説明

暗色多孔質焼結体およびその製造方法

【課題】本発明は、Al基の多孔質焼結体において、暗色のものを得ること、そのための製造方法の提供。
【解決手段】TiO(1.5≦x<2.0)を0.1〜10質量%含有し、残部がAlからなる連続した開気孔を有する暗色多孔質焼結体、そのAlの一部をMgOに置換した暗色多孔質焼結体。暗色多孔質焼結体を、真空チャック、成膜用治具、フィルターに用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体中を貫通する多数の気孔を有すAlおよびTiO(1.5≦x<2.0)からなる暗色多孔質焼結体およびその製造方法、並びにその暗色多孔質焼結体を用いた真空チャック、成膜用治具およびフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ基の多孔質焼結体は、現在までに多数提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、AlおよびAl−MgO系の多孔質焼結体を、平均粒子径のピークを2つもつ粉末を用いて製作する方法が示されている。
【0004】
特許文献2には、外観上の問題を解決するために、コーディライトにFe、Mn、TiOなどを添加して、茶褐色や黒褐色の浄化用触媒担体が述べられている。
【0005】
この方法は、焼結方法は明記されていないが、酸化物主体の組成であるので、大気雰囲気焼結と考えられる。焼結後の色も、茶褐色および黒褐色と酸化物の色が示されている。
【特許文献1】特開2004−315358号公報
【特許文献2】特開昭61−178038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルミナ基の材料は、基本的に白色を基とする材料であるために、白色に近い色のウェハー、スラリー、粉末、塵などを肉眼及びセンサーにて見分けるのが難しい。また、白色は光の大部分を吸収することなく反射するために、領域の検出などが難しい。目視での検出も難しいが、特にCCDカメラを用いた光学センサーで物体の境界を検知する際に、ハレーションを起こすために適していない。
【0007】
特許文献2に示される技術は、褐色のコーディライト焼結体を作ることはできるが、耐食性や耐薬品性、耐摩耗性に劣るFe、Mn、Coの酸化物を添加するため、半導体製造用途や酸性やアルカリ性の薬液を濾過するフィルター、および成膜用治具に使用は望ましくない。
【0008】
そこで、本発明は、Al基の多孔質焼結体において、暗色のものを得ること、およびそのための製造方法を課題とする。
【0009】
また、前記多孔質焼結体を用いて、真空チャック、成膜用治具、フィルターなどを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、TiO(1.5≦x<2.0)を0.1〜10質量%含有し、残部がAlからなる連続した開気孔を有する暗色多孔質焼結体である。または、そのAlの一部をMgOに置換した暗色多孔質焼結体である。
【0011】
Al基多孔質体は、本発明の組成とすることにより暗色の焼結体を得ることができる。添加するTiO(1.5≦x<2.0)は、黒色を呈し、多孔質焼結体全体を暗色とすることができる。添加量は0.1質量%以上とすることにより、焼結体は充分な暗色となる。0.1質量%未満であれば、焼結体の色が均一にならずに適さない。また、上限は10質量%である。TiOはAlの焼結を促進する焼結助剤として働く。そのために、TiO(1.5≦x<2.0)量が10質量%を超えると緻密化が急激に進み、多孔質体中に連続した開気孔を得ることができなくなる。
【0012】
MgOについては、0.1〜1質量%をAlと置換することにより、焼結体の強度を上げる役割がある。また、MgOを加えることにより、Alはネッキングが起こりやすくなるために、焼結温度を下げ、製造費用の低減にも効果がある。その量は、0.1質量%未満では効果があらわれずに、1質量%を超える量添加すれば、緻密化が急激に進みやすくなるために、所望の連続した開気孔を得ることは難しくなる。MgOの代わりにMg(OH)の添加も可能であり、焼結後にはMgOとなり、微細分散が可能となる。
【0013】
また、CCDカメラなどによるハレーションについては、暗色は光の大部分は吸収するために、反射する光が少なく、白色に比べてハレーションを起こしにくい。ハレーションは、黒色で最も起こりにくく、逆に白色で最も起こりやすい。暗色でもJIS Z 8721(1993年度版)に示される基準で明度Vが6.0以下であれば充分にハレーションを防止することができる。これよりも高い明度Vであれば、光学センサーがハレーションを起こし易くなるために望ましくない。また、色調は単に灰色だけでなく、青みがかった色や緑がかった色でも同様の効果を得られる。 さらに適している範囲は彩度Cが6以下、明度Vが5以下である。
【0014】
本発明の暗色多孔質焼結体は、明度V 6.0〜1.5、彩度C 6.0〜2.0、色相 5P〜(5B)〜10Gの範囲に収まる。
【0015】
本発明は、気孔率は特に限定するものではないが、適した範囲は5〜35%である。5%未満であれば多孔体中に連続した開気孔を作るのは難しくなる。一方、35%を超えた焼結体は強度や硬さが極端に下がるために適していない。
【0016】
TiOのについては、1.5≦x<2.0とする必要がある。xがこの範囲の場合は、黒色を呈するため、多孔質焼結体を暗色とすることができる。xが1.5未満の場合は、焼結体を黒色にすることはできるが、TiOの大部分が脆弱なTiとなり、焼結体の強度が保てない。x=2の場合は白色のTiOとなるために、焼結体を暗色にすることはできない。
【0017】
AlとTiO(1.5≦x<2.0)の焼結体を得るには、予めTiOを一部還元したTiOの粉末を使う方法と、AlとTiOの粉末を混合、成形の後に還元雰囲気中にて焼結し、TiOをTiO(1.5≦x<2.0)へと還元する方法のいずれかにて行うことができる。
【0018】
連続した開気孔を有する多孔質焼結体を得るためには、Alの平均粒子径を1〜5μmとするのが最も適している。1μmより小さい平均粒子径の粉末を用いると、緻密化が起こりやすくなり連続した開気孔を得ることが難しくなる。また、5μmよりも大きければ緻密化が進みにくく、焼結体の強度を充分高く保てなくなる。また、結晶の大きさが大きくなるために、白色のAlと黒色のTiOの色むらが目立ちやすくなる。
【0019】
より好ましいAlの粉末としては、0.1〜0.5μmの小粒子と1.5〜4μmの大粒子との2つのピークを持つ粉末である。小粒子が先行してネッキングを起こし、同じ温度で大粒子はほとんどネッキングしないために、開気孔の気孔径や気孔率を制御するのが容易となる。
【0020】
TiOの平均粒子径は、量が少ないためにその粒径は焼結に直接の影響は小さいが、入手しやすい0.2〜3μmが適当である。
【0021】
本発明の多孔質焼結体は、従来の多孔質焼結体が用いられる用途一般に用いることができるが、特に有効なのは真空チャック、成膜用治具、フィルターのいずれかに使用する場合である。
【0022】
真空チャックは、半導体や液晶製造工程をはじめとした精密部品の製造工程において、その搬送や加工用治具として使用する場合に用いる。この様な工程では、位置決めを光学的なセンサーを用いて行うが、真空チャックの色が白色に近ければ光の吸収が少なく、反射が大きくなり、ハレーションを起こすために位置や輪郭が正確に測定できなくなる。そのために、真空チャックは暗色、可能であるなら黒色が望ましい。
【0023】
フィルターおよび成膜用治具として用いる場合は、従来の多孔質焼結体と同様にフィルターは特定のガスや空気、排気ガスなどの気体、スラリー、溶液などから一定の大きさを超える粒子だけを通過させない働きがある。
【0024】
また、本発明の多孔質焼結体の製造方法は、出発原料として0.1〜10質量%のTiO粉末(1.5≦x≦2.0)と残部平均粒子径1〜5μmのAlとを混合し、成形にはプレス成形、鋳込み成形、射出成形、押し出し成形のいずれか一種を行い、還元雰囲気中で焼結して得ることが最もよい。TiOを大気雰囲気で焼結しても暗色とはならないが、本発明では、還元雰囲気中で焼結することにより、TiOの酸素の一部を還元してTiOのxを2.0未満にすることができ、その結果、暗色多孔質焼結体を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、Al基の均一な暗色多孔質焼結体を製造することができる。また、この多孔質焼結体を用いることにより、光学センサーの境界識別でのハレーションを起こさない真空チャックやフィルター、成膜用治具を得ることができる。
【0026】
さらに、本発明の暗色多孔質焼結体は、従来技術と比較して、耐酸性や耐アルカリ性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の黒色多孔質焼結体は、以下の方法にて製造することができる。
【0028】
まず、出発原料として0.1〜10質量%のTiOまたはTiO(1.5≦x<2.0)粉末と、残部として平均粒子径が1〜5μmのAl粉末とを混合する。混合方法は両者が充分混じり合う方法ならどのような方法でもよく、ボールミルやライカイ機、各種ミキサーなどを使用することができる。MgOやMg(OH)を添加する場合は、この時点で添加する。
【0029】
この混合粉末に必要に応じて成型用の有機バインダを混合して乾燥させることにより混合粉末を得る。
【0030】
得られた混合粉末を、プレス成形、鋳込み成形、射出成形、押し出し成形のいずれか一種を行い、還元雰囲気中で焼結する。還元雰囲気は、カーボン介在下での希ガス中での焼結、Nガス中、Hガス中などがよい。また、焼結温度は1000〜1500℃が適当である。
【0031】
こうして、本発明は、還元雰囲気中で焼結することにより暗色の多孔質焼結体を得ることができる。
【0032】
また、所望の形状にて穿孔、切削、研削加工等を行うことにより、本発明の真空チャック、フィルターなども得ることができる。
【0033】
以下実施例にてより詳細に本発明を説明する。
【実施例1】
【0034】
出発原料として、平均粒子径が2μmのTiO粉末2.5質量%と、平均粒子径が1.5μmのAl粉末97.5質量%とを、成型用の有機バインダとして分子量が約2万のポリエチレングリコールを外部分率で3質量%とともにをボールミルに投入し、アルミナボールを用いて湿式にて40時間混合した。混合後にスプレードライヤにて造粒を行い造粒粉を得た。
【0035】
つぎに、造粒粉末を金型にて100MPa加圧して成型し、直方体形状のグリーン体を得た。このグリーン体を焼結炉に投入し、カーボン介在中、アルゴンガス加圧の還元雰囲気中にて1400℃で焼結を行った。
【0036】
得られた焼結体は、暗色で連続した開気孔を有する暗色の多孔質体であった。気孔率は25%であった。また、焼結体のTiOのx値をX線回析にて調べたところ、x=1.9であった。
【0037】
この焼結体の表面を#240番の砥石にて平面研削盤にて加工した後に、この試料を用いて図1に示すような装置を作製し、試料1の上面側の圧力を下げることにより、その下面で吸着力が発生しているかどうかを下面側に板状の被吸着物2を密着させ検査する装置にてその通気状態を観察した。吸着力が発生していれば、被吸着物は試料に密着したまま保持されるが、発生していなければ下方に落下する。その結果、試料は吸着力を有しており、対面する面の間に微細で連続した開気孔があることが分かった。
【0038】
また、同試料をJIS Z 8721に記載の基準での色調を測定したところ、9PB3.5/2.0であった。この試料の上面に板状で白色の被搬送物を載せ、下面からポンプにて減圧を行ったが、被搬送物は吸着された。この試料を、市販のCCDカメラを用いて試料の境界を検出し、位置決めを行ったところ、ハレーションなどの問題も起こらず問題なく行うことができた。
【0039】
また、フィルターおよび成膜治具として用いても、従来の多孔質焼結体と同様に機能した。
【実施例2】
【0040】
実施例1の試料を試料No.1として、その組成や、Alの粒子径、TiOの量を変え焼結まで行い、その連続気孔の有無および色調を調査した。これを表1に示す。
試料No.1に対して試料No.2〜7は、TiOのx値を変えた試料である。
試料No.11からNo.16の試料は、TiOの量を変えた試料である。
また、試料No.21〜試料No.24は、Alの平均粒子径を変えた試料である。
【0041】
試料No.1〜試料No.7の結果より、連続した開気孔を有する暗色の多孔質焼結体を得るためには、TiOにおけるxの値を1.5≦x<2.0とする必要があることが分かった。この範囲以外であれば、試料No.7のように多硬質焼結体は著しく強度が落ちるか、試料No.5に示すように暗色とならない。なお、試料No.6の焼結雰囲気については、他の試料が還元雰囲気中焼結であるのに対して大気雰囲気中焼結であり、得られたのは明度N=9.0のほぼ白色の焼結体であった。
【0042】
また、試料No.1および試料No.11〜試料No.16の結果より、TiO(1.5≦x<2.0)の量は0.1〜10質量%が適当なことがわかった。試料No.15に示すようにTiOの量が0.1質量%未満の場合には、焼結体の表面の色調が一定でなく、まだら模様が目視にて確認できた。これは、黒色を呈するTiO(1.5≦x<2.0)の量が少ないために、分散の微妙なばらつきがそのまま色のムラとなり、まだらに見えるためである。
【0043】
逆に試料No.14のように、TiO(1.5≦x<2.0)を10質量%を超えて添加した場合にはTiOが焼結助剤の役割を持つため、緻密化が急激に進み、連続した開気孔を得ることができなかった。
【0044】
TiOを含んでいない試料No.16については、焼結体は白色であった。
【0045】
また更に、試料No.1および試料No.21〜試料No.24から、Alの平均粒子径については、1〜5μmが適当であることが分かった。試料No.24のように、平均粒子径が1μm未満であれば、急激に焼結が進行するために連続した開気孔を得ることが難しくなる。
【0046】
1〜5μmであれば、焼結はある程度進行し、粒子同士のネッキングも進行するものの、緻密化して開気孔が得られないほどにはならず、多孔質焼結体を得るためには適している。
【0047】
試料No.23の試料のように、Alの平均粒子径が7μmより大きければ、目視で判別できる程度に焼結体に色むらが生じ、好ましくない。
【0048】
また、試料No.4及び試料No.5では試料No.1の試料と他の組成は同様で、Alの一部をMgOに置換した粉末を用いて、同様の実験を行った。MgOを1質量%置換した試料No.4は焼結体は、試料No.1の試料と比較して焼結が進行しており、気孔率は15%であった。また、色調はJIS Z 8721で表示すると9PB3.0/2.0であった。しかしながら、試料No.5に示す試料は、MgOが1.2質量%含まれるために焼結が進行し、連続した開気孔を得られなかった。気孔率は4.5%であった。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の暗色多孔質焼結体を真空チャックとして使用する例の概略図である。
【符号の説明】
【0050】
1:暗色多孔質焼結体
2:板状の被吸着物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiO(1.5≦x<2.0)を0.1〜10質量%含有し、残部がAlからなる暗色多孔質焼結体。
【請求項2】
Alの0.1〜1質量%をMgOに置換した、請求項1に記載の暗色多孔質焼結体。
【請求項3】
色調がJIS Z 8721での明度Vが6.0以下の範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の暗色多孔質焼結体。
【請求項4】
Alの平均粒子径が1〜5μmであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の暗色多孔質焼結体。
【請求項5】
Alの粒度分布が、0.1〜0.5μmと1.5〜4μmとの2つのピークを持つことを特徴とする請求項4に記載の暗色多孔質焼結体。
【請求項6】
真空チャックとして使用する請求項1から請求項5のいずれかに記載の暗色多孔質焼結体。
【請求項7】
成膜用治具として使用する請求項1から請求項5のいずれかに記載の暗色多孔質焼結体。
【請求項8】
フィルターとして利用する請求項1から請求項5のいずれかに記載の暗色多孔質焼結体。
【請求項9】
出発原料として0.1〜10質量%のTiO粉末(1.5≦x≦2.0)と残部平均粒子径1〜5μm のAlとを混合し、プレス成形、鋳込み成形、射出成形、押し出し成形のいずれか一種を行い、還元雰囲気で焼結して得ることを特徴とする暗色多孔質焼結体の製造方法。
【請求項10】
出発原料として0.1〜10質量%のTiO粉末(1.5≦x≦2.0)と、0.1〜1質量%のMgOまたはMg(OH)の少なくとも一方の粉末および残部が平均粒子径1〜5μmのAlとを混合し、成形を行い、成形体を還元雰囲気で焼結して得ることを特徴とする暗色多孔質焼結体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−182595(P2006−182595A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377014(P2004−377014)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】