説明

星状界面活性剤を含む電着塗料組成物

【課題】消泡性を有し、なおかつ、乾きむらを抑制する電着塗料組成物の提供。
【解決手段】星状界面活性剤をカチオン型或はアニオン型電着塗装樹脂固形分に基づいて、0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、特に好ましくは1重量%、電着塗料組成物に添加することによって、消泡性を有し、なおかつ乾燥むらを抑制する電着塗料組成物が得られる。該界面活性剤が0.05重量%未満であると消泡性が十分でなく、10重量%を超過すると効果が飽和し無意味となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は星状界面活性剤を含む電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、電着塗料組成物中に被塗物を浸漬させ、電圧を印加することにより行われる塗装方法である。この方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。さらに電着塗装は、被塗物に高い防食性を与えることができ、被塗物の保護効果にも優れている。
【0003】
電着塗装は上記の通り、被塗物を塗料組成物中に浸漬することにより行われる。ところがこの被塗物の浸漬に伴って、電着塗料組成物中に空気が持ち込まれてしまう。そのため、電着塗装においては泡が発生することが多い。こうして発生する泡は、浸漬した被塗物を引き上げる際に電着塗膜の表面に付着することがあり、これにより塗膜外観が低下する恐れがあり、好ましくない。電着塗装における泡の発生は、さらに、電着塗装の作業性を低下させるという不具合もある。
【0004】
従来の電着塗料組成物は、生産性および作業性の向上のために消泡性の高い消泡剤(例えば、特開2002−60682号公報(特許文献1)、特開2004−339364号公報(特許文献2)、特開2006−342239号公報(特許文献3)、特開平11−35857号公報(特許文献4)および特開平11−80623号公報(特許文献5)に開示の消泡剤など)を配合している。
【0005】
特開2002−60682号公報(特許文献1)には、ショ糖1モルに炭素数3〜4のアルキレンオキシド29〜46モルを付加重合して得られた化合物(A)と、炭素数が2〜6で1〜3個の水酸基を有するアルコール類1モルに炭素数2〜3のアルキレンオキシドを25〜55モル重合し、その曇点が10〜27℃である化合物(B)とを構成成分とする消泡剤が開示されている。
【0006】
特開2004−339364号公報(特許文献2)には、式{H−(OA)−}Q(1)[式中、Qは非還元性の二又は三糖類のm個の1級水酸基から水素原子を除いた反応残基であり、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、nは0〜100の整数であり、mは2〜4の整数であり、m個の{H−(OA)−}は同じでも異なっていてもよく、OAの総数(n×m)は47〜100である。]で表されるポリオキシアルキレン化合物(A)を含んでなる界面活性剤が開示されている。
【0007】
特開2006−342239号公報(特許文献3)には、ポリオキシアルキレン化合物を少なくとも1種含む消泡剤が開示されている。
【0008】
特開平11−35857号公報(特許文献4)には、炭素数18以上の脂肪族アルコールよりなる陰極析出型電着塗料用消泡剤が開示されている。
【0009】
特開平11−80623号公報(特許文献5)には、消泡剤として、ショ糖に炭素数3〜4のアルキレンオキシド29〜46モルを付加重合した化合物(A)および/または平均炭素数12〜18のアルキルアミンに炭素数2〜3のアルキレンオキシド4〜8モルを付加重合した化合物(B)が開示されている。
【0010】
しかし、これらの消泡性の高い消泡剤は疎水性であることが多く、疎水性の消泡剤を電着塗料組成物に添加すると、消泡性が向上する反面、電着塗料組成物の表面張力が低下し、被塗物に対する電着塗料組成物のヌレ性の低下にもつながる。その結果、被塗物を電着槽から引き上げると、被塗物の表面に付着した塗液が水玉模様にはじき、それが原因で、得られる電着塗膜に「乾きむら」が生じる場合がある。例えば、自動車車体などの被塗物への電着塗装後、乾きむらが生じると、その上に塗り重ねる塗膜に欠陥が生じ易くなり、塗膜外観が大きく低下する恐れがある。
【0011】
従って、当該分野では、消泡性と乾きむら抑制の両立は困難であり、消泡性を有し、なおかつ、乾きむらを抑制する電着塗料組成物の開発が望まれている。
【特許文献1】特開2002−60682号公報
【特許文献2】特開2004−339364号公報
【特許文献3】特開2006−342239号公報
【特許文献4】特開平11−35857号公報
【特許文献5】特開平11−80623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、消泡性を有し、なおかつ、乾きむらを抑制する電着塗料組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上述の課題に鑑み鋭意研究した結果、星状界面活性剤を電着塗料組成物に添加することによって、消泡性を有し、なおかつ、乾きむらを抑制する電着塗料組成物が得られることを見出した。従って、本発明は、星状界面活性剤を含む電着塗料組成物を提供する。
【0014】
本発明の電着塗料組成物おいて、前記星状界面活性剤は、好ましくは、
I)以下の(A)および(B)を含む反応物の反応生成物と、
(A)式Iの結合剤
(Y) (I)
[式中、
各Y基はハロゲン原子であるか、あるいは、1つのY基がハロゲン原子であり、残りの2つのY基が酸素原子を表し、R基の2つの隣接炭素原子に結合してエポキシ基を形成し、
は3〜10の炭素原子を含むアルカントリイル基である];
(B)式IIの化合物
(EO)(PO)(BO)X (II)
[式中、
は、1〜36の炭素原子を有する置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和、脂肪族もしくはアラリファティックなオキシまたはチオ基、あるいは2〜36の炭素原子を有する二級アミノ基であり、
nは、0〜50の数であり、
mは、0〜50の数であり、
pは、0〜50の数であり、そして
Xは、水素であるか、あるいは、メルカプト基またはアミノ基であってもよい];
ただし、Xがメルカプト基またはアミノ基である場合、n、mおよびpの合計は少なくとも1でなければならず、
上記の場合にあって、(A)および(B)のモル比A:Bは、0.2:1〜5:1であり、
II)エポキシ化合物、イソシアネート化合物、ホスフェート化合物、スルフェート化合物、シリコーン化合物、有機酸、アクリレートおよびメチロールウレアからなる群から選択される反応物
との反応生成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、消泡性を有し、なおかつ、乾きむらを抑制する電着塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は星状界面活性剤を含む電着塗料組成物に関する。まず、本発明の電着塗料組成物に含まれる星状界面活性剤について詳細に説明する。
【0017】
星状界面活性剤
本発明の電着塗料組成物に含まれる星状界面活性剤は、スターポリマーの一種であり、
I)以下の(A)および(B)を含む反応物の反応生成物(以下、反応生成物I)と略記する場合もある)と、
(A)式Iの結合剤
(Y) (I)
[式中、
各Y基はハロゲン原子であるか、あるいは、1つのY基がハロゲン原子であり、残りの2つのY基が(1つの)酸素原子を表し、R基の2つの隣接炭素原子に結合してエポキシ基を形成し、
は3〜10の炭素原子を含むアルカントリイル(alkanetriyl)基である];
(B)式IIの化合物
(EO)(PO)(BO)X (II)
[式中、
は、1〜36の炭素原子を有する置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和、脂肪族もしくはアラリファティックな(araliphatic)オキシまたはチオ基、あるいは2〜36の炭素原子を有する二級アミノ基であり、
nは、0〜50の数であり、
mは、0〜50の数であり、
pは、0〜50の数であり、そして
Xは、水素であるか、あるいは、メルカプト基またはアミノ基であってもよい];
ただし、Xがメルカプト基またはアミノ基である場合、n、mおよびpの合計は少なくとも1でなければならず、
上記の場合にあって、(A)および(B)のモル比A:Bは、0.2:1〜5:1であり、
II)エポキシ化合物、イソシアネート化合物、ホスフェート化合物、スルフェート化合物、シリコーン化合物、有機酸、アクリレートおよびメチロールウレアからなる群から選択される反応物(以下、反応物II)と略記する場合もある)
との反応生成物である。
【0018】
本発明で用いる星状界面活性剤は、電着塗料組成物において、消泡作用を付与し、なおかつ、乾きむらの抑制などの利点を有し、また、その配合によるその他の諸性能の低下がなく、界面活性剤、消泡剤、除泡剤および/または湿潤剤として有効である。
【0019】
また、反応生成物I)それ自体が高分子界面活性剤であり、高分子界面活性剤としても有用である。
【0020】
結合剤(A)と成分(B)との反応生成物において、(A)および(B)のモル比A:Bは、0.2:1〜5:1、好ましくは0.4:1〜2:1、より好ましくは0.6:1〜1.4:1である。
【0021】
式Iの結合剤は、好ましくはエピクロロヒドリンであるが、他のエピハロヒドリン類を使用してもよい。また、エピハロヒドリン類およびトリハロアルカン類の塩素の代わりに、対応の臭素およびヨウ素化合物を使用してもよい。トリハロアルカン類の例は、1,2,3−トリクロロプロパン、1,2,4−トリクロロブタン、1,3,6−トリクロロヘキサンなどである。
【0022】
式IIの化合物において、EOがエチレンオキシド残基を表し、POがプロピレンオキシド残基を表し、BOがブチレンオキシド残基を表す。
【0023】
式IIのX基がメルカプト基である場合、R基は、好ましくは、4〜36の炭素原子を有し、その例としては、アルコキシル化ドデシルメルカプタンおよびアルコキシル化1−ヘキサデカンチオールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
式IIの化合物は、アルコキシル化またはアルコキシル化されていない二級アミン類であってもよい。式IIの化合物が二級アミン類である場合、nは、0〜50、好ましくは1〜50の数であり、mは0〜50の数であり、そしてpは、0〜50、好ましくは1〜50の数である。本発明の目的に有用な二級アミン類の例としては、アルコキシル化ジブチルアミン、アルコキシル化ジシクロヘキシルアミン、アルコキシル化ジエチルエタノールアミンおよびアルコキシル化ジオクチルアミンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
置換されたR基に存在し得る置換基は、単数もしくは複数の置換基であってもよく、例えば、ハロゲン置換(例えば、Cl、F、IおよびBrである。)、メルカプタンまたはチオ基などの硫黄官能性;アミンもしくはアミド官能性などの窒素官能性;アルコール官能性、シロキサンなどのケイ素官能性;エーテル官能性;またはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0026】
基が置換された基である場合、置換基は、ハロゲン、メルカプタン、チオ、アミン、アミド、シロキサンおよびエーテル基からなる群から好ましくは選択される。
【0027】
式IIの化合物のなかでも、n、mおよびpの合計が少なくとも1、特に、少なくとも2である化合物が好ましい。
【0028】
が二級アミノ基である場合、好ましくは、このアミノ基は4〜22の炭素原子を含む。
【0029】
また、Xが水素である場合、pは、好ましくは、1〜50の数である。Rが、二級アミノ基である場合、pは、好ましくは、1〜50の数である。
【0030】
基の非オキシ(nonoxy)および非チオ(nonthio)成分は、1〜36の炭素原子を有する任意の置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和の有機部分であってもよい。従って、R脂肪族基の非チオおよび非オキシ成分は、直鎖もしくは分枝アルキル基、直鎖もしくは分枝アルケニルまたはアルキニル基、飽和炭素環部分、1またはそれよりも多くの多重結合を有する不飽和炭素環部分、飽和複素環部分、1またはそれよりも多くの多重結合を有する不飽和複素環部分、置換された直鎖もしくは分枝アルキル基、置換された直鎖もしくは分枝アルケニルまたはアルキニル基、置換された飽和炭素環部分、1またはそれよりも多くの多重結合を有する置換された不飽和炭素環部分、置換された飽和複素環部分、ならびに1またはそれよりも多くの多重結合を有する置換された不飽和複素環部分であってもよい。上記の例としては、4〜22の炭素原子を有するアルキル基、4〜22の炭素原子を有するアルケニル基、および4〜22の炭素原子を有するアルキニル基が挙げられるが、これらに限定されない。Rは、また、アルアルキル(またはアラルキル)基であってもよい。アルアルキル基は、アルキル炭素原子に任意の原子価を有するアルキル置換芳香族基(ベンジル基など)である。4〜12の炭素原子を有するアルキル基が好ましく、8〜10の炭素原子を有するアルキル基が最も好ましい。エトキシル化の程度は、好ましくは、2〜50であり、最も好ましくは4〜50であり、プロポキシル化およびブトキシル化の程度は、0〜50で変動してもよく、好ましくは1〜10である。プロポキシル化およびまたはブトキシル化の程度は、本発明の電着塗料組成物での所望の溶解性または混和性の程度によって決定される。溶解性または混和性は、Rの炭素原子の数、ならびにEO、POおよびBOの相対量などの要因によって最終的に決定される。
【0031】
本明細書中、多重結合は、二重結合および三重結合を含む。
【0032】
必要に応じて、式Iの結合剤および式IIの化合物と、さらなる他の成分とを反応させてもよい。グリシジルエーテルまたはグリシジルアミンを、式Iと式IIとの反応に添加してもよい。グリシジルエーテルまたはグリシジルアミンの量は、当該反応で使用する式IIのモル数に基づいて1〜20モル%である。グリシジルエーテルまたはグリシジルアミンを式IIの単一官能性の出発原料に添加する場合、式IIとグリシジルエーテルまたはグリシジルアミンとの和に対する式Iの比が、好ましくは、0.8〜1.4である。グリシジルエーテルの例としては、PEG600ジグリシジルエーテル、TETRONICTM701テトラグリシジルエーテル、トリグリシジルジエタノールアミンもしくはトリグリシジルトリエタノールアミン、ポリオキシエチレン(POE)200タローアミンジグリシジルエーテル、プロポキシル化(POP10)トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、プロポキシル化(POP7)ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。グリシジルアミンの例としては、テトラグリシジル1,6−ヘキサンジアミン、テトラグリシジルJEFFAMINETMEDR−148およびテトラグリシジルイソホロンジアミンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
次いで、第2工程において、上記反応生成物I)を、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、ホスフェート化合物、スルフェート化合物、シリコーン化合物、有機酸、アクリレートおよびメチロールウレアからなる群から選択される反応物II)と反応させる。
【0034】
反応物II)がエポキシ化合物である場合、エポキシ化合物は、式Iの結合剤以外の任意のエポキシ化合物であってもよい。エポキシ化合物は1またはそれよりも多くのエポキシ基を有していてもよい。好ましい化合物は、2〜22の炭素原子、好ましくは2〜12の炭素原子を有する。エポキシ化合物は、好ましくは無置換であり、そして、直鎖もしくは分枝鎖であってもよく、そして1またはそれよりも多くの二重結合を有していてもよい。好ましいエポキシ化合物はエチレンオキシドである。これらの反応生成物、特に、エチレンオキシドから得られたものは、良好な水溶性、良好な洗浄性および低表面張力を有し、そして泡形成が少ない。
【0035】
反応生成物I)とエポキシ化合物との反応は、液体炭化水素溶媒などの不活性有機溶媒中、周囲温度で十分進行し得る。
【0036】
反応物II)がイソシアネート化合物である場合、イソシアネート化合物は、脂肪族または芳香族のモノまたはポリイソシアネートであってもよい。脂肪族モノイソシアネート、すなわち、構造式:RN=C=O[式中、RはC−C22、好ましくはC−C12の直鎖または分枝鎖アルキルまたはアルケニル基である]を有するイソシアネートが好ましい。また、芳香族イソシアネート、例えば、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4−ジイソシアネートなどを使用してもよい。
【0037】
また、反応物II)は、1molのジオールと、1molのジカルボン酸もしくは無水物(例えば、マレイン酸無水物)との反応生成物などであってもよい。
【0038】
イソシアネートと反応生成物I)との反応は、液体炭化水素溶媒などの不活性溶媒中、好ましくは、50〜200℃の範囲の温度で進行し得る。
【0039】
反応物II)がホスフェート化合物である場合、無機および有機ホスフェート化合物の両方を使用することができる。無機ホスフェート化合物としては、五酸化リン、リン酸、酸ホスフェート塩(例えば、モノまたはジナトリウムまたはカリウムホスフェート)などが挙げられ、優れた消泡特性をも有する界面活性剤が得られる。
【0040】
有機ホスフェート化合物としては、リン酸エステル、即ち、式:ROP(O)(OR’’)(OR’’’)[式中、少なくとも1つのR基は有機基であり、そして、少なくとも1つのR基が水素であり、残りのR基が有機基または水素を表す]を有するリン酸エステルが挙げられる。有機基は、好ましくはC−C22、より好ましくはC−C12アルキル基である。また、モノおよびジアリールホスフェート[すなわち、1または2のR基がアリール基(フェニルまたはアルキル置換フェニルなど)である]を使用してもよい。
【0041】
ホスフェート化合物と反応生成物I)との反応は、水性媒体中、必要に応じてアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の存在下、好ましくは300〜100℃の範囲の温度で進行し得る。
【0042】
反応物II)がスルフェート化合物である場合、反応物は、硫酸または酸スルフェート塩(例えば、硫酸水素ナトリウムまたはカリウム)であってもよい。また、スルフェート化合物は、有機スルフェート、例えば、式:HRSO[式中、Rはアルキルまたはアリール基(C−C22アルキル基、あるいはフェニルまたはアルキル置換フェニル基など)である]のスルフェートであってもよい。
【0043】
スルフェート化合物と反応物I)との反応は、ホスフェート化合物について上記で説明した通りに実施することができる。
【0044】
反応物II)がシリコーン化合物である場合、シリコーン化合物は、好ましくは、シロキサングリシジルエーテル(例えば、ポリジメチルシロキサンジグリシジルエーテル)である。
【0045】
反応生成物I)と、反応物II)としてのシロキサングリシジルエーテル(例えば、ポリジメチルシロキサンジグリシジルエーテル)との反応生成物は、優れた消泡性および湿潤性を有する。これらの生成物は、他の界面活性剤を含む電着塗料組成物において、泡の発生を抑制する。
【0046】
また、ハロシラン類、すなわち、式:XSi(SiH(SiY[式中、各Xは、水素またはハロゲンであり、各Yは水素またはハロゲンである;ただし、少なくとも1つのXまたはYはハロゲンであり、nは0〜10の数であり、そしてmは0または1である]のハロシラン類を使用してもよい。ハロゲンは、好ましくは、塩素であり、他のハロゲン(例えば、臭素およびヨウ素)も含まれる。
【0047】
反応物II)がアルコキシシランまたはハロシランである場合、得られる生成物は、電着塗料組成物において優れた消泡性を有する高分子化合物である。
【0048】
反応生成物I)とシリコーン化合物との反応は、液体炭化水素溶媒などの不活性有機溶媒中、ルイス酸(例えば、BFエーテラート)を用いて、30℃〜100℃の温度で行う。
【0049】
反応物II)が有機酸である場合、有機酸は、脂肪族または芳香族のモノまたはポリカルボン酸あるいは無水物であってもよい。有機酸または無水物が脂肪族酸である場合、酸としては、好ましくは、4〜22の炭素原子を含む脂肪酸(例えば、n−酪酸、イソ酪酸、カプロン酸など)である。ジカルボン酸および無水物としては、アジピン酸および無水物、マロン酸および無水物、コハク酸および無水物、グルタル酸および無水物、シュウ酸および無水物、セバシン酸および無水物、マレイン酸および無水物、フマル酸および無水物などが挙げられる。芳香族酸および無水物としては安息香酸および無水物、フタル酸および無水物ならびにその異性体、ならびにフェニル置換基を有する脂肪族酸(フェニル酢酸、および炭素原子にフェニル置換基を有する他のC−C22脂肪族カルボン酸など)が挙げられる。
【0050】
反応生成物I)と有機酸との反応は、アルカリまたはアルカリ土類金属の水酸化物を含む水性媒体中、300℃〜100℃の範囲の温度で行われる。
【0051】
反応物II)がアクリレートである場合、アクリレートは、好ましくは、式:R−CH=CHCOOR[式中、RがC−C12アルキル基であり、Rが水素またはC−C12アルキル基であるか、あるいは、COOR基が、その代わりに、アシルハライド基である]を有する。アクリル酸、メタクリル酸およびアクリロイルクロリドが本発明の用途において好ましい。
【0052】
反応生成物I)とアクリレートとの反応は、液体炭化水素溶媒などの不活性有機溶媒中、200〜80℃の温度で行われる。
【0053】
反応物II)がメチロールウレア(HNCONHCHOH)である場合、メチロールウレアと反応生成物I)との反応は、水性媒体中、好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の存在下、30℃〜100℃の温度で実施することができる。
【0054】
反応物II)が1よりも多くの反応基を有する場合、星状界面活性剤である反応生成物はさらに反応することができる。例えば、反応物II)がジイソシアネートであり、反応が当量比1OH:2NCOで行われる場合、得られる反応生成物は、1つの未反応NCO基を有する。次いで、この未反応のNCO基が他の反応物(ヒドロキシまたはアミン含有化合物など)と反応することができ、ウレタンまたは尿素をそれぞれ与えることができる。これらの星状界面活性剤は、高分子界面活性剤としての特性を有し、泡形成の少ない界面活性剤として、なおかつ、消泡剤として有用である。
【0055】
星状界面活性剤としては、市販品を使用してもよく、例えば、フォームスターW−200、フォームスターW−220、フォームスターA10、フォームスターA32、フォームスターA34、フォームスターA36、フォームスターA38、フォームスターA12、スターファクタント20、スターファクタント30(コグニス社製の星状界面活性剤)などが挙げられる。
【0056】
星状界面活性剤は、電着塗料組成物の樹脂固形分に基づいて、0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.5〜3重量%、特に好ましくは1重量%である。含有量が、0.05重量%未満であると、消泡効果が十分でなく、10重量%を超過すると、効果が飽和し、無意味である。
【0057】
本発明の電着塗料組成物は、上記星状界面活性剤を含有する電着塗料組成物であれば特に限定はなく、例えば、上記星状界面活性剤を従来公知の電着塗料組成物に添加して本発明の電着塗料組成物を調製してもよい。本発明の電着塗料組成物は、カチオン型およびアニオン型のいずれでもよく、防食性に優れた塗膜を与えるという観点から、カチオン電着塗料組成物が好ましい。以下、本発明の好ましい実施形態であるカチオン電着塗料組成物について詳細に説明する。
【0058】
カチオン電着塗料組成物
本発明の好ましい実施形態としては、星状界面活性剤(上記にて詳説)、カチオン性エポキシ樹脂およびブロックイソシアネート硬化剤を含むカチオン電着塗料組成物が挙げられる。以下、カチオン電着塗料組成物に含まれる、カチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤およびその他の任意成分について詳細に説明する。
【0059】
カチオン性エポキシ樹脂
代表的なカチオン性エポキシ樹脂として、アミン変性エポキシ樹脂が挙げられる。アミン変性エポキシ樹脂は、電着塗料組成物において一般に使用されるアミンで変性されたエポキシ樹脂を特に制限なく用いることができる。アミン変性エポキシ樹脂として、当業者に公知のアミン変性エポキシ樹脂および市販のエポキシ樹脂をアミン変性したものなどを使用することができる。
【0060】
好ましいアミン変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂の樹脂骨格中のオキシラン環を有機アミン化合物で変性して得られるアミン変性エポキシ樹脂である。一般に、アミン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を1級アミン、2級アミンあるいは3級アミンおよび/またはその酸塩等のアミン類との反応によって開環して製造される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などである。
【0061】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0062】
【化1】

【0063】
[式中、Rは独立してジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’は独立してジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を、アミン変性エポキシ樹脂の調製に用いて、アミン変性オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を調製してもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドとを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去する方法が挙げられる。二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このアミン変性オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0064】
出発原料であるエポキシ樹脂は、必要に応じて、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸等により鎖延長して用いることができる。
【0065】
また、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良等を目的として、エポキシ樹脂の一部のオキシラン環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルなどのモノヒドロキシ化合物を付加して用いることもできる。
【0066】
エポキシ樹脂のオキシラン環を開環し、アミノ基を導入する際に使用することができるアミン類の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンなどの1級アミン、2級アミンまたは3級アミンおよび/またはその酸塩を挙げることができる。また、アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンなどのケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミン、ジエチレントリアミンジケチミンも使用することができる。これらのアミン類は、全てのオキシラン環を開環させるために、オキシラン環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
【0067】
上記アミン変性エポキシ樹脂の数平均分子量は1500〜5000の範囲であるのが好ましく、1600〜3000の範囲であるのがより好ましい。数平均分子量が1,500未満の場合は、硬化形成塗膜の耐溶剤性および耐食性等の物性が劣ることがある。また5,000を超える場合は、樹脂溶液の粘度制御が難しく合成が困難となるおそれがあり、さらに得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となることがある。さらに高粘度であるがゆえに加熱、硬化時のフロー性が悪く、塗膜外観を損ねる場合がある。
【0068】
上記アミン変性エポキシ樹脂は、ヒドロキシル価が50〜250mmol/100gの範囲となるように分子設計することが好ましい。ヒドロキシル価が50mmol/100g未満では塗腹の硬化不良を招き、反対に250mmol/100gを超えると硬化後に塗膜中に過剰の水酸基が残存し、その結果、耐水性が低下することがある。
【0069】
また、上記アミン変性エポキシ樹脂は、アミン価が40〜150mmol/100gの範囲となるように分子設計することが好ましい。アミン価が40mmol/100g未満では下記で詳説する酸処理による水媒体中での乳化分散不良を招き、反対に150mmol/100gを超えると硬化後に塗膜中に過剰のアミノ基が残存し、その結果、耐水性が低下することがある。
【0070】
ブロックイソシアネート硬化剤
カチオン電着塗料組成物には、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られるブロックイソシアネート硬化剤が含まれる。ここでポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0071】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0072】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤として使用してよい。
【0073】
脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートの好ましい具体例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添TDI、水添MDI、水添XDI、IPDI、ノルボルナンジイソシアネート、それらの二量体(ビウレット)、三量体(イソシアヌレート)等が挙げられる。
【0074】
ブロックイソシアネート硬化剤は、イソシアネート基末端前駆体の遊離のイソシアネート基を活性水素基含有化合物(ブロック剤)と反応させて常温では不活性としたものであり、これを加熱するとブロック剤が解離してイソシアネート基が再生されるという性質を持つものである。
【0075】
ブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤として、例えば、1−クロロ−2−プロパノール、n−プロパノール、フルフリルアルコール、アルキル基置換フルフリルアルコールなどの脂肪族または複素環式アルコール類、フェノール、m−クレゾール、p−ニトロフェノール、p−クロロフェノール、ノニルフェノールなどのフェノール類、メチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、アセトンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム類、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、マロン酸エチルなどの活性メチレン化合物、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのカプロラクタム類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルなどを挙げることができる。なおこれらのブロック剤は、1種のみ単独で用いてもよく、また2種以上のものを併用してもよい。
【0076】
顔料
さらに、本発明の電着塗料組成物は、通常用いられる顔料を含んでもよい。使用できる顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト(二酸化チタン)、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、安息香酸ビスマス、クエン酸ビスマス、ケイ酸ビスマスのような防錆顔料等が挙げられる。
【0077】
本発明におけるカチオン電着塗料組成物においては、顔料は、電着塗料組成物の全固形分に対して1〜35重量%、好ましくは2〜30重量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0078】
顔料分散ペースト
顔料を電着塗料組成物の成分として用いる場合、一般に、顔料を顔料分散樹脂と呼ばれる樹脂と共に予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にする。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0079】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂と共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や、1級アミノ基、4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂は5〜40重量部、顔料は10〜30重量部の固形分比で用いる。
【0080】
上記顔料分散樹脂および顔料を、樹脂固形分100重量部に対し10〜1000重量部混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0081】
他の成分
本発明の電着塗料組成物は、上記成分の他にブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤解離のための解離触媒を含んでもよい。このような解離触媒として、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物や、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、セリウム、銅などの金属塩が使用できる。解離触媒の濃度は、カチオン電着塗料組成物中のカチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤合計の100固形分重量部に対し0.1〜6重量部であるのが好ましい。
【0082】
カチオン電着塗料組成物の調製
カチオン電着塗料組成物は、星状界面活性剤、カチオン性エポキシ樹脂およびブロックイソシアネート硬化剤、必要に応じて顔料分散ペーストを水性媒体(例えば、脱イオン水、イオン交換水、一般工業用水などが挙げられるが、特に限定はない)中に分散、乳化または溶解することによって調製することができる。また、通常、水性媒体にはカチオン性エポキシ樹脂の分散性を向上させるために中和剤を含有させてもよい。中和剤は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。その量は少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量である。
【0083】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級又は/及び3級アミノ基、水酸基等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、カチオン性エポキシ樹脂の硬化剤に対する固形分重量比(カチオン性エポキシ樹脂/硬化剤)で表して、一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。カチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤とを含むバインダー樹脂は、一般に、カチオン電着塗料組成物の全固形分の25〜85重量%、好ましくは40〜70重量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0084】
被塗物
被塗物は、電着塗装を施すことが可能な金属製品であれば特に限定はない。
【0085】
金属製品の材料としては、例えば、鉄、鋼、銅、アルミニウム、マグネシウム、スズ、亜鉛などの金属およびこれらの金属を含む合金などが挙げられる。金属製品として、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体および自動車車体用の部品などが挙げられる。これらの金属製品としては、予めリン酸塩等の化成処理されたものが特に好ましい。
【0086】
電着塗膜形成
一般的な電着塗装は、電着塗料組成物に上記被塗物を浸漬する工程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる工程、から構成される。通電時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。印加電圧は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常50〜450Vの電圧が印加される。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となるおそれがあり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となるおそれがある。電着塗装時における電着槽中の塗料組成物の液温度は、通常10〜45℃に調節される。電着塗膜の膜厚は10〜30μmとすることが好ましい。膜厚が10μm未満であると、防錆性が不充分であり、30μmを超えると、塗料の浪費につながる。120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化し、硬化電着塗膜が得られる。
【0087】
本発明は、星状界面活性剤の構造上の特徴によって、泡性を有し、なおかつ、乾きむらを抑制する電着塗料組成物を提供することができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。また、実施例中、「部」は、特に断りのない限り、「重量部」を意味する。
【0089】
製造例1 アミン変性エポキシ樹脂の製造
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、液状エポキシ940部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)61.4部およびメタノール24.4部を仕込んだ。反応混合物は撹拌下室温から40℃まで昇温したあと、ジブチル錫ラウレート0.01部およびトリレンジイソシアネート(以下TDIと略す)21.75部を投入した。40〜45℃で30分間反応を継続した。反応はIRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0090】
上記反応物にポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル82.0部、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート 125.0部を添加した。反応は55℃〜60℃で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。続いて昇温し100℃でN,N-ジメチルベンジルアミン2.0部投入し、130℃で保持、分留管を用いメタノールを分留すると共に反応させたところ、エポキシ当量は284となった。
【0091】
その後、MIBKで不揮発分95%となるまで希釈し反応混合物を冷却し、ビスフェノールA268.1部と2-エチルヘキサン酸93.6部を投入した。反応は120℃〜125℃で行いエポキシ当量が1320となったところでMIBKで不揮発分85%となるまで希釈し反応混合物を冷却した。ジエチレントリアミンの1級アミンをMIBKブロックしたもの93.6部、N−メチルエタノールアミン65.2部を加え、120℃で1時間反応させた。その後、カチオン性基を有するオキサゾリドン環含有変性エポキシ樹脂(樹脂固形分85%)を得た。
【0092】
製造例2 ブロックイソシアネート硬化剤の製造
クルードMDI 1330部およびMIBK276.1部とジブチル錫ラウレート2部を反応容器に仕込み、これを85〜95℃まで加熱した後、カプロラクタムのエチレングリコールモノブチルエーテル溶液(当量比20/80)1170部を2時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し一時間保温した。IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認しその後MIBK347.6部を投入し、ブロックイソシアネート硬化剤を得た。
【0093】
製造例3 顔料分散樹脂の製造
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器にイソホロンジイソシアネート(以下IPDIと略す)2220部MIBK342.1部を仕込み、昇温し50℃でジブチル錫ラウレート2.2部を投入し60℃でメチルエチルケトンオキシム(以下MEKオキシムと略)878.7部を仕込んだ。その後、60℃で1時間保温し、NCO当量が348となっていることを確認し、ジメチルエタノールアミン890部を投入した。60℃で1時間保温しIRでNCOピークが消失していることを確認後60℃を超えないよう冷却しながら50%乳酸1872.6部と脱イオン水495部を投入して4級化剤を得た。ついで異なる反応容器にTDI870部およびMIBK49.5部を仕込み、50℃以上にならないように2−エチルヘキサノール667.2部を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後MIBK35.5部を投入し、30分保温した。その後NCO当量が330〜370になっていることを確認しハーフブロックポリイソシアネートを得た。
【0094】
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、液状エポキシ940.0部メタノール38.5部で希釈した後、ここへジブチル錫ジラウレート0.1部を加えた。これを50℃に昇温した後、TDI87.1部投入さらに昇温した。100℃でN,N−ジメチルベンジルアミン1.4部を加え130℃で2時間保温した。このとき分留管によりメタノールを分留した。これを115℃まで冷却し、MIBKを固形分濃度90%になるまで仕込み、その後ビスフェノールA270.3部、2−エチルヘキサン酸39.2部を仕込み125℃で2時間加熱攪拌した後、前述のハーフブロックポリイソシアネート516.4部を30分間かけて滴下し、その後30分間加熱攪拌した。ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル1506部を徐々に加え溶解させた。90℃まで冷却後、前述の4級化剤を加え、70〜80℃に保ち酸価2以下を確認して顔料分散樹脂を得た。(樹脂固形分30%)
【0095】
製造例4 顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散用樹脂を106.9部、カーボンブラック1.6部、カオリン40部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、ジブチル錫オキシド、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。
【0096】
実施例1
カチオン電着塗料組成物の製造
製造例1で得られたアミン変性エポキシ樹脂100部に、フォームスターW−220(コグニス社製、エチレンオキサイドおよびブチレンオキサイド変性スター型ポリマー)1.1部を予め加え、混合した。得られた混合物101.1部、および製造例2で得られたブロックイソシアネート硬化剤26.6部を、均一になるよう混合した。さらに2−エチルヘキシルグリコールを樹脂固形分に対し3%添加したものに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量が33になるよう氷酢酸で中和し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。
【0097】
このエマルション1730部および製造例4で得られた顔料分散ペースト295部と、イオン交換水1970部と10%酢酸セリウム水溶液20部およびジブチル錫オキサイド10部とを混合して、固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。
【0098】
比較例1〜4:比較電着塗料組成物の調製
実施例1に従って、フォームスターW−220(コグニス社製、エチレンオキサイドおよびブチレンオキサイド変性スター型ポリマー)の代わりに、EFKA−2526(エフカ社製、アクリル系界面活性剤)(比較例1)、BYK−011(ビッグケミー社製、アクリル系界面活性剤)(比較例2)、SN−005S(サンノプコ社製、ショ糖系界面活性剤)(比較例3)、DF−110D(エアプロダクツ社製、アセチレン系界面活性剤)(比較例4)をそれぞれ使用し、比較電着塗料組成物1〜4を調製した。
【0099】
電着塗装方法
リン酸亜鉛系化成処理(日本ペイント株式会社製SD−5350)を施した冷延鋼板(JIS G3141規格品、150×70×0.8mm)を上記で得られた電着塗料組成物に浸漬し、乾燥塗膜の膜厚が20μmになるように電着塗装し、これを160℃で15分間焼き付けて硬化させて電着塗膜を形成した。
【0100】
実施例または比較例の電着塗料組成物について、消泡性(消泡時間)、乾きむらおよび塗膜外観を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
消泡剤
フォームスターW−220:コグニス社製、エチレンオキサイドおよびブチレンオキサイド変性スター型ポリマー
EFKA−2526:エフカ社製、アクリル系界面活性剤
BYK−011:ビッグケミー社製、アクリル系界面活性剤
SN−005S:サンノプコ社製、ショ糖系界面活性剤
DF−110D:エアプロダクツ社製、アセチレン系界面活性剤
【0103】
消泡性(消泡時間)
消泡性の評価として、以下の方法に従って消泡時間を測定した。
消泡時間の測定方法
上記実施例および比較例の電着塗料組成物をそれぞれNo.4フォードカップに注入し、1mの高さからメスシリンダー(内径:5cm)に塗料を落下させる。このときに発生した泡の容量(発泡量)を測定[(発泡量)=(泡状塗料の容量+液状塗料の容量)−(液状塗料の容量)]し、その後、泡が消失し、塗料液面が見えるまでの時間を消泡時間として計測する。
【0104】
乾きむら
乾きむらの評価
上記電着塗装方法に従って電着塗装後、すぐに鋼板を電着塗料液から引き上げ、水洗せずにそのまま所定時間放置する。放置後、水洗し、セッティング後、上記電着塗装方法に従って、1、3および5分の焼き付け硬化後、乾きむらを評価する。
乾きむらの評価基準
○ :全面異常(水玉跡)なし
○−:上部5%異常(水玉跡)
○△:上部10%異常(水玉跡)
△ :上部30%異常(水玉跡)
△×:上部50%異常(水玉跡)
× :全面異常(水玉跡)
上部とは、冷延鋼板(JIS G3141規格品、150×70×0.8mm)を電着塗料液から引き上げたときに、その鋼板の上部(上側)の部分の面積割合を示す。
【0105】
塗膜外観
塗膜外観として、目視によりハジキの有無、肌荒れ(塗膜表面が収縮したような外観)の有無を判定した。
塗膜外観の評価基準
○ :ハジキ数0、肌荒れなし
○△:ハジキ数1〜5、肌荒れなし
△ :ハジキ数1〜5、肌荒れあり
△×:ハジキ数6〜20
× :全面ハジキ
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によって、消泡性を有し、なおかつ、乾きむらを抑制する電着塗料組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
星状界面活性剤を含む電着塗料組成物。
【請求項2】
前記星状界面活性剤が、
I)以下の(A)および(B)を含む反応物の反応生成物と、
(A)式Iの結合剤
(Y) (I)
[式中、
各Y基はハロゲン原子であるか、あるいは、1つのY基がハロゲン原子であり、残りの2つのY基が酸素原子を表し、R基の2つの隣接炭素原子に結合してエポキシ基を形成し、
は3〜10の炭素原子を含むアルカントリイル基である];
(B)式IIの化合物
(EO)(PO)(BO)X (II)
[式中、
は、1〜36の炭素原子を有する置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和、脂肪族もしくはアラリファティックなオキシまたはチオ基、あるいは2〜36の炭素原子を有する二級アミノ基であり、
nは、0〜50の数であり、
mは、0〜50の数であり、
pは、0〜50の数であり、そして
Xは、水素であるか、あるいは、メルカプト基またはアミノ基であってもよい];
ただし、Xがメルカプト基またはアミノ基である場合、n、mおよびpの合計は少なくとも1でなければならず、
上記の場合にあって、(A)および(B)のモル比A:Bは、0.2:1〜5:1であり、
II)エポキシ化合物、イソシアネート化合物、ホスフェート化合物、スルフェート化合物、シリコーン化合物、有機酸、アクリレートおよびメチロールウレアからなる群から選択される反応物
との反応生成物である、請求項1記載の電着塗料組成物。

【公開番号】特開2008−248064(P2008−248064A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90603(P2007−90603)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】