説明

有害物質含有水の処理方法および処理装置。

【課題】フッ素の除去効果および生成した汚泥の沈降性に優れており、フッ素、ホウ素、窒素化合物、リン、重金属類などの有害物質の除去効果に優れた処理システムを提供する。
【解決手段】層状複水酸化物の成分となる難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物とを有害物質含有水に添加する工程、これをアルカリ性下で反応させて上記難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成された汚泥を生成させる反応工程、この汚泥を沈降させて固液分離することによって該汚泥に取り込まれた有害物質を系外に除去する固液分離工程を有することを特徴とする有害物質含有水の処理方法および処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有害物質含有水の処理方法および処理装置に関し、より詳しくは、フッ素、ホウ素、窒素化合物、リンや重金属類等の有害物質を含有する廃水などから、これらの有害物質を除去する処理システムであって、有害物質を取り込んだ汚泥の固液分離性が優れ、短時間に汚泥が沈降して有害物質を除去することができる処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
排水に含まれる有害物質を層状複水酸化物に取り込ませて除去する方法が従来から知られている。例えば、特開2003−285076号公報(特許文献1)には、フッ素を含む排水に2価金属イオンと3価金属イオンを添加して層状複水酸化物を生成させ、該層状複水酸化物の層間にフッ素を取り込ませる処理方法が記載されている。
【0003】
国際公開WO2005−087664号公報(特許文献2)には、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンを含む酸性溶液とアルカリを含むアルカリ性溶液を混合し、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、時間を置かずに直ちに水分を除去または中和することによって、一般式:Mg2+1-xAl3+x(OH)2(An-)x/n・mH2O(An-はアニオン)で表されるハイドロタルサイト様物質を形成し、該物質にフッ素などを取り込ませて固定する処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−285076号公報
【特許文献2】国際公開WO2005−087664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の上記処理方法は、ハイドロタルサイトなどの層状複水酸化物を生成させてフッ素を除去する方法であるが、生成した汚泥の沈降性に劣り、処理時間が長引く問題がある。また、特許文献1の処理方法は含フッ素乳化剤の回収を主眼にしており、重金属類の除去については不明である。また、特許文献2の処理方法では、ハイドロタルサイト様物質の結晶子サイズを20nm以下に制御することによって陰イオン交換能を高めているが、重金属イオンについてはクロムに対する吸着効果が示されているが、クロム以外の重金属類については不明である。
【0006】
本発明は、従来の上記処理方法において、生成した汚泥の沈降性が劣る問題を解決したものであり、フッ素に対する吸着効果および生成した汚泥の沈降性に優れた処理システムを提供する。また、ホウ素、窒素化合物、リン、重金属類の除去効果も優れており、好ましくは、フッ素と共にホウ素、窒素化合物、リン、重金属類等の有害物質の除去効果に優れた処理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成からなる有害物質含有水の処理方法に関する。
〔1〕層状複水酸化物の成分となる難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物とを有害物質含有水に添加する工程、これをアルカリ性下で反応させて上記難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成された汚泥を生成させる反応工程、この汚泥を沈降させて固液分離することによって該汚泥に取り込まれた有害物質を系外に除去する固液分離工程を有することを特徴とする有害物質含有水の処理方法。
〔2〕 上記[1]に記載する処理方法において、固液分離した汚泥の一部または全部を反応工程に返送し、返送した汚泥を層状複水酸化物の形成に利用する有害物質含有水の処理方法。
〔3〕難溶性金属酸化物が酸化マグネシウムであり、可溶性金属化合物が可溶性アルミニウム塩であり、有害物質含有水に酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩を添加し、これをアルカリ性下で反応させて、酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトを形成させることによって該ハイドロタルサイトに有害物質が取り込まれた汚泥を生成させ、該汚泥を固液分離する上記[1]または上記[2]に記載する有害物質含有水の処理方法。
〔4〕有害物質がフッ素、ホウ素、窒素化合物、リン、重金属類の何れか1種または2種以上であり、有害物質を取り込んだ汚泥を生成させて固液分離する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する有害物質含有水の処理方法。
〔5〕フッ素濃度1〜50mg/Lの有害物質含有水1Lに対して、酸化マグネシウムを0.05〜10g/L、可溶性アルミニウム塩を水中のアルミニウム濃度が10〜1000mg/Lになるように添加し、反応槽においてpH7〜11で反応させる上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する有害物質含有水の処理方法。
〔6〕生成した汚泥スラリーを静置したとき、30分後の安定容積が40%以下である上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する有害物質含有水の処理方法。
〔7〕有害物質含有水(原水)に含まれる有害物質および妨害物質を低減する前処理工程が設けられており、前処理した原水に層状複水酸化物の成分となる難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物を添加する上記[1]〜上記[6]の何れかに記載する有害物質含有水の処理方法。
〔8〕汚泥を固液分離した処理水を後処理工程が設けられている上記[1]〜上記[7]の何れかに記載する有害物質含有水の処理方法。
【0008】
また、本発明は、以下の構成からなる有害物質含有水の処理装置に関する。
〔9〕有害物質含有水に薬剤を添加する添加槽と、添加した薬剤を反応させて汚泥を生成させる反応槽と、生成した汚泥を分離する固液分離槽とが管路によって順に接続されており、添加槽には有害物質含有水と可溶性金属化合物の供給手段がおのおの設けられており、反応槽には難溶性金属酸化物とpH調整剤の供給手段がおのおの設けられており、固液分離槽には分離した汚泥と処理水の排出管路がおのおの接続しており、添加槽において可溶性金属化合物が添加された有害物質含有水が反応槽に導入され、反応槽において難溶性金属酸化物とpH調整剤が添加され、アルカリ性下の反応によって難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成された汚泥が生成され、該汚泥が固液分離槽に導入されて沈降分離されることを特徴とする有害物質含有水の処理装置。
〔10〕上記[9]に記載する処理装置において、固液分離槽から反応槽に至る返送管路が接続されており、固液分離した汚泥の一部または全部が該返送管路を通じて反応槽に返送される有害物質含有水の処理装置。
〔11〕上記[10]に記載する処理装置において、固液分離槽から反応槽に至る返送管路が接続されており、分離した汚泥に難溶性金属酸化物を添加する第二添加槽が上記返送管路の途中に設けられている有害物質含有水の処理装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の処理システム(処理方法および処理装置)では、生成する汚泥の沈降性に優れており、例えば、生成した汚泥スラリーを静置したとき、30分後の安定容積が40%以下であり、短時間に沈降するので、短時間で固液分離することができ、かつ固液分離槽を小型化することができる。
【0010】
本発明の処理システムは、フッ素の除去効果に優れており、容易に排水中のフッ素濃度を排水基準〔フッ素8mg/L(海域以外の公共用水域)、フッ素15mg/L(海域)〕以下まで低減することができる。さらに、分離した汚泥を反応工程に返送することによって、フッ素の除去効果を高めることができ、排水中のフッ素濃度を容易に環境基準(0.8mg/L以下)まで低減することができる。また、フッ素と同時にホウ素、窒素化合物、リン、重金属類等の有害物質を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1(A)】本発明の処理方法による汚泥のSEM写真
【図1(B)】汚泥内部(図1(A)イ)の成分分析図
【図1(C)】汚泥の表面付近(図1(A)ロ)の成分分析図
【図2】本発明の処理方法と従来の処理方法について、汚泥の沈降性を示す写真
【図3】本発明の処理方法を示す工程図
【図4】本発明の処理方法において第二添加槽を設けた例を示す工程図
【図5】前処理工程および後処理工程を設けた本発明の処理方法を示す工程図
【図6】本発明の処理方法による汚泥のXRD解析チャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の処理方法は、層状複水酸化物の成分となる難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物とを有害物質含有水に添加する工程、これをアルカリ性下で反応させて上記難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成された汚泥を生成させる反応工程、この汚泥を沈降させて固液分離することによって該汚泥に取り込まれた有害物質を系外に除去する固液分離工程を有することを特徴とする有害物質含有水の処理方法である。
【0013】
本発明の処理方法は、好ましくは、上記処理方法において、固液分離した汚泥の一部または全部を反応工程に返送し、返送した汚泥を層状複水酸化物の形成に利用する工程を含む有害物質含有水の処理方法である。
【0014】
本発明において、有害物質含有水とは有害物質を含む水を広く意味し、自然発生的および人為的に生じた各種の廃水や排水等を含み、例えば、工場排水や下水、海水、河川水、湖沼や池の水、地表の溜り水、河川等の堰止域の水、地下の流水や溜り水、暗渠の水等であって有害物質を含有するもの、あるいは、有害物質によって汚染された土壌の浄化排水、海水や最終処分場からの浸出水などの塩類濃度の高い排水を逆浸透膜および電気透析などを利用して清澄水(淡水)と濃縮水に分離(脱塩処理)した後の濃縮水などである。
【0015】
処理対象の有害物質は、例えば、重金属類、フッ素、ホウ素、窒素、リンなどである。重金属類はカドミウム、鉛、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、セレン、六価クロム、ヒ素、マンガン、アンチモンなどであり、本発明の処理システムによれば、有害物質含有水に含まれるこれらの有害物質の何れか1種または2種以上に対して優れた除去効果を有する。
【0016】
さらに有害物質には、ハロゲン化物イオン、各種のハロゲン酸(ハロゲン酸、過ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、次亜ハロゲン酸など)、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)、ホウフッ化物イオン(BF4-)、珪フッ化物イオン(SiF62-)、有機酸、浮遊物質(SS)および有機物などが含まれる。本発明の処理システムはこれらの有害物質の1種または2種以上に対して優れた除去効果を有する。
【0017】
〔添加工程〕
本発明の処理システムでは、添加工程において層状複水酸化物の成分となる難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物とを有害物質含有水に添加し、これを反応工程においてアルカリ性下で反応させて上記難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成された汚泥を生成させる。
【0018】
難溶性金属酸化物は、その表面が一部溶解して層状複水酸化物の成分源になると共に大部分は未溶解部分として残り、溶解した難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物とが反応して、難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成される。また、溶解した難溶性金属酸化物は層状複水酸化物の成分源になると共にアルカリ剤としての役割を果たす。
【0019】
難溶性金属酸化物としては酸化マグネシウムや酸化カルシウムなどが用いられる。なお、層状複水酸化物のハイドロタルサイトを形成させるには酸化マグネシウムが好ましい。この酸化マグネシウムは、ドロマイト〔CaMg(CO3)2〕の焼成物のように、成分の一部に酸化マグネシウムを含むもの、あるいはCaに限らず他の成分と共に酸化マグネシウムを含むものを用いることができる。
【0020】
可溶性金属化合物として可溶性アルミニウム塩や可溶性鉄塩などを用いることができる。このなかで、ハイドロタルサイトを形成させるには可溶性アルミニウム塩が好ましい。具体的には、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどが好ましい。なお、可溶性アルミニウム塩として、アルミニウムを高濃度に含有する廃液(貴金属触媒の回収廃液、金属アルミニウムを溶解した液など)を利用することができる。
【0021】
可溶性アルミニウム塩の添加量は、フッ素濃度1〜50mg/Lの有害物質含有水1Lに対して水中のアルミニウム濃度が10〜1000mg/Lになる量が適当である。また、酸化マグネシウムの添加量は、フッ素濃度1〜50mg/Lの有害物質含有水1Lに対して、対して0.05〜10g/Lになる量が適当である。
【0022】
有害物質含有水に難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物を添加する工程において、添加槽では有害物質含有水に可溶性金属化合物と難溶性金属酸化物を添加し、これを反応槽に導入しても良いし、添加槽において有害物質含有水に可溶性金属化合物を添加して、これを反応槽に導入し、反応槽において難溶性金属酸化物と必要に応じてpH調整剤を添加してもよい。また、有害物質含有水を反応槽に導入する管路中で有害物質含有水と可溶性金属化合物を添加してもよい。
【0023】
〔反応工程〕
例えば、難溶性金属酸化物として酸化マグネシウムを用い、可溶性金属化合物として可溶性アルミニウム塩を用い、これらを有害物質含有水に添加し、アルカリ性下(pH7〜11が好ましい)で反応させると、酸化マグネシウムは溶け難いので大部分は未溶解部分として残るが、表面は部分的に溶解し、溶出したマグネシウムがアルミニウムと反応して酸化マグネシウム表面に層状複水酸化物が形成される。具体的には、酸化マグネシウム表面にマグネシウムとアルミニウムが反応してハイドロタルサイト〔一般式:Mg2+1-xAl3+x(OH)2(An-)x/n・mH2O(An-はアニオン)〕が形成される。
【0024】
この状態を図1(A)〜(C)に示す。図1(A)の汚泥の内部(イ)についてEDX分析を行うと、図1(B)のように、圧倒的にマグネシウム成分が多く、酸化マグネシウムであることを示している。一方、図1(A)の汚泥の表面付近(ロ)についてEDX分析を行うと、図1(C)のように、マグネシウムとアルミニウムのピークが検出され、ハイドロタルサイトを形成していることが分かる。
【0025】
なお、該難溶性金属酸化物は反応工程中で水和して金属水酸化物になることもあるため、難溶性金属酸化物と金属水酸化物の共存物質の表面に層状複水酸化物を形成してもよい。
【0026】
上記層状複水酸化物は、層間に水分子を含む層状構造を有しており、電気的中性を保つために層間に陰イオンを取り込む性質があり、有害物質含有水に接触したときに、この水に含まれているフッ素、有機酸、オキシアニオン系のホウ素、窒素、リン、セレン、六価クロム、ヒ素、アンチモンなどの陰イオンの有害物質が層間に取り込まれる。さらに、層状複水酸化物を形成しているマグネシウムやアルミニウムの一部が陽イオンの重金属類と置換することによって、カドミウム、鉛、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガンなどの有害重金属類が取り込まれる。また、浮遊物質(SS)は層状複水酸化物を含む汚泥と凝集して取り込まれ、有機物は層状複水酸化物を含む汚泥の表面に吸着して取り込まれる。こうして有害物質を取り込んだ層状複水酸化物を含む汚泥が沈降し、これを固液分離することによって有害物質を除去することができる。
【0027】
反応工程では必要に応じて、pH調整剤を添加することができる。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどのアルカリや硫酸、塩酸などの酸が挙げられる。これにより、pH7〜11に制御される。pHの調整は反応前でも、反応中でも、反応後でも構わないが、層状複水酸化物の形成を促進することから、反応中もしくは反応後の方が好ましい。
【0028】
〔固液分離工程〕
生成した汚泥を固液分離工程に導いて沈降させ、固液分離する。本発明の処理方法によって生成した汚泥は、未溶解の難溶性金属酸化物(酸化マグネシウム等)の表面に層状複水酸化物が形成された構造を有しているので沈降性が良い。
【0029】
例えば、図2に示すように、本発明の処理方法によって生成した汚泥スラリーをメスシリンダーに入れて30分間静置すると、静置開始時の汚泥スラリーの容積は2300mLであったものが、静置後の汚泥スラリー部分の容積は約550mLとなり、安定容積が短時間に40%以下、好ましくは25%以下になる。ここで安定容積とは次式[1]によって算出される指標である。安定容積の小さい方が汚泥を短時間に固液分離することができることを示す。
(一定時間経過後の汚泥スラリー容積)/(初期の汚泥スラリー容積)×100…[1]
【0030】
本発明の処理システムは安定容積が小さく、従って汚泥を短時間に固液分離することができる。固液分離槽に導入する前に凝集剤を添加すれば、さらに短時間で固液分離することができる。凝集剤は無機凝集剤やアニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の高分子凝集剤を用いることができる。
【0031】
なお、酸化マグネシウムに代えて可溶性のマグネシウム塩(塩化マグネシウムなど)を用い、これを可溶性アルミニウム塩と共に有害物質含有水に添加し、さらに水酸化ナトリウムを添加してアルカリ性に調整する従来の処理方法によって生成した汚泥スラリーは、この汚泥スラリーをメスシリンダーに入れて30分間静置すると、図2に示すように、例えば静置開始時の初期汚泥スラリー容積が2300mLであったものは、静置後の汚泥スラリー容積が約2200mLであり、30分程度では殆ど沈降しない。
【0032】
〔汚泥返送工程〕
本発明の処理方法において、好ましくは、固液分離した汚泥の一部または全部を反応工程に返送し、返送した汚泥を層状複水酸化物の形成に利用すると良い。汚泥の一部または全部を反応工程に戻すことによって、層状複水酸化物の生成が促進し、フッ素、ホウ素、窒素化合物、リン、有害重金属類等の有害物質が汚泥中に多く取り込まれるようになり、これらの除去効果が向上する。
【0033】
なお、固液分離した汚泥について、重量や比重あるいは沈降速度の違いを利用して難溶性金属酸化物量の多いものに濃縮した汚泥を反応工程に返送するとよい。例えば、難溶性金属酸化物量の多い汚泥は他の汚泥よりも重いために速く沈降するので、沈降初期の汚泥を集めて難溶性金属酸化物量の多い汚泥に濃縮することができる。反応工程に難溶性金属酸化物量の多い汚泥を返送することによって、層状複水酸化物の生成を促進することができる。例えば、難溶性金属酸化物として酸化マグネシウムを使用したとき、酸化マグネシウム量の多い汚泥を濃縮して反応工程に返送することによって、ハイドロタルサイトの生成を促進することができる。
【0034】
一方、反応工程に返送しない余剰の汚泥は、これを回収してセメント原料として再資源化することができる。あるいは余剰汚泥は土壌汚染や廃水処理の浄化材として利用することができる。
【0035】
〔前処理工程〕
本発明の処理方法は、有害物質含有水(原水)に含まれる有害物質や妨害物質を予め低減する前処理工程を反応工程の前に設けることができる。前処理することによって有害物質の除去効果をさらに高めることができる。図5参照。なお、妨害成分とは、それ自身は有害物質ではないが、本発明の処理方法を妨害する物質である。
【0036】
具体的には、例えば、原水に含まれている重金属類(カドミウム、鉛、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン、六価クロム、ヒ素など)の濃度が20mg/Lより高いと、重金属類を取り込んだ層状複水酸化物の構造が部分的に崩れ、重金属類などの有害物質の除去効果が不充分になることがある。そこで前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。前処理として、例えば、中和剤(NaOH、Ca(OH)2など)を加えて原水のpHを5〜10の範囲に調整し、重金属類の水酸化物沈殿を生成させ、これを凝集沈澱処理し、原水の重金属濃度を10mg/L未満にしてもよいし、原水にアルミニウム塩や鉄塩を添加した後、中和剤(NaOH、Ca(OH)2など)を加えて原水のpHを5〜10の範囲に調整し、水酸化物沈殿を生成させ、その沈殿に共沈させて、これを固液分離して原水の重金属濃度を10mg/L未満にしてもよい。
【0037】
また、原水のリン酸イオンがリン濃度として50mg/Lより高いと、リン酸イオンが他の有害物質と競争して層状複水酸化物に吸着され、他の有害物質の除去効果が低下することがある。そこで前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。前処理として、例えば、原水にカルシウム塩(Ca(OH)2など)を添加し、リン酸カルシウム塩を生成させて除去し、原水のリン酸イオンをリン濃度として5mg/L未満にするとよい。
【0038】
同様に、原水の硝酸イオンが窒素濃度として200mg/Lより高いと、硝酸イオンが他の有害物質と競争して層状複水酸化物に吸着され、他の有害物質の除去効果が低下することがある。そこで前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。前処理として、例えば、生物処理(嫌気性脱窒法など)を行い、原水の硝酸イオンを窒素濃度として200mg/L未満にするとよい。
【0039】
さらに、原水のホウ酸イオンがホウ素濃度として100mg/Lより高いと、ホウ酸イオンが他の有害物質と競争して層状複水酸化物に吸着され、他の有害物質の除去効果が低下することがある。そこで前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。前処理として、例えば、メチルグルカミン基を有するキレート樹脂に原水を通液してホウ酸イオンを吸着させ、原水のホウ酸イオンをホウ素濃度として100mg/L未満にするとよい。
【0040】
さらに、原水のフッ素濃度が50mg/Lより高いと、層状複水酸化物の必要量が増大するため、投入する薬剤量が多くなることがある。そこで前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。前処理として、例えば、カルシウム塩を添加して難溶性のフッ化カルシウムを生成させ、これを固液分離してフッ素濃度を50mg/L未満にするとよい。
【0041】
また、原水に含まれる浮遊物質(SS)の濃度が60mg/Lより高いと、浮遊物質を取り込んだ層状複水酸化物の構造が部分的に崩れ、有害物質の除去効果が不充分になることがある。そこで前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。前処理として、例えば、無機凝集剤や高分子凝集剤を添加して浮遊物質を沈澱分離し、原水の浮遊物質の濃度を20mg/L未満にするとよい。
【0042】
同様に、原水に含まれる有機物の濃度がCODとして200mg/Lより高いと、有機物を取り込んだ層状複水酸化物の構造が部分的に崩れ、有害物質の除去効果が不充分になることがある。そこで前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。前処理として、例えば、生物処理法(活性汚泥法など)や促進酸化法(紫外線酸化や光触媒など)などによって、原水の有機物濃度をCODとして80mg/L未満にするとよい。
【0043】
前処理工程において、原水に含まれる妨害成分を除去すれば処理効果をさらに高めることができる。妨害成分としては硫酸イオン、亜硫酸イオン、塩化物イオン、炭酸イオン、溶存シリカやケイ酸イオンなどである。
【0044】
例えば、原水に含まれる硫酸イオン濃度が1500mg/Lより高いと、硫酸イオンが有害物質と競争して層状複水酸化物に吸着され、有害物質の除去効果が低下することがある。そこで前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。前処理として、例えば、原水にCa塩やBa塩を添加して難溶性の硫酸塩を生成させ、これを固液分離して硫酸イオン濃度を低下させる。Ca塩を用いる場合には硫酸イオンを1000mg/L未満に低減することができる。Ba塩を用いる場合には硫酸イオンを5mg/L未満に低減することができる。
【0045】
また、原水の亜硫酸イオン濃度が50mg/Lより高いと、亜硫酸イオンがアルミニウムイオンと反応するので、アルミニウム添加量が多く必要になることがある。また、亜硫酸イオンが有害物質と競争して層状複水酸化物に吸着され、有害物質の除去効果が低下することがある。そこで前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。前処理として、例えば、原水に過酸化水素などの酸化剤を添加して亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し、原水の亜硫酸イオンを10mg/L未満にするとよい。
【0046】
さらに、原水の塩化物イオン濃度が2000mg/Lより高いと、塩化物イオンが有害物質と競争して層状複水酸化物に吸着され、有害物質の除去効果が低下することがある。そこで前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。前処理として、例えば、電解分解によって塩素をガス化して除去し、あるいは逆浸透法や電気透析法など膜処理によって塩化物イオン濃度を1000mg/L未満にするとよい。
【0047】
原水の炭酸イオン濃度が500mg/Lより高いと、炭酸イオンが有害物質と競争して層状複水酸化物に吸着され、有害物質の除去効果が低下することがある。そこで前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。前処理として、例えば、曝気して炭酸イオンを気散させ、あるいはCa塩を添加して難溶性の炭酸塩を生成させ、これを固液分離して炭酸イオン濃度を50mg/L未満にするとよい。
【0048】
原水の溶存シリカやケイ酸イオンがSi濃度として20mg/Lより高いと、溶存シリカやケイ酸イオンを取り込んだ層状複水酸化物の構造が部分的に崩れ、有害物質の除去効果が不充分になることがある。そこで前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。前処理として、例えば、鉄塩やアルミニウム塩を添加し、さらに中和剤(NaOH、Ca(OH)2など)を加えて原水のpHを5〜10の範囲に調整し、水酸化物沈殿を生成させ、その沈殿に溶存シリカやケイ酸イオンを共沈させ、これを固液分離して原水の溶存シリカやケイ酸イオンをSi濃度として10mg/L未満にするとよい。
【0049】
〔後処理工程〕
さらに、本発明の処理方法は、汚泥を分離した液分(処理水)を後処理する工程を設けることができる。図5参照。
【0050】
固液分離工程で汚泥を分離した液分(処理水)に、有機物や浮遊物質、窒素化合物が残留している場合や、あるいは処理水のpHが9以上の場合がある。そこで、処理水の後処理工程を設けてもよい。後処理方法は限定されない。
【0051】
処理水に含まれる有機物については、例えば、生物処理法(活性汚泥法など)や促進酸化法(紫外線酸化や光触媒など)などによって、有機物をCOD濃度として80mg/L未満に低減するとよい。また、処理水に含まれる浮遊物質(SS)については、例えば、無機凝集剤や高分子凝集剤を添加して浮遊物質を沈澱分離し、浮遊物質の濃度を20mg/L未満にするとよい。さらに、処理水に含まれる窒素化合物については、例えば、生物処理(硝化脱窒素法など)を行い、窒素濃度として60mg/L未満に低減するとよい。
【0052】
処理水のpHが9以上になる場合があるので、pHが高い場合には処理水に硫酸や塩酸などを添加してpH6〜8になるように中和処理するとよい。
【0053】
〔処理装置〕
本発明の処理装置を図3および図4に示す。
図示する処理装置には、有害物質含有水(原水)に薬剤を添加する添加槽10と、添加した薬剤を反応させて汚泥を生成させる反応槽30と、生成した汚泥を分離する固液分離槽40とが設けられており、これらの添加槽10と反応槽30と固液分離槽40とは管路50によって順に接続されている。
【0054】
固液分離槽40には分離した処理水と汚泥を排出する排出管路51、52がおのおの接続しており、汚泥の排出管路52には分離した汚泥の一部または全部を反応槽30に返送する返送管路53が接続している。図4に示す処理システムでは、返送管路53の途中に第二添加槽20が設けられている。
【0055】
添加槽10には有害物質含有水の供給管路60と可溶性金属化合物の供給管路61が接続している。なお、添加槽10を省略して管路60と管路61を接続し、管路内で原水に可溶性金属化合物を添加してもよい。
【0056】
図3の装置例では、反応槽30には難溶性金属酸化物の供給管路62とpH調整剤の供給管路63が設けられている。図4の装置例では第二添加槽20に難溶性金属酸化物の供給管路62が設けられている。
【0057】
添加槽10において、有害物質含有水にポリ塩化アルミニウムなどの可溶性金属化合物を添加し、これを反応槽30に導入する。図3の装置例では反応槽30には管路53を通じて汚泥を添加し、さらに管路62を通じて難溶性金属酸化物が添加される。図4の装置例では、分離された汚泥は第二添加槽20において管路62を通じて難溶性金属酸化物が添加された後に反応槽30に導入される。
【0058】
反応槽30には、管路63を通じてpH調整剤が添加され、反応槽内がpH7〜11に制御される。また、反応は開放系でも密閉系でも構わないが、二酸化炭素の吸収により有害物質の除去を阻害する可能性があるため、反応槽30は二酸化炭素を吸収し難い構造が好ましい。一般的には密閉系の反応槽が好ましい。
【0059】
反応槽30において、難溶性金属酸化物の表面が一部溶解して可溶性金属化合物とアルカリ性下(pH7〜11が好ましい)で反応し、難溶性金属酸化物表面にハイドロタルサイト等の層状複水酸化物が形成された汚泥が生成する。汚泥は固液分離槽40に導かれ、沈降して固液分離される。固液分離槽40に導入される前に凝集剤を添加してもよい。凝集剤は凝集剤供給管路と管路50とを接続して管路内で添加してもよいし、凝集剤添加槽を設け、その凝集剤添加槽に管路50を通じて汚泥を入れ、さらに凝集剤供給管路を通じて凝集剤を添加してもよい。分離された汚泥の一部または全部は管路53を通じて反応槽30に返送される。一部の汚泥は脱水して廃棄してもよいし、回収してセメント原料として再資源化してもよく、あるいは土壌汚染や廃水処理の浄化材として利用してもよい。
【0060】
本発明の処理装置は、例えば、車載可能にし、あるいは添加槽や反応槽および固液分離槽などのユニットに分離可能にした可搬型装置にすることができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、これらの各例において、フッ素濃度はイオン電極法により測定した。また、ホウ素濃度、クロム(VI)濃度、ヒ素濃度、銅濃度、マンガン濃度、亜鉛濃度はICP発光分光分析法により測定した。セレン濃度、カドミウム濃度、鉛濃度はICP質量分析法により測定した。
【0062】
〔実施例1〕
図4に示す処理システムに従い、フッ素含有水を以下のように処理した。まず、フッ素含有水(フッ素濃度20mg/L)を添加槽10に導入し、ポリ塩化アルミニウムをアルミニウム濃度が水中で240mg/Lになるように添加した。一方、固液分離槽40で分離した汚泥の全量を第二添加槽20に返送し、ここで酸化マグネシウムをフッ素含有水1Lに対して1g/L添加した。この汚泥を反応槽30に導入し、ポリ塩化アルミニウムを添加したフッ素含有水と混合し、30分間攪拌し、温度20℃下、30分間反応させた。反応後、pH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpH8.5〜9.5に調整した後、生成した汚泥を固液分離槽40(シックナー)に導入して20時間静置して汚泥を沈降させた。なお、固液分離槽40に導入する前の汚泥スラリーにアニオン性高分子凝集剤2mg/Lを添加した。固液分離槽40で分離した汚泥の全量を先に述べたように第二添加槽20に導入し、酸化マグネシウムをフッ素含有水1Lに対して1g/L添加して反応槽30に戻した。この汚泥の生成を15回繰り返した。処理条件を表1に示し、処理結果を表2に示した。また、汚泥のX線解析チャートを図6に示した。図6において1st〜10thは繰返し回数である。
【0063】
処理結果に示すように、繰り返し回数1回目で、処理水のフッ素濃度を海域以外の公共用水域の排水基準(8mg/L)以下まで低減することができ、また、繰返し回数12回目で、処理水のフッ素濃度を環境基準(0.8mg/L以下)まで低減することができる。また、汚泥のX線解析チャートに示すように、酸化マグネシウムと共にハイドロタルサイトのピークが現れており、酸化マグネシウム表面にハイドロタルサイトが形成されていることが分かる。繰返し回数が1回ではハイドロタルサイトのピークは小さいが、繰返し回数が5回以降になるとハイドロタルサイトのピークは大きくなり、繰返し回数に比例して成長している。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
〔実施例2〕
図3に示す処理システムに従い、フッ素含有水を以下のように処理した。まず、フッ素含有水(フッ素濃度20mg/L)を添加槽10に導入し、硫酸アルミニウムをアルミニウム濃度が水中で240mg/Lになるように添加した。これを反応槽30に導入した。一方、固液分離槽40で分離した汚泥の全量を反応槽30に返送した。また反応槽30で酸化マグネシウムをフッ素含有水1Lに対して1g/L添加し、硫酸アルミニウムを添加したフッ素含有水と混合し、30分間攪拌し、温度20℃下、30分間反応させた。反応後、pH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpH8.5〜9.5に調整した後、生成した汚泥を固液分離槽40(シックナー)に導入して20時間静置して汚泥を沈降させた。なお、固液分離槽40に導入する前の汚泥スラリーにアニオン性高分子凝集剤2mg/Lを添加した。固液分離槽40で分離した汚泥を、上記のように、反応槽30に返送して酸化マグネシウムをフッ素含有水1Lに対して1g/L添加した。この汚泥の生成を15回繰り返した。処理条件を表3に示し、処理結果を表4に示した。
【0067】
処理結果に示すように、繰り返し回数1回目で、処理水のフッ素濃度を海域以外の公共用水域の排水基準(8mg/L)以下まで低減することができる。繰返し回数を重ねるごとに、処理水中のフッ素濃度を低減することができる。
【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
〔実施例3〕
図4に示す処理システムに従い、フッ素及び重金属類を含む有害物質含有水を以下のように処理した。まず、有害物質含有水(原水中の有害物質濃度は表5に記載)を添加槽10に導入し、ポリ塩化アルミニウムをアルミニウム濃度が水中で240mg/Lになるように添加した。これを反応槽30に導入した。一方、固液分離槽40で分離した汚泥の全量を第二添加槽20に返送し、ここで酸化マグネシウムを有害物質含有水1Lに対して1g/L添加した。この汚泥を反応槽30に戻し、ポリ塩化アルミニウムを添加した有害物質含有水と混合し、30分間攪拌し、温度20℃下、30分間反応させた。反応後、pH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpH8.5〜9.5に調整した後、生成した汚泥を固液分離槽40(シックナー)に導入して20時間静置して汚泥を沈降させた。なお、固液分離槽40に導入する前の汚泥スラリーにアニオン性高分子凝集剤2mg/Lを添加した。固液分離槽40で分離した汚泥の全量を、上記のように、第二添加槽20に導入し、酸化マグネシウムを有害物質含有水1Lに対して1g/L添加して反応槽30に戻し、この汚泥の生成を5回繰り返した。処理条件を表5に示し、処理結果を表6に示した。
【0071】
処理結果に示すように、繰り返し回数1回目で、処理水のフッ素濃度を海域以外の公共用水域の排水基準(8mg/L)以下まで低減することができる。繰返し回数を重ねるごとに、処理水中のフッ素濃度を低減することができる。他の有害物質についても、処理水中の濃度を低減することができ、繰返し回数を重ねるごとに、その濃度をさらに低減することができる。
【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
〔実施例4〕
図3に示す処理システムに従い、フッ素含有水を以下のように処理した。まず、フッ素含有水(フッ素濃度20mg/L)を添加槽10に導入し、ポリ塩化アルミニウムをアルミニウム濃度が水中で240mg/Lになるように添加した。これを反応槽30に導入した。その後、反応槽30で酸化マグネシウム1g/Lとポリ塩化アルミニウムを添加した水とを混合し、pH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpH8.5〜9.5に調整した後、30分間攪拌し、温度20℃下、30分間反応させた。反応後、生成した汚泥を固液分離槽40(シックナー)に導入して30分間静置して汚泥を沈降させた。処理条件および処理結果を表7に示した。
【0075】
〔比較例1〕
図3に示す処理システムに従い、フッ素含有水を以下のように処理した。まず、フッ素含有水(フッ素濃度20mg/L)を添加槽10に導入し、ポリ塩化アルミニウムをアルミニウム濃度が水中で240mg/Lになるように添加した。これを反応槽30に導入した。その後、反応槽30で塩化マグネシウム2.4g/Lとポリ塩化アルミニウムを添加した水とを混合し、pH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpH8.5〜9.5に調整した後、30分間攪拌し、温度20℃下、30分間反応させた。反応後、生成した汚泥を固液分離槽40(シックナー)に導入して30分間静置して汚泥を沈降させた。処理条件および処理結果を表7に示した。
【0076】
処理結果に示すように、実施例4と比較例1は何れも処理水のフッ素濃度を海域以外の公共用水域の排水基準(8mg/L)以下まで低減することができるが、安定容積は比較例1の方が非常に大きく、分離性が悪い。一方、実施例4は安定容積が小さく、分離性が良好であり、短時間で固液分離することができる。
【0077】
【表7】

【符号の説明】
【0078】
10−添加槽、20−第二添加槽、30−反応槽、40−固液分離槽、50−管路、51、52−排出管路、53−返送管路、60、61、62、63−供給管路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状複水酸化物の成分となる難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物とを有害物質含有水に添加する工程、これをアルカリ性下で反応させて上記難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成された汚泥を生成させる反応工程、この汚泥を沈降させて固液分離することによって該汚泥に取り込まれた有害物質を系外に除去する固液分離工程を有することを特徴とする有害物質含有水の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載する処理方法において、固液分離した汚泥の一部または全部を反応工程に返送し、返送した汚泥を層状複水酸化物の形成に利用する有害物質含有水の処理方法。
【請求項3】
難溶性金属酸化物が酸化マグネシウムであり、可溶性金属化合物が可溶性アルミニウム塩であり、有害物質含有水に酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩を添加し、これをアルカリ性下で反応させて、酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトを形成させることによって該ハイドロタルサイトに有害物質が取り込まれた汚泥を生成させ、該汚泥を固液分離する請求項1または請求項2に記載する有害物質含有水の処理方法。
【請求項4】
有害物質がフッ素、ホウ素、窒素化合物、リン、重金属類の何れか1種または2種以上であり、有害物質を取り込んだ汚泥を生成させて固液分離する請求項1〜請求項3の何れかに記載する有害物質含有水の処理方法。
【請求項5】
フッ素濃度1〜50mg/Lの有害物質含有水1Lに対して、酸化マグネシウムを0.05〜10g/L、可溶性アルミニウム塩を水中のアルミニウム濃度が10〜1000mg/Lになるように添加し、反応槽においてpH7〜11で反応させる請求項1〜請求項4の何れかに記載する有害物質含有水の処理方法。
【請求項6】
生成した汚泥スラリーを静置したとき、30分後の安定容積が40%以下である請求項1〜請求項5の何れかに記載する有害物質含有水の処理方法。
【請求項7】
有害物質含有水(原水)に含まれる有害物質および妨害物質を低減する前処理工程が設けられており、前処理した原水に層状複水酸化物の成分となる難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物を添加する請求項1〜請求項6の何れかに記載する有害物質含有水の処理方法。
【請求項8】
汚泥を固液分離した処理水を後処理工程が設けられている請求項1〜請求項7の何れかに記載する有害物質含有水の処理方法。
【請求項9】
有害物質含有水に薬剤を添加する添加槽と、添加した薬剤を反応させて汚泥を生成させる反応槽と、生成した汚泥を分離する固液分離槽とが管路によって順に接続されており、添加槽には有害物質含有水と可溶性金属化合物の供給手段がおのおの設けられており、反応槽には難溶性金属酸化物とpH調整剤の供給手段がおのおの設けられており、固液分離槽には分離した汚泥と処理水の排出管路がおのおの接続しており、添加槽において可溶性金属化合物が添加された有害物質含有水が反応槽に導入され、反応槽において難溶性金属酸化物とpH調整剤が添加され、アルカリ性下の反応によって難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成された汚泥が生成され、該汚泥が固液分離槽に導入されて沈降分離されることを特徴とする有害物質含有水の処理装置。
【請求項10】
請求項9に記載する処理装置において、固液分離槽から反応槽に至る返送管路が接続されており、固液分離した汚泥の一部または全部が該返送管路を通じて反応槽に返送される有害物質含有水の処理装置。
【請求項11】
請求項10に記載する処理装置において、固液分離槽から反応槽に至る返送管路が接続されており、分離した汚泥に難溶性金属酸化物を添加する第二添加槽が上記返送管路の途中に設けられている有害物質含有水の処理装置。

【図1(B)】
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【図1(C)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1(A)】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−106226(P2012−106226A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188650(P2011−188650)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】