説明

有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法

【課題】上部電極と下部電極との間に有機層を介して流れるリーク電流を抑制する有機EL素子を提供する。
【解決手段】バンクで囲まれた画素領域に形成されて少なくとも1層の発光層を含む有機層と、前記有機層を挟んで形成された上部電極及び下部電極と、前記画素領域とバンク領域との間の境界領域の前記上部電極と前記下部電極との間に形成されたリーク電流ブロック層とを備える有機EL素子であり、前記有機層は、前記画素領域の内周側面を形成する前記バンクの傾斜面への這い上がり部を有する正孔注入層、又は前記画素領域の内周側面を形成する前記バンクの傾斜面への這い上がり部を有する前記発光層を含んで構成され、前記リーク電流ブロック層は、前記正孔注入層の這い上がり部と前記上部電極との間、又は前記発光層の這い上がり部と前記上部電極との間に形成されており、前記リーク電流ブロック層の抵抗が、前記リーク電流ブロック層と前記下部電極との間の有機層全体の抵抗よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子(以後、有機EL素子と称す)およびその製造方法に関するものであり、特に有機EL素子のリーク電流の防止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、ガラス、プラスチック(フィルムを含む)、シリコンウェハ等からなる基板上に形成される。有機EL素子は、一般的に、下部電極、上部電極、および、これらの電極の間に配置された有機層を含む積層構造を成している。有機層は、有機発光材料からなる発光層と、必要に応じて、正孔輸送層および/または電子輸送層などを有している。有機EL素子の上部電極と下部電極との間に電圧を印加して電流を流すと、両電極から注入されたキャリア(電子及び正孔)が発光層で再結合する結果、発光層が発光する。
【0003】
このような有機EL素子において、バンクを下部電極上に直接形成すると、有機層(インク)のパターニング精度を高めることができる半面、インク液滴がバンク側面部ではじかれることに起因して、バンクと下部電極との境界部において有機層の厚さが小さくなる場合がある。この問題を回避するため、例えば特許文献1には、下部電極とバンクとの間に、下部電極の周縁部を覆う酸化シリコン等の無機絶縁膜を挿入する構成が提案されている。この方法によれば、無機絶縁膜はバンクと下部電極との境界部を覆って形成されていることから、バンクと下部電極との境界部における絶縁耐圧を向上させることができるので、電気的リークの抑制を図ることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−203215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、インクジェット法により有機層を形成するプロセスの前に、一般には化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition;CVD)やスパッタリング法等の真空装置を用いたプロセスによって、無機絶縁膜を形成しなければならない。そのため、特許文献1の方法は、高額な設備投資を必要とする共に、大画面化への対応が困難であるという問題を有する。そしてさらに、この方法においては、以下に説明するように正孔注入層を介して流れるリーク電流に対しては効果的に機能しないという課題があった。
【0006】
図6は従来の有機EL素子の正孔注入層を介してリーク電流が流れる様子を示す断面図である。図6に示す有機EL素子50では、ガラス基板1の上に、複数の下部電極2が形成され、隣接する下部電極2の間には、それぞれ下部電極2を囲むようにバンク3が設けられている。バンク3は、隣接する下部電極2のそれぞれの周縁部の上に形成されている。バンク3の開口部には、有機層9(正孔注入層4および発光層6)がインクジェット法で形成されている。有機層9およびバンク3の上面に上部電極7が形成されている。
【0007】
図6に示すように、有機層9とバンク3との間の境界領域では、有機層9(正孔注入層4および発光層6)がバンク3の傾斜面を這い上がっている。この這い上がり部はバンクの撥液性を低下させることにより形成される。なお、這い上がり部とは、成膜により、傾斜面を這い上がった形状で形成された膜の部分を意味する。そして、正孔注入層4の抵抗率は、発光層6など比較してそれほど大きくない。この結果、上部電極7と下部電極2との間に図6中矢印Cにて示すように、リーク電流が流れる場合がある。そして、このような経路で流れるリーク電流に対しては、上記の方法、すなわち、下部電極とバンクとの間に下部電極の周縁部を覆う酸化シリコン等の無機絶縁膜を挿入する方法は有効なものでなかった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、画素領域とバンク領域との間の境界領域において上部電極と下部電極との間に有機層を介して流れるリーク電流を抑制する有機EL素子およびその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる有機EL素子は、バンクで囲まれた画素領域に形成されて少なくとも1層の発光層を含む有機層と、有機層を挟んで形成された上部電極及び下部電極と、画素領域とバンク領域との間の境界領域の上部電極と下部電極との間に形成されたリーク電流ブロック層とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、該リーク電流ブロック層の抵抗がリーク電流ブロック層と下部電極との間の有機層全体の抵抗よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる有機EL素子の製造方法は、バンクで囲まれた画素領域に形成されて少なくとも1層の発光層を含む有機層と、有機層を挟んで形成された上部電極及び下部電極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、有機層を形成する工程は、画素領域とバンク領域との間の境界領域の上部電極と下部電極との間に、形成するリーク電流ブロック層よりも下部の有機層全体の抵抗よりも大きな抵抗の有機材料をインクジェット法により吐出してリーク電流ブロック層を形成するブロック層形成工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明の有機EL素子によれば、画素領域とバンク領域との間の境界領域の上部電極と下部電極との間に形成されて有機層より大きな抵抗の有機材料からなるリーク電流ブロック層とを備えているので、境界領域において上部電極と下部電極との間に有機層を介して流れるリーク電流を確実に抑制するという効果を奏する。
【0012】
また、この発明の有機EL素子の製造方法によれば、有機層より大きな抵抗の有機材料をインクジェット法により吐出してリーク電流ブロック層を形成するので、リーク電流ブロック層を容易に且つ適切に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる有機EL素子の実施の形態1の画素領域の一部を示す図2のA−A線に沿う矢視断面図である。
【図2】有機EL素子の画素領域を凹部の開口側から見た図である。
【図3】本発明にかかる有機EL素子の実施の形態2の画素領域を凹部の開口側から見た図である。
【図4】本発明にかかる有機EL素子の実施の形態3の画素領域の一部を示す断面図である。
【図5】本発明にかかる有機EL素子の実施の形態4の画素領域の一部を示す断面図である。
【図6】従来の有機EL素子の正孔注入層を介してリーク電流が流れる様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる有機EL素子およびその製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
実施の形態1.
図1は本発明にかかる有機EL素子の実施の形態1の画素領域の一部を示す図2のA−A線に沿う矢視断面図である。図2は有機EL素子の画素領域を凹部の開口側から見た図である。図1および図2において、本実施の形態の有機EL素子51の構造については、まず、ガラス基板1の第一の面(上側面)の画素領域11を含む所定の領域上に下部電極2が形成されている。隣接する下部電極2の間には、それぞれ下部電極2を囲むようにバンク3が設けられている。バンク3は、隣接する下部電極2のそれぞれの周縁部の上に厚さ大きく積層されている。このように形成されたバンク3は、画素領域11の部分に下部電極2を底面とするように凹部を形成する。
【0016】
このバンク3が形成する凹部は、図2に示すように第一の面上方側から見て概略小判型(長円形状)を成し、凹部のうち下部電極2上にバンク3が設けられてない領域が上述の画素領域11を形成している。このバンク3が形成する凹部は、画素領域11の周囲の部分で傾斜して広がる形状をなし傾斜面を形成している。そして、画素領域11の周囲から傾斜面の最も高い位置に至る傾斜面の領域が境界領域12を形成している。この境界領域12は、さらにその周囲に広がるバンク領域13と画素領域11との境界を構成している。境界領域12の基板方向幅には特に制限はないが、コストの観点から考慮して1μm以上10μm以下が好ましい。
【0017】
バンク3が形成する画素領域凹部内において積層された各層について、形成される工程の順番にて説明する。まず、下部電極2の第一の面側に正孔注入層4が形成される。この正孔注入層4は下部電極2からの正孔注入効率を改善する機能を有している。正孔注入層4はインクジェット法で形成されている。正孔注入層4は液体の表面張力の作用により、周囲がバンク3の傾斜面を這い上がるようにして形成されている。
【0018】
そして、本実施の形態においては、図1に示すように、正孔注入層4の第一の面側にリーク電流ブロック層5が形成される(ブロック層形成工程)。リーク電流ブロック層5もまたインクジェット法で形成されている。リーク電流ブロック層5は、下層に形成された正孔注入層4からはじかれる性質を利用して、画素領域11の内周側面に形成された正孔注入層4の傾斜面を這い上がらせることにより、境界領域12の正孔注入層4の第一の面側に形成される。そして、このリーク電流ブロック層5は、正孔注入層4の這い上がり部4aを全て覆うように、その這い上がり部5aは、正孔注入層4の這い上がり部4aの形成する傾斜面のさらに高い位置まで這い上がっている。リーク電流ブロック層5の下端5bも正孔注入層4によってはじかれ画素領域11の外周近傍の位置まで後退している。
【0019】
正孔注入層4のさらに第一の面側に発光する機能を有する発光層6が形成されている。発光層6も表面張力の作用により、リーク電流ブロック層5の傾斜面を這い上がるようにして形成されているが、その這い上がり部6aは、リーク電流ブロック層5の端部を覆う位置までは至っていない。発光層6のさらに第一の面側には最上位層として上部電極7が形成されている。
【0020】
ブロック層形成工程においては、有機溶剤および高抵抗有機材料である高分子樹脂を主成分とするインクを用いて、インクジェット法にて吐出した後、熱及び/または光により架橋してリーク電流ブロック層5を形成する。このとき、高抵抗有機材料の粘度を適宜調整して、インク吐出後の乾燥工程に至るまで上記所定の位置に留まるようにする。
【0021】
以上のように、本実施の形態においては、境界領域12の正孔注入層4の這い上がり部4aを覆うように、正孔注入層4と上部電極7との間にリーク電流ブロック層5が形成されている。リーク電流ブロック層5は、正孔注入層4や発光層6より抵抗が大きく、好ましくは106Ωcmより大きい高抵抗率を有しており、より好ましくは1014Ωcmより大きく、上部電極7から正孔注入層4を介して下部電極2に流れる電流を防止する。そして、リーク電流ブロック層5は、インクジェット法という簡単なプロセス工程にて形成されているので、低コストにて大幅に画質の改善をすることができる。
【0022】
本発明に用いられるリーク電流ブロック層5は、このリーク電流ブロック層5と下部電極2との間の有機層全体よりも大きな抵抗の有機材料を有している。ここで、該有機材料としては、架橋基を有する高分子化合物に加熱または光照射等の処理を行って架橋させた高分子化合物、高分子化合物と架橋材料を混合した後に加熱または光照射等の処理を行って架橋させた高分子化合物等があげられる。
【0023】
上述のように本実施の形態においては、リーク電流ブロック層5は、正孔注入層4や発光層6と同様にインクジェット法にて形成される。そして、リーク電流ブロック層5を形成する1つの方法は、インクが正孔注入層4上ではじかれて正孔注入層4が画素領域11の周囲に形成する傾斜面を所定の位置まで這い上がる方法である。そのため、インクジェット法にて噴射する際の高抵抗有機材料を含むインクの粘度が非常に大きな要因となる。粘度が大きすぎても小さすぎても適切な位置に形成することができない。下層(本実施の形態の場合、正孔注入層4)に対するはじかれやすさを考慮して最適な粘度が選択される。
【0024】
リーク電流ブロック層5を形成する他の方法は、リーク電流ブロック層用インクとバンク表面との撥液性、インク表面張力、バンクの傾斜角度、インク液量等の様々な条件を調整することにより、インク液滴を境界領域または画素領域内部に滴下させ、液滴を蒸発・乾燥する過程で、リーク電流ブロック層の端部が自動的にバンク傾斜面上に位置し、いわゆる這い上がり部ができるようになる方法である。中でも、インクジェット法にて噴射する際の高抵抗有機材料を含むインクの粘度が非常に大きな要因となる。粘度を大き過ぎず、また小さ過ぎないように適宜調整することにより適切な位置にリーク電流ブロック層5を形成することができる。
【0025】
なお、本実施の形態の有機層9は、正孔注入層4および発光層6から構成されるが、これに限らず、有機層9にはさらに他の層が含まれてもよい。また、本実施の形態においては、正孔注入層4を介してリークする電流を抑制の対象としているが、有機層の他の層を介してリークする電流を抑制の対象とするように構成を変更してもよい。この場合、対象となるリーク電流を遮断するようにリーク電流ブロック層を形成すればよく、リーク電流ブロック層を構成する有機材料の粘度を適切なものとすることにより実現することができる。
【0026】
つまり、有機層9は、有機発光層以外の層を含んでいてもよい。具体的には、有機化合物を含む正孔注入層、有機化合物を含む正孔輸送層、有機化合物を含む電子注入層、有機化合物を含む電子輸送層、有機化合物を含む正孔ブロック層、有機化合物を含む電子ブロック層があげられる。そして、この有機層9は陽極(下部電極)2に直接接して設けられていてもよく、陽極(下部電極)2上に他の層を介して設けられていてもよい。陽極(下部電極)2と有機層との間の他の層としては、無機化合物からなる正孔注入層、無機化合物からなる電子注入層があげられる。
【0027】
そして、本実施の形態においては、基板1上に、陽極(下部電極)2と、発光層を含む有機EL層(有機層)9と、陰極(上部電極)7と、が順に積層された有機EL素子51が形成され、この基板1上に形成された有機EL素子51全体を覆うように、図示しない封止層が形成された構造を有する。
【0028】
ここで、基板1としては、ガラス基板やシリコン基板、プラスチック基板など種々のものを用いることができる。また、陽極2としては、比較的仕事関数の大きな(4.0eVより大きな仕事関数を持つものが好適である)、導電性の金属酸化物膜や半透明の金属薄膜などが一般的に用いられる。具体的には、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide、以下、ITOという)、酸化スズなどの金属酸化物、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、銅(Cu)などの金属またはこれらのうちの少なくとも1つを含む合金、ポリアニリンまたはその誘導体、ポリチオフェンまたはその誘導体などの有機の透明導電膜などを用いることができる。また、陽極2は、必要があれば二層以上の層構成により形成することができる。陽極2の膜厚は、電気伝導度を(ボトムエミッション型の場合には、光の透過性も)考慮して、適宜選択することができるが、たとえば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。陽極2の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法などが挙げられる。なお、トップエミッション型の場合には、基板側に出射される光を反射させるための反射膜を陽極2の下に設けてもよい。
【0029】
本実施の形態の有機EL層9は、少なくとも有機物からなる発光層を含んで構成される。この発光層は、蛍光または燐光を発光する有機物(低分子化合物または高分子化合物)を有する。なお、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。有機物としては、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料などを挙げることができる。また、ドーパント材料は、有機物の発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で必要に応じて有機物中にドープされるものである。これらの有機物と必要に応じてドープされるドーパントとからなる発光層の厚さは通常20〜2,000Åである。
【0030】
(色素系材料)
色素系材料としては、たとえば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0031】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、たとえば、イリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)などまたはテルビウム(Tb)、ユーロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)などの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0032】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0033】
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0034】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0035】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0036】
(ドーパント材料)
ドーパント材料としては、たとえば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。
【0037】
また、有機EL層9には、発光層以外に、発光層と陽極2との間に設けられる層と、発光層と陰極7との間に設けられる層と、を適宜設けることができる。まず、発光層と陽極2との間に設けられるものとして、陽極2からの正孔注入効率を改善する正孔注入層や、陽極2、正孔注入層または陽極2により近い正孔輸送層から発光層への正孔注入を改善する正孔輸送層などがある。また、発光層と陰極7との間に設けられるものとして、陰極7からの電子注入効率を改善する電子注入層や、陰極7、電子注入層または陰極7により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する電子輸送層などがある。
【0038】
(正孔注入層)
正孔注入層を形成する材料としては、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウムなどの酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体などが挙げられる。
【0039】
(正孔輸送層)
正孔輸送層を構成する材料としては、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体などが例示される。
【0040】
なお、これらの正孔注入層または正孔輸送層が、電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの正孔輸送層や正孔注入層を電子ブロック層ということもある。
【0041】
(電子輸送層)
電子輸送層を構成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体などが例示される。
【0042】
(電子注入層)
電子注入層としては、発光層の種類に応じて、Ca層の単層構造からなる電子注入層、または、Caを除いた周期律表IA族とIIA族の金属であり且つ仕事関数が1.5〜3.0eVの金属およびその金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物の何れか1種または2種以上で形成された層とCa層との積層構造からなる電子注入層を設けることができる。仕事関数が1.5〜3.0eVの、周期律表IA族の金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、酸化リチウム、炭酸リチウムなどが挙げられる。また、仕事関数が1.5〜3.0eVの、Caを除いた周期律表IIA族の金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0043】
なお、これらの電子輸送層または電子注入層が、正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの電子輸送層や電子注入層を正孔ブロック層ということもある。
【0044】
陰極7としては、仕事関数が比較的小さく(4.0eVより小さな仕事関数を持つものが好適である)、発光層への電子注入が容易な透明または半透明の材料が好ましい。たとえば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、Be、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、Al、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、Zn、イットリウム(Y)、インジウム(In)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、Eu、Tb、イッテルビウム(Yb)などの金属、または上記金属のうち2つ以上の合金、もしくはそれらのうち1つ以上と、Au,Ag,Pt,Cu,マンガン(Mn)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、スズ(Sn)のうち1つ以上との合金、またはグラファイトもしくはグラファイト層間化合物、またはITO、酸化スズなどの金属酸化物などが用いられる。
【0045】
なお、陰極7を2層以上の積層構造としてもよい。この例としては、上記の金属、金属酸化物、フッ化物、これらの合金と、Al,Ag,クロム(Cr)などの金属との積層構造などが挙げられる。陰極7の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、たとえば10nmから10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。陰極7の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法などが用いられる。
【0046】
なお、本実施の形態に用いられるリーク電流ブロック層は、バンクの傾斜面を這い上がる正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層の這い上がり部と上部電極との間に形成することができる。
【0047】
実施の形態2.
図3は本発明にかかる有機EL素子の実施の形態2の画素領域を凹部の開口側から見た図である。バンクの傾斜面およびこの傾斜面を這い上がる正孔注入層の這い上がり部は、形成される条件にもよるが、主に画素領域の両端の湾曲部の周囲にて大きく形成され、直線部では余り形成されないことがある。
【0048】
本実施の形態の有機EL素子52においては、このように形成されたものであり、概略小判型(長円形状)を成す画素領域11Bの両端の湾曲部のみに境界領域(バンクの傾斜面)12Bが形成されている。そして、図示しない正孔注入層の這い上がり部もこの境界領域12Bのみに形成されている。そして、本実施の形態のリーク電流ブロック層5Bは、この湾曲部に形成された正孔注入層の這い上がり部を覆うべく、画素領域11Bの両端の湾曲部のみに形成されている。
【0049】
このような構成の有機EL素子52においては、必要とする部分のみにリーク電流ブロック層5Bを形成するので、実施の形態1と同様の効果を得られるとともに、リーク電流ブロック層5Bを形成する有機材料を削減してコストダウンを図ることができる。
【0050】
実施の形態3.
図4は本発明にかかる有機EL素子の実施の形態3の画素領域の一部を示す断面図である。上述の実施の形態1においては、リーク電流ブロック層5は、正孔注入層4と発光層6との間に形成されていた。本実施の形態の有機EL素子53のリーク電流ブロック層5Cは、発光層6およびバンク3と上部電極7との間に形成されている。すなわち、本実施の形態においては、発光層6を形成した後にリーク電流ブロック層5Cを形成する。
【0051】
リーク電流ブロック層5Cは、実施の形態1と同様にインクジェット法にて形成される。リーク電流ブロック層5Cは、適度な粘度の材料を用いて形成することにより、発光層6にてはじかれて発光層6が画素領域11の周囲に形成する傾斜面を這い上がる。これにより、リーク電流ブロック層5Cは、少なくとも境界領域12の発光層6と上部電極7との間の領域を含む適切な領域に形成される。
【0052】
このように形成されたリーク電流ブロック層5Cは、境界領域12の正孔注入層4の這い上がり部4aおよび発光層6の這い上がり部6aを覆うとともに、自らの這い上がり部5Caは境界領域12のさらに上方まで形成されている。リーク電流ブロック層C5の下端5Cbは、画素領域11の外周部を覆う位置まで延びている。このような構成の有機EL素子53においては、実施の形態1と同様の効果を得られるとともに、発光層6を介してリークする電流も抑制することができる。
【0053】
実施の形態4.
図5には、他の実施の形態4を示す。図5では図1に比べてバンクの有機層用インクに対する撥液性が大きい場合の例である。有機層9はバンクの撥液性のためにバンク3との接触部において層厚が極端に小さくなっている。このような場合でも本発明の方法により、少なくとも境界領域12にリーク電流ブロック層5を形成することにより、リーク電流を低減することができる。有機層9(正孔注入層4および発光層6)を形成した場合、親液化処理を行うことによりバンク3の表面の撥液性を適度に低下させ、しかる後にリーク電流ブロック層用インク液滴をインクジェット法により、境界領域12または画素領域11の内部領域に吐出させる。吐出された液滴の蒸発・乾燥過程において自動的にリーク電流ブロック層5の端部がバンク傾斜面上に位置する。このような方法でリーク電流ブロック層5をバンク傾斜面上に形成することにより、結果として、少なくとも境界領域12全体を覆うと共に、隔壁領域13寄りの端部5bから、画素領域11内を一部覆うように他方の端部5aまでに渡って形成されている。このような範囲にリーク電流ブロック層5を設けることにより有機層9の膜厚が極端に薄い部分を十分に覆い、リーク電流ブロック層5としての機能をより有効に発揮させることができる。この方法によれば、従来のように化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition;CVD)やスパッタリング法等の高額な真空装置を用いたプロセスによって、無機絶縁膜を形成することなくリーク電流を防止できる。
なおバンク表面の親液処理の方法としては、紫外線処理、紫外線オゾン処理、酸素プラズマ処理が挙げられる。紫外線を利用する処理法ではマスクを利用して境界領域のみに照射してもよい。
【0054】
次ぎに実際の有機EL素子の作製工程について説明する。
【実施例1】
【0055】
本実施例は、上記実施の形態1に対応したものであり、全周にわたって画素の周辺部にリーク電流ブロック層を形成した。
[基板前処理]
ガラス基板上にITO電極パターンが形成され、その上に住友化学製フォトレジスト(M302R)をパターニングしてバンク形成した基板を使用した。バンクサイズは170μm×50μm、画素ピッチ237μmであった。基板洗浄後、リアクティブイオンエッチング装置(サムコ社製RIE−200L)により基板の表面処理を行った。表面処理条件はO2プラズマ処理(圧力5Pa、出力30W、O2流量40sccm、時間10分)を行い、続けてCF4プラズマ処理(圧力5Pa、出力5W、CF4流量7sccm、時間5分)を行った。
【0056】
[ホール注入層形成]
ホール注入層としてPEDOT(H.C、Stark社製CH8000LVW185)に2−ブトキシエタノールを2wt%混合し、0.45μmフィルタにてろ過したものを使用した。そして、Litrex社製80Lを用い、インクジェット塗布を行った。このとき、等間隔に液滴を塗布し、一画素あたりの液滴数は4滴であった。塗布後、真空乾燥を行った。PEDOTからなる正孔注入層の抵抗率は1〜3×10Ωcmであった。
【0057】
[画素の周辺部にリーク電流ブロック層形成]
熱/光硬化性の絶縁性高分子1を有機溶剤に溶かしたインクを使用し、Litrex社製120Lを用いて、インクジェット塗布を行った。インク添加剤として、DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬社製)、イルガキュア907(チバスペシャリティケミカルズ社製)を重量比で、絶縁性高分子1:DPHA:イルガキュア907=1:0.25:0.01の割合で配合し、絶縁性高分子1が0.4wt%になるようインクを作製した。このとき、1μmフィルタでろ過を行い、粘度を3cPとする。バンク内全体に塗布する場合には一画素あたり3〜5滴程度をバンク内に等間隔に塗布した。塗布後、真空中で約200℃、20分加熱処理を行い、絶縁性高分子を硬化させた。硬化させた高分子膜の抵抗率は2×1014Ωcm以上であった。
【0058】
[発光層塗布前処理]
加熱処理によってバンクの撥液効果が消失してしまうため、CF4プラズマ処理(圧力5Pa、出力5W、CF4流量7sccm、時間1分)を行った。また、硬化した絶縁性高分子1上の撥水性を低減するため、UV/O3処理を1分行った。
【0059】
[発光層形成]
発光層インクの溶媒として絶縁性高分子1と同じ有機溶媒を使用した。発光層ポリマーとして、GP1302(サメイション社製)を使用し、インク濃度を0.8wt%とし、粘度を8cPとした。このとき、1μmフィルタにてろ過して使用した。その後、Litrex社製120Lを用いて、インクジェット塗布を行った。一画素あたり7滴ずつ吐出した。塗布後、真空中で約100℃で、60分間の加熱処理を行った。
【0060】
[蒸着、封止]
加熱処理後、大気にさらさずに蒸着工程へ移行させて、100ÅのBa膜、200ÅのAl膜の順で発光層上に蒸着し陰極を形成した。その後、ガラス封止を行った。
以上の方法にて有機EL素子を作製すると、リーク電流が抑制された良好な動作をする有機EL素子を得ることができた。
【実施例2】
【0061】
本実施例は、上記実施の形態2に対応したものであり、画素の湾曲部のみにリーク電流ブロック層を形成する場合である。
[画素の湾曲部のみにリーク電流ブロック層を形成]
実施例1のリーク電流ブロック層の形成工程において、絶縁性高分子1のインクを画素周辺部全体に形成するのではなく、画素の湾曲部のみに形成することを除いては実施例1と同様にして素子作製を行う。ただし、この場合には、画素の湾曲部分にのみ(1画素につき2箇所に)1滴ずつ吐出する。本実施例2の有機EL素子は、実施例1のものと比較してインクの量を削減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法は、アクティブマトリックスディスプレイやパッシブマトリックスディスプレイなどのフラットパネルディスプレイに用いられる有機EL素子に適用されて有用なものである。
【符号の説明】
【0063】
1 ガラス基板(基板)
2 下部電極
3 バンク
4 正孔注入層
5,5B,5C リーク電流ブロック層
6 発光層
7 上部電極
9 有機層
11,11B 画素領域
12,12B 境界領域
13 バンク領域
51,52,53 有機EL素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンクで囲まれた画素領域に形成されて少なくとも1層の発光層を含む有機層と、前記有機層を挟んで形成された上部電極及び下部電極と、前記画素領域とバンク領域との間の境界領域の前記上部電極と前記下部電極との間に形成されたリーク電流ブロック層とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機層は、前記画素領域の内周側面を形成する前記バンクの傾斜面への這い上がり部を有する正孔注入層、又は前記画素領域の内周側面を形成する前記バンクの傾斜面への這い上がり部を有する前記発光層を含んで構成され、
前記リーク電流ブロック層は、前記正孔注入層の這い上がり部と前記上部電極との間、又は前記発光層の這い上がり部と前記上部電極との間に形成されており、
前記リーク電流ブロック層の抵抗が、前記リーク電流ブロック層と前記下部電極との間の有機層全体の抵抗よりも大きい
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記有機層は、前記画素領域の内周側面を形成する前記バンクの傾斜面への這い上がり部を有する正孔注入層含んで構成され、
前記リーク電流ブロック層は、前記正孔注入層の這い上がり部と前記上部電極との間に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記有機層は、前記画素領域の内周側面を形成する前記バンクの傾斜面への這い上がり部を有する発光層含んで構成され、
前記リーク電流ブロック層は、前記発光層の這い上がり部と前記上部電極との間に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記境界領域の基板面方向の幅は、1μm以上10μm以下である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記リーク電流ブロック層は、106Ωcm以上の抵抗率を有する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記リーク電流ブロック層は、熱または光により架橋させた高分子樹脂である
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−134171(P2012−134171A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−48097(P2012−48097)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【分割の表示】特願2008−195943(P2008−195943)の分割
【原出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】