説明

有効成分の結腸標的指向送達用ガレヌス製剤形態

本発明は、マクロライドおよび関連物質を不活性化できる酵素、キノロンを不活性化できる酵素、およびβ−ラクタマーゼからなる群から選択される有効成分の結腸送達用であった経口投与用である多粒子ガレヌス製剤形態に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、結腸標的指向送達用ガレヌス製剤形態(galenic form for colon-targeted delivery)、その製造方法およびその治療における使用に関する。
【0002】
技術背景
結腸における特異的放出システムは、有意な治療的利点を有することが証明されている。有効成分が部位特異的に放出されれば多数の結腸疾患を効果的にそしてより有効に治療することができる。これは特に、クローン病、潰瘍性結腸炎、結腸/直腸癌および便秘症の場合にそうである。
【0003】
結腸標的指向放出はまた、治療上の観点から吸収の遅延が必要な場合、特に夜間喘息すなわち咳発作の症状の治療において、注目される(Kinget R. et al. (1998), Colonic Drug Targeting, Journal of Drug Targeting, 6, 129)。
【0004】
ポリペプチド性有効成分の投与は、本質的には非経口的に行なわれ、これは苦痛を伴い、不十分な治療所見のもととなる。この数年、結腸をペプチド性有効成分(無痛化剤、避妊薬、ワクチン、インシュリンなど)の吸収部位として用いることに関心がもたれてきた。結腸におけるペプチドの吸収は、他の消化管部位に較べてより効果的と思われ、これは特に、タンパク質分解活性が小腸中より明らかに弱いことおよび結腸上皮細胞膜関連のペプチド分解活性が存在しないことによる。
【0005】
抗生物質の経口投与過程では、抗生物質は胃を通過した後に小腸で吸収され、体全体に拡散して投与目標であった感染巣を治療する。それでも、摂取された抗生物質の一部(その有意性は抗生物質の各タイプ特有の性質によって異なる)は吸収されずに、糞便としての排泄前に結腸に至る。これら残余抗生物質は吸収された抗生物質の一部と小腸において再合するが、胆汁排泄を通して消化管に再排出される。この部分は、各抗生物質の代謝と排泄経路に応じてその有意性は異なる。最後的には、ある種の抗生物質については、吸収された用量の一部は消化器管腔の腸粘液によって直接排出される。抗生物質は経口的または非経口的に投与されてきたことから、活性の残余部分は一般に結腸に見出される。これは程度に差はあれ治療用の大多数の抗生物質ファミリーに共通し、特筆すべき唯一の例外は腸排出が無視できるアミノグリコシドファミリーである。他の抗生物質では、残余抗生物質活性の腸排出は種々の結果をもたらすが、全て有害である。実際、結腸には複雑(数百種の異なる細菌種)で高密度(結腸内容物1グラム当たり1011個以上の細菌)の細菌生態系が存在し、これは抗生物質の活性残余の到来によって影響される。次のようなことが観察される。
【0006】
1)抗生物質の摂取後に時に起きる普通下痢の主な原因とされる細菌叢の不均衡(Bartlett J.G. (2002) Clinical practice. Antibiotic associated diarrhea, New England Journal of Medicine, 346, 334)。この下痢は通常は軽度であって、自然にまたは治療を中止すれば速やかに和らぐが、それでも患者には有難くなく、抗生物質が処方された基礎疾患の不快感を増す。
【0007】
2)外来性細菌の定着に対する抵抗機能(すなわち「障壁効果」)を乱し、これはサルモネラによる消化器系食中毒などの感染リスクを高める可能性がある(Holmberg S.D. et al. (1984) Drug resistant Salmonella from animals fed antimicrobials, New England Journal of Medicine, 311, 617)。
【0008】
3)抗生物質に対して耐性の微生物の選択。これには種々のタイプが考えられる。
a)それらはまず、病原性細菌であり得る。これには例えば、偽膜性腸炎として知られる重篤な結腸炎を起こす毒素の分泌能を有する菌種クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)がある(Bartlett J.G. (1997) Clostridium difficile infection: pathophysiology and diagnosis, Seminar in Gastrointestinal Disease, 8, 12)。
b)それらはまた、比較的軽度の病原性微生物であり得るが、その増殖は周囲感染(膣カンジダ症または大腸菌耐性膀胱炎)をもたらし得る。
c)最後にそれらは、非病原性共生耐性細菌であり得るが、その増殖および糞便排泄は環境への普及拡散を増大する。実際に、これら耐性共生細菌は、病原性菌種の耐性メカニズムの重要な原因となり得る。現在このリスクは、多くのヒト病原性菌種の多剤耐性への進化における厄介な形質という点で重要な問題と考えられている。
【0009】
したがって、結腸中に有効成分を放出するために、消化管の多様な生理学的パラメターを開発する多数の方法が考えられてきた。研究は特に、(1)pHの変化に感受性のポリマーの利用、(2)時間依存性の放出形態、および(3)細菌叢の細菌による分解が可能なプロドラッグまたはポリマー、に基づく投与システムを用いて行われてきた。
【0010】
(1)pH変化に基づくシステム
胃内のpHは1〜3程度であるが、これは小腸および結腸で上昇して7近くにまで達する(Hovgaard L. et al. (1996) Current Applications of Polysaccharides in Colon Targetting, Critical Reviews in Theracanic Drug Carrier Systems,13, 185)。これらのpH変化を経ずに有効成分を結腸に到達させるために、酸性pHでは不溶であるが中性またはアルカリ性pHでは可溶であるpH依存性ポリマーで被覆した錠剤、ゲルまたはスフェロイドの形でそれを投与することが可能である(Kinget et al. 前出)。もっともよく用いられるポリマーは、メタクリル酸誘導体のEugradit LおよびSである(Ashford M. et al. (1993), An in vivo investigation into the suitability of pH-dependent polymers for colonic targeting, International Journal of Pharmaceutics, 95, 193および95, 241; およびDavid A. et al. (1997) Acrylic polymers for colon-specific drug delivery, S.T.P. Pharma Sciences, 7, 546)。
【0011】
胃腸管レベルでpH値の有意な固体間および固体内変動があるとすれば、pH依存性ポリマーは結腸での特異的放出を得るための最良の手段を意味するものではない(Ashford M. et al., et al.,op cit.)。
【0012】
(2)通過時間に基づくシステム
これらシステムの調製物は、予め決められたラグタイムの後に有効成分を放出させるものである。有効成分を結腸で放出するためには、これら剤型は胃の酸性環境になお抵抗して、有効成分の放出前に、口から末端回腸までの通過時間に相当する予め決められた時間の休止期を経過しなければならない(Gazzaniga A. et al. (1995) Time-dependent oral delivery systems for colon targeting, S.T. P. Pharma Sciences, 5, 83および108, 77; Liu P. et al. (1999) Alginate/Pectin/Poly-L-Lysine Particulate as a potential controlled release formulation, J. Pharm. Pharmacol., 51, 141; Pozzi F. et al. (1994) The Time Clock system: a new oral dosage form for fast and complete release of drug after predetermined lag time, Journal of Controlled Release, 31, 99)。
【0013】
SchererによるPulsinocap(商標)は、この型の最初の調製物の一つであった(国際特許出願WO90/09168)。これは、本体は水に不溶のゲルの様相を呈する。有効成分は水溶性ゲルの頭部に位置するハイドロゲルストッパーによって本体に保持される。全体は胃液耐性膜によって被覆されている。小腸内での頭部の溶解の後、ストッパーは消化液との接触で膨張する。後者が膨張限界に達すると押し出されて、それによって有効成分が放出される。排出時間は、ストッパーを構成するハイドロゲルの性質によって制御される。
【0014】
通過時間に基づくシステムには、それでも多数の欠点(胃を空にする時間と通過時間の変動、回/盲腸バルブにおける保留現象(Kinget R. 前出))があり、特異性の欠如をもたらし、結腸における特異的放出システムとしての有効性が妨げられている。最後に、この型のシステムの大量生産は、工業的技術のかなりの適用が要求されてコスト高となることから予想が難しい。
【0015】
近年、結腸を標的指向する新規の剤型「結腸標的指向送達カプセル(Colon-targeted Delivery Capsule (CTDC)」が開発された(Ishibashi T. et al. (1998) Design and evaluation of a new capsule-type dosage form for colon-targeted dilivery of drugs, International Journal of Pharmaceutics, 168, 31および 57, 45)。CTDCは、pH依存性因子と時間依存性因子とを一緒に合わせたシステムである。これは、有効成分と有機酸(コハク酸)とを封入した古典的ゲルの剤型で、3層に被覆されている。
【0016】
(3)結腸微生物叢の酵素活性に基づくシステム
3.1.プロドラッグ
プロドラッグは種々の有効成分の結腸標的指向のために広く研究されてきた(抗炎症非ステロイドおよびステロイド剤、鎮痙剤など)。これらのシステムは、活性型の有効成分を放出するための、結腸菌叢によって産生される酵素のプロドラッグ崩壊能に基づく。
【0017】
特に細菌性アゾレダクターゼの作用に基づいた多数のプロドラッグが、クローン病や潰瘍性大腸炎などの局所性疾患の治療において利用される5−アミノサリチル酸(5−ASA)などの有効成分を結腸に放出するために開発されてきた(Peppercorn M.A. et al. (1972) The role of intestinal bacteria in the metabolism of salicylazosufapyridine, The Journal of Pharmacology and Experimental Theracanics, 181, 555および 64, 240)。
【0018】
他のアプローチは、グリコシダーゼやポリサッカリダーゼなどの細菌性加水分解酵素の開発から成る(Friend D.R. (1995) Glycoside prodrugs: novel pharmacotherapy for colonic diseases, S.T.P. Pharma Sciences, 5, 70; Friend D.R. et al. (1984) A colon-specific drug-delivery system based on drug glycosides and the glycosidases of colonic bacteria, Journal of Medicinal Chemistry, 27, 261; friend D.R. et al. (1985) Drug glycosides: potential prodrugs for colon-specific drug delivery, journal of Medicinal Chemistry, 28, 51; および Friend D.R. et al. (1992) Drug glycosides in oral colon-specific drug delivery, Journal of Controlled Release, 19, 109)。したがって、プロドラッグは、例えばステロイドを、糖類(グルコース、ガラクトース、セロビオース、デキストラン(国際特許出願WO90/09168))、シクロデキストリン(Hirayama F. et al. (1996) In vitro evaluation of Biphenyl Acetic Acid-p-Cyclodexrin conjugates as colon-targeting prodrugs: drug release behavior in rat biological media, Journal of Pharmacy and Pharmacology, 48, 27)とカップリングさせることによって開発された。
【0019】
3.2.細菌性酵素によって生物分解可能なポリマーによる被覆
この場合、結腸標的指向は、微生物叢によって産生される酵素で特異的に分解されるポリマーで製剤を被覆することによって、すなわちアゾレダクターゼまたは細菌性グリコシラーゼの存在を利用することによってなされる。
【0020】
アゾ芳香族連結を含む多数のポリマーが、有効成分を被覆するのに用いられてきた。Saffranら(Oral insulin in diabetic dogs, Journal of Endocrinology (1991), 131, 267および A new approach to the oral administration of insulin and other peptide drugs, Science (1986), 233, 1081)は、アゾ芳香族結合で連結されたスチレンとヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)との共ポリマーで被覆された経口剤からのラットおよびイヌの結腸でのインスリンおよびバソプレシンの放出を記述している。この被覆は細菌性アゾレダクターゼによって結腸中で崩壊されて、有効物質の放出がもたらされる。
【0021】
アゾポリマーの利点は、有効成分の放出に関して極めて良好な結腸選択性を可能にすることである。その使用に伴う欠点は、起こり得る毒性に関する情報に欠けることである。
【0022】
この欠点を避けるために、他の研究では、多糖類などの天然物質を基剤とした被覆薄膜、特にアミロース/エチルセルロースを基剤とした被覆薄膜(Milojevic S. et al. (1996) Amylose as a coating for drug delivery to the colon: preparation and in vitro evaluation using 5-aminosalicylic acid pellets, Journal of Controlled Release, 38, 75)、デキストランエステルを基剤とした被覆薄膜(Bauer K.H. et al. (1995) Novel pharmaceutical excipients for colon targeting, S.T.P. Pharma Sciences, 5, 54)またはペクチンを基剤としたものの使用に焦点が向けられている。
【0023】
3.3.細菌性酵素によって生物分解可能なマトリックス
結腸における特異的放出システムの他のアプローチは、有効成分と生物分解性ポリマーとの混合物を圧縮することによるマトリックスの合成からなり、そのようなポリマーにはコンドロイチン硫酸(Rubinstein A. et al. (1992b) Chondroitin sulfate: a potential biodegradable carrier for colon-specific drug delivery, International Journal of Pharmaceutics, 84, 141および Rubinstein A. et al (1992a) Colonic drug delivery: enhanced release of Indomethacin from cross-linked chondroitin matrix in rat cecal content, Pharmaceutical Research, 9, 276)、グアガム(Krishnaiah Y.S.R. et al. (1998) Evaluation of guar gum as a compression coat for drug targeting to colon, International Journal of Pharmaceutics, 171, 137)、キトサン(Tozaki H. et al. (1997) Chitosan capsules for colon-specific drug delivery: improvement of insulin absorption from the rat colon, Journal of Pharmaceutical Sciences, 86, 1016)またはペクチン(Rubinstein A. et al. (1993) In vitro evaluation of calcium pectinate: a potential colon-specific drug delivery carrier, Pharmaceutical Research, 10, 258)などがある。
【0024】
微生物叢の酵素活性に基づくシステムは、おそらく、有効成分の放出に関して最良の結腸特異性を有するものである。したがって、これらは結腸標的指向の進路として将来性がある。
【0025】
結腸投与のためのシステムの調製における多糖類の利点は、それらが天然起源であること、毒性が極めて少ないことおよび結腸菌叢の細菌性酵素によって特異的に分解されることである。
【0026】
例えばペクチンは、高等植物の細胞壁から分離され、農業食糧産業(ジャム、アイスクリームなどのゲル化剤または濃厚剤として)および調剤において広く用いられる。これは高分子で多分散である。その組成は、起源、抽出条件および環境因子によって異なる。
【0027】
ペクチンは、主にα−1,4−(D)−ガラクツロン酸の直鎖からなるが、ラムノースユニットが散在するものもある。ガラクツロン酸のカルボキシル基の一部がエステル化されてメチル化ペクチンとなることができる。二つのタイプのペクチンがメチル化の程度(DM:ガラクツロン酸100ユニット当たりのメトキシ基の数)によって区別される。
− メチル化の程度が50〜80%である、高度にメチル化されたペクチン(HM:ハイメトキシ)。これはごく僅かに水溶性で、酸性メジウム中(pH<3.6)または糖類の存在下でゲルを形成する。
− メチル化の程度が25〜50%である、僅かにメチル化されたペクチン(LM:ローメトキシ)。HMペクチンよりもより水に溶けやすく、Ca2+のような2価のカチオンの存在下でゲル化する。実際、Ca2+イオンは、ガラクツロン酸の遊離カルボキシル基間を「架橋」する。このようにして形成されるネットワークは、Grantらによってエッグボックスモデルという名称で記述されている(Grant G.T. et al. (1973) Biological interactions between polysaccharides and divalent cations: the egg-box model, FEBS Letters, 32, 195)。
【0028】
さらにアミド化ペクチンがある。いくつかのメチルカルボキシル基(−COOCH)は、ペクチンをアンモニア処理することによってカルボキサミド基(−CONH)に変換され得る。このアミド化によってペクチンに新たな特性、特にpH変動に対する耐性の向上が付加される。
【0029】
ペクチンは、高等植物およびヒト結腸菌叢の細菌を含む多様な微生物(キノコ類、細菌など)に由来する酵素によって分解される。微生物叢によって産生される酵素は、ポリサッカリダーゼ、グリコシダーゼおよびエステラーゼから構成される。
【0030】
ガレヌス製剤形態のペクチンによる被覆は、圧縮(Ashford M. et al. (1993b), An evaluation of pectin as a carrier for drug targeting to the colon, Journal of Controlled Release, 26, 213)または粉砕のいずれかによって行なわれる。圧縮による被覆はペクチンのみで一般に完成されるが、粉砕による圧縮にはペクチンに加えてフィルモジェニック・ポリマーの使用が要求される(Milojevic S. et al. (1996) Amylose as a coating for drug delivery to the colon: preparation and in vitro evaluation using 5-aminosalicylic acid pellets, Journal of Controlled Release, 38, 75; Wakerly Z. et al., (1996) Pectin/ethylcellulose film coating formulations for colonic drug delivery, Pharmaceutical Research, 13, 1210)。
【0031】
ペクチンに基づいた多数のマトリックス型が同様に研究されてきた。それらは、純粋なペクチンあるいはそのCa2+イオンとの複合体である僅かに水溶性のペクチン酸カルシウムのいずれかによって一般に構成される。インドメタシンを含むペクチン酸カルシウムのマトリックスは特に、Rubinsteinら((1992a) Colonic drug delivery: enhanced release of Indomethacin from cross-linked chondroitin matrix in rat cecal content, Pharmaceutical Research, 9, 276)による記述があり、ペクチン分解酵素の作用に対する感受性を保ちながら、ペクチン酸カルシウムの消化液中での安定性がペクチン単独より良好であることを示している。
【0032】
pH変動に対してより耐性のアミド化ペクチンもまた、結腸観察のためのマトリックス錠剤の合成のために研究されている(Wakerly Z. et al. (1997) Studies on amidated pectins as potential carriers in colonic drug delivery, Journal of Pharmacy and Pharmacology, 49, 622)。
【0033】
Aydinら((1996) Preparation and evaluation of pectin beads, International Journal of Pharmaceutics, 137, 133)は、Bodmeierら((1989) Preparation and evaluation of drug-containing chitosan beads, Drug Development and Industrial Pharmacy, 15, 1475および Spherical agglomerates of water-insoluble drugs, Journal of Pharmaceutical Sciences, 78, 964)によるイオンゲル化法によってペクチンビーズを初めて調製し、アルギン酸塩およびチトサンのビーズを開示した。彼らの課題は、ペクチンとの可能な相互作用を特徴づけするように、カチオン性(アテノロール)およびアニオン性(ピロキシカム)の二つの異なる有効成分をビーズに組み入れることであった。その結果、彼らは、二つのタイプの有効成分を用いてビーズを形成することが可能であること、および得られるビーズの性質に主に影響するのは操作条件であることを示した。
【0034】
Sriamornsakは、分子量66400ダルトンのウシ血清アルブミン(BSA)をタンパク質モデルとして用いて、ペクチン酸カルシウムを用いることによって結腸中にタンパク質を特異的に放出するシステムを確立した(Sriamornsak P. (1998) Investigation on pectin as a carrier for oral delivery of proteins using calcium pectinate gel beads, International Journal of Pharmaceutics, 169, 213および (1999) Effect of calcium concentration, hardening agent and drying condition on release characteristics of oral proteins from calcium pectinate gel beads, European Journal of Pharmaceutical Sciences, 8, 221)。彼は、得られるビーズの性質に影響する種々の調製因子、例えばビーズの形、サイズ、BSAのカプセル化の速度およびその放出動態などについて研究した。それによって、Sriamornsakは、タンパク質の結腸における特異的放出にペクチン酸カルシウムゲルを用い得ることを示した。適切な放出動態プロファイルの獲得は、主として調剤の選択およびビーズ調製の操作条件に依存する。封入された有効成分の放出プロファイルのインビトロ/インビボ相関は確立されなかった。
【0035】
消化管を通しての粒子の安定性を増大させて封入された有効成分の早すぎる放出を避けるために、カチオン性ポリマーで網状化(reticulate)することによってペクチンビーズを補強することが可能である。
【0036】
Munjeriら((1997) Hydrogel beads based on amidated pectins for colon-specific drug delivery: the role of chitosan in modifying drug release, Journal of Controlled Release, 46, 273)は、アミド化したペクチンビーズをキトサンで網状化した。次いで彼らは、網状化型と非網状化型との溶解の動態を比較することによって、チトサンは不溶の有効成分の放出を最小にはできたが、水溶性有効成分の放出を有意には変えなかったことを示した。したがって、チトサンとアミド化ペクチンとの間の複合体形成によって胃および小腸を模した条件での有効成分の消失が制限でき、網状化ペクチンビーズは結腸ペクチン分解酵素の作用に対しての感受性を維持する。
【0037】
他の網状化剤であるポリリジンは、アルギナート/ペクチンビーズの存在下で試験された(Liu P. et al. (1999) Alginate/Pectin/Poly-L-lysine particulate as a potential controlled release formulation, J. Pharm. pharmacol., 51, 141)。ポリリジンによって網状化されたビーズでは、高水溶性の有効成分が存在する場合を除いて、酸性メジウム(0.1N HCl)中での有効成分の放出は非網状化ビーズよりも少ないようであった。同様な効果はアルカリ性メジウム(リン酸塩緩衝液、pH7.5)中で見られるが、それは明らかに酸性媒体の場合のように顕著ではない。
【0038】
国際出願WO88/07865は、残余抗生物質を加水分解するために、結腸でβ−ラクタマーゼを産生する細菌を投与することを示唆している。利用される微生物は、絶対嫌気性代謝をする微生物で、薬物製造のための十分量を生産および凍結乾燥することが困難である。さらに、これらはβ−ラクタマーゼをコードする抗生物質に対する耐性遺伝子のキャリアであるので、これら遺伝子を結腸生態系内および環境系に広めるリスクが生じる。
【0039】
国際出願WO93/13795は、β−ラクタマーゼを含む経口ガレヌス製剤形態を提唱している。これは、β−ラクタマーゼまたはアミダーゼおよび任意にトリプシンインヒビターを封入した直径1〜2.5mmのスクロース粒子からなることができ、該粒子は胃液耐性ポリマーで被覆されている。これら粒子は、消化管の異なる部分で酵素を十分に放出することができるので、腸管の所望の部位でその活性が要求通りに発揮される。
【0040】
いずれの例も、提唱されたガレヌス製剤形態が腸の所望の部位で活性型の酵素を効果的に放出することができることを示す実験データを含んでいない。さらに、ガレヌス製剤形態が抗生物質を効果的に加水分解できるということが、インビボでも、腸媒体の特徴を再生した媒体でのインビトロでさえも証明されていない。
【発明の概要】
【0041】
これら全ての理由から、経口または非経口的抗生物質治療の後に結腸に達する残余抗生物質の量を減らすか、または有効成分を直接に結腸に送達することができるシステムを用いることが非常に望まれている。
【0042】
したがって、本発明の目的は、経口的に用いられる、有効成分の結腸送達のための多粒子ガレヌス製剤形態である。
【発明の具体的説明】
【0043】
本発明において、有効成分とは、治療または診断における使用に適していて、本発明によるガレヌス製剤形態に組み入れることができる物質または組成物を意味すると理解される。
【0044】
有効成分は抗感染性であることができ、例えば、抗生物質、抗炎症性化合物、抗ヒスタミン剤、抗コリン作動性薬物、抗ウイルス剤、抗分裂剤、ペプチド、タンパク質、遺伝子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、診断薬および/または免疫抑制剤または細菌などである。
【0045】
特に有利な有効成分の例として、抗炎症剤、抗腫瘍剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド、および結腸で抗生物質を不活性化できる酵素、特にβ−ラクタマーゼ、またはマクロライドおよびその関連物質を不活性化できる酵素、例えばAndremont A.ら((1985) Plasmid mediated susceptibility to intestinal microbial antagonisms in Escherichia coli Infect. Immun. 49 (3), 751)の記載によるエリスロマイシンエステラーゼまたはChen Y.ら((1997) Microbicidal models of soil metabolisms biotransformations of danofloxacin, Journal of Industrial Microbiology and Biotechnology 19, 378)の記載にあるようなキノロンを不活性化できる酵素が挙げられる。
有効成分は水溶性でも脂溶性でもよい。
【0046】
本発明の有利な態様において、経口用に適して有効成分の結腸送達に適する多粒子ガレヌス製剤形態は、カチオン性塩が有効成分を封入するような形のペクチンビーズを含んでなり、該ペクチンはカチオン性ポリマーで網状化される。
【0047】
本発明の有利な態様において、ペクチンを網状化し得るカチオン性ポリマーは、ポリエチレンイミン、ポリリジン、キトサンおよびこれらの誘導体からなる群から選択される。
【0048】
より有利には、これらカチオン性ポリマーの分子量は、10,000〜100,000ダルトン、好ましくは20,000〜50,000ダルトンである。
【0049】
本発明の他の有利な態様において、用いられるカチオン性ペクチン塩はペクチン酸カルシウムである。
【0050】
本発明においては、ペクチンはまた、メチル化または非メチル化された、アミド化または非アミド化されたペクチンを意味すると理解される。
【0051】
本発明によるガレヌス製剤形態は、全ての経口用剤型、特にゲルおよびカプセルの剤型で投与することができる。
【0052】
これらゲルおよびカプセルは、他の有効成分と同時にまたはそれに続いて投与することができ、特にゲルまたはカプセルが抗生物質を不活性化できる酵素を含む場合はそれらは対応する抗生物質調製物と同時にまたはそれに続いて投与することができる。
【0053】
本発明によるガレヌス製剤形態を含むゲルおよびカプセルと合わせて投与される有効成分は、経口的にまたは他の方法で投与される。
【0054】
本発明によるガレヌス製剤形態は、当業者に公知の方法または、これもまた本発明の一部である新規の方法によって調製できる。
【0055】
したがって、本発明の目的はまた、多粒子ガレヌス製剤形態の調製法であって、これは有効成分を含むペクチンの水溶液を0.5〜5%(v/v)の濃度になるように塩化カルシウム溶液中に滴下して加えてペクチン酸カルシウムのビーズを形成し、次いでこのようにして得たペクチン酸カルシウムのビーズを回収してカチオン性ポリマーの水溶液に導入することを特徴とする。
【0056】
本発明の方法の有利な態様において、ペクチン溶液は4〜10%(m/v)、好ましくは4〜7%であり、塩化カルシウム溶液は2〜10%(m/v)であり、カチオン性ポリマー溶液は0.5〜2%(m/v)であって、該カチオン性ポリマー溶液は好ましくはポリエチレンイミン溶液である。
【0057】
本発明のより有利な態様において、ガレヌス製剤形態は、ペクチンの6%(m/v)溶液、塩化カルシウムの6%(m/v)溶液、およびポリエチレンイミンの1%または0.6%溶液から調製される。
【0058】
ビーズは、塩化カルシウム中で10分〜1時間、好ましくは20分間、緩やかに攪拌しながら保持される。
【0059】
カチオン性ポリマーによる網状化工程は、15〜40分間、好ましくは20分間、緩やかに攪拌しながら行う。
【0060】
ペクチン酸塩ビーズを回収した後、ビーズを20〜40℃の温度で30分〜10時間、好ましくは37℃で2時間、乾燥する。
【0061】
本発明による粒子の直径は、800〜1500μm、好ましくは1000〜1200μmである。
【0062】
カプセル化収率は、50〜90%、すなわちβ−ラクタマーゼの3−6UI/ビーズで、ペクチンがアミド化されているいないに関わらず、ベンジルペニシリン基質中での活性で表わす。
【0063】
安定性は胃液中で10時間以上で、腸媒体USP XXIV中でも同様に極めて良好であり、それは7時間以上(非網状化ペクチンビーズの安定性持続は1時間以下)で、かつ用いるペクチンのタイプに関係がないからである。
【実施例】
【0064】
以下の実施例1から7および図1から8によって本発明を説明する。
【0065】
実施例1:ガレヌス製剤形態の調製
ペクチンの6%水溶液(DegussaによるOF 400またはOG 175C Unipectint)を、塩化カルシウム6%溶液(m/v)に滴下して加える。ペクチン溶液は、蠕動ポンプ(Microperpexe LKB Bromma)に連結したタイゴン(Tygon)パイプによって塩化カルシウム溶液に導入される。溶液は直径0.8mmの針(21G、Nedus Terumo)を通ってペクチン滴を形成し、これが塩化カルシウム(40ml)と接触して即時にゲル化して、ペクチン酸カルシウムを生じる。ビーズを、塩化カルシウム中で緩やかに攪拌しながら20分間保持する。
【0066】
有効成分(β−ラクタマーゼ)を含まない白ビーズを、アミド化(OG 175C)または非アミド化(OF 400)ペクチンの6%溶液を出発材料として得る。負荷ビーズの調製のために、有効成分(β−ラクタマーゼ、Bacillus cereusから抽出されたタイプAのペニシリナーゼ;シグマ社)をペクチン溶液と3%の割合(Vpa/Vペクチン)で混合する。
【0067】
次いで、得られるペクチン酸カルシウムのビーズを濾過によって回収して、蒸留水で濯いで、ペトリ皿上に置いて乾燥炉で37℃で2時間で乾燥させる。
【0068】
ポリエチレンイミン中での網状化のために、濾過によってCaCl溶液から回収した未乾燥ビーズを、1%ポリエチレンイミン(PEI)水溶液中に導入して、そこで緩やかに攪拌しながら20分間保持する。
【0069】
非アミド化ペクチンOF 400から調製されたビーズは、1〜2.5UI/ビーズを含み、アミド化ペクチンOG175Cから調製されたビーズは1〜5UI/ビーズを含んでいた。
【0070】
実施例2: ビーズの安定性
1.方法
ビーズを網状化処理をするかまたはしない実施例1の方法により調製する。PEI中での網状化処理の持続時間は0.6〜1%の濃度の溶液中で20分間である。
ビーズを、リン酸塩緩衝液(PBS 0.01 M、pH 7.4)中または消化液を模した媒体(胃および腸USP XXIV)中のいずれかに置いて、崩壊時間を観察する。
【0071】
2.結果
結果を図1に示す。
網状化の有無にかかわらず、ビーズはPBS中および胃媒体中で安定であった。しかし、腸媒体中では、非網状化ビーズが不安定であるのに対して本発明によるビーズは7時間以上も安定であった。
【0072】
実施例3: ビーズの形態学的特徴
それらを図2Aから2Dに示す。
切断部は、ビーズの中心は詰まって密であることを示す。表面殻はPEIに相当する。内部および外部は異なる構造を有していた。
【0073】
実施例4: インビトロでの放出動態
1.方法
二つの異なる濃度のPEI(0.6および0.7%)で網状化したビーズを、アミド化ペクチンから実施例1の方法で5UI/ビーズを含むように調製する。これらを腸媒体USP XXIV中にpH6.8で5時間保持した後、ペクチン分解酵素を含むpH6の合成結腸媒体(Pectinex Ultra SPL)に導入する。
ビーズ中の残余β−ラクタマーゼ活性を、ニトロセフィンの存在下で分光光度法によって経時的に測定する。
【0074】
2.結果
結果を図3に示す。
腸媒体中で5時間インキュベートした後のビーズ(T5H)では、含まれるβ−ラクタマーゼ活性の放出は25%未満である。0.6%PEIで網状化されたビーズでは、ペクチン分解酵素作用下の結腸媒体中(T10H)での放出は有意になるが、ペクチン分解酵素なしの試料(T10Hコントロール)ではβ−ラクタマーゼ活性の有意な変化はない。これに対して、0.7%PEIで網状化したビーズでは結腸媒体中で5時間の後に活性の減少はない。
このように、PEI濃度はビーズの抵抗性を変えて、結腸媒体中の有効成分の放出時間に影響した。
【0075】
実施例5:インビボでの放出動態
1.方法
このアッセイは、雄CD1マウスで行なった。ビーズは4UI/ビーズを含む。
10個のビーズを含むゲルを経口的にマウスに投与する。糞便を0、2H、3H、4H、5H、6H、7Hおよび8Hの間隔時間で回収して、これら糞便中のβ−ラクタマーゼ量を明らかにする(アッセイは各時間で5匹づつ行なう)。さらに、30分、2Hおよび4Hに各1匹を殺して、消化管のビーズを回収してそれらの形態学的変化を走査電子顕微鏡で観察する。
【0076】
2.結果
結果を図4〜7に示す。
ビーズは、3時間ほどの移動後に無変化で結腸に達した。
ビーズ経口投与後に経時的に採取したマウス糞便中に直接放出されたβ−ラクタマーゼの割合は、初めの基本のβ−ラクタマーゼ活性は低いことを示す。投与後2〜4時間に、ビーズの移動に対応してこの活性の明らかな増加があった(図4)。
【0077】
走査電子顕微鏡による写真は、消化管の異なる場所でのビーズの完全な状態を示す。
構造は小腸において僅かに壊れやすくなっており、結腸レベルではビーズが空洞のキャリアのように見えて内部が完全に破壊されている。
【0078】
図5で示すように、胃に滞留していた粒子は、何ら処理を受けなかったもの(図2)と極めて似ていた。事実、ポリエチレンイミンの存在によって表面は凹凸で不規則な様相(図5Aおよび5B)を呈し、ビーズの断面は均一で密に見えた(図5Cおよび5D)。
【0079】
2時間経つと、ビーズの僅かな変形(図6A)が認められるが、小腸中での滞留で僅かにもろくなってはいる(図6D)が粒子はまだ同じ表面様相(図6B)および密な断面(図6C)を有していた。
【0080】
移動の完了時、すなわち投与4時間後にビーズは結腸にあった。粒子の外観は、ポリエチレンイミンによる表面凹凸があって変わらない(図7A)。それでも、ビーズの断面は空洞(図7Cおよび7D)で、これは結腸ペクチン分解酵素によるペクチン酸カルシウムの中心網の崩壊の事実による。最後に、ポリエチレンイミンによって形成された外殻のみが残った。
【0081】
実施例6:エリスロマイシンエステラーゼのカプセル化
6.1. エリスロマイシンエステラーゼを含む可溶性画分の製造
6.1.1. 方法
培養物を、パスツール研究所からの大腸菌(E. coli)C600 PIP1100株から作る。培養条件は次の通りである。約20時間の前培養物0.5%をMueller-Hinton培地に接種、200または400mLの培養量で三角フラスコ中で150rpmで固定攪拌しながら37℃で培養。
【0082】
GOTS試験によって、菌株が多量のエリスロマイシンエステラーゼを産生したことを確認した。
3.6リットルの大腸菌C600 pIP1100培養物を、次のプロトコールに従って濃縮した。
− 3400gで15分間遠心分離
− 沈殿(菌体)を、最終容量70mLの5mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に中に回収
− 3400gで15分間で2回目の上清の遠心分離
− 5mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)20mL中に沈殿を回収
− 二つの遠心分離の沈殿を合わせる(約100mL)
− 沈殿を洗浄してから遠心分離(12,000gで10分間)
− 上清の2回目の遠心分離(12,000gで10分間)
− リン酸カリウム緩衝液中に回収された沈殿の最終容量:100mL。
【0083】
エリスロマイシンエステラーゼは、細胞内酵素である。したがって、その溶解には細胞の破壊が要求される。この操作は、5mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)中に回収した遠心分離沈殿を、下記のプロトコールに従って超音波抽出することによって行なった。
− 1%トリトンX100(v/v)の添加
− 5℃に冷却
− 1分間の超音波分解処理7サイクルを開始温度5℃、最高温度15℃で行なう。出力:100%(500 W、20 kHz)。各サイクル後に温度を5℃に下げる。
− 12,000gで10分間遠心分離
− 5mMのリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)10mL中に沈殿を回収
− 上清(91mL)=溶液A を回収して凍結。
【0084】
エリスロマイシンエステラーゼ活性を、上清および不溶性物質(細胞残渣)中の微生物学的用量(microbiological dosage)によって当業者に公知の方法で評価した。
【0085】
6.1.2. 結果
結果を表2に示す。
【表1】

【0086】
エリスロマイシンエステラーゼ活性を阻害の直径から評価した。
【0087】
活性は、超音波処理上清で2U/mL、音波処理沈殿で1.5U/mLであった(1ユニット(U)=1分間当たり1μgのエリスロマイシン分解)。
【0088】
エリスロマイシン活性の回収結果を以下の表3に示す。
【表2】

【0089】
結果は、存在するエリスロマイシンエステラーゼ活性の大部分が超音波処理媒体中で可溶化されていることを明らかに示した。
【0090】
6.2. エリスロマイシンエステラーゼのカプセル化
6.2.1. 方法
カプセル化は、細胞破砕後に得られる未精製可溶性画分(溶液A)から以下のプロトコールに従って行った。
− 0.5gのペクチンを10mLの溶液Aに溶解してペクチン最終濃度5%を得る(溶液B)。ペクチンは、急激なpH変動を避けるためにマグネチックスターラーで攪拌しながら徐々に加える。pHは、1Mのナトリウム化合物を2,3滴加えることによって7付近に保持する。
− ペクチン溶液(溶液B)を、蠕動ポンプを用いて40mLの6%CaClに滴下して分散させる。このようにして形成したビーズをCaCl中で20分間保持して、ブフナー濾過によって回収してから脱ミネラル水中で濯ぐ。
− ビーズをマグネチックスターラーで攪拌しながら20分間0.6%PEI溶液に浸すことによって網状化処理する。
− 網状化処理されたビーズを濾過によって回収する。
− 室温(20℃)でビーズを乾燥。全部で567個のビーズが、6.1mLのペクチン/溶液A混合物を用いて調製された。活性12.2U。
− 乾燥ビーズをHEPES/NaCl/EDTA1%緩衝液中で脱凝集する。
【0091】
6.2.2. 結果
最初のペクチン溶液に存在するエリスロマイシンエステラーゼ活性および脱凝集媒体に放出された同活性を、上記と同じプロトコールに従って評価した。
【0092】
微生物学的用量の結果を、表4および5に示す。
【表3】

【表4】

【0093】
結果は、超音波分解上清中のエリスロマイシンエステラーゼの用量によると、存在する理論値活性は約12U(6.1mLの2U/mL)である(表3)のに対して、ペクチン(溶液B)の存在下で測定された活性は2.4Uであることを示した。
【0094】
脱凝集後のビーズの酵素活性用量は2.2Uと推定され、これはビーズに最初に導入された活性の90%に当たる。
【0095】
これらの結果から、酵素をカプセル化してビーズを脱凝集した後の最終画分中にエリスロマイシンエステラーゼ活性が存在することが明白に確認された。
【0096】
実施例7:ペクチン酸カルシウムビーズにおけるDNAのカプセル化
7.1. DNAの調製
ここでカプセルに包まれる有効成分は、リン33で放射性標識されたプラスミドである。放射性標識は、Amersham BiosciencesからのニックトランスレーションキットN5500を用いて供給元による記述のプロトコールに従って行なう。
【0097】
7.2. カプセル化
7.2.1. 方法
カプセル化されるDNAは、遊離型または、実施例1に記載の方法によるカチオン性脂質(リポプレックス)もしくはカチオン性ポリマー(ポリプレックス)中の複合型である。
【0098】
遊離DNAの場合は、約5μgの放射性標識したDNAのMilliQ水溶液750μLを0.75gのアミド化または非アミド化ペクチン10%溶液に導入して、最終ペクチン濃度5%を得る。リポプレックスの場合は、放射性標識したDNAの水溶液375μLをカチオン性リポソーム(N/P比:10)の懸濁液375μLと混合する。次いで、750μLの得られたリポプレックスを0.75gの10%ペクチン溶液と混合して、最終ペクチン濃度5%を得る。
【0099】
ポリプレックスの場合は、放射性標識したDNAの水溶液375μLを375μLのPEI 4mM水溶液と混合する。次いで、このようにして得られたポリプレックス懸濁液375μLを0.75gの10%ペクチン溶液と混合して最終ペクチン濃度5%を得る。
【0100】
次いで、実施例1に記載の方法に従って、遊離または複合DNAをカプセル化したペクチン酸カルシウムのビーズを、上記のようにして得た溶液から調製する。ここで用いる塩化カルシウムの濃度は5%で、網状化のためのPEI濃度は0.6%である。
【0101】
7.2.2. 結果
図8に示した結果は、アミド化あるいは非アミド化ペクチンビーズ中のプラスミドDNAのカプセル化割合を示す。
カプセル化DNAは、遊離型またはカチオン性脂質(リポプレックス)もしくはカチオン性ポリマー(ポリプレックス)中の複合型のいずれかである。
DNAのカプセル化割合は、用いるペクチンのタイプによって60〜90%の範囲で異なった。一般にアミド化ペクチンでより高い。脂質またはカチオン性ポリマーとの複合は、比較的高く保たれるこれら割合に有意な変化をもたらさなかった。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】アミド化ペクチンビーズの崩壊時間に及ぼす種々の濃度のPEI(0.6、0.7、0.8、0.9および1%)での網状化の影響を示し、ここでビーズは三つの異なる媒体、すなわち、pH7.4の0.01 M PBS、pH6.8±0.1の腸媒体USP XXIVおよびpH1.1の胃液USP XXIV中に置かれる。
【図2】4.4 UI/ビーズのβ−ラクタマーゼを含み、1%のPEI中で20分間網状化処理したビーズの構造を、走査電子顕微鏡で観察したものである。
【図3】網状化したアミド化ビーズからのβ−ラクタマーゼのインビトロ放出を示し、ビーズは実施例1で0.6および0.7%のPEI濃度で調製されたもので約5UI/ビーズを含み、腸媒体USP XXIV中、次いで結腸媒体(HEPES緩衝液pH6+ペクチン分解酵素)中に置かれる。
【図4】4.4 UI/ビーズを含む実施例1の方法で調製したPEI中で網状化したペクチンビーズの経口投与後の、マウス糞便中のβ−ラクタマーゼ活性の経時的な変化を示す。
【図5】4.4 UI/ビーズの割合でβ−ラクタマーゼを含むビーズの、インビボ投与30分後の構造を示す。この時、ビーズは胃内にある。AおよびBは全ビーズ、CおよびDは切ったビーズを示す。
【図6】4.4 UI/ビーズの割合でβ−ラクタマーゼを含むビーズの、インビボ投与2時間後の構造を示す。この時、ビーズは小腸内にある。AおよびBは全ビーズ、CおよびDは切ったビーズを示す。
【図7】4.4 UI/ビーズの割合でβ−ラクタマーゼを含むビーズの、インビボ投与4時間後の構造を示す。この時、ビーズは結腸内にある。AおよびBは全ビーズ、CおよびDは切ったビーズを示す。
【図8】遊離またはカチオン性脂質(リポプレックス)もしくはカチオン性ポリマー(ポリプレックス)との複合プラスミドDNAのペクチンビーズ中へのカプセル化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロライドおよび関連物質を不活性化できる酵素ならびにキノロンを不活性化できる酵素からなる群から選択される有効成分を結腸送達するためであって経口用である、多粒子ガレヌス製剤形態。
【請求項2】
マクロライドを不活性化できる酵素が、エリスロマイシンエステラーゼである、請求項1に記載の多粒子ガレヌス製剤形態。
【請求項3】
経口使用に適しており有効成分を結腸送達するための多粒子ガレヌス製剤形態であって、有効成分を包含したカチオン性塩の形態で存在するペクチンビーズを含んでなり、該ペクチンがカチオン性ポリマーによって網状化されてなる、多粒子ガレヌス製剤形態。
【請求項4】
カチオン性ポリマーが、ポリエチレンイミン、ポリリジン、キトサン、およびこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項3に記載のガレヌス製剤形態。
【請求項5】
カチオン性ポリマーの分子量が10,000〜100,000ダルトン、好ましくは20,000〜50,000ダルトンである、請求項3または4に記載のガレヌス製剤形態。
【請求項6】
ペクチン塩がアミド化または非アミド化ペクチンから調製されるペクチン酸カルシウムであることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか一項に記載のガレヌス製剤形態。
【請求項7】
4〜10%(m/v)、有利には4〜7%(m/v)ペクチン溶液、2〜10%(m/v)塩化カルシウム溶液、および0.5〜2%(m/v)ポリエチレンイミン溶液から調製される、請求項3〜6のいずれか一項に記載のガレヌス製剤形態。
【請求項8】
ペクチンが6%(m/v)の溶液、塩化カルシウムが6%(m/v)の溶液、およびポリエチレンイミンが1%または0.6%の溶液である、請求項3〜7のいずれか一項に記載のガレヌス製剤形態。
【請求項9】
有効成分が、抗生物質、抗炎症性化合物、抗ヒスタミン剤、抗コリン作動性薬物、抗ウイルス剤、抗分裂剤、ペプチド、タンパク質、遺伝子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、診断薬および/または免疫抑制剤または細菌、好ましくは抗腫瘍剤および結腸で抗生物質を不活性化できる酵素から選択される、請求項3〜8のいずれか一項に記載のガレヌス製剤形態。
【請求項10】
酵素が、β−ラクタマーゼ、マクロライドおよびその関連物質を不活性化できる酵素、好ましくはエリスロマイシンエステラーゼ、およびキノロンを不活性化できる酵素からなる群から選択される、請求項9に記載のガレヌス製剤形態。
【請求項11】
請求項3〜8のいずれか一項に記載のガレヌス製剤形態の製造方法であって、有効成分を含むペクチン水溶液を2価のカチオン性塩の水溶液に加えて有効成分を包含したカチオン性塩の形態でペクチンビーズを得ることを含んでなり、ここで該ビーズがカチオン性ポリマーの水溶液に導入することによって網状化されてなる、製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗生物質を不活性化できる成分から選択される有効成分の、経口投与用であって結腸放出用の多粒子ガレヌス製剤形態。
【請求項2】
有効成分が、β−ラクタマーゼと、マクロライドおよび誘導体またはキノロン抗生物質を不活性化できる酵素とからなる群から選択される、請求項1に記載の多粒子ガレヌス製剤形態。
【請求項3】
マクロライド抗生物質を不活性化できる酵素が、エリスロマイシンエステラーゼである、請求項2に記載の多粒子ガレヌス製剤形態。
【請求項4】
有効成分を包含したカチオン性塩の形態のペクチンビーズを含んでなる、有効成分の、経口投与用であって結腸放出用の多粒子ガレヌス製剤形態あって、
該ペクチンがカチオン性ポリマーによって網状化されてなる、多粒子ガレヌス製剤形態。
【請求項5】
カチオン性ポリマーが、ポリエチレンイミン、ポリリジン、キトサン、およびこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項4に記載の多粒子ガレヌス製剤形態。
【請求項6】
カチオン性ポリマーの分子量が、10,000〜100,000ダルトン、好ましくは20,000〜50,000ダルトンである、請求項4に記載の多粒子ガレヌス製剤形態。
【請求項7】
ペクチン塩が、アミド化もしくは非アミド化ペクチンから調製されるペクチン酸カルシウムである、請求項4に記載のガレヌス製剤形態。
【請求項8】
経口投与用であって結腸送達用の請求項5〜7のいずれか一項に記載の多粒子ガレヌス製剤形態の製造方法であって、
a) 有効成分を含むペクチン溶液を調製し、
b) 該ペクチン溶液を塩化カルシウム溶液に加えて、ペクチンのカチオン性架橋ビーズを形成させ、かつ
c) ポリエチレンイミン溶液を用いて、ペクチンビーズを網状化する
ことを含んでなる、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の、経口投与用であって結腸送達用の多粒子ガレヌス製剤形態の製造方法であって、
a) 4〜10%(m/v)、好ましくは4〜7%(m/v)のペクチン溶液を調製し、
b) 該ペクチン溶液を2〜10%(m/v)の塩化カルシウム溶液に加えて、ペクチンのカチオン性架橋ビーズを形成させ、かつ
c) 0.5〜2%(m/v)のポリエチレンイミン溶液を用いて、ペクチンビーズを網状化する
ことを含んでなる、方法。
【請求項10】
ペクチン溶液が6%(m/v)のペクチン溶液であり、塩化カルシウム溶液が6%(m/v)の塩化カルシウム溶液であり、かつ、ポリエチレンイミン溶液が1%もしくは0.6%のポリエチレンイミン溶液である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、経口投与用であって結腸放出用の多粒子ガレヌス製剤形態。
【請求項12】
請求項4〜6および11のいずれか一項に記載の経口投与用であって結腸放出用の多粒子ガレヌス製剤形態であって、
有効成分が、抗炎症性化合物、抗ヒスタミン剤、抗コリン作動性薬物、抗ウイルス剤、抗分裂剤、ペプチド、タンパク質、遺伝子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、診断薬、免疫抑制剤、細菌、および、結腸で抗生物質を不活性化できる酵素から選択される、ガレヌス製剤形態。
【請求項13】
該酵素が、β−ラクタマーゼと、マクロライドおよび誘導体またはキノロン抗生物質を不活性化できる酵素とからなる群から選択される、請求項12に記載の経口投与用であって結腸放出用の多粒子ガレヌス製剤形態。
【請求項14】
抗生物質を不活性化できる酵素の経口投与用であって結腸放出用の多粒子ガレヌス製剤形態と、それと対応する抗生物質とを、抗生療法において同時使用または逐次使用するために組み合わせて含んでなる、医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−500359(P2006−500359A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−528586(P2004−528586)
【出願日】平成15年8月6日(2003.8.6)
【国際出願番号】PCT/FR2003/002474
【国際公開番号】WO2004/016248
【国際公開日】平成16年2月26日(2004.2.26)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【出願人】(505050614)
【氏名又は名称原語表記】DA VOLTERRA
【Fターム(参考)】