説明

更生管用塩化ビニル系樹脂組成物及び塩化ビニル系樹脂更生管

【課題】優れた機械的強度と耐衝撃性を兼備し、施工性にも優れる更生管を得るのに適する更生管用塩化ビニル系樹脂組成物及びその塩化ビニル系樹脂組成物を用いた塩化ビニル系樹脂更生管を提供することを目的とする。
【解決手段】アクリル系共重合体1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる複合塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、該複合塩化ビニル系樹脂に相溶し得る熱可塑性エラストマーの添加量が10〜30重量部、針状又は板状無機物が1〜10重量部添加されてなることを特徴とする更生管用塩化ビニル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、更生管用の塩化ビニル系樹脂組成物及びその塩化ビニル系樹脂組成物を用いた塩化ビニル系樹脂更生管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、老朽化した既設管が増加しており、この様な老朽化した既設管を修復する方法の一つとして、機械的強度や耐薬品性等に優れた塩化ビニル系樹脂管を用いる方法がある。
【0003】
例えば、塩化ビニル樹脂に混合しうる熱可塑性エラストマーを加えた樹脂管により修復する方法が開示されている(特許文献1)。しかし、この方法の場合、輸送時や施工時における樹脂管の破損を防止するに足る耐衝撃性を発現させるためには、多量の熱可塑性エラストマーや耐衝撃性改質剤等を添加する必要があり、得られる樹脂管の機械的強度が不十分になるという問題点がある。
【特許文献1】特表平6−508647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、優れた機械的強度と耐衝撃性を兼備し、施工性にも優れる更生管を得るのに適する更生管用塩化ビニル系樹脂組成物及びその塩化ビニル系樹脂組成物を用いた塩化ビニル系樹脂更生管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の更生管用塩化ビニル系樹脂組成物(以下、単に「塩化ビニル系樹脂組成物」と略記する)は、アクリル系共重合体1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる複合塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、該複合塩化ビニル系樹脂に相溶し得る熱可塑性エラストマーの添加量が10〜30重量部、針状又は板状無機物が1〜10重量部添加されてなることを特徴とする。
この塩化ビニル系樹脂組成物においては、さらに、衝撃改良剤が3〜10重量部添加されていることが好ましい。
【0006】
また、本発明の第2の更生管用塩化ビニル系樹脂組成物(以下、単に「塩化ビニル系樹脂組成物」と略記する)は、平均重合度が600〜3000である塩化ビニル樹脂100重量部に対し、該塩化ビニル系樹脂に相溶し得る熱可塑性エラストマー低ガラス転移点又は低融点の化合物A(熱可塑性エラストマーを除く)の添加量が10〜30重量部、針状又は板状無機物が1〜10重量部、衝撃改良剤が3〜30重量部添加されてなることを特徴とする。
これらの塩化ビニル系樹脂組成物は、さらに、低ガラス転移点又は低融点の化合物A(熱可塑性エラストマーを除く)が10〜30重量部添加されていてもよい。
【0007】
また、これらの塩化ビニル系樹脂組成物では、(1)アクリル系共重合体は、ガラス転移温度が−140℃以上0℃未満であり、少なくとも1種類の(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマー100重量部と、多官能性モノマー0.1〜10重量部とからなるアクリル系共重合体であるか、あるいは、(2)単独共重合体のガラス転移温度が−140℃以上−60℃未満である、ラジカル重合性モノマー100重量部及び多官能性モノマー0.1〜1重量部の共重合体40〜90重量%に、単独共重合体のガラス転移温度が−55℃以上0℃未満である(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマー100重量部及び多官能性モノマー1.5〜10重量部の混合モノマー10〜60重量%をグラフト共重合したコア−シェル構造からなるものが好ましい。
【0008】
更生管用塩化ビニル系樹脂組成物からなる成形体の曲げ弾性率が、20℃において1470Mpa以上であり、50℃において50〜1470Mpaであるものが好ましい。
【0009】
さらに、針状又は板状無機物は、アスペクト比が10以上で、かつ金属複合酸化物からなるものが好ましく、複合塩化ビニル系樹脂に相溶し得る熱可塑性エラストマーは、分子量1000〜6万のウレタン系エラストマー又は該ウレタン系エラストマーと分子量20000以下のエステル系可塑剤とを含むことが好ましい。
【0010】
また、本発明の塩化ビニル系樹脂更生管は、更生管用塩化ビニル系樹脂組成物と、既設管とからなり、前記更生管用塩化ビニル系樹脂組成物が、既設管中に挿入され、加熱されることにより該既設管の内面に密着してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、優れた機械的強度と耐衝撃性を発現し、かつ、更生管として利用する場合の施工性にも優れるので、更生管作製用の樹脂として好適に用いることができる。
【0012】
また、本発明の更生管は、上記本発明の塩化ビニル系樹脂組成物を含むため、優れた機械的強度と耐衝撃性とを高水準で兼備すると共に、施工性にも優れるものであり、既設管の更生(修復)用として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1の塩化ビニル系樹脂組成物は、複合塩化ビニル系樹脂と、熱可塑性エラストマーと、針状又は板状無機物とを含んでなる。この第1の塩化ビニル系樹脂組成物は、任意に、低ガラス転移点又は低融点化合物A、衝撃改良剤を含有していてもよい。
【0014】
また、別の観点から、本発明の第2の塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂と、熱可塑性エラストマーと、針状又は板状無機物と、衝撃改良剤とを含んで構成される。この第2の塩化ビニル系樹脂組成物は、任意に、低ガラス転移点又は低融点化合物Aを含有していてもよい。
【0015】
本発明において使用される熱可塑性エラストマーは、後述する複合塩化ビニル系樹脂又は塩化ビニル系樹脂に相溶し得るものであり、その種類は特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体(EVACO)、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体や塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体等の塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ウレタン系エラストマー(例えば、イソシアネートとポリオールとにより製造されるもの)等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
なかでも、イソシアネートとポリオールとにより製造されるウレタン系エラストマーは、残存する結晶部分が融解するまでは高い弾性率を有し、結晶部分が融解すると弾性率が急激に低下するという観点から、好ましい。つまり、常温で曲げ弾性が高く(おりたたまれた形状が保持されている)、高温で曲げ弾性が低くなる(熱を加えると柔らかくなって円形形状が回復し、老朽管へ密着する)。特に、分子量の低いものは、複合塩化ビニル系樹脂及び塩化ビニル系樹脂との相溶性に優れ、熱安定性が良好で、50℃以上であっても弾性率の低下に寄与し、塩化ビニル系樹脂組成物の成形性を向上させるという観点から、分子量が1000以上、60000以下のものが好ましい。
【0017】
また、ウレタン系エラストマーに、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体(EVACO)を併用することにより衝撃強度を向上させることができる。この場合のエチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体は、例えば、ウレタン系エラストマーとの併用合計量の30〜70重量%が好ましい。
【0018】
ポリウレタン系エラストマーを構成するイソシアネートは、特に限定されず、いずれを用いてもよい。例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。また、ポリオールは、特に限定されず、いずれを用いてもよいが、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。
【0019】
本発明において任意に使用される低ガラス転移点又は低融点の化合物Aは、熱可塑性エラストマーを除くものであり、塩化ビニル単独重合体または塩化ビニルを主成分とする複合塩化ビニル系樹脂に相溶し、かつ融点又は滴点が、当該樹脂のガラス転移点より低いものを指す。このような化合物Aとしては、例えば、可塑剤、酸化防止剤等が挙げられる。ただし、低ガラス転移点又は低融点化合物A、さらに上述した熱可塑性エラストマーには、通常、塩化ビニル樹脂で用いられるような衝撃改良剤、例えば、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂(MBS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)等のアクリルゴムは含まれない。
【0020】
可塑剤または酸化防止剤としては、上記の条件を満たすものであれば、特に限定されない。例えば、フタル酸ジシクロヘキシル(DCHP)またはトリフェニルホスフェート(TPP)、エチルフタリルエチリグリコート、アジピン酸ポリエステルなどのエステル系可塑剤、ジミルスチルチオプロピオネート(DMTP)が好適に用いられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、上記ウレタン系エラストマーとともに使用する場合、エステル系の可塑剤は、複合塩化ビニル樹脂及び塩化ビニル系樹脂との相溶性に優れるため、好ましい。この場合、軟化温度又は融解温度が50℃〜60℃にある高分子量のものを用いることが好ましいが、取り扱いが容易であるという観点から、分子量が20000以下のものが好ましい。
【0021】
熱可塑性エラストマー及び/又は低ガラス転移点もしくは低融点の化合物A(熱可塑性エラストマーを除く)は、複合塩化ビニル系樹脂又は塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、これらの成分の合計が10〜30重量部になるように添加することが望ましい。添加量が10重量部未満では、得られる塩化ビニル系樹脂組成物からなる更生管を既設管中に挿入し、加熱して既設管に密着させる時の施工性が損なわれることがあり、逆に30重量部を超えると、得られる塩化ビニル系樹脂組成物及び更生管の機械的強度が不十分となることがある。
【0022】
本発明において使用される針状無機物は、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノトライト、ホウ酸アルミニウム等が挙げられ、板状無機物としてはタルク、マイカ、合成ハイドロサルタイト、板状炭酸カルシウム等が挙げられる。なかでも、金属複合酸化物が好ましい。金属複合酸化物とは、例えば、マグネシウム、チタン、カリウム、アルミニウム、カリウム等を含む酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩等を意味する。金属複合酸化物を用いた場合には、粒子表面の官能基または金属イオンによって、塩化ビニル系樹脂組成物との相互作用によって界面力を向上し、機械的強度を向上させることができる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。ここで針状とは、長径が短径の3倍以上の針状、棒状、繊維状、紡錘状、円柱状等の粒子形状を意味する。板状とは、いわゆる板状だけでなく、鱗片状、薄片状の形状のものも包含される。なかでも、機械的強度、特に曲げ弾性率を向上させるという観点から、針状又は板状無機物として、アスペクト比が10以上、さらに20以上、30以上が好ましい。ここで、アスペクト比とは、長さ/径、あるいは長さ/厚みの比を意味する。
【0023】
無機物の添加量は、複合塩化ビニル系樹脂又は塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、1〜10重量部が望ましい。添加量が1重量部未満では、機械的強度の向上効果が不十分であり、また10重量部を越えると耐衝撃性が低下する。
【0024】
本発明で用いられる衝撃改良剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、塩素化ポリエチレンまたはアクリル系改質剤等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
衝撃改良剤の添加量は、適当な機械的強度を付与し、成形性の悪化を防止するという観点から、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、3〜30重量部が好ましい。特に、複合塩化ビニル系樹脂に対して添加する場合には、無機物配合による耐衝撃性の低下を補うという観点から、複合塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、3〜10重量部が好ましい。塩化ビニル樹脂に配合する量に比べて、複合塩化ビニル樹脂中のゴム成分により減量することができる。
【0026】
本発明で用いられる複合塩化ビニル系樹脂は、アクリル系共重合体にビニルモノマーをグラフト共重合して得られる。
【0027】
アクリル系共重合体は、製造される複合塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を向上させるために配合するものであり、室温で柔軟性があるものが好ましく、この単独共重合体のガラス転移温度が0℃未満であるものが好ましく、耐衝撃性を向上し、高速の歪みに対しても十分な柔軟性を与える観点から、ガラス転移温度が−60℃未満であることが好ましい。また、工業的に一般に使用されるポリマーのガラス転移温度を鑑みて、−140℃以上のものが適当である。
【0028】
アクリル系共重合体は、その種類は限定されないが、ラジカル重合性モノマーと、多官能性モノマーとからなる共重合体、特に、少なくとも1種の(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマーと、多官能性モノマーとからなるアクリル系共重合体を含むことが好ましい。
【0029】
ラジカル重合体モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、n−ブチルアクリレート、n−ヘプチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メチルヘプチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ノニルアクリレート、2−メチルオクチルアクリレート、2−エチルヘプチルアクリレート、n−デシルアクリレート、2−メチルノニルアクリレート、2−エチルオクチルアクリレート等が好適に用いられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
多官能性モノマーは、複合塩化ビニル系樹脂及び塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を向上させ、さらに、アクリル系共重合体を製造する際及び製造後のアクリル系共重合体の粒子の合着を抑制するために配合される。
【0031】
多官能性モノマーとしては、例えば、ジ(メタ)アクリレートとして、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、トリ(メタ)アクリレートとして、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、その他の多官能性モノマーとしては、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネート、トリアリルイソシアヌレート等のジ又はトリアリル化合物、ジビニルベンゼン、ブタジエン等のジビニル化合物等が挙げられる。これらは単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
アクリル系共重合体において多官能性モノマーを用いる場合には、その配合量は、アクリル系共重合体が複合塩化ビニル系樹脂又は塩化ビニル系樹脂中で独立した粒子形状を保持し得るとともに、アクリル系共重合体の架橋密度を適当な範囲に止めて複合塩化ビニル系樹脂又は塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を維持するという観点から、上述したラジカル重合性モノマー(メタアクリレートを主成分とするもの、しないものの双方を含む)100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが適している。
【0033】
アクリル系共重合体は、単一構造の共重合体であってもよいが、例えば、コア−シェル構造(中心部とそれを被覆する外殻部とからなる粒状構造)を有しているものが好ましい。
【0034】
この場合、コアとしては、どのようなものによって形成されていてもよく、例えば、ラジカル重合性モノマーの(共)重合体又はラジカル重合性モノマーと多官能性モノマーとの(共)重合体が例示される。
【0035】
特に、コアを構成する共重合体は、それ自体のガラス転移温度が−140℃以上、−60℃未満であることが好ましい。これにより、複合塩化ビニル系樹脂又は塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を向上させることができる。特に、高速の歪みに対して充分な柔軟性を有していることが好ましい。コアを構成するために用いられるラジカル重合性モノマーは、特に限定されるものではなく、例えば、(メタ)アクリレートモノマー、多官能性モノマー等が挙げられる。具体的には、上記において「ラジカル重合体モノマー」及び「多官能性モノマー」として例示したものが挙げられる。また、多官能性モノマーは、上述したものが挙げられる。
【0036】
また、少なくともシェルは、1種以上の(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマーと、多官能性モノマーとからなるアクリル系共重合体によって形成されることが好ましい。
【0037】
シェルを構成する共重合体は、それ自体のガラス転移温度が−55℃以上、0℃未満であることが好ましい。これにより、塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を向上させると共にコアの低ガラス転移ポリマーを被覆してアクリル系共重合体の粒子の粘着性を低減されることができる。特に、ある程度の柔軟性を保持していることが好ましい。シェルを構成するために用いられるラジカル重合性モノマーは、その種類は特に限定されず、上述したもを用いることができるが、(メタ)アクリレートモノマー、例えば、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、クミルアクリレート、n−ヘプチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メチルヘプチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ノニルメタクリレート、2−メチルオクチルメタクリレート、2−エチルヘプチルメタクリレート、n−デシルメタクリレート、2−メチルノニルメタクリレート、2−エチルオクチルメタクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が好適に用いられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
なお、本発明においては、ガラス転移温度は、アクリル系共重合体自体のガラス転移温度を示し、例えば、コア−シェル構造の場合には、コアを構成する共重合体のガラス転移温度、シェルを構成する共重合体のガラス転移温度をそれぞれ意味する。また、ガラス転移温度は、高分子学会編「高分子データ・ハンドブック(基礎編)」(1986年、培風館社)に従って表わす。
【0039】
本発明において、(メタ)アクリレートを含むラジカル重合性モノマーと多官能性モノマーとを共重合させる方法としては、例えば、乳化重合法、懸濁重合法等が挙げられる。なかでも、耐衝撃性の発現性がよく、アクリル系共重合体の粒子径の制御が行い易い点から乳化重合法が望ましい。なお、共重合とは、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等すべての共重合を包含する。
【0040】
乳化重合法は、必要に応じて、乳化分散剤、重合開始剤、pH調整剤、酸化防止剤等を添加して、従来公知の方法で行うことができる。
【0041】
乳化分散剤は、(メタ)アクリレートを含むラジカル重合性モノマーと多官能性モノマーとの混合物(以下、「混合モノマー」ともいう)の乳化液中での分散安定性を向上させ、重合を効率的に行うために用いるものである。例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、セルロース系分散剤、ゼラチン等が挙げられる。
【0042】
重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素水等の水溶性重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の有機系過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0043】
pH調整剤としては、当該分野で公知のいずれのものを用いてもよい。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系抗酸化剤等が挙げられる。
乳化重合法としては、例えば、一括重合法、モノマー滴下法、エマルジョン滴下法等が挙げられる。
【0044】
一括重合法は、ジャケット付重合反応器内に純水、乳化分散剤及び混合モノマーを一括して添加し、窒素気流加圧下で撹拌して充分乳化した後、反応器内をジャケットで所定の温度に昇温し、その後重合させる方法である。
【0045】
モノマー滴下法は、ジャケット付重合反応器内に純水、乳化分散剤及び重合開始剤を入れ、窒素気流下による酸素除去及び加圧を行い、反応器内をジャケットにより所定の温度に昇温した後、混合モノマーを一定量ずつ滴下して重合させる方法である。
【0046】
エマルジョン滴下法は、混合モノマー、乳化分散剤及び純水を撹拌して乳化モノマーを予め調製し、次いで、ジャケット付重合反応器内に純水及び重合開始剤を入れ、窒素気流下による酸素除去及び加圧を行い、反応器内をジャケットにより所定の温度に昇温した後、乳化モノマーを一定量ずつ滴下して重合させる方法である。
【0047】
特に、アクリル系共重合体が、コアーシェル構造を有している場合例えば、まず、コアを形成する混合モノマー〔ラジカル重合性モノマー+必要に応じて添加される多官能性モノマー〕、純水及び乳化剤から調整した乳化モノマーに重合開始剤を加えて重合反応を行い、コアの樹脂粒子を形成する。次いでシェルを構成する混合モノマー〔(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマー+必要に応じて添加される多官能性モノマー〕、純水及び乳化剤から調整した乳化モノマーを添加し、コアにシェルをグラフト共重合させる方法等が挙げられる。
【0048】
このようにして得られたアクリル系共重合体は、コア部の表面をシェル部が三次元的に覆い、シェル部を構成する共重合体とコア部を構成する(共)重合体とが部分的に共有結合し、シェル部が三次元的な架橋構造を形成している。上記方法において、シェル部のグラフト共重合は、コア部の重合と同一の重合工程で連続して行ってもよい。
【0049】
コアとシェルとの割合は、乳化重合法において、コアを形成する混合モノマーとシェルを形成する混合モノマーとの割合を調整することによって調節可能である。例えば、コアの(共)重合体40〜90重量%に対して、シェルの共重合体10〜60重量%を共重合することが好ましい。
【0050】
上記したような重合方法においては、反応終了後に得られるアクリル系共重合体の固形分比率は、アクリル系共重合体の生産性、重合反応の安定性の点から10〜60重量%が好ましい。
【0051】
本発明で用いるビニルモノマーは、塩化ビニルを主成分とするものであることが好ましい。ここで主成分とは、ビニルモノマー全重量の50%以上を占める成分を意味する。
【0052】
ビニルモノマーには、塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマー又はポリマー、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン類:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類:エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類:メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換マレイミド類;アルキル(メタ)アクリレートモノマーなどからなるアクリル系共重合体等が含まれていてもよい。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
本発明の複合塩化ビニル系樹脂は、製造される複合塩化ビニル系樹脂が充分な耐衝撃性を有し、曲げ強度や引張強度等の機械的強度の低下を防止するという観点から、上記アクリル系共重合体1〜30重量%と塩化ビニルモノマー70〜99重量%とをグラフト重合させて得られる。特に、アクリル系共重合体の好ましい配合量は、4〜20重量%である。
【0054】
複合塩化ビニル樹脂中のアクリル系共重合体は、成形時の金型付着、外観不良を防止し、耐衝撃性、機械的強度の低下を防止するという観点から、平均粒子径0.01〜1μmにであることが好ましい。
【0055】
複合塩化ビニル系樹脂中のポリ塩化ビニルの重合度は、小さすぎても大きすぎても充分な成形品の成形性が得られにくくなるため、300〜2500が適当であり、好ましくは400〜1600である。
【0056】
上記アクリル系共重合体に、塩化ビニルを主成分とするビニルモノマーをグラフト共重合させる方法としては、特に限定されず、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法等が挙げられる。なかでも、懸濁重合法が好ましい。
【0057】
懸濁重合法により重合を行う際には、分散剤、重合開始剤等を用いてもよい。
分散剤は、上記アクリル系共重合体の分散安定性を向上させ、塩化ビニルのグラフト重合を効率的に行う目的で添加される。その種類は特に限定はされないが、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸塩、(メタ)アクリル酸塩−アルキルアクリレート共重合体、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル及びその部分ケン化物、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、デンプン、無水マレイン酸−スチレン共重合体等が挙げられる。これらは単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0058】
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤がグラフト共重合に有利であるという理由から好適に用いられる。その種類は特に限定されないが、例えば、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジオクチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、αークミルパーオキシネオデカノエート等の有機パーオキサイド類、2,2―アゾビスイソブチロニトリル、2,2―アゾビス−2,4―ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0059】
塩化ビニルを主成分とするビニルモノマーをグラフト共重合させる際に、重合中に重合槽内に付着するスケールを減少させる目的で、上記アクリル系共重合体の分散溶液に、凝集剤を添加してもよいし、必要に応じて、pH調整剤、酸化防止剤等が添加されてもよい。
【0060】
懸濁重合法としては、例えば、以下の方法を用いることができる。すなわち、温度調整機及び撹拌機を備えた反応容器に、純水、上記アクリル系共重合体分散溶液、分散剤、重合開始剤及び必要に応じて水溶性増粘剤、重合度調節剤を投入する。その後、真空ポンプで重合器内の空気を排出し、撹拌条件下で塩化ビニル、また必要に応じて他のビニルモノマーを投入した後、反応容器内をジャケットにより加熱し、塩化ビニルのグラフト共重合を行う。このとき、重合温度は30〜90℃、重合時間2〜20時間が好ましい。
【0061】
上記した懸濁重合法では、ジャケット温度を変えることにより反応容器内の温度、つまり重合温度を制御することが可能である。
【0062】
反応終了後は、未反応の塩化ビニル等を除去してスラリー状にし、脱水乾燥することにより複合塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
【0063】
上記の製造方法で得られた複合塩化ビニル系樹脂は、アクリル系共重合体にポリ塩化ビニルの一部が直接結合しているので、耐衝撃性に優れるとともに機械的強度にも優れる。
【0064】
また、本発明で用いられる塩化ビニル系樹脂は、得られる塩化ビニル系樹脂組成物及び更生管の機械的強度が十分に確保するとともに、塩化ビニル系樹脂組成物の成形性を確保するという観点から、平均重合度が600〜3000であるものが適しており、さらに800〜2000であるものが好ましい。平均重合度とは、塩化ビニル系樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、濾過により不溶成分を除去した後、濾液中のTHFを乾燥除去して得た樹脂を試料とし、JIS K−6721「塩化ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定した平均重合度を意味する。
【0065】
塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単独重合体でもよいし、塩化ビニルと、塩化ビニルと共重合可能なモノマー又はポリマー等との共重合体であってもよい。
【0066】
塩化ビニルと共重合可能なモノマー又はポリマーは、上述した種々のモノマーと同様のものが例示される。
【0067】
塩化ビニル系樹脂は、従来公知の方法のいずれの方法を利用してもよく、例えば、懸濁重合法等が挙げられる。
【0068】
本発明の更生管用の塩化ビニル系樹脂組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、上記した複合塩化ビニル系樹脂の製造方法を用いて製造することができる。
【0069】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて、必須成分ガラス転移点以外に、熱安定剤、安定化助剤、滑剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料等の各種添加剤の1種又は2種以上が添加されていてもよい。これらの添加剤の添加方法や添加順序は、特に限定されるものではなく、任意の方法、任意の順序であってよい。
【0070】
熱安定剤としては、特に限定されず、例えば、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等の有機錫安定剤、ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤、バリウム−亜鉛系安定剤、バリウム−カドミウム系安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
安定化助剤としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ豆油エポキシ化テトラヒドロフタレート、エポキシ化ポリブタジエン、リン酸エステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
滑剤としては、特に限定されず、例えば、モンタン酸ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ステアリン酸ブチル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
加工助剤としては、特に限定されず、例えば、重量平均分子量10万〜200万のアルキルアクリレート/アルキルメタクリレート共重合体であるアクリル系加工助剤が挙げられ、具体例としては、n−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート共重合体、2−エチルヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
酸化防止剤としては、特に限定されず、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0075】
光安定剤としては、特に限定されず、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤、あるいはヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
顔料としては、特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアン化物系等の無機顔料等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
上記した各種配合剤を、複合塩化ビニル系樹脂に混合する方法としては、特に限定されず、例えば、ホットブレンドによる方法、コールドブレンドによる方法等が挙げられる。
【0078】
本発明の更生管用塩化ビニル系樹脂組成物は、成形体を形成するために使用することができる。成形体の形成方法としては、特に限定されず、例えば、押出成形法、射出成形法、カレンダー成形法、プレス成形法等が挙げられる。
【0079】
得られる成形体は、成形体の機械的強度を十分に確保するとともに、管状の成形体の肉厚を厚くする場合にも、管状体の流路面積を確保し、さらに、成形体の耐熱性を十分に確保して使用可能な温度範囲が広げるとともに、成形体を既設管に適用する際の施工性を確保するという観点から、曲げ弾性率が、20℃において1470MPa以上であり、50℃において50〜1470MPaであることが好ましい。
【0080】
本発明の塩化ビニル系樹脂更生管は、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物と、既設管とからなり、塩化ビニル系樹脂組成物が、既設管の内面に密着して構成される。
【0081】
更生管は、押出機を用いて、塩化ビニル系樹脂組成物を溶融混練し、押出し成形を行って、所望の断面形状の管状体に賦形され、この管状体を既設管内に挿入し、過熱することにより既設管の内面に密着させることにより形成することができる。更生管の断面形状は、特に限定されるものではなく、更生(修復)しようとする既設管中に挿入可能であって、加熱により既設管の内面に密着し得る形状であればよい。
【0082】
以下、本発明の更生管用塩化ビニル系樹脂組成物及び塩化ビニル系樹脂更生管の実施例について説明するが、下記の例に限定されるものではない。
(アクリル系共重合体の製造)
(A1〜A3、B1〜B2)
表1に示したコア層、及びシェル層を形成するためのモノマー(以下、それぞれをコア層形成用モノマー、シェル層形成用モノマーという)をそれぞれ、所定量の純水(モノマー100重量部に対し60重量部が望ましい)、多官能性モノマー(それぞれのモノマー100重量部に対し0.5重量部が望ましい)及びポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム塩(乳化分散剤)と混合、撹拌し、それぞれの乳化モノマーを調製した。
表1中、2−EHAは2−エチルヘキシルアクリレートを表し、n−BAはn−ブチルアクリレート、TMPTAはトリメチロールプロパントリアクリレートを表す。
【0083】
(アクリル系共重合体の作製)
撹拌機及び還流冷却器を備えた反応器に、純水を入れ(全モノマー100重量部に対し160重量部が望ましい)、容器内の酸素を窒素により置換した後、撹拌下で反応温度を70℃まで昇温した。昇温終了後、反応器に開始剤(全モノマー100重量部に対し過硫酸アンモニウム0.5重量部が望ましい)及びコア層形成用モノマーの50%を一括して投入し、重合を開始した。続いて、コア層形成用モノマーの残りを滴下した。コア層形成用モノマーの滴下が終了次第、シェル層形成用モノマーを順次滴下した。
全ての乳化モノマーの滴下を3時間で終了し、1時間の熟成期間をおいた後、重合を終了して、固形分濃度約30重量%、粒子径0.1μmのアクリル系共重合体ラテックス(以下「ラテックス」とする)を得た。
【0084】
(グラフト共重合による複合塩化ビニル系樹脂の作製)
撹拌機及びジャケットを備えた重合器に、純水170重量部、上記アクリル系共重合体ラテックス9重量部、部分けん化ポリビニルアルコール(クラレ社製、クラレポバールL−8)の3%水溶液5重量部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学社製、メトローズ60SH50)の3%水溶液2.5重量部、t−ブチルパーオキシピバレート0.03重量部、硫酸アルミをアクリル系共重合体固形分9重量部に対してアルミニウムイオンが3000ppmとなるよう一括投入した。その後、真空ポンプで重合器内の空気を排出し、さらに攪拌条件下、塩化ビニル100重量部を投入した。ジャケット温度の制御により、重合温度57.5℃にてグラフト重合を開始した。
重合器内の圧力が0.72MPaの圧力まで低下したところで塩化ビニルモノマーの重合率が80%になるので、反応終了を確認した。消泡剤(東レ社製、東レシリコンSH5510)を加圧添加した後、反応を停止した。その後、未反応の塩化ビニルモノマーを除去し、脱水乾燥することにより塩化ビニル系樹脂を得た。複合塩化ビニル系樹脂中の塩化ビニルの重合度は約1000であった。
【0085】
(塩化ビニル系樹脂組成物及び更生管の作製)
(実施例1〜9、比較例1〜12)
得られた複合塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、表2又は表3の組成に従い、エチレン−酢ビ共重合体(商品名「エルバロイ742」、三井デュポンケミカル社製)、ウレタン系エラストマーA(商品名「T−5275N」、大日本インキ化学工業社製:分子量50000)、ウレタン系エラストマーB(分子量100000)、衝撃改良剤としてアクリル系改質剤(商品名「KM357P」(ロームアンドハース社製)、ポリエステル系可塑剤A(商品名「S−2010 ディックバイエル社製」:軟化温度60℃、分子量>3000)、ポリエステル系可塑剤B(商品名「W3000」 ディックバイエル社製」:軟化温度80℃、分子量>15000)、低ガラス転移点及び低融点化合物として、エチルフタリルエチルグリコート(商品名「#10」、大八化学社製)、アジピン酸ポリエステル(商品名「HA5」、花王製)、ウォラストナイト(商品名:SH600、キンセイマティック社製:(長径/短径=22))、マイカ(商品名:A300、大塚化学社製:(長径/短径=35))、炭酸カルシウム(商品名:白艶華CCR、白石工業社製:(長径/短径=1))安定剤として有機錫系安定剤(商品名「ONZ−142F」、三共有機社製)2部、滑剤としてポリエチレンワックス系滑剤(商品名「Hiwax220MP」、三井石油化学工業社製)0.5部、滑剤としてステアリン酸(商品名「S−30」、花王社製)0.5部及び加工助剤として商品名「メタブレンP501A」(三菱レイヨン社製)3部をスーパーミキサー(100L、カワタ社製)にて攪拌混合して塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0086】
上記で得られた塩化ビニル系樹脂組成物を、直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM−50」、長田製作所社製)に供給し、外径50mmの塩化ビニル系樹脂成形体を得た。得られた成形体を80℃に加熱されたギアオーブン内に20分間静置した後、更生管断面が4つ折りの形状になるようにし、この形状を維持したまま成形体の温度が20℃になるまで冷却して、更生管を作製した。
【0087】
表2で得られた塩化ビニル系樹脂組成物を用いて作製した更生管の性能(曲げ弾性率、耐衝撃性、施工性)を以下の方法で評価した。その結果を表2に示す。
【0088】
(1)曲げ弾性率:JIS K−7203「硬質プラスチックの曲げ試験方法」に準拠して、更生管の曲げ弾性率を測定した。測定は20℃及び50℃の雰囲気下で行った。
【0089】
(2)耐衝撃性:JIS K−7111「硬質プラスチックのシャルピー衝撃試験方法」に準拠して、ノッチ付き(切欠き付き)試験片を用い、更生管のシャルピー衝撃値を測定した。測定は0℃の雰囲気下で行った。
【0090】
(3)施工性:更生管を内径50mmの鋼管内に挿入し、更生管の一方の端部から更生管の内部に90℃の熱風を10分間送風して鋼管の内面に更生管を密着させた。次いで、20℃の空気を30分間送風して冷却した後、鋼管と更生管との密着状態を目視で観察し、下記判定基準により、施工性を評価した。
〔判定基準〕
○‥‥鋼管に対し更生管が全面的に密着していた
×‥‥鋼管に対し更生管が部分的もしくは全面的に密着していなかった
また、表3で得られた塩化ビニル系樹脂組成物については、温度別弾性率を測定した。その結果を図1及び図2に示す。
【0091】
さらに、表3で得られた塩化ビニル系樹脂組成物のうち、実施例6及び比較例10の塩化ビニル系樹脂組成物を用いて更生管を作成した場合の引き込み力及び拡径度を評価した。
これらの評価は、いずれも口径400オメガ形状パイプに施工した場合の評価である。
【0092】
その結果、実施例6では引き込み力が1.2トンであったのに対し、比較例10では2.5トンであった。また、長さ2400mmの口径40の0ヒューム管内での拡径テストでは、実施例6では予備加熱時間20分間で正常に拡径できたのに対して、比較例11では予備加熱時間が40分間であった。
【0093】
(塩化ビニル系樹脂組成物及び更生管の作製)
(実施例10〜13、比較例13〜17)
塩化ビニル樹脂(商品名「TS1000R」、徳山積水工業社製)に対して、表4の組成に従い、エチレン−酢ビ共重合体(商品名「エルバロイ742」、三井デュポンケミカル社製)、ウレタン系エラストマーA(商品名「T−5275N」、大日本インキ化学工業社製)、低ガラス転移点及び低融点化合物としては、エチルフタリルエチルグリコート(商品名「#10」、大八化学社製)、アジピン酸ポリエステル(商品名「HA5」、花王製)、ウォラストナイト(商品名:SH600、キンセイマティック社製)、マイカ(商品名:A300、大塚化学社製)、衝撃改良剤としてMBS(商品名「B564」(カネカ製))、塩素化ポリエチレン(商品名「JMR135C」(ダイソー製)、アクリル系改質剤(商品名「KM357P」(ロームアンドハース社製)、有機錫系安定剤2部、ポリエチレンワックス系滑剤0.5部、ステアリン酸0.5部及び加工助剤3部をスーパーミキサー(100L、カワタ社製)にて攪拌混合して塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0094】
上記で得られた塩化ビニル系樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM−50」、長田製作所社製)に供給し、上記実施例と同様にして、更生管を作製し、同様に評価した。
その結果を表4に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、更生管の製造のみならず、種々の用途で用いられる管状体の製造にも利用することができる。さらに、管状体の製造のみならず、塩化ビニル系樹脂を用いて得られる成形体のいずれにおいても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の塩化ビニル系樹脂組成物の実施例で作成した更生管の温度別弾性率を示すグラフである。
【図2】図1のグラフの要部のスケールを拡大したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系共重合体1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる複合塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、
該複合塩化ビニル系樹脂に相溶し得る熱可塑性エラストマーの添加量が10〜30重量部、
針状又は板状無機物が1〜10重量部添加されてなることを特徴とする更生管用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
さらに衝撃改良剤が3〜10重量部添加されてなる請求項1に記載の更生管用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
平均重合度が600〜3000である塩化ビニル樹脂100重量部に対し、
該塩化ビニル系樹脂に相溶し得る熱可塑性エラストマーの添加量が10〜30重量部、
針状又は板状無機物が1〜10重量部、
衝撃改良剤が3〜30重量部添加されてなることを特徴とする更生管用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、低ガラス転移点又は低融点の化合物A(熱可塑性エラストマーを除く)が、熱可塑性エラストマーとの合計において10〜30重量部添加されてなる請求項1〜3のいずれか1つに記載の更生管用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
アクリル系共重合体は、ガラス転移温度が−140℃以上0℃未満であり、少なくとも1種類の(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマー100重量部と多官能性モノマー0.1〜10重量部とからなるアクリル系共重合体である請求項1〜3のいずれか1つに記載の更生管用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】
アクリル系共重合体は、単独共重合体のガラス転移温度が−140℃以上−60℃未満であるラジカル重合性モノマー100重量部及び多官能性モノマー0.1〜1重量部の共重合体40〜90重量%に、単独共重合体のガラス転移温度が−55℃以上0℃未満である(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマー100重量部及び多官能性モノマー1.5〜10重量部の混合モノマー10〜60重量%をグラフト共重合したコア−シェル構造からなる請求項1〜5のいずれか1つに記載の更生管用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項7】
更生管用塩化ビニル系樹脂組成物からなる成形体の曲げ弾性率が、20℃において1470Mpa以上であり、50℃において50〜1470Mpaである請求項1〜5のいずれか1つに記載の更生管用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項8】
針状又は板状無機物は、アスペクト比が10以上で、かつ金属複合酸化物からなる請求項1〜7のいずれか1つに記載の更生管用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項9】
複合塩化ビニル系樹脂に相溶し得る熱可塑性エラストマーは、分子量1000〜6万のウレタン系エラストマー又は該ウレタン系エラストマーと分子量20000以下のエステル系可塑剤とを含む請求項1〜8のいずれか1つに記載の更生管用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の更生管用塩化ビニル系樹脂組成物と、既設管とからなり、
前記更生管用塩化ビニル系樹脂組成物が、既設管中に挿入され、加熱されることにより該既設管の内面に密着してなることを特徴とする塩化ビニル系樹脂更生管。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−13632(P2008−13632A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184826(P2006−184826)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】