説明

曲げ加工装置

【課題】加工動力の軽減を図ることができるとともに加工面の傷が少ない製品を得ることのできる曲げ加工装置を提供する。
【解決手段】ワークWを曲げる移動部材4と、ワークWの曲げ縁部を保持する保持部材3とを備え、移動部材4には、曲げ加工に際しワークWに当接する部位が順次保持部材3側に移行する円弧状の傾斜面4aと、この傾斜面4aに連続した垂直面4bとが形成されており、ワークWの曲げ縁部に接する保持部材3の部位と移動部材4の垂直面4bとは所定隙間をもって配置され、保持部材3には、ワークWの曲げ縁部に接する部位よりもワークWの曲げ方向側において、ワークWの曲げ部分に接しないような逃げ面3bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、曲げ加工装置に関するもので、鋼板などの板状のワークを直角に曲げる加工を施す際に用いられる曲げ加工装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
この種の曲げ加工装置としては、プレスブレーキ装置が公知である。このプレスブレーキ装置は、図4に示すように、溝11が形成された型12と、この溝11に向かって移動可能なポンチ13とからなり、溝11とポンチ13の先端部との間に鋼板Wが挟持されることによって、曲げ加工がなされるものであった。
【0003】
しかし、上記プレスブレーキ装置にあっては、鋼板Wを支える二つの支点11a(溝の向かい合う上縁同士)の距離が短いため、ポンチ13の先端には数トン単位の大きな力が要求される。このため、大きな加工動力が必要となり、設備自体が高額とならざるを得ない。
【0004】
また、量産が望まれる場合には、プレス金型を用いて曲げ加工が施される。このプレス金型にあっては、通常、上型と下型との隙間が鋼板の厚さよりも若干狭く設けられ、鋼板Wの曲げ部分でしごき加工がなされており、このしごき加工のために数トン〜数十トンの力が必要となり、設備自体が高額とならざるを得ない。また、このしごき加工が施された曲げ部分には、すり傷が発生しやすいという問題も有していた。
【0005】
また、この種の曲げ加工装置として、特許文献1記載のものも公知である。この特許文献1記載の加工装置は、ダイスの溝にポンチを挿入して、ダイスとポンチとの間で鋼材を挟持して、曲げ加工が施されるものである。この特許文献1記載のものは、ダイスの溝の上縁が面取りされることにより、溝の開口部分に傾斜面が形成されている。このように傾斜面が形成されているため、ポンチが挿入され始めると鋼材はまず傾斜面の角度まで屈曲されて、さらにポンチが挿入されることによって鋼材が直角に屈曲されることになる。なお、この特許文献1記載の加工装置にあっては、直線範囲と湾曲範囲とを有する製品を製造するために用いられるものであり、上記ダイスの傾斜面の大きさを、製品の直線範囲と湾曲範囲とにおいて異ならしめることによって、製品の湾曲範囲におけるシワ等の発生を防止せんとするものであった。
【特許文献1】特開平10−305316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この特許文献1記載の装置にあっても、鋼板の曲げ部分が傾斜面の上縁や下縁と接触するため、すり傷が発生するものと考えられ、また、大きな加工動力が必要であり、設備自体の高額化は避けられない。
【0007】
この発明は上記した従来の欠点を解決するためになされたものであって、その目的は、加工動力の軽減を図ることができるとともに加工面の傷が少ない製品を得ることのできる曲げ加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明の曲げ加工装置は、加工すべき板状のワークWに対して相対的に移動し該ワークWの曲げ部分に当接しつつワークWを曲げる移動部材4と、上記ワークWの曲げ縁部を保持する保持部材3とを備え、上記移動部材4には、曲げ加工に際して上記ワークWに当接する部位が順次保持部材3側に移行するような傾斜面4aが形成されているとともに、この傾斜面4aに連続して移動部材4の移動方向と略平行な垂直面4bが形成されており、上記ワークWの曲げ縁部に接する保持部材3の部位と、上記移動部材4の垂直面4bとは所定隙間をもって配置されており、上記保持部材3には、上記ワークWの曲げ縁部に接する部位よりもワークWの曲げ方向側において、該ワークWの曲げ部分に接しないような逃げ面3bが形成されていることを特徴とする。なお、ワークWの曲げ縁部とは、加工後に角部となるワークWの部位を意味し、また、ワークWの曲げ部分とは、加工後の角部よりも端部側に位置するワークWの部位を意味する。
【0009】
また、本発明の曲げ加工装置は、請求項2記載のように、上記ワークWの曲げ縁部に接する保持部材3の部位と、上記移動部材4の垂直面4bとが、ワークWの板厚と略同一の隙間で配置された構成を採用することもできる。
【0010】
また、本発明の曲げ加工装置は、請求項3記載のように、上記保持部材3には、上記ワークWの曲げ縁部に接する部位からワークWの曲げ方向側に、上記移動部材4の垂直面4bと略平行な垂直面3aが設けられているとともに、この垂直面3aに連続して上記逃げ面3bが形成されている構成を採用することもできる。
【0011】
また、本発明の曲げ加工装置は、請求項4記載のように、上記移動部材4の傾斜面4aは湾曲面からなり、該湾曲面が、略楕円の円弧形状に形成された構成を採用することもできる。
【発明の効果】
【0012】
この発明の曲げ加工装置では、ワークWが保持部材3に保持された状態で移動部材4を加工方向に移動させると、まずワークWの曲げ部分が移動部材4の傾斜面4aと当接する。さらに移動部材4を加工方向に移動させていくと、該傾斜面4aのワークWに当接する部位が順次保持部材3側に移行しつつワークWが曲げられていき、そして、保持部材3と移動部材4の垂直面4bとの間にワークWが挟持されることによってワークWは直角に屈曲されることになる。このようにワークWに当接する部位が順次保持部材3側に移行するような傾斜面4aによってワークWが順次折り曲げられて曲げ加工を施すことができるため、加工に要する力が比較的少なくすみ、加工動力の軽減を図ることができる。また、ワークWは、当接する部位が順次保持部材3側に移行するような傾斜面4aと当接するため、ワークWの曲げ部分の外面に傷がつきにくい。しかも、保持部材3にはワークWの曲げ部分に接しないような逃げ面3bが形成されているため、ワークWの曲げ部分の内面に傷がつきにくい。
【0013】
また、請求項2記載のように、ワークWの曲げ縁部に接する保持部材3の部位と移動部材4の垂直面4bとをワークWの板厚と略同一の隙間で配置させることによって、確実にワークWを直角に折り曲げることができる。
【0014】
また、請求項3記載のように、保持部材3に垂直面3aを設けることによって、保持部材3の垂直面3aと移動部材4の垂直面4bとによって、確実にワークWを折り曲げることができる。また、この垂直面3aに連続して上記逃げ面3bが形成されているために、曲げ加工時にこの逃げ面3bにおいて材料が逃げることができ、しごき加工にならず、ワークWに傷がつきにくい。
【0015】
また、請求項4記載のように、移動部材4の傾斜面4aを湾曲面から構成することにより、ワークWの曲げ部分の外面の傷の発生をより確実に防止することができる。さらに、この湾曲面4aを、略楕円の円弧形状とすることによって、加工に際してワークWの曲げ部分を順次的確に曲げていくことができ、容易且つ確実にワークWを直角に折り曲げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、この発明の曲げ加工装置の具体的な実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。この発明の一実施形態に係る曲げ加工装置は、図1および図2に示すように、加工すべき板状の鋼材Wを載置する台座1と、この台座1上の鋼材Wを上方側から保持する保持部材3と、上下動可能に設けられ該鋼材Wを曲げる移動部材(以下、ポンチと称する)4とから構成されている。なお、本実施形態において、鋼材Wとしては、板厚0.6mmの冷間圧延鋼板を用いている。
【0017】
上記台座1には、ポンチ4が出退する穿孔2が形成されており、上記ポンチ4は、この穿孔2から上方に突出することによって、台座1上の鋼材Wを曲げるように設けられている。そして、該ポンチ4の上面は、保持部材3側において順次下方に傾斜する湾曲面4aに形成されており、曲げ加工に際して鋼材Wの下面に当接する部位が順次保持部材3側に移行するように設けられている。また、このポンチ4は、上記湾曲面4aに連続して、ポンチ4の移動方向(上下方向)と平行な垂直面4bが形成されており、この垂直面4bは、加工対象たる鋼材Wが90度に曲げられた際に鋼材Wに当接する部位となる。
【0018】
上記湾曲面4aについて具体的に説明すると、この湾曲面4aは、略楕円の円弧形状にであって、上方に凸となるような形状に形成されており、加工対象たる鋼材Wが90度に近づくにつれてポンチ4の上下移動が大きくなるように設けられている。すなわち、ポンチ4に上方(移動方向前方)側では、曲率が小さく、下方(垂直面4b)に行くに従い次第に曲率が大きくなるような形状となされている。このため、曲げ開始直後の小さな力での曲げ加工が可能な状態では、小さなストローク(ポンチ4の移動距離)で大きな曲げ角度が得られるが、曲げ終了直前の大きな力が必要な状態では、大きなストロークで僅かな曲げ角度となるようにし、これによって全体として小さな力で曲げ可能を行うことを可能にしている。なお、本実施形態のポンチ4の上下動は、油圧、空圧、電動、手動いかなる手段によって行うものであっても良い。
【0019】
さらに、上記保持部材3は、台座1に載置された鋼材Wを上方から押さえ込むように水平に設けられた下面を備えており、この下面のポンチ4側の端部には、下面に対して垂直に立ち上がった垂直面3aを備えている。つまり、保持部材3には、製品の角部となる上記鋼材Wの曲げ縁部に接する部位(下面のポンチ4側の端部)から上方側に上記ポンチ4の垂直面4bと平行な垂直面3aが設けられていることになる。なお、この垂直面3aの高さは本実施形態においては5.0mmとしている。そして、保持部材3には、この垂直面3aから上方に連続してポンチ4から離間する側に傾斜した逃げ面3bが形成されている。ここで、逃げ面3bの傾斜角度は、本実施形態では88度としている。また、上記保持部材3の垂直面3aと、上記ポンチ4の垂直面4bとは、鋼材Wの板厚(0.6mm)と略同一の隙間で配置している。
【0020】
本実施形態の曲げ加工装置は、上記構成からなるが、その使用方法について以下説明する。まず、台座1に鋼材Wが載置されて、保持部材3によって鋼材Wが固定される。そして、ポンチ4を上方に移動させると、ポンチ4の上面に鋼材Wの曲げ部分が当接する(図2(a)参照)。そして、さらにポンチ4を上昇させていくと、鋼材Wの曲げ部分は、ポンチ4と当接する部分がポンチ4の上面4aの保持部材3側に順次移行しつつ、折り曲げられていく(図2(b),(c)参照)。そして、鋼材Wの曲げ部分がポンチ4の垂直面4bと当接することによって、鋼材Wが最終的に90度に折り曲げられることになる(図2(d)参照)。
【0021】
本実施形態の曲げ装置によれば、板厚と略同一の隙間で配された保持部材3の垂直面3aとポンチ4の垂直面4bとによって、確実に鋼材Wを直角に折り曲げることができる。また、保持部材3の垂直面3aに連続して上記逃げ面3bが形成されていることによって、曲げ加工時にこの逃げ面3bにおいて材料が逃げることができるため、しごき加工にならず(しごき加工が垂直面3aの範囲に限られ)、そのため、鋼材Wに傷がつきにくい。
【0022】
また、鋼材Wの曲げ部分は、当接する部位が順次保持部材3側に移行するような湾曲面4aと当接するため、この曲げ部分の外面における傷の発生をより確実に防止することができる。
【0023】
さらに、保持部材3には鋼材Wの曲げ部分に接しないような逃げ面3bが形成されているため、鋼材Wの曲げ部分の内面に傷がつきにくい。
【0024】
また、上述のような湾曲面4aによって、鋼材Wが順次曲げられて加工されるため、加工に要する力が比較的少なくすみ、加工動力の軽減を図ることができ、設備投資の削減を図ることができる。
【0025】
(実験例)
次に本実施形態の加工装置の実施例および比較例を図3に示す。
【0026】
実施例1では、保持部材3の垂直面3aとポンチ4の垂直面4bとの隙間を板厚と同一の0.6mmとして実験を行った。この実施例1では、鋼材Wを90度に曲げるために105kgfのみの力で加工ができ、また、加工後の鋼材Wに傷は発生しなかった。
【0027】
実施例2では、保持部材3の垂直面3aとポンチ4の垂直面4bとの隙間を板厚よりも若干狭い0.55mmとして実験を行った。この実施例2では、鋼材Wを90度に曲げるために180kgfの力を要するものの加工ができ、また、加工後の鋼材Wに傷は発生しなかった。
【0028】
比較例1では、保持部材3の垂直面3aとポンチ4の垂直面4bとの隙間が板厚と同一の0.6mmであるものの、ポンチ4の上面に湾曲面を設けずに実験を行った。この比較例では、曲げ開始直後から200kgfの力を要し、最終的には460kgfもの力が必要であった。また、加工後の鋼材Wには傷が発生した。
【0029】
比較例2では、保持部材3の垂直面3aとポンチ4の垂直面4bとの隙間が板厚と同一の0.6mmであるものの、保持部材3に逃げ面3bを形成せずに実験を行った。この比較例では、鋼材Wを90度に曲げるために225kgfの力を要し、また、加工後の鋼材Wに傷は発生した。
【0030】
この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正及び変更を加え得ることは勿論である。つまり、たとえば、上記実施形態においては、ポンチ4を移動させるものについて説明したが、ワークWおよび保持部材3が移動するものであっても、本発明の意図する範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の一実施形態に係る曲げ加工装置を説明するための模式的断面を示す説明図である。
【図2】同曲げ加工装置の模式的断面を示す説明図であって、加工手順を説明するための説明図である。
【図3】同曲げ加工装置の実験例を示す。
【図4】従来の曲げ加工装置の模式的説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1・・台座、2・・穿孔、3・・保持部材、3a・・垂直面、3b・・逃げ面、4・・ポンチ(移動部材)、4a・・湾曲面(傾斜面)、4b・・垂直面、W・・鋼材(ワーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工すべき板状のワーク(W)に対して相対的に移動し該ワーク(W)の曲げ部分に当接しつつワーク(W)を曲げる移動部材(4)と、上記ワーク(W)の曲げ縁部を保持する保持部材(3)とを備え、
上記移動部材(4)には、曲げ加工に際して上記ワーク(W)に当接する部位が順次保持部材(3)側に移行するような傾斜面(4a)が形成されているとともに、この傾斜面(4a)に連続して移動部材(4)の移動方向と略平行な垂直面(4b)が形成されており、
上記ワーク(W)の曲げ縁部に接する保持部材(3)の部位と、上記移動部材(4)の垂直面(4b)とは所定隙間をもって配置されており、
上記保持部材(3)には、上記ワーク(W)の曲げ縁部に接する部位よりもワーク(W)の曲げ方向側において、該ワーク(W)の曲げ部分に接しないような逃げ面(3b)が形成されていることを特徴とする曲げ加工装置。
【請求項2】
上記ワーク(W)の曲げ縁部に接する保持部材(3)の部位と、上記移動部材(4)の垂直面(4b)とが、ワーク(W)の板厚と略同一の隙間で配置されていることを特徴とする請求項1の曲げ加工装置。
【請求項3】
上記保持部材(3)には、上記ワーク(W)の曲げ縁部に接する部位からワーク(W)の曲げ方向側に、上記移動部材(4)の垂直面(4b)と略平行な垂直面(3a)が設けられているとともに、この垂直面(3a)に連続して上記逃げ面(3b)が形成されていることを特徴とする請求項1又は2の曲げ加工装置。
【請求項4】
上記移動部材(4)の傾斜面(4a)は、略楕円の円弧形状に形成され湾曲面からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの曲げ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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