーを板紙の上に塗工し,その上にアルミ箔を重ね合わせたのち,ヒート・シーラ(テスター産業社製)にて1.5kg/cm(ゲージ圧)の圧力で5分間圧締し,アルミ箔と塗工紙(板紙)とがブロッキングする最大温度を測定したところ250℃であった。
【0045】
一方,延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムをライナ上に重ね合わせ,上記と同様の方法で耐熱ブロッキング温度を測定したところ240℃であった。なお,250℃ではPETフィルムが熱溶解してしまう。
【0046】
このようにしてできた共重合物をバインダーとして用いた場合には,耐熱温度が150〜250℃(実用上は150〜200℃)であり,乾燥時の150℃前後の温度に十分耐え得るものである。
【0047】
一方,この実施例1に用いられる原紙1は,水又はアルカリ水溶液に対し容易に離解するものであればよく,例えば,段ボール等に用いられる板紙,クラフト紙,上質紙,コート紙などに幅広く使用することができる。上述の塗布液は通常の方法で原紙に塗布されるが,塗布量は原紙に対して1〜30g/mが望ましい。この場合,塗布量が1g/m以下では,防湿・防水性効果および耐熱性効果が充分ではなく,また,30/m以上では使用後の古紙回収の際の離解性が劣る。
【0048】
また,塗布後の乾燥温度については,MFT(バインダーの最低造膜温度をいう。以下,同じ)以上の温度であることが必要である。MFT以下では造膜せず,防湿性・防水性が劣る。また,MFT以上であれば,特に温度には限定されないが,樹脂の所定分解温度以下であることが必要である。なお,本実施例における共重合物のMFTは,約16℃程度である。
【0049】
次に,上記炭粉末が混練されたバインダー(炭塗工層3)を用いた段ボールシートの製造工程を説明する。
【0050】
段ボールシートの製造工程では,上記バインダーが塗布乾燥されたライナと中芯とをコルゲータを用いて貼合するが,この場合,先ず,中芯の片側にコーンスターチや馬鈴薯などのデンプンを接着剤として塗布し,これにライナを貼り合わせて片面段ボールを製造する。次に,上記中芯の反対側にも接着剤を塗布しライナを貼り合わせて両面段ボールを形成する。このとき,段ボールケースの内側(収納物側)となる面には,上記炭粉末が混錬されたバインダーを塗布若しくは印刷し乾燥させておく。そして,この両面段ボールをキャンバスで押さえながら熱盤で180℃前後に加熱し,この熱でデンプンを糊化してライナと中芯とを強固に接着する。接着した段ボールは,乾燥させた後カッタで所定寸法に裁断して,一定寸法の段ボールシートとされる。
【0051】
このようにして製造された段ボールシートは,熱盤での加熱工程でもバインダーが溶けてキャンバスに融着するようなことがないので,コルゲータでのトラブルを生じさせることがない。また,バインダーの効果による段ボールシートの防湿性・防水性に優れるため,野菜や果物など鮮度保持が特に必要な食品包装用段ボール箱として最適であり,また,バインダーの離解性が良いために,段ボールを使用した後の古紙回収にも適合する。炭(例えば活性炭)は無機物であり,エマルジョン溶液の中でエマルジョン粒径より大きい径であるから,塗工表面に微小突起となり,コルゲータの熱盤に直接接触しないため,上記バインダー以外のものを用いることもできる。例えば,ブタジエン共重合ラテックス,イソプレン共重合ラテックス,酢酸ビニルエマルジョン,アクリルエマルジョン等のバインダーも使用可能である。また,防湿性・防水性・撥水性ダンボールケース内への敷き紙として本炭エマルジョン塗工紙を用いる場合には,上記耐熱性(Tgが低い)バインダーを単独で使用してもよい。
【0052】
〔実験例1〕
比較品1;一般段ボールケース使用
比較品2;一般段ボールケース+100%炭エマルジョン塗工
比較品3;一般段ボールケース+50%炭エマルジョン塗工
比較品4;一般段ボールケース+20%炭エマルジョン塗工
比較品5;炭粉末を混練していないTRエココート紙を使用
実施品1;TRエココート紙+内面100%炭エマルジョン塗工
実施品2;TRエココート紙+内面50%炭エマルジョン塗工
実施品3;TRエココート紙+内面20%炭エマルジョン塗工
尚,上記各炭エマルジョンは,粒径15μの活性炭100部に対して,アクリルースチレンベースエマルジョン20部をブレンドしたものを用いた。
【0053】
【表1】

【0054】
最も傷み易いと謂われるブロッコリーであっても,この表1からも明らかなように,実施品1乃至実施品3に収納されたブロッコリーは,比較品1乃至5に収納されたブロッコリーと比較し,2日目まで品質が劣化しなかった。
【0055】
【表2】

【0056】
この表2からも明らかなように,実施品1に収納したすだちは,比較品1及び5に収納したすだち比較し,2日目まで品質が劣化しなかった。
【実施例2】
【0057】
この実施例2では,ヒドロゾル法によって得られたガラス転移温度が65〜75℃の範囲に調整されたスチレン・アクリル共重合バインダーを最低造膜温度(MFT)以上の温度で乾燥させてなる易離解・保湿・防水性紙(特許第2852388号)の収納物側(第1層目)に表面に,第1層目の塗工液と同一の組成からなるものに実施例1で用いたものと同様の炭の粉末を混練させてなる第2層用の塗工液を,収納物側の第1層表面に塗布し,文字,図形又は模様を形成した。
【0058】
これにより,この実施例2に係る鮮度保持紙にあっては,炭の多孔質構造による保湿機能と,エチレンガスやアンモニアガス等の腐敗ガスの吸着機能によって得られ,野菜等の食品の鮮度を低コストで保つことができると共に,上記塗工面に文字,図形又は模様を形成した場合には,炭の上記特性を充分発揮させつつ,広告として,或は収納物の取扱い説明や商品名等を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】この発明の実施例1に係る易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 原紙
2 コート剤層
3 炭粉末混練された塗工層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゾル法によって得られたガラス転移温度が65〜75℃の範囲に調整されたスチレン・アクリル共重合バインダーに炭の粉末を混錬したものを,最低造膜温度(MFT)以上の温度で乾燥させてなる易離解・保湿・防水性紙の収納物面側に塗工してなる易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙。
【請求項2】
前記炭は,活性炭,ヤシ殻,おがくず,木炭,竹炭,褐炭,骨,石油ピッチのいずれか若しくはこれらの組み合わせを用い,比表面積800cm/g以上,好ましくは1000cm/g以上用いることを特徴とする請求項1に記載の易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙。
【請求項3】
前記炭の粒径は,1〜100μ,好ましくは5〜15μのものを用いることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙。
【請求項4】
前記炭とバインダーとの配合比率は,炭100重量部に対してバインダーを1〜50重量部,好ましくは2〜25重量部としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙。
【請求項5】
請求項1に記載の炭粉末が混練されたもので,文字,図形又は模様を形成するように調整されたスチレン・アクリル共重合バインダーに炭の粉末を混錬したものを,最低造膜温度(MFT)以上の温度で乾燥させてなる易離解・保湿・防水性紙の収納物面側に上塗りすることを特徴とする易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙。

【図1】
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【公開番号】特開2006−224994(P2006−224994A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40988(P2005−40988)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000219680)東海加工紙株式会社 (8)
【Fターム(参考)】