説明

有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、表示装置及び照明装置

【課題】 発光効率が高く、発光寿命の長い有機EL素子を提供することである。
【解決手段】 分散液を用いて形成される層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の少なくとも1層が球状分子を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(以下、ELDという)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)が挙げられる。無機エレクトロルミネッセンス素子は平面型光源として使用されてきたが、発光素子を駆動させるためには交流の高電圧が必要である。有機EL素子は、発光する化合物を含有する発光層を陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光する素子であり、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、さらに、自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。
【0003】
しかしながら、今後の実用化に向けた有機EL素子においては、さらに低消費電力で効率よく高輝度に発光する有機EL素子の開発が望まれている。
【0004】
特許第3,093,796号明細書では、スチルベン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体またはトリススチリルアリーレン誘導体に、微量の蛍光体をドープし、発光輝度の向上、素子の長寿命化を達成している。
【0005】
また、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体をホスト化合物として、これに微量の蛍光体をドープした有機発光層を有する素子(例えば、特開昭63−264692号公報)、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体をホスト化合物として、これにキナクリドン系色素をドープした有機発光層を有する素子(例えば、特開平3−255190号公報)等が知られている。
【0006】
以上のように、励起一重項からの発光を用いる場合、一重項励起子と三重項励起子の生成比が1:3であるため発光性励起種の生成確率が25%であり、光の取り出し効率が約20%であるため、外部取り出し量子効率(ηext)の限界は5%とされている。
【0007】
ところが、プリンストン大より励起三重項からの燐光発光を用いる有機EL素子の報告(M.A.Baldo et al.,nature、395巻、151〜154ページ(1998年))がされて以来、室温で燐光を示す材料の研究が活発になってきている。
【0008】
例えばM.A.Baldo et al.,nature、403巻、17号、750〜753ページ(2000年)、また米国特許第6,097,147号明細書等にも開示されている。
【0009】
励起三重項を使用すると、内部量子効率の上限が100%となるため、励起一重項の場合に比べて原理的に発光効率が4倍となり、冷陰極管とほぼ同等の性能が得られる可能性があることから照明用途としても注目されている。
【0010】
例えば、S.Lamansky et al.,J.Am.Chem.Soc.,123巻,4304ページ(2001年)等においては、多くの化合物がイリジウム錯体系等重金属錯体を中心に合成検討されている。
【0011】
また、前述のM.A.Baldo et al.,nature,403巻,17号,750〜753ページ(2000年)においては、ドーパントとして、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウムを用いた検討がされている。
【0012】
その他、M.E.Tompson等は、The 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence(EL’00、浜松)において、ドーパントとしてL2Ir(acac)、例えば、(ppy)2Ir(acac)を、また、Moon−Jae Youn.0g、Tetsuo Tsutsui等は、やはり、The 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence(EL’00、浜松)において、ドーパントとして、トリス(2−(p−トリル)ピリジン)イリジウム(Ir(ptpy)3),トリス(ベンゾ[h]キノリン)イリジウム(Ir(bzq)3)等を用いた検討を行っている(なおこれらの金属錯体は一般にオルトメタル化イリジウム錯体と呼ばれている。)。
【0013】
また、前記、S.Lamansky et al.,J.Am.Chem.Soc.,123巻,4304ページ(2001年)等においても、各種イリジウム錯体を用いて素子化する試みがされている。
【0014】
また、高い発光効率を得るために、The 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence(EL’00、浜松)では、Ikai等はホール輸送性の化合物を燐光性化合物のホストとして用いている。また、M.E.Tompson等は、各種電子輸送性材料を燐光性化合物のホストとして、これらに新規なイリジウム錯体をドープして用いている。
【0015】
またこれらイリジウム錯体を用いた有機EL素子は、現在主に蒸着によって素子を作製している。塗布法にて有機EL素子を作製する研究も盛んに行われて来ているが、イリジウム錯体の溶解性が低いために、塗布法による素子作製が困難であるのが現状である。そこで、イリジウム錯体の溶解性を向上することが望まれている。
【0016】
中心金属をイリジウムの代わりに白金としたオルトメタル化錯体も注目されている。この種の錯体に関しては、配位子に特徴を持たせた例が多数知られている(例えば、特許文献1〜7参照。)。
【0017】
何れの場合も主にフェニルピリジン等、二つの配位原子によって中心金属に結合する二座配位子及びその誘導体がオルトメタル化錯体の好適な例として用いられてきた。しかしこれらを発光素子とした場合の発光輝度や発光効率は、その発光する光が燐光に由来することから、従来の有機EL素子に比べ大幅に改良されるものであるが、有機EL素子の発光寿命については従来の有機EL素子よりも低いことが知られている。
【特許文献1】特開2001−181617号公報
【特許文献2】特開2001−247859号公報
【特許文献3】特開2002−332291号公報
【特許文献4】特開2002−332292号公報
【特許文献5】特開2002−338588号公報
【特許文献6】特開2002−226495号公報
【特許文献7】特開2002−234894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、発光効率が高く、発光寿命の長い有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成された。
【0020】
(請求項1)
分散液を用いて形成される層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の少なくとも1層が球状分子を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0021】
(請求項2)
球状分子を含有する分散液を用いて形成される層を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0022】
(請求項3)
球状分子の分散物を含有する分散液を用いて形成される層を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0023】
(請求項4)
少なくともリン光発光性錯体を含有する発光層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0024】
(請求項5)
球状分子がリン光発光性錯体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0025】
(請求項6)
リン光発光性錯体がイリジウム錯体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0026】
(請求項7)
白色発光であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0027】
(請求項8)
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を製造するに当たり、分散液を用いて形成される層を塗布法により成膜することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0028】
(請求項9)
前記塗布法がインクジェット法であることを特徴とする請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0029】
(請求項10)
請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いることを特徴とする表示装置。
【0030】
(請求項11)
請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いることを特徴とする照明装置。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、発光効率が高く、発光寿命の長い有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明者は鋭意検討の結果、分散液を用いて形成される層を有する有機EL素子の少なくとも1層が球状分子を含有する有機EL素子、球状分子を含有する分散液を用いて形成される層を有する有機EL素子、または球状分子の分散物を含有する分散液を用いて形成される層を有する有機EL素子により、発光効率が高く、発光寿命の長い有機EL素子が得られることを見出した。
【0033】
本発明の特徴の1つは、球状分子を用いて層を形成することである。一般的に有機EL素子を形成する層(特に発光層)の化合物がアモルファス状態から結晶状態に変化することで素子寿命が劣化することが知られている。球状分子は、その形状的な特性から結晶状態を形成しにくい特徴をもつ。従って、球状分子を有機EL素子を形成する層の成分として利用した場合、素子寿命が改善されることが予想される。
【0034】
本発明のもう一つの特徴は、分散液を用いて層を形成することである。この方法により有機ELの寿命が長くなると考えている。通常の溶液塗布法では、すでに塗布済みの下層の上に上層を塗布する場合、上層成分を溶解するために用いる溶剤(一般的には溶解性の高い溶媒が使用される)に下層成分が溶解し、上層と下層が混合してしまう。しかしながら、上層塗布に分散液を使う場合には、溶解性の低い溶媒を選択することが可能であり、上層塗布時に下層成分が分散液を構成する溶媒に溶解することが少なく、下層成分と上層成分の混合比率を抑えることが可能であると考えられる。上層成分と下層成分が混合すると、素子寿命が劣化するケースがあるが、分散塗布方法により劣化を改善することが可能であると予想される。
【0035】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0036】
〔球状分子〕
本発明において対象とする球状分子とは、分子を構成する化学結合の歪みのエネルギーが十分に緩和したコンフォーメーションにおいて、その分子形状が球または変形した球(例えば楕円球、ダンベル型、ダルマ型等)である分子を意味する。ここで言う「分子を構成する化学結合の歪みのエネルギーが十分に緩和したコンフォーメーション」は、与えられた分子構造について、一般的に行われている分子動力学的な計算により決定できる。ここで言う分子計算法とは、分子軌道(MO)法、分子動力学(MD)法、あるいは分子力場(MM)法等の一般的原理、またはこれらの複合により行われ、第一元理(Ab Initio)計算あるいは半経験的(Semi−empirical)計算のいずれによっても構わない。なお本発明において、これらの計算の対象とする球状分子は、真空中、単分子状態であるものを意味する。
【0037】
(化合物例)
本発明に係る球状分子は形状に特徴があり、その化学式に限定はない。本発明においては、後述する発光層に用いることが好ましい。また、球状分子を含有する層の機能に従って球状分子を選ぶことが好ましく、例えば、発光層に添加する場合には、球状分子がリン光発光性材料として機能することが好ましい。リン光発光性材料として機能する材料は後述するが、これらの中で球状分子を選択すればよい。
【0038】
以下に本発明に好ましく用いられる球状分子の例を示す。
【0039】
【化1】

【0040】
【化2】

【0041】
【化3】

【0042】
【化4】

【0043】
【化5】

【0044】
【化6】

【0045】
【化7】

【0046】
【化8】

【0047】
【化9】

【0048】
【化10】

【0049】
〔分散液〕
本発明に用いられる分散液は、微粒子化の方法としてよく知られた微粒子分散液を製造する方法を用いて調製することができる。例えば、ホモジナイザー(高圧、超音波等)、ビーズミル、ジェットミル、アルティマイザーによる物理的な力による分散や、乳化分散等がある。上記方法に加えて、高分子材料の場合、気相重合、乳化重合、懸濁重合等の方法により、高分子微粒子を合成し、これを分散液(場合によっては、再分散が必要な場合もある)とする方法があり、本発明の分散方法として用いることができる。また、これらの方法を複合して用いても構わない。また、ナノ粒子の調製法として再沈法も報告されている(化学と工業、137ページ、2002年)。この方法を用いることにより、ナノサイズの直系を持つナノ粒子の製造が可能であり、本発明の効果を得る上で好適である。
【0050】
〔有機EL素子の構成層〕
本発明の有機EL素子の構成層について説明する。本発明において、有機EL素子の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0051】
(i)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(v)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
ここで、発光層は、発光極大波長が各々430〜480nm、510〜550nm、600〜640nmの範囲にある単色発光層であってもよく、また、これらの少なくとも3層の発光層を積層して白色発光層としたものであってもよく、さらに発光層間には非発光性の中間層を有していてもよい。本発明の有機EL素子としては、白色発光層であることが好ましい。
【0052】
本発明の有機EL素子を構成する各層について説明する。
【0053】
《陽極》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In23−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式製膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0054】
《陰極》
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0055】
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0056】
次に、本発明の有機EL素子の構成層として用いられる、注入層、阻止層、電子輸送層等について説明する。
【0057】
《注入層:電子注入層、正孔注入層》
注入層は必要に応じて設け、電子注入層と正孔注入層があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0058】
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0059】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0060】
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0061】
《阻止層:正孔阻止層、電子阻止層》
阻止層は、上記の如く、有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0062】
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係わる正孔阻止層として用いることができる。
【0063】
本発明の有機EL素子の正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
【0064】
また、本発明においては、複数の発光色の異なる複数の発光層を有する場合、その発光極大波長が最も短波にある発光層が、全発光層中、最も陽極に近いことが好ましいが、このような場合、該最短波層と、該層の次に陽極に近い発光層との間に正孔阻止層を追加して設けることが好ましい。さらには、該位置に設けられる正孔阻止層に含有される化合物の50質量%以上が、前記最短波発光層のホスト化合物に対し、そのイオン化ポテンシャルが0.3eV以上大きいことが好ましい。
【0065】
イオン化ポテンシャルは化合物のHOMO(最高被占分子軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義され、例えば下記に示すような方法により求めることができる。
【0066】
(1)米国Gaussian社製の分子軌道計算用ソフトウェアであるGaussian98(Gaussian98、Revision A.11.4,M.J.Frisch,et al,Gaussian,Inc.,Pittsburgh PA,2002.)を用い、キーワードとしてB3LYP/6−31G*を用いて構造最適化を行うことにより算出した値(eV単位換算値)の小数点第2位を四捨五入した値としてイオン化ポテンシャルを求めることができる。この計算値が有効な背景には、この手法で求めた計算値と実験値の相関が高いためである。
【0067】
(2)イオン化ポテンシャルは光電子分光法で直接測定する方法により求めることもできる。例えば、理研計器社製の低エネルギー電子分光装置「Model AC−1」を用いて、あるいは紫外光電子分光として知られている方法を好適に用いることができる。
【0068】
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。本発明に係わる正孔阻止層、電子輸送層の膜厚としては好ましくは3〜100nmであり、さらに好ましくは5〜30nmである。
【0069】
《発光層》
本発明に係る発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0070】
本発明の有機EL素子の発光層には、ホスト化合物とリン光発光性錯体を含有することが好ましい。
【0071】
(ホスト化合物)
本発明においてホスト化合物とは、発光層に含有される化合物の内で、その層中での質量比が20%以上であり、かつ室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が、0.1未満の化合物と定義される。好ましくはリン光量子収率が0.01未満である。
【0072】
本発明においては、ホスト化合物としてカルバゾール誘導体やアザカルバゾール誘導体が好ましいが、公知のホスト化合物であってもよく、また併用してもよい。
【0073】
本発明の有機EL素子の発光層に用いるホスト化合物として有用なカルバゾール誘導体の具体例を挙げる。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
【化11】

【0075】
【化12】

【0076】
【化13】

【0077】
また、本発明の有機EL素子の発光層に用いるホスト化合物として有用なアザカルバゾール誘導体の具体例を挙げる。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
【化14】

【0079】
【化15】

【0080】
【化16】

【0081】
【化17】

【0082】
さらに公知のホスト化合物を複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、リン光発光性錯体を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。リン光発光性錯体の種類、ドープ量を調整することで白色発光が可能であり、照明、バックライトへの応用もできる。
【0083】
併用してもよい公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
【0084】
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。
【0085】
特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等。
【0086】
本発明においては、複数の発光層を有する場合、これら各層のホスト化合物の50質量%以上が同一の化合物であることが、有機層全体に渡って均質な膜性状を得やすいことから好ましく、さらには該化合物の燐光発光エネルギーが2.9eV以上であることが、ドーパントからのエネルギー移動を効率的に抑制し、高輝度を得る上で有利となることからより好ましい。
【0087】
本発明でいうところの燐光発光エネルギーとは、ホスト化合物を基板上に100nmの蒸着膜のフォトルミネッセンスを測定し、その燐光発光の0−0バンドのピークエネルギーを言う。
【0088】
本発明において用いるホスト化合物は、燐光発光エネルギーが2.9eV以上かつTgが90℃以上のものであることが好ましい。Tgが90℃より低いと素子の経時での劣化(輝度低下、膜性状の劣化)が大きく、光源としての市場ニーズを満足し得ない。即ち、輝度と耐久性の両方を満足するためには、燐光発光エネルギーが2.9eV以上かつTgが90℃以上のものであることが好ましい。Tgは、さらに好ましくは100℃以上である。
【0089】
本発明においては、複数の発光層を有する場合、発光層のホスト化合物の50質量%以上が、燐光発光エネルギーが2.9eV以上かつTgが90℃以上のものである同一の化合物であることが好ましい。驚くべきことにTgが90℃以上で、個々には耐久性に優れた材料でも、発光層ごとに別の化合物を用いた場合には素子全体の保存特性が、全発光層に同じ化合物を用いた場合と比較し、劣化する場合があることが見出された。この原因については、明確には判っていないが、全発光層のホスト化合物の50質量%以上が同一、即ち実質的に全発光層のホスト化合物が同一の場合には、均一の膜面性状が得られやすが、発光層ごと別の化合物を用いた場合には、個々の化合物は安定でも、層界面等で不均一性が発生しやすいことがこの原因とも考えられる。
【0090】
(リン光発光性錯体)
発光層に使用される材料(以下、発光材料という)としては、上記のホスト化合物を含有すると同時に、リン光性化合物を含有する。これにより、溶液塗布性が向上し、より発光効率の高い有機EL素子とすることができる。
【0091】
本発明に係るリン光発光性錯体は、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物である。リン光量子収率は好ましくは0.1以上である。上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に用いられるリン光発光性錯体は、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率が達成されればよい。
【0092】
リン光発光性錯体の発光は原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光発光性錯体に移動させることでリン光発光性錯体からの発光を得るというエネルギー移動型、もう一つはリン光発光性錯体がキャリアトラップとなり、リン光発光性錯体上でキャリアの再結合が起こりリン光発光性錯体からの発光が得られるというキャリアトラップ型であるが、いずれの場合においても、リン光発光性錯体の励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
【0093】
本発明の有機EL素子に好ましく用いられるリン光発光性錯体は、イリジウム錯体であることが好ましく、本発明に係る球状分子がリン光発光性錯体であることが好ましい。前述の本発明に係る球状分子の例示化合物のうち、イリジウム錯体はいずれもリン光発光性錯体であり、発光層に好ましく用いられる。
【0094】
本発明ではリン光発光性錯体に加えて、元素の周期表で8〜10族の金属を含有する錯体系化合物、好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体を併用してもよい。
【0095】
これらの化合物は、例えば、Inorg.Chem.40巻、1704〜1711に記載の方法等により合成できる。
【0096】
本発明においては、リン光発光性錯体のリン光発光極大波長としては特に制限されるものではなく、原理的には中心金属、配位子、配位子の置換基等を選択することで得られる発光波長を変化させることができる。
【0097】
本発明の有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
【0098】
本発明でいうところの白色素子とは、2℃視野角正面輝度を上記方法により測定した際に、1000Cd/m2でのCIE1931表色系における色度がX=0.33±0.07、Y=0.33±0.07の領域内にあることをいう。
【0099】
発光層は上記化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜化法により製膜して形成することができる。
【0100】
本発明においては、発光層は発光極大波長が各々430〜480nm、510〜550nm、600〜640nmの範囲にある発光スペクトルの異なる層、あるいはこれらが積層された層を含む。
【0101】
発光層の積層順としては、特に制限はなく、また各発光層間に非発光性の中間層を有していてもよい。本発明においては、少なくとも一つの青発光層が、全発光層中最も陽極に近い位置に設けられていることが好ましい。
【0102】
また、発光層を4層以上設ける場合には、陽極に近い順から、例えば青/緑/赤/青、青/緑/赤/青/緑、青/緑/赤/青/緑/赤のように青、緑、赤を順に積層することが、輝度安定性を高める上で好ましい。
【0103】
発光層の膜厚の総和は特に制限はないが、通常2nm〜5μm、好ましくは2〜200nmの範囲で選ばれる。本発明においては、さらに10〜20nmの範囲にあるのが好ましい。薄すぎると膜の均質性が得られにくい。またこれより厚いと発光を得るのに高電圧を要するため好ましくない。膜厚を20nm以下にすると電圧面のみならず、駆動電流に対する発光色の安定性が向上する効果があり好ましい。
【0104】
個々の発光層の膜厚は、好ましくは2〜100nmの範囲で選ばれ、2〜20nmの範囲にあるのがさらに好ましい。青、緑、赤の各発光層の膜厚の関係については、特に制限はないが、3発光層中、青発光層(複数層ある場合はその総和)が最も厚いことが好ましい。
【0105】
また、前記の極大波長を維持する範囲において、各発光層には複数の発光性化合物を混合してもよい。例えば、青発光層に、極大波長430〜480nmの青発光性化合物と、同510〜550nmの緑発光性化合物を混合して用いてもよい。
【0106】
《正孔輸送層》
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0107】
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。具体的な化合物としては、例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0108】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0109】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0110】
さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0111】
また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような所謂p型正孔輸送材料を用いることもできる。本発明においては、より高効率の発光素子が得られることから、これらの材料を用いることが好ましい。
【0112】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0113】
また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては
、特開平4−297076号、特開2000−196140号、特開2001−102175号、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0114】
本発明においては、このようなp性の高い正孔輸送層を用いることが、より低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0115】
《電子輸送層》
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0116】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0117】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0118】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0119】
また、不純物をドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開平10−270172号公報、特開2000−196140号公報、特開2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0120】
本発明においては、このようなn性の高い電子輸送層を用いることがより低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0121】
《支持基板》
本発明の有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また、透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0122】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)あるいはアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、水蒸気透過度が0.01g/m2・day・atm以下のバリア性フィルムであることが好ましく、さらには、酸素透過度10-3g/m2/day以下、水蒸気透過度10-5g/m2/day以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0123】
該バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。さらに該膜の脆弱性を改良するためにこれら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0124】
該バリア膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004−68143号に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0125】
不透明な支持基板としては、例えばアルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
【0126】
本発明の有機EL素子の発光の室温における外部取り出し効率は1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。ここに、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
【0127】
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。色変換フィルターを用いる場合においては、有機EL素子の発光のλmaxは480nm以下が好ましい。
【0128】
《封止》
本発明に用いられる封止手段としては、例えば封止部材と、電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。
【0129】
封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されておればよく、凹板状でも、平板状でもよい。また、透明性、電気絶縁性は特に問わない。
【0130】
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属または合金からなるものが挙げられる。本発明においては、素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。さらには、ポリマーフィルムは、酸素透過度10-3g/m2/day以下、水蒸気透過度10-5g/m2/day以下のものであることが好ましい。
【0131】
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
【0132】
接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
【0133】
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は、市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0134】
また、有機層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に、該電極と有機層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。さらに該膜の脆弱性を改良するためにこれら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0135】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体や、フッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0136】
吸湿性化合物としては例えば金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等があげられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0137】
《保護膜、保護板》
有機層を挟み支持基板と対向する側の前記封止膜あるいは前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために保護膜、あるいは保護板を設けてもよい。特に、封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0138】
《光取出し》
有機EL素子は、空気よりも屈折率の高い(屈折率が1.7〜2.1程度)層の内部で発光し、発光層で発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出せないことが一般的に言われている。これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極ないし発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極ないし発光層を導波し、結果として、光が素子側面方向に逃げるためである。
【0139】
この光の取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(米国特許第4,774,435号)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(特開昭63−314795号)、素子の側面等に反射面を形成する方法(特開平1−220394号)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(特開昭62−172691号)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(特開2001−202827号)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11−283751)等がある。
【0140】
本発明においては、これらの方法を本発明の有機EL素子と組み合わせて用いることができるが、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法、あるいは基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法を好適に用いることができる。
【0141】
本発明は、これらの手段を組み合わせることにより、さらに高輝度あるいは耐久性に優れた素子を得ることができる。
【0142】
透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚みで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど、外部への取り出し効率が高くなる。
【0143】
低屈折率層としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマー等が挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5〜1.7程度であるので、低屈折率層は、屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましい。またさらに1.35以下であることが好ましい。
【0144】
また、低屈折率媒質の厚みは、媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは、低屈折率媒質の厚みが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む膜厚になると、低屈折率層の効果が薄れるからである。
【0145】
全反射を起こす界面もしくはいずれかの媒質中に回折格子を導入する方法は、光取り出し効率の向上効果が高いという特徴がある。この方法は、回折格子が1次の回折や、2次の回折といったいわゆるブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光のうち、層間での全反射等により外に出ることができない光を、いずれかの層間もしくは、媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。
【0146】
導入する回折格子は、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは、発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な1次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がさほど上がらない。しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
【0147】
回折格子を導入する位置としては前述のとおり、いずれかの層間もしくは、媒質中(透明基板内や透明電極内)でもよいが、光が発生する場所である有機発光層の近傍が望ましい。
【0148】
このとき、回折格子の周期は、媒質中の光の波長の約1/2〜3倍程度が好ましい。
【0149】
回折格子の配列は、正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状等、2次元的に配列が繰り返されることが好ましい。
【0150】
《集光シート》
本発明の有機EL素子は、基板の光取出し側に、例えばマイクロレンズアレイ状の構造を設けるように加工したり、あるいは、所謂集光シートと組み合わせることにより、特定方向、例えば素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
【0151】
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を2次元に配列する。一辺は10μm〜100μmが好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付く、大きすぎると厚みが厚くなり好ましくない。
【0152】
集光シートとしては、例えば液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとして例えば、住友スリーエム社製輝度上昇フィルム(BEF)等を用いることができる。プリズムシートの形状としては、例えば基材に頂角90度、ピッチ50μmの△状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状、ピッチをランダムに変化させた形状、その他の形状であってもよい。
【0153】
また、発光素子からの光放射角を制御するために光拡散板・フィルムを、集光シートと併用してもよい。例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)等を用いることができる。
【0154】
《有機EL素子の作製方法》
本発明の有機EL素子の作製方法の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子の作製法について説明する。
【0155】
まず適当な基体上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10〜200nmの膜厚になるように、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陽極を作製する。
【0156】
次に、この上に有機EL素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、正孔阻止層の有機化合物薄膜を形成させる。
【0157】
この有機化合物薄膜の薄膜化の方法としては、前記の如く蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法)等があるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から、本発明においては、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等の塗布法による製膜が特に好ましい。
【0158】
本発明においては、発光層の形成において、リン光発光性錯体を溶解または分散した液を用いて塗布法により成膜することが好ましく、特に塗布法がインクジェット法であることが好ましい。
【0159】
リン光発光性錯体を溶解または分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。また、分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
【0160】
これらの層を形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を、1μm以下好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設けることにより所望の有機EL素子が得られる。
【0161】
また作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。このようにして得られた多色の表示装置に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。また交流電圧を印加してもよい。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0162】
《用途》
本発明の有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。発光光源として、例えば、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではないが、特に液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
【0163】
本発明に係わる有機EL素子においては、必要に応じ製膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもいいし、電極と発光層をパターニングしてもいいし、素子全層をパターニングしてもいい。
【実施例】
【0164】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、特に断りない限り、実施例中の「%」は「質量%」を表す。
【0165】
実施例1
《溶液状塗布液の調製》
ポリビニルカルバゾール(PVK)60mgと化合物(1)3.0mgをジクロロベンゼン6mlに溶解し目的の溶液状塗布液(1−1)を得た。
【0166】
《分散状塗布液の調製》
ポリビニルカルバゾール(PVK)300mgと表1に記載の化合物16mgを30mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。次に、エタノール/THF(9/1)溶液50mlを激しく撹拌し、これに前述のTHF溶液10mlをマイクロシリンジを用いて滴下し、一次分散液を得た。この一次分散液を撹拌しながら窒素気流下で約6時間かけて、体積がほぼ半分になるまでゆっくり濃縮し、目的の分散状塗布液(1−2)〜(1−3)を得た。分散物の平均粒径は60nmであった。
【0167】
《有機EL素子1−1〜1−3の作製》
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0168】
この透明支持基板上にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を3000rpm、30秒でスピンコート法により成膜した後、200℃にて1時間乾燥し、30nmの第1の正孔輸送層を設けた。次いで、溶液状塗布液(1−1)を、この透明支持基板上に1000rpm、30secの条件下、スピンコートし(膜厚約100nm)、60℃で1時間真空乾燥し、発光層とした。
【0169】
これを真空蒸着装置に取付け、次いで、真空槽を4×10-4Paまで減圧し、陰極バッファー層としてフッ化リチウム0.5nm及び陰極としてアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子1−1を作製した。
【0170】
有機EL素子1−1の作製における溶液状塗布液(1−1)を、分散状塗布液(1−2)〜(1−3)に代えた以外は有機EL素子1−1と同じ方法で有機EL素子1−2〜1−3を作製した。
【0171】
《有機EL素子1−1〜1−3の評価》
作製した有機EL素子1−1〜1−3を以下のようにして評価を行い、その結果を表1に示す。
【0172】
(外部取りだし量子効率)
作製した有機EL素子について、23℃、乾燥窒素ガス雰囲気下で2.5mA/cm2定電流を印加した時の外部取り出し量子効率(%)を測定した。なお測定には同様に分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタ製)を用いた。
【0173】
(寿命)
2.5mA/cm2の一定電流で駆動したときに、輝度が発光開始直後の輝度(初期輝度)の半分に低下するのに要した時間を測定し、これを半減寿命時間(τ0.5)として寿命の指標とした。なお測定には分光放射輝度計CS−1000(ミノルタ製)を用いた。
【0174】
有機EL素子1−1〜1−3の外部取り出し量子効率、寿命の測定結果は、有機EL素子1−1を100とした時の相対値で表1に示した。
【0175】
【表1】

【0176】
表1から、比較例に比べて、本発明の有機EL素子は、外部取りだし量子効率、寿命共に優れていることが明らかである。
【0177】
実施例2
《溶液状塗布液の調製》
ポリビニルカルバゾール(PVK)60mgと化合物(9)3.0mgとをジクロロベンゼン6mlに溶解し目的の溶液状塗布液(2−1)を得た。
【0178】
《分散状塗布液の調製》
クレアミックスCLM(エムテクニック(株)社製)のポットに、ポリビニルカルバゾール(PVK)12gと表2に示す化合物0.72g及び1,2−ジクロロエタン100mlを加え、撹拌して溶解させた。ここに、270mlの純水を加え、20000rpmで5分間乳化を行った。その後1,2−ジクロロエタンを流去し、微粒子水分散液を得た。平均粒径は40nmであった。次に常法に従って、n−ブチルアルコールへの溶媒置換を行い、目的の分散状塗布液(2−2)〜(2−3)を得た。平均粒径は50nmであった。
【0179】
《有機EL素子2−1〜2−3の作製》
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0180】
この透明支持基板上にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を3000rpm、30秒でスピンコート法により成膜した後、200℃にて1時間乾燥し、30nmの第1の正孔輸送層を設けた。次いで、溶液状塗布液(2−1)を、この透明支持基板上に1000rpm、30secの条件下、スピンコートし(膜厚約100nm)、60℃で1時間真空乾燥し、発光層とした。
【0181】
これを真空蒸着装置に取付け、次いで、真空槽を4×10-4Paまで減圧し、陰極バッファー層としてフッ化リチウム0.5nm及び陰極としてアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子2−1を作製した。
【0182】
有機EL素子2−1の作製における溶液状塗布液(2−1)を分散状塗布液(2−2)〜(2−3)に代えた以外は有機EL素子2−1と同じ方法で有機EL素子2−2〜2−3を作製した。
【0183】
《有機EL素子2−1〜2−3の評価》
作製した有機EL素子2−1〜2−3を実施例1と同様にして評価を行い、その結果を表2に示す。なお、有機EL素子2−1〜2−3の外部取り出し量子効率、寿命の測定結果は、有機EL素子2−1を100とした時の相対値で示した。
【0184】
【表2】

【0185】
表2から、比較例に比べて、本発明の有機EL素子は、外部取りだし量子効率、寿命共に優れていることが明らかである。
【0186】
実施例3
《溶液状塗布液の調製》
4,4′−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)10mgと化合物(12)10mgとをジクロロベンゼン6mlに溶解し目的の溶液状塗布液(3−1)を得た。
【0187】
《分散状塗布液の調製》
4,4′−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)20gと表3に記載の化合物20gをエチルアルコール300mlに加え、これを壽工業製アペックスミルで、0.05mmビーズを用いて20分間周速8m/secで分散させ、目的の分散状塗布液(3−2)〜(3−3)を得た。平均粒径は35nmであった。
【0188】
《有機EL素子3−1〜3−3の作製》
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0189】
この透明支持基板上にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を3000rpm、30秒でスピンコート法により成膜した後、200℃にて1時間乾燥し、30nmの第1の正孔輸送層を設けた。次いで、溶液状塗布液(3−1)を、この透明支持基板上に1000rpm、30secの条件下、スピンコートし(膜厚約100nm)、60℃で1時間真空乾燥し、発光層とした。
【0190】
これを真空蒸着装置に取付け、次いで、真空槽を4×10-4Paまで減圧し、陰極バッファー層としてフッ化リチウム0.5nm及び陰極としてアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子3−1を作製した。
【0191】
有機EL素子3−1の作製における溶液状塗布液(3−1)を分散状塗布液(3−2)〜(3−3)に代えた以外は有機EL素子3−1と同じ方法で有機EL素子3−2〜3−3を作製した。
【0192】
《有機EL素子3−1〜3−3の評価》
作製した有機EL素子3−1〜3−3を実施例1と同様にして評価を行い、その結果を表3に示す。なお、有機EL素子3−1〜3−3の外部取り出し量子効率、寿命の測定結果は、有機EL素子3−1を100とした時の相対値で示した。
【0193】
【表3】

【0194】
表3から、比較例に比べて、本発明の有機EL素子は、外部取りだし量子効率、寿命共に優れていることが明らかである。
【0195】
実施例4
《有機ELフルカラー表示装置の作製》
図1は有機ELフルカラー表示装置の概略構成図を示す。陽極としてガラス基板101上にITO透明電極(102)を100nm製膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)に100μmのピッチでパターニングを行った後、このガラス基板上でITO透明電極の間に非感光性ポリイミドの隔壁103(幅20μm、厚さ2.0μm)をフォトリソグラフィーで形成させた。ITO電極上ポリイミド隔壁の間に下記組成の正孔注入層組成物を、インクジェットヘッド(エプソン社製;MJ800C)を用いて吐出注入し、200℃、10分間の乾燥処理により膜厚40nmの正孔注入層104を作製した。この正孔注入層上にそれぞれ下記記載の方法によって調製した青色発光層組成物、緑色発光層組成物、赤色発光層組成物を同様にインクジェットヘッドを使用して吐出注入しそれぞれの発光層(105B,105G,105R)を形成させた。最後に発光層105を覆うように、陰極としてAl(106)を真空蒸着して有機EL素子を作製した。
【0196】
作製した有機EL素子はそれぞれの電極に電圧を印加することにより各々青色、緑色、赤色の発光を示し、フルカラー表示装置として利用できることが分かった。
【0197】
正孔注入層組成物;
PEDOT/PSS混合水分散液(1.0質量%) 20質量部
水 65質量部
エトキシエタノール 10質量部
グリセリン 5質量部
(青色発光層組成物の調製)
クレアミックスCLM(エムテクニック(株)社製)のポットに、ポリビニルカルバゾール(PVK)12gと化合物(12)0.72g及び1,2−ジクロロエタン100mlを加え、撹拌して溶解させた。ここに、270mlの純水を加え、20000rpmで5分間乳化を行った。その後1,2−ジクロロエタンを流去し、微粒子水分散液を得た(平均粒径40nm)。次に常法に従って、n−ブチルアルコールへの溶媒置換を行い、目的の青色発光層組成物を得た。
【0198】
(緑色発光層組成物の調製)
クレアミックスCLM(エムテクニック(株)社製)のポットに、ポリビニルカルバゾール(PVK)12gと化合物(1)0.72g及び1,2−ジクロロエタン100mlを加え、撹拌して溶解させた。ここに、270mlの純水を加え、20000rpmで5分間乳化を行った。その後1,2−ジクロロエタンを流去し、微粒子水分散液を得た(平均粒径40nm)。次に常法に従って、n−ブチルアルコールへの溶媒置換を行い、目的の緑色発光層組成物を得た。平均粒径は50nmであった。
【0199】
(赤色発光層組成物の調製)
クレアミックスCLM(エムテクニック(株)社製)のポットに、ポリビニルカルバゾール(PVK)12gと化合物(9)0.72g及び1,2−ジクロロエタン100mlを加え、撹拌して溶解させた。ここに、270mlの純水を加え、20000rpmで5分間乳化を行った。その後1,2−ジクロロエタンを流去し、微粒子水分散液を得た(平均粒径40nm)。次に常法に従って、n−ブチルアルコールへの溶媒置換を行い、目的の赤色発光層組成物を得た。平均粒径は50nmであった。
【0200】
実施例5
《白色の有機EL素子を用いた照明装置の作製》
《分散状塗布液の調製》
ポリビニルカルバゾール(PVK)300mgと化合物(1)5.0mg、化合物(9)5.0mg、化合物(12)5.0mgを30mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。次に、エタノール/THF(9/1)溶液50mlを激しく撹拌し、これに前述のTHF溶液10mlをマイクロシリンジを用いて滴下し、一次分散液を得た。この一次分散液を撹拌しながら窒素気流下で約6時間かけて、体積がほぼ半分になるまでゆっくり濃縮し目的の分散状塗布液(5−1)を得た。平均粒径は60nmであった。
【0201】
《有機EL素子5−1の作製》
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0202】
この透明支持基板上にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を3000rpm、30秒でスピンコート法により成膜した後、200℃にて1時間乾燥し、30nmの第1の正孔輸送層を設けた。次いで、分散状塗布液(5−1)を、この透明支持基板上に1000rpm、30secの条件下、スピンコートし(膜厚約100nm)、60℃で1時間真空乾燥し、発光層とした。
【0203】
これを真空蒸着装置に取付け、次いで、真空槽を4×10-4Paまで減圧し、陰極バッファー層としてフッ化リチウム0.5nm及び陰極としてアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子5−1を作製した。
【0204】
有機EL素子5−1の非発光面をガラスケースで覆い、照明装置とした。照明装置は、発光効率が高い白色光を発する薄型の照明装置として使用することができた。
【図面の簡単な説明】
【0205】
【図1】有機ELフルカラー表示装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0206】
101 ガラス基板
102 ITO透明電極
103 隔壁
104 正孔注入層
105B、105G、105R 発光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散液を用いて形成される層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の少なくとも1層が球状分子を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
球状分子を含有する分散液を用いて形成される層を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
球状分子の分散物を含有する分散液を用いて形成される層を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
少なくともリン光発光性錯体を含有する発光層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
球状分子がリン光発光性錯体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
リン光発光性錯体がイリジウム錯体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
白色発光であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を製造するに当たり、分散液を用いて形成される層を塗布法により成膜することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記塗布法がインクジェット法であることを特徴とする請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いることを特徴とする表示装置。
【請求項11】
請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いることを特徴とする照明装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−5524(P2007−5524A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183067(P2005−183067)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】