説明

映像音響装置

【課題】少ない数のスピーカで、音声と映像との一体感を実現可能な映像音響装置を得る。
【解決手段】映像を表示する表示部60と、映像に対応した音声を発生するスピーカ20と、所定の処理により、スピーカ20に供給する音声信号を生成する音声処理部15とを備え、音声処理部15は、音声の音像の定位位置を表示部60の画面上の任意の位置に設定するような音声信号を生成する音像定位処理部30を含んで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像を表示し音声を発生する映像音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホームシアターセットなどの映像音響装置には、左チャンネル用スピーカと右チャンネル用スピーカに加えて、サラウンド用スピーカなどを設けるものがある。このような映像音響装置では、多くのスピーカを設けることにより、音像の定位位置を制御することができるようになり、臨場感が大きく向上する。ここで、音像の定位位置とは、視聴者が感じる仮想的な音源の位置である。例えば、特許文献1には、多くのスピーカを設け、音像の定位位置の制御を行うことにより、臨場感の向上を図る映像音響装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02−59000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、映像音響装置の臨場感を向上するために、部屋に多くのスピーカを設けた場合、しばしば部屋の概観が損なわれる。また、例えば、テレビセットに複数のスピーカを内蔵する場合においても、近年のテレビセットの薄型デザインや狭額縁デザインの傾向にあっては、十分な効果が得られるようなスピーカ配置が難しくなってきている。
【0005】
一方、単に左チャンネル用スピーカと右チャンネル用スピーカの2つのスピーカを有するような映像音響装置においても、スピーカ配置への制約は存在する。一般に、映像音響装置では、音像の定位位置を画面の中央付近に配置するために、画面をはさんで左右対称の位置にスピーカを配置するのが望ましいが、例えばスピーカ内蔵のテレビセットにはデザイン上の制約があり、また、例えばホームシアターシステムには部屋の広さや部屋への配置に関する制約があり、いずれの場合においてもスピーカ配置の自由度が低くなってしまう。これにより、スピーカは、例えばディスプレイの下部など、上記した音響の観点からの望ましい配置とは異なるようにしばしば配置されることとなる。このような映像音響装置を用いて音声や映像を視聴した場合、スピーカから出力される音声の音像の定位位置と、映像が表示されるディスプレイの位置が一致しないため、音声と映像との一体感が損なわれ、視聴者に違和感を与えることとなる。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、スピーカの数をできるだけ少なくすることにより、装置デザインやスピーカ配置の自由度を確保しつつ、音声と映像との一体感を確保できる映像音響装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の映像音響装置は、映像を表示する表示部と、映像に対応した音声を発生するスピーカと、所定の処理によりスピーカに供給する音声信号を生成する音声処理部とを備えている。上記音声処理部は、音声の音像の定位位置を表示部の画面上の任意の位置に設定するような音声信号を生成する音像定位処理部を含んでいる。
【0008】
本発明の映像音響装置では、映像が表示部に表示され、その映像に対応した音声がスピーカから発生する。その際、音像定位処理部は、音声の音像の定位位置を表示部の画面上の任意の位置に設定する。これにより、音像の定位位置と映像の表示位置を一致させることもできる。
【0009】
スピーカは、表示部の上部または下部に複数配置されていてもよい。その際、音像定位処理部は、表示部の上部または下部のうち、一方に低い周波数の音声成分の音像を定位し、他方に高い周波数の音声成分の音像を定位する。この場合でも、上記音像定位処理部は、音像の定位位置を表示部の画面上の任意の位置、例えば中央部に設定することができる。
【0010】
本発明の映像音響装置では、表示部と視聴者との相対的な位置関係を測定する位置関係測定手段をさらに有し、音像定位処理部が、その測定された位置関係に基づいて音像の定位位置を制御するようにしてもよい。また、音像定位処理部は、映像の内容に基づいて音像の定位位置を制御するようにしてもよい。
【0011】
音像定位処理部は、音声のうち、所定の周波数よりも高い周波数の音声成分の音像の定位位置を制御することが望ましい。その場合、この所定の周波数は、音声の周波数帯域に基づいてあらかじめ設定されてもよいし、音声の周波数帯域を測定する周波数帯域測定手段を設け、その周波数帯域に基づいて求めるものでもよい。さらに、その所定の周波数よりも高い周波数の音声成分の左右の音声信号の間に位相差を生じさせるようにしてもよい。また、その所定の周波数よりも低い周波数の音声成分を遅延させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の映像音響装置によれば、音声の音像の定位位置を表示部の画面上の任意の位置に設定できるようにしたので、音声と映像との一体感を改善でき、視聴者に違和感を与えないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る音像定位の概念の一例を表す概念図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る映像音響装置の一構成例を表すブロック図である。
【図3】図2に示した音像定位処理部の一構成例を表すブロック図である。
【図4】図3に示した位相シフト部の一構成例を表すブロック図と、その特性例を表す特性図である。
【図5】図3に示した仮想音像処理部の一構成例を表すブロック図である。
【図6】図2に示した映像音響装置において、音響伝達関数を説明するための模式図である。
【図7】図2に示した映像音響装置において、視聴者と表示部との位置関係を表す模式図である。
【図8】図2に示した映像音響装置において、音像の定位位置を表す模式図である。
【図9】図2に示した映像音響装置において、音像の定位位置の変更を表す模式図である。
【図10】図2に示した映像音響装置において、ユーザーインターフェースの一例を表す図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態の第1の変形例に係る音像定位処理部の一構成例を表すブロック図である。
【図12】本発明の第1の実施の形態の第2の変形例に係る音像定位処理部の一構成例を表すブロック図である。
【図13】本発明の第1の実施の形態の第3の変形例に係る音像定位処理部の一構成例を表すブロック図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係る映像音響装置の一構成例を表すブロック図である。
【図15】図14に示した視聴者検出部の一動作例を表す流れ図である。
【図16】図14に示した視聴者検出部の一動作例を表す模式図である。
【図17】本発明の第3の実施の形態に係る映像音響装置の一構成例を表すブロック図である。
【図18】本発明の第4の実施の形態に係る映像音響装置の一構成例を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.音像定位の概念
2.第1の実施の形態
3.第2の実施の形態
4.第3の実施の形態
5.第4の実施の形態
【0015】
<1.音像定位の概念>
図1は、本発明に係る音像定位の概念を表すものである。この例では、表示部60の下方に配置されたスピーカ20L,20Rから出力される音声が、視聴者にとってどのように聞こえるかを示している。
【0016】
通常、スピーカ20L,20Rから発生した音声は、スピーカ20L,20Rの方向から聞こえる。この例では、音声は表示部60の下方から聞こえることになる。つまり、視聴者にとっては、映像が表示される表示部60の方向と、音声が発生するスピーカ20L,20Rの方向が異なっている。よって、例えば、表示部60に映像として表示されている話し手の音声が、話し手が存在しえない表示部60の下方から聞こえることにより、視聴者は違和感を覚えることとなる。
【0017】
本発明の映像音響装置は、後述するように、低い周波数成分の音声をスピーカ20L,20Rから出力するとともに、高い周波数成分の音声に対しては、あたかもツイータ(仮想ツイータ21L,21R)が画面の上方に配置されているように音声信号処理することにより、視聴者が感じる音源(音像7L,7R)の位置(音像の定位位置)を表示部60の画面上に設定するものである。なお、以下では、スピーカ20L,20Rの総称としてスピーカ20を適宜用い、仮想ツイータ21L,21Rの総称として仮想ツイータ21を適宜用い、音像7L,7Rの総称として音像7を適宜用いるものとする。
【0018】
<2.第1の実施の形態>
[構成例]
(全体構成例)
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る映像音響装置の一構成例を表すものである。映像音響装置1は、音声処理部15と、スピーカ20と、映像処理部17と、表示部60とを備えている。
【0019】
音声処理部15は、所定の音声信号処理を行う回路であり、後述する音像の定位位置を設定する音像定位処理部30を含み、例えばオーディオDSPにより構成される。音声処理部15には、音源/映像源11より、信号Lin(左チャンネル用信号)、信号Rin(右チャンネル用信号)、信号SLin(サラウンド左チャンネル用信号)、信号SRin(サラウンド右チャンネル用信号)、信号Cin(センターチャンネル用信号)、信号Win(低音用信号)を含む、最大5.1チャンネルのPCM(Pulse Code Modulation)音声信号(デジタル信号)が供給される。音源/映像源11は、例えば、テレビのチューナや、DVDなどのプレーヤに対応する。音源/映像源11から出力される音声信号がアナログ信号の場合には、その音声信号は、A/D変換回路12によりデジタル信号に変換し、SW14等を介して音声処理部15に供給される。一方、音源/映像源11から出力される音声信号がデジタル信号の場合には、その音声信号は、例えばデコーダ13によりデコードされ、SW14等を介して音声処理部15に供給される。SW14は、音声信号の供給元(A/D変換回路12およびデコーダ13)を選択するためのスイッチである。音声処理部15は、入力信号に対して所定の音声信号処理を行い、信号Lout(左チャンネル用信号)および信号Rout(右チャンネル用信号)からなる2チャンネルのPCM音声信号を出力する。
【0020】
スピーカ20(スピーカ20L,20R)は、音声処理部15において音声信号処理された音声信号に基づき、音声を出力するものである。スピーカ20には、音声処理部15の出力信号Lout,Routが、D/A変換回路16によりアナログ信号に変換され、図示しないアンプにより増幅された後に供給される。スピーカ20Lは、音声処理部15の出力信号Loutに基づいて音声を出力し、スピーカ20Rは、音声処理部15の出力信号Routに基づいて音声を出力する。このスピーカ20は、図1において、表示部60の下部に配置されている。つまり、この例では、スピーカ20は、表示部60の画面をはさんで配置されていない。
【0021】
映像処理部17は、音源/映像源11から供給された映像信号に対して、所定の映像信号処理を行う回路である。
【0022】
表示部60は、映像処理部17において映像信号処理された映像信号に基づき、表示を行うデバイスである。表示部60は、表示ドライバ18により駆動される。
【0023】
上述した、デコーダ13、音声処理部15、D/A変換回路16、映像処理部17、および表示ドライバ18は、コントローラ19により制御されている。
【0024】
(音像定位処理部30)
図3は、音像定位処理部30の一構成例を表すものである。音像定位処理部30は、入力信号Lin,Rinを低い周波数成分と高い周波数成分とに分離し、それぞれに対して別々の処理を行った後に再度足し合わせることにより、音像の定位位置が上昇した音声信号を生成し、出力信号Lout,Routとして出力する回路である。
【0025】
音像定位処理部30は、低域通過フィルタ(LPF;Low Pass Filter)31L,31Rと、遅延部32L,32Rと、高域通過フィルタ(HPF;High Pass Filter)34L,34Rと、位相シフト部35と、位相反転部36と、仮想音像処理部40と、アンプ37L,37Rと、加算器33L,33Rとを備えている。低域通過フィルタ31L,31R、および遅延部32L,32Rは、入力信号Lin,Rinのうち低い周波数成分に対して処理を行い、高域通過フィルタ34L,34R、位相シフト部35、位相反転部36、仮想音像処理部40、アンプ37L,37Rは、入力信号Lin,Rinのうち高い周波数成分に対して処理を行うようになっている。
【0026】
低域通過フィルタ31Lは、供給された入力信号Linのうちの低い周波数成分を通過させるフィルタであり、低域通過フィルタ31Rは、供給された入力信号Rinのうちの低い周波数成分を通過させるフィルタである。低域通過フィルタ31L,31Rのカットオフ周波数は、例えば6〜10[kHz]程度に設定される。低域通過フィルタ31L,31Rの次数は4次以上が望ましい。
【0027】
遅延部32Lは、低域通過フィルタ31Lから供給された信号を遅延させて出力し、遅延部32Rは、低域通過フィルタ31Rから供給された信号を遅延させて出力するものである。遅延部32L,32Rの遅延量は、例えば1〜3[msec]程度に設定される。これにより、遅延部32L,32Rは、後述するように、低い周波数成分の信号を高い周波数成分の信号よりも遅れさせるように機能する。
【0028】
高域通過フィルタ34Lは、供給された入力信号Linのうちの高い周波数成分を通過させるフィルタであり、高域通過フィルタ34Rは、供給された入力信号Rinのうちの高い周波数成分を通過させるフィルタである。高域通過フィルタ34L,34Rのカットオフ周波数は、低域通過フィルタ31L,31Rと同様に、例えば6〜10kHz程度に設定される。高域通過フィルタ34L,34Rの次数は4次以上が望ましい。
【0029】
位相シフト回路35は、高域通過フィルタ34L,34Rから供給される信号に対して、それぞれ異なる量の位相シフトを行う機能を有する。
【0030】
図4(A)は、位相シフト回路35の一構成例を表すものであり、図4(B)は、位相シフト回路35の位相特性の一例を表すものである。位相シフト回路35は、APF(All Pass Filter)35L,35Rを有する。APF35Lは、高域通過フィルタ34Lから供給された信号に対して、振幅を一定に保ったまま位相のみを変化させて出力するフィルタであり、APF35Rは、高域通過フィルタ34Rから供給された信号に対して、振幅を一定に保ったまま位相のみを変化させて出力するフィルタである。APF35L,35Rは、例えば、図4(B)に示したような特性L1,L2を有し、APF35LとAPF35Rとで異なる特性をもっている。具体的には、例えば、APF35Lが特性L1のような位相特性を有するとともに、APF35Rが特性L2のような位相特性を有することにより、APF35Lの出力信号の位相がAPF35Rの出力信号の位相よりも進むようになっている。もしくは、APF35Lが特性L2のような位相特性を有するとともに、APF35Rが特性L1のような位相特性を設定し、APF35Lの出力信号の位相がAPF35Rの出力信号の位相よりも遅れるようにしてもよい。これにより、視聴者は、最終的にスピーカ20L,20Rから出力される音声に対して、左右方向の広がりを感じるようになる。APF35L,35Rの次数はどのようなものでもよく、例えば1次や2次が利用可能である。
【0031】
位相反転部36は、位相シフト部35から供給される信号に対して、そのまま出力するか、もしくは位相を180度ずらして(位相反転して)出力するかを選択する機能を有する。これにより、位相反転部36は、最終的にスピーカ20L,20Rから出力される音声に対して、視聴者がより広がりを感じるような条件を選択する機能を有する。
【0032】
位相シフト回路35における遅延量の調整や、位相反転部36における位相反転動作の選択は、図示しない制御線により、外部より設定することができるようになっている。
【0033】
仮想音源処理部40は、位相反転部36から供給される信号LVin,RVinに対して、仮想音像処理を行い、それぞれ仮想ツイータ21L,21Rに対応する位置に音像の定位位置が設定された音声信号を生成し、出力信号LVout、RVoutとして出力する機能を有している。
【0034】
アンプ37Lは、仮想音源処理部40から供給される信号LVoutを増幅する利得Kvtlのアンプであり、アンプ37Rは、仮想音源処理部40から供給される信号RVoutを増幅する利得Kvtrのアンプである。これらのアンプの利得Kvtl,Kvtrを設定することにより、音像定位処理部30は、後述するように、最終的にスピーカ20L,20Rから出力される音声の音像の定位位置を、スピーカ20L,20Rの位置から上昇させ、例えば表示部60の画面の中央付近など、任意の位置に設定することができる。なお、以下では、アンプ37L,37Rの総称としてアンプ37を適宜用い、利得Kvtl,Kvtrの総称として利得Kvtを適宜用いるものとする。
【0035】
加算器33Lは、遅延部32Lの出力信号とアンプ37Lの出力信号とを加算する回路であり、加算器33Rは、遅延部32Rの出力信号とアンプ37Rの出力信号とを加算する回路である。
【0036】
(仮想音像処理部40)
図5は、仮想音像処理部40の一構成例を表すものである。仮想音像処理部40は、フィルタ401〜404,407〜410と、加算器405,406,411,412とを備えている。
【0037】
フィルタ401〜404は、それぞれ音響伝達関数Hφ1L、Hφ1R、Hφ2L、Hφ2R(後述)をもつフィルタであり、いわゆるバイノーラル化処理に用いられるものである。具体的には、フィルタ401は、入力信号LVinに対して音響伝達関数Hφ1Lを用いてフィルタ処理し、フィルタ402は、入力信号LVinに対して音響伝達関数Hφ1Rを用いてフィルタ処理し、フィルタ403は、入力信号RVinに対して音響伝達関数Hφ2Rを用いてフィルタ処理し、フィルタ404は、入力信号RVinに対して音響伝達関数Hφ2Lを用いてフィルタ処理するようになっている。音響伝達関数Hφ1L、Hφ1R、Hφ2L、Hφ2Rは、例えば、図示しないメモリに記憶されている。
【0038】
加算器405,406は、フィルタ401〜404の出力を加算する回路である。具体的には、加算器405は、フィルタ401の出力信号とフィルタ404の出力信号とを加算し、フィルタ406は、フィルタ402の出力信号とフィルタ403の出力信号とを加算するようになっている。
【0039】
フィルタ407〜410は、音響伝達関数Hθ1L、Hθ1R、Hθ2L、Hθ2R(後述)に基づいて求められる伝達関数G1〜G4(後述)をもつフィルタであり、スピーカ20L,20Rからの音声の出力時に生じる空間的クロストークを補償するためのいわゆるクロストーク補償処理に用いられるものである。具体的には、フィルタ407は、加算器405の出力信号に対して伝達関数G1を用いてフィルタ処理し、フィルタ408は、加算器405の出力信号に対して伝達関数G2を用いてフィルタ処理し、フィルタ409は、加算器406の出力信号に対して伝達関数G3を用いてフィルタ処理し、フィルタ410は、加算器406の出力信号に対して伝達関数G4を用いてフィルタ処理するようになっている。伝達関数G1〜G4は、例えば、図示しないメモリに記憶されている。
【0040】
加算器411,412は、フィルタ407〜410の出力を加算する回路である。具体的には、加算器411は、フィルタ407の出力信号とフィルタ410の出力信号とを加算し、出力信号LVoutとして出力するものであり、フィルタ412は、フィルタ408の出力信号とフィルタ409の出力信号とを加算し、出力信号RVoutとして出力するものである。
【0041】
(音響伝達関数)
次に、音響伝達関数とその求め方について、説明する。
【0042】
図6は、音響伝達関数を説明するための模式図である。図6において、(A)は、仮想ツイータ21L,21Rの位置に配置されたスピーカ22L,22Rから音声を出力した状態を示し、(B)は、スピーカ20L,20Rから音声を出力した状態を示す。
【0043】
表示部60の前の視聴者9は、図6(A)に示したように、スピーカ22Lから出力された音声を、左の耳で感じるとともに、右の耳でも感じる。つまり、スピーカ22Lに係る音響伝達関数には、視聴者9から位置ベクトルφ1の位置に配置されたスピーカ22Lから出力された音声が視聴者9の左の耳に伝わるまでの伝達関数Hφ1Lと、スピーカ20Lから出力された音声が視聴者9の右の耳に伝わるまでの伝達関数Hφ1Rの2つが存在する。
【0044】
同様に、視聴者9は、スピーカ22Rから出力された音声を、右の耳で感じるとともに、左の耳でも感じる。つまり、スピーカ22Rに係る音響伝達関数には、視聴者9から位置ベクトルφ2の位置に配置されたスピーカ22Rから出力された音声が視聴者9の右の耳に伝わるまでの伝達関数Hφ2Rと、スピーカ22Rから出力された音声が視聴者9の左の耳に伝わるまでの伝達関数Hφ2Lの2つが存在する。
【0045】
これらは、スピーカ20L,20Rから音声が出力された場合においても、全く同じである。すなわち、図6(B)に示したように、スピーカ20Lに係る音響伝達関数には、視聴者9から位置ベクトルθ1の位置に配置されたスピーカ20Lから出力された音声が視聴者9の左の耳に伝わるまでの伝達関数Hθ1Lと、スピーカ20Lから出力された音声が視聴者9の右の耳に伝わるまでの伝達関数Hθ1Rの2つが存在する。そして、スピーカ20Rに係る音響伝達関数には、視聴者9から位置ベクトルθ2の位置に配置されたスピーカ20Rから出力された音声が視聴者9の右の耳に伝わるまでの伝達関数Hθ2Rと、スピーカ20Rから出力された音声が視聴者9の左の耳に伝わるまでの伝達関数Hθ2Lの2つが存在する。
【0046】
これらの音響伝達関数は、スピーカ20L,20R,22L,22Rからそれぞれ出力されたインパルス音を、視聴者9の左右の耳元でインパルス応答として測定することにより求めることができる。例えば、音響伝達関数Hφ1Lは、スピーカ22Lから出力されたインパルス音を、視聴者9の左の耳元でインパルス応答として測定することにより求められる。また、音響伝達関数Hθ2Rは、スピーカ20Rから出力されたインパルス音を、視聴者9の右の耳元でインパルス応答として測定することにより求められる。すなわち、視聴者9の耳元で測定したインパルス応答が、インパルス音を出力したスピーカ20L,20R,22L,22Rの位置から視聴者9の耳元までの音響伝達関数に相当することとなる。
【0047】
図5に示したフィルタ401〜404の音響伝達関数Hφ1L,Hφ1R,Hφ2L,Hφ2Rは、以上のようにして求めた音響伝達関数を用いることができる。また、図5に示したフィルタ407〜410の伝達関数G1〜G4は、以上のようにして求めた音響伝達関数Hθ1L,Hθ1R,Hθ2L,Hθ2Rを次式に代入して得られたものを用いることができる。
【数1】

【0048】
仮想音像処理部40は、以上のようにして求めた伝達関数が設定されたフィルタ401〜404,407〜410を用いることにより、高い周波数成分の音声に関して、仮想ツイータ21の位置に音像の定位位置を設定することができる。これにより、音像定位処理部30は、低い周波数成分の音声についてはスピーカ20の位置に音像の定位位置を設定し、高い周波数成分の音声に関しては、仮想ツイータ21の位置に音像の定位位置を設定し、結果として、音声全体の音像の定位位置をスピーカ20の位置から表示部60の中央付近に上昇させるようになっている。
【0049】
[動作および作用]
続いて、本実施の形態の映像音響装置1の動作および作用について説明する。
【0050】
(全体動作概要)
音源/映像源11は、音声信号および映像信号を出力する。映像処理部17は、音源/映像源11から供給された映像信号に基づいて、所定の映像処理を行う。表示ドライバ18は、映像処理部17から供給された映像信号に基づいて、表示部60を駆動するための駆動信号を生成する。表示部60は、表示ドライバ18から供給された駆動信号に基づき表示を行う。
【0051】
A/D変換回路12は、音源/映像源11からアナログ信号の音声信号が供給された場合に、その信号をデジタル信号に変換する。デコーダ13は、音源/映像源11からデジタル信号の音声信号が供給された場合に、その信号をデコードする。SW14は、A/D変換回路12から出力される音声信号とデコーダ13から出力される音声信号とを選択し、音声処理部15に供給する。音声処理部15は、入力された音声信号に対して、所定の音声信号処理を行う。特に、音声処理部15の音像定位処理部30は、入力された音声信号を低い周波数成分と高い周波数成分とに分離し、低い周波数成分に対しては遅延処理を行い、高い周波数成分に対しては仮想音像処理を行った後に、それぞれを再度足し合わせることにより、音像の定位位置をスピーカ20の位置から表示部60の中央付近に上昇させるような音声信号を生成し出力する。D/A変換回路16は、音声処理部15から出力されたデジタル形式の音声信号をアナログ信号に変換する。スピーカ20は、D/A変換回路16から供給されたアナログ信号に基づいて、音声を出力する。
【0052】
(音像の定位位置の設定)
次に、音像の定位位置の設定について説明する。
【0053】
図7は、視聴者と表示部との位置関係を表す模式図である。図7において、(A)は、視聴者が表示部の正面から映像を見る状態を示し、(B)は、視聴者が表示部を見上げて映像を見る状態を示し、(C)は、視聴者が表示部を見下ろして映像を見る状態を示す。
【0054】
一般に、視聴者は、必ずしも表示部の映像を正面から見るとは限らない。すなわち、視聴者9は、表示部60の正面から映像を見る場合(図7(A))のほか、表示部60を見上げて映像を見る場合(図7(B))や、表示部60を見下ろして映像を見る場合(図7(C))がありえる。これらのケースは、例えば、視聴者が床に座って映像を見る場合や、椅子に座って映像を見る場合などに対応する。よって、例えば、視聴者9が表示部60の正面から映像を見る場合を想定して、音像の定位位置が表示部60の中央付近になるように音像上昇量Sを設定しても、表示部60を見上げて映像を見る場合や、表示部60を見下ろして映像を見る場合には、音像の定位位置が表示部60の中央付近からずれてしまう。つまり、図7に示したように、視聴者9と表示部60との相対的な位置関係によって、音像の定位位置を画面の中央に設定するための最適な音像上昇量Sは異なる。特に、図7に示したように、視聴者が表示部60を見上げて映像を見る場合の音像上昇量Sb(図7(B))や、表示部60を見下ろして映像を見る場合の音像上昇量Sc(図7(C))は、視聴者が表示部60を正面から映像を見る場合の音像上昇量Sa(図7(A))よりも少ないものとなる。
【0055】
映像音響装置1は、このように、視聴者9と表示部60との相対的な位置関係が異なる場合でも、音像の定位位置を表示部60の画面の中央に設定できるようにするため、音像上昇量Sを調整することができる。
【0056】
以下に、音像上昇量Sの調整方法を説明する。
【0057】
図8は、視聴者がスピーカの正面にいる場合の音像の定位位置を表す模式図である。図8において、(A)は、音像の定位位置が表示部60の中央付近にある状態を示し、(B)は、音像の定位位置が表示部60の中央付近よりも低い状態を示す。
【0058】
音像上昇量Sは、仮想ツイータ21が擬似的に出力する音量とスピーカ20が出力する音量との音量バランスに応じて変化する。具体的には、スピーカ20の音量をある値に固定して、音像定位処理部30のアンプ37の利得Kvtを変化させると、利得Kvtがαより大きい場合には(Kvt>α)、音像の定位位置が画面の中央よりも高いところに設定され、利得Kvtがαより小さい場合には(Kvt<α)、音像の定位位置が画面の中央よりも低いところに設定される。ここで、αは、音像の定位位置が表示部60の画面の中央付近になるようなアンプ37の利得である。
【0059】
次に、アンプ37の利得Kvtの具体的な設定方法について説明する。
【0060】
まず、図8(A)に示したように、音像の定位位置が表示部60の画面の中央付近になるようなアンプ37の利得αを求め、そのときの、音像の定位位置A、視聴者9の位置B、およびスピーカ20の位置Cが成す角ABCの角度γ0を求める。この利得αおよび角度γ0を用いると、図8(B)に示したような任意の角度γの方向に音像の定位位置を設定するために必要なアンプ37の利得Kvtは、次式で表される。
【数2】

【0061】
映像音響装置1では、表示部との相対的な位置関係(例えば、図7(A)〜(C))に応じて、式(2)に基づいて角度γに対するアンプ37の利得Kvtを設定することにより、音像の定位位置を表示部60の画面の中央付近に設定することが可能となる。以下に、その具体例を示す。
【0062】
図9は、視聴者が表示部を見上げて映像を見る状態における、アンプ37の利得Kvtの設定方法を説明するための模式図である。この例では、表示部が表示部60Dの位置から表示部60の位置に移動した場合において、音像の定位位置を表示部60の中央付近に設定するための方法を示している。
【0063】
まず、表示部が表示部60Dの位置に配置され、さらに音像の定位位置が表示部60Dの画面の中央付近に設定されたときの、アンプ37の利得αおよび角度γ0を求める。ここで、視聴者9とスピーカ20Dを結ぶ線をx軸とする。
【0064】
次に、表示部が表示部60の位置に配置され、さらに音像の定位位置が表示部60の画面の中央付近に設定されたときの角度γを求める。ここで、視聴者9とスピーカ20Rを結ぶ線をx2軸とする。
【0065】
次に、仮想的に配置された表示部60Rを導入する。表示部60Rは、図9に示したように、表示部60Dを、x軸がx2軸と一致するように、視聴者9を中心に角度δだけ回転させて配置されたものである。x2軸に係る表示部60Rでは、x2軸から角度γ0の方向が、表示部60Rの画面の中央付近となる。一方、x2軸に係る表示部60では、x2軸から角度γの方向が、表示部60の画面の中央付近となる。このx2軸から角度γの方向は、表示部60Rにおいては、その画面の中央付近よりやや低い部分に対応する。つまり、仮想的に配置された表示部60Rにおいて、音像の定位位置を画面の中央付近(角度γ0に対応)より低いところ(角度γに対応)に設定することにより、音像の定位位置が表示部60の画面の中央付近に設定されるようになる。
【0066】
式(2)に示した、任意の角度γの方向に音像の定位位置を設定できる利得Kvtを求める方法は、この場合にも適用することができる。すなわち、図9において、表示部が表示部60の位置に配置されたとき、音像の定位位置が表示部60の画面の中央付近に設定するために必要なアンプ37の利得Kvtは、上記利得α、および角度γ,γ0を式(2)に代入することにより求めることができる。なお、図9では、表示部が、視聴者が見上げる方向に移動した場合を示したが、視聴者が見下ろす方向に移動した場合でも全く同様である。
【0067】
このようにして、映像音響装置1は、角度γに対するアンプ37の利得Kvtを設定することができる。よって、視聴者が、表示部との相対的な位置関係(例えば、図7(A)〜(C))に関する情報を映像音響装置1に入力することにより、映像音響装置1は、その情報に基づいてアンプ37の利得Kvtを設定し、音像の定位位置を表示部60の画面の中央付近に設定することが可能となる。この場合、視聴者は、例えば角度γを入力するようにしてもよいし、音像上昇量Sが角度γに応じて決まることを利用して、例えば音像上昇量Sを用いるようにしても良い。
【0068】
図10は、視聴者と表示部との相対的な位置関係を入力するためのユーザーインターフェースの一例を表すものである。映像音響装置1は、例えば、このような情報を表示部60に表示し、視聴者と表示部との相対的な位置関係に関する情報を入力することができる。その情報の入力は、例えば、連続的に条件を設定できるスライダを用いて入力するようにしてもよいし、大・中・小など、離散的な条件の中から選択することにより入力するようにしてもよい。
【0069】
(遅延部32L,32Rの作用)
一般に、人間は、いわゆる先行音効果として知られているように、最初に両耳に到達した一部の音声によって、その音声全体が発生した方向を認識する。よって、図1において、例えば、視聴者が感じる音声のうち、音像の定位位置が表示部60の中央付近にある一部の音声が、視聴者に最初に到達するようにすれば、視聴者は、その音声全体が表示部60の中央付近から発生したと感じるようになる。
【0070】
映像音響装置1の音声定位処理部30は、上述したように、供給された音声信号を低い周波数成分と高い周波数成分とに分け、高い周波数成分に対してのみ、仮想音源処理部40により仮想音源処理を行い、その音像の定位位置を上昇するように設定している。一方、低い周波数成分に対しては、音声定位処理部30は、遅延部32L,32Rにより遅延処理を行っている。つまり、映像音響装置1は、この高い周波数成分の音声を最初にスピーカ20から出力させ、やや遅れて低い周波数成分の音声をスピーカ20から出力させている。これにより、視聴者は、音像の定位位置が上昇した、高い周波数成分の音声を最初に感じることとなり、その位置から音声が発生したと感じるようになる。
【0071】
以上のように、遅延部32L,32Rは、仮想音源処理部40による音像の定位位置の上昇を際立たせ、その効果を最大限に引き出すように機能する。
【0072】
[効果]
以上のように本実施の形態では、表示部の下部に配置されたスピーカから出力された音声の音像の定位位置を上昇させて、表示部の画面の中央付近に設定するようにしたので、音像の定位位置と映像の表示位置が一致することにより、視聴者に違和感を与えないようにすることができる。
【0073】
特に、本実施の形態では、仮想音源処理部40が音像の定位位置を上昇させるようにしたので、音像の定位位置を上昇させるためのスピーカを装置に追加する必要がなくなり、装置の小型化を実現することができる。
【0074】
また、本実施の形態では、音像上昇量Sを調整できるようにしたので、視聴者と表示部との相対的な位置関係に応じて、音像の定位位置が表示部の画面の中央付近となるような最適な設定にすることができる。
【0075】
また、本実施の形態では、音像上昇量Sをアンプ37L,37Rの利得Kvtl,Kvtrにより設定するようにしたので、例えば、複数の音響伝達関数のセットを準備し切り替えることにより音像上昇量Sを調整する方法に比べて、音響伝達関数をするためのメモリ量を削減することができる。
【0076】
さらに、本実施の形態では、音声信号の低い周波数成分を遅延させるようにしたので、先行音効果により、仮想音源処理部40の音像の定位位置の上昇の効果を最大限に引き出すことができる。
【0077】
[変形例1−1]
上記実施の形態では、音像定位処理部30は、図3に示したように、位相シフト部35および位相反転部36を設けたが、これに限定されるものではなく、例えば位相シフト部35のみ、もしくは位相反転部36のみを設けてもよいし、図11に示したように、位相シフト部35と位相反転部36の両方を設けなくてもよい。音像定位処理部30Aは、位相シフト部35と位相反転部36の両方を有しておらず、高域通過フィルタ34L,34Rの出力信号は仮想音源処理部40に直接供給されている。
【0078】
[変形例1−2]
上記実施の形態では、音像定位処理部30では、図3に示したように、位相シフト部35を位相反転部36の前段に配置したが、これに限定されるものではなく、例えば、位相シフト部35と位相反転部36とを入れ替えて、位相シフト部35を位相反転部36の後段に配置してもよい。また、位相シフト部35および位相反転部36は、仮想音源処理部40の前段に配置したが、これに限定されるものではなく、例えば、仮想音源処理部40の後段に配置してもよい。
【0079】
[変形例1−3]
上記実施の形態では、音像定位処理部30では、図3に示したように、信号Lin,Rinからなる2チャンネルの音声信号を入力としたが、これに限定されるものではない。例えば、図12に示したように、5チャンネルの音声信号を入力とし、2チャンネルにダウンミックスした後に、音像定位処理を行うようにしてもよい。音像定位処理部30Bは、信号Lin、信号Rin、信号SLin、信号SRin、信号Cinを入力とし、それぞれをアンプ51L,51R,51SL,51SR,51Cにより増幅した後、加算器52L,52R供給して2チャンネルの音声信号にダウンミックスし、音像定位処理を行っている。
【0080】
また、例えば、図13に示したように、5チャンネルの音声信号を入力とし、信号Lin、信号Rin、信号SLinを2チャンネルの音声信号に変更して音像定位処理を行うとともに、信号SLin、信号SRinに対しては通常のバーチャルサラウンド処理を行うようにしてもよい。音像定位処理部30Cは、信号Lin、信号Rin、信号Cinをアンプ51L,51R,51Cによりそれぞれ増幅した後、加算器52L,52Rに供給して2チャンネルの音声信号に変更し、音像定位処理を行っている。また、音像定位処理部30Cは、信号SLin、信号SRinをアンプ51SL,51SRによりそれぞれ増幅した後、遅延部53SL,53SRを介して3次元処理部54に供給する。音像定位処理部30Cは、3次元処理部54においてバーチャルサラウンド処理が行った後、その出力信号をアンプ55SL,55SRで増幅し、加算器56L,56Rにより音像定位処理結果と合成している。
【0081】
[その他の変形例]
上記実施の形態では、スピーカ20を表示部60の下部に配置したが、これに限定されるものではなく、例えば、表示部の上部に配置してもよい。この場合でも、この配置に対応した音響伝達関数を用いることにより、仮想音源処理部40は、音像の定位位置を設定することができる。
【0082】
上記実施の形態では、音像定位処理部30の低域通過フィルタ31L,31Rおよび高域通過フィルタ34L,34Rのカットオフ周波数を所定の周波数に設定したが、例えば、視聴者がこのカットオフ周波数を変更できるようにしてもよい。これにより、例えば、可聴音域の異なる様々な年齢の視聴者に対しても、それぞれに対して最適なカットオフ周波数を設定でき、音声と映像との一体感を改善できる。
【0083】
<3.第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態に係る映像音響装置について説明する。本実施の形態は、視聴者と表示部との相対的な位置関係を測定する手段を新たに設け、これに基づいて音像の定位位置を制御するようにしたものである。なお、上記第1の実施の形態に係る映像音響装置と実質的に同一の構成部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0084】
[構成例]
図14は、本発明の第2の実施の形態に係る映像音響装置の一構成例を表すものである。映像音響装置2は、カメラ71と、視聴者検出部72とを備えている。その他の構成は、上記第1の実施の形態(図2)と同様である。
【0085】
カメラ71は、視聴者と表示部60との相対的な位置関係を測定するために設けられたものであり、例えば表示部60の画面の下部の中央に、視聴者を視野に捕らえるように配置されている。
【0086】
視聴者検出部72は、カメラ71から供給される情報を基に、視聴者と表示部60との相対的な位置関係を求め、その結果を音声処理部15の音像定位処理部30に供給する。これにより、音像定位処理部30は、第1の実施の形態と同様に、その位置関係に基づいて音像の定位位置が表示部60の画面の中央付近になるように設定する。
【0087】
ここで、カメラ71および視聴者検出部72は、本発明における「位置関係測定手段」の一具体例に対応する。
【0088】
[動作および作用]
(視聴者検出部72の動作)
次に、図15、図16を参照して、視聴者検出部72の動作を説明する。
【0089】
図15は、視聴者検出部72における視聴者検出動作の流れ図を表すものである。図16は、最近接視聴者と表示部60との相対的な位置関係を表すものであり、(A)は正面から見た場合を示し、(B)は側面から見た場合を示す。なお、図15に示した流れ図の開始時点において、変数nはn=1に初期化されているものとする。また、表示部60は、図16(A)に示したように、幅wと高さhをもつものとする。
【0090】
まず、視聴者検出部72は、図15に示したように、カメラ71から供給された情報に基づいて、表示部60の前の視聴者の数Nを検出する(S1)。
【0091】
次に、S2,S3,S31において、視聴者検出部72は、カメラ71の位置を原点Oとして、S1で検出された全視聴者の位置座標を検出する。具体的には、まず、S1で検出された視聴者のうちのある視聴者に対して、その位置座標Pn(xn,yn,zn)を求める(S2)。次に、変数nと視聴者数Nとを比較する(S3)。比較結果が一致しなかった場合には、nをインクリメントし(S31)、再度S2を実施する。S3において比較結果が一致した場合にはS4に進む。
【0092】
次に、S4において、視聴者検出部72は、S1で検出された視聴者のうち、一番表示部60に近い視聴者(最近接視聴者)を、S2で得られた各視聴者の位置座標に基づいて判定する。
【0093】
次に、視聴者検出部72は、S4で判定された最近接視聴者の位置座標P(x,y,z)を基に、角度γを求める。この角度γは、以下のように表される(S5)。
【数3】

【0094】
次に、視聴者検出部72は、S5で求められた角度γを基に、音像定位処理部30のアンプ37の利得Kvtを求める(S6)。アンプ37の利得Kvtは、第1の実施の形態で説明した式(2)を用いて求めることができる。
【0095】
以上で、視聴者検出動作は終了する。その後、音像定位処理部30のアンプ37は、S6で求められた利得Kvtに設定される。この一連の動作が所定の期間ごとに繰り返し行われることにより、映像音響装置2は、常に音像の定位位置が表示部60の中央付近になるように制御することができる。
【0096】
[効果]
以上のように本実施の形態では、視聴者と表示部との相対的な位置関係を測定し、それに応じて音像の定位位置を制御するようにしたので、視聴者による設定を必要とすることなく、音声と映像との一体感を改善できる。
【0097】
本実施の形態では、音声と映像との不一致を最も感じやすい、一番表示部60に近い視聴者の位置座標に基づいて音像の定位位置を制御するようにしたので、全ての視聴者に対して、音声と映像との一体感を改善できる。
【0098】
上記実施の形態では、カメラ71を表示部60の下部の中央に配置したが、これに限定されるものではなく、例えば、表示部60の上部の中央などに配置してもよい。
【0099】
<4.第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態に係る映像音響装置について説明する。本実施の形態は、映像および音声を解析し、表示部60の画面内において音声が発生している座標を判定する手段を新たに設け、これに基づいて、音像の定位位置を制御するようにしたものである。なお、上記第1および第2の実施の形態に係る映像音響装置と実質的に同一の構成部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0100】
図17は、本発明の第3の実施の形態に係る映像音響装置の一構成例を表すものである。映像音響装置3は、映像解析部81を備えている。その他の構成は、上記第1および第2の実施の形態と同様である。
【0101】
映像解析部81は、映像処理部17から供給される映像信号、および音声信号Lin,Rinに基づいて、その映像上における音声を発している人物などの音声発生源を特定し、表示部60の画面内におけるその音声発生源の座標を求める機能を有している。その結果に基づいて、音像定位処理部30のアンプ37の利得Kvtが設定され、音像の定位位置が、表示部60の画面内におけるその音声を発している箇所に設定される。
【0102】
以上のように本実施の形態では、映像上の音声発生源の位置に音像の定位位置を設定するようにしたので、音声と映像との一体感を改善でき、視聴者に臨場感を与えることができる。
【0103】
上記実施の形態では、映像解析部81は、映像信号および音声信号Lin,Rinに基づいて、その映像上の音声発生源を特定するようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば、さらに音声信号SLin,SRin,Cin,Winを用いてもよい。
【0104】
上記実施の形態では、映像および音声を解析して、その映像上の音声発生源を特定するようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば、映像のみにより、その映像上の音声発生源を特定するようにしてもよい。
【0105】
<5.第4の実施の形態>
次に、本発明の第4の実施の形態に係る映像音響装置について説明する。本実施の形態は、音声の周波数帯域を求める手段を新たに設け、これに基づいて、音像定位処理部30の低域通過フィルタ31L,31Rおよび高域通過フィルタ34L,34Rのカットオフ周波数を動的に設定するようにしたものである。なお、上記第1〜第3の実施の形態に係る映像音響装置と実質的に同一の構成部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0106】
図18は、本発明の第4の実施の形態に係る映像音響装置の一構成例を表すものである。映像音響装置4は、周波数帯域解析部91を備えている。その他の構成は、上記第1〜第3の実施の形態と同様である。ここで、周波数帯域解析部91は、本発明における「周波数帯域測定手段」の一具体例に対応する。
【0107】
周波数帯域解析部91は、音声信号Lin,Rinに基づいて、その音声信号の周波数帯域を求める。その結果に基づいて、音像定位処理部30の低域通過フィルタ31L,31Rおよび高域通過フィルタ34L,34Rのカットオフ周波数が、例えばその周波数帯域の中心周波数になるように、動的に設定される。
【0108】
低域通過フィルタ31L,31Rおよび高域通過フィルタ34L,34Rのカットオフ周波数が固定の場合には、例えば、主に低めの音で構成される音声に対応する音声信号が音像定位処理部30に供給されたときと、主に高めの音で構成される音声に対応する音声信号が音像定位処理部30に供給されたときとで、カットオフ周波数より低い周波数成分の音量と高い周波数成分の音量とのバランスが異なるため、音像の定位位置が変化することになる。
【0109】
つまり、主に低めの音で構成される音声に対応する音声信号が音像定位処理部30に供給されたときは、例えばその音声の周波数帯域の中心周波数がカットオフ周波数より低い場合において、低域通過フィルタ31L,31Rから出力される低い周波数成分の音量が高域通過フィルタ34L,34Rから出力される高い周波数成分の音量よりも多くなる。よって、高い周波数成分の信号に対して仮想音源処理部40で行われる仮想音源処理の効果が相対的に弱くなるため、音像の定位位置は表示部60の中央付近よりも低めとなる。
【0110】
また、主に高めの音で構成される音声に対応する音声信号が音像定位処理部30に供給されたときは、例えばその音声の周波数帯域の中心周波数がカットオフ周波数より高い場合において、低域通過フィルタ31L,31Rから出力される低い周波数成分の音量が高域通過フィルタ34L,34Rから出力される高い周波数成分の音量よりも多くなる。よって、高い周波数成分の信号に対して仮想音源処理部40で行われる仮想音源処理の効果が相対的に強くなるため、音像の定位位置は表示部60の中央付近よりも高めとなる。
【0111】
一方、音像定位処理部30の低域通過フィルタ31L,31Rおよび高域通過フィルタ34L,34Rのカットオフ周波数が、音声の周波数帯域に基づいて動的に設定される場合には、様々な音域を持つ音源に対しても、適切なカットオフ周波数が設定されるため、表示部60の画面における音像の定位位置をほぼ一定に保つことができる。
【0112】
以上のように本実施の形態では、供給される音声信号に応じて、低域通過フィルタおよび高域通過フィルタのカットオフ周波数を動的に設定するようにしたので、様々な音域を持つ音源に対しても、音像の定位位置をほぼ一定に保つことができる。
【0113】
上記実施の形態では、周波数帯域解析部91は、音声信号Lin,Rinに基づいて周波数帯域を求めるようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば、音声信号Lin,Rinのほか、音声信号SLin,SRin,Cin,Winも用いて周波数帯域を求めるようにしてもよい。
【0114】
以上、いくつかの実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【0115】
例えば、第2〜第4の各実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、音像定位処理部30の位相シフト部35および位相反転部36のどちらか一方、もしくは両方を省いてもよい。
【0116】
例えば、第2〜第4の各実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、音像定位処理部30の位相シフト部35および位相反転部36を入れ替えてもよい。また、音像定位処理部30の位相シフト部35および位相反転部36を、仮想音源処理部40の後段に配置してもよい。
【0117】
例えば、第2〜第4の各実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、音像定位処理部30への入力信号を、5チャンネルの音声信号を入力としてもよい。
【0118】
例えば、第2〜第4の各実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、スピーカ20を表示部の上部に配置してもよい。
【0119】
例えば、第2および第3の実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、音像定位処理部30の低域通過フィルタ31L,31Rおよび高域通過フィルタ34L,34Rのカットオフ周波数を、視聴者が設定できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0120】
1〜4…映像音響装置、7,7L,7R…音像、9…視聴者、11…音源/映像源、12…AD変換回路、13…デコーダ、14…SW、15…音声処理部、16…DAコンバータ、17…映像処理部、18…表示ドライバ、19…コントローラ、20,20L,20R、22L,22R…スピーカ、21,21L,21R…仮想ツイータ、30,30A,30B,30C…音像定位処理部、31L,31R…低域通過フィルタ(LPF)、32L,32R,53SL,53SR…遅延部、33L,33R,405,406,411,412,52L,52R,56L,56R…加算器、34L,34R…高域通過フィルタ(HPF)、35…位相シフト部、35L,35R…APF,36…位相反転部、37,37L,37R,51L,51R,51SL,51SR,51C,55SL,55SR…アンプ、40…仮想音源処理部、54…3次元処理部、60…表示部、71…カメラ、72…視聴者検出部、81…映像解析部、91…周波数帯域解析部、401〜404,407〜410…フィルタ、Hφ1L,Hφ1R,Hφ2L,Hφ2R,Hθ1L,Hθ1R,Hθ2L,Hθ2R…音響伝達関数、G1〜G4…伝達関数、Lin,Rin,SLin,SRin,Cin,Win,Lout,Rout,LVin,RVin,LVout,RVout…信号、S,S0,Sa,Sb,Sc…音像上昇量、γ,γ0…角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像を表示する表示部と、
前記映像に対応した音声を発生するスピーカと、
所定の処理により、前記スピーカに供給する音声信号を生成する音声処理部と
を備え、
前記音声処理部は、前記音声の音像の定位位置を前記表示部の画面上の任意の位置に設定するような音声信号を生成する音像定位処理部を含む
映像音響装置。
【請求項2】
前記スピーカが前記表示部の上部または下部に複数配置されている
請求項1に記載の映像音響装置。
【請求項3】
前記音像定位処理部は、前記表示部の上部または下部のうち、一方に低い周波数の音声成分の音像を定位し、他方に高い周波数の音声成分の音像を定位する
請求項2に記載の映像音響装置。
【請求項4】
前記表示部と視聴者との相対的な位置関係を測定する位置関係測定手段をさらに有し、
前記音像定位処理部は、その測定された位置関係に基づいて前記音像の定位位置を制御する
請求項1に記載の映像音響装置。
【請求項5】
前記音像定位処理部は、前記映像の内容に基づいて前記音像の定位位置を制御する
請求項1に記載の映像音響装置。
【請求項6】
前記音像定位処理部は、前記音声のうち、所定の周波数よりも高い周波数の音声成分の音像の定位位置を制御する
請求項1に記載の映像音響装置。
【請求項7】
前記所定の周波数は、音声の周波数帯域に基づいてあらかじめ設定される
請求項6に記載の映像音響装置。
【請求項8】
音声の周波数帯域を測定する周波数帯域測定手段をさらに有し、
前記所定の周波数は、前記周波数帯域に基づいて求められる
請求項6に記載の映像音響装置。
【請求項9】
前記音像定位処理部は、さらに、前記所定の周波数よりも高い周波数の音声成分の左右の音声信号の間に位相差を生じさせる
請求項6に記載の映像音響装置。
【請求項10】
前記音像定位処理部は、さらに、前記所定の周波数よりも低い周波数の音声成分を遅延させる
請求項6に記載の映像音響装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−119867(P2011−119867A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273800(P2009−273800)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】