説明

晶析によるりん回収装置の制御装置及びその方法

【課題】
余剰汚泥から放出されるりん酸が最大になるように沈殿槽における滞留時間を管理し、放出されたりん酸に見合った適正なカルシウムを注入できる晶析によるりん回収装置の制御装置及びその方法を提供する。
【解決手段】
晶析によるりん回収装置の制御装置であって、活性汚泥プロセスに設置した水質計測器で計測されたデータから余剰汚泥中のりん酸含有量を演算するりん酸含有量演算手段200と、りん酸含有量演算手段200により演算されたりん酸含有量,余剰汚泥濃度計で計測された余剰汚泥濃度を含む計測データから沈殿槽4内のりん酸放出速度を演算し、演算されたりん酸放出速度から余剰汚泥の沈殿槽4への流入量設定値を演算するりん酸放出速度演算手段11と、りん酸放出速度演算手段11により演算された流入量設定値に基づいて沈殿槽4へ流入する余剰汚泥流量を制御する流入量制御手段12を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性汚泥プロセスの余剰汚泥を沈殿槽に沈降滞留させ、沈殿槽の上澄み液を晶析槽に導いてカルシウムを添加し、りん酸カルシウムとして回収する晶析によるりん回収装置の制御装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
りんは、動植物に不可欠な栄養塩類であるが、地球上のりん鉱石の埋蔵量は有限であり、100年後には枯渇すると予測されている。そのため、りんの回収と再利用は重要な課題となっている。
【0003】
動植物性の生活排水が流れる下水には、低濃度のりんが含まれているため、下水処理場の活性汚泥プロセスから排出される余剰汚泥や廃液から、りんを回収する技術の研究と実験が進められている。
【0004】
回収されたりん酸カルシウムは、肥料,食品添加物,試薬の他、様々の産業に利用可能であることから、溶解性のりん酸(PO4−P)に、カルシウム(Ca)を添加して、不溶性のりん酸カルシウムとして回収する方法(以下、晶析りん回収法という)について、種々の試みがなされている。
【0005】
例えば、活性汚泥プロセスの1つである嫌気好気法では、流入下水中に含まれる溶解性りんを、活性汚泥と呼ばれる微生物群内にポリりん酸として貯蔵して、下水中から除去している。従って、活性汚泥プロセスから引き抜いた余剰汚泥を沈殿槽で沈降させて固液分離し、余剰汚泥からりん酸を放出させた沈殿槽の上澄み液にカルシウムを添加することにより、りん酸カルシウムを回収することができる。このような、余剰汚泥を利用した晶析りん回収法では、余剰汚泥から、りん酸を十分に放出させるプロセスと、りん酸量に見合ったカルシウムを添加するプロセスの適切な運転が不可欠である。
【0006】
余剰汚泥から、りん酸カルシウムを回収する従来の技術には、〔特許文献1〕に記載のように、有機性廃液の生物処理装置から排出される余剰汚泥の少なくとも一部を生物的に消化し、消化汚泥を可溶化する余剰汚泥処理手段と、余剰汚泥処理手段の液分を分離する固液分離手段と、固液分離手段からの分離水を脱リンする脱リン手段とを有し、脱リン手段からの処理水の一部を余剰汚泥処理手段へ返送する返送手段を備えた有機性廃液処理装置が提案されている。
【0007】
又、りん含有排水に注入するカルシウムを制御する従来の技術には、〔特許文献2〕に記載のように、リン含有排水を反応晶析槽内に導入し、カルシウム化合物とアルカリ剤の少なくとも1つを添加し、リン酸カルシウムを含有する結晶種の流動床を形成しながらリン酸含有排水中のリンと結晶種とを接触させて、リン酸含有排水中のリンをリン酸カルシウム化合物として分離し、反応晶析槽内に導入されるリン含有排水の流量に応じて反応晶析槽内に注入するカルシウム化合物とアルカリ剤の少なくとも1つの量をフィードフォワード制御する晶析脱リン方法が提案されている。
【0008】
又、〔特許文献3〕に記載のように、原水のオルトリン酸イオン濃度を測定し、固体粒子充填容積当りのリン負荷を制御して、カルシウムを添加するリン酸回収方法がある。
【0009】
【特許文献1】特開2007−50387号公報
【特許文献2】特開2003−190967号公報
【特許文献3】特開2005−254053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
流入下水中のりん酸量は、人間の社会活動,産業活動の影響を受け、また、時間,天候,季節などの自然界の影響を受けて大きく変動するため、活性汚泥プロセスから排出された余剰汚泥中のりん酸含有量も変動する。このため、余剰汚泥を沈殿槽で滞留した時のりん酸放出量は一定ではなく、沈殿槽におけるりん酸放出速度は、余剰汚泥中のりん酸含有量,余剰汚泥濃度,液中の有機物濃度に大きく依存する。
【0011】
よって、晶析法により余剰汚泥からりん酸を高効率で回収するには、上述したように、流入する余剰汚泥中のりん酸含有量を把握し、りん酸を適切に放出させる運転を実施する必要がある。
【0012】
〔特許文献1〕に記載の有機性廃液処理装置では、余剰汚泥からりん酸を放出させる手段に関しては何ら記載が無く、余剰汚泥からりん酸を回収する装置の運転管理には適用できない。又、りん酸量変動に対するカルシウム注入方法についても記載されていない。
【0013】
一方、〔特許文献2〕には、りん含有排水の流量に応じて注入するカルシウム注入量をフィードフォワード制御する方法が提案されている。しかし、〔特許文献2〕に記載の晶析脱リン方法では、リン含有排水の流量に応じて制御しているため、りん酸量が変動した場合は、りん酸量に見合った適正なカルシウム量を注入できないという問題がある。又、〔特許文献3〕に記載のリン酸回収方法は、原水のオルトリン酸イオン濃度を測定しているもので、余剰汚泥からりん酸を回収する装置の運転管理には適用できないという問題がある。
【0014】
このため、カルシウムの注入不足によるりん回収率の低下、逆に、カルシウム過剰注入による排水カルシウム残留が避けられない。特に、排水中に残留したカルシウムは、りん回収装置,バルブ,配管内に析出して悪影響を及ぼすだけでなく、水環境への悪影響も大きい。
【0015】
このように、〔特許文献1〕,〔特許文献2〕に記載の従来の技術では、余剰汚泥からのりん回収には、りん酸放出の把握とカルシウム注入の適正化が重要であるにも関わらず何ら対応されていないため、余剰汚泥から、りん酸を回収する装置を適切に運用することはできないという問題がある。
【0016】
りん酸の計測については、溶解性りん酸であれば、膜ろ過で汚泥を分離した後に計測する手法を自動化したセンサが実用化されつつある。しかし、余剰汚泥に含まれたりん酸量の計測については、余剰汚泥を乾燥させた後に、元素分析器などを使用してりん成分を計測するという手分析で計測せざるを得ないため、連続運転しているりん回収装置の運転に反映することは不可能であった。
【0017】
このように、りん回収効率を高く安定させるには、余剰汚泥から放出されるりん酸が最大となるように沈殿槽における滞留時間を管理し、放出されたりん酸に見合った適正なカルシウムを注入せねばならない。沈殿槽での滞留時間が短いと、りん酸放出が不十分になり、長すぎると、余剰汚泥の腐敗を招くので適正な管理が求められるが、従来の技術では実現できないという課題があった。
【0018】
本発明の目的は、余剰汚泥のりん酸含有量を演算し、りん酸含有量からりん酸放出速度を求めて、りん酸放出が最大となるように沈殿槽への余剰汚泥流量を制御できるりん回収装置の制御装置及びその方法を提供することにある。
【0019】
本発明の他の目的は、放出されたりん酸に見合った適正なカルシウムを注入でき、りん酸回収効率向上を可能とする晶析によるりん回収装置の制御装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明は、活性汚泥プロセスの余剰汚泥を沈殿槽で沈降滞留させて、上澄み液を晶析槽に導き、カルシウムを添加してりん酸カルシウムとして回収するりん回収装置を制御するために、余剰汚泥中のりん酸含有量を演算するりん酸含有量演算手段と、りん酸放出速度を演算するりん酸放出速度演算手段と、沈殿槽へ流入する余剰汚泥量を制御する流入量制御手段と、晶析槽へ注入するカルシウム注入量を制御するカルシウム注入制御手段とを備え、りん酸放出速度演算手段は、りん酸含有量演算手段により演算されたりん酸含有量に基づいて余剰汚泥の流入量設定値を演算し、この演算結果により流入量制御手段により沈殿槽へ流入する余剰汚泥量を制御するものである。
【0021】
また、りん酸放出速度演算手段は、りん酸含有量演算手段により演算されたりん酸含有量に基づいてりん酸濃度を演算し、演算されたりん酸濃度に基づいてカルシウム注入制御手段によりカルシウム注入量を制御するものである。
【0022】
また、りん酸含有量演算手段は、活性汚泥プロセスの嫌気槽りん酸と好気槽りん酸から、余剰汚泥に蓄積されたりん酸を演算するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、余剰汚泥に貯蔵されたりん酸の変動や、晶析槽に流入するりん酸の変動が発生しても、安定かつ高効率でりんを回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の一実施例を図1から図4により説明する。図1は、本実施例の晶析によるりん回収装置の構成図である。
【0025】
図4に一例として示す活性汚泥プロセスから排出された余剰汚泥が流入する流路1には、余剰汚泥濃度計2,流量計20,流量調節ゲート3が順次接続され、流量調節ゲート3には分岐された流路6により複数の沈殿槽4a,4bが並列に接続されている。沈殿槽4には、濃縮汚泥の引抜きを行うための流路7が接続されている。分岐された流路6は沈殿槽4a,4bの下流側で合流し、流量計9が設けられた流路15により晶析槽5に接続されている。晶析槽5には排水のための流路16及びリン酸カルシウムを回収するための流路8が接続されている。
【0026】
余剰汚泥濃度計2は、りん酸含有量演算手段200に接続されたりん酸放出速度演算手段11に接続され、りん酸放出速度演算手段11は、流量計20から信号を入力し、流量調節ゲート3に制御信号を出力する流量制御手段12、並びに流量計9から信号を入力し、カルシウム注入機10に制御信号を出力するカルシウム注入制御手段14に接続されている。カルシウム注入機10は、晶析槽5にカルシウムの注入を行う。
【0027】
活性汚泥プロセスから排出され、流路1を流れる余剰汚泥は、流量調節ゲート3により調節された流量で、沈殿槽4a,4bに流入する。余剰汚泥は、沈殿槽4に流入して沈降し、濃縮された余剰汚泥と汚泥を含まない上澄み液に分離される。沈殿槽4内を酸素のない嫌気状態に維持すると、余剰汚泥内の微生物が貯蔵していたりん酸が液中に放出される。余剰汚泥を沈殿槽4に滞留させて固液分離すると、上澄み液には放出されたりん酸が溶解している。
【0028】
沈殿槽4に沈殿した余剰汚泥は、流路7により濃縮汚泥として沈殿槽4から引き抜かれて処分される。濃縮汚泥の引き抜きは、一定量で連続的に行ってもよく、間欠的に行ってもよい。流入した余剰汚泥の固形物量を演算して、演算された固形物量に基づいて濃縮汚泥の引き抜き量が決定される。
【0029】
沈殿槽4から流出した上澄み液は、流路15により晶析槽5に送られ、カルシウム注入機10から注入されたカルシウムと混合されて、りん酸カルシウムを生成する。晶析槽5で生成したりん酸カルシウムは、流路8により連続的あるいは間欠的に晶析槽5から回収される。
【0030】
りん酸含有量演算手段200は、下水処理場の活性汚泥プロセスに設置した水質計測器で計測されたデータから、後述する数7により、余剰汚泥に貯蔵されたりん酸含有量を演算して、りん酸放出速度演算手段11に送信する。
【0031】
りん酸放出速度演算手段11は、余剰汚泥濃度計2で計測された余剰汚泥濃度などの計測データ,りん酸含有量などの演算結果,初期設定データを用いて、後述する数2により、沈殿槽4内のりん酸放出速度を演算し、この演算結果に基づいて、沈殿槽4a,4bへの余剰汚泥の流入量設定値を演算して、演算結果を流量制御手段12に送信する。
【0032】
流量制御手段12は、受信した流入流量設定値と、流量計20で計測された余剰汚泥流量計測値により、流量調節ゲート3の開度を制御して沈殿槽4a,4bへの流入量を設定値となるように制御する。
【0033】
一方、りん酸放出速度演算手段11は、余剰汚泥濃度計2で計測された余剰汚泥濃度,りん酸含有量などのデータ,沈殿槽容積や演算用係数などの初期設定データを用いて、後述する数5により、沈殿槽4で分離された上澄み液に含まれるりん酸濃度を演算し、カルシウム注入制御手段14に送信する。
【0034】
カルシウム注入制御手段14は、受信したりん酸濃度を用いて後述する数6によりカルシウム注入率を演算し、演算されたカルシウム注入率と、流量計9で計測された晶析槽5へ流入する上澄み液の流入流量からカルシウム注入量を演算して、演算結果をカルシウム注入機10に送信する。カルシウム注入機10は、注入弁の弁開度などを制御することにより、設定されたカルシウム注入量を晶析槽5に注入する。
【0035】
図2は、本実施例のりん酸放出速度演算手段11の構成図である。図2に示すように、りん酸放出速度演算手段11は、主としてCPU111,入出力部100,メモリ112で構成される。
【0036】
メモリ112には、自己分解による有機物演算114,りん酸放出速度演算115,りん酸放出に必要な時間演算116,余剰汚泥流量演算117,りん酸放出量演算118などのプログラム群と、データベース113が格納されている。
【0037】
入出力部100は、通信インタフェースであり、ネットワーク120を介して端末119,りん酸含有量演算手段200,余剰汚泥濃度計2,流量制御手段12,カルシウム注入制御手段14と接続している。入出力部100を介して、相互に送受信し、データベース113のデータを更新する。
【0038】
CPU111は、メモリ112に格納されたプログラム群を定周期あるいはイベント発生で実行し、りん酸含有量演算手段200で演算されたりん酸含有量データと、余剰汚泥濃度計2で計測された余剰汚泥濃度データを入力して、余剰汚泥流量とりん酸放出量を演算して、演算結果をそれぞれ流量制御手段12,カルシウム注入制御手段14に送信する。
【0039】
図3は、りん酸放出速度演算手段11の演算フローを示す流れ図である。りん酸放出速度演算手段11のCPU111は、メモリ112のプログラムを例えば次のようなステップにて実行する。
【0040】
ステップS1では、データベース113から計測値,沈殿池容積や晶析槽容積などの装置構造、演算式の定数を読み出す。ステップS2では、自己分解による有機物演算114のプログラムにより、例えば数1により、余剰汚泥が自己分解して生成される有機物量を計算する。
【0041】
【数1】

【0042】
ここで、Oは自己分解有機物濃度(gCOD/m3)、bは自己分解速度(1/h)、Xは余剰汚泥濃度(gSS/m3)、βは自己分解に伴う有機物生成割合(gCOD/gSS)である。COD(Chemical Oxygen Demand)は、化学的酸素要求量のことで有機物量を表し、SS(Susupended Solid)は、水中の浮遊固形物量のことで余剰汚泥量を表す。
【0043】
ステップS3では、りん酸放出速度演算115のプログラムにより、例えば数2により、余剰汚泥に含まれるりん酸の放出速度を計算する。余剰汚泥の液中には有機物がほとんど含まれていないため、数2に示す有機物濃度Aには、数1の自己分解有機物濃度Oを使用する。
【0044】
【数2】

【0045】
ここで、Vはりん酸放出速度(gP/m3/h)、qは最大比リン放出速度(gP/gSS/h)、Aは有機物濃度(gCOD/m3)、Rはりん酸含有量(gP/gSS)、Xは余剰汚泥濃度(gSS/m3)、Ksは有機物飽和定数(gCOD/m3)、Kppはポリリン酸含有量飽和定数(gP/gSS)である。
【0046】
ステップS4では、りん酸放出に必要な時間演算116のプログラムにより、例えば数3にて余剰汚泥に含まれるりん酸を放出するのに必要な沈殿槽における滞留時間を計算する。
【0047】
【数3】

【0048】
ここで、Tは滞留時間(h)、Rはりん酸含有量(gP/gSS)、Xは余剰汚泥濃度(gSS/m3)、Vはりん酸放出速度(gP/m3/h)である。
【0049】
ステップS5では、余剰汚泥流量演算117のプログラムにより、例えば数4にて余剰汚泥流量を制御するための余剰汚泥の流入量設定値を計算する。
【0050】
【数4】

【0051】
ここで、Fは余剰汚泥の流入量設定値(m3/h)、Cは沈殿槽容積(m3)、Tは滞留時間(h)である。
【0052】
数4で得られる余剰汚泥の流入量設定値Fは、数3で計算された滞留時間Tとなるように制御する場合の設定値であり、Fより小さい値であっても余剰汚泥の腐敗が生じない範囲で設定することが可能である。
【0053】
このように、余剰汚泥の流入量を設定しているので、余剰汚泥からりん酸を十分に放出することができ、余剰汚泥の腐敗を防ぐことができる。
【0054】
ステップS6では、りん酸放出量演算118のプログラムにより、例えば数5により、沈殿槽4から流出する上澄み液のりん酸濃度を計算する。
【0055】
【数5】

【0056】
ここで、Piはりん酸濃度(gP/m3)、Rはりん酸含有量(gP/gSS)、Xは余剰汚泥濃度(gSS/m3)である。
【0057】
ステップS7では、計算結果をデータベース113に保存する。
【0058】
数4で計算された余剰汚泥の流入量設定値は、流量制御手段12に送られる。流量制御手段12は、流量調節ゲート3を制御して、沈殿槽4a,4bへの余剰汚泥の流入量を制御する。
【0059】
又、数5で計算されたりん酸濃度は、カルシウム注入制御手段14に送られる。カルシウム注入制御手段14は、例えば数6によりカルシウム注入率を計算し、カルシウム注入機10を制御して、晶析槽5へのカルシウム注入量を制御する。
【0060】
【数6】

【0061】
ここで、Wはカルシウム注入率(gCa/m3)、Piはりん酸濃度(gP/m3)、K1,K2は係数である。係数K1,K2は、カルシウムとりんのモル比から設定した係数、或いは実験により確認された係数が用いられる。
【0062】
上述したように、このようにして算出されたカルシウム注入率Wと、流量計9で計測された晶析槽5へ流入する上澄み液の流入流量の積でカルシウム注入量が算出される。
【0063】
図4は、りん酸含有量演算手段200の構成図である。図4は、活性汚泥プロセスの1つである嫌気好気法を適用した例である。
【0064】
本実施例の活性汚泥プロセスは、図4に示すように、流入下水が流れる流路210が接続された嫌気槽203、嫌気槽203に隣接された好気槽204で構成される生物反応槽、生物反応槽に接続された最終沈殿池205、最終沈殿池205に接続され放流水を流す流路206、最終沈殿池205から嫌気槽203に返送汚泥を流すための流路207、余剰汚泥を抜き出すための流路208、嫌気槽203の出口に設置された水質計201、好気槽204の出口に設置された水質計202、水質計201,202に接続されたりん酸含有量演算手段200で構成される。
【0065】
嫌気好気法は、嫌気槽203,好気槽204を有する生物反応槽、最終沈殿池205で構成される。都市下水や産業排水、及び雨水を含む流入下水は、最初沈殿池(図示せず)で、固形物が沈降除去され、有機物,りん,アンモニア性窒素などを含む上澄み液が、嫌気槽203へ流路210により流入下水として送られる。
【0066】
嫌気槽203は、溶存酸素が存在しない嫌気状態に維持され、活性汚泥から細胞内に貯蔵していた、りん酸が液中に放出される。りん酸放出時に、活性汚泥は有機物を吸着し、細胞内に蓄積する。このため、嫌気槽203では、りんが増加し有機物が減少する。
【0067】
嫌気槽203の混合液は、好気槽204に導かれる。好気槽204には送風機から供給された空気を噴射し、混合液を攪拌するとともに活性汚泥中に酸素を供給する。好気状態において活性汚泥は、吸着した有機物及び混合液中の有機物を水と炭酸ガスに酸化分解する。又、混合液中のりん酸を細胞内に摂取する。りん酸摂取量は、通常、嫌気槽203で放出した以上の過剰摂取となるため、嫌気好気法のプロセス全体では液体中のりん酸が減少し、活性汚泥中のりん酸は増加する。好気槽204から流出した混合液は最終沈殿池205に導かれ、混合液中の活性汚泥が重力沈降する。上澄液は、処理水として消毒殺菌後、河川や海洋に放流される。
【0068】
沈殿した活性汚泥は高濃度となり、大部分を返送汚泥として流路207により嫌気槽203に戻される。嫌気槽203,好気槽204では、反応に対応して活性汚泥中の微生物が増殖し、活性汚泥濃度を増加させるが、この増殖分に相当する汚泥を余剰汚泥として流路208によりプロセス系外に排出する。余剰汚泥中に保持されているりん酸は、プロセス全体のりん除去量に相当する。
【0069】
活性汚泥のりん酸摂取,放出は、流入下水の水質や流量,プラントの運転条件、或いは活性汚泥の管理条件で変化し、徐々に、あるいは突発的に変動する。
【0070】
嫌気槽203の出口には水質計201、好気槽204の出口には水質計202が配置されており、りん酸濃度と活性汚泥濃度を計測する。りん酸含有量演算手段200は、水質計201,202で計測されたデータに基づいて、例えば数7により、活性汚泥中に貯蔵されるりん酸含有量を計算する。
【0071】
【数7】

【0072】
ここで、Rはりん酸含有量(gP/gSS)、P1は嫌気槽流出(末端)りん濃度(gP/m3)、S1は嫌気槽流出(末端)汚泥濃度(gSS/m3)、P2は好気槽流出(末端)りん濃度(gP/m3)、S2は好気槽流出(末端)汚泥濃度(gSS/m3)、δは微生物細胞リン含有率(gP/gSS)である。
【0073】
活性汚泥プロセスの嫌気槽203の出口から好気槽204の出口におけるりん濃度の変化から、活性汚泥に貯蔵されたりん酸含有量Rは、余剰汚泥に含有されたりん酸含有量として使用する。本実施例では最終沈殿池205における反応を含めていないが、流路206からの放流水、流路208からの余剰汚泥に水質計を配置することにより、最終沈殿池205に滞留した活性汚泥中のりん酸含有量を計算しても良い。
【0074】
りん酸含有量演算手段200での計算の他の例として、活性汚泥プロセス全体をモデル化したプログラムを利用してりん酸含有量を演算しても良い。例えば、国際水環境協会(IWA)が発表している「活性汚泥モデル」などのモデルを適用して、流入条件(水量,有機物,リン,窒素,水温,アルカリ度,汚泥量など),施設仕様(土木寸法,槽分割,配管(循環,流入ステップ)など),操作量(返送量,余剰量,循環量,送風量),汚泥条件(汚泥濃度,汚泥沈降率),薬品添加量などを初期条件として、余剰汚泥のりん酸含有量を計算させても良い。
【0075】
本実施例では、余剰汚泥の流入量制御を一例として説明したが、沈殿槽を複数配置し、槽数を制御して沈殿槽滞留時間を調節しても良い。
【0076】
なお、本実施例では、下水処理場活性汚泥プロセスの余剰汚泥を原料とした適用例を説明したが、一般の事業所排水処理における活性汚泥プロセスに適用する場合でも、個別の情報内容や項目は異なるが、基本的な方法は同様に適用することができる。
【0077】
本実施例によれば、余剰汚泥に貯蔵されたりん酸の変動や、晶析槽に流入するりん酸の変動が発生しても、安定かつ高効率でりんを回収できる。
【0078】
又、カルシウム過剰注入を防止できるので、排水中の残留カルシウムを低減でき、カルシウム注入コストの抑制だけでなく水環境保全に大きく貢献できる。残留カルシウムの析出低減により、りん回収装置の延命化,ライフサイクルコスト低減にも繋がる。
【0079】
又、安定してりん酸カルシウムを生成できるので、需要先に安定して供給できる体制を整えることができ、有用で有限な資源のリサイクルネットワークを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の一実施例による晶析によるりん回収装置の構成図。
【図2】本実施例のりん酸放出速度演算手段の構成図。
【図3】本実施例のりん酸放出速度演算手段の演算フロー図。
【図4】本実施例のりん酸含有量演算手段の構成図。
【符号の説明】
【0081】
1,6,7,8,15,16,206,207,208,210 流路
2 余剰汚泥濃度計
3 流量調節ゲート
4 沈殿槽
5 晶析槽
10 カルシウム注入機
11 りん酸放出速度演算手段
12 流量制御手段
14 カルシウム注入制御手段
100 入出力部
111 CPU
112 メモリ
113 データベース
114 自己分解による有機物演算
115 りん酸放出速度演算
116 りん酸放出に必要な時間演算
117 余剰汚泥流量演算
118 りん酸放出量演算
119 端末
120 ネットワーク
200 りん酸含有量演算手段
201,202 水質計
203 嫌気槽
204 好気槽
205 最終沈殿池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥プロセスの余剰汚泥を沈殿槽で沈降滞留させて、上澄み液を晶析槽に導き、カルシウムを添加してりん酸カルシウムとして回収する晶析によるりん回収装置の制御装置であって、前記活性汚泥プロセスに設置した水質計測器で計測されたデータから余剰汚泥中のりん酸含有量を演算するりん酸含有量演算手段と、該りん酸含有量演算手段により演算されたりん酸含有量、余剰汚泥濃度計で計測された余剰汚泥濃度を含む計測データから前記沈殿槽内のりん酸放出速度を演算し、該演算されたりん酸放出速度から余剰汚泥の前記沈殿槽への流入量設定値を演算するりん酸放出速度演算手段と、該りん酸放出速度演算手段により演算された流入量設定値に基づいて前記沈殿槽へ流入する余剰汚泥流量を制御する流入量制御手段を備えた晶析によるりん回収装置の制御装置。
【請求項2】
前記晶析槽にカルシウムを注入するカルシウム注入機のカルシウム注入量を制御するカルシウム注入制御手段を具備し、前記りん酸含有量演算手段により演算されたりん酸含有量、余剰汚泥濃度計で計測された余剰汚泥濃度から前記沈殿槽から流出する上澄み液のりん酸濃度を算出し、前記カルシウム注入制御手段は、算出されたりん酸濃度に基づいてカルシウム注入量を算出して前記カルシウム注入機のカルシウム注入量を制御する請求項1に記載の晶析によるりん回収装置の制御装置。
【請求項3】
前記りん酸含有量演算手段は、前記活性汚泥プロセスの嫌気槽で計測されたりん酸濃度と好気槽で計測された活性汚泥濃度から、前記余剰汚泥に蓄積されたりん酸含有量を演算する請求項1又は2に記載の晶析によるりん回収装置の制御装置。
【請求項4】
りん酸含有量演算手段で、活性汚泥プロセスに設置した水質計測器で計測されたデータから沈殿槽で沈降滞留させる余剰汚泥中のりん酸含有量を演算し、りん酸放出速度演算手段で、前記りん酸含有量演算手段により演算されたりん酸含有量、余剰汚泥濃度計で計測された余剰汚泥濃度を含む計測データから前記沈殿槽内のりん酸放出速度を演算し、該演算されたりん酸放出速度から余剰汚泥の前記沈殿槽への流入量設定値を演算し、流入量制御手段で、前記りん酸放出速度演算手段により演算された流入量設定値に基づいて前記沈殿槽へ流入する余剰汚泥流量を制御し、上澄み液を晶析槽に導き、カルシウムを添加してりん酸カルシウムとして回収する晶析によるりん回収装置の制御方法。
【請求項5】
前記りん酸放出速度演算手段は、前記りん酸含有量演算手段により演算されたりん酸含有量に基づいて前記上澄み液のりん酸濃度を演算し、カルシウム注入制御手段で、前記演算されたりん酸濃度によりカルシウム注入機のカルシウム注入量を制御する請求項4に記載の晶析によるりん回収装置の制御方法。
【請求項6】
前記りん酸含有量演算手段は、前記活性汚泥プロセスの嫌気槽で計測されたりん酸濃度と好気槽で計測された活性汚泥濃度から、前記余剰汚泥に蓄積されたりん酸含有量を演算する請求項4又は5に記載の晶析によるりん回収装置の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−64030(P2010−64030A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234162(P2008−234162)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】