説明

春巻皮の製造法

【課題】生地焼成時にベタつきや脆さがなく作業性が良好であり、かつ、油ちょう後の経時的な食感低下や電子レンジ等で再加熱した際の食感低下を抑制し、油ちょう直後と同等のパリパリとしてクリスピーでヒキがなく歯切れの良い食感を保持し、しかも酸味やえぐ味のない良好な風味を有する春巻皮の製造法を提供すること。
【解決手段】穀粉類を主原料とする春巻皮用生地のpHを3.0〜5.5の範囲または8.0〜10.5の範囲に調整した後、該生地のpHを6.0〜7.5の範囲に再調整して焼成することを特徴とする春巻皮の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、春巻皮の製造法、詳しくは春巻皮用生地のpHを2段階で調整する工程を含む春巻皮の製造法に関する。本発明の春巻皮の製造法によれば、生地焼成時にべたつきや脆さのない作業性の良好な生地が得られる。また、本発明の製造法により製造された春巻皮によれば、油ちょう後、数時間経過しても、また冷蔵若しくは冷凍保存した後に電子レンジ等で再加熱しても、油ちょう直後と同等の食感を保持し、しかも良好な風味を有する春巻が得られる。
【背景技術】
【0002】
従来、春巻は油ちょう後、放置しておくと、または冷蔵や冷凍で保存した後に電子レンジで再加熱すると、ゴム様のヒキがあり、パリパリ感の無い食感になるという問題があった。
この様な従来の春巻の問題を解決するために、種々の方法が提案されている。例えば、春巻皮の原料に関する提案として、小麦粉にα化度が10%以下の湿熱処理澱粉と糖を配合すること(特許文献1を参照)、春巻皮の原料粉中に、湿熱処理ハイアミロース澱粉等の膨潤度抑制澱粉を配合すること(特許文献2を参照)や、デキストリンまたは酸処理、熱処理、酵素処理等により低粘度化された低粘度澱粉を配合すること(特許文献3を参照)が提案されている。
しかし、これら先行技術の方法は、油ちょう調理後の経時的な食感低下や電子レンジ等で再調理した際の食感低下を抑制する効果が十分とはいえない。
また、特許文献4及び5には、春巻皮の原料小麦粉に関して、特定条件下で間接加熱処理した小麦粉(特許文献4を参照)または特定条件下で湿熱処理した小麦粉(特許文献5を参照)を使用することが提案されている。
【0003】
また、春巻皮等の原料にpH調整剤やアルカリ剤、酸性剤等を添加して春巻皮等の生地のpHを調整することも提案されている。例えば、ハルマキ用の皮等を含む麺類として、アミラーゼ阻害物質を添加し、可食状態にまでα化したときのpHを3〜6の範囲に調整した麺類(特許文献6を参照)、ワンタンの皮等を含む麺類として、特定量のグルコースオキシダーゼを添加し、生麺のpHを8以上とした麺類(特許文献7を参照)、ぎょうざやしゅうまい等を含む麺類の製造方法として、小麦粉に食用酢および多糖類を添加して改質弾性麺類を製造する方法(特許文献8を参照)、シューマイ皮等を含む小麦粉製品の品質改良方法として、小麦粉にフィチン酸を単独添加するか、フィチン酸とアルカリ剤とを併用添加することにより小麦粉製品の品質を改良する方法(特許文献9を参照)、シュウマイの皮、ラビオリの皮等を含む麺類用の食感改良剤として、カシアガムとアルカリ剤、pH調整剤等を含有する麺類用の食感改良剤(特許文献10を参照)が提案されている。しかし、これらの技術も、春巻皮に適用した場合、春巻の経時的な食感低下や電子レンジ等で再調理した際の食感低下を抑制する効果が十分に発揮されているとはいえない。また、pH調整剤やアルカリ剤、酸性剤に由来する酸味やえぐ味が感じられたり、生地焼成時に皮がベタついたり、脆くなり、作業性が悪くなることがあった。
【0004】
【特許文献1】特許第3142490号公報
【特許文献2】特開2003−199518号公報
【特許文献3】特開2004−121016号公報
【特許文献4】特開2007−151508号公報
【特許文献5】特開2007−166906号公報
【特許文献6】特許第3526361号公報
【特許文献7】特許第3805088号公報
【特許文献8】特開昭61−119151号公報
【特許文献9】特許第2682661号公報
【特許文献10】特開2003−339331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、生地焼成時にベタつきや脆さがなく作業性が良好であり、かつ、油ちょう後の経時的な食感低下や電子レンジ等で再加熱した際の食感低下を抑制し、油ちょう直後と同等のパリパリとしてクリスピーでヒキがなく歯切れの良い食感を保持し、しかも酸味やえぐ味のない良好な風味を有する春巻皮の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討した結果、生地のpHを酸性側またはアルカリ側に一旦調整した後、該生地のpHを中性側に再調整することにより、上記目的を達成し得る春巻皮が得られることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、穀粉類を主原料とする春巻皮用生地のpHを3.0〜5.5の範囲または8.0〜10.5の範囲に調整した後、該生地のpHを6.0〜7.5の範囲に再調整して焼成することを特徴とする春巻皮の製造法を提供するものである。
また、本発明は、上記の本発明の春巻皮の製造法により製造された春巻皮を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明春巻皮の製造法によれば、生地焼成時にベタつきや脆さがなく作業性が良好であり、かつ、油ちょう後の経時的な食感低下や電子レンジ等で再加熱した際の食感低下を抑制し、油ちょう直後と同等のパリパリとしてクリスピーでヒキがなく歯切れの良い食感を保持し、しかも酸味やえぐ味のない良好な風味を有する春巻皮が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において主原料として用いられる穀粉類としては、春巻皮の穀粉原料として通常用いられる小麦粉の他、そば粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、はとむぎ粉、ひえ粉、あわ粉等の穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉およびこれらのα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等の処理を施した加工澱粉等が挙げられる。
【0009】
本発明の春巻皮の製造に用いる原料としては、上記の主原料の穀粉類に、以下の(1)〜(3)の原料を1種類以上含有させることが好ましい。
(1)主原料の穀粉類100質量部に対し、外割りで0.5〜5質量部の糖類
(2)主原料の穀粉類100質量部に対し、外割りで1〜10質量部の油脂類
(3)主原料の穀粉類100質量部中に、内割りで2〜100質量部の熱処理小麦粉
【0010】
糖類を配合する場合、その配合量は、主原料の穀粉類100質量部に対し、外割りで、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは1〜3質量部である。糖類を0.5〜5質量部の範囲内で配合することにより、得られる春巻皮のパリパリとしたクリスピー感が一層向上する。配合に使用する糖類としては、例えば、ショ糖、ブドウ糖、果糖、デキストリン、水あめ、トレハロース、キシロース、マルトース、マルトオリゴ糖等が挙げられる。
【0011】
油脂類を配合する場合、その配合量は、主原料の穀粉類100質量部に対し、外割りで、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは2〜5質量部である。油脂類を1〜10質量部の範囲内で配合することにより、得られる春巻皮はヒキがなく歯切れの良い食感が一層向上する。配合に使用する油脂類としては、例えば、大豆油、なたね油、オリーブ油、パーム油等の植物油や豚脂、牛脂等の動物油脂またはそれらの硬化油等が挙げられる。
【0012】
熱処理小麦粉を配合する場合、その配合量は、主原料の穀粉類100質量部中に、内割りで、好ましくは2〜100質量部、より好ましくは10〜50質量部である。熱処理小麦粉を2〜100質量部の範囲内で内割りで配合することにより、得られる春巻皮はパリパリとしたクリスピー感が一層向上する。熱処理小麦粉の配合量が2質量部より少な過ぎると、添加効果がなくなり好ましくない。
【0013】
本発明で配合使用される熱処理小麦粉としては、例えば、特開2007−151508号公報に記載されている「小麦粉を密封容器中で攪拌しながら間接加熱処理して得られる熱処理小麦粉」、特開2007−166906号公報に記載されている「原料小麦の品温45〜95℃で1〜6分間湿熱処理した原料小麦を製粉して得られた湿熱処理小麦粉」、特開2001−120162号公報の〔0009〕に記載されている「小麦粉中に含まれる澱粉が実質的にα化されずに、かつそのグルテンバイタリティーが、未処理小麦粉のグルテンバイタリティーを100としたときに、70〜95となるように熱処理調整した熱処理小麦粉」等を用いるのが好ましい。なお、上記のグルテンバイタリティーは、特開平9−191847号公報に記載の測定法により求められる。
【0014】
本発明で用いられる春巻皮の原料には、主原料の穀粉類および上記の糖類、油脂類、熱処理小麦粉の他に、必要に応じて、他の成分を配合することができる。斯かる他の成分としては、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、例えば、卵、乳類、小麦蛋白、大豆蛋白、色素、増粘多糖類(ローカストビーンガム、ジェランガム、グアーガム、キサンタンガム、カラギーナン等)、アミノ酸(アラニン、グリシン、リジン等)、ベーキングパウダー、食塩、乳化剤、この他従来より春巻皮の原料に添加されている添加成分が挙げられ、これらの中から1種以上を選択して配合することができる。
【0015】
而して、まず、本発明においては、上記の春巻皮の原料を用い、春巻皮用生地を、該生地のpHが3.0〜5.5の範囲、好ましくは3.0〜4.5の範囲または8.0〜10.5の範囲、好ましくは9.0〜10.5の範囲になるように調整する。
このpHの調整により、生地中の澱粉や蛋白質に化学的変化が生じると考えられ、これが本発明の目的の一つである、油ちょう後の経時的な食感低下や電子レンジ等で再加熱した際の食感低下を抑制し、油ちょう直後と同等のパリパリとしてクリスピーでヒキがなく歯切れの良い食感を保持する春巻皮を得ることができるのである。
上記生地のpHが3.0未満であると、後でpHを再調整しても、生地焼成時の作業性が悪く、酸味が残ってしまう。また、上記生地のpHが5.5超〜8.0未満であると、春巻を油ちょうした後の経時的な食感低下が大きくなり、また電子レンジ等で再加熱した際の食感低下が大きい。また、上記生地のpHが10.5超であると、後でpHを再調整しても、生地焼成時の作業性が悪く、アルカリ剤に由来するえぐ味が残ってしまう。
【0016】
上記生地のpHの調整は、生地のpHを酸性側(3.0〜5.5の範囲)に調整する場合は酸性剤を用い、生地のpHをアルカリ側(8.0〜10.5の範囲)に調整する場合はアルカリ剤を用いて、それぞれ調整すればよい。
上記酸性剤としては、例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、フマル酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸およびこれらの塩類等の通常食品に用いられるものを使用すればよく、これらは単独使用しても2種以上併用してもよい。
また、上記アルカリ剤としては、例えば、かんすい、炭酸塩、重炭酸塩、リン酸塩、縮合リン酸塩、焼成カルシウム、塩基性アミノ酸等の通常食品に用いられるものを使用すればよく、これらは単独使用しても2種以上併用してもよい。
【0017】
上記pHを有する生地の作成は、従来の春巻皮用生地の製造法に従って春巻皮用生地を製造する際に、上記の酸性剤またはアルカリ剤を上記のpH値の範囲内になるように所定量添加すればよい。上記の酸性剤またはアルカリ剤の添加時期は、原料配合時に原料配合に使用してもよく、生地調製時に添加してもよく、または一旦生地を調製した後に該生地に添加してもよい。
【0018】
pHを酸性側(3.0〜5.5の範囲)またはアルカリ側(8.0〜10.5の範囲)に調整した春巻皮用生地を、次いで、そのpHを6.0〜7.5の範囲、好ましくは6.0〜7.0の範囲に再調整する。
再調整した生地のpHが6.0未満であると、生地焼成時の作業性が悪く、酸味が残ってしまう。また再調整した生地のpHが7.5超であると、生地焼成時の作業性が悪く、アルカリ剤に由来するえぐ味が残ってしまう。
【0019】
上記生地のpHの再調整は、生地のpHが酸性側にある場合はアルカリ剤を、生地のpHがアルカリ側にある場合は酸性剤を、それぞれ添加して行えばよい。
また、上記生地のpHの再調整は、生地のpHを酸性側(3.0〜5.5の範囲)またはアルカリ側(8.0〜10.5の範囲)に調整直後に、さらにアルカリ剤(生地のpHが酸性側にある場合)または酸性剤(生地のpHがアルカリ側にある場合)を添加して行ってもよく、また生地のpHを酸性側(3.0〜5.5の範囲)またはアルカリ側(8.0〜10.5の範囲)に調整した後、数時間〜一晩置いてから行ってもよく、また生地の焼成直前に行ってもよい。
【0020】
次いで、pHを再調整した春巻皮用生地を焼成することにより、本発明の春巻皮が得られる。
生地の焼成は、常法に従って行えばよく、例えば、流動状生地を、回転する加熱ドラム上に膜状に落下させて焼成すればよい。
【0021】
本発明の春巻皮は、従来の春巻皮と同様にして春巻の製造に用いられる。また、本発明の春巻皮を用いて製造された春巻は、冷凍保存または冷蔵保存することができ、その場合、本発明の春巻皮で具材を包み込んだ後、油ちょうせずに冷凍保存または冷蔵保存してもよく、油ちょうしてから冷凍保存または冷蔵保存してもよい。油ちょうせずに冷凍保存または冷蔵保存した春巻は、冷凍保存または冷蔵保存後、油ちょうして食に供される。また、油ちょうしてから冷凍保存または冷蔵保存した春巻は、冷凍保存または冷蔵保存後、再油ちょうしてもよく、電子レンジ等のマイクロ波加熱処理してもよい。
【実施例】
【0022】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例および比較例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
〔実施例1〜10〕
下記の基本配合をもとにし、実施例7〜10では表2に示すその他の成分を添加し、それぞれ流動状の春巻皮用生地を作成した。得られた生地の粘度が、実施例1〜10の全てにおいてほぼ同じになるように、下記の基本配合の量の水にさらに水を加えて生地の粘度を調整した。次いで生地のpHの調整を、酸性側は酢酸を用いて、アルカリ側は炭酸ナトリウムを用いて、それぞれ行った。その後、酸性側にpH調整した生地については、炭酸ナトリウムを用いて、アルカリ側にpH調整した生地については、酢酸を用いて、それぞれ中性付近にpHを再調整した。次いで、pHを再調整した生地を、ドラム型焼成機を用い、該ドラム面上で焼成し、厚さ0.5〜0.55mmの帯状の春巻皮をそれぞれ製造した。
【0024】
・基本配合
小麦粉(日清製粉株式会社製、「特ナンバーワン」)100質量部
食塩 1質量部
水 125質量部
【0025】
この帯状の春巻皮を190mm×190mmにカットし、この春巻皮の上に予め調理しておいた具材を載せ、巻き上げて、揚げ用春巻をそれぞれ20個製造した。この揚げ用春巻の各10個を−40℃で完全に冷凍し、残りの各10個を175〜180℃のサラダ油で油ちょうした後、−40℃で完全に冷凍した。これらを−20℃で14日間冷凍保存後、油ちょうせずに冷凍したものについては、175〜180℃のサラダ油で油ちょうして、4時間常温(25℃)放置した後、食感官能試験に供し、油ちょうして冷凍したものについては、家庭用500Wの電子レンジで1本当たり30秒間再加熱して、食感官能試験に供した。
【0026】
食感官能試験は、10名のパネラーに春巻を食した際のパリパリ感、ヒキおよび食味を下記表1の評価基準により評価させた。その評価結果(パネラー10人の平均点)を表2に示す。また、表2には、生地焼成時の作業性について、下記表1の評価基準により評価した結果を併せて記載した。
【0027】
〔比較例1〜7〕
実施例1〜10において、はじめの生地のpHの調整を表3に示す値にし、pHの再調整を行わなかった以外は、実施例1〜10と同様にして製造し、評価を行ったものを比較例1、2および5とした。
また、実施例1〜10において、はじめの生地のpHの調整を表3に示す値にし、pHの再調整を表3に示すように行った以外は、実施例1〜10と同様にして製造し、評価を行ったものを比較例3、4および6、7とした。
これらの比較例1〜7の結果を表3に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類を主原料とする春巻皮用生地のpHを3.0〜5.5の範囲または8.0〜10.5の範囲に調整した後、該生地のpHを6.0〜7.5の範囲に再調整して焼成することを特徴とする春巻皮の製造法。
【請求項2】
春巻皮用生地の原料中に下記(1)〜(3)の原料を1種類以上含有させる、請求項1記載の春巻皮の製造法。
(1)主原料の穀粉類100質量部に対し、外割りで0.5〜5質量部の糖類
(2)主原料の穀粉類100質量部に対し、外割りで1〜10質量部の油脂類
(3)主原料の穀粉類100質量部中に、内割りで2〜100質量部の熱処理小麦粉
【請求項3】
請求項1または2記載の春巻皮の製造法により製造された春巻皮。