説明

有孔親水性フィルムを備える植物栽培システム

【課題】親水性フィルムを利用した植物栽培システムであって、フィルムおよび当該フィルム下方の排水や通気を可能とし、植物体への潅水量を管理・制御することができ、またフィルム下方における細菌やウイルスの繁殖を防ぐことができる植物栽培システムを提供する。
【解決手段】有孔親水性フィルム2と、これを支持するための支持体3を備えてフィルム2上面上で植物を栽培することができ、このフィルム2下方の通気やフィルム2上面上の余分な水や養液の排水を行うための孔5を有し、支持体3は通気や排水を可能とする空隙9をフィルム2と植物栽培システムの設置面との間に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気および/または排水用の孔を備える有孔親水性フィルムと当該フィルムを支持するための支持体とを少なくとも備える植物栽培システムに関する。詳細には、本発明は当該フィルム上面上で植物を栽培することが可能であり、当該フィルムに設けられた孔および当該フィルムの下方に存在する空隙により通気および/または排水を可能とする植物栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化による異常気象や水不足の影響により、降雨依存型の従来の露地栽培が難しくなり、安定して農作物の計画生産が可能な施設栽培農業が注目されている。施設栽培農業は水耕栽培と養液土耕栽培に大きく分類される。しかしながら、水耕栽培は設備コストが高い、得られる農作物の味がおいしくない、細菌やウイルスに感染しやすいなどの問題を有している。また養液土耕栽培は、線虫や病害細菌および化学肥料などによる土壌汚染がもたらす植物汚染、また植物体への養液供給量の制御が困難であることなどの問題を有している。
【0003】
そこでこれらの問題点を解決すべく、親水性フィルム上で植物体を栽培する新たな植物栽培システムが開発されている(特許文献1)。当該システムにおいては無孔親水性フィルム上面にて直接植物体を栽培することによって、水耕栽培のように水または養液を収容する水槽を設置することなく、また養液土耕栽培のように土壌と植物体が直接的に接することなく植物体を生育することができるために、低コストで安全な農作物を生産することができる。
【0004】
しかしながら、上記の従来の無孔親水性フィルムを利用した植物栽培システムにおいては、当該フィルム上面上に、窪みや傾きなどの当該フィルムの状態に応じて、また天井などからの結露水により余分な水が溜まりやすく、植物体への潅水量を厳密に管理・制御することが困難であった。さらに、親水性フィルムの下面には潅水を補助するための吸水性材料が密接して配置されており、親水性フィルム下面の水分や熱気などを調節することが困難であるために、親水性フィルム下面において細菌やウイルスなどが繁殖しやすい状況にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4142725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は有孔親水性フィルムを備えた植物栽培システムであって、当該フィルムおよび当該フィルム下方の排水および/または通気を可能とし、植物体への潅水量を制御することができる、また当該フィルム下方における細菌やウイルスの繁殖を防ぐことができる、上記植物栽培システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、親水性フィルムに排水および/または通気用の孔を設けること、および当該フィルムの下方に空隙を設けることによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 有孔親水性フィルムと当該フィルムを支持するための支持体を少なくとも備える植物栽培システムであって、当該フィルムはその上面上で植物を栽培することができ、かつ当該フィルム下方の通気および/または当該フィルム上面上の余分な水もしくは養液の排水を行うための孔を有し、当該支持体は当該通気および/または排水を可能とする空隙を当該フィルムと当該植物栽培システムの設置面との間に規定する、上記植物栽培システム。
[2] さらに、有孔親水性フィルムと植物栽培システムの設置面の間に防水層を備える、[1]の植物栽培システム。
【0009】
[3] さらに、有孔親水性フィルムと植物栽培システムの設置面の間に多孔質層を備える、[1]の植物栽培システム。
[4] さらに、有孔親水性フィルムと植物栽培システムの設置面の間に防水層を備え、かつ有孔親水性フィルムと防水層の間に多孔質層を備える、[1]の植物栽培システム。
[5] さらに、有孔親水性フィルムが該フィルム上面上の余分な水または養液を孔に導くための傾斜部を有する、[1]〜[4]のいずれかの植物栽培システム。
【0010】
[6] さらに、通気装置を備える、[1]〜[5]のいずれかの植物栽培システム。
[7] さらに、有孔親水性フィルムの下面にスペーサーを備える、[1]〜[6]のいずれかの植物栽培システム。
[8] 植物栽培用の有孔親水性フィルムであって、該フィルムはその上面上で植物を栽培することができ、かつ該フィルム下方の通気および/または該フィルム上面上の余分な水もしくは養液の排水を行うための孔を有する、上記有孔親水性フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明の植物栽培システムは有孔親水性フィルムを備え、当該フィルム上面上で植物体を栽培することが可能であると共に、当該フィルムが備える通気および/または排水用の孔ならびに当該フィルムの下方に存在する空隙により、当該フィルム下方の排水性および/または通気性を確保し、植物体への潅水量の管理ならびに当該フィルム下方の細菌やウイルスなどの繁殖を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、有孔親水性フィルムと支持体とを備える植物栽培システムの斜視図を示す。
【図2】図2は、孔を備える有孔親水性フィルムの模式図を示す。(a)当該フィルムの長辺に平行して一列に配置された孔を備える有孔親水性フィルム、(b)当該フィルムの長辺に平行して二列に配置された孔を備える有孔親水性フィルム、(c)当該フィルムの長辺に平行して二列に配置され、かつ各孔の中心が平行する列に隣接して存在する二つの孔の中心までの距離(L)がそれぞれ等しい位置に配置された孔を備える有孔親水性フィルム、ならびに(d)無作為な間隔および位置に配置された孔を備える有孔親水性フィルム。
【図3】図3は、有孔親水性フィルム上面上に傾斜部を有し、その最深部に孔が存在する植物栽培システムの斜視図を示す。
【図4】図4は、有孔親水性フィルムと支持体と、当該フィルムの下方に防水層を備える植物栽培システムの斜視図を示す。
【図5】図5は、集液部を備える植物栽培システムの模式断面図を示す。(a)傾斜面を有する防水層と一体化した集液部を備える植物栽培システムの模式断面図、(b)排水を強制的に集液部へと送るポンプとホースを備える植物栽培システムの模式断面図。
【図6】図6は、多孔質層を備える植物栽培システムの模式断面図を示す。(a)有孔親水性フィルムの下方に多孔質層を備える植物栽培システムの斜視図、(b)有孔親水性フィルムの下方に多孔質層と防水層とを備える植物栽培システムの斜視図。
【図7】図7は、有孔親水性フィルムと支持体と、当該フィルムの下方に防水層を備え、有孔親水性フィルムと防水層との間にスペーサーを備える植物栽培システムの斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図面を参照して詳細に説明する。ただし、図に示された発明は本発明の一実施形態を示すものであり、本発明をこれらの発明に限定することを意図しない。
【0014】
図1に示すように、本発明の植物栽培システム1は少なくとも有孔親水性フィルム2と当該フィルム2を支持するための支持体3とを備える。
【0015】
本発明の植物栽培システム1は有孔親水性フィルム2の上面上にて植物体4を栽培する。有孔親水性フィルム2は親水性材料より構成されるためにその内部に大量の水分を保持することが可能であり、植物体4はその根(特に根毛)を当該フィルムの表面へ密着させ実質的に一体化させて、当該フィルム2中の水または養液を摂取し成長することができる。
【0016】
「実質的に一体化」とは、植物体4の根毛細胞が有孔親水性フィルム2の表面に接着した状態を指し、「接着」とは公知の手法に従って以下のように定義することができる(特許第4142725号公報)。当該フィルム2の表面上に植物体4を定植し、35日間後、植物体4の根元で茎葉を切断する。植物体4の茎がほぼ中心になるように、植物体4の下の当該フィルム2を巾5cm(長さ:約20cm)に切断して試験片とする。クリップを付けたばね式手秤に、上記試験片の一端を固定して、試験片の自重を計測した後、試験片の中心にある茎を手で持ち、下方に緩やかに引き下げて、当該フィルム2が離れる(または切断される)際の重量を計測する。この値から試験片の自重の値を差し引き、得られた値を剥離強度とする。「接着」とはこのようにして測定された剥離強度が10g以上、好ましくは30g以上、特に好ましくは100g以上である状態を指す。この方法により植物体4と当該フィルム2とが「一体化」しているか否か試験することができる。
【0017】
有孔親水性フィルム2の上面上にて栽培し得る植物体4の種類は特に限定されない。好ましくは、潅水量の厳密な管理を必要とする種類、例えば、果樹やトマトなどが挙げられる。果樹やトマトなどの果実は潅水量を減らすことによって甘みを増すことが知られている。
【0018】
「植物体」とは、本発明において植物の苗、種子、葉、茎、根、花、球根もしくはその一部またはそれらの組み合わせを指す。
【0019】
有孔親水性フィルム2は、親水性フィルムからなる。親水性フィルムは当該フィルム2を介した植物体4の水または養液の摂取および植物体4の根の当該フィルム2との一体化を促進すべく、以下の物理的特性を有するものが好ましい。
【0020】
親水性フィルムは、当該フィルムを介して水と塩水(0.5質量%)とを対向して接触させた際に、測定開始4日後の栽培温度において測定した水側および塩水側のEC電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下であることが好ましい。この電気伝導度の差は、さらに3.5dS/m以下であることが好ましい。特に好ましくは、2.0dS/m以下である。この電気伝導度の差は、当業者に公知の手法(特許第4142725号公報)にしたがって、以下のように測定することができる。「ざるボウルセット」を使い、ざる上に試験すべき親水性フィルム(サイズ:200〜260×200〜260mm)を乗せ、当該フィルム上に水150gを加える。他方、ボウル側に0.5%塩水(EC:約9dS/m)150gを加え、得られた系全体を食品用ラップで包んで、水分の蒸発を防ぐ。この状態で、常温で放置して、24時間毎に水側、塩水側のECを測定する。
【0021】
親水性フィルムは、当該フィルムを水とグルコース溶液とを対向して接触させた際に、測定開始後3日目(72時間)の栽培温度において測定した水側およびグルコース溶液側の糖度(Brix%)の差が4以下であることが好ましい。この糖度(Brix%)の差は、より好ましくは3以下である。さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下である。この糖度(Brix%)の差は、当業者に公知の手法(特許第4142725号公報)にしたがって、以下のように測定することができる。上記塩水試験と同様の「ざるボウルセット」を使い、ざる上に試験すべき親水性フィルム(サイズ:200〜260×200〜260mm)を乗せ、当該フィルム上に水150gを加える。他方、ボウル側に5%グルコース溶液150gを加え、得られた系全体を食品用ラップで包んで、水分の蒸発を防ぐ。この状態で、常温で放置して、24時間毎に水側、グルコース溶液側の糖度(Brix%)を糖度計で測定する。
【0022】
親水性フィルムは、耐水圧として10cm以上の水不透性を有することが好ましい。この耐水圧はより好ましくは20cm以上、さらに好ましくは30cm以上である。耐水圧は当業者に公知の手法に基づいてJIS L1092(B法)に準じた方法によって測定することができる。
【0023】
このような親水性フィルムは、各種イオン、アミノ酸、糖などの栄養素は吸収および維持することができるが、細菌やウイルスなどは排除することが可能である。そのため親水性フィルムが保持する水または養液は汚染されることはなく、当該フィルム上の植物体を安全に栽培することができる。
【0024】
親水性フィルムには必要に応じて、水酸基(OH基)を導入しても良い。これにより根毛細胞の親水性フィルム表面への密着性が向上し、親水性フィルム中に保持される水または養液の摂取がより容易になり、植物体の成長の促進や栄養価の向上が可能となる。
【0025】
上述の性質を具備する限り、親水性フィルムはいかなる材料から形成されていても良く、公知の親水性材料から適宜選択して使用することが可能である。特に限定されないが、親水性フィルムを形成する材料としては、ポリビニルアルコール(PVA)、セロファン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、エチルセルロース、ポリエステル等の親水性材料を用いることができる。好ましくはハイメックフィルム(メビオール株式会社)を用いる。また、親水性フィルムは上記親水性材料により皮膜された材料(好ましくはプレート状、例えば、特に限定されないが繊維、木材、金属、ガラス、セラミック、石材および樹脂など)であっても良い。
【0026】
親水性フィルムの厚さは、特に限定されることなく適宜選択することが可能である。好ましくは、親水性フィルムの厚さは、300μm以下程度、さらに好ましくは200〜5μm程度、特に好ましくは100〜20μm程度である。親水性フィルムの形状は、特に限定されることなく例えば、丸型、角型などいずれの形状であっても良い。
【0027】
有孔親水性フィルム2上面に植物体4を定植する際に、当該フィルム2の上面に土や発泡スチロールなど適当な植物体支持部材を適宜配置しても良い。
【0028】
有孔親水性フィルム2は当該フィルムの上方から下方および/または下方から上方への通気を行うための、ならびに/あるいは該フィルム2上面上の余分な水を当該フィルムの下方へ排水するための、当該フィルムを貫通する孔5を親水性フィルムに備える。
【0029】
「下方」とは有孔親水性フィルム2の下面、下に詳述する空隙9および植物栽培システム1の設置面、または下に詳述する防水層8もしくは多孔質層11の上面を含む。
【0030】
「通気」とは、有孔親水性フィルム2上方の空気が当該フィルム2下方へと移動すること、および当該フィルム2下方の空気が当該フィルム2上方へと移動することを指す。当該フィルム2が孔5により通気性を有することにより当該フィルム2下方の熱気や湿気を効率的に排気することができ、当該フィルム2下方におけるウイルスや細菌などの繁殖を抑えることができ有利である。
【0031】
「フィルム2上面上の余分な水」とは、有孔親水性フィルム2の上面に溜まった水滴および/または水たまりを指す。当該フィルム2上面にはフィルムの状態(例えば、くぼみや折れなど)および潅水量により当該フィルム2の保水量を上回る水が水滴および/または水たまりとなって存在し得る。また、植物栽培システム1の設置場所によっては、例えば天井などの当該システム1の外部から結露水が落ち、当該フィルム2上面に水滴および/または水たまりとなって存在し得る。当該フィルム2が孔5により排水性を有することにより、当該フィルム2上面上の余分な水を当該フィルム2下方に排水することができ、植物体4への潅水量を制御することができ有利である。
【0032】
孔5の形状は特に限定されず、丸型、角型、スリット型等、何れの形状であっても良い。
【0033】
孔5の大きさは、上記通気および/または排水を可能とする範囲で適宜選択することが可能であるが、通気および/または排水を効率的かつ簡易に行えるように最小でも水の表面張力により開口部が塞がれない大きさであり、最大でも植物体の根が有孔親水性フィルム2の下方に大量に侵食しない大きさの範囲にて選択する。好ましくは孔5は目視により認識できる程度の大きさであり、毛細管の管径程度の微小孔は当該孔5に含まれない。好ましくは孔5の最も開口した部分の長さ(すなわち、直径、対角線の長さ、スリットであればその長さ等)は、1cm以上、2cm以上、3cm以上、4cm以上、5cm以上、6cm以上、7cm以上、8cm以上、9cm以上、かつ10cm以下の範囲にて適宜選択される。
【0034】
有孔親水性フィルム2上の孔5の位置および数は特に限定されず、当該フィルム2の形状や大きさ、孔5の形状や大きさ、当該フィルム2上に植栽する植物体4の大きさ、および植物栽培システム1の設置環境(植物体4の生育条件)に応じて適宜選択することができる。例えば、当該フィルム2が長方形の形状を有する場合、当該フィルム2の長辺に平行して、孔5をそれぞれ適当な間隔で、一列、二列、三列またはそれ以上に並べて配置しても良い。孔5の位置は植物体の定植位置からなるべく離れているところが望ましい。一実施形態において、幅1mの有孔親水性フィルム2の中央に長辺に平行して一列に植物体を定植する場合、隣り合う二つの植物体の中間に1つまたは2つ(この場合、当該フィルムの長さ方向に垂直に配置する)の直径3cmの孔5を配置することができる(図2(a)および(b)を参照のこと)。また、別の実施形態において、幅1mの有孔親水性フィルム2の中央に長辺に平行して一列に植物体を定植する場合、幅1/3mおよび2/3mの位置に二列平行に直径3cmの孔5を配置することができ、その際各孔5の中心が平行する他方の列に隣接して存在する二つの孔の中心までの距離(L)がそれぞれ0.5mとなるように配置することができる(図2の(c)参照のこと)。さらに別の実施形態において、孔5をそれぞれ無作為な間隔および位置にて配置しても良い(図2の(d)参照のこと)。
【0035】
有孔親水性フィルム2はその全体または一部がフィルム支持部材により裏打ちされていても良い。フィルム支持部材により裏打ちされることによって当該フィルム2は植物体、水、土などの加重に対して耐性を獲得でき、またある程度の強度を獲得できることにより扱い易い。当該フィルム2がフィルム支持部材により裏打ちされている場合であっても、孔5は当該フィルム支持部材により塞がれることなく、当該フィルムとともに当該フィルム支持部材をも貫通して存在する。フィルム支持部材は適当な強度を有する材料から形成され、例えば木材、金属、ガラス、セラミック、石材、樹脂およびそれらの組み合わせ(特にこれらに限定されない)より形成され得る。
【0036】
有孔親水性フィルム2は、当該フィルム2上面上の余分な水を孔5へ効率的に導き排水するための一または複数の傾斜部6をその表面上に有していても良い(図3)。この場合、傾斜部6の最深部に孔5を設ける。傾斜部6は当該フィルム2にある程度の厚みを設けて適当な位置に形成しても良いし、あるいは当該フィルム2を裏打ちする上記フィルム支持部材に該当する傾斜部を形成することによって設けても良い。
【0037】
支持体3は、有孔親水性フィルム2と直接または間接的に接し、かつその下端または下面において、植物栽培システム1の設置面と直接または間接的に接するように配置される。当該システム1の設置面は、特に限定されないが土壌、コンクリート、アスファルト、石、金属、木材、布、樹脂、セラミックよりなるか、またはそれらにより覆われている。支持体3は当該フィルム2の下面と当該システム1の設置面との間に空隙9を規定し、かつ当該空隙9を維持する。
【0038】
支持体3の形状は、空隙9を規定しかつ維持することができる限り、特に限定されることなく適宜選択することができる。例えば、支持体3の形状は、棒状、筒状、球状、テトラポット状、柱状、立方体状などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
支持体3はその上端または上面に有孔親水性フィルム2の下面が直接または間接的に設置されていてもよいし、その上端または上面から下端または下面の間のいずれかの位置に当該フィルム2が直接または間接的に設置されていても良い。
【0040】
支持体3の大きさ、高さ、位置および数は空隙9を規定しかつ維持することができる限り、特に限定されず、孔5の形状や大きさ、当該フィルム2上に植栽する植物体4の大きさ、数および位置、ならびに植物栽培システム1の設置環境などに応じて適宜選択することができる。
【0041】
支持体3の大きさ(高さ)は毛細管の管径程度の微小な空隙は好ましくなく、また大きさ(高さ)が大きく(高く)なると植物栽培システム1の取り扱い作業負荷が高くなる。このことから、好ましくは支持体3の大きさ(高さ)は当該フィルム2と植物栽培システム1の設置面、または下に詳述する防水層8もしくは多孔質層11の上面との距離が3cm〜10cmとなるように設定する。ただし、孔5が当該支持体3により塞がれることがないように、当該支持体3は孔5の位置には配置しないことが好ましい。
【0042】
支持体3は、空隙9を規定しかつ維持するのに適当な強度を有する材料から形成され、例えば木材、金属、ガラス、セラミック、石材、樹脂およびそれらの組み合わせ(特にこれらに限定されない)より形成され得る。
【0043】
別の実施形態において、支持体3は、その上端または上面が植物栽培システム1の設置面に対する天井面と直接または間接的に接するように配置され、かつその下端または下面あるいはその上端または上面から下端または下面の間のいずれかの位置に当該フィルム2が直接または間接的に設置されていても良い。
【0044】
空隙9は、有孔親水性フィルム2の下面と植物栽培システム1の設置面との間に支持体3により規定される。空隙9の大きさは支持体3の大きさ・高さまたは支持体3における当該フィルム2の設置位置によって決定・維持することが可能であり、当該システム1の設置環境(植物体の生育条件)に応じて適宜選択することができる。当該システムにおいて空隙9は支持体3により完全に隔てられた複数の空隙9を備えても良いし、あるいは完全にまたは一部が連絡している一の空隙9を備えても良い。当該システムにおいて空隙9の側方向は当該フィルム2、支持体3、保水部もしくは下記にて詳述する防水層8、多孔質層11およびスペーサー14、を構成する材料またはそれらの組み合わせにより完全に閉じられていても、一部閉じられていても良く、あるいは完全に開いていても良い。
【0045】
空隙9は、有孔親水性フィルム2の下方の通気を可能とし、当該フィルム2の下方の熱気や湿気を効率的に排気することができ、当該フィルム2の下方におけるウイルスや細菌などの繁殖を抑えることができる。空隙9内の通気は、当該フィルム2に設けられた孔5および/または空隙9の側方向に存在する開口部(存在する場合)を介した、空隙9内部の空気の空隙9外部への排気と、空隙9外部の空気の空隙9内部への吸気によって達成される。
【0046】
空隙9内部の空気の吸排気を効率的に達成すべく、本発明の植物栽培システム1は通気装置を備えても良い。通気装置は空隙9内部の空気の吸排気を効率的に行うことができればいずれの形態であっても利用することが可能であるが、例えば空隙9内部に設置された送風チューブおよび吸気チューブにより、当該空隙内外の空気を強制的に吸排気する通気装置、あるいは当該フィルム2に設けられた孔5の近傍に当該孔5に向けて設置された送風チューブおよび吸気チューブにより、孔5より当該空隙内外の空気を強制的に吸排気する通気装置などが挙げられる。
【0047】
空隙9は、有孔親水性フィルム2の供給された過剰量の水または養液の排水を可能とする。当該フィルム2の保水能力を上回る過剰量の水または養液は、当該フィルム2に保持されることなく当該フィルム2下方へと落下し排水される。上記したとおり当該フィルム2上面上の余分な水は、当該フィルム2に設けられた孔5を介して当該フィルム2下方へと落下し排水される。当該フィルム2下方へと排水された水は、上記空隙9内の通気性により蒸発し、および/または空隙9内の排水を回収することにより(下記にて詳述する)、当該当該フィルム2下方に滞留しない。
【0048】
本発明の植物栽培システム1は有孔親水性フィルム2の下面と植物栽培システム1の設置面との間に防水層8を備え、当該防水層8により空隙9が規定されていても良い(図4)。防水層8は空隙9内部の水分が空隙9外部、特に植物栽培システム1の設置面へと漏出することを防ぎ、かつ空隙9外部、特に植物栽培システム1の設置面の水分が空隙9内部に侵入してくるのを防ぐことができる。これにより当該システム1からの排水(特に肥料成分などの化学物質を含有する養液を含む)が当該システム1の設置面に流出しないために、当該設置面の汚染を防ぐことができ、また逆に当該設置面の汚染(例えば、土壌汚染およびウイルスや細菌などの感染)から当該システム1を保護することができる。
【0049】
防水層8は水を通さない適当な材料から形成され、例えば木材、金属、ガラス、セラミック、石材、樹脂およびそれらの組み合わせ(特にこれらに限定されない)より形成され得る。防水層8の形状はフィルム状、シート状、プレート状、および有孔親水性フィルム2に向かって開口部を備える有底容器の形状であっても良い。防水層8はその全体または一部が防水層支持部材により裏打ちされていても良い。防水層支持部材により裏打ちされることによって当該防水層8は水または養液などの加重に対して耐性を獲得でき、またある程度の強度を獲得できることにより扱い易い。防水層支持部材は適当な強度を有する材料から形成され、例えば木材、金属、ガラス、セラミック、石材、樹脂およびそれらの組み合わせ(特にこれらに限定されない)より形成され得る。防水層8が有孔親水性フィルム2を支持することによって支持体3の機能を果たしても良い。
【0050】
防水層8は有孔親水性フィルム2の下面と植物栽培システム1の設置面との間のいずれかの位置において支持体3に直接的または間接的に設置されて良いし、植物栽培システム1の設置面上に直接または間接的に設置されても良い。ただし、防水層8は当該フィルム2を裏打ちするように密接して配置されない。
【0051】
植物栽培システム1の設置面が防水性を備える場合、防水層8に代えて当該植物栽培システム1の設置面が防水層8の機能を果たしても良い。
【0052】
空隙9が防水層8により規定されている場合、空隙9はその内部へと排水された水または養液を回収するために利用することができる。排水された水または養液を回収することにより、排水を再利用することが可能であり、また排水成分の検査(例えば、細菌やウイルスの検知)により植物栽培システム1の環境を健全に保つことに寄与する。この場合、本発明の植物栽培システム1は排水を回収するための集液部10を備える。
【0053】
集液部10は排水を回収し得る適当な材料から形成され、例えば木材、金属、ガラス、セラミック、石材、樹脂およびそれらの組み合わせ(特にこれらに限定されない)より形成され得る。集液部10の形状は排水を回収し得る限りどのような形状であっても良いが、例えば上記防水層8と集液部10とが一体化した形状であっても良い(図5(a)参照のこと)。この場合、防水層8は排水を効率的に集液部10へと導くための傾斜面、傾斜部、溝などの構造を有していても良い。あるいは、集液部10は防水層8が有孔親水性フィルム2に向かって開口部を備える有底容器の形状である場合には、防水層8上に溜まった排水を強制的に集液部10へと送るポンプ13等を備えても良い(図5(b)参照のこと)。
【0054】
本発明の植物栽培システム1は有孔親水性フィルム2の下面と植物栽培システム1の設置面との間に多孔質層11を備え、当該多孔質層11により空隙9が規定されていても良い(図6(a)参照のこと)。
【0055】
多孔質層11は空隙9へと排水された水または養液が、植物栽培システム1の設置面の一または複数の箇所に滞留して存在することを防ぐことができる。多孔質層11が存在する場合、空隙9へと排水された水または養液は多孔質層11により受け止められ、排水は毛細管現象により多孔質層11中に吸収・拡散され、水または養液は植物栽培システム1の設置面の一または複数の箇所に滞留することはない。これにより滞留した水または養液における細菌やウイルスなどの繁殖を防ぐことが可能である。
【0056】
多孔質層11は水または養液を毛細管現象により吸収・拡散し得る適当な材料から形成され、例えば、不織布、スポンジ、発泡材などが挙げられるがこれらに限定されない。多孔質層11は水または養液を毛細管現象により吸収・拡散し得る適当な材料から形成され、例えば、不織が有孔親水性フィルム2を支持することによって支持体3の機能を果たしても良い。
【0057】
多孔質層11は有孔親水性フィルム2の下面と植物栽培システム1の設置面との間のいずれかの位置において支持体3に直接的または間接的に設置されて良いし、植物栽培システム1の設置面上に直接設置されても良い。ただし、多孔質層11は当該フィルム2を裏打ちするように密接して配置されない。
【0058】
本発明の植物栽培システム1が上記防水層8と多孔質層11を共に備える場合、多孔質層11は有孔親水性フィルム2の下面と防水層8との間のいずれかの位置にも配置することができる。好ましくは多孔質層11は防水層8の上面に直接配置される(図6(b)参照のこと)。防水層8の上面に多孔質層11を備えることにより、防水層8上面の水は一または複数の箇所に滞留することがなく、上記集液部10を備える場合には当該集液部10への排水の集液を容易にすることができる。
【0059】
本発明の植物栽培システム1は、有孔親水性フィルム2および/または保水部7に水または養液を供給するための潅水装置12を備えても良い。潅水装置12は有孔親水性フィルム2および/または保水部7に水または養液を供給し得る限りどのような形態であっても良く特に限定されないが、例えば有孔親水性フィルム2および/または保水部7上に設置された潅水チューブあるいは有孔親水性フィルム2および/または保水部7下に設置された潅水チューブより水または養液を供給する潅水装置、植物栽培システム1の上方(例えば、屋内やハウス内であれば天井)に設置された散水装置より霧状に水または養液を供給する潅水装置などが挙げられる。また、植物栽培システム1が、有孔親水性フィルム2に向かって開口部を備える有底容器の形状である防水層8を備える場合には、水または養液の供給時に有孔親水性フィルム2および/または保水部7の一部または全体に下方より液面が接するように空隙9内に水または養液を満たして有孔親水性フィルム2および/または保水部7に水または養液を供給することも可能である。
【0060】
潅水装置12により、有孔親水性フィルム2および/または保水部7への水または養液の供給量を厳密に管理することが可能となる。また、潅水装置12は上記集液部10と組み合わせても良く、排水を効率的に再利用することができる。
【0061】
本発明の植物栽培システム1はさらに、有孔親水性フィルム2の上面および/または下面上に密接して保水部7を備えることができる。保水部7は供給された水または養液を保持し、密接した当該フィルム2への水または養液の供給を補助する。保水部7は水または養液を吸収して保持することができればいずれの材料も用いることが可能であるが、例えば架橋ポリアクリル酸ソーダゲル、PVA、不織布、多孔質材、土などが挙げられるがこれらに限定されない。保水部7の設置位置は当該フィルム2への水または養液の供給方法に応じて適宜選択することが可能であるが、供給された水または養液を直接受けることができる位置が好ましい。
【0062】
本発明の植物栽培システム1はさらに、有孔親水性フィルム2と植物栽培システム1の設置面、防水層8または多孔質層11との間にスペーサー14を備える(図7)。
【0063】
スペーサー14は有孔親水性フィルム2と植物栽培システム1の設置面、防水層8または多孔質層11との間に挿入され、有孔親水性フィルム2と植物栽培システム1の設置面、防水層8または多孔質層11とが接触しないように保持し、空隙9を維持する。
【0064】
スペーサー14の形状は、空隙9を維持することができる限り、特に限定されることなく適宜選択することができる。例えば、スペーサー14の形状は、棒状、筒状、球状、テトラポット状、柱状、立方体状などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0065】
スペーサー14の大きさ、高さ、位置および数は空隙9を維持することができる限り、特に限定されず、孔5の形状や大きさ、当該フィルム2上に植栽する植物体4の大きさ、および植物栽培システム1の設置環境などに応じて適宜選択することができる。好ましくはスペーサー14の大きさ(高さ)は3cm〜10cmである。ただし、孔5が当該スペーサーにより塞がれることがないように、当該スペーサーは孔5の位置には配置しないか、または孔5は当該フィルム2とともに当該スペーサー14をも貫通して存在する。
【0066】
スペーサー14は、空隙9を規定しかつ維持するのに適当な強度を有する材料から形成され、例えば木材、金属、ガラス、セラミック、石材、樹脂およびそれらの組み合わせ(特にこれらに限定されない)より形成され得る。上記支持体3、保水部7、防水層8、多孔質層11などがスペーサー14の機能を果たしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の植物栽培システムは有孔親水性フィルムを備え、当該フィルム上面上で植物体を栽培することが可能であると共に、当該フィルムが備える通気および/または排水用の孔ならびに当該フィルムの下方に存在する空隙により、当該システム内の排水性および/または通気性を確保し、植物体への潅水量の管理および細菌やウイルスなどの繁殖を抑制することが可能である。これらの特徴から、本発明の植物栽培システムは潅水量の制御を特に必要とする植物体を効率的かつ安定して生育させることができ、植物栽培の新たなシステムとして期待される。
【符号の説明】
【0068】
1植物栽培システム
2有孔親水性フィルム
3支持体
4植物体
5孔
6傾斜部
7保水部
8防水層
9空隙
10集液部
11多孔質層
12潅水装置
13ポンプ
14スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有孔親水性フィルムと該フィルムを支持するための支持体を少なくとも備える植物栽培システムであって、該フィルムはその上面上で植物を栽培することができ、かつ該フィルム下方の通気および/または該フィルム上面上の余分な水もしくは養液の排水を行うための孔を有し、該支持体は該通気および/または排水を可能とする空隙を該フィルムと該植物栽培システムの設置面との間に規定する、上記植物栽培システム。
【請求項2】
さらに、有孔親水性フィルムと植物栽培システムの設置面の間に防水層を備える、請求項1記載の植物栽培システム。
【請求項3】
さらに、有孔親水性フィルムと植物栽培システムの設置面の間に多孔質層を備える、請求項1記載の植物栽培システム。
【請求項4】
さらに、有孔親水性フィルムと植物栽培システムの設置面の間に防水層を備え、かつ有孔親水性フィルムと防水層の間に多孔質層を備える、請求項1記載の植物栽培システム。
【請求項5】
さらに、有孔親水性フィルムが該フィルム上面上の余分な水または養液を孔に導くための傾斜部を有する、請求項1〜4のいずれか1項記載の植物栽培システム。
【請求項6】
さらに、通気装置を備える、請求項1〜5のいずれか1項記載の植物栽培システム。
【請求項7】
さらに、有孔親水性フィルムの下面にスペーサーを備える、請求項1〜6のいずれか1項記載の植物栽培システム。
【請求項8】
植物栽培用の有孔親水性フィルムであって、該フィルムはその上面上で植物を栽培することができ、かつ該フィルム下方の通気および/または該フィルム上面上の余分な水もしくは養液の排水を行うための孔を有する、上記有孔親水性フィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−92014(P2011−92014A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246025(P2009−246025)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】