説明

有害ガス発生抑止剤及びその用途

【課題】アミンのカルボジチオ酸塩を有効成分とする重金属処理剤は、保存時、輸送時、使用時、特に高温での使用時において有害な二硫化炭素及び硫化水素を発生する問題があり、アミン添加では二硫化炭素発生の抑制はできたが、硫化水素の発生が抑制できない上に、アミンの発生量が増加する問題があった。
【解決手段】アミンのカルボジチオ酸塩の重金属処理剤に少なくとも一級アミノ基を1つ以上有するアミンの一級アミノ基をカルボン酸塩で二級アミノ基としたアミノカルボン酸塩を含むものでは、有害ガスの二硫化炭素及び硫化水素の発生が抑止され、なおかつアミンの発生量が増加しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を含有する固体廃棄物、例えば、ゴミ焼却場から排出される焼却灰及び飛灰、重金属に汚染された土壌、排水処理後に生じる汚泥等に含有する鉛、水銀、クロム、カドミウム等の有害な重金属を簡便に固定化し、不溶出化することを可能にする重金属処理剤に関するものであり、保存時、輸送時、使用時、特に高温での使用時においても有害ガスの発生が抑制された重金属処理剤の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水、土壌、焼却灰等の重金属処理にはアミンのカルボジチオ酸塩が広く用いられている。しかし、アミンのカルボジチオ酸塩は重金属の固定化処理時に分解し、有害ガス(硫化水素、二硫化炭素)が発生するという問題があった。
【0003】
有害ガスの発生がないカルボジチオ酸塩として、ピペラジンのカルボジチオ酸塩が優れていることが知られている(特許文献1)。しかし、ピペラジンのカルボジチオ酸塩は、飛灰用の重金属処理用途に需給が逼迫しており、ピペラジン以外のアミンを用いたカルボジチオ酸塩で、有害ガスの発生がない重金属処理剤が求められていた。
【0004】
アミンのカルボジチオ酸塩からの有害ガスの発生を抑止するためにアミンを添加する方法が知られている(特許文献2、3)。しかし、添加されたアミンは二硫化炭素の発生は抑制できても、硫化水素の発生まで抑制することはできない上に、アミンの発生量が増加してしまうという問題があった。またアミンの代わりに、遊離のアミノ基を有するアミンのカルボジチオ酸塩を用いても、当該カルボジチオ酸塩自身の分解による有害ガスの発生があり、有害ガスの発生抑止はできなかった。
【0005】
【特許文献1】特許第3391173号
【特許文献2】特許第3455363号
【特許文献3】特許第4000610号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、保管時、輸送時、使用時、特に高温での使用時において有害な二硫化炭素及び硫化水素の発生を抑制するアミンのカルボジチオ酸塩の重金属処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、アミンのカルボジチオ酸塩からの有害ガス発生抑止方法について鋭意検討を重ねた結果、少なくとも一級アミノ基を1つ以上有するアミンの一級アミノ基をカルボン酸塩で二級アミノ基としたアミノカルボン酸塩では、アミンのカルボジチオ酸塩の分解によって発生する二硫化炭素だけでなく、硫化水素の発生が抑止でき、なおかつアミンの発生量も増加しないことを見出し、本発明を完成するに到ったものである。
【0008】
以下、本発明に係わる重金属処理剤および重金属汚染物質の処理方法についてその詳細を説明する。
【0009】
本発明の有害ガス発生抑止剤は少なくとも一級アミノ基を1つ以上有するアミンの一級アミノ基をカルボン酸塩で二級アミノ基としたアミノカルボン酸塩からなる。
【0010】
アミノカルボン酸塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が用いられるが、取扱性及びコストの面からアルカリ金属塩が好ましく、中でもナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
【0011】
本発明における少なくとも一級アミノ基を1つ以上有するアミンとしては特に限定されるものではないが、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−アミノエチルピペラジン、N−メチルエチレンジアミン、N―エチルエチレンジアミン等が例示される。
【0012】
本発明のアミノカルボン酸塩中の構成成分であるカルボン酸塩は、特に限定されるものではないが、例えばマレイン酸、フマル酸、クロトン酸、メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、クロロ酢酸等のハロアルキルカルボン酸及びそれらの塩が例示される。一級アミノ基を二級アミノ基とするだけでなく立体効果を有するカルボン酸が特に好ましく、例えばマレイン酸、クロトン酸が例示できる。
【0013】
本発明の有害ガス発生抑止剤は、アミンのカルボジチオ酸塩に添加することで、アミンのカルボジチオ酸塩から発生する有害ガス(二硫化炭素、硫化水素)が抑制された重金属処理剤を得ることができる。本発明の化合物は二硫化炭素だけでなく硫化水素の発生抑止効果も併せ持ち、さらにアミンの発生量も増加しないため、従来よりも優れた有害ガス発生抑止技術を構成することができる。
【0014】
本発明のアミノカルボン酸塩の製造法は特に限定されるものではないが、例えば一級アミノ基を1つ以上有するアミンと、不飽和カルボン酸又はその塩を、強塩基存在下で加熱反応する方法、又は一級アミノ基を1つ以上有するアミンとハロアルキルカルボン酸を反応する等が挙げられる。
【0015】
本発明のアミノカルボン酸塩からなる有害ガス発生抑止剤は、アミンのジチオカルバミン酸塩と混合して重金属処理剤として用いることができる。
【0016】
本発明の重金属処理剤における有害ガス発生抑止剤の添加量は、当該重金属処理剤中のアミンのカルボジチオ酸塩の濃度、安定性にもよるが、重金属処理剤(水溶液の場合には水を含む)の0.01〜20重量%、特に0.5〜10重量%、さらに5〜10重量%の範囲が好ましい。有害ガス発生抑止剤の量が必要以上に多いと、アミンのカルボジチオ酸塩の溶解度低下等の原因となり、少なすぎると本発明の有害ガス発生抑制効果が発揮されない。
【0017】
本発明の重金属処理剤におけるアミンのカルボジチオ酸塩は特に限定されるものではないが、例えば、脂肪族または芳香族アミン化合物から誘導されるカルボジチオ酸塩が挙げられ、脂肪族アミン化合物として、ジエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−アミノエチルピペラジン等が例示される。これらの塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が用いられるが、熱的安定性及び安価なことからナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。
【0018】
アミンのカルボジチオ酸塩の製造法は、特に限定されないが、例えば、アミン、二硫化炭素、アルカリ水酸化物を用いて合成する方法等が挙げられる。アミン、二硫化炭素、アルカリ水酸化物を用いて合成する場合、アミン、アルカリ水酸化物を水に溶解後、二硫化炭素を添加する方法、アミンを水に溶解後、二硫化炭素、アルカリ水酸化物を交互または時間差で添加する方法が知られている。
【0019】
本発明の重金属処理剤を水溶液で用いる場合、アミンのカルボジチオ酸塩の濃度は高い方が好ましく、20〜60重量%、特に35〜50重量%の範囲が望ましい。
【0020】
本発明の重金属処理剤には、本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、無機系重金属処理剤、有機溶媒、アルカリ水酸化物等が例示できる。
【0021】
本発明の重金属処理剤を用いた重金属処理方法は、特に限定されるものではなく、本発明の重金属処理剤と重金属含有物を混合すればよい。
【0022】
重金属処理剤の使用量は重金属含有物の状態、重金属の含有量や重金属の形態により異なるが、通常、例えば飛灰に対しては0.01〜30重量%の範囲で使用される。また処理を容易にするために、重金属含有物に対して5〜50重量%の加湿水を混練時に添加してもよい。
【0023】
本発明の重金属処理剤は、重金属含有物として飛灰、土壌、スラッジ、排水等の処理に用いることができる。
【0024】
これらの重金属含有物中の有害な重金属としては鉛、カドミウム、クロム、水銀のいずれかを含有する物質が例示できる。
【発明の効果】
【0025】
アミンのカルボジチオ酸塩の重金属処理剤にカルボン酸塩で二級化したアミノカルボン酸塩を添加したものでは、保管時、輸送時、使用時、特に高温での使用時においてアミンのカルボジチオ酸塩の分解によって発生する二硫化炭素及び硫化水素の発生が抑制され、なおかつアミンの発生量も増加しない。
【実施例】
【0026】
以下発明を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
(合成例1)エチレンジアミンジコハク酸ナトリウムの合成
攪拌装置、温度計、コンデンサー、滴下ロートを備えた1000mLの4口フラスコにマレイン酸299.3g、純水200.0g、48.5wt%NaOH水溶液425.3gを107℃で溶解させた後、エチレンジアミン72.0gを10分間で滴下した。滴下終了後107℃で約8時間熟成し、エチレンジアミンジコハク酸ナトリウム水溶液を得た。
【0028】
(合成例2)ジエチレントリアミンジコハク酸ナトリウムの合成
マレイン酸98.7g、純水212.2g、48wt%NaOH水溶液212.2g、ジエチレントリアミン48.8gを用いて合成例1と同様の操作を行い、ジエチレントリアミンジコハク酸ナトリウム水溶液を得た。
【0029】
(合成例3)3,3’−(エチレンジイミノ)ジブタン酸ナトリウムの合成
クロトン酸136.9g、純水191.1g、48wt%NaOH水溶液128.5g、エチレンジアミン43.5gを用いて合成例1と同様の操作を行い、3,3’−(エチレンジイミノ)ジブタン酸ナトリウム水溶液を得た。
【0030】
実施例1
ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリカルボジチオ酸ナトリウム40wt%水溶液及びエチレンジアミンジコハク酸ナトリウム7.5wt%混合液を作成し、重金属処理剤とした。
【0031】
当該重金属処理剤20gを1Lのテドラーバッグ内に採取し、65℃に加温した。1時間後、テドラーバッグ内の二硫化炭素、硫化水素及びアミンを二硫化炭素検知管(GASTEC社製No 13)、硫化水素検知管(GASTEC社製No 4LT)及びアミン検知管(GASTEC社製No 180)で測定した。結果を表1に示す。
【0032】
実施例2
エチレンジアミンジコハク酸ナトリウム7.5wt%をジエチレントリアミンジコハク酸ナトリウム(エチレンジアミンの1級アミノ基の水素をマレイン酸で置換した化合物)8.0wt%とした以外は実施例と同様の操作を行った。結果を表1に合わせて示す。
【0033】
実施例3
エチレンジアミンジコハク酸ナトリウム7.5wt%を3,3’−(エチレンジイミノ)ジブタン酸ナトリウム(エチレンジアミンの1級アミノ基の水素をクロトン酸で置換した化合物)8.0wt%とした以外は実施例と同様の操作を行った。結果を表1に合わせて示す。
【0034】
実施例4
ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリカルボジチオ酸ナトリウムをテトラエチレンペンタミン−N1、N2、N3、N4、N5−ペンタカルボジチオ酸ナトリウムとした以外は実施例2と同様の操作を行った。結果を表1に合わせて示す。
【0035】
比較例1
エチレンジアミンジコハク酸ナトリウムを添加混合しない以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に合わせて示す。
【0036】
比較例2
ジエチレントリアミンジコハク酸ナトリウムを添加しない以外は実施例4と同様の操作を行った。結果を表1に合わせて示す。
【0037】
比較例3
エチレンジアミンジコハク酸ナトリウムをエチレンジアミンとした以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に合わせて示す。
【0038】
比較例4
エチレンジアミンジコハク酸ナトリウムをN−アミノエチルピペラジンとした以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

実施例1〜4の重金属処理剤では、アミノカルボン酸塩の添加によって二硫化炭素だけでなく硫化水素の発生が抑止された。また、有害ガス発生抑止剤を添加しない場合(比較例1,2)に対し、有害ガス発生抑止剤としてアミンを添加した場合(比較例3,4)にはアミンの発生量が増加しているが、本発明の方法ではアミンの発生量の増加はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一級アミノ基を1つ以上有するアミンの一級アミノ基をカルボン酸塩で二級アミノ基としたアミノカルボン酸塩からなる有害ガス発生抑止剤。
【請求項2】
少なくとも一級アミノ基を1つ以上有するアミンの一級アミノ基をカルボン酸塩で二級アミノ基としたアミノカルボン酸塩が、アルカリ金属塩である請求項1に記載の有害ガス発生抑止剤。
【請求項3】
少なくとも一級アミノ基を1つ以上有するアミンがエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−アミノエチルピペラジンのいずれか1種以上である請求項1乃至2に記載の有害ガス発生抑止剤。
【請求項4】
カルボン酸塩がマレイン酸塩及び/またはクロトン酸塩である請求項1乃至3に記載の有害ガス発生抑止剤。
【請求項5】
アミンのカルボジチオ酸塩に請求項1乃至4の有害ガス発生抑止剤を含んでなる重金属処理剤。
【請求項6】
重金属含有物に請求項5の重金属処理剤を混合する重金属処理方法。

【公開番号】特開2010−90193(P2010−90193A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258650(P2008−258650)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】